転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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※注意

今話には、『ウルトラマンメビウス』本編及びストーリーに関する重大なネタバレが多数含まれております。

もしも今後、同作品を視聴予定かつ、初見時の驚きやワクワク感を大切にされたい方は直ちにブラウザバックし、ウルトラマンメビウス本編を視聴してからお読みになる事を推奨します。

大丈夫、今回の話は時系列で言うと、ちょうど28話ぐらいだからサラッと見れますよ!

いまさら気にしないぜという方は、どうぞお楽しみ下さい。


思い出の補佐官

 

「さて、ヒビノ・ミライ隊員。言うまでも無いが、今のチームがあるのは、君が彼らに声をかけてくれたからだ。こんなにも素晴らしい才能達を見つけてくれて、ありがとう!」

 

「こちらこそ、みんなをたくさん褒めて頂いて、ありがとうございます!」

「バァカ、今褒められてんのはお前だよ」

 

「君には他にも感謝したい事が山ほどあるが、なかでも! 戦闘中の補助活動を積極的に行っているのは助かるよ」

 

「補助……活動……?」

 

「つまり避難誘導や、逃げ遅れた負傷者がいないかの最終確認、あるいは怪獣の注意を逸らす牽制とかだな。地味ながら、どれも大切な仕事だ。他のみんなが攻撃している間、彼は二次被害が拡大しないように、そういう目立たない役目を率先してこなしてくれているんだよ」

 

「……そうか、そういやたまに姿が見えねえと思ったら……お前、そんなことやってたのか!」

「確かに……ミライ君って勘が良いっていうか、妙に鋭いとこあるし、その時に足りない部分がすぐ分かるのね!」

「優しいミライ君らしい活動ですね!」

「サボってたわけじゃなかったのか……」

「言ってくれたら、ガンフェニックスの塗り直しも手伝ったのに……」

 

「僕……そんなことしてましたっけ?」

 

「おやおや! まさかの本人が無自覚とはな! 君にとっては、もはや当たり前の事過ぎて、そういう意識すらないとはお見逸れした! 素晴らしい心がけだ! ご褒美にウルトラ勲章をあげようね~」

 

「あ……ありがとうございます……?」

 

全く心当たりのない活動内容に対する評価をいきなり言い渡され、しきりに首を傾げるミライ。

 

この場で最も納得のいかない顔を浮かべるのが、よりによって勲章を渡された当人という、なんとも奇妙な授与式ではあったものの、周囲で彼を微笑ましそうに囲む仲間達はそれをすんなり受け容れた。

 

普段の事だからだ。

 

「さて、勲章も配り終えた事だし。諸君らにひとつ、重大な頼みごとがある」

 

「頼みごと……ぼくらにですか?」

 

「そうだ! これは諸君らにしかできない、唯一無二の任務なんだ」

 

「そ、それはいったい……」

 

真剣な表情でそう述べる参謀長に、ごくりと喉を鳴らす隊員達……

 

あれほどの逸話を誇る男が言う頼みごとならば、さぞかし難しく危険な任務なのではないか。

 

皆が固唾をのんで見守るなか、ソガがゆっくりと懐から取り出したのは……

 

1枚のTシャツと、黒のマジック。

 

「サインちょーだい!」

 

「……って、サインかいっ!」

 

思わずズッコケた。

 

「いやー……今まで散々っぱら、自分達の記念日どころか、子供達の結婚式まですっぽかしちゃったもんだからさ、奧さんに頭があがらんのよ……これで孫の機嫌ひとつ取れないとなったら、次はウチを締め出されてしまいかねんだろ……?」

 

「ま、孫ぉ!? あんた孫までいんのかよっ!?」

「その歳でぇ!?」

「なんだ、トリピーにだって孫がいるんだから、俺んとこに孫がいても、全くおかしくないだろ」

「あ、そうだった。この人、補佐官より年上なんだった」

「見た目がややこしいなぁ……」

 

なんだか頭がこんがらがりそうになりつつ、あまりにも切実な表情を浮かべる参謀長に、ある種の悲哀を感じる隊員達。

 

浦島太郎よりは随分マシだが、なんとも世知辛い……

 

「な? このとーり! 頼むよ! なっ! なっ!?」

「別にサインくらい、現役時代にも書いてたからかまわねぇけどよ……」

「職権濫用も甚だしいですね……」

「そりゃあ、職権なんぞ濫用するためにあるんだからな」

「うわ、さっきの話聞いてからで良かった……」

「普通に信用無くなりそうなんだけど……」

「でも、この人の場合は多分……地球の為に……ってことですよね?」

「私利私欲じゃなかったら良いって話でも無いんだけどね……」

「わあ、サインだなんて! ガンフェニックスに書いたのと同じでいいですか?」

「ファンサ最高かよ」

 

ごにょごにょ言いつつ、Tシャツに思い思いのサインを書き込んでいくメンバー達。

 

「さて、サインのお礼と言っちゃなんだが、なんか聞きたい事とかある? 答えられる範囲ならなんでも答えちゃうよ~! 現場の声を聞くのも仕事だからね~」

「質問ですか……?」

 

気持ちは有難いが、急にそんな事を言われても出て来ないというか……

皆が腕組みして悩むなか……

 

「あ」

 

と声を上げたのはマリナだった。

彼女はニヒヒと悪戯っぽく笑うと、さながら元気な生徒のように手を高々と挙げる。

 

「はーい! さんぼーちょー! 質問がありまーす!」

 

「はいマリナ君、早かった! なにかな?」

 

「さっきトリヤマ補佐官が、昔はソガ参謀長と最強タッグを組んで、じゃんじゃんばりばり活躍したって仰ってました! その時の事をもっと詳しく聞きたいでーす!」

「あっ……!」

 

どこからか、明らかに焦った声が聞こえた。

 

すると、隣のジョージも彼女の意図を理解したようで、ニヤリと意地悪い笑みを深めては、さも「興味津々です」と言わんばかりの口調でそれに続く。

 

「そういえば、凄まじい強敵ロボットも、自分がいたから倒せたって言ってたな……えっと、クレ……」

「クレージーゴンですね」

 

「そうそれ! なんでも車で勇敢に突撃したらしいじゃないか! いやぁ~オレも聞きてぇなぁ~」

「ちょ、ちょっと……!」

 

「車と言えば、体を張って宇宙人のオープンカーを止めるなんて、なかなか出来ないわよね~」

「き、君たち、そこらへんにしないか? 今はねぇ、ソガさんの貴重なお話をだねぇ……」

 

隊員達の口から先ほどの武勇伝が語られる度に、みるみる蒼ざめていく誰かさんの顔。

 

冷や汗を滝のように流しながら、しどろもどろで必死に話を逸らそうとする補佐官に、後ろで見ているリュウ達も吹き出すのを堪えるので精一杯であった。

 

……まあ、ちょっとした意趣返しである。

普段から皮肉いっぱいのお小言だの、嘘まみれの自慢話だのの数々にウンザリしていた彼女らは、この機会にほんのちょっぴりお灸を据えて貰おうという魂胆なのだ。

 

なによりこの短時間で、この参謀長とやらの人柄もなんとなくではあるが伝わってきたものがある。

 

いくら補佐官が、自らの捏造された過去を散々フかしまわっていたとバレたところで、この人ならそうそう酷い事はしないだろ……という、ソガに対するちょっとした信頼感くらいは、クルー達の間にもすっかり醸成されていた。

 

「自分のおかげで今の平和があるようなもんだぞって……」

「ま、待て! わたしゃそこまでは言っとらんぞ!」

「参謀長のお願いひとつで命をかけられるとは、見上げた根性だぜ……!」

 

「なにっ! それは本当か!?」

「ひっ! ソガさん、これはその……あの……ひぃい」

 

制帽の下からじろりと睨まれて、蛙のように固まるトリヤマ補佐官。

若干可哀想な気がしなくもないが、これに懲りて今度からは大声でホラ吹き武勇伝を吹聴しないようになってくれれば……

 

だが次の瞬間、詰め寄る参謀長の口元が、ニンマリと吊り上がる。

 

「なんだ! ()()()()()()()()言ってないのか!」

 

「……ほへ?」

「ん……?」

 

なんだか雲行きが怪しいぞ。

 

「全く、お前は相変わらず謙虚な奴だなぁ……みんな、トリピーの話は控え目だから退屈だっただろう。こいつ恥ずかしがり屋で、自分の功績をいっつも過小評価しがちなんだよなあ!」

 

「控え目……? あれで……?」

「補佐官が……恥ずかしがり屋? 目立ちたがり屋の間違いではなく?」

 

「あれだろ? オープンカーって、私が入って来た時に話してたあれだな? あー、懐かしいなぁ、あれはよく覚えてるぞ~」

「え、あれって本当の話なんですか? ソガ隊員たっての頼みで共同作戦をって話……」

「勿論だ! ところどころトリピーの脚色が入ってるけどな」

「なんだあ……やっぱり!」

「いくらなんでも道に地雷はやりすぎですよね!」

「ん? 何言ってるんだ? そこは本当だぞ」

「……はぁ!?」

 

しょうがねぇなあ……と呟きながら、咳払いをひとつ。

 

「宇宙人の女スパイを追うオレ達! しかし敵のオープンカーは違法改造がしてあって、毒ガス煙幕が搭載されているのだ! たちまち道を見失い、崖から落ちかけるポインター!」

 

「ど、毒ガス……!?」

 

「それだけじゃないぞ! 後部にはガトリング砲が搭載されていて、バリバリと撃ちかけてくる!」

 

「ガトリング!? そんなのくらったらやられちまう!」

「あの、オープンカーにしては重武装すぎません?」

 

「宇宙人の車なんだからこれくらい日常茶飯事だぞ。まあ安心しろ、ポインターには光波バリアが搭載されているからな。その程度でやられたりはせん」

 

「気軽に車からガトリングぶっ放す方もだけど、それに耐える方も大概ね……」

 

「しかし、このままでは逃げられてしまう! だが、私はちっとも慌てなかった。なぜなら、はじめからこうなる事を見越して、敵の通る可能性が最も高い最も危険な地点に、最も頼りになる最強の右腕をあらかじめ配置してあったからだ!」

 

「それってまさか……」

 

「オレは通信機に叫んだ。『トリピー、お前だけが頼りだ。なんとしても奴を止めろ!』と。すると関所で待ち構えていたトリピーは、すぐさまバズーカを担ぎだし、敵の前へ躍り出て、向かってくる車にまんじりともせず狙いをつけると、冷静に引き金を引いた! バシューウ……ドカーン!」

 

「エーッ!? バズーカ!?」

「凄い! 流石は補佐官!」

「アンタ、昔は結構カゲキだったんだな」

「……え、え?」

「……ん? アレ、地雷は?」

 

「チッチッチ、これで終わりじゃない! 爆発の瞬間、煙を引き裂いて飛び出す細身の影! オレたちの眼前に、赤いマフラーをなびかせて生身の人間がすたりと降り立った! なんと無傷! そんな馬鹿な、直撃のはずだ! ええい、宇宙人の女は化け物か! それもそのはず、なんと敵の正体はサロメ星人の潜入用アンドロイドだったのである!」

 

「サロメ星人!? それってまさか!」

「……ありました! ドキュメントUGに記録発見! 侵略宇宙人サロメ星人と……」

「アンドロイドゼロシリーズ! 確かに、そのうち何体かはウルトラ警備隊によって撃破されたと読んだ覚えがあります。うっわ、補佐官が宇宙人の女としか言わないから気付かなかった……」

「え!? ……ってことは、さっきの話って本当だったの!?」

「おいおい、マジかよ……」

 

「脱兎の如く逃げる女を追いかけるオレ。しかし、それは巧妙な罠だった! 実はアンドロイドには加速装置が仕込んであって、肉眼では捉えられない速度で動くスピード特化型だったんだ。おまけに、特殊エックス線による透視が可能なスローモーションカメラと、超高周波集音マイクで、こちらの動きなんか全てが手に取るように分かるときた。見てから回避余裕でしたと言わんばかりに、オレの周囲を岩から岩へ!」

 

「つまりジョージの目と、マリナの耳を持つロボットが、ガンウィンガー並の速度で走り回るって事かよ。そんなの勝てるわけねぇ!」

 

「その通り。いくらこの百戦錬磨であるソガ隊員でも、そんな常識外れな相手に敵うはずもなし。ついに岩陰から敵のレーザー光線が! 危うし私!」

 

「危ないソガ隊員! 避けてください!」

 

「まさに! 今のその声と全く同じ叫びが聞こえたかと思うと、次の瞬間、私は潮溜まりの中に突っ込んでいた。後ろから追い付いてきたトリピーが間一髪、私を押し倒して救ってくれたんだ。『大丈夫ですか、ソガ隊員!』『でもよトリピー、お前……尻が!』『なぁに、これくらい掠り傷ですよ』つまり、彼は私の命の恩人なのさ」

 

「おお……!」

「やるじゃん補佐官……」

「へ? へ?」

 

「そこで奮起した我々は、退散すると見せかけて、あらかじめ仕掛けてあった地雷原へと走った! すると、先回りしようと思ったアンドロイドは地雷を踏んで大爆発!」

 

「そうか! こっちの攻撃動作が読まれるなら、逆にその優位性を逆手に取ればいいんだ! そう考えると、トラップを利用した時間差攻撃は有効な戦術です」

「確かにオレ達も、地雷には気付けないよな」

「気をつけよっと……」

「それにしても補佐官! そんな凄え活躍してたんなら最初からそう言ってくれよな!」

 

「トリピーは、お尻にこの時の傷が未だに残ってるから、恥ずかしがって言わんのさ。な? 謙虚だろ?」

 

「……そ、そうでした……っけ……?」

 

「おいおい、一緒に潮溜まりに落ちたのを、もう忘れたのか?」

 

「……あー、そういえばそんな記憶があるような……ないような……」

 

「ま、救われた方が覚えてても、救った方は忘れてるなんてよくある事だぁな!」

 

「そうかも……」

 

先ほどのミライのような困惑ぶりを見せ、なんとか記憶を掘り起こそうと必死に頭を捻る補佐官。

 

「え、じゃあクレージーゴンは?」

 

「ああ! 奴も恐るべき敵だった。全身総ペダニウムの化け蟹で、生半可な攻撃どころか、ウルトラセブンの超兵器も全て堅牢な装甲で弾いてしまうんだ」

 

「そんな奴、どうやって攻略したんだ? セニョール」

 

「いくら皮膚が硬くても、口の中まで硬いとは限らない。つまり、内部攻撃さ!」

 

「か、体の中から!? まるで一寸法師みたい……」

 

「だが残念ながら、それまでの戦いでオレたちに残された武器はウルトラガンとマグマライザーだけ……そんな時だ! キキーッ! 聞き慣れたブレーキ音に振り返るとポインターのハンドルを握るトリピーの姿!」

 

「出ました補佐官!」

 

「クレージーゴンは車を食う。つまりポインターで目の前に行けば、オレたちを食べようと口を開くはず。そこへマグマライザーを突っ込ませようという作戦さ! ドリルを相手の腹部にシュート!」

 

「食べられちゃうから無理なんじゃなくて、むしろわざと食べられに行った……ってことですか!?」

「ホントに車で突撃したのか……」

「……まじかよ、よく生還できたな補佐官。鈍臭さそうなのに」

「ど、どんくさいだって……っ!?」

 

「いや、トリピーは来なかったよ。彼にはもっと大事な役目があったからね」

「大事な……役目?」

 

ソガが大きく頷く。

 

「オレたちの後ろには病院があったんだ。そこではある少年が心臓手術の真っ最中でね。中断すればもちろん死んでしまう。怪獣がすぐそこまで来ているのに、そのまま続行してくれたあの名医には頭が上がらんよ。そして他の重症患者達も含めて、とても逃げられない」

 

「そんな……」

 

「だから、トリピーは病院に残った。オレたちが失敗しても、彼が最期の砦として彼らを守ってくれると信じたからこそ、命がけの突撃が出来たんだ。さっきコノミ君に言った台詞もね、この時にマグマライザーを運転していた先輩が言ってくれたんだよ。倒せなくても、せめて手術が終わるまで時間を稼げればトリピーが彼らを逃がしてくれる……価値はあるだろ?」

 

「誰かが自分の持ち場を一生懸命……」

「病院を守るために……たいした漢達だぜ! アミーゴ!」

「へ? あ、ああ……うむ」

 

「この時の経験を活かして、トリピーが改善してくれたのが、都市部避難経路の整理や地下の緊急シェルターさ。今じゃ市民の避難も比較的スムーズだが、昔はてんやわんやだったからね。……な? トリピー?」

 

「はい! あれは大変でした……思い出したくない……」

 

「え? 補佐官そんな事してたの?」

「そういや、やたら俺たちの戦いにケチつけると思ってたけど……」

「二言目には街の被害ガー! 市民ガー! だったな」

 

「怪獣広場の導入も、トリピーを中心とした対策グループが提案したんだぜ。こいつは、それらの被害軽減に関する施策が評価されて、今の地位にいるってわけ。単なるドジのおっちょこちょいがなれるほど、ガイズジャパン総監補佐の座は低くないよ」

 

「む、むふふ……それほどでもありますがねぇ……ん、ドジのおっちょこちょい……?」

 

ちょっと引っかかる部分が無きにしもあらずだが、褒められて満更でもなさそうなトリヤマ補佐官。

 

そこへ、コノミがおずおずと手を挙げた。

 

「あの……ごめんなさい、参謀長。怪獣広場って、なんですか? 私、知らなくって……」

 

「ああ! スマンスマン。怪獣広場ってのは現場での俗称でな……まあ正式な名前は無いんだが……オペレーターなら分かるか。怪獣出現時の誘導区画ってあるだろ? 郊外のだだっ広い空き地とか、ビル街のど真ん中が急に拓けてたりとか……みんなも見たことないか?」

 

「あ! あります!」

「そういやぁ、いつもの丘から街を見下ろした時に、なんであそこだけあんなに平らなんだろ……って思った事あるな」

「僕の大学も、正門までの道が妙に広くて長いんですよね、歩道なのに。……もしかして?」

 

「そういう場所って、データベースにいくつか登録がしてあると思うんだけども」

「そうなのか? コノミ」

 

「うん。出現場所から一番近い所を検索して、皆さんに伝えるのが私のお仕事なんです」

「あー、ポイントKなんちゃらとか……あれか」

「確かにコノミちゃんの指示に従って行ったら、怪獣いるのって、だいたい工事現場とかよね」

 

「それそれ、それが怪獣広場。ドンパチやってもあんまり壊れるようなもんが無くて、遠慮なくミサイルぶち込める空間に怪獣を誘導して……いわゆる殺し間ってやつな。それをあらかじめ都市計画に組み込もうぜって言い出したのが、こいつ」

 

「ええっ!? あれって補佐官が考えたんですか!?」

 

「へ? あ、ああ……そうだが? あのきまぐれロボットが不時着した時、ビルを丸々1棟踏み潰しおってな……おまけにそれでバランスを崩して転がったものだから、たくさんの死傷者が出たんだ。その跡地を見て、私は思った。もしもここがあらかじめ更地であったなら……と。それで閃いたんだ。怪獣も最初に出て来るなら、わざわざ狭っ苦しいところじゃなくて、もっと着地や穴掘りのしやすい広い場所を選びたがるんじゃないかとね」

 

隊員達は、これまでに戦った地底怪獣や宇宙怪獣、あるいは空間転移を用いる超獣に至るまで、各々が覚えている限りの激闘を頭に思い浮かべた。

 

すると確かに、その後の侵攻ルートはともかく、最初の出現ポイントだけは山間部や開発中の造成地といった比較的拓けた場所に集中していたのだと気付く。

 

「あのロボットは狂っとったからそういう判断が出来なかっただけで、逆を言えば正常な判断力のある存在なら心理的に誘導を……って……ど、どうしたんだね君たち? そんなにわしを見つめて!?」

 

「補佐官って……もしかして凄い人?」

「まあ、少なくとも準備段階だけなら間違いなく優秀なかたですよ。ザムシャーが壊したシルバーシャークGもすぐに手配してくれましたし。まさか有言実行するとは思いませんでしたけど」

「……正直、思った以上に真面目な仕事してたんだなって驚いてるぜ、オレは」

 

ジョージの呟きに、しきりに頷いて同意を示す若者たち。

 

「怪獣広場を繋ぐ道路も、なるべく太く頑丈に作ってあるんだ。戦車が通っても大丈夫なようにな。いざというときは、戦闘機の着陸用滑走路にもなる。テッペイ君の大学前も多分、そうした道の一本じゃないか?」

 

「なるほど……」

 

「確かにああいう場所がたくさんあると戦闘中も動き易いですよね! 僕も戦う時はなるべく広い場所を選ぶようにしています。そうすれば、ビルを盾にしてしまう事もないですし……」

 

「選ぶ……? ああ、さっきの補助活動の話か。でもねミライ君。僕らはむしろビルに身を隠しながら射撃した方が、怪獣から狙われ難くて安全なはずだけど?」

 

「え? ……あっ……今のは……その、怪獣やメビウスが、という意味です!」

 

「ああ、そっか。確かにビル街の中心で怪獣とメビウスが戦っていれば、僕らは建造物を隠れ蓑にそれを包囲しつつ、こちらからは射線を遮られずに四方八方から好きなタイミングで援護が出来る……! 確かに、対怪獣戦でウルトラマンが介入してくる可能性が非常に高い事を考慮すれば、まさに理想的な設計だ!」

 

ミライの抽象的な意見を皆に向けて説明しつつ、頭の中で素早くその情景を思い描いたテッペイは、怪獣広場の設計思想に隠された、さらなる合理的な意図に気付いてしきりに感心した。

 

「ま、現場をよく知りもせんような連中に、『怪獣が暴れ回るよりも、ウルトラマンが戦う事による二次被害の方が大きい』……なんぞ言われちゃ、こっちとしては腹立たしいことこの上無いからなあ。気にしぃな彼らの足を引っ張らんように、恩返しも兼ねて……という意図もあるんだよな? トリピー?」

 

「へ? まあ……そうとも言えますが、なにより一番は……」

 

「そうなんですか!? ありがとうございます! 補佐官!」

 

「ん? なーんでミライ君がそんなに嬉しそうにするんだね? それじゃあまるで、自分がいつもウルトラマンとして戦っているみたいじゃないか! ははは!」

 

「ええっ!? い、いや……」

 

補佐官の、あまりにも見当外れで、万に一つも有り得ない物言いに、流石のミライも怯んでしまったようだ。

 

「今のはな、トリピー。お前さんが、守られる側だけじゃなくて、守る側として戦う隊員やウルトラマン……怪獣災害に関わるみんなの事を考えているんだなーって分かったから、そこに感激してたんだよ。……な! ミライ君!」

 

「……そうです!」

 

「ほう、そうかそうか! 君は純粋だねぇー。なんなら、もっと褒めてくれて構わんのだぞ?」

 

「凄いです補佐官!」

 

「……いやあ、私はこういう地味な部分には気が回らんものだから、トリピーみたいな気配り上手がいて助かったよ!」

 

柔やかに後輩の肩を叩くソガ。

すると、途端に補佐官はまなじりを吊り上げて、全ての元凶を睨みつけた。

 

「そうでもしておかないと、貴方が次から次へとなんでもかんでも壊してしまうからでしょうが! マグマライザーの掘り抜いた上下水道やらガスパイプやらの修理がどれだけ……怪獣広場だってねぇ! もとはと言えば、頑張って直しても、どうせ次の日には怪獣かソガさんに壊されてるからって、現場が優先順位の低い場所を放っておいたのがたまたま功を奏したようなもんであって……! 逆にわたしからすれば、どうして貴方が未だにその地位にいられるのか不思議なくらいですよっ!」

 

「おおぅ、なかなか言うようになったじゃねえかトリピー。貫禄がついたって奴だな! ……そして……大変ごもっともです。申し開きの次第もございません……!」

 

「なーにが、『コラテラル、コラテラル。ハハハ』ですか! そりゃあ人の命はお金で買えない大事なものですとも! だからと言って、他の全てがタダになるわけではないでしょーが! だいたいねぇ! ソガさんはやる事なす事ぜーんぶが荒っぽ過ぎるんですよ! 最新兵器は渡した傍からすぐぶっ壊すわ、街中で平気な顔してビルごと敵を爆破するわ……この火力主義者め! 市民の生活というものをもう少し考えて頂きたい! 戦車は怪獣サイズのトンカチじゃないし、地下鉄はロボット用の落とし穴じゃないし! 乗用車はちょっと大きな手榴弾ではないんですよッー!?」

 

「ハイ……ハイ。その節は大変申し訳ありませんでした……ッ!」

 

先ほどとはガラッと立場が逆転し、普段通りの……否、普段以上の剣幕で唾を飛ばす補佐官に、ペコペコと頭を下げるしかない参謀長。

 

「……もしかして、補佐官がアタシ達の戦闘にやたら口を挟んで来るのって……」

「ソガさんの後始末がトラウマだからなんじゃ……」

 

いつも現場で矢面に立っている隊員達からしてみれば、必死に戦っている最中に周囲の事まで気を配っている余裕などない……という実情に、なまじ共感出来てしまう分、内心ではソガに味方したい。

 

しかし、叱られる当事者ではなくなった状態で、改めて補佐官の言い分を聞けば、そちらも充分に道理の通った主張であったと理解できた。

 

人の振り見て我が振り直せ。

次からはもう少し頑張ってみるか……と思い直す隊員達であった。

 

改善できるとは言ってない。

 

「車を爆弾……? ……どっかで聞……あ」

「どうした、リュウ?」

 

「ほらよ、俺たちのメカって戦闘機ばっかりで、地上戦力なんて、強いて挙げるならガンスピーダーとバイクくらいだろ?」

 

「言われてみればそうだな。ガンスピーダーなんて緊急時くらいしか公道走れねぇから不便だよな」

 

「だからアライソのオッサンに聞いたんだよ。なんで俺たちにゃ先輩方みてえなカッコイイ専用車とか作ってくんねぇんだよって……そしたら……」

「そしたら?」

 

「昔、自分が見習い時代に任されてた車両を、ことごとく質量兵器や時限爆弾に使いやがった奴がいるから、俺の目が黒いうちは絶対に専用車なんか作らせねえ……戦車なんか、もっての他だ……って怒鳴られてよ」

 

「それって……もしかしなくても、セニョールの事じゃねぇか?」

「……だよな」

 

二人は、補佐官を宥めようと失敗して、逆にヒートアップした後輩からヘッドロックを食らうソガ、そしてそれを止めようと右往左往するミライ達を横目でちらりと流し見る。

 

「……おやっさんには、基地に来てたって事、黙っとこうぜ」

「だな……俺たちもあんま人のこと言えねえし」

「これも……武士の情けって奴か。あー、セニョール! ギエロン星獣って奴の話が聞きてーなー! それも補佐官が活躍したんだろー!」

 

「ギブギブ……ん、そうか、君たちギエロン星獣の事を知ってるのか!」

 

ジョージが助け船として声をかけてやると、ソガは心底驚いたように目を見開いた。

 

「ああ、補佐官とサコミズ隊長から聞いたぜ。いろいろあった……ってな」

 

「そうだな……」

 

「そういえば、気になったんですが補佐官の話が本当なら、ご本人も大量の放射性物質を浴びたはずですけど、お身体の方は大丈夫なんでしょうか?」

 

テッペイが、実に医者の卵らしい懸念を口にした。

先ほどまでは、補佐官の話など9割デタラメだと思っていたが、これまでのソガ参謀長の証言も加味すれば、こちらも真実なのではないか……といまさら心配になってきたのだ。

 

確かにトリヤマ補佐官は、上官としてはちょっと困った人ではあるが、これまで一緒にやってきた仲間には違いなく、病に苦しむ姿など絶対に見たく無い。

もしも治療が必要ならば早期に入院すべきだし、なんなら自分の父に頼み込んで、彼が院長を務める実家の病院を勧めるつもりであった。

 

「そっちは大丈夫だ。あの時、トリピーは後詰めの部隊だったから、ギエロンが放射能を吐くって情報が周知されてたんだ。流石にあの時代でも、防護服をガチガチに着込んでいれば無事だよ。問題は、なんの前情報も無いまま、目の前でいきなり怪獣に復活された先遣隊の方でな……」

 

「そうか、何度も蘇る不死身の化け物って……」

 

「オレも、怪獣の肉片を回収しに部隊が派遣されるなんて知らなかったから、なんの警告も出来ずに後悔したよ……トリピーが同期を助けに行った話、聞いたか?」

 

「え……?」

 

「はい! 先ほどおっしゃってました!」

 

ほとんどの隊員達は、サコミズ隊長の解説へ耳を傾けていたので、そのくだりは聞き流していた。

彼の話を最初から最後までしっかり覚えていたのはミライだけである。

 

「こいつはな……今言った通り、もともと後方の部隊にいたから、怪獣の能力が分かった時にそのまま後退する事も出来たんだ。でも先遣隊の事を聞くと、真っ先に防護服を着込んで彼らを助けに行ったのさ……まだ黄色い放射能の灰が、視界もきかない程に充満する空間にだぞ? いくら防護服を着てたって、足止め部隊の流れ弾や、怪獣の蹴飛ばした石が飛んできたら普通に穴が開いちまう。それがどれだけ勇気のいる事か……今の君らになら、言わなくても充分に伝わるだろ?」

 

「補佐官……!」

 

「へ?」

 

「見上げた漢だぜ! アンタ!」

「ちょっと……いや、だいぶ見直したわ!」

「感動しました……!」

「やっぱり補佐官も、誰かの為にすぐ動ける人だったんですね!」

「へ? へ?」

 

「そうとも! 爆撃で燃え盛る基地の中、自分も死にそうになりながら、当時は鬼と恐れられた突撃隊長に『救助が済むまで隔壁なんか閉めるな!』って一喝した話する? 昔から、人を助ける時には頼りになる奴だったよ。ま、人間には向き不向きってのがあるからね。戦いで活躍するだけが防衛隊じゃないさ。あの時コイツが助けた同期の息子な? あの後ぐんぐん参謀まで出世して、今じゃ養成所の校長やってるよ」

 

「……え? 補佐官の同期って……カジ校長の親父さんなのかっ!?」

 

急に知り合いと知り合いが繋がり仰天するリュウ。

 

「あ、リュウ君は訓練生だったから知ってるか。そうそう、アイツだよ」

 

「でも校長はそんな話……いや、待てよ? なんか別のことでチラッと言ってたような……計画がどうとかで……」

 

必死に頭を捻って記憶を取りだそうとするが、なかなかうまくいかない様子のリュウに代わり、テッペイが溜息まじりにキーワードを口にする。

 

「訓練学校のカジ校長って、確かモデュレイトの参謀もされてましたよね? ということは、フレンドシップ計画の事じゃないですか? けっこう有名な人ですよ」

 

「それだ!」

 

「フレンドシップ計画……ですか?」

 

「名前の通り、外宇宙に対する友好姿勢を全面的に押し出そうという計画さ。地球はこれまで侵略者の脅威に晒され続けてきたけど、そうじゃない宇宙人もいた。メビウスをはじめとするウルトラマン……つまりM78星雲人がまさに筆頭だね。そういう友好的な関係を築ける惑星にコンタクトをとって連携を密にする事で、銀河連邦への正式加盟を目指そうってわけ」

 

「あれ……地球ってもう銀河連邦なんじゃなかったっけ?」

 

「マリナさん……さては雑誌を見出しで流し読みしかしてませんね? あくまで政府から発表があったのは勧告があったと言うだけで、批准したかどうかまでは明言されていません。当然、正式に地球が加盟したなら大々的に発表するでしょうから、おおかた断られたんじゃないかと言うのが、一般的な見方ですよ」

 

「……なーんだ。道理で街中に宇宙人がいないわけだ」

 

「待てよ、一番詳しそうな人がいるじゃねぇか。そこんとこどうなんすか、参謀長」

 

ハッと気付いたリュウが、鋭く切り込むも……ソガは曖昧な表情を浮かべるだけ。

 

「んー……ノーコメントで。ただひとつ言えるのは……さっきのウラシマ効果の話をちょーっと思い出して欲しいんだよなー……」

 

「地球と他の星で時間の流れが違う……って、アレか?」

「それがこの話とどう関係が……」

 

みんなが眉間にシワを寄せるなか、おずおずと自信なさげに小さく手が挙がる。

 

「あの……もしかしてなんですけど……その、会議? みたいなのって、すごく時間の流れが遅い星でやってるんじゃ……?」

 

「……え。そんな事ある?」

 

「な、なわけないですよね! そんなのおかしいですもんね!」

 

「オホン!」

 

わざとらしい咳払いに振り向けば、サコミズ隊長が無言でコーヒーを飲みながら、どこかを指差している。

 

その先には……明後日の方を向きながら口笛を吹くソガの姿。

 

「……って、マジなのかよっ!?」

 

「さぁてねぇ? これはそれとまったくちーっとも関係ない豆知識だが……少なくとも、君らの大好きなウルトラマン達。あれで一万歳とかザラだからね? なんなら宇宙には、彼らの他にも何億歳とかの種族が山ほどいるからね? そんな奴らの集まりだぜ、銀河連邦。我々地球人の尺度で測るのが、土台無理な話なのさ」

 

「メンティーラ……! 信じらんねぇ」

 

「スケールでかすぎて笑っちまうな。てことは、俺達が生きてる間に結論出るかもわかんねーってことかよ。……そうか、だからカジ校長あんなこと……」

 

「ほぉう……それ、かなり興味あるな。彼は一時期、私の秘書官だったが、それはそれは生意気な若造だったからさ。そんな奴が教え子にどんな話するのか気になるね」

 

リュウの呟きを聞きつけ、ニヤリと笑みを深めながら耳を傾けるソガ。

マリナもマリナでリュウのかつての教官が、GUYSへ入隊する際に自分の背中を押してくれた監督の、従兄弟にあたる人物である事は知っていたので、興味深そうに身を乗り出す。

 

「アンタの先生……なんて言ってたの?」

 

「親父さんを救ってくれた人が、宇宙の広さを教えてくれたんだってよ……その人が言うには、地球が狭いんだってさ。世界が狭いままだったら、君の父は死んでいただろうって……俺にはよく分かんなかったけど、それで校長はその計画をやろうって決意したんだと」

 

「え、なんか哲学っぽい」

 

「へぇ……アイツらしいな。地球は狭い、ね」

 

それを聞いてしみじみと頷くソガに、リュウは内心の驚き……というより、それを通り越した一種の呆れを押し殺し、恐る恐る尋ねた。

 

「……もしかしなくても、参謀長の知り合いなんすか?」

 

「カジ君が、まだ君たちみたいな隊員だった頃、いつも世話になってる主治医を紹介してやったのさ」

 

事も無げにそんな事を言うものだから、流石のリュウも無言のまま引き攣った笑みを浮かべるしかない。

 

マリナと話した時も、まさか二人の恩人が親戚同士だったなんてお互いに驚いたものだが、ここまでくると空恐ろしさすら感じてしまう。

 

「案外、地球ってホントに狭いんだな……」

 

いや、絶対にそういう意味の発言ではなかろう事くらいは分かっているが。

 

「私も宇宙を飛び回る以上、放射線とは無縁でいられなかったしな。見た目が若いのは、なにもウラシマ効果だけが全てじゃないんだよ。アンチエイジングってやつ?」

 

参謀長の、常識外れとも言える若さの秘訣が、こんなところにあったなんて!

アンチエイジングという単語に、女性陣の瞳がきらりと輝き、その詳細を深掘りしようと口を開きかけたが……

 

それ以上の熱意をもって、机に身を乗り出す勢いのテッペイに押し負けた。

 

「えっ!? それはなんて方ですか!? 末期の放射線病を治療できる腕があるなら、さぞかし有名な方ですよね? 僕も名前くらいは絶対に聞いた事あると思います!」

 

「いやー、学会とかそういうの嫌いなタイプだからな。小さな町の開業医って奴だよ」

 

「嘘でしょ!? そのレベルの名医が一介の開業医なんて、そんなの勿体なさすぎる!!」

 

「そう思うのは、君の世界がまだまだ狭いからさ、テッペイ君」

 

納得いかないのか、まだブツクサ言っているテッペイはさておき、ソガは若者たちを見渡す。

 

「カジ君の父親は幸運な一例にすぎない。たまたま彼が私の部下になり、たまたま私がその悩みを解決できる人物を知っていただけだ。現に……放射線病で苦しんでいた彼の同期は、他にも沢山いた。しかし、私は彼らの存在に思い至る事すらなく、長いこと宇宙を飛び回っていたんだ……トリピーがあの時、地上戦に参加していた事を知っていたはずなのに……」

 

今までの朗らかで飄々とした笑顔から一転、彼のはじめて見せる暗い表情に、メンバー達は息を呑む。

 

その時になってようやく、この男は伝説の英雄でも、お伽話のスーパーマンでもない、等身大の人間なのだと理解できたのだ。

 

決して、全てを見通す瞳の持ち主などでは無い、自分達と同じ……

 

その肩に、皮膚の張りを失った手がそっとのせられる。

 

「ソガさん、自分を責めるのはおよしなさい。彼らが苦しんだのは、貴方のせいではない。少なくとも……カジは救われたのだから。本当に彼らの事を思ってくださるのならば、それを誇りに思ってください。もとより一人の人間が、全てを救う事など出来ませんよ」

 

「……ありがとう、トリヤマ」

 

友人たちは、穏やかな瞳でしばし見つめ合った。

 

「さっき、私が言った夢。無くしたい悲しみというのはこういう事だ。あの時の隊員達だけでなく、私は……ギエロン星獣のことも、結局殺してやる事しか出来なかった。だが、少なくともカジ親子だけは救えたというのなら、ほんの少しだけ……あの一件にまつわる悲しみを取り除く事が出来たという事になる。あのような悲劇を繰り返さない事、そして少しでも人々の苦しみを和らげる事が……彼らに対して出来る、せめてもの贖罪だと思う」

 

「参謀長……」

 

「こうして過去のドキュメントを整備して、君たち次世代に残せた事もその一環かな。サコミズさんやミサキさんのような賛同者を得られた事も大きかった……君らガイズの活動には、こういった先人達の思いが詰まっているのだと知って貰いたくて、今日はこうして押しかけてきたわけさ」

 

思わず立ち上がり、神妙な顔でソガの手を握りしめるジョージ。

 

「セニョール……アンタの熱い思い、しっかり受け取ったぜ!」

 

「ありがとうなジョージ。君たちは既に、私達のデータを存分に活用して、予想以上の活躍をしてくれている。私には、それだけで充分だよ。……まあ願わくば、あまり気負いすぎて先走ったりしないようにな。君のハートは時として、エルニーニョみたいに熱すぎる」

 

「言われてんぞ、ジョージ」

 

「うるせぇリュウ! お前も似たようなもんだろが!」

 

「あの、お言葉ですけど参謀長。エルニーニョはスペインじゃなくてペルーですよ」

 

「「そうなのっ!?」」

 

「なんでアンタまで知らないのよジョージ……」

 

しんみりしかけた雰囲気も、ちょっとしたジョーク……? で元の和やかなムードに戻る。

 

「ところで……ソガさんは、どうしてそんなに私達の事まで詳しいんですか?」

 

「ん?」

 

「だって、宇宙のお仕事で忙しくされてるんですよね? 会ったのも今日がはじめてだし……」

「確かに、さっき勲章くれる時も妙に……」

「そういえば、普段のアタシ達をまるで見てきたみたいな……」

 

ギクッと体を硬直させるソガ。

 

「あ、ああ! それはね……簡単な事だよ。なぜなら……」

 

「なぜなら?」

 

「トリピーの報告書に、君らの活躍がこれまでぜーんぶ書いてあったからさ!」

 

「「ええっ!?」」

「えっ!?」

 

ソガの言葉に、隊員達は驚いた。

ついでに、補佐官もそれと同じくらい驚いていた。

 

「え、え? ソガさん……? 私の報告書、ちゃんと読んで下さっていたんですか?」

 

「当たり前じゃないか! 可愛い後輩に、可愛い部下が出来たんだ。穴が開くほど目を通すのが、先輩の務めってやつだろ? お前がガイズクルーを心から大切に思っているなんて、あの報告書を読めば誰にだって分かることだ」

 

「そうだったんですか!?」

 

「ああそうとも! 諸君らの戦果を余すことなく繊細に、かつダイナミックに! 読んでいるだけで、当時の情景が手に取るように分かるほどだよ。文章の端々から、君らを誇りに思うトリピーの気持ちが溢れんばかりに伝わってくる素晴らしい報告書だった! そもそも私がウルトラ勲章を用意しようと思ったのも、もとはと言えば彼が『日頃頑張っている彼らに何か報いてやれないものか』と、その忸怩たる思いを綴っていたからなんだなぁ……これが」

 

「へ? 私そんなこと書きましたっけ……?」

 

「マケット怪獣の導入を早めるように陳情書提出してきたのもお前だろ?」

 

「それは……確かに書きました」

 

「ほらぁ~! あれも隊員達に危険が及ばないように……っていう、お前なりの気遣いって奴だろ? 隠しても、付き合いの長い俺には分かっちゃうよ~そういうの~恥ずかしがり屋め~~!」

 

「え、いや私は!」

 

補佐官は、急に浴びせかけられた言葉に目を白黒させ、すっかりソガのペースに吞まれてしまう。

そこへ……

 

「補佐官っ!」

 

「へぇあっ!? な、何だね……!?」

 

急に呼ばれて振り向くと、いつの間にか自分を取り囲んでいた隊員達が、ズズイと近寄ってくる。

彼らの目力に狼狽えるトリヤマ。

 

「……驚いたぜ! まさかあんたが、そんなにも俺達の事を見ててくれたなんてよ!!」

「……へ?」

 

「てっきり、自分の評価に繋がる事しか興味ねえのかと思ってたぜ!」

「……ん?」

 

「ほんと……現場に出た事も無いくせに、言うことばっかりは大きい、口先だけの人かと勘違いしてました! ごめんなさい!」

「口先だけ……?」

 

「オレもだ。今までは、ホデール(足手纏い)な奴だなんて思ってて悪かったな。病気の少年を救うなんて、アンタは間違いなく真の漢さ! エクセレンテ!」

「ホデールってなに……?」

 

「補佐官! 貴方はケチで、臆病で、器の小さな人間ですが……私は! 貴方のような方にお仕えできて光栄です! このマル、一生お側についていきますからね!」

「マル!」

「はい!」

「お前はあとでお説教だ」

「……ッ!?」

 

石像のように固まるマル秘書官だったが、彼を押し退けて突撃してきた青年が、トリヤマの両手をがっしり掴んで離さない。

 

「ううう……ぼざがん゙……!!」

「うわっ! ミライ君!? どうしたんだね!?」

 

それは、感激のあまり目から洪水のように涙を流すヒビノ・ミライであった。

 

「ぼぐは……感動しましたっ! なんて良い人なんだろう! 貴方に会えて良かった!」

「おお、こいつぁすげぇ……ホントに滝みたいに涙出るんだなぁ……」

 

それは擬態としてどうなんだ? というソガの小さな呟きも、ヒートアップした若者たちの耳には届かず、ただミライの輝く涙に流されていった。

 

「ぼく、補佐官の誇りに相応しい、立派な隊員にきっとなってみせますからね!」

「へ?」

「僕も!」

「私も!」

「へ? ……へ?」

「補佐官!」

「トリヤマ補佐官!」

「トリピー補佐官!」

「トリピー!」

「へ? へ? へ……?」

 

困惑のまま、隊員達に四方八方から囲まれ、キラキラとした尊敬と好意の眼差しを受けた補佐官は……

 

「う……うんむ! しっかり励みたまえ!」

「「G.I.G!」」

 

トリヤマ・ジュウキチという男は、とかく流されやすいタイプであった。

人からの賞賛に弱いとも言う。

 

「えー、では。君たちがそこまで言うならば仕方ない。ご期待にお応えして私からも激励の……」

 

これでもかと持ち上げられて、なんだか気持ちよくなってきたトリヤマ補佐官が、いつものように調子に乗り始めた……その時。

 

ディレクションルームに警報が鳴り響く。

 

「な、なんだ!? 人がせっかく……」

「これは……! 高エネルギー分子ミストの放出反応!」

「高エネルギー……分子ミスト……?」

「それってリムの……」

 

マケット怪獣の生成に使用されるマケット分子。

それは粒子加速器からたびたび余剰分が放出され、リムエレキングの姿としてディレクションルームに現れては、隊員達をマスコットのように和ませていた。

 

ただ、最近は姿を見かけなかったが……

 

「ええ。なぜリムが赤い幽霊に変わってしまったのか、その理由が気になったので、次に分子ミストの放出が行われたら場所が分かるように設定しておいたんです」

 

「赤い幽霊……例のアレか」

 

最近、基地の周辺では赤い幽霊の目撃情報が多発しており、調査の結果それは、リムが何らかの理由で姿を変じたものではないかと予想されていた。

 

「場所は……基地の地下駐車場!?」

 

「カメラの映像、出ます!」

 

監視カメラに映し出されたのは……

 

「あ! 昨日見た、てるてる坊主のお化けじゃないか!?」

 

補佐官も昨夜の帰り道で、この幽霊に散々おどかされていたのである。

 

「誰か追われてないか?」

 

「あれって……」

 

赤い影から逃げるように駐車場の地面を転がる男二人。

その片割れは……

 

「セザキ君!?」

 

コノミと午後に面会する予定の、幼なじみであった。

 





メビナビ!

トリヤマ隊員は、1968年に登場した、地球防衛軍の一人。1999年に再登場した時は、補給班のチーフとして、何度かソガ参謀を手助けした事もある。必殺技は、土下座外交と泣き落としだ!

気になる?

  • 8番目
  • 保安官
  • 補佐官
  • 星雲荘
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