転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
7月10日はウルトラマンの日!
「……うむ、分かった。では、長官方の挨拶が終わり次第、こちらへ皆様をお連れしろ。大事なお客様だ。慎重に頼むぞ、二人とも」
俺達は今、作戦室に勢揃いしながら直立不動で並んでいる。
モニターからダンとアンヌの顔が消えると、くるりとコチラを振り向き、いつも以上に厳格な顔で俺達に視線をよこすキリヤマ隊長。
「たった今、客人が無事にスペースポートへ到着されたと連絡が入った。ホーク3号と同程度の中型艇が1隻に、おそらく護衛と思われる小型艇が5機の中規模編成との事だ」
「3号と同サイズですって? たしか他に母艦は無いという話でしたよね? それに小型艇というのはやはり……例の?」
「ああ、彼らの言うスペースポニーだろう。ダンの話では以前見たものよりは大型らしいが……それでもエスコート役のステーションホークより、さらに小さいらしい。そういえばアマギとフルハシは、破壊する前に実物を見たことがあるのだったか」
「ええ。我々が見た時は、せいぜいがバイク程度でしたよ。たったあれだけの大きさに、大気圏突入能力まで詰め込むとは……とても信じられません。やはり彼らの宇宙船に関する技術力は、我々の知識を大きく上回っているようです」
しきりに頷いて感心するアマギ。
なにせ、我々の誇るウルトラホークも、宇宙に行けるのは大型の1号と2号だけで、小ぶりな3号は完全に大気圏内専用機だ。
で、対するあちらさんは3号どころか、それより遥かに小さい乗用車レベルの乗り物で、大気圏をヒョイヒョイ超えられるときた。
戦闘力とかは抜きにして、単純な移動手段として見た場合、彼らのスペースポニーとやらはまさに破格の性能と言わざるを得ない。
「しかも、単騎駆けでそれだもんなぁ……彼らの母星には、2号でもまだ辿り着けないんだろ? そんな距離をろくな補給も無しにかっ飛ばせるような宇宙船が、街中にゴロゴロしてるってわけだ。たまらねえぜ」
「俺達で言うなら、それこそ盗んだバイクで海越えて、そのまま地球の裏側まで御到着……みたいなモンですからね」
「かあーっ、宇宙ってのは広いねぇ! あのスペースポニーってやつ、1台譲ってくれないもんかな」
「彼らにどうやって帰れってんですか。無理に決まってんでしょ……ま、いずれはそうなったらいいなと思ってますけども」
というかそれが目的というかなんというか。
「とにかく、今回は我々ウルトラ警備隊どころか、地球にとって非常に大切なお客様だ。なにせ、地球外組織からの正式な来訪者というのは、今回が初の事なのだからな。くれぐれも粗相の無いように!」
「何光年も離れたキュラソ星から、こんな田舎の地球くんだりまで、ずいぶんとまあご苦労なこったぜ」
隊長の念押しに、フルハシが肩を竦める。
……そう、今日はなんとキュラソ連邦の刑務官達を、地球へお迎えする事になったのだ!
ほら、この前いたじゃんキュラソ星人の脱獄犯。
あのボコボコにして捕まえたやつ。
……ええ!? 知らない?
あれ、言ってなかったっけ?
キュラソ星人というのは、セブンの第七話である「宇宙囚人303」というお話に出てくる宇宙人だ。
ざっくり説明すると、キュラソ星から逃げてきた凶悪な脱獄囚が、ガソリン飲み散らすわ人は殺しまくるわとやりたい放題やった挙げ句、催眠術で操ったアンヌにウルトラホークを盗ませて、地球からの高飛びを図る……という流れ。
ところがキュラソ星人の盗んだウルトラホークとは、分解整備中のβ号だったので、どれだけ飛んでも大気圏を突破できない――ホーク1号は合体してないと宇宙には行けないのだ――し、このままだと燃料切れでアンヌが道連れにされてしまう。
だったら残りのα号とγ号を空中ドッキングさせて捕まえるぞ!
……みたいな、むちゃくちゃ危険な作戦をぶっつけ本番で成功させてしまうウルトラ警備隊の練度が光るエピソード……なわけだが。
なんとこのキュラソ星人、好物がガソリンのくせに攻撃方法が火炎放射なせいで……突入してきたダンに応戦した瞬間、ただでさえ狭いβ号の中は大炎上。
そのまま腹の中のガソリンに引火し、苦し紛れに巨大化するも、そのまま特に何かあるわけでもなく、あえなく自爆という、なんともお間抜けな最期だった。
なんといってもこのエピソードの凄いところは、今回のダンはキュラソ星人と格闘する時は生身のまま、ただ単に炎上墜落するβ号から飛行して脱出するためだけにデュワッを使い、その後はしれっとダンの姿に戻っているので、番組タイトルのヒーローが、事もあろうに僅か数秒間しか画面上に映らないという異色の構成である。
番組の根幹、一番のウリであるヒーローへの変身を、単なる脱出手段として消費してノルマ達成させるという、ある意味で豪華なんだか慎ましいんだかよく分からない活躍具合が、実にウルトラセブンらしいと思わんかね?
……と、ここまでは原作の話。
じゃあ翻ってこの世界線ではどうなったかと言えば……
別にセブンじゃなくても何とかなるなら、俺達でも頑張ればボコせるよなっていう。
具体的には、数の暴力。
原作だと途中でキュラソ星人が一般家庭に立て籠もる瞬間があるんだが、この時に万全を期す為ほぼ全員で突入したのが災いし、外に残っていたアンヌをポインターごと奪われてしまう。
この時アンヌにも使われた、頭からのよく分からんピカッ……あの発光にはどうやら人間の意識を奪ったり操ったりする効果があるらしく、一発で昏倒させられてしまうのはかなりヤバイ武器だ。
しかし奴が襲いかかるのは大抵、相手が一人の時ばかりで、大人が複数人いる場では巧妙に隠れてやり過ごしていた事から推察するに、そう何度も連続して使えるものではないらしい。
だったら話は簡単。
ダンもアンヌと一緒に後詰めへ残しておきます。
俺も裏口回ったフリして物陰に待機しておきます。
犯人がピカッとやります。
ダンには効きません。
あとは駆け付けた仲間達と、指一本動かなくなるまでショックガンをバカスカ撃ち込んで終了!
あえなく御用というわけだ。
この前言った『原作のシーンには無かったけど、別の場所には存在していたもの』が今回はダンだったというわけ。
これが現状、俺の切れる最強のワイルドカードでもある。
……というかぶっちゃけ、殆どの問題にダンを投入しておけばそれで解決なんだが……この切り札の欠点は、対応すべき問題がデカすぎると、今度は勝手にデュワッとどっかへ消えちまうってトコだな。
なので効果は絶大なのに、ほどよく小さな問題にしか投入出来ないという、非常に扱いの難しい最強カード……それがモロボシ・ダンという男なのだ。まさに牛刀割鶏……フッ、おもしれー奴。
んで、その時捕まえたキュラソ星人は頭と口をぐるぐる巻きにして独房――この世界線ではまだビラ星人の件でセブンに破壊されてないので無事――へブチ込んどいたんだが……
そろそろ奴を閉じ込めておく為に、手間と予算と人員を割き続けるのが厳しくなって来たところなので、このタイミングで向こうから囚人護送に来てくれたのは渡りに船だった。
……というか、キュラソ星から射殺許可まで出ていた犯人を、わざわざ手間暇かけて生け捕りにしたのもこの為だし。
実はこのキュラソ星人。
長いウルトラシリーズでも珍しく、人類に友好的な種族のひとつである。
勘違いされがちなのだが、本編に出て来たのは単なるイチ犯罪者でしかなく、そのせいで悪側のイメージが強いものの、キュラソ星自体は別に地球を侵略しようとかそういう意図は無い……はずだ。
なんせ地球みたいに辺鄙なド田舎へ、ご丁寧にも「すんませんウチの凶悪犯がそっち逃げちゃったんで気つけてください。なんなら出会い頭に処してもおk(意訳)」などと、あちらからすれば恥以外の何者でもない警告文を送ってきたばかりか、最後にはきちんとお礼の電報まで。
この頃の地球が、宇宙社会からどのように見做されていたかなんて、他の宇宙人共の言い草を聞けばすぐに分かることだ……つまり辺境の未開地。
ウルトラシリーズに登場する宇宙人は数いれど、初手から対等にお話しましょうなんて手合いの、いかに少ないことか。
地球人なんて土着の原生生物くらいにしか思っていないだろう侵略者の面々と比べれば、人間扱いしてくれるだけマシなレベルである。
そんな中、人として尊重どころかキチンと惑星国家扱いまでしてくれるなんて、キュラソ連邦はもはや聖人みたいなものだ。
星人じゃなくて聖人ね。キュラソ星人マジぐう聖。
ところがそんなキュラソ星人達が多くの視聴者から勘違いされたままであるのはひとえに、その後ずっと犯罪者以外のキュラソ星人がまったく再登場しないから……という点につきる。
原作七話のラストは、マナベ参謀やキリヤマ隊長が、キュラソ星へ交友関係を持ち掛けるように提案するシーンで終わり、こう締めくくられる……「宇宙の通り魔事件は終わった。その報酬として、キュラソ星と地球の間に素晴らしい友情が生まれる事だろう」……と。
実に希望に満ちたラストだ。感動的ですらある。
……だが、それから音沙汰はいっさい無い。
顔はおろか台詞の中にキュラソの名前ひとつ出て来ない。
何故か……?
向こうにメリットが何一つ無いからである。
まあ当たり前だよね。
辺境のド田舎の、しかも何故か年がら年中ありとあらゆる侵略者から狙われ続けてるような星と、好き好んで外交関係結ぼうなんて物好きはそうそう居ない。
そんなの正真正銘のドM……失礼、M78星雲の心優しきぐう聖人達くらいなものだ。
なので、彼らを一度こちらへお呼びするためのエサとして、囚人303号を生け捕りにする必要があったんですね。
原作ではコイツが死んでしまっていたので、電報一本寄越せばそれで終いに出来たのであろうが……残念ながら身柄を拘束した以上は送還に応じて貰わなくては困る。
なんせ、我々地球は誇りある法治国家なので、いくら異星の死刑囚と言えど人権がありますし? そちらの住人はそちらの法で裁いて頂かないと不平等になってしまうでしょう?
これを、地球では領事裁判権と呼んでおりまして……つまり我々には、あなたがたキュラソ連邦の法、そして連邦警察の面子を尊重する意志がありますよ……と。
ただ、残念ながらこちらから赴く事は技術的に不可能なので、申し訳ありませんがそちらの誰かしかに受け取りに来て頂かないとねぇ!!
というような事をオブラートで加重包装して送りましょうよと提案したのが数ヶ月前のこと……そうして、ノコノコやって来た連絡役を、ずぶずぶのガソリン漬けにして懐柔するのがオレの真の目的なのだ。
我ら日本人お得意の「お・も・て・な・し」を食らえ!
……ただし相手が「なんか例の脱獄犯、野蛮人共に捕まったらしいよ」「マ? 他所で野垂れ死んでくれたらこれ以上追う必要ないじゃん。死刑にする手間省けてラッキー!」という、俺と全く同じ思考ルーチンを有する種族であった場合は何ら効果を発揮しない恐れはあったが。
とはいえ、最初は言葉も通じなかったような星相手に、知らぬ存ぜぬでフル無視決め込んでも良かったところを、わざわざ警告文送って来てる時点でそれなりに分のある賭けだとは思っていたけどね。
まあなんにせよ、オレは今回の賭けに見事勝ったのだ。
嬉しさもひとしおってもんよ。
そうしてこれまでの経緯に思いを馳せていると、作戦室のドアが開き、ダンとアンヌが敬礼している。
「入ります。キユラソ連邦警察の方々をお連れしました!」
「ご苦労」
ビシリと背筋を正して、彼らの背後にいる長身の異形を出迎える我々。
それはどうやら円筒形のヘルメットをしているらしく、顔も俺達のよく知るキュラソ星人のものではない。
縦に細長いのは相変わらずだが、あの犯罪者のように灰色でゴツゴツした質感のものではなく、室内灯を反射してピカピカ輝く白地に、黒のポルカドットがあしらわれた意匠は、明確になんらかの文明的な意図を感じさせるデザインだ。
全体的に茶系で纏められた服装も、マントやケープのような……布か皮? らしきものを幾重にも着込んでいるだけでなく、肩口や裾になにかヒラヒラとした飾りのついた立派なもので、つくづく俺達の捕まえた奴は着の身着のまま逃げてきた脱走犯だったんだな……と実感する。
大柄の異星人は、胸についたデカい星形をキラリと瞬かせつつ、足を肩幅で開いて仁王立ちになったかと思えば、グローブの嵌まった片手を頭の横へ持ち上げて、二三度振るといきなり叫んだ。
『地球防衛署の諸君! お会い出来て光栄だ!!』
……ああこれ、前途多難なやつ……
いきなり意味不明の言語を放り込んできた相手に、敬礼したまま固まる警備隊。
「……ハッ! 我々一同。皆様のお越しを心より歓迎いたします!」
それでも即座に再起動して挨拶を口にするあたり、流石は俺達の隊長だ。
『本官は! キュラソ連邦警察保安局第303騎兵連隊所属……』
『……連隊長、連隊長。 再び翻訳機講がオフになっているかと』
またしてもウォオンと唸るような響きでまくしたて始めたキュラソ星人だったが、その後ろに控えていた副官らしきもう一人のキュラソ星人に何事かを小声で耳打ちされると、傍目から見ても分かるくらい露骨に狼狽えだす。
『ン!? おお、これは失敬! でかしたぞアイオーン。本官の様なロートルには、最近の機械という奴はハイテク過ぎてな……ついていけんよ、まったく。……で、スイッチはどれだ?』
『いい加減覚えてくださいよ……ここです』
『ああこれか! あー、あー……失礼。どうにも翻訳機の調子が悪かったようでしてな。なにぶん突貫の急造品ですから御容赦を』
「おお!」
「大丈夫です、今度はしっかり聞こえますよ!」
腰のあたりを何度か弄り、もう一度こちらへ向き直ったキュラソ星人の口からは、それなりに流暢な日本語が流れてきたので、俺達は胸を撫で下ろす。
一応この数ヶ月間、V3にいるミズノ隊員が頑張って向こうと言語を擦り合わせたとは聞いていた。
そうして出来上がった翻訳機が本番で役に立たないなら、俺達も完全にお手上げだったからどうしようかと思ったぜ……ボディランゲージにも限界があるしな。
『では改めて……地球防衛署の諸君! お会い出来て光栄だ! 本官はキュラソ連邦警察保安局第303騎兵連隊所属特別捜査官! 逮捕された脱獄囚の身柄を貰い受けに来た!』
「特別捜査官殿、ようこそ地球へ! 我々ウルトラ警備隊一同、あなたがたの来訪を心より歓迎いたします!」
『感謝する! 本官からも、我々キュラソ連邦警察を代表して、地球防衛署の働きと配慮に多大な感謝を伝えたい!』
列の一番端に立っていたアマギに近寄って、またしても片手をフリフリやる特別捜査官。
すると彼の発言を聞いたフルハシが、直立不動のまま口だけで呟いた。
「……地球防衛……署?」
それをお得意の聴力で耳聡く聞きつけたダンが、素早くこちらに近付いて捕捉してくれる。
「ああ、それはですねフルハシ隊員。なんでも彼らキユラソでは、治安維持に関する組織は連邦警察がその全てを担っているらしく、地球で言う『軍』に当たる言葉が無いんだそうです。ミズノ隊員がずいぶん苦労したと言っていましたよ」
「え、軍が無い!? そりゃ本当か?」
「ははあ、なるほどね……軍が無いって言うかむしろ、『警察』との区別が無くて、侵略者も犯罪者も一緒くた扱いなのかもしれませんね。とにかく武力が必要な時に軍が駆り出されるというか……軍警察的な?」
「ええ。たまさか最初に彼らの『武力組織』を『警察』として訳してしまったが故だそうで……その上、僕らも今回あの犯罪者を捕まえてしまいましたからね」
「向こうからは、俺達も似たような組織と思われてるわけか」
「まあ、怪事件の度にあちこち引っ張り出されるって点じゃ、やっこさんらとたいして変わんねえわな」
俺達は、やたら上機嫌な特別捜査官に延々と話しかけられて、引き攣った苦笑いを返すしかないアマギを、どこか他人事のように眺めながら納得した。
『この度は、303号を逮捕していただき、本当に助かりました! お恥ずかしながら、よりによって本庁の膝元であるキュラソー刑務所から脱獄を許すとは、連邦警察始まって以来の不祥事でしてな。その上、こちらの不始末の結果、奴が他星の住民まで害したと連絡があった時には我ら一同、思わず顔が黒くなりましたぞ。これで303号の再逮捕も出来ず現地処刑でもされていれば、我が連邦警察は無能の誹りを免れません! 星際社会においてキュラソ連邦の面子は危うく丸潰れとなるところでした!』
「は、はあ……」
『303号の逮捕にはウルトラ
「い、いえ……キリヤマ隊長はあちらで……自分はアマギと申します……」
『……な、なんですと!? ハ、ハハ……これは失敬……えっと……』
「キリヤマは私です。捜査官殿。ご挨拶が遅れて誠に申し訳ない。まさか我々ウルトラ警備隊にそこまで親愛の情を示して頂けるとは思わず……先に紹介すべきでした」
『い、いえ! ハハ……本官も地球の方々とお会いするのは今日が初めてなものですから、緊張しておりまして……ハ、お恥ずかしい……いやはや、その若さで部長とは、さぞや優秀とお見受けします……あの、ヘルメットを脱がせて頂いても?』
「ええもちろん。こちらこそ遠路はるばるお越し頂いた客人に、配慮が至りませんでした。旅装のままでは忍びない」
『ありがたい。なにぶんこれまた視界が悪くてですな……貴官らの顔がよく見えませんで』
そう言って後頭部へと腕をまわし、留め具を外した捜査官の頭からは、プシュウと空気の抜ける音と共に、白い水蒸気が立ち篭める。
そして中から現れたのは……
「あっ!?」
『ほほう、これが地球の匂いか。いささか新鮮でありますな!』
それは、俺達の想像していたキュラソ星人の顔ではなかった。
石灰の如く真っ白い肌、縦に細長い顔の正中線を十字に走る黄色い溝。そしてその溝の中から飛び出したように並ぶ、左右へギョロギョロと忙しなく動く眼球。
その独特の容貌は、この場にいた地球人達にとって、非常に強い既視感を感じさせるものだった。
ヘルメットの下から現れた捜査官の素顔は、キュラソ星人というよりは、むしろ……
「……け、ケムール人!?」
驚きのあまり、フルハシ隊員が素っ頓狂な声を上げる。
まあ、無理も無い。オレだってそう思ったのだから。
配色こそ違えど、その不気味な造形は明らかにアルビノのケムール人か、さもなくばゼットン星人である。
勿論、よくよく見れば細部が違うのだが、ひょろりと長い手足や、頭上から触角のように突き出た発光部も合わせると2メートルにも届きそうな背丈と相まって、全体的なシルエットがケムール人そっくりなのだ。
今は服を着ているので、首から上だけが異形という凄まじい違和感のせいか、怪獣図鑑でよく見るゼットン星人の写真っぽさもある。
『なんだと……?』
ところが、フルハシの叫びを聞いたらしい捜査官は、急にワシャワシャと甲高い音を発しながら、こちらを威嚇するように両手を掲げ、ドスの効いた――もちろん翻訳機越しなので言葉の調子は変わらないハズなのだが、同時にそれを貫通するほどデカい地声の重低音も響いてくるため、先ほどよりどこか迫力があるように聞こえる――声でこちらを睨んでくるではないか。
『本官の聞き間違えだろうか……今、我々の事をケムール人だと言ったか……?』
「え……違うんですか?」
あ、バカ。
『こ、これ程の侮辱は受けたのは初めてだ……! 名誉あるキュラソ警官である本官らを……ケ、ケムール人などと……ッ!?』
捜査官の頭部がバリバリとスパークしたように点滅する。
例の怪光線の予兆だ。
「あ!? こ、コイツぅ……!」
もちろんこんな近距離で、面と向かって攻撃動作をとられたからにはフルハシだって黙ってはいない。
即座に臨戦態勢に移って……
「なんしとんねんアホぉーッ!?」
それを認識した瞬間には、いつもの早撃ちの要領でフルハシの後頭部をしばいていた。
……スパーンとなかなか良い音がした。
我ながら会心の一発だったと言えるだろう。狙ってもここまで良い感じに入る事はそうそう無い。
というか、いくらオレでもツッコミで人をシバいた経験自体がそうそう無い。
……逆に言えば、無意識で口より先に手が出るくらいにはヤバかったということだ。
ソガ隊員ボディの優秀なスペックをフル活用した動体視力でチラリと様子を伺えば、捜査官の動きは困惑のせいか止まっており、キリヤマ隊長は凄まじい形相でフルハシ隊員を睨んでいる。その口元は今にも一喝の為に開く寸前だ。
……今だ、この瞬間しかない。
「よく見てみろフルハシ! ぜんッぜん違うだろうが!」
「ち、違うって……何が」
「何もかもがだ! そもそも目元をよく見てみんか! ちゃんと凛々しく一列に並んでるだろうが! チャーミングな口もしっかりある! キサマには、これがピカソのゲルニカみたいな面に見えるのか!」
オレはわざと怒鳴り散らしながら、自分の目尻を摘まんで、上下別々の方向にひっぱった。
「……あ、本当だ。よく見りゃそこまでひんがら目ってわけでもねぇや。ケムール人はもっとロンパリだわな」
「いくら新人だからと言って、この程度も見抜けないようでは訓練が足らん! 訓練が!」
「……し、新人!?」
フルハシのおい待てという声を一旦無視して、呆気にとられたように固まるキュラソ星人に向き直り深々と頭を下げる。
「この度は、ウチのフルハシ隊員がご無礼つかまつりまして、誠に申し訳ございません。彼は見ての通り任官間もない新兵でして、経験が足りず……今のところ、見知った宇宙人はケムール人くらいなもので。全て教育係である私の責任です。なにとぞ御容赦頂けませんでしょうか?」
『新任警官……? そちらの彼が? 本官にはどう見ても彼の佇まいがベテランの……』
マズイ、こいつ意外と鋭いぞ。
「ええ!? そんなはずは!? その証拠に、ズンドコベロンチョがスットコドッコイになっておりますでしょう!?」
『ズンドコ……? ドッコイ……?』
首を傾げる捜査官だが、後ろでいい加減キレそうなフルハシが声を荒げるのを見て、いちど考え込む様子を見せた。
「おいソガ、そりゃどういう意味だ!? だいたいテメエが俺の教育係ってなぁいったい……イテッ!」
いきり立つフルハシの向こう脛を、聡いアマギが蹴っ飛ばして黙らせる。
ナイスフォロー!
そのまま困ったように眉を寄せ、慎重に言葉を選びながら口を開くアマギ。
「不躾ですが捜査官。我々の年頃が、そちらからはどのようにお見えでしょうか?」
『年齢……? それはもちろん貴官……アマギ巡査が最専任で、時点がそこの無礼な彼。次に勲章付きの貴官……あー』
「ソガです」
『ソガ巡査とモロボシダン巡査、キリヤマ部長が同年代。そして最後にそこの彼……アンヌ君が見習いなのでは?』
「……やはり」
捜査官の答えに、得心いったように頷くアマギ。
それでようやく、オレも彼が何を考えているのか分かった。
……さてはコイツら、体格のデカさくらいでしかこっちを判別出来てないな!
「ははあ、分かりましたぞ捜査官殿。実は我々地球人は、どれだけ長く生きたところで、体の大小には個人差があるのですよ。なんなら肌や髪の色も、白やら黒やら黄色に赤とそれはもう多種多様でして……」
『なんですと!? 黒もいるのでありますか! ……それは果たして本当に同じ地球人なのでしょうや?』
「一応、そういう事になっております」
オイオイ、ここが極東基地で良かったな。
他の場所ならだいぶアウトな発言だったぞ。
「なんなら、黒くなったり赤くなったり、逆に白くなったりするものもいるくらいで」
『うむぅ……地球の方々は、我々の常識だと及びもつかない生態をしてらっしゃるようでありますな……』
いや、どう考えても日焼けよりガソリン飲む方が生物としてぶっ飛んでるだろ。
「その、差し支えなければ貴方がたにとってのケムール人とは、どのような認識なのか教えて頂いても?」
『それはもう! 奴らはまったくもって度し難いクズ共としか言い様がありません! 何の罪もない市民を誘拐しては、奴隷にしたり恐ろしい人体実験の材料に使ったりと……種族ぐるみで人身売買を生業にしているような連中なのであります! 我が連邦警察も、きゃつらにはほとほと手を焼いておりましてな……摘発しても摘発しても、後からキリがありません! もはやその名を口にするのも忌々しいと、例の黒い奴としか呼ばぬ者もいるくらいで……!』
ああうん……そういやケムール人って種族単位の人攫い集団だったわ。
そりゃあ蛇蝎の如く嫌って当然というか……いつも取り締まってる奴らと同じ呼ばわりされたら、そらキレる。
「なるほど、それは確かにとんでもない侮辱でした……おいフルハシ! これで分かっただろう!? キサマはたったいま、彼をゴキブリや犯罪者扱いしたのと同じなのだぞ! それでなくともキサマとて、初対面でいきなりペキン原人だのゴリラだのと言われて気分を害さないと誓えるか!?」
「はあ……その……これは大変な失礼をいたしたようで……申し訳ございません!!」
ようやく自分の失言が如何にマズいものであったか自覚したらしく、ペコペコと恐縮して頭を下げるフルハシ隊員。
……うん、ごめんな。
今回は一歩間違ってたら俺が雑談中に話題として振ってたかもしれんセリフだから、一足先にミスってくれて大変有難いよ、個人的には。
でもこれは、一歩間違えなくとも国際問題……もとい星間問題になりかねない場面だったから大人しくそのまま小さくなっててくれ。
「言い訳するようで大変心苦しいのですが、地球ではケムール人とは『鼻が無い』程度の意味でして。ご存知の通り、我々は異星の方との接触経験がすこぶる乏しくてですね……」
『鼻が……? いや、本官らとて鼻くらいありますぞ? 失礼ながら、鼻が無いのは貴官らの方では……』
「ああ、我々の鼻はね……これです。顔の真ん中に付いてるこの三角のやつが地球人の鼻なわけで……」
『なんと、これが!? ……そのような場所に鼻があっては、邪魔で仕方が無いのではありますまいか?』
とかなんとか下らない話でお茶を濁しつつ、この勢いのまま事を有耶無耶にしてしまおう。
「それに、あなたがたキュラソ星人のお顔を、我々はこのようなものだと認識していたので、ヘルメットの下からまったく別の星人が現れた時の驚きは、私も同じくです。まさかあなたがたがこれほど個人差の大きい種族だとは思わず……もしや、我々が捕まえたのは別の宇宙人でしたでしょうか?」
そうして俺が、連邦警察に確認してもらう為に用意していた脱獄囚の写真を見せるなり、捜査官は急にグオグオと笑い始めた。
『……ははあ! ようやく分かりましたぞ! あなたがたはひとつ勘違いをしておられる』
「勘違い?」
『これは素顔ではなく……囚人服です! なにせ此奴は、連邦史上でもまれに見る凶悪犯なのですから、同然の事! こちらにも覆面刑くらいはあるでしょう? これは失念していました。あの時に被せる覆面が、我々の星ではこのデザインでしてな……』
「いや待ってください。覆面刑って……なんですか?」
『おや? 翻訳機がうまく仕事をしていないようですな。昔からあるアレですよ。一生外れない覆面を被せて、囚人が息苦しさに改心するか発狂するまで放置する最上位の刑罰……』
「んー……」
俺は困って辺りを見渡した。
目の合う全員が血相変えて首を振る。
だよな。俺が知らねえだけで、他の国にはあるのかと思っちゃった。
「残念ですが、地球には覆面刑なる刑罰は存在しないようです」
『なんですって!? では最も悪辣な犯罪者にはどのような刑罰が下されるのですか?』
「普通に終身刑か死刑だと思いますけど……」
『死刑? あまりに直接的な響きですが……それはどのような?』
「え? いろいろ有りますけど、こう……我が国では首をくくったり、他の国だと電気椅子に座らしたり……ギロチンで首を落としたり……」
『えっ!? つまり本当にその場で殺してしまう刑という事ですか!? 因みにそれは射殺とどう違うので?』
「まあ……銃殺刑というのもあるのでぇ……極論違わないと言いますか……」
直後、ふくらはぎに衝撃が走る。
振り向けば、アマギが目を三角にしてこちらを睨んでいるではないか。
大いに違うだろうと、彼は言いたいらしい。
「実は小官はあまり刑法には明るくないので、詳しい事は後ほど担当の者が説明いたします」
『ふむぅ聞いたか? 地球では犯罪者を逮捕後に射殺しても良いらしい』
『はあ、それが本当ならば、よほど司法がしっかりしていると見えますね。もしくはそれほど凶悪犯罪が少ないか。どちらにせよ、羨ましい限りで』
後ろにいる副官と何かをヒソヒソ話す捜査官。
これ絶対アレだね。「死刑などと、地球人はなんと野蛮な」とか引かれてんだろな……
……いやいや、囚人が野垂れ死ぬまで拷問刑にかける方も大概やろがい!
『とにかく、事情は分かりましたぞ。我々の間には不幸なすれ違いがあったようだ。そちらの彼の謝罪を受け容れましょう。どうやら新人がヘマをする事に関してだけは、どこの星でも共通の悩みのようですからな』
「寛大な措置に感謝します! 捜査官!」
どうにか首の皮一枚繋がったぜ……ヒヤヒヤさせないで欲しい。
ま、どうせいざとなったらダンがいるという安心感がデカいので、隣で冷や汗拭ってる隊長やアマギに比べれば随分マシなんだけど。
「そうだ皆様、長旅でお疲れでしょう。別室で細やかながら歓迎のご用意がございますので、まずはそちらで休憩をされては……」
ひとまず、一度みんなと作戦会議がしたい。
今回の滞在を少しでも引き延ばして、彼らの文化や求める物を聞き出さないと。
その中から、地球が提供できそうな物をピックアップして、ヤナガワ参謀に同盟条件を詰めてもらうのだ。
……と、思っていたら。
『ほう、それはありがたい。でしたら本官としても、勲章付きの貴官に案内をお願いしてよろしいでありますか、ソガ巡査』
捜査官が、俺の白い三角巾を指先しながらそう言った。
……ア゙ア゙ァァ~~↑!!
気になる?
-
8番目
-
保安官
-
補佐官
-
星雲荘