転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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本日4/8はウルトラマンメビウスの放送が開始された日!
残念ながら今年は土曜日じゃなかったから違和感あるけど……1日と8日が火曜日だったからしょうがないね!

※注意

今話には、『ウルトラマンメビウス』本編及びストーリーに関する重大なネタバレが多数含まれております。

もしも今後、同作品を視聴予定かつ、初見時の驚きやワクワク感を大切にされたい方は直ちにブラウザバックし、ウルトラマンメビウス本編を視聴してからお読みになる事を推奨します。

いまさら気にしないぜという方は、どうぞお楽しみ下さい。


悪友の推参

 

 

「……ええっー!?」

 

「この人が……噂のソガ隊員!?」

 

「例の……スーパーマンかよ。実在したのか……」

 

皆が動揺する中、真っ先に立ち直ったのは案の定ミライだった。

無駄に人並み外れた俊敏さを発揮すると、あっという間に接近し、本来であれば面食らってしまうような距離感で顔を近付ける。

 

「本当に!? あなたがあの伝説のソガ隊員なんですか!?」

 

「うわ近。なんだ、私の事も知ってるのか……どのソガかは知らないけど、多分そのソガだと思うよ」

 

「うわぁー本物だ! 握手してください!」

 

「私なんかで良いのかい? それくらいお安い御用さ」

 

「やったー! 僕、ずっと貴方に憧れてたんです!」

 

目をキラキラさせて、ソガと名乗る男が朗らかに差し出した手を握るミライ。

 

「そりゃあ、なんとも光栄だな。私もこうして君と直接会えて嬉しいよ。ヒビノ・ミライ君」

 

「……えっ? どうして僕の名前を?」

 

しかし、男がすんなりとこちらの名を呼んだ為、不思議そうに首を傾げた。

自己紹介もまだなのに……

 

「もちろん知ってるさ。なんせ、今日は君らに会いに、こうしてはるばるやって来たんだから」

 

「……僕らに?」

 

「あのぅ……ソガさん? どうして貴方のようなお忙しい方が、わざわざこんなところへ?」

 

フェニックスネストをこんなとこ呼ばわりする補佐官に、またしても隊員達の顔に苛立ちの表情が浮かびかけるも……

 

「本部から、隊員達の激励と現場視察を兼ねて……でしたよね」

 

大量の疑問符を浮かべた補佐官に、訳知り顔で隊長が補足する。

 

「な、なんでサコミズ隊長が知ってて、わしが知らないんだ?」

 

「お言葉ですが補佐官。デスクの上に通達書が開きっぱなしになっていましたよ」

 

マル秘書官が耳打ちすれば、トリヤマ補佐官の顔からはサッと血の気が引いた。

 

「はうっ!? ……なーんでそれを早く言わんのだ!」

 

「す、すみません! てっきりもうお読みになったものかと……」

 

「なんだ、相変わらずだなぁトリピーは。ま、どうせそんなこったろうと思って、私も連絡しなかったんだが」

 

「ちょ、ちょっと……ソガさん! 勘弁してください! なぜそんな……」

 

「なぜって? そんなもん決まってるだろう。その方が……」

 

「『おもしろいから』……でしょう?」

 

「あ、私の台詞を……」

 

横からスッと出て来たサコミズ隊長に続きを言われてしまい、男は少しだけ残念そうな表情を浮かべた。

 

「やれやれ、相変わらずサプライズの好きな人だ。でも、ほどほどにしておかないと、補佐官の寿命が縮んでしまいますよ?」

 

「いやどの口で……」

 

「あ、あのぅ……」

 

此方をほったらかしにして、なにやら親しげな会話を繰り広げ出した二人について行けず、恐る恐る声をかける隊員達。

 

「ああ、すまんすまん。これは失礼した」

 

「みんな、紹介しよう。この人はソガ参謀長。GUYS総本部参謀局の最高責任者だよ」

 

「どうも。ご紹介にあずかりました、ソガ参謀長です」

 

「さ、参謀長……!?」

 

「それってつまり……すごく偉い人なんじゃ……」

 

ニヤリと笑った男が、携えていたアタッシュケースを放り捨て、先ほどまで肩にかけていた上着にサッと袖を通すと、それはズボンと同じくカーキ色の背広に早変わり。胸元には数々の勲章が輝いている。

 

どこからか取り出した制帽を目深に被り、さっきまでの笑顔をやめて口を真一文字に引き結べば、どっからどう見ても厳めしい軍人がそこにあらわれた。

 

「……ふふん。どうだね」

 

「お、おい……リュウ。お前……ヤバいんじゃないのか?」

「そ、そうよ! さっきオッサン呼ばわりしてたじゃない! 侮辱罪とかで逮捕されたらどうすんの!」

「逮捕って事は……リュウさん牢屋に入れられちゃうんですかーっ!?」

「えっ? 牢屋……? 大丈夫ですリュウさん! 僕たちが毎日差し入れに行きます……!」

「は?」

「謝っときなさい! ああもう、だから私は止めたのにーー! いつも人の話聞かないからー!」

「ぼ、僕らは関係ありませんからね! この人が一人で勝手にやった事ですから……!」

「そ、そうだぜ……なあアミーゴ、じゃなかった。アイハラさん」

 

テッペイとジョージが引けた腰でリュウの背中を押すと、みんなが一歩半ほど後ろに下がる。

 

「お前らぁ……俺のこと、売りやがったな!?」

「なにっ! 上官侮辱は軍法会議だぞ!」

「げっ! ……やばっ!」

「……くくく」

 

リュウ達が慌てる姿を見てクツクツ笑いを浮かべるソガ参謀長へ、多分に呆れを含んだ声がかかった。

いつも通りの苦笑を湛えたサコミズ隊長である。

 

「そんな昔の服まで持ち出して……せっかく補佐官がGUYSのイメージを親しみやすいものにしようと頑張っていらしたのに……。困った人だ」

 

「え……流石にマズかった? そりゃ申し訳ない……噂のガイズクルーに会えると思ったらつい、ね。ハハハ」

 

「……ハァ。みんな、安心していいよ。このおじさんは、ちょっと度を越して悪戯好きなだけだから」

 

「だからどの口で……」

 

「じゃあ、リュウさんを捕まえたりはしないんですね!」

 

「ああしないしない。しないとも! 激励に来て隊員をしょっ引いていくなんて、本末転倒もいいとこだろう」

 

朗らかに微笑むソガ参謀長の返事に、ホッと胸を撫で下ろすミライ。

一同も、後ろで疲れたようにドッと席へ倒れ込む。

 

そこへ、ようやく最初のパニックから立ち直ったらしいトリヤマ補佐官が、どうしても物申したいといった様子で噛み付いた。

 

「参謀長! どうして普段の服装で来て下さらないんですか! そしたら私だってすぐ気付けたのに……」

 

「やだなあトリピー。昔みたいにソガさんで良いじゃねえかよ、水くさいな」

 

「部下の前でそんな……だいたい、貴方も私と同じような幹部用の制服持ってるでしょうが!」

 

「それじゃあファンサービスにならんだろう?」

 

「ファ、ファン……サ……?」

 

補佐官の困惑などまるで気にしたそぶりもなく、訳知り顔で頷くソガ。

 

「トリピーもこっちの方が懐かしいだろって事よ」

 

「いや、私としましてはあまりその服に良い思い出が無いといいますか……ヤナガワ参謀にこってり絞られた経験ばかり蘇ってくると言いますか……」

 

「あそう。そら残念」

 

トリヤマ補佐官は、ぷるぷると首を振って否定した。

眉を下げる参謀長に、GUYS の皆は顔を寄せ合い、潜めた声で相談を始める。

 

「……なんか」

「思ってたのと……」

「だいぶ違うのが来たなあ……」

「ミライ……あの変なオッサンが、本当にお前の言うソガ隊員って奴なのかよ」

「そうですよ? だって、本人が言ってたじゃないですか。皆さんも聞いたでしょ?」

「どうだか。あれじゃただのコスプレ好きなお茶目おじさんか、せいぜい気の良いチョイ悪オヤジじゃない?」

「同姓同名の別人と言われたほうが、まだ信じられます」

 

尤も……皆の想像するソガ隊員像というのは……

 

サッカーボールを小脇に抱え、テッペイのようなサラサラ坊っちゃんヘアーにイメチェンしたリュウが、メガネを装着してバイクに跨がりつつ、チューリップの名札にデカデカと「そが」の書かれたエプロン姿で暑苦しく笑いながらトライガーショットを乱射している。

 

……という珍獣みたいなものだったので、それが来るよりは遥かにマシと思われた。

 

とはいえ、ミライや補佐官の話から感じたような凄腕隊員というイメージからはほど遠くみえるのもまた事実。

それ以上に不思議なのは……

 

「……ん? どうしたリュウさん? 私の顔になんかついてる?」

 

「……リュウ()()!?」

 

「おっとマズい」

 

訝しげな視線に気付いたらしいソガ参謀長が、何気なく声をかけてくるも、明らかに歳も階級も下なはずのリュウを「さん」付けで呼んだ為にますます混乱する隊員達。

 

「いやーこれはねー……あー、あれだよアレ。……そうそう! リュウと言ったらね、歴代の防衛チームには、リュウ隊長が、なんと二人もいたんだよ! だからその時の癖でついつい呼んでしまうんだなぁ……うんうん」

 

「歴代の防衛隊ですか?」

 

「そう! そうなんだよ。MATのイブキ・リュウ隊長も、TACのリュウ・ゴロウ隊長も、両者共に素晴らしい人格者だった! そして君もまた、その二人の名を継ぐに相応しい猛者と聞いているよ、アイハラ・リュウ隊員!」

 

「……えっ。俺が? 大先輩達と……!?」

 

尊敬する先達の中に並べられ、声を少しばかり弾ませるリュウ。

さっきまであんなに不信感丸出しだったのに……

 

「リュウさん……」

「うわ、チョロ」

「は? ち、ちげーよ! 別に嬉しかったわけじゃねーし!」

「必死なところがますます怪しいぜ、アミーゴ」

 

その後ろでは、ソガの言葉を聞いたテッペイが思案顔で唸っていた。

 

「……やっぱりおかしい」

「テッペイさん、何がおかしいんです?」

 

「あの人の挙げた防衛チームは、どれも20年や30年は昔の組織なんだ。そもそも、トリヤマ補佐官がお世話になった人だと言うなら、少なくとも同年代のはず。なのに……」

 

「私も思った! ミライ君の話だと、昔に活躍してた人って印象だったのに……すごく若々しいっていうか……」

「……そうですか?」

 

あまり要領を得ていない様子のミライはさておき、その感想は、隊員達全員が抱いていた違和感だった。

 

トリヤマ補佐官と親しげに肩を組むソガ参謀長は、その軽薄な言動を差し引いたとしても、明らかに補佐官よりも歳下に見える。

 

どう頑張っても50歳より手前……なんなら下手をすると、やれやれと言った様子で自分用のコーヒーを淹れだしたサコミズ隊長の方にこそ近いのではないか――あちらも年齢不詳だが、マリナ的には40前後ではないかと踏んでいる――とすら思え、とてもあと僅かで退官間際だったトリヤマ補佐官よりも上とは思えないのだ。

 

それこそ第一次怪獣頻出期が始まったのが、いまから丁度40年程前であり、自分達のようにその頃はまだ産まれてすらいなかったという事は無いにしても、本来であれば彼もまた子供か赤ん坊でなければ辻褄が合わず、ましてや現場の事など知っているはずがない。

しかし、歴代チームの隊長をまるで見てきたように話すこの男はいったい……

 

「……あのぅ……失礼ですけど、ソガさんは、いったいおいくつなんですか?」

 

「こ、コノミちゃん……!?」

「……ナイス!」

 

この場の全員が一番気になっていた事を、代表して口にしてくれたコノミに小さく親指を立てるマリナ。

 

「ん? いい歳したオッサンが、年甲斐も無くはしゃいだらみっともないって?」

「い、いえ! そういうんじゃなくて! ただ凄くお若く見えるので……」

「おい、聞いたかよトリピー。まだまだ若々しくって羨ましいですってさ!」

「言動にこれっぽっちも落ち着きが無いという意味では?」

「ぬかせ、コイツぅ!」

 

うりうりと小突かれて迷惑そうな、しかしどこかうれしげな補佐官が、神妙な顔で肯きを返す。

 

「確かに皆が不思議に思うのも無理はない。だが、この方が私の偉大な先輩である事は紛れもなく事実だ。参謀長は……いつからか実年齢と外見が全く一致しなくなったのだよ」

 

「え? なぜですか!?」

「それはだね……」

 

ゴクリと唾を飲み込む一同。

 

「……そう言えば。なぜなんですか?」

「いや、知らないのかよ!」

 

ズルリと足を滑らせる一同。

 

「嘘だろトリピー……知らずに今までどうやって俺の見た目を受け容れてたんだ?」

 

「いえ。ソガさんならば、うっかり歳をとるのを忘れても、そういうものかと思って流していました……」

 

「お前の中で、俺って一体どういう扱いなわけ?」

「万国ビックリ人間博覧会の類……?」

「……それで流せるあたり、器がデカいのかなんなのか分からんな、お前も」

 

これには流石の参謀長も驚いたようで、目を剝いてしばらく唖然としていたが、このままでは誰も事情を説明してくれないと悟ったのか、溜息をひとつ吐いて若さの秘訣を語り出した。

 

「みんな、ウラシマ効果って聞いた事あるかい?」

 

「ウラシマ……?」

「単語だけなら、大学の宇宙航行学の授業で習った事があります」

 

「お、流石はテッペイ君だ。博識だねぇ……。要は、宇宙を旅してると歳をとらんようになるんだな、これが」

 

「宇宙を……?」

「なんで……?」

 

「それは……サコミズキャップに聞いた方が詳しいよ。ね、キャップ?」

「ゴフッ! ゲホッゲホッ……」

 

急に話を振られた為か、コーヒーに咽せるサコミズ隊長。

 

「どうしてそこで私に振るんだろうね、この人はね……ハ、ハ……」

 

「サコミズ隊長、宇宙で歳をとらなくなるって本当なんですか?」

 

「うーん……みんなにも分かりやすく説明するのは難しいんだが……移動する速度が光に近付けば近付くほど、その物体が持つ時間の流れが遅くなるというのは、本当だよ」

 

「ああ! 相対性物理学の理論ですね?」

「うわ、名前だけでムズかしそう……」

 

ジョージやマリナ達が顔を顰める。

 

「例えばだけど……電車を乗り継いで東京から大阪まで行って帰ってくると、それだけで一苦労だよね?」

「ミライなんかこの前、いつの間にか仙台で迷子になって、丸一日行方不明だったしな」

「ハイ、大変でした……でも色んな物が見れて楽しかったですよ!」

 

「そうだね。ミライにとって、あの一日はかなり長かったんじゃないかな? でも、新幹線の中で移動の間ずっと寝ていられたとするなら? ……その人にとっての一日は、かなり短く感じると思わないかい?」

 

「あ~、起きたらいつの間にか別の目的地に着いてた時、ワープしたみたい、なんて言いますね~」

「確かにオレも、大会中に飛行機で飛び回ってた頃は、出発してから何日目なのか時々分からなくなったもんだぜ」

 

しみじみと頷くジョージ。

 

「流石に飛行機や新幹線じゃ、そこまで大きく作用はしないけども……これが光速に近いワープ航法を多用する宇宙船になってくると、その時間感覚のズレが、肉体まで作用する事もある……みたいなイメージかな?」

 

「えっと、分かるような……分からないような……」

 

「今の例はあくまで地球上の話だからなぁ……そもそも時間ってのは、重力によっても影響受けるらしくてさ。他の星じゃあ、地球と流れてる時間がまるきり違うなんてこともあるんだわ、これが」

 

「えっ!? 星によって時間の流れが違う!?」

 

「行ってきまーすと地球を出発して、別の星で1年過ごすだろ? そんで帰ってくると地球上じゃ5年たってました、とかな」

 

「あ、それでウラシマ効果……!」

 

いつも読み聞かせていた絵本の浦島太郎は、竜宮城でたった三日過ごしただけのつもりだったが、帰ってくると地上では300年も経過していた……という内容だったのを、コノミは思い出した。

 

「へぇー、そうだったんですか……こりゃ納得、納得」

「そうだったんですかー、じゃないよ! トリピーはとっくに知ってるもんだと思ってたわ」

 

「という事は、ソガ参謀長って……別の惑星に何年もいたってこと!?」

 

「いかにもっ! こちらのソガさんはな……参謀になる前は、軍の特別渉外担当官として、異星人との交渉窓口であったり、親善大使のような役割を果たされていたのだ! 別の惑星どころか、宇宙を西へ東とそれはもう縦横無尽にだね……!」

 

「なしてお前さんがそんなに自慢げなんだ……?」

 

ソガの経歴を、我が事のように鼻息荒く解説するトリヤマ補佐官。

 

「第二次怪獣頻出期が収束した後には、U.G.モデュレイトの設立に携わり、かつての防衛軍首脳陣と共に、参謀として侵略者を水際で防いでおられたのだ!」

 

「モデュレイト?」

 

「UGMから派生した特殊別働隊ですよ。これまでの戦闘データを集約し、より効率的に運用する事を目的とした……それこそ僕らGUYSの前身みたいな組織なんですから、少なくともリュウさんは知ってなきゃダメでしょ」

 

「まあ、民間にはUGMのまんまで通してたからな……設立理念的にも派手な周知は出来んかったし」

 

腕組みして肩を落とすソガ参謀長。

 

「第二次怪獣頻出期が収束したあとの事は、みんな知ってるかな?」

「UGMの平和独立宣言ですよね」

「そういやガキの頃、教科書に載ってるのを見たような……」

 

マリナやジョージの呟きを拾って頷くサコミズ隊長。

 

「でも……それを恣意的に曲解した侵略者が、再び暗躍をはじめてね……その警戒の為に、既存技術とこれまで得られた地球外文明技術の融合……つまり今のメテオールに繋がる研究を開始したのが、そのU.G.モデュレイトさ。アーカイブドキュメントも、UGMの項が二つに分かれているだろう?」

 

「あれってそういう意味だったんですね! ドキュメントH.UGMってなんだろうって思ってました」

 

「普通に平成版って意味だな……」

 

「しかし……GUYSが設立されてからも、ソガさんの姿は本部であまりお見かけしませんでしたが?」

 

「月面基地とか火星開拓地とか、ガイズスペーシーのステーションを行ったり来たりよ。あと、知り合いに頼まれてミステラー星系に難民迎えに行ったりしてた」

 

「「おおー……」」

「えっ? ミステラー星系?」

「それって確か、超がつく程ヤバイ紛争地域なんじゃ……」

 

よく分かっていない面子は、なんとなく凄そう程度の認識で流したが、テッペイとミライだけは、ソガが何気なく零した単語にひっそりと目を白黒させた。

 

「そんな忙しい人が……今日は俺達に会いに来たって?」

 

「君たちの活躍は、そんな私ですら地球に帰ってくるくらいのビッグニュースというわけさ!」

「本当かよ……」

 

「もちろんだともリュウさん……いや、アイハラ・リュウ隊員ッ!!」

 

「は、ハイ!」

 

すると突然、ソガ参謀長が先ほどまでの砕けた調子を一変させ、しっかりとした張りのある声で名前を呼ぶ。

 

その声には、呼ばれた方もほぼ反射的に背筋がピンと伸びてしまうような凄みがあった。

 

「まず私は……君に謝らなければならない」

 

「謝る……? アンタが俺に……?」

 

「そうだ。君を除いた……セリザワ隊長以下、旧ガイズクルー全員の殉職について、正式に謝罪する。……本当に、すまなかったっ!!」

 

「……ッ!?」

 

そう言って制帽を取り、ほぼ直角に頭を下げるソガ参謀長。

その姿に驚き、リュウは目を見開いた。

 

「あれは……別にアンタのせいじゃ……」

 

「いや! 私は君たちに、本来以上の戦力を用意出来た事に、どこか安心してしまっていた……これだけ備えれば大丈夫だろう、もう充分だろう……と!」

 

拳を強く握りしめ、歯を食いしばるソガ。

 

「あまりにも認識が甘かった……! まさか……ディノゾールが()()()()()()()()()()()とは思わなかったんだ……その結果が、旧チームの全滅だよ。あれは、私の慢心が招いたも同然だ……っ!! もうひと踏ん張りして、ガンフェニックスのロールアウトを早めるよう、議会へゴリ押しすべきだった。あるいは、ライトンR30マインの全域敷設が間に合ってさえいれば……ッ!」

 

「ソガ……さん」

 

彼の震える声は、その言葉が嘘偽り無く本心である事を物語っている。

 

「……あの時、そのどちらかがあれば……全機帰還とは言わずとも、全滅までは免れたかもしれない。無傷でなくとも、例え二度と戦えぬ重傷を負ったとしても……君以外に生き残る隊員を増やせたかもしれない。そして君に、セリザワ隊長を……目の前で失わせずに済んだ!」

 

「……やめてくれっ!」

 

叫ぶリュウの瞳もまた、揺れていた。

 

「違う……アンタのせいじゃない……! 俺達が……俺が! 弱かったんだ……! あん時は……っ! まだちゃんと分かってなかったんだ……っ! 怪獣と戦うのがどういう事か……地球を守るってことが!」

 

しかし、彼の小刻みに震える肩を、参謀長の両手が力強く掴む。

 

その後に彼は、胸いっぱいに空気を吸い込むと、部屋中に響き渡る程の大声を張り上げた。

 

「……そして! ありがとうっ!!」

 

「……えっ……?」

 

「君達が命をかけて戦ってくれたからこそ! 地球へ降下したディノゾールが一匹だけで済んだんだ! 君達クルーが死に物狂いで時間を稼いでくれたからこそ……ウルトラマンメビウスが間に合った。君達は、立派に使命を果たしたんだ! 初の出撃で、想定以上の強敵に対し、一歩も引かずに戦った! あのたった一匹ですら、あれ程の被害が出たんだ。それがもう一匹以上来ていたらどうなったかなんて……分かるだろう? セリザワ隊長のチームは、多くの人々を守ったんだよ!!」

 

「……っ!」

 

「そしてなにより……君が生き残ってくれた。セリザワ隊長の思いを、君が受け継いでくれるならば……私のやってきた事が無駄ではなかったと……そう思えるんだ。だから、ありがとうリュウ。生きていてくれて。セリザワ隊長や、他のクルーも含めて……君達は、地球の誇りだ! 彼らの献身を、私は決して忘れない」

 

「ソガ……参謀長……ッ!」

 

「……良かったな、リュウ……」

「今ぐらいは、泣いてていいわよ……見ないでいてあげるから」

「リュウさん……!」

「お前ら……」

 

言葉に詰まるリュウの近くに集まり、その背中を優しく叩く仲間たち。

 

「ソガ参謀長……俺、頑張ります! アンタみたいな人が、隊長達の事を覚えていてくれるなら……その誇りを背負って、これからも……この、GUYSの仲間達と!」

 

「ああ、頼む! 他の皆もガイズの隊員資格はあれど、正規の訓練課程を全て修了しているのは君だけだ。これからもその経験を活かして、チームを引っ張っていって欲しい」

 

「G.I.G!」

 

晴れ晴れとした顔で、GUYS 式の敬礼を返すリュウ。

 

「思えば、ハンターナイト・ツルギのような者の横行を許してしまったのも、一時的にガイズの力が低下してしまったからだ」

「……っ!?」

 

しかし、続く言葉に一瞬にして空気がピリついた。

ディレクションルーム内が緊張で張り詰める。

 

「あいつめ、いくら後継機とは言え、アマギのシンクロトロン砲をおもちゃ呼ばわりしやがって……どうせボガール相手じゃ火力不足ってのは、確かに俺もそう思ったけども!」

 

「あの……参謀長はヒカリ……いや、ツルギの事をどう思ってんすか」

 

「ちょ……おまっ……!」

 

眉根を上げたリュウの質問に、冷や汗をかく仲間達。

参謀長の返答次第では、リュウがまたしても暴発しかねないと悟ったからだ。

先ほどは冗談で済まされたが、万が一そうなった場合、今度ばかりは本当にどうなるか分かったものではない。

 

なんとしてでも口を塞がなければ……ジョージ達の体が無意識に強張っていく。

だが……

 

「確かに、初めの頃は我々人類の存在をまるきり無視したような態度に思うところはあった。しかし! 彼が鎧を脱ぎ捨て……ウルトラマンヒカリだったか? 真の姿に戻ってからは、以前とはまるで別人のような品行方正ぶり。そこで私は確信したね。彼もまた、ボガールという宇宙規模で害を齎すような存在を倒す為に、なりふり構ってはいられなかっただけなのだと……」

 

「!?」

 

ハッと目を見開くリュウ。

 

「であれば、彼もまた私とおんなじだ。より強い存在に立ち向かう為には、時として、何かを切り捨てなくてはならない場合もある……少なくとも、君たち新生クルーが戦闘に慣れ、経験を積むまでの間、足りない部分を肩代わりしてくれたのは間違いなく彼だった。出来る事ならば、メビウスだけでなく、ウルトラマンヒカリにも感謝を伝えたいと思っているよ。地球を守ってくれてありがとう、と! 君もまた、我らガイズの仲間のようなものだと……!」

 

「……参謀長!」

 

「彼の生真面目なところを見ていると、どこか亡きセリザワ隊長を彷彿とさせてならないね。もしや、最後まで地球を思って散っていった彼の願いが、ヒカリをこの星へ呼び寄せたのではないか、とすら思ってしまう。あまりにもセンチメンタルだが」

 

「参謀長もヒカリの良さが分かるんすねっ!?」

 

「ああもちろん! まず体がブルーってのが素晴らしいよな。溢れる知性を隠しきれてないというか……あと、光線撃つ時に手首をなんかこう……クルッとするのがまた格好いいんだ……!」

 

「……だよな!? だよな! アンタなかなか分かってんじゃねえか! 参謀長さんよ!」

 

なんだかヒカリの話題で無邪気な子供のように盛り上がる二人を見て、仲間達は胸を撫で下ろすと共に呆れたような溜息を一斉に吐いた。

 

「とにかく、ここしばらくはヒカリの姿が見えなくて少々残念だが、また彼が現れた時には、こちらも出来る限り歓迎できるように彼の活躍を宣伝しておこう。君たちもその方向性で頼む。まあ、既に何度も共闘しているらしいしな。この方針も、君らの成果あってこそだ」

 

「ハイ! 次に地球へ来たら絶対に伝え……いや、違った。ヒカリとも協力していきます!!」

 

「うむ!! では、これまでの活躍を評し、君にこれを進呈しよう」

「……なんですか、コレ」

 

ほくほく顔のリュウがソガから手渡されたのは、金属製のバッチらしきもの。

GUYSのシンボルである5枚の翼を象った中に、地球を囲み左右に飛び出す赤い矢印のようなマークがあしらってある。

 

「ウルトラ勲章」

「……く、勲章!?」

 

手のなかの勲章を覗き込み、驚愕する一同。

 

「ソガさんが勝手にそう呼んでるだけだ。正しくはGUYS特別……」

「いいだろトリピー、正式名称なんか後で。まあ、デザインと名前は変わっちまったが、昔は地球防衛に多大な貢献をした者に送られる勲章があったのさ。ホラ、私も持ってるよ。こっちはオリジナルだけどな。どうよ」

 

ソガが自慢気に見せびらかす胸元には、5枚羽の輪郭こそ違えど、同じく地球と矢印の意匠を持つ勲章が輝いていた。

 

「つまり今日はな、諸君にこのウルトラ勲章の授与式というわけだ」

「そんな凄え勲章を……」

「君に一番に渡したかったんだ。旧チーム全員の代表として、受け取ってくれんか」

「……ありがとうございます! 一生、大事にします!」

 

「……完全に墜ちたわね」

「そりゃあ、尊敬するセリザワ隊長達をあんな風に言ってもらえたら、誰だってそうなりますって」

「でも、あの熱血頑固野郎をあんなにすんなりと……とんでもねぇ人たらしだぜ……」

 

仲間達は、参謀長ともうすっかり打ち解けてしまった熱血頑固バカの事を微笑ましそうに、そして少しばかり羨ましそうに見ていた。

そんな彼らの方を、ソガが笑顔のままくるりと振り向く。

 

ビクリと身を竦める若者達。

 

「……イカル、いや……ジョージ隊員!」

「え、オレ? ……は、ハイ!」

 

いきなりの名指しで挙動不審になりながら、マリナ達の手で前へと押し出されるジョージ。

 

「……君の活躍は聞いている。かつての私のような……いや、それ以上の射撃の名手だと! 流石の私も、三体同時攻撃は出来なかったからね! ……若い奴ってのはいつだって、昔を追い抜いていってしまうなぁ!」

 

「きょ、恐縮です……」

 

「だが……同じく狙撃手として、ここぞと言う時に絶対外してはならないという責任。その重圧は分かるつもりだ……あれは本当に、息が詰まりそうになるよな」

 

「……参謀長もそうだったのか?」

 

「ああ、もちろん。ましてや君は元民間人。はじめから軍人だった私などより、もっと辛いはずだ。それなのに、そのプレッシャーを撥ね除けて、いやむしろ逆に糧へ換えてしまうというその胆力! まさしく君が選手時代に培ってきた経験の賜物だろう。いや、それだけではない。戦場を広く見渡し、敵のフォーメーションの隙を瞬時に見抜くその戦術眼、咄嗟の判断力! そのどれもが、君のこれまでの人生の集大成と言える」

 

「ああ……確かに試合中はそれが頼りだからな」

 

「やはり! 君はまさに私の理想だ! 隊員として必要な素質を全て兼ね備えている。正直言って羨ましいくらいだよ。なんというかこう……ハングリー精神っていうのか? あいにく私にはそういうギラギラしたものが無くてな……むかし、向上心の塊みたいな同期がいたんだが、俺なんかあっという間に追い抜いて、いち早くこの参謀長の座についていたもんさ……君も、そういう何処までも己へ対してストイックになれる素質があるのかもしれん」

 

「お、おう……」

 

「それでいて私のように、情に篤く、ノリが良くて、ユーモアもある! まさにヒロタと私の良いとこどりをしたみたいなもんじゃないか! まったく、君のような男がガイズに来てくれて、本当にありがたい。いくら装備を整えても、個人の能力と、性格ばかりはどうしようもないからな」

 

「ぐ、グラシアス……」

 

ソガがうんうんと頷くと、ジョージは呆気に取られたような表情をするしかない。

 

「実のところ、例え一時的にとは言え、サッカー界から君のような素晴らしい才能を奪ってしまう事になるのは忸怩たる思いだ。だが……我々には君の力が必要なんだよ! 今暫くは、ここでそのナイスガイっぷりを発揮してくれないか? いずれ地球が平和になった暁には、ここで得た経験を、再び選手として是非とも活かしていって欲しい!」

 

ソガが濁流の如き勢いで一気にそう捲し立てれば、ジョージはしばしポツンと己の感情から取り残されたような面持ちのまま、黙って立ち尽くしていたが……

 

「……まさか、上層部にもアンタみたいな人がいるとは思わなかったぜ……セニョール」

 

徐にその場で膝をつくと、自身の胸に左手をあて、熱の籠もった瞳で上官の顔を見上げるジョージ。

 

「安心しな。もう、ミライとも約束しちまったんだ。アンタが期待する以上の働きを見せてやる。地球はオレに任せときな!」

 

「そうか、やってくれるか! ありがとう、アミーゴ!」

 

ソガが満面の笑みで腕を広げると、すぐさま二人の男達は熱い抱擁を交わす。

 

「アンタなら、別に苗字でもフルネームでも、呼びたいように呼んで構わないんだぜ」

 

先ほどソガがこちらを呼ぼうとして言い直した際、それは自身がイカルガと呼ばれる事を嫌うと知っての配慮だと、ジョージは気付いていたのだ。

 

「そいつは嬉しいが、それだと急に変な語尾で喋り出しそうだから遠慮しとくよ、知り合いの顔がチラつくんでね。むしろ名前呼びの方が、よりアミーゴっぽいだろ?」

 

「……? そうか」

 

勲章を受け取り、よく分かっていない顔でジョージが離れると、ソガはすぐさま、その後ろで優しげな表情のままこちらを見守っていた女性隊員のもとへ歩み寄る。

 

「カザマ・マリナ隊員」

 

「つ、次はアタシ!? ……ですか!? ん、んん! ハイ!」

 

「ジョージ君にも似たような事を言ったが、君の超人的な聴力は替えの効かない唯一無二の才能だ。君達が居る事で、どれだけ助かっているか」

 

「アタシはそう言って頂けるだけで、満足です。GUYSの仕事はやり甲斐もありますし」

 

「……しかし大変だね。耳が良すぎるというのは」

 

「え?」

 

「目が良いというのは、私もそうだったから分かる。だが……視覚と聴覚はまったく別のものだからさ。残念ながら想像でしかないが……ただ便利なだけではないのだろう? 聞きたくないものも聞こえてしまう。目は瞑れば良いが……耳はね、塞ぐのに手を使うから。ましてやヘルメットなどしていれば……違うかい?」

 

「な、なんで……分かるんですか?」

 

戦闘中は、ありとあらゆる音が聞こえるのだ。

爆発音、怪獣の雄叫び……そして、誰かの悲鳴。

 

鋭すぎる感覚は、時として弱点にもなり得る。

 

今でこそ克服したが、昔はマシンの軋む音にすら過敏になっていた。

だがそれは音という……目に見えない現象であり、聞こえない者からすれば理解のし難い事のはず……

 

「昔の仲間にね、えらく耳の良い奴がいてな。まあ、普段は事件の手懸かりを捜すのにそりゃもう都合が良いってんで、まるで人力レーダーみたいな扱いをしていたが……ひとたび敵が怪音波の類を武器として使ってくると、地獄のような苦しみようでさ。頭を抑えてのたうち回ってたよ。俺らはてんで平気なのに」

 

「あー、わかります。その人も大変だったでしょう……」

 

「だから、そいつの分もあわせて労わせて貰うよ。いつもお疲れさま」

 

「そ、そんな……アタシはただ、逃げるのが嫌なだけで……」

 

「流石は元レーサーだな。それも女性レーサーか。みんな勝ち気だねぇ……」

 

謙遜するマリナに、ニヤリと笑うソガ。

 

「実はな、私の恩人にもレーサーがいるんだ。それも君と同じく女性で……とびきり負けず嫌いの」

 

「え、女性レーサー? ソガ参謀長のお仲間にも?」

 

「いいや、その人も民間人だったよ。だが、その人が居なかったら、今頃地球はどうなっていたか……ウルトラセブンも負けて、我々は罠に嵌まり打つ手無しという状況を……彼女がひっくり返してくれたんだ。君を見ていると、なんとも不思議な縁を感じてならないな」

 

「そんな凄い人が……」

 

「私からしたら、君だってその凄い奴の一員さ。辛いことから逃げずに、逆に捻じ伏せてやるぞというガッツ! その激しく男勝りな負けん気を持ちながら、女性らしい気付きや細やかな気配りを兼ね備えている事こそが、君の強さだ! これからも、彼らのチームワークを支えてやってくれ」

 

「ありがとうございます……! 私、頑張ります!」

 

笑顔と共に勲章を受け取り、照れたようにはにかんで一礼するマリナ。

 

その後頭部へ、ぼそりと小さく降ってきた言葉がある。

 

「……ブレーキ役なんて、いつも損な役回りですまないな」

 

「……!? ええ、本当にね」

 

唇を動かさず、舌先だけで紡がれたのであろう細やかな呟やきは、室内にも関わらず拍手の音に紛れて誰の耳にも聞こえないほど不明瞭で……だからこそ、他ならぬ自分にだけ向けて贈られた、秘密の労いであると彼女は理解する。

 

ソガが素知らぬ顔で隣を向いたのを良い事に、マリナはこっそり自分の頬や額に手を当てて、高揚感のあまり顔が赤くなっていないかを確認しなければならなかった。

 

なかなか……やるじゃん。お茶目おじさん。

 

「クゼ・テッペイ隊員!」

 

「ハイッ!」

 

これはもう、流れで全員やるんだろうなと予想していたテッペイは、期待半分に緊張半分という具合で……いや訂正、ガチガチに緊張していた。

 

そんな彼の肩をバシンと力強く叩くソガ。

 

「お前はほんまに……凄い奴や! それでこそ、『俺たちのテッペイ』やな!」

 

「……へ、へ? 俺たちの……?」

 

「すまん、つい本音が漏れた。気にしないでくれ」

 

「は、はあ……」

 

突然の意味不明発言に呆然とするも、ソガがこっそりとウインクを飛ばして来るのを見て、これは僕の緊張をほぐしてくれたんだな……とテッペイは好意的に解釈する。

 

「君の活躍ぶりを聞く度に、我が事のように嬉しくてね。なにせ……怪獣の生態を熟知し、それをもとに作戦を立案する……それこそが、私のずっとやりたかった事だ」

 

「え? でも、ソガ参謀長はずっと昔にそれをされていたんですよね? 敵の弱点を直ぐに見抜くってミライ君が……」

 

「……ん? ああ! それは話にだいぶ尾ひれがついとるなぁ……正しくは、私のフワッとしたアイデアを、ちゃんと形にしてくれる仲間がいたのさ。彼がいなければ、私は単なる理想論の夢想家で終わっただろう。それこそ、君みたいに博学で冷静な奴だったよ……」

 

懐かしそうに目を細めるソガ。

そこでテッペイは先ほどの話を思い出し、彼がウラシマ効果によって実年齢がズレているというならば、今語っている仲間というのは、トリヤマ補佐官以上の高齢なのだ……と思い至る。

彼もまた……文字通り、時間に取り残されてしまった浦島太郎なのだな……と。

 

お伽話と違う点は……彼はそれに絶望したりせず、玉手箱を開けたりはしなかったという事。

 

その真っ赤に燃え盛る情熱の炎と、穏やかな知性が齎す銀の光を湛える目で、時の流れを見つめてきたのだろう。これまで、ずっと。

 

「しかも! ただでさえ君は医者を目指しているというじゃないか! どんだけ人を救いたいんだ? あまりにも尊い……高潔がすぎる! 能力以前に個人として、あまりにも人間が出来過ぎとるだろう!? もう心から尊敬しかない。医学に科学に怪獣学……君がその若さで、これだけの知識を得られたのは、その高い志がなせる業なのか? まさに、教養が人をつくるという実例だ……感動したッ!!」

 

「あの参謀長、参謀長……僕などには過分なお言葉です……」

 

「過分なものかね! 君はな、言うならば私と、アマギの二人分……いやアンヌも合わせて三人分の働きをしとんだよ!? 通常の三倍だよ、三倍!? ちゃんと休んでるかい? 医大に通いながらガイズの仕事もなんてハードスケジュールすぎんか?」

 

「だ、大丈夫です……それこそ医者は体力仕事なのでその予行演習と思えば……」

 

「そうかい? 医者の不養生にだけはならんようにな。君は、それだけが心配だ。サコミズ隊長も配慮してくれるはずだよ。何かあったら遠慮せずに申し出なさい」

 

「わ、分かりました。善処します……」

 

よろしい、とテッペイの返事に満足げに頷き、手ずからその胸に勲章を取り付けたソガはその隣を向き……おや? と首を傾げた。

 

「アマガイ・コノミ隊員……?」

 

「はい……」

 

所在なさげに指を組んだ彼女は、目線を下げて俯いたままだ。

 

「元気が無いな。どうしたね」

 

「だって……わたし……そんな、勲章なんて貰えません……」

 

「どうして?」

 

「ジョージさんやマリナさんみたいに凄い能力なんてないし……テッペイさんみたいにちっとも賢くないし……リュウさんみたいに強くもありません!」

 

震える声は小さかったが、それは叫びのようでもあった。

小さな雫が、ディレクションルームの床を濡らす。

 

「お医者さんとかレーサーとか、GUYSに活かせそうな経験もなくて、保育園の仕事もバイトだったし、泣いてばっかりだし、怪獣を倒した事も無いんです! ミライ君が誘ってくれなかったら、わたしなんて……」

 

「……本当に大事なものってなんだと思う?」

 

「え?」

 

まるで文脈を無視した唐突な問いかけに、思わず顔を上げるコノミ。

 

「今すぐ出来る事はなんだろうって……考えて、実行できる事だと、私は思う」

 

「今すぐ……出来る事」

 

ソガは目を瞑り、胸に手を当てて大きく天井をあおいだ。

 

「迷った時は、こうして銀河の彼方に想いを馳せるんだ……すると、声が聞こえてくる」

 

「声が?」

 

「そう。『汝の為すべき事をせよ』ってね。これが私を突き動かす、心の声だ。誰しもが、この声を聞く事が出来る。……だが、悲しいかな人間ってのは、素直に心の声に従える奴ばかりじゃない。実を言うとな、オレだって……戦うのが怖くって、嫌になって、なんだか全部がどうでもよくなっちまった事もある」

 

「ソガさんみたいな人でも……ですか?」

 

「ああそうさ! 大体ね、はじめは誰もヒーローじゃないんだから! 広い宇宙からしてみりゃ、我々人間なんて、それぞれ違う形の、ただちっぽけな星みたいなもんなんだよ?」

 

そこまで言って、ニッと笑うソガ。

 

「そんな時にな、私の尊敬する先輩が言ってくれたんだ。『それぞれが、それぞれの持ち場で踏ん張ってるからこそ、別の誰かが自分の仕事を精一杯やれんだぞ』ってさ。それが、今の自分に出来る事を捜す、大きな意味だよ。……確かに今のチームは、ミライ君が集めただろう。でもそのきっかけは……君だ。コノミ隊員。君があの時、今すぐ出来る事をやろうとしたから、みんながそれに手を貸した。そうだろ?」

 

「あっ……!」

 

コノミは、ディノゾールが襲来したあの日、保育園のウサギを助ける為に駆けだした。

そしてここにいる仲間達……その時はまだ自分と同じく民間人だった彼らが、力を貸してくれた時の事を言われているのだと悟る。

 

どうしてそんな事までこの人は……

 

「臆病な事は、恥ずべき事では無い。その上でなお、恐怖に立ち向かう事こそが、真に勇気ある行いだと……私の隊長はいつも言っていた。君だって、勇気ある戦いの挑戦者だ。自信を持ちなさい」

 

「勇気ある……戦い」

 

「君達のチームは、はじめはバラバラだった。でも、時にぶつかり合い、そして励まし合い、傷付き倒れても、共に助け合える道を捜して、立ちはだかる闇を乗り越えてきたんだろう? ここまでの道のりには、君の力も含まれている。前線の彼らを、君がしっかりオペレートするから、みんな安心して戦いに集中できるんだ。だいたい戦闘中に、街のどこに何があって、避難場所がどっちかなんて、分かるわけないだろうが?」

 

「その通りだぜ! コノミ!」

「貴方ももう、立派に私たちの一員よ」

「そうです! 元気を出して下さい、コノミさん!」

「みんな……」

 

皆の声に、コノミはじんわりと胸が暖まるような心地を味わった。

 

「だいたい昔なんかなぁ! ……そこらへんでつかまえたボクサーだの、教師と二足の草鞋だの、挙げ句の果てにはただのパン屋ですら隊員になれたんだ! なんなら経歴不詳の風来坊が地球を守ってた時代だってあるんだぞ!?」

 

「ぱ、パン屋さん!? パン屋さんが戦うんですか!?」

 

フランスパンブレード! クロワッサンギロチン!

 

「そんなのと比べれば、元保育士がなんだ! むしろ子供たちの未来を守る我々に、これ以上なく相応しい前職だと思うが?」

 

「そもそも風来坊って何? ……隊員になるまでプー太郎ってこと?」

「というか身元不明者に入隊資格を与えるのは、セキュリティ的に問題ありすぎますって」

「昭和っていろいろ緩い時代だったんだな、セニョール……」

 

「地球を愛する心がある限り、誰だって地球防衛軍だ!」

 

腕を振り上げ、そう力強く断言すると、ソガ参謀長は一転して表情を柔らかなものへ変えて語りかけた。

 

「それにな、君にだって特別な能力はある」

 

「私に?」

 

思ってもみない言葉に首を傾げたのは、コノミだけではない。

流石に特殊な能力と言われても、心当たりなど……?

 

「それは……共感力さ」

 

「きょーかんりょく?」

 

「その通り! 地球を守る戦いにおいて、最重要なファクターの一つ。それは……心だ!」

 

「確かに、最後にモノを言うのは己の信念とか気合いだもんな!」

「うわー、昭和っぽい……」

 

「単なる根性論と馬鹿にしちゃいかんよ? 私が言っているのは、精神の安定性。戦いというのは、それだけで神経に負荷がかかるものだ。君達隊員達は常に極大なストレスに晒されていると言っていい。人間というのは、精神状態がコンディションに直結する……いや、人間だけじゃない。ほとんどの生き物がそうだ! アスリート組は特に身に染みて分かるだろう?」

 

「確かにな。大事な試合前にイメトレや精神統一を欠かす奴は三流以下だ」

「私のタイムが伸びなかったのも……自分とマシンを信じられなかったから、ね……」

 

「全ての生き物が、精神状態に能力を左右される以上、その些細な変化や不調に気付けるか否かは、かなり重要な才能だ。その点、コノミ隊員。君はその能力に抜きん出ている。私は君の共感力をこそ、ガイズの一員として相応しい能力として、評価したい。……なんせ、怪獣やウルトラマンの機微を読み取るくらいなのだからね」

 

「……確かに。ミクラスに言うこと聞かせられんのも、その共感力のおかげってんなら、ジョージやマリナ並の特殊能力だな」

 

「やっぱり、コノミさんも凄い人なんだ!」

 

「えっ、えっ?」

 

「そうだろ! 凄いだろ!」

 

我が意を得たりと頷く事しきりのソガ参謀長。

 

「だから……自分だけが相応しくないとか、そんな寂しい事、言うな。周りのみんなの表情みたら分かるだろう? 誰もそんな事思って無いんだからさ」

 

辺りを見渡せば、ソガの言葉に頷く仲間達。

 

「それにね、その力は私の夢にも大いに役立つ技能だよ」

 

「ソガさんの……夢? それってなんですか?」

 

「私の夢はね……悲しみなんか無い世界さ」

 

「悲しみなんか無い……世界」

 

大きく頷くソガ。

 

「もちろん、生きている限り、悲しい事がゼロには絶対ならないだろう。でも……可能な限り、減らす事は出来る。みんなの微笑みを繋いでいけば、いつか……小さな希望を積み上げた先に、それはある。きっと! 何があっても、一度紡いだ絆は途切れやしない。どんな涙だって、必ず渇くのだから……」

 

男が、コノミの頬に残った水滴の跡を指差して微笑む。

 

「その為には、君達の力が必要になる。君達のような、若い世代の誰かが、その未来を叶えるんだ! 私は……そう信じていたい。……光で溢れた世界を目指す……それは無限に続く、長い道のりだろう。だが決して、血を吐きながら続けるような、暗く冷たいものにはならないはずだ。ならば私はこの夢を……諦めたくないんだ。絶対に」

 

「ソガさん……」

 

「かつて、あるウルトラマンが言った。『優しさを失わないでくれ』と……例えどれだけ裏切られようと、信じる事を止めないで欲しいと……彼らのような強大な存在ですら、その愛の灯火が人々の心から消えないように守るのは難しく、最後には祈ることしか出来ない。だが君は……既にそれを持っている! 愛を諦めない事の素晴らしさ、その困難さを……君は知っているんだ、コノミ隊員。自分がいかに素晴らしい才能を持っているか……分かってくれたかな?」

 

「……はい! 分かりました……! ソガさん! ありがとうございます……!」

 

「うんうん、君はそうやって笑顔の方がね……あれ?」

 

「どうかしましたか……?」

 

ソガが急に腕組みをしながら悩みはじめたので、何かやらかしたかとコノミは顔に不安を滲ませる……が。

 

「……あ! そうか! コレが足りないんだな!」

 

彼が、胸元から先ほどまでかけていた赤いサングラスを取り出して、自分の顔にダブらせるのを見て、ソガが何を気にしているのか察した。

 

ただし……

 

「デュワッッ!! ビュウウウゥゥゥン! たかたかたかたか……パッ! これでヨシ!」

 

サングラスを押し付けると同時に、奇声を発しながら妙なジェスチャーを一通り行うという奇行には度肝を抜かれてしまったが。

 

「あ、あの……」

「やっぱりコノミ隊員は眼鏡が無いとな! どうしたイメチェンか?」

「それはそうなんですけど……今のは……もしかして、元気の出るおまじないですか?」

 

デュワッ! という掛け声と共に眼鏡をかけるおまじないは、以前にミライから教えて貰った事がある。

 

だから、未だに口をあんぐり開けて固まっている他の隊員達よりも早く立ち直る事が出来たが……

 

「ん? そうそう! 広義で言えば元気の出るおまじないだな」

 

「もしかして……ミライ君にこのおまじないを教えた人って……ソガさんなんですか!?」

 

「あー……多分、ミライ君も私も、教わったのが同じ人というかー……」

 

「それってセブン兄さムブッ!」

「シーッ!」

 

興奮した様子で嬉しそうに何事かを叫ぼうとしたミライが、サコミズによって口を塞がれるのを横目で見ながら、ソガはにこやかに断言した。

 

「掛け声で眼鏡をかけるだけでは、単なる略式でしかない。今のがより正式な……いわゆる完全版だ。さらに高い効果がある」

 

「この、でゅーん……って目の前でとんぼを取るときみたいに指をグルグル回すのは……?」

 

「目から光が迸る演出だな」

 

「たかたかーって、肩をパタパタするのは?」

 

「プロテクターを装着していくんだ」

 

「プロテクター……? 心を防御するって事ですか?」

 

「そう捉えて貰ってかまわない」

 

「じゃあ、最後の……ぱっ! は?」

 

「色が変わる」

 

「色……?」

 

いまいち要領を得ない説明だが、さっきまでとは気分を変えるという意味を、色で表現するのかな……とコノミは自分を無理やり納得させた。

 

「さて、一緒にやってみよう……デュワッッ!! ビュウウウゥゥゥン! たかたかたかたか……パッ!」

 

「でゅわ。びゅーん。たかたかっー。ぱっ」

 

「ヨシ! ウルトラコノミになったところで、このウルトラ勲章を受け取ってもらおう」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

今度こそ彼女は、自信に溢れた顔で、嬉しそうにそれを装着した。





メビナビ!

ソガ隊員は、1967年に登場した、ウルトラ警備隊の一人。射撃の腕と洞察力に優れ、侵略宇宙人の魔の手から地球の危機を何度も救ってきた。必殺技は、死んだフリからの騙し討ちだ!

気になる?

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  • 保安官
  • 補佐官
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