転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「どうです、保安官? 我が星の誇る
『お気に召す……? お気に召すかですと……!? こ、こんなモノを出しておいて……ッ!?』
俺がそう聞くと、ワナワナと震えながら絞り出すように唸る保安官。
……げ、そんなにマズかった?
囚人が我を忘れてがっついてたから、てっきりウマイもんだとばかり……
『お気に召すどころの話ではないッ! あ、あまりにも美味いっ! 美味すぎるっっ!!! この世にこんな美味い物があったなど……信じられん! ソガ巡査! これは本当にガソリンなのですか!? もしもそうだとしたら……今まで我々が飲んでいたのは……ガソリンじゃない。ポニーのヨダレだ……』
あ、そっち!?
『有り得ないだろ……なんて濃いガソリンだ……』
『宇宙に存在する全ての旨みを煮詰めたみたいな味がしやがる……』
ストロー替わりの灯油チュルチュルにしゃぶりつき、一心不乱に赤いポンプを握りまくる警官隊。
ハイオクガソリンを飲んだ瞬間に、みんながみんな額をスパークさせまくるせいで、オレはなんも悪い事してないのに記者会見で頭下げた瞬間みたいになっている。
ぶっちゃけ生きた心地がしないが、どうやら彼らの謎光線は威力調整が出来るらしい事は分かっているので、涼しい顔でやり過ごすしかない。
ただまあ……胃袋はがっつり掴めたようでなにより。
「もしも、よりジャンクな味がお好みでしたら、あちらに重油のビスクもご用意しておりますし、お口直しに灯油カクテルもございます。後ほど、メタンハイドレートのソルベをお持ちしますね」
『おい、一品だけじゃないのか!?』
『この匂い……重油だ! 重油がある! 俺はこいつに目が無いんだ!』
『この口当たりの爽やかさ……まるで故郷の湿原を駆け回った時のような……』
『これに比べたら本庁食堂はんの灯油はカスや』
『ゥンまああ~いっ! こっこれはああ~~っ! この味わあぁ~っ! サッパリとしたエチルにベンゼンのジューシー部分がからみつくうまさだ!! アルコールがベンゼンを! ベンゼンがアルコールをひき立てるッ!』
ハイオクや軽油だけでは流石に飽きるだろうと、ありとあらゆる燃料類をビッフェ形式でお出しすれば、それだけでウォォンと唸り立つキュラソ星人ご一行。
一応、用意した全てが食用可能である事は、キュラソ星から貰ったリストでも、実際に囚人へ食わせてみたりで確認済みだ。
アレルギーで使節団全滅しましたでは目も当てられんからな。
なんでも囚人の排泄物を分析したアマギによれば、彼らの胃腸には、石油や化学物質を分解する特殊な微生物が数種類共生しており、そこからエネルギーを取り出しているらしい。
本当は俺達みたいにタンパク質も食えるし、どちらかと言えば雑食で、イメージしてたようなガソリンが主食でそれしか食いません! ってわけでも無いらしいが……どうやら彼らの舌は、燃焼効率が高ければ高いほど上等に感じるようで、今日のガソリン漬けは言うなれば満漢全席とかフレンチフルコースみたいな最高級食材の盛り合わせのようなもんだ。
問題は、これだけ大量の燃料をどうやって用意するかだったが……たまたま、補給部門の新兵がやらかして、有り得んぐらいの石油が余ってたので、それをまるっと頂いてきた。
こうして食品として消費することで、カツカツの弾薬費ではなく、ろくに使われていない接待費として計上し、予算の枠を調整するという……我ながら会心のアイデアである。やっぱオレって天才だわ。
食材を受け取りに行った輜重科で、例の新兵君にも盛大に礼を言っておいた。
彼はまさしく救世主である……主にオレの財布にとっての。
自腹切るしかないと思ってたところに、ナイスタイミングでやらかしてくれたわけだから……いやー、持ってるわ、アイツ。
……ただなあ……あの妙に福々しい顔、どっかでみたことあるんだよなぁ……誰だったかなぁ……? 名前聞いとくんだったわ。
……ま、いいや。
流石にあんなドジをこの基地に置いといて、またやらかされたら堪ったモンじゃないので、どっか別の場所にでも研修出向と言う名の左遷を提案しておこう。
そうだな……神戸の防衛センターとかいいかもしれん。
そろそろキングジョーとガチンコしなきゃならんから、ワンチャンそこで今回みたいに弾薬やら燃料やらを異常発注して貰えたら、オレが向こうで好きなだけ使えるし。
うん、そうしよう。キングジョー戦が終わった後のことは知ーらね。
『連隊長……キュラソ警官にあるまじきとは重々承知の上ですが、どうかシガーで一服入れる許可を頂けませんでしょうか……!』
『自分もです。こんな度数の高いガソリンを冷却無しで飲むなど……頭がゆだって仕方ない! とても正気を保てません!』
『待てお前達! ……ソガ巡査、ご無礼を承知で申し上げる。地球において、飲食中の喫煙は何らかの違反行為に抵触いたしますでしょうや?』
「え? ああいや、今の地球はまだ分煙とかそういう文化は影も形も有りませんからね。人によっては眉を顰める場合もあるでしょうが……あっ」
そこで思い至る。
「いやいや駄目です駄目です!! どう考えても火気厳禁ですよ! 下手したらみんな爆死しますって!」
当然の事ながら石油フルコースを用意する以上、この宴会場は普段アマギが特殊兵器の開発工廠として使用している部屋を、科学班に頼み込んで開けて貰った。
なので換気機能もおそらく基地内で最高クラスではあるのだが、どんだけ気を付けてようが気化したガソリンが漏れるのだけは防ぎようがないわけで。
そんな場所でライター使おうものなら全員仲良くあの世行きである。
そもそも普段からガソリン常食してる彼らが、そんな事を知らない筈が無いので、一瞬普通に許可しそうになったわ。
危ない危ない……
この鼻がひん曲がりそうな空間に、気合いで簡易マスクだけで参加してるからか、ちょっと頭アッパラパーになってるのかもしれん。
やっぱアンヌの忠告通りにガスマスク付けとくべきだったか?
ソガ隊員の肉体に後遺症出たら流石に申し訳ないな……いや、普段からそれ以上にヤバイ空間で戦ってるから大丈夫だろ。うん大丈夫。
そんな事を思っていたら。
『ん……? 火気? もちろん食事中に火を扱うなど自殺行為でしかありませんが……なぜ喫煙と火気厳禁が関係あるので?』
「え? ……あの、保安官。地球の煙草は燃焼式なんですが、まさかキュラソの煙草はそうではない?」
『まさか!』
「じゃあ全然大丈夫ですよ! どうぞどうぞ。今日は無礼講でいきましょう!」
『有難い! いやあ、実は本官も、このスープを飲んでからというもの、吸いたくて仕方なかったもので……おい、お前達! ソガ巡査の計らいで、特別に喫煙しながら食べても良い事になった! 感謝しろ!』
嬉しそうに保安官が宣言すると、警官達はウォォンと歓声をあげ、一斉に懐を弄りはじめた。
『ただし! 冷却シガーだけだ! 言うまでもないとは思うが、くれぐれも加温パイプなんぞ入れようとするんじゃないぞ? 圧臓をやって早死にしたくなければな……お前の事だぞデストラン! 分かってるのか!?』
『よして下さいよ連隊長。自分も流石にそれくらいの分別はつきます。尤も、ここで加温材までフカせたら最高の気分でしょうが……ああクソ。誰かシガー分けてくれ。地球がこんなに暑いなんて知らなかったんだ』
『みんなそうさ。ただでさえこの気候に、こんな濃いガソリンとくれば……ったく。何本あっても足りないぞ。おい、今回の酒保は誰だ?』
『チェリンホードだ。諦めろ』
思い思いに葉巻のようなアイテムを咥えてスパスパやりだすキュラソ星人達。
彼らの吐き出す白煙でたちまち床が見えなくなる。
凄まじい勢いで煙を吐いては、すぐさま灯油ポンプにしゃぶりついてまた煙草……と繰り返すせいで、見た目だけならまるでシーシャパブの如き様相を呈し始める宴会場……さもなくば阿片窟。
今さらながら、このままこの空間にいて大丈夫か不安になってきた。これ、地球人にとっては毒ガスとかじゃないよね?
「あの……保安官。そちらはいったい何を吸われているので?」
『おや、巡査も我々のシガーにご興味がおありですかな? なあに、二酸化炭素を低温処理したものですよ。一本いかがか?』
「いえいえ、実は禁煙中でして」
『それはお辛い。申し訳ありませんな。我々ばかり』
なぁるほどね……コイツらドライアイス吸ってやがる。おもろ。
『いやあ……毎朝このスープを食えたら、自分の低温血もイッパツで吹き飛びますぜ』
『そしたら長年連れ添ったパイプとはおさらばか、デストラン? この薄情者め』
『それは話が別よ。それにしても旨いな……これは流石にアイツが気の毒だ。連隊長、自分が戻って代わりますので、チェリンホードにも食わせてやって貰えませんか』
『駄目だ。これだけの席を用意して頂いているのだぞ。中座は失礼にあたる。奴は……我慢強い。帰ったら本官が美味い店に連れて行ってやるから、それで勘弁してもらおう』
『しかしね連隊長。このスープは星屑亭にだってありゃせんでしょう?』
「……保安官、彼はいったいどうなさいましたか?」
さっきまでドライアイス煙草とハイオクスープを交互に味わっていた警官が、やおら立ち上がり保安官に向かってグオグオ吼え始めたので、何か問題があったかと思って尋ねてみる。
『ああいや……いま護送艇に居残っているのはコイツの相棒でしてね。ソイツにも食わせたいから交代させてくれと……』
「なんだ、そんなの言ってくださればいくらでもご用意しますよぉ!」
めっちゃ仲間思いやんけ!
オレそういう奴の事が大々大好きなんだよね。
だから無限に依怙贔屓しちゃーう。
「ただ、石油を飲み食い出来るのがこの部屋だけになりますから、終わった後でその方をお呼びする形にはなりますけども……」
すると慄いたように目をギョロっとさせて仰け反る保安官。
『よ、よろしいのですか? あまりにもお手間では……』
「せっかくの宴席なんですから、当然ですよ! そちらの方にも、気にせずお楽しみ頂くようにお伝え下さい。地球人ってのはね、来て貰ったお客さんが最高に満足した気分のまま帰ってくれることを至上の美徳としておりますんで」
『お、おお……』
またしても保安官の額がビカビカ激しく瞬いた。
うおっまぶしっ……なにそれどういう感情?
―――――――――
『しかし、凍らせたメタンがこんなに美味とは……』
『フフ、貴方は本当に甘味が好きですね。顔に似合わず』
『黙れアイオーン。俺はこの妙な煙臭さが好きなだけだ』
『はいはい。程々にしないと糖血症になっても知りませんよ』
『……というわけで、その金星号事件の折に賜ったのが、このキューラソ名誉群警四等勲というわけだよ』
「おおっー……凄い! しかし、いくら属星知事専用とはいえ、それでいきなり四等勲とは……キュラソ星では随分とポニーを大事にされてるんですね」
『もちろんだとも! キュラソ星の開拓史は、ポニーと共に歩んできた歴史でもある。彼らは我々の良き友であり、財産だ。だからこそ、それを不当に奪う輩は許されない』
「なるほど……因みにさっきの、また別の知事が好物で毒殺された事件だと、勲章は無かったんですか?」
『ああ! それはこの両肩にある「白銀の枝」勲章だ。ほら、襟のところに刺繍が入っているだろう?』
「うわー! めっちゃ格好いい! いやね、私も極度の甘党でして、チョコレートに毒でも入ってた日にゃ即座にお陀仏ですよ。そうなると、また保安官に来て頂かねばならない」
『ハハハ! 地球には何度も来たいですが、そんな要件は本官も絶対に御免被りたいものです。ふむ……しかし、甘党ですか。ブルックリンと気が合いそうですな。それでさっきから、そのように度数の低いアルコールばかりお飲みになっておられるのだな?』
そう言って、俺の青い液体の入ったグラスを指差す保安官。
「ああいや、これはね……なんと皆様のお星と同じ名前のついた酒が地球にもありまして。これはもう我々が今日こうして出会い、篤い友情を交わす事になったのもはや運命だろうと思った次第。話のタネになるかと思いご用意したものなのです」
『なんと!? 我らの星の名がついたアルコールが地球に! そのような偶然が!?』
そうなんですよ。なんなら酒の名前というより地名だったのでオレも普通にびっくりした。
俺が今飲んでる酒の事だが、彼らは一応アルコールも飲めるので、念のために度数の高い奴を数種類くらい用意してあるのだ。
そして現状、この空間でオレの飲めそうな物がそれらのアルコール類しかないので、しゃーなし付き合いでグラスに入れてるのがコレ。
職務にかこつけて酒が飲めるなんてな……とフルハシからは羨ましがられたが、どうやらオレは前世で相当な下戸だったらしく、これまで酒の類を美味いと思った事が一切無いので、まったくもってご褒美でもなんでもない。
味は不味いし、眠くなるし、気分は悪くなるわで良い事がひとつもない。無駄に高いだけやんけ。こんなん普通にジュースとか飲んでる方がよっぽどマシである。
とはいえ、この場にオレ用の飲料や食事を置いといたら、興味を持ったキュラソ星人が摘まんで食あたりとか起こしかねないのでそれもできない。
……ただひとつ幸運だったのは、ボディがソガ隊員だったおかげで、どんだけ度数の高い酒だろうが、オレがちびちび飲む程度ではこれっぽっちも酔う気配が無いという事だ。
彼は九州出身者。いわゆる『ウワバミ』という奴だったらしい。
だから別に、他のブランデーだのスピリッツだのでも水みたいに飲めはするだろうが、飲んだところで全然有り難みがないので、このキュラソーとかいう名前ネタで面白半分に入れた酒を、オレンジジュース替わりに飲んでいる。
これなら度数も低かろう。舐める程度と言っても、万が一にでもへべれけになって、やらかす心配は無いという事だ!
せめてモーツァルトくらい用意しといてくれ。
『なんですと? そのアルコールはキュラソーというのですか? それは是非とも飲まねば水飲みの名が廃る。このスピリタスとかいうアルコールはなかなかに良かった。そちらもさぞうまいんでしょうな』
「……おや? そちらの方はこの酒にご興味が? ええどうぞどうぞ。お口に合うかは分かりませんが……」
保安官の大声を聞きつけたらしい警官の一人が、立ち上がってこちらへ近寄ってきた。
彼の座っていた席には、それこそウォッカの瓶やらなんやらが、用意した酒を全種類制覇する勢いで並んでいる。
ガソリンよりもアルコールが好みの奴なのかもしれない。
氷を入れた新しいグラスに青い液体を注いでから、こちらへ差し出された手に渡す。
彼はそれを一気に煽った。
『……うぇ。こりゃ酷い安水だ。庶民が大量に飲んで腹を膨らますにはいいかもしれませんが……エルメ、お前にはこんくらいがいいかもな? ハハハ! 連隊長。あとは適当に誤魔化しといてください』
『……なかなか親しみ易い味だと申しております。常に善良な民草の味方たる、我々キュラソ警官に相応しい味だとも』
「……それは良かった」
ありがとう保安官。
でもそれ、一口だけ飲んでソッコー返してきた奴の言う感想としては……無理があるんじゃねえかな。
「あー……しかしアレですね。保安官の武勇伝は大変面白いです。もっと聞かせて下さいよ。その分だと、わりと以前から捜査官としてのお仕事もされていたんでしょう?」
『……ン!? ゲホッ、ゲホッ!? ……し、失礼。いやいや本官などは……そう、休暇! 休暇中に捜査協力しただけで……そ、そうだソガ巡査。本官ばかり話していては不公平だ! そろそろ、その白色布章を授与された時の事を教えてくれまいか? 見たところまだ汚れも少なく真新しい。もしかしなくとも、303号を逮捕した時のものなのだろう?』
「え? 303号ですか? あそっかそういう事か……すみません保安官。アイツはただ我々が待ち伏せしていた所へノコノコやってきたのを、全員で数を頼りに取り押さえただけでして……」
『……あの凶悪犯をですか? そんなまるで引ったくりの捕り物みたいに……』
「それこそ、あの脱獄囚の逮捕に関しての功績なら、ダンかフルハシ……あのさっきのご無礼を働いた奴ですが……彼らの腕力がなければとてもとても。私なぞは、その後ろから麻酔銃を撃っていただけといいますか……」
『……ううむ。303号程度ではまったく手柄にもならんと言うことか。地球人はなんと勇ましい……では、そんな貴官らの間でも受章に値するような、さらなる凶悪犯がいたと?』
「ああ! 確かに凶悪具合では、ある意味もっとでしたよ。皆さんがお吸いになってるそのタバコ。それに幻覚麻薬を仕込んで街にばら撒きやがった奴がいまして」
『なにっ!? 麻薬煙草!? そのような代物、連邦法においても第1級の重犯罪だ! どう考えても覆面刑は免れんぞ!』
「捜査の途中でその麻薬中毒者に襲われまして、仲間を庇ったら……ほらこのとおり。骨が折れてしまいました。なので保安官のような華麗な活躍話は無いのです。お恥ずかしい」
『なんだってっ!? き、貴官!? つまりそれは……殉傷勲なのか!? そうとは知らず失礼した! 負傷者に役目を押し付けてしまい……!!』
笑い話のノリでそう話したら、保安官はただでさえ普段から飛び出している目をさらにギョロギョロと左右に動かし大袈裟に仰け反ると、椅子からガタガタと慌ただしく立ち上がろうとするではないか。
「ああやめてやめて、どうかお気になさらず! 正直、もう治りかけてますし、この腕のせいでホークも操縦できずに暇してたところなんですよ。むしろこのような大役をいただけて、無駄飯食らいの面目躍如ってなぐらいで……」
『そう言っていただけると……いや、まさしく正義の白を戴くに値する立派な方だ。地球の殉傷勲がその色をしているのも納得です。我ら連邦警察でも、自らを顧みず味方を救う事は、最も栄誉ある行いとされていましてな。……おい、お前達! ソガ巡査がその身に帯びていらっしゃるのは、なんと殉傷勲だそうだ! それも仲間を庇っての!』
『げっ! そりゃ気が付きませんで! そのような方から杯を戴けたのは光栄であります!』
『だから私は言ったんですよ、フェルマーニさん。絡み水はよした方がいいって』
『殉傷勲とは驚いたな。確かに射撃の腕は良かったが、それに見合った勇気も持ち合わせているらしい。しかし……どうりでね。あのモロボシダンとかいう巡査が怒るのも無理はない。そうは思いませんか?』
『うるさい。蒸し返すな……』
たちまちそれを聞いた全員が立ち上がり、一糸乱れぬ動きで左手をフリフリッと掲げてくる。
う、うん……ありがとうね。
褒めて貰えるのは嬉しいが、若干勘違いが入ってる気がしなくも無いので、微妙に座りが悪い。
まったく……居心地がいいんだか悪いんだか……
オレが苦笑いのままフレミングの左手を掲げ返すと、ようやく着席した全員が、今度はじっとこちらを見つめて傾聴の姿勢をとってくるではないか。
やめろやめろ! どうせ聞いても話分からんだろうが!
やりにくいったらありゃしねえ! いいからアンタらは気にせずそのままメタン氷でも食っててくれ!
『しかし、ホークと仰いましたが、それはもしや駐機場にあった宇宙艦の事でしょうか?』
「宇宙艦……?」
『あの……大きな羽根付きポニーの……』
「ああ! そうですそうです。あれが我々のウルトラホークです。私らは普段あれでパトロールするんですよ」
宇宙艦……宇宙艦ときたか。
彼らからすると、ウルトラホークは相当デカい部類に入るらしい。
『やはりそうであったか! いやあ、そちらのポニーは随分と珍妙な姿をしているので、ステーションから出迎えに来て頂いた時も面食らいました。地球のポニーは、みなあのように羽根が生えているものなのですか?』
「……ハハハ! なるほど。まず羽根が生えてるところからですか……地球の宇宙船は、ロケット以外はだいたい飛行機から派生したものでして。それらが鳥を参考にしている以上、大気圏内を飛ぶものはたいてい翼持ちですね」
『鳥……? 空を飛ぶのに鳥を参考にしたのですか? 魚ではなく……?』
おっとぉ……?
「キュラソでは魚が飛ぶものですか」
『ええ、それこそ貴官らのポニーのように翼を広げて、よく湖面から飛び上がってくるのを見かけますよ。なのではじめは、巨大な魚が宇宙を泳いでいるのかと』
「では鳥は?」
『いつも地べたを元気に駆け回っております。平坦な湿原くらいならば、ポニーの代わりに乗り回そうとは思えど、宇宙艦のモデルにしようなどとは、とてもとても……』
ほーん。キュラソ星で魚と言ったらトビウオなのか。
そんでもって、鳥類はダチョウかニワトリくらいしかおらんのか。不思議な星だねえ……
「ホークというのは、地球に棲息する鳥の一種でしてね。そらもう空中を自由自在に飛び回り、力も強く、まさに空の王者と言いますか。それにあやかった名前なのです」
『ふむふむ、その辺りはどの星も同じ事を考えるわけですか。我々のスペースポニーも、当時の人々にとっては欠かせない交通手段であったポニーに替わるべく、史上初の機械式ポーターを開発者が「ポニーモーター」と名付けたのが始まりでありますれば』
へぇー……つまり彼らにしてみれば、生き物だろうが機械だろうが、だいたいの乗り物全般がイコールでポニー呼びという感覚なのか。
……いやまてよ?
「……因みになんですが、もしや生物の方のポニーも空を飛ぶのではありませんか?」
『ん? それはまあ、極論を言えばスペースポニーも彼らと同じ原理で宇宙へ舞い上がるわけですからな。当然でしょう』
……やっぱり。
『尤も、彼らの場合「飛ぶ」というよりは「浮く」といった風情ですがね。大型種でもなければ、普通に地上を走行した方がよっぽど速度が出ますよ。それでも直線距離ならば鳥に警笛が上がるでしょうが……ですのでポニーの飛行能力なぞ、もっぱら崖を飛び降りるくらいにしか……それが何か?』
「いいですか保安官。地球のポニーは……そもそも宙に浮きません。地上走行オンリーです」
『……ハハハ、巡査は本官を担いでらっしゃる。流石に分かりますぞ! ハハハ……本当に?』
最初はゲタゲタ笑っていた保安官も、俺がいっさいそれに乗っからないのを見て、冗談の類ではないと聡ったらしい。
「ええ。『飛ぶ馬』という概念自体はありますが、それはあくまで空想の産物でしかなく、そういう奴らはたいてい背中に羽根が生えております」
ペガサスとかグリフォンとか……
『……でしたら、崖を駆け上がっている途中が亀裂になっていたらどうするのです?』
「崖っ……地球でそんな登坂力があるのは野生のヤギとかカモシカくらいで、そもそも崖を登ろうとする事自体が稀といいますか……」
言葉を失うオレの脳内で、栗毛のヤギに跨がったエリキュール保安官が、グランドキャニオンの険しい谷間を全力疾走していく……
「ああ……ちょっと待って、分かった。分かりましたよ。もしや保安官の故郷は、断崖絶壁の上下で街が形成されていたりなさる?」
『それは勿論! ダウンタウンは既に商業施設や農地でいっぱいです。少しでも懐に余裕があるならば、アップタウンに家を建てたいと思うのが人の常でしょう。まあ、本官らのような宮務めは、もっぱら下層で宿舎暮らしでありますがね、ハハ』
……いや、ダウンタウンがそこまで物理的な意味で使われてんのはじめて聞いたわ。
「ははあ、どうしてお国ではそこまでポニーが親しまれているか、なんとなく理解できました。つまり昔から峡谷を隔てた上下移動が多かったから、そこを強硬突破できるポニーという生物が重宝された……違います?」
オレが見事な名推理を披露した……のだが、保安官はグルォオンと唸り声。
『うむむ……半分正解と言ったところですかな。それだけならばポニーでなくとも良かったでしょうが……彼らはね、鼻が利くのです』
「嗅覚? それは保安官がたも同じでは?」
実は保安官達キュラソ星人、めちゃめちゃ鼻が良い。
さっきなんか、廊下を歩いてる段階からもう「この様子だと、相当に質の良いガソリンを用意してくださったのだな」とか「なんと! ガソリン以外も取り揃えてあると見える!」とか匂いだけで腹を空かせて喜んでいた。それもエレベーター乗る前からだ。
恐らく部屋に運びこんだ時の残り香を嗅いだのだろうが……この時点で地球人より何倍も嗅覚に優れている。
もっとも、そんなに優秀な鼻が彼らの顔のどこにあるかは、未だにサッパリだが……
『それが我々以上に。確かに、御覧の通り本官らは嗅覚に並々ならぬ自信がありますが……流石に地下に埋まっている油の臭いまでは分かりません。ですがポニー達はそれをあっという間に探り当てて教えてくれるのですよ! まあ、食い意地が張っているといえばそれまでですが……』
あー、あれだ! オレそれ知ってる!
豚にトリュフ探させるやつだ!
『キュラソーへの入植直後、そこら中を這い回っていた温厚な原生動物の習性に気付いたご先祖様が、一斉に手綱をとって湿原へ繰り出し、その鞍に跨がり一攫千金の夢がつまる大油脈を探したのが、我らのようなポニー乗りの始まりなのですよ』
「ゴールドラッシュならぬオイルラッシュか……まさにカウボーイそのものなんですねぇ……」
『カウボーイ?』
「さっき言った西部劇で、保安官のような人達の事をそう呼ぶんです。カウってのは牛って意味で……あれ? そういやなんで馬に乗ってんのに牛なんだ? まあいいや。多分、馬で牛を追いかけたんでしょう。地球人のカウボーイが牛追い人なら、キュラソ星人はさしずめ油追い人ですね。今でも、じゃじゃ馬を乗りこなすようなドライビングテクニックに優れた人を、尊敬と憧れを込めてカウボーイと呼びますよ」
『ほう! それは良い! ならば確かに我々はカウボーイだ!』
「はい! スペースカウボーイです!」
―――――――――
『……いやあ、食った食った。始まる前はキュラソ警官の名に恥じぬよう上品に振る舞わねばと思っていたのに、ついつい食べ過ぎてしまったよ。ソガ巡査。地球は良いところでありますな。ガソリンも美味ければ、貴官のような優秀な警官もいる。このような席を用意して頂き感謝の次第もない』
「お褒めにあずかり光栄です、保安官!」
会場を出ると、扉の前で待っていたアンヌが出迎えてくれる。
「エリキュール保安官。地球の食事はお気に召しまして?」
『うむ! 大変に美味であった! ……そうだアンヌ君。先ほどはあんな事を言ったが訂正しよう。どうやら君の忠告は正しかったようだ。部下には少々羽目を外し過ぎた者もいるらしい』
保安官が振り返ると、重そうに腹を抱えて歩く警官がいた。多分あの、酒ばっかり飲んでた奴だ。
「まあ! そんなに気に入って頂けたなら、これより喜ばしい事はありませんわ! ソガ隊員も用意した甲斐があったわね」
「羽目を外したと言っても、皆さんとても紳士的だったよ。あちらの人は、多分……目方を間違えたんだろう。どうやら地球とキュラソでは、ガソリンも酒も違うみたいだから」
「じゃあ念のためにメディカルセンターにご案内しようかしら。保安官、もし他にも体調が優れない方が出ましたら、すぐに私を頼って下さいね」
アンヌが笑顔でそう申し出ると、保安官はまたしても目だけをギロッと動かし、あのいまいちどこを見ているか分からない爬虫類じみた冷たさを湛えた視線で、彼女の事を見下ろした。
『……む? ソガ巡査ならいざ知らず、どうして君のような青二才に頼らなくてはならん?』
「え?」
急に保安官の態度が硬質化してしまったので、呆気にとられたように固まるアンヌ。
「ああ、それはですね保安官。こちらのアンヌこそが、この極東基地全隊員の体調管理を一手に引き受ける名軍医だからですよ」
『……な、なにっ? 警察医!? アンヌ君は警察医なのかっ!? し、しかし彼のような未成年に医者が務まるのかねっ!? ましてや我々は異星人で、地球人とは体のつくりが……!』
「うくくく……くふっ、し、失礼……いや、笑いごとじゃないんですが、ほんと……申し訳ない」
『ソ、ソガ巡査……?』
このいかにも人間……いや星人出来てますってな具合の保安官が、アンヌにだけは妙に冷たいというか当たりが強いのはなんとなく察していたし、その理由も薄々分かってはいたが……
今のでハッキリしたな。
「……保安官。こちらにいるアンヌ隊員の体格や体つきが、他のメンバーと比べて明らかに異なるのはですね……別に子供だからではなく、彼女が女性だからで……歴とした成人済みの大人です」
『……お、おんなぁっ!?』
保安官の絶叫が響き渡った。
こんな色気もへったくれもない「お前、女だったのかよ!」展開が目の前で繰り広げられることになろうとは……
『あ、アンヌ君……いやアンヌ巡査! き、貴官は……婦警であったのか!?』
「え、ええ……確かに、キュラソ星の皆様と地球人では生態が異なりますものね! はじめにこちらから申し上げておくべきでした。その視点を忘れるなんて、わたくしとしたことが医師としてお恥ずかしいですわ……」
『い、いやそんな事はどうでも良いのだが……待ってくれ、話を聞く限りウルトラ警邏隊は惑星外からの不法入星者や重犯罪者を取り締まる、最前線の実動部隊だったはずでは!? そ、そこに婦警が配属されていると……!? 正気か!? 第四次成長前の研修生ではなく!?』
……つまり、科特隊におけるホシノ君ポジと思われてたのか。
アンヌも当時の女性平均身長から見れば同じか、あるいはなんなら少し高いまであるのだが……本人が華奢なのに加え、普段から男性陣とほぼ同じ規格のフリーサイズヘルメットを無理矢理被っているせいで、ただでさえ小柄に見えがちなのに、成人男性でも特に屈強な精鋭軍人である俺達の中に混じるとそりゃもう殊更小さく見える。
筋肉ダルマで肩幅の分厚いフルハシや、長身痩軀を画に描いたような八頭身体型のアマギと並んでいると、まさに大人と子供。
おまけに他のメンバーは大抵○○隊員呼びなのに、アンヌだけはなぜか隊長どころか後輩であるはずのダン含め全員から一律呼び捨てのアンヌ呼びなので、これは一番下っ端と思われても仕方ない。
そして対する保安官らキュラソ星人はと言うと……みんながみんな、頭頂部から飛び出た光る触角まで含めりゃ2メートル越えとかザラにありそうなクソデカ種族だ。
その平均身長どころか最小金冠であろう若い警官ですら、確実に我が隊ぶっちきりでトップ……いやおそらく日本人としても相当な上澄みに入るアマギとも余裕で張り合えるような巨人共からすれば……まあ、なんかチビガキが生意気言ってんな、みたいな感想になっても仕方ない。
アンヌも、作戦室に通された保安官が真っ先に話しかけた相手が誰だったのかを思い出したらしく、納得顔でしきりに頷いている。
彼らキュラソ星人の感覚で言うと――それこそ前世知識込みでメタ的な事を言ったら当たり前の話なのだが――アマギのあの煙突ノッポこそが普通の大人で、彼女のようなトランジスタグラマーは、地球人の幼体か何かにしか思えねえんだな。
なんなら彼らはガチガチの上達下達で成り立っている軍警文化のようなので、上官を差し置いて半人前がしゃしゃり出て来たら、それを冷ややかに諫めるくらいはするだろう。
実際に先輩隊員を押し退けて出しゃばっているのは、むしろオレの方なのだが……
今回の場合は保安官らキュラソ星人が変なのではなく、仮にも軍隊組織であるにも関わらず、そこらへんの軍規がやけにゆるゆるな俺達ウルトラ警備隊が特殊すぎるだけだ。
「ええ、ですのでバリバリ戦えます。射撃の腕も私ほどではありませんがそこそこですし、なんならホークの操縦は彼女の方が上手いかもしれませんね。世にも珍しい戦う女医です」
『じょ、女性の身で羽根つきポニーも乗り回すのか……い、いやそれよりもっ! 知らなかったとは言え、ご婦人に対して先ほどまでの自分はなんと失礼な態度を……あまりにも申し訳ない……!! 許してくれアンヌ巡査! 本官は、本官はぁああ! グ、グ……グオオオオォォ……!』
おそらく自責の念で頭を抱え、その場に蹲ってしまった保安官を、ポカンとしたまま見下ろす俺とアンヌ。
その姿がなんとも忍びないというか……さっきまでの威風堂々とした態度と比べると、落差があまりにもあまりというか……悪いとは思いつつ、俺達は無言で顔を見合わせ……揃って小さく吹き出した。
気になる?
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8番目
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保安官
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補佐官
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星雲荘