転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「えー、この度はご指名頂きありがとうございます。改めまして、ソガと申します。皆様が地球にご滞在中は、僭越ながら私がご案内させていただきます」
ダンとアンヌ、そしてキュラソの皆様を連れていったん退出し、扉の前でなるべく恭しく見えるように頭を下げる俺。
今頃、扉の向こうではフルハシに隊長の雷が直撃していることだろう。おおこわ。
骨は拾ってやるぞ。
『よろしく頼む、ソガ巡査。本官はエリキュール。そしてこちらがアイオーンとブルックリン。どちらも本官自慢の補佐だ。本来ならば彼らからも挨拶させるところだが、あいにくと翻訳機は本官とヤナガワ警視監がお持ちの2台しかない。何か用向きがあれば全て本官へ伝えて欲しい』
エリキュール捜査官の言葉に合わせ、後ろの副官達が揃って前へ出て、掲げた左手を顔の横でふりふりっとやる。
その仕草だけ見ると、えらくフランクな奴らだな……となりそうだが、もしかしたらコレが彼らの星では敬礼にあたるポーズなのかもしれない。
さっきも捜査官がやってたしな。
指の形も独特な、妙に既視感のある……あーアレだ、フレミングの左手みたいな……こうか?
「アイオーンさんに、ブルックリンさんですね。ソガです。どうぞ宜しく。今後、間違えたらすみません」
見よう見まねでフリフリと返してやれば、副官達は驚いたように目をギョロッとさせて、お互いに顔を見合わせた。
ふふ、おもれー。
こういう、相手の仕草をわざと真似て親近感を抱かせるのを、心理学かなんかではミラーリングとかいうらしい。
自然界では群れの仲間同士でよく見られる行動で、赤ちゃんやペットと仲良くなるにも役に立つんだとか。
言葉の通じん異星人相手でも、やらないよりは多少は効果があるだろう。……知らんけど。
というか、今の俺は三角巾で右手を吊っているので、物理的に本来の敬礼が難しい。
そういう場合は、しゃーなし左手でやって良いのだが、正式に左手を使う仕草があるんだったら、そっち使う方が良いまである。
微妙に間違ってて、まるで違う意味になるとかだったらご愛嬌だ。それはそれで会話のネタにさせてもらおう。
『ハハハ。ご心配なさらずとも、こっちのいかにも礼儀正しい優男がアイオーン。見た目通りに無愛想な方がブルックリンですから、すぐに分かりますぞ』
うん、じゃあ分からねえわ。
『お前達、こちらの勲章付きの方がソガ巡査だ。我々を案内してくださる。覚えておけ』
『ソガ? こんな小男がですか』
『よせよブルックリン、地球の人々はみな小さい。我々が大きいだけだ。ご大層な名前だとは、私も思うが』
『貴様らっ!』
「あの……何か?」
『い、いえいえ……貴官の名が実に勇壮なもので……羨ましいと……』
へぇー……ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングとかなのかな?
たった2文字の筈なんだが……
「そうだ捜査官。部下の方々はそちらのお二人だけですか?」
『いえ、他にもまだ幾人かおりますが……? それが何か?』
「それは良かった! 実は遠路はるばる地球へお越し頂いた皆様に、ささやかながら歓迎の席を設けさせて頂いております。皆様の人数が判然としなかったもので、それなりの量をご用意したのですが、たった三人では逆に余ってしまうところでしたよ。如何でしょう? 是非とも地球のガソリンを、皆様に味わって頂きたいと思いまして」
『な、なんと!? 我々の為に!? し、しかし本官らはまだ職務中でありますから……こんな日の高いうちからガソリンを吞むわけには……』
「おや? 囚人の取り調べや参謀との協議は明日からとお聞きしていますよ。そうだよな、ダン?」
「ええ、本日はゆっくり静養をとっていただき、明日の朝、簡単な健康チェックを行う予定です」
『健康チェック?』
「といっても、地球で一晩過ごして頂いて、風土が合わない事は無いかの最終確認ですわ。囚人で問題無い事は分かっていますけれど、念のために。むしろ、消化管の調子が変わるといけませんから、暴飲暴食でもされない限りは、普段と同じように飲食して頂いて構いません」
アンヌがそう言うと、捜査官は目をギロッとさせて不服そうに唸る。
『むむ……アンヌ君、遠征先と言えど、我ら誇りあるキュラソ警官がそのような失敗をするわけがなかろう』
「アラ。これは失礼を……」
『まあいい。それならば、ソガ巡査のお言葉に甘えさせて頂くとしましょう。とすると……ブルックリン! 駐機場へひとっ走りして、手漉きの人員を集めてこい』
『ハッ!』
「では自分が」
そういって、スッ……と進み出るダン。
彼はおもむろに口を開くと、喉の奥から絞り出すように低い唸り声を上げた。
「警部補殿、こちらへ」
『なっ……!』
突然に、地球人から馴染みある響きで呼びかけられて、驚きに目をギョロつかせ固まるキュラソの副官。
『これは驚いた! もしや、モロボシダン巡査は我らの言葉をお話しになる!?』
「少し、ですが」
グオグオ唸りながら、指でチョイと摘まむ仕草をするダン。
「彼は非常に記憶力が優れておりまして、おまけに人一倍勤勉です。なので、この数ヶ月前の間に、そちらから頂いた対応表を頭へ叩きこんで貰いました」
……という設定になっている。
多分、ダンなら普通にキュラソ語とか知ってそうだなと思い、翻訳機を作る為の言語対応表の写しを「これ覚えといて」と無茶振りしておいたのだ。
そしてこれは、どちらかと言うとウルトラ警備隊の仲間達に対するパフォーマンス、ひいてはダンの為……という側面が強い。
こうでもしておかないと、咄嗟の場面で彼らの声やらテレパシーやらを聞きつけて行動したダンに「お前……どうして言うことが分かるんだ?」と疑惑の目を向けられるシーンが……うーん、見える見える。
なので、ダンは猛勉強の末にキュラソ語を習得しました! ……という認識をあらかじめ周囲に植え付けとけば、まあよっぽどの事が無い限りは大丈夫だろう。
はたして彼が元からキュラソ語に通じていたのか、はたまた本当にガチンコ一夜漬けをやったのかは分からないが……実際にこうして喋れているので、無駄ではなかったと思う。
……マジで勉強したなら、そんときはゴメン。
それにいくら翻訳機があるからって、コミュニケーション取れる人員が限られるってのは不安しかないからね。
オレは通訳が確保できるし、ダンは擬態がバレないしで、まさに一石二鳥の策だ。
「あ、そうだ……こう見えて、ソガも、凄い男なのですよ、警部補殿」
『あっ! や……これは……失礼した。謝罪する』
「大丈夫です。彼は、この程度で気分を害する器ではありません」
「ダン……? どうした?」
「いえ、なんでも。ちょっとしたジョークですよ」
『ハ、ハ……モロボシダン巡査は、語学に堪能なだけでなく、冗談のセンスもなかなかのようですな……ブルックリンはこの通り口下手な男ですが、貴官のような方がエスコートしてくださるならば安心だ。ただの無口と、会話が無いでは大違いであります』
「そうでしょう、そうでしょう。ダンはうちの隊で一番優秀な男ですから!」
「はは……では行きましょうか」
『……仲が良いのだな』
照れたダンが、足早に副官を促す。
連れだって歩いて行く二人を見送りながら、溜息をついた。
「本来ならば、彼を皆様の案内役としてつける予定だったのですが……残念ながら、私の方はお国の言葉がサッパリです。必ず翻訳機を介した声でお願いしますよ」
『おっと……本官の我が儘でそちらの配置を乱してしまいましたか。申し訳ない。しかし、どうしても貴官のような勲章付きの優秀な方からお話を伺いたかったのです』
「いえいえ、光栄な事ですから全く構いません。しかし……エリキュール捜査官。その、先ほどから仰る勲章付きというのは……?」
『おや? 違いましたかな? そのように白く立派な装いをされているので、さぞ華々しいご活躍をされたのかと……』
俺の右腕を指差して首を傾げる捜査官。
そんな彼のコートは、部下達が着ているポンチョよりも明らかに布地が厚く大きいだけでなく、ヒラヒラとした装飾も多い。
ああ……やっぱり。
コレもしかしなくても、俺の三角巾を勲章的なサムシングと勘違いされてるよね?
おそらく彼らの服飾文化は、偉い奴ほど重ね着するとかそういう……まあ、地球にも『
……というかぶっちゃけ彼らは、オレらがそうであるのと同じく、地球人を顔で判別できてない疑惑があるので、ただでさえ同じ服装してるウルトラ警備隊の中に一人だけ明らか他と違う格好の奴がいたら、そりゃあ、ソイツを窓口に選ぶのが手っ取り早いよな……
……という背景に気付いたのは、なにもオレだけではなかったようで、後ろからアンヌがクスクス笑う声が聞こえる。
「ええ、そうなんですのよエリキュール捜査官。ソガ隊員は出撃の度に八面六臂の活躍で、毎度毎度小さな勲章を拵えてくるのですけど、ここまで大ごとになったのは、今回が始めてですの……ぷぷぷ」
「おいアンヌ」
「いいじゃないの、名誉の勲章みたいなもんじゃない」
発狂した仲間に殴られて骨折は、名誉の負傷ですらないんだが?
『やはりそうであったか。先ほど、本官が素顔を晒した際も、最も動揺が少なく見えたのは、こちらのソガ巡査だった。よほど胆力があると見えますな、貴官』
「あー……いやぁ……?」
確かに言われてみれば、あの場で一番早く立ち直ったのがオレだとしても不思議はない。
なぜなら……オレは前世知識で知っていたからだ。キュラソ星人のスーツは、ケムール人の改造品だという情報を。
セブンの撮影現場はあまりにも時間がなかったので、前作ウルトラマンを撮った際のケムール人2代目スーツに、新造した頭部だけを被せ、しれっと別の宇宙人として出した。
……という製作秘話はわりかし有名で、おそらくこっちに来る前はそれなりにセブンファンだったらしいオレも、当然それを知っている。
なので、キュラソの首から下はほとんどケムールそのまんま……というメタい事前情報があったオレとしては、ヘルメットの中からほぼケムール人の亜種みたいな奴が出て来ても、驚きこそあれ妙に納得してしまったのだ。
そりゃそうさ。肉体が一緒なら顔が似てても別に変ではない。
生物が進化の過程でその見た目になってるのは、それなりの理由があるからで、似たような環境化にあると似たような進化を遂げやすい。
俗に言う
だからこそ、雑談中に『ケムール人とはご近所さんかなにかで?』とか笑顔のまま爆弾投下しかねなかったわけで……早めにケムールが彼らにとって禁句と知れたのは僥倖だった。
『本官としては、叙勲の経緯を是非とも聞かせていただきたいところでありますな。さぞかし胸躍るエピソードに違いありますまい』
「ま、まあ……それはまたおいおい……それを言うならば、エリキュール捜査官も、その胸に付けていらっしゃる星形バッヂが、保安官みたいで非常にクールですね。勲章か階級章ですか?」
『おおっ!? お分かりになりますか! 流石にこればかりは略式布章ではなく、終身栄誉鉄章ですからな! まさしく
「あ、えっと……地球にはアメリカという国がありまして、そこの治安維持全般を担っていた……そのー、街やキャラバンを襲う強盗や無法者を退治したりする役なわけですね! 『安全』を『保障』すると書いて保安官」
『ああ! 通商警邏隊の保安隊長のようなものでありますか! まさしく本官が普段行っている任務に通ずるものがありますな! でしたらソガ巡査、今後は是非ともそちらでお呼び下さい。実のところ……今回こうして地球へ赴くにあたり、特別捜査官として任命されたは良いのですが、未だに肩書きの重さが慣れませんで……よもや護衛する側から、される側になろうとは……』
グオグオと頭を掻くキュラソ星人には、妙な愛嬌があった。
「そういう事でしたら喜んで! エリキュール保安官のお召し物は、帽子さえ被れば西部劇に出てくる保安官にどことなく似ていると思っていたんです! ああ、西部劇というのはね、地球のエンターテイメントの一種なのですが……ここでも保安官というのは大抵が凄腕のガンマンで、愛馬に跨がり荒野を駆ける……つまり、子供達にとって憧れのヒーローなのですよ」
『ほう! それはたいそう情操教育に宜しいですな。実は本官も、ポニーの運転とブラスターの腕には自信がありますぞ。本官も地球語さえ覚えれば、そのセーブゲキとやらに出られますでしょうや?』
ちょっと持ち上げてみれば、上機嫌でグググと笑う保安官。
「まあ! でしたら射撃場にご案内いたしましょうか? ねえソガ隊員。そこで保安官の腕を披露していただきましょうよ」
「確かに、ダン達が戻ってくるまで時間があるしな」
射撃練習で暇潰しがてら、もっと褒めちぎってやろう。
ちょっとしたレクリエーションってやつ?
「エリキュール保安官。こちらのソガ隊員は、ウルトラ警備隊随一の射撃の名手なんですのよ」
『ほう! それは楽しみだ。ウルトラ
おいアンヌ! 余計な事は言わんでいい!
「で、ではこちらへ……ところで保安官、先ほど普段の任務と仰いましたが、特別捜査官というのはそんなに特殊な任務なので?」
『ん!? ん……まあその……そんなところでありますかな! 主星キュラソーより州星への特派員……と言いますか』
「州星……?」
『そうか、お星は地球ひとつきりでしたか。我らキュラソ連邦は、キュラソーを主星とする星間連合でありまして、他にも様々な惑星が自治属州として所属しております。ただ……』
口籠もる保安官に先を促せば、またしても頭を掻きながら目を泳がせて、言いにくそうに続きを話し出す。
『あまりにも多種多様な惑星を取り込んだ結果、連邦内を行き来する種族も数限りなく……中には連邦警察の目を盗み、星間犯罪に手を染めるものが後を絶ちません』
ふむふむ、いわゆる人種の
『先ほどのケムール人などはまさにその筆頭格でして……元はと言えば、当時まだ未開の地であったキュラソーへ同時期に入植し、星の覇権を巡って我らの祖先と争った末に敗れた者の末裔と聞いております。ゼリトン帝星との独立戦争時代には手を携えた時期もあったのですが……まったく嘆かわしい』
溜息をつく保安官の後ろで、俺とアンヌは目を見合わせた。
なんかアメ……げふんげふん。
どっかで聞いた事ある話だな?
少なくとも、彼らキュラソ連邦の人種問題には、なにやら根深い背景がありそうだ。
あまりにも面倒くさいのでこれ以上は深掘りせんとこ。
我々地球人は、人種差別や先住民迫害とは無縁のクリーンな種族です!
先祖代々、この海も大地も全て我々地球人のものなので!
……え? ノンマルト? 知らない子ですねぇ……
『おかげで我が連邦は、メトロポリタス銀河で最も治安が悪いなどと噂される始末でありまして……お恥ずかしい話であります』
「いやいや、そんな成り立ちでしたら犯罪率が高くても仕方ありませんよ。むしろ、無政府状態にならずに秩序を保っているのは、保安官のような連邦警察の方々が日々努力している賜物でしょう?」
『分かっていただけますかっ!?』
「うわっちょ!」
その額をビカビカさせるのやめぃ!
しないと分かってても催眠光線は怖いから!
『……失礼、取り乱しました。そして、星間交易路を日々警邏巡回し、商艇や観光艇狙いの宙賊を取り締まるのが、本官らのようなポニー乗りで構成された宙間騎兵連隊。州星へ降下し、惑星ぐるみの犯罪組織や匿われた政治犯を検挙するのが、惑星捜査官となります』
「じゃあ今回は地球に降りて脱獄囚を貰い受けるから、惑星捜査官の職分という事ですか?」
『まあ……概ねは』
なんだか煮え切らない態度だなぁ……
まだ懐柔が足らんか。
『本来であれば、専門の惑星捜査官を寄越すところなのですが、流石に今回の航海に耐えられるのは、生粋のポニー乗りである我々ガングロ・キュラソニアン人だけであろうということと……あまり多様な種族でぞろぞろと押しかけてもご迷惑かと思いまして』
「確かに、先ほどの一件でお分かりの通り、地球は異星人に不慣れなもので、対応しきれなかったでしょう。ご配慮痛み入ります」
ガソリン飲む奴と飲まない奴とがいたら、歓迎会のメニューも考え直しになるとこだった。
……というか、ガングロなのにアルビノなのか君ら。黒いのか白いのか、いったいどっちなんだよ。
『そして本庁隷下の中で即応可能かつ、単一種族で構成されていたのが、たまさか本官の連隊だけだったものですから……』
「ああ……それで特別捜査官」
『はい。今の本官は、宙間騎兵隊の指揮権と、キュラソー外惑星自由捜査権限の両方を委任された、超法規特例措置となります。なにぶん、連邦外文明との接触も、それほど多いわけではありませんので……どうか御容赦を』
思った以上にとんでもねえ人だったなこの保安官。
つまりは全権大使みたいなもんじゃねえか。
「さあ、保安官。ここが当基地の射撃修練場です。新兵器の射爆試験場も兼ねておりますので、なんなら火炎放射も自由にして頂いて構いませんよ。特殊スプリンクラーが作動するので誘爆の危険もありません」
『火炎放射……? ハハハ、そんな危ない真似はいたしませんとも。それより、早く貴官の腕を見せてくれたまえ』
「ではお先に失礼して……」
左手でウルトラガンを構え、慎重に狙いをつける。
ソガ隊員本人は、おそらく右だろうが左だろうが関係無しに命中させられるだろうが、オレ自身はがっつり右利きなので、いつもと違う動作には神経を使う。
今回のようにゆっくり狙いをつけられるなら問題ないが、早撃ちとかだと咄嗟の感覚がね……違うんよ。
「……ふっ!」
一息のうちに三連射。
吊り下げられた三つの的がこちらへ接近してくると、どれもそれぞれ中心付近に焦げ後が付いていた。
もちろん、ド真ん中はあえて外してある。
だってコレ、接待だからね。
銃をくるりと回して、ちょっとしたガンプレイを魅せる余裕も挟みつつ振り返るオレ。
「ふぅ、ざっとこんなものです」
『おおっ! 素晴らしい早撃ちだ! これならヤードの射撃大会でも充分に上位入賞が狙えますぞ!』
「いやいや滅相もない。キュラソ連邦ならば、私のような腕はゴロゴロいるでしょう」
『貴官が在野の人材であれば、本官の連隊員に引き抜きたいぐらいでありますよ。なあ、アイオーン?』
『いやあ、お見逸れしました。地球人もなかなかやる。巡査にしておくのが勿体ない男ですね』
おそらく褒めてくれてるのだろう。
指をピロピロしながら額を点滅させる副官。
眩しい拍手だな、オイ。
「……」
よせアンヌ、皆まで言うな。
ウルトラ警備隊のレベルの高さはアピールしつつ、向こうを勝たせる余地は残さんといかんのだ。
絶妙な手抜き具合なんだぞ。むしろ褒めてほしい。
キリヤマ隊長にも見てて欲しかったよ……
『では本官も』
さっとコートを翻した保安官は、いつの間にか懐中電灯のようなものを握り込んでおり、その先端がキィンと甲高く瞬いたかと思えば、並んだ的が轟音と共に砕けちる。
『……ぷぅ』
「すごい……」
「エリキュール保安官、おみごとです」
『どうです、連隊長はスットコランドヤードとの合同射撃部門の準優勝経験だけでなく、ピリンオック星間大会でも5位入賞の実力者だ。君もそれなりにスジは良いようだが、これを見て一層精進することですね。なあに、まだまだ伸びますよ。若いんだから』
「う……ん、なんと素晴らしい連続動作だ。さすが連邦のキュラソ警官は違う。すごいの一言につきる」
保安官の腕もだが、すっげえ威力の光線銃だぜ。
的が命中箇所で綺麗に抉れたり断ち割れているのを見るに、マグナムぐらいパワーあるんじゃねえか?
「それに一発の銃声で2連射とは。いやあ、神業ですね」
『……ん? 2連射?』
「え?」
こちらへと近付いてくる三つの的。
ほぼ真ん中で綺麗に真っ二つとなり、上半分しかないもの。
右下方に大穴が開いているもの。
そして……
『……あっ』
左下がほんのちょっぴり削れているもの。
……その場をなんとも気まずい空気が支配する。
「まあ!
そんな事を言って純粋に喜んでいるのは、アンヌくらいなものだ。
というか、なんなら仲間である俺の方が成績良くて内心嬉しいとか思ってるまである。
君、そういうとこあるよね……
『……れ、連隊長。流石にあのような長距離運転後では、実力が発揮しきれずともなんら不思議ではありませんよ』
『……よせ、アイオーン。キュラソ警官たるもの、何時いかなる状況でも万全の力を出せねばならない……これが本官の実力という事よ』
『ひ、ひとまず加温材で一服されては?』
『結構だ。そんなもの吸わずとも地球は充分に暑い……』
『では……冷却シガーです』
『ん……』
副官の手で、なにか葉巻状のものを口へと突っ込まれた保安官は、虚空を見つめながら白い冷気を歯の隙間から垂れ流している。
ヤベぇ……ガチ凹みじゃん……
いかんこのままでは……あ、そうだ!
「保安官、この銃……自分も撃たせていただいても……?」
『ええ、どうぞ……そのまま上のトリガーを押し込めば宜しい……』
「では失礼して」
さて、ひとまず保安官が本当に銃の名手だと仮定してだ……
うーん……
「うおっ!?」
思った以上に引き金は固いし、反動はデカいしで驚いたが、オレの撃った弾は見事に的を
「ははあ……分かりましたよ、保安官。そちらはずいぶんと弾の落ちる銃をお使いのようですなぁ!」
『弾が、落ちる?』
「ええ、恐らくキュラソ星では問題無いのでしょうが、地球の大気中ではこの……ブラスターですか? 弾丸に使われている粒子の射程がひどく低下してしまうようで。むしろ、よくぞ初弾を当てられましたね!!」
『……な、なるほど!! ここはえらく乾燥しているとは思いましたが、よもや弾道にまで影響があるとは……』
「自分は実弾銃も使いますので、すぐ分かりましたよ。光線銃のつもりで撃つと、僅かに伸びが足りません」
『実弾銃……?』
「火薬で金属の塊を飛ばすタイプです」
『火薬で!? 鉄を!? なんと原始的……あ、いや、実にシンプルな機構ですな。しかしそれでは凄まじい威力になってしまうのでは? それこそポニーの鞍を撃つくらいしか本官には使い道が思いつきませんが』
「そう……ですか? でも確かにストッピングパワーはあちらの方が上ですね。とはいえ射程や命中率の取り回しは明らかに光線銃の方が……ま、百聞は一見にしかず。保安官、我々のウルトラガンもお試しになってくださいよ」
『お、おお……よろしいので? では早速……』
「あ」『あ』
指がデカすぎてトリガーガードに入らねぇ……
しょうがねえから、左の指でグリップを摘まんでもらい、グローブを脱いだ右手の爪の先っちょをリングに引っかける形で引き金を引いてもらう。
すると……
『おおおっ! ……ハハハ! これは爽快ッ爽快ッ!!』
「うわすご……」
そんなメチャクチャな射撃フォームから、ファニングでもやってんのかってレベルの超連射を繰り出して、次々とターゲットを撃ち抜いていくエリキュール保安官。
『凄いぞアイオーン! 見ろ! 狙った通りの場所へ弾が飛ぶ!』
それはアンタの腕がいいからだよ……
『いやあ……これは良い経験をさせて頂きましたソガ巡査。まさか地球にこのような名銃があったとは! いささか発砲の実感に乏しいのが玉に瑕ではありますが……つくづく、我々に合うサイズは無いのが残念でなりません』
「喜んで頂けたようでなにより。しかし、いくら銃の性能が良くても、撃ち手の腕がなくてはね。ほら見てくださいよ、保安官と比べて私のこのバラけ具合」
『ハッハッハ! まあまあ、そう気を落とさずに! これでも本官は選抜射手の経験もありますれば! 流石に異星の地で巡査程度へ負けるわけには参りません。ヤードの連中から物笑いの種にされてしまうところでありますよ!』
いやほんとにな。
そんな人に部下の前で恥かかすわけにはいかねーよ。
ヒヤヒヤしたわ……
……おいアンヌ、むくれるなって。
「お? 失礼、保安官。ダンからのようです……こちらソガ隊員」
『ソガ隊員、キユラソ警官の皆様がお集まりです。いま、どちらに?』
「オッケー、了解。すぐいく! ……ではお二人とも、晩餐会へ参りましょうか。部下の皆様を据え膳の刑に処するわけにはいきませんからね」
そして地球産ガソリンの旨さにひっくり返りやがれ。
気になる?
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8番目
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保安官
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補佐官
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星雲荘