転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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※注意

今話には、『ウルトラマンZ』本編および最終回の重大なネタバレが多数含まれております。

もしも今後、同作品を視聴予定かつ、初見時の驚きやワクワク感を大切にされたい方は直ちにブラウザバックし、ウルトラマンZ本編を視聴してからお読みになる事を推奨します。

いまさら気にしないよという方は、どうぞお楽しみに下さい。



VWXY

 

深夜近く。

オフィスにはカタカタとキーボードを打ち込む音だけが響いている。

 

片手でコーヒーマグを傾けながら画面を睨んでいた男は、ようやく報告書の作成が一段落ついたようで、ぐいと上体を伸ばして凝りをほぐすと、ため息と共に椅子の背もたれへ沈み込んだ。

 

「面倒くせェ……」

 

まったく、この体は窮屈過ぎる。

たかだか数時間ぽっち同じ姿勢でいただけなのに、肩や背中の筋肉が固まってしょうが無い。

 

……まあ、窮屈なのは何も肉体だけの話ではなく、今の自分が置かれた立場も含めての事かもしれないが……

 

そう考えて、この状況へ望んで飛び込んだのもまた己の選択だった事を思い出し、男は口の端だけを歪める事で自嘲した。

 

「ハッ……なに楽しんでやがるんだか……な」

 

モニター横へそっと置かれた盆栽に向かい、そう独り言ちる。

 

……いや、これはあくまで目的の為にカモフラージュでやっているに過ぎない。よりにもよって自分がコレを望んでるだって? ……まさか、馬鹿馬鹿しい。

 

そんな権利が、己にあろうはずも無いのに。

 

書き上げたばかりの報告書が、擬態として本当に必要な最低限の仕事だと言うならば、こんなに遅くまで根を詰める羽目にもならなかっただろう……という事実からは都合良く目を逸らしつつ、男は大量の資料が積み上がった机からやおら立ち上がると、オフィス中央にある窓辺へとスタスタ歩いていった。

 

窓枠に体重をかけながら、明かりの落ちた格納庫を見下ろせば、非常灯に照らされる鋼鉄巨人達の姿が見える。

 

思えば遠いところまで来たものだ……それは勿論、距離的な意味だけではない。

 

「地球を守るロボット部隊の隊長か……笑えるぜ」

 

彼は『対怪獣特殊空挺機甲隊』……いわゆる『STORAGE』の部隊長だ。

ストレイジとは、『特空機』と呼ばれる巨大ロボットに乗り込み、怪獣被害から街を守る為に日夜戦う防衛組織であり、眼下に見える『セブンガー』や『ウインダム』がその特空機である。

 

尤も、地球人がイチから造り上げたと言うにしては、何処かで見覚えのあるシルエットなのはどうしても失笑を禁じ得ないのだが……そうなった一因に己の存在が大きく関わっている事を棚に上げて、男は皮肉げに口を吊り上げた。

 

巡り巡って今や己が地球を守る立場とは……そんな事をあの頃の自分に教えたらどんな顔をするだろうか。

さぞや愉快なリアクションが返ってくるだろうな……等と思いつつ格納庫を見渡せば、普段は2機しかいない格納庫に、今日は三つ目の巨大な影が鎮座している。

 

この三機目というのがまた曲者で、男がこんな時間まで報告書だの申請書だのを書かなくてはならなかった最大の原因こそがコレだった。

 

「……これもお前の差し金なのか?」

 

もしもそうだとしたら、逆にこちらが思う存分、その流れを利用してやるだけだ。

そんな思惑を胸の奥底へ追いやるように、垂れた前髪を掻き上げてみれば、その拍子にふと気付く。

 

格納庫の隅にポツンと明かりが灯ったままな事に。

 

……てっきり残業は自分一人だと思っていたが、あんなところに仲間がいたとは。

まったく熱心な事だ。

 

男はコーヒーメーカーの下部分を引き抜いて、そこにまだ辛うじて二杯分の液体が溜まっている事を確認すると、愛用のマグカップを携えつつ軽やかな足取りで階段を降りていく。

 

はたして格納庫の居残り仲間は思った通りの人物だった。

 

作業服の襟足からのぞく、白髪混じりの見事なロマンスグレー。

しかしその頭髪を灰に染めた月日をまるで感じさせない程、ピシリと伸びた背中に声をかける。

 

「珍しいですね、バコさん。緊急時でもないのに、こんな時間まで」

 

「んおっ!?」

 

驚いたようにこちらへ振り向いたのは、イナバ・コジロウ。通称バコさん。

ストレイジの誇る整備班の班長だ。

 

どんな機体であろうと、次の出撃には必ず完璧な状態にしてしまう凄腕の整備士である。

自らの仕事に誇りを持っている職人気質な一方、頑固なのは整備に関する事だけで、その人柄自体は実に朗らかであり、面倒見の良さから多くの後輩にまるで父親の如く慕われていた。

まだ年若いメンバーが多いストレイジの、精神的支柱とも言える。

 

「おう……なんだ、ヘビちゃんか」

 

「残りものの、お裾分け」

 

ストレイジ隊長のヘビクラ・ショウタは、そうして柔やかにコーヒーを差し出した。

イナバの事は、ヘビクラを含めてストレイジのほぼ全員が『バコさん』と呼ぶが、逆にヘビクラの事を『ヘビちゃん』などと呼ぶのはイナバだけである。

 

なにせ二人は、ストレイジがまだ特空機の開発実験団でしかなかった頃からの付き合いだ。ヘビクラの抱える事情を抜きにすれば、それなりに気心はしれていた。

 

「まだ居るのは分かってたが、いったいいつ降りてきたんだ? まだ耳が遠くなったつもりはないんだがなぁ……おれもヤキが回ったもんだ」

 

「ハハ、ずいぶん集中してましたからね」

 

ヘビクラは笑顔でシラを切った。半分はその通りだが……別にイナバの聴力に翳りが出始めたわけでもない。

 

確かに普段の体運びや、この歳になっても一切ブレない体幹を見れば分かる通り、イナバはそれなりに武道の心得――それもかなり上位者のソレ――があるのだろう。

 

とはいえ彼はあくまでも整備士であり、戦場で武器をとり戦う者ではない。

 

後方勤務という意味では、ヘビクラも最近はもっぱら部隊の指揮官として現場に出る事など滅多に無いが……それは長きに渡る彼の生からすればほんの一瞬程度の事に過ぎず、たったそれだけの期間を前線から離れたところで……

 

本職でもない人間に気配を悟られる程、戦士として鈍っているつもりは毛頭なかった。

 

とは言え、イナバも地球人にしては妙に勘の鋭い男だ。

ヘビクラも個人的には彼のストイックな在り方にはどうしても好感を抱かざるを得ないし、その道のプロとしての腕前には最大限の敬意を払ってしかるべきだが……ある目的の為に、自らの正体を隠しているヘビクラにとっては、決して侮ってはいけない相手でもあった。

 

「そんな事より、バコさんの方が問題ですよ。ただでさえ最近は忙しかったのに……この前ユカに、寝るのも仕事のうちだぞって叱ったのは、誰でしたっけ?」

 

「おっと……こりゃあ耳が痛いな……若え奴らに示しがつかねえか……頼むよヘビちゃん、ユカには黙っててくれ! な?」

 

「ふ、冗談です。でも珍しいのは本当。普段のバコさんなら仕事なんてササッと終わらすでしょ。それがPC画面の前でじっと動かないなんて……今度一緒に駅前教室行きます?」

 

「いや別におれもパソコンの使い方が分からねえってわけじゃなくてな……」

 

それは冗談として、ヘビクラが珍しいと言ったのはイナバの仕事のやり方について。

彼はいかにも叩き上げらしく実践主義で、とにかく手を動かして図面や回路と会話しながら問題を片付けていく。

 

だと言うのに、先程みたく腕組みしながらじっと画面を睨みつける……なんてのはあまりにも彼らしくない。

 

だからこそ、ヘビクラは好奇心に駆り立てられるまま、格納庫へイソイソと現れたのだ。

 

あのバコさんをしてそこまで悩ませる問題とは一体何なのか……そんなの、知りたすぎるだろう。誰でも。

 

「まあ、これはヘビちゃんにも見といて貰った方がいいか……ちょうど良かったよ。明日にでも意見を聞きに行こうか迷ってたんだ」

 

「俺に……?」

 

「とりあえずコイツを見てくれ」

 

イナバは椅子を引き、画面がヘビクラから見やすいように距離をとった。

 

促されるまま覗き込んでみれば……アルファベットや記号がビッシリと詰まっている。

 

「えっと……なんかのプログラム……ですかね?」

 

「そうだ。それな、キングジョーのメインコンピュータからユカがぶっこ抜いてくれたデータだよ」

 

「ああ、キングジョーの……」

 

二人は同時に傍らのロボットへ視線を移した。

 

キングジョー・ストレイジカスタム

 

以前は黄金に輝いていた装甲も、現在は黒と白に再塗装され、容貌も少しばかり変わってはいたものの……ある程度の面影はまだ残されている。

 

先日現れたバロッサ星人の使っていた宇宙船兼侵略ロボットを、鹵獲改修した曰く付きの特空機。

 

ストレイジのロボット戦力として新たに加わった第三番機が、このキングジョーSCなのだった。

 

「……で、バコさんはこのデータの何が気に入らないんです?」

 

「気に入らないってわけじゃないが……ヘビちゃん、これ見てどう思う?」

 

「いや、どうって……」

 

一応、もう一度だけ画面に視線をやり、ざっと目を通してはみるものの、何か分かるわけもなし。

当然だ、ヘビクラはプログラミングの専門家でもなければ言語学者でもない。

 

軽くスクロールしてみると、途中でペダン星の文字や、それこそヘビクラですら見たこともないような未知の記号で書かれた部分が出て来たものの、だからどうだと言うのか。

 

どれもヘビクラにとって異星の文字には違いなく、せいぜいこの肉体のモデルにした者……つまり本物のヘビクラ・ショウタが知っている範囲と、かつてこことは別の地球で何百年と暗躍していた時期に学んだ知識として、英語を読むのに苦労は無いというだけである。

 

そもそもキングジョーは地球外文明で造られたロボットなので、そのデータから門外漢のヘビクラが何の情報も得られなくたって全く不自然でもなんでもない。

 

だからヘビクラは素直に答える事にした。

 

「いやあ……流石に内容なんか分かりませんよ。専門家でもなんでもないんで」

 

「そうか……ヘビちゃんでも違和感に気付かないか……こりゃ少しばかり意外だったな」

 

「意外……?」

 

イナバがヘビクラを信頼してくれているのは、建前的にも、目的の為にも良い傾向だが……いくらなんでも買い被りが過ぎるだろう。

 

「……今ヘビちゃん、分からないって……言ったろ? それが可笑しな話じゃないか……?」

 

「そうですかね? 宇宙人のプログラムなんて地球人には分かりませんよ。ユカじゃあるまいし」

 

「その通り。宇宙船のプログラムなんて、おれたちに読める訳がない。だから、分からないよりも先に……まず、読めないって言うはずなんだ」

 

「ゴフッ!」

 

「ヘビちゃん!? 大丈夫か……?」

 

飲もうとしたコーヒーに、思わず咽せてしまった。

イナバが気遣わしげに背中を擦ってくれるが、気道に液体が入りかけた事による軽い呼吸困難とまた違った意味で、ヘビクラは額に冷や汗が滲むのを感じていた。

 

……危ねェ、余計な事言わなくて良かったァ……

 

イナバにはそんなつもり全く無かっただろうが、なにげに正体が露見しかける寸前だった訳である。なんて酷い罠だ。

 

実はこのヘビクラ・ショウタという地球人……のフリをしている男の正体は、実のところジャグラスジャグラーという宇宙人である。

 

ひとえに宇宙人とは言っても、もとより銀河中でよく見かけるヒューマノイドタイプなので、魔人態にでもならない限り見た目には地球人とさほど変わらないのだが……今はヘビクラ・ショウタに擬態するため、肉体数値もある程度弄ってモデルへ寄せてある念の入れようだった。

 

……閑話休題。

 

「ふう……いやいやバコさん。それって地球の記号に翻訳したやつとかじゃないんスか」

 

「おれも本当はな、ウチの若えのに得意なのがいるから、ソイツに任せようと思ったんだ。でもよ、生データの時点でコードが読めちまったもんだからさ……だからこんなに悩んでたってわけでな?」

 

「あー……そりゃあ……なんか臭えですねェ……」

 

そう言いつつ、ヘビクラは半ば確信めいていた。

これは……間違いなくセレブロの野郎が噛んでやがるなと。

 

言われてみれば当たり前の話で、ペダン星人の作ったキングジョーのプログラムに、地球の言語が使われているなんて本来あり得ない。

 

つまりこれは偶然に見せかけて、人類に過ぎた科学技術の詰まったプレゼントの箱を送りつけるという、奴の常套手段であり……最初から解析させる為に送り込んだ駒なのだ。

 

……とそこで。

 

「コイツはなぁ……なんつーか……ちぐはぐなんだよ」

 

「ちぐはぐ……ですか?」

 

なんとも言えない表情で、イナバが呟いた。

 

「ああそうだ。ソフト面でもちぐはぐなら……ハードの方はもっとちぐはぐでな」

 

「はあ」

 

「このストレイジカスタムが出来た時……ヘビちゃん素直な感想、なんて思った?」

 

「いや……ヤベーな地球人……って」

 

「おう、そうだろ? だってよ……宇宙人の作ったロボットだぞ? いくらおれ達に特空機のノウハウがあるからって……それを鹵獲してたかだか数ヶ月で改修までって……いくらなんでも早過ぎるだろう。誰もおかしいと思わなかったのか?」

 

「……は?」

 

思わず素の声が漏れてしまったが……それも無理からぬ事であった。

 

今の「……は?」には二つの意味が込められている。

 

まず断っておくと、先程述べた感想は嘘偽らざる本心であった。

 

だがそれは別にキングジョーSCが完成したからどうこうというものではなく、ヘビクラ……否、ジャグラーが常日頃から思っている事だ。

 

それは、いくらセレブロの梃子入れがあろうとも、たかだか数十年で特空機という存在を自力で完成させてしまった事もそうだし、毎週のように怪獣が暴れまわる星で未だに絶滅しないどころか、次の日には何食わぬ顔で普通に経済活動をはじめてしまう逞しさがそもそもからしてヤベェ。

 

そしてなにより、出撃すれば必ずどこかしらブッ壊れて帰ってくる特空機が、次の出撃までに……早ければ翌日には元の万全な状態まで戻っているのを見る度に、呆れ半分、称賛半分でこう思っていた。

 

……ヤベーな地球人……

 

で、当然ながらそんな魔法じみた整備を指揮しているのが目の前のイナバ・コジロウという男であり、つまりジャグラーの思う「ヤベーな地球人」は、ほぼイコールで「ヤベーなバコさん」と同義でもある。

 

そんな『ヤベーバコさん』がいるなら、別に鹵獲した宇宙船をおっそろしい早さで改修してしまっても、別にいまさら不思議には思わないというか……それぐらいは普通にやりかねないというか……ジャグラーをして「まあ、バコさんだしな……」で流して終わってしまった、というのが本当のところであった。

 

ところが、そんなバコさんからしても今回の件は異常な事態だったのだと聞かされたが故の驚愕による「……は?」がひとつ目。

 

そして二つ目は勿論……いや、今更アンタがそれ言ってもぜんぜん説得力無いっスよ……という冷静な「何言ってんだコイツ」的な呆れの「……は?」である。

 

「ハハ……おもしれ」

 

「どしたヘビちゃん? そんな遠い目して」

 

「いや、宇宙って広いんだなあ~って思ってました。そんで? 俺はてっきりバコさん達とユカが死に物狂いでなんとかしたんだと思ってましたけど?」

 

「それだけで間に合うはずねぇだろう……このキングジョーな……最初っから改修してあったんだよ」

 

「……バコさん?」

 

ついに仕事のし過ぎでおかしくなっちゃったかな?

 

「キングジョーに乗ってきた宇宙人いたろ……あの……」

 

「バロッサ星人」

 

「そうそれ。多分な……アイツ、本来の持ち主じゃねえぞ」

 

「……へェ」

 

イナバはキングジョーを見上げていたので、背後に立つヘビクラの浮かべた笑みが、柔和な人好きのする好人物としてのものから、好奇心と愉悦に満ちた非常に獰猛なモノへと一瞬にして切り変わった事に気付かなかった。

 

「どうしてそう思ったか教えて貰っても?」

 

勿論、ジャグラーからすればキングジョーを誰が作ったかなんて既に承知の事なのだが……

 

この地球においてキングジョーが現れたのは、あくまで先日の事が初めてであり、地球人からすればその搭乗者であったバロッサ星人こそが、キングジョーの製作者だと思って然るべきだし、現に防衛軍内ではキングジョーの事を『バロッサ星人の侵略ロボット』だと認識している。

 

ところがこの男はそうではないと言う。

なんとも興味深い事ではないか。

 

「まず純粋にパイロットとしてイマイチだった……なんつーか……キングジョーのスペックを理解しきれてないというか……機体へのリスペクトが感じられないんだよ。ウルトラマンZの前でいきなり分離して逃げようとしたのがもう駄目だよな。いくらZの呼び出した仲間との一斉攻撃とはいえ……キングジョーの装甲なら耐えられた。そのまま突っ込むべきだったんだ」

 

「なるほど……よく見てる」

 

イナバはテストパイロットとしての経験からか、バロッサ星人の操縦にあった拙さが、機体への理解度不足から来るものだと見抜いていた。

 

だが、それだけでは根拠として弱いのも事実。

パイロットの未熟さと、製造種族の違いは両立し得る。

 

現に、ストレイジのセブンガーは地球産で、ハルキは歴とした地球人だが……まあ、これ以上は言うまい。

最近はそれなりに上達してきたようでもあるし。

 

「……で、本題はこっちだが……ほら、見てくれヘビちゃん。こっちがストレイジカスタム。こっちが鹵獲したキングジョー」

 

「うわー……見事にそう取っ替えしてますねー……おや? でも……」

 

「そう。流用パーツがこんなにある……あのキングジョー、中味がほとんど純正品じゃなかったんだ」

 

「純正品……ですか。分かるもんなんですね、そんなの」

 

「規格が全然違うからな。ロールアウト直後のウインダムみたいなもんさ」

 

2号機であるウインダムは、予算を抑える為に相見積の嵐と逆競売にかけられた結果、発注先で電話帳が出来るような有様で酷い事になっていた。

 

「だが、ウチの次男坊はそれでもまだ左右や対応するパーツは同じモンで揃ってたが、あのキングジョーはそれすらてんでバラバラ。明らかに別の場所でパーツを取っ替えひっかえしながら、騙し騙し動かしてきた痕がある。そんでな、機械がそういう状態に陥り易い時ってのはパターンがいくつかあってよ……」

 

二人以外は誰も居ない格納庫で、イナバはヘビクラを小さく手招きすると、その耳に手を添えてそっと囁く。

 

「間違いない……アレ、盗品だよ」

 

「おー……ヤベーなバコさん」

 

宇宙海賊バロッサ星人の持ち物は、それがなんであろうと須く盗品なのである。

つまり、大正解。

 

「……でも、なんで盗品がそうなるって知ってるんです? 見たことあるんですか?」

 

「むかし……ちょっとな」

 

少しばかり影のある表情で、イナバは小さく溜息をついた。

それは別に恥じ入っているでもなく、恐らく彼自身がそれらに手を出したというわけでは無かろうが……もしや、誰か身近な人間にそういう者がいたのだろうか。

 

彼はあまり若い頃について多くを語りたがらないので、詳しい事はヘビクラにも分からない。

ただ一つ分かるとするならば、これはあくまでも推測というか、単なる勘でしかないが……このイナバという男もまた、誰かの死を背負っているという事。

 

自らの業罪に対する懺悔の意識だけが発する闇を、この男も抱えているのだ。

だからこそジャグラーは、このイナバという男を信用している。彼の言葉には……単なる光の輝きだけでは為し得ない、ある種の重力のようなものがあり……それがジャグラーの歪んだ心を惹きつけて離さなかった。

 

「だから、おれのあんな簡単な騙しにもひっかかる」

 

「ああ……そういう事」

 

イナバが目線をやる先には、この前、基地にバロッサ星人が侵入した際に大活躍した、銀色の古臭い弁当箱がまたしても空になっていた。

 

咄嗟の機転にしては、えらくバッチリ嵌まったもんだと感心していたが……イナバ本人からすれば、そこまで分の悪い賭けでは無かったらしい。

 

このキングジョーが盗品と見抜いていたからこそ、今の持ち主が重要部品について何一つ知識が無いと分かっていたのか。

 

あれがもしもペダン星人だったならば、キングジョーの起動キーなんてものが存在しないと、直ぐにバレていただろう。

 

「実はな……装甲を引っ剥がしてみると、随分たくさんの穴があいてるんだこれが」

 

「穴……ですか?」

 

「パーツを増設する用の接合部だよ。わざわざ一度あけた穴を、ご丁寧にもっかい埋めてあるのさ。その穴をさらに流用して改修したのが……このストレイジカスタムってわけだ」

 

「通りで元の機体から随分太ったわけだ……おっと、おジョーさんに太ったは禁句か」

 

「踏み潰されても知らねえぞ」

 

ニヤリと笑ったイナバは、再び真面目な顔に戻ってパソコンを操作する。

 

「チグハグな部品で組まれたフレーム、チグハグな言語で書かれたソフト……そして一番チグハグなのは……そのガワと中味が合ってねえって事だよ」

 

「もう全部チグハグじゃないですか」

 

「だからそう言っただろう」

 

イナバは改修前に撮られたキングジョーの写真をモニターに映し出すと、ヘビクラを振り返った。

 

「コイツが出来上がった時……ヘビちゃん聞いたよな? なんでわざわざこの武装にしたんですかって……ありゃなんでだ?」

 

「あー……聞きましたねェ……」

 

確かにそれはよく覚えている。

なにせ……それはジャグラーの目的に大きく関わる疑問だったからだ。

 

ジャグラーはあくまでも戦士であり、細かい技術などにはそれほど明るくない。

それでも、いや……戦士だからこそ分かる事もあるのだ。

 

「どう見てもアレは……戦う形をしてる。そうでしょ、バコさん」

 

「……」

 

キングジョーストレイジカスタムは……右手が砲身、左手がクローアームという、如何にも戦闘用に割り切ったデザインをしていた。

 

その基機であるキングジョーの両手は曲がりなりにもマニピュレーターだったにも関わらずだ。

 

これにはジャグラーも驚いたものである。

第一に彼は未来のペダン星におけるキングジョーの後継機が、片手に砲身を備えるようになるという事を知っていたので、まさか地球人が一足飛びにその正解に辿り着くとは思っていなかったというのが一つ。

 

そして、キングジョーストレイジカスタムの設計思想が、これまでセブンガー、ウインダムと辿ってきた特空機のソレとは明らかに隔絶したところにあると気付いたからだ。

 

1号機も2号機……イナバ風に言い換えれば長男と次男も、両手にきちんと指がある。

なぜならその方が、腕まで武器になっているよりもずっと汎用性に優れるからであり、セブンガーなどは特にこの『手』のおかげで従事出来る任務の幅が広がっていた。

 

怪獣の暴れる街でしなくてはならない仕事は、怪獣と戦うだけに非ず。

 

それは救助、それは瓦礫の撤去、それは仮設避難所の設置……それは……

 

ジャグラーは、いやヘビクラは戦士という身分を一旦離れ、ストレイジという組織の隊長に収まってみて初めて知った。

 

敵と戦う事よりも……起きてしまった惨劇の爪痕を拭うことの困難さを。

 

そのどれもが……弱く繊細な人の指でしか為し得ない事ばかりなのだ。

 

なるほどクローアームでも、瓦礫を力任せに掘り返すくらいは出来るだろう。

だが、そこにもしも……まだ助けを待つ人々が埋まっていたら……?

 

この三男坊は、あまりにも不器用にすぎる。

彼には……敵を倒すという事しか出来ない。

ただ愚直に、武骨に、戦う事しか出来ないのだ……彼はどこからどう見ても戦士だった。

 

そんな戦闘用にしか使えない機体、よくぞ上から承認が降りたものだなと……無邪気に捉える事も出来なかった。

 

新たに生まれ変わったキングジョーの姿を見て、ジャグラーは確信したのだ。

奴のゲームは一段階先のステージへ進んだのだな……と。

 

ところが。

 

「あの時は、おれもまだ上手く飲み下せてなかったんで、つい惚けるような事を言ったけどな、ヘビちゃん……」

 

「ええ」

 

「コイツが、この姿にしてくれって頼んだって言ったら……どうする?」

 

「……は?」

 

「いや、実際にそう喋ったわけじゃなくてな……ものの例えだよ。さっき言ってた動作プログラムの話さ」

 

「プログラム……ですか。まさか銃も無いのに右手の射撃だけは上手いとか言わないでしょうね」

 

「いやー、よく分かったなヘビちゃん。流石だよ」

 

「……」

 

あまりにもあまりな事で、ついつい憮然とした表情になるヘビクラ。

 

いくらなんでもバラバラが過ぎる。セレブロよ、お前はいったい何がしたいんだ……いや、まさか。

 

「弾道予測と反動修正に関するデータは明らかに右手の砲身を腰だめに構えた時の想定になっているし、逆に接近戦用のコマンドは殆ど左手用なんだ。こう、振り下ろしたり突いたり……手の先がトンカチやスピアになってたら丁度良い具合にな? そのくせハサミの開閉もお手の物ときたもんだ」 

 

「あー、今のキングジョーにぴったりの調整だなー。すごい偶然ですねー」

 

「しかも……なんというか……おまけに何かが飛び出す機構を作動させる為の命令まであったんだなコレが。はっはっは。笑っちまうだろ。いや勿論、鹵獲したキングジョーにそんな機能は無かったよ。ただちょっと左腕だけ新品にすげ変わってる痕があっただけで……」

 

「……つまり?」

 

「このキングジョーをいっぺん鹵獲して、好き勝手に改造しまくった奴がいる。……おれたちストレイジよりも前に」

 

「しかも、バコさんはこうも考えてる。バロッサ星人が盗み出す前に、このキングジョーを持っていたのは……」

 

「「地球人だ」」

 

ヘビクラとイナバの声が重なり、二人は顔を見合わせた。

 

「……な? 有り得ないだろ?」

 

「ええ、有り得ませんね。すげー有り得ないスけど……バコさん」

 

ただ黙して鎮座するキングジョーを見上げてヘビクラは。

 

「……面白ェ」

 

その吊り上がった口角には、隠しきれない好奇心と熱に浮かされたような熱狂が張り付いて、次の瞬間には直ぐ掻き消えた。

 

「分かってるよ。あまりにも荒唐無稽すぎてな……ついにボケたかって、娘やヨーコにも笑われちまうかもしれねえ」

 

イナバは自分の仮説がとんでもない与太話だと思っているようだが……ヘビクラにはまた違うものが見えていた。

 

イナバは知らなくて、彼だけが知っている事はいくつもあるが……地球がひとつでは無い事というのも、それに該当する。

 

この天才的としか言いようのない老整備士は、決して想像力で今のを導いたわけではない。

図面と何度も視線を交わし、部品達の声に耳を傾け、その上で彼らが語る身の上話をただ組み立てただけ。

 

この男が言うのならば、恐らくそうなのだ。

ただひとつ、彼は宇宙がいくつもある事を知らなかった。ただ、それだけ。

しかしジャグラーには充分だった。

 

……コイツは……別の宇宙から渡ってきた存在だ……!

 

おかしいと思っていた。いくらバロッサ星人でも、あの警備が厳重なペダン星からキングジョーを盗み出すなんて……と。

だが、この機体が別の地球にあったのならば難易度はぐっと下がる。あるいは盗んだのではなく……拾ったか。

 

それならば多少は辻褄が合うような気もするし……もしもこの想像の通りならこの機体、セレブロのゲーム盤には最初から乗っていない駒という事になる。

 

己や、あの光の若造がそうであるのと同じように……!

 

さて、これがどう転ぶかはヘビクラにも分からない……鬼が出るか蛇が出るか……幸い、ギャンブルはそれほど嫌いでは無かった。

 

「地球製のパーツとあまりにも相性が良いもんだから、つい……な。ガラにもなく考えこんじまった」

 

「じゃあもうそれが答えなんじゃないすか」

 

「いやあ……どうだか……」

 

先ほどとは打って変わって、随分と歯切れが悪い。

 

「バコさん?」

 

「人生山あり谷ありっていうけどな……コイツもそうだったんじゃないかと思うと……おれたちの都合でまた勝手に改造しちまって良かったのか……てな。もう七転び八起きどころじゃきかねえだろう、多分。素直に眠らせてやった方が……」

 

「……それは違うよ、バコさん」

 

否定の言葉が口をついて出た。

 

「戦士に休息は必要無い。……コイツは戦う事しか出来ないぶきっちょだ。そうする事でしか、何かを護れない馬鹿野郎だ……。だったら俺達がしてやれる事は、そのたった一つの特技を、誰にでも誇れる形で使わせてやる事さ。それが……戦士にとっての幸せだよ」

 

「戦士にとっての……幸せ、か」

 

椅子にドカッと座り込んだイナバは、ずっと胸に溜め込んでいた本音をポロリと零す。

 

「おれはなヘビちゃん……この三男坊が……ちょっと怖いのさ」

 

「怖い? 何故?」

 

「いくら馬鹿げた仮説をこじつけて、それらしい理由を探ってみても……やっぱりコイツは未知の技術の塊だよ。人類には、まだ過ぎたる力なんじゃないかって……そう、思っちまう」

 

「じゃあ……バコさんはどうしてコイツをもっかい蘇らせたんです?」

 

「えっ?」

 

虚を突かれたように顔を上げるイナバ。

そんなことは、思っても見なかったという表情だ。

 

言われてみれば、ウルトラマンZの雷を受けて墜落した宇宙ロボットを改修できるなんて、普通は思わない。

 

イナバが匙を投げてしまえば、単なる堅すぎる粗大ゴミに変わっていただろう。

しかし……彼にそんな選択は出来なかった。

 

イナバの脳裏に、かつてクリヤマから言われた言葉が再び響く。

 

「多分……これが技術屋の幸せ、なのかもな」

 

仮にこれを見なかった事にして、それを試さずに居られるか……?

 

……無理だろうな、と思う。

 

だから自分は、かつてセブンガーを作ったのだ。

 

「どうせ後から後悔するなら……コイツそのものに、命を吹き込んでやりたくなった。コイツには……それだけたくさんの思いが詰まってる」

 

「……思いが?」

 

コクリと頷くイナバ。

 

「これだけ長くやってるとな……部品ひとつひとつに籠められた、作った奴の思いや願いってのが……分かるようになってくるのさ。どれだけ丁寧な寸法か、どういう考えでここの仕組みを考えたのか……そういうのを見れば、分かるんだ」

 

彼は歩いていって、キングジョーの装甲にそっと触れる。

 

「半分くらいは後から別のパーツに変わってしまったかも知れねえけどな……間違いない。コイツには……たくさんの希望と願いが籠められてる。大切に創られたモンだ。だからそれがただの鉄くずに戻っちまうと思うと……おれには我慢出来なかった……」

 

例えそれが、人類に災いを呼び込むかもしれない技術だとしても……

 

ジャグラーが戦士であるように、イナバも整備士として全力を尽くしたかった。それだけだ。

 

「バコさん……ソイツにはどういう願いが籠められてたんです」

 

「……人間の科学は、人間の幸せの為にある」

 

持ち得る知識と、技術と、資材。

ありとあらゆるものを注ぎ込んで、絶対にどうにかしてやるぞという気迫が……イナバの描き起こした想像図上のキングジョーからは伝わってきた。

 

「だったら、その思いを信じてみましょうよ。そしたらきっと、ソイツも応えてくれますよ」

 

「……そうかもな」

 

二人で鋼鉄の機神を見上げると、頭部に非常灯が反射して笑っているようにも、泣いているようにも見える。

 

ただ少なくとも……怒っているようにだけは見えなかった。

 

「お前は立つ場所が変わっても……戦う在り方だけは変わらなくてもすむ。……良かったな」

 

……俺とは違って。

 

「……ヘビちゃん?」

 

ヘビクラ・ショウタは、人好きのする柔和な笑顔で振り向いた。

 

「むかし……ちょっとね」

気になる?

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