転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
『ほほう! これが地球の陸ポニーですか! 姿は珍妙ですがなかなかの速度ですな! なんと快適!』
「お気に召しましたか、エリキュール捜査官。僕もね、このポインターを運転するのが大好きなんですよ。ほら、窓を開けると風が顔に当たって気持ち良いでしょう」
『ややっ、熱気が流れ込んでくる……外はこんなに暑かったのですか!?』
「ああ、基地は冷房も効いてるし、地下でしたからね。あれでも涼しいほうですよ。ダン、悪いけど窓閉めてあげて。保安官達は暑いの苦手らしいんだ」
「こ、これはすみません……」
警察署へ向かうポインターの助手席で、次々と後方へ流れていく景色に額を輝かせる保安官。
彼が窓から吹き込む外気の温度に驚くのを尻目に、俺は保安官の後部座席から、ハンドルを握るダンへと声をかけた。
聞いて驚け! ポインターは最新式なので、なんと運転席からボタン1つで全ての窓を操作できるんだぜ!
……え? なに、普通のこと?
うん、オレもそう思う。
窓の手回しハンドルなんて、じいちゃんの軽トラでしか見たこと無かったもん。
『おお、涼しい。空調完備という点では、やはりメタルポニーに軍配が上がりますな。しかし、ポニーの運転は肌で風を感じてこそだというモロボシダン警部の意見には、本官も同意いたしますぞ。この平野でこの速度であれば尚更でしょうなぁ。さぞ気持ちが良いことでありましょう。気温の違いがつくづく残念でなりませんよ』
「キユラソでは、あまり車を飛ばせないのですか?」
『そも勾配がありすぎて。このように道がならされておるのは商業地区くらいなものでありますよ。さもなくば貨物輸送の為にロコポニーが走る鉄路を通しているか。どちらにせよ、民間陸路の速度は望むべくもない。キュラソの大地がもう少し拓けておれば、今頃ポニーはポニーと呼ばれていなかったやもしれませんな』
「それはもったいない。でしたらエリキュール捜査官も車の免許をお取りになりますか? そうしたら、地球でのドライブがきっと病みつきになってしまうでしょうね。僕のように」
今でこそ朗らかにそんな事を述べているダンであるが、こうしてさも車好きなベテラン運転手のような顔をしてはいても……実はコイツ、入隊時点ではまだ免許を持っていなかったので、書類上はバリバリ新人ドライバーだったりする。
というかそんな状態のまま、一話で既にがっつりポインターを動かしているため、厳密には堂々たる無免許運転の前科持ちですらあるのだ……まあ、あの時は普通に緊急避難的行動だったのと、直後に超法規的組織であるウルトラ警備隊の隊員資格を得たので、そちらも遡及して無事に帳消しというか有耶無耶になってはいるけども。
「ダンは我々警備隊の中でも特にドライビングセンスがあるんですよ。免許なんて、ほとんど短期間のカンヅメで取得してしまったくらいですからね。だから、優秀なカウボーイである保安官ともこうして気が合うのでしょう。名人は名人を知ると言いますし」
『それはそれは』
一話時点のモロボシ・ダンもといウルトラセブンは、宇宙から来たばかりの風来坊なので、免許どころか戸籍もなくて当たり前っちゃ当たり前なんだが……これがもしも法の番人たる保安官にバレたらいったいどんな顔されるか分からん(この人ならそのまま笑って流す気もするがそれはそれとしてな)ので、今の発言についてオレは内心で勝手にヒヤヒヤしていたりするわけ。
……で、口を開けばそんな風にオレをやきもきさせてくれるダンではあるが、そもそも彼がこうしてハンドルを握っている理由も、俺の腕がギプスでこんな事になっているからであり、今日はダンが我々の足としてドライバー役をやってくれる運びになったわけなので、言動のフォローぐらいは喜んでさせていただきますとも。
……あ、ご心配なさらず。
例え免許取り立てのペーパードライバーであろうと、能力的には何の問題も無い。
彼の正体はウルトラセブンであり、テレパシーで我々警備隊の知識や経験をトレースしてポインターを動かすなんてことは、まさしくカンチコチンの朝飯前だろうし。
もっと言うならダンが運転好きなのも、M78星雲には車なんてもんが無かったからなんじゃないかとも睨んでいる。
だって彼ら、普通の距離ならわざわざ乗り物なんて使わなくても、自分の足で走った方がずっと速いし。
だから、地球に来て自分の肉体以外で移動する乗馬だとかドライブが新鮮でしょうがないのだろう。
なので、ダンは仕事の名目で趣味であるドライブが出来て得。オレは本日の足が確保できて得。保安官達は異星の見慣れぬ乗り物に乗る経験が出来て得。
三者三様の得があるわけさ。
というか正直、ダンがついてきてくれて本当に心強い。
普段の脇の甘さについては置いておくとして、彼は地球とキュラソ……というか宇宙? の両方にちょっとずつ通じている為、時として翻訳機を所持しているだけの保安官以上に通訳として頼りになるという側面がある。
なんなら、地球にやってきた宇宙人としても彼らの大先輩であるため、異星人ならではの視点や感性から、オレでも気付かないような地球の見所を紹介してくれる……はずだ。
現地ガイドとしてこれ以上の男はいまい。
別に今の時点では、そこまで裏の事情を察しているわけでもなかろうが、二つ返事で彼を補佐役に就けてくれたキリヤマ隊長には頭が上がらんよ。
これがボディーガードとしての強さ優先でフルハシとかだったら、車内はこうも和気藹々としてはいなかっただろうな。
『連隊長、見てください。あれらの緑は苔ではありません。噂に聞くYR星の直立草と同じものでは? 空から見た景色はやはり見間違いではなかったようです』
俺の隣では、幹線道路の向こう側に見える林を指差しながら、保安官の副官がグオグオと唸りながら何事かを訴えている。
『むむ、本当だな……しかし、地上からでもこれほど遠くを見渡せるとは……それに、どこを向いても氷が無いぞ。どうやらアマギ鑑識官が仰っていたのは本当の事らしい。驚くなアイオーン、なんと地球には霧が無いのだ』
『ははあ、どおりで窓を開けても油の匂いがしないわけです。空気の透明度が高いからか、普段以上に様々な匂いを感じますね』
「ああ。確かに……そうでしょう? これが地球の自然です。緑豊かな大地の美しさは、どんな美術品にだって劣りはしないと、僕は考えています」
『ありがとうございます、モロボシダン警部。医務室で貴方が仰っていた意味がようやくわかりました。良質な油と、見渡す限りの飼料……この環境ならば、ポニーもさぞやよく育つことでしょう』
「ダン……彼、なんだって?」
「アイオーンさんも、地球の自然が気に入ったようですね。なんでも彼の実家はポニー農場をやっているらしいんですよ。この星でもポニーを育ててみたいと仰っています」
「なるほどね。大農場の跡取り息子か……」
額が嬉しそうにチカチカしているので、多分ご機嫌ナナメな訳では無いだろうが……念のため、会話相手のダンにも聞いてみたというわけさ。
『モロボシダン警部は、もうすっかりアイオーンと親しくなられたようで』
「ええ、健康チェックの待ち時間でアンヌ共々お話を聞かせていただきました。彼女も別の星の方々がどんな暮らしをしているのか興味津々だったようで……アイオーンさんは物腰も柔らかく丁寧だし、すごくセンスがいい。まさかキユラソにあんなに綺麗な苔があったなんて。僕も知りませんでした」
「コケ? コケって、あの緑色の苔?」
「ええ。それが緑だけでなく、白かったり黄色かったり、少しだけ赤みがかっていたり……形も様々で、それが岩の上でうまくグラデーションになっているんですよ。たぶん、地球で言う花束みたいなものなんじゃないかな。ソガ隊員も、気になるならメディカルセンターに行けばまだ見れますよ。地球の環境じゃあ、あまり長保ちしないでしょうが、アンヌがとても気に入っていましたからね。意地でも長生きさせるって意気込んでました」
『緑に白や赤……もしや地衣板ですかな? アイオーン、地衣板なんていつの間に持ち込んでいたんだ?』
『当然でしょう。昔から女性は地衣類が好きと相場が決まっていますから。どなたかに愛妻家の方がいらっしゃれば、奥方へのプレゼントの方が喜ばれるものですよ。……いえ、素直に白状しますと、流石の私もまさか実働部隊のほうに婦警がおられるとは思いもしませんでしたけれど。……そうだ、聞きましたよ連隊長!! アンヌ監察医を男と間違えていたんですって? いくら顔や体つきが分からなくたって、彼女の物腰は明らかに女性のものだったでしょうに!』
『う……む。それを言われると弱いが……分かっていたのはお前とチェリンホードくらいなものだぞ。後から聞けば、みんな私と同じように……それこそ、あのエルメだってそうだったんだからな!』
『それはそうでしょうとも。エルメは自分の中の医学知識と照らし合わせたわけですから、うちの部隊でも彼だけは勘違いしても唯一許される。逆にチェリンホードの奴は人の容姿なんかこれっぽっちも興味ありませんからね。個人の歴史を表す記号ぐらいにしか思ってないでしょうよ』
「まあまあ、アンヌも気にしていませんから。おっと異星人同士ではよくある間違いです。アンヌも驚いただけで、特に気にしてはいませんでした。彼女は他人に優しく寛容な心を持っているんです。それが彼女の良いところです」
『第一、分かっていたなら一言いってくれれば良いじゃないか!』
『私もまさか皆さんがそこまで女性らしい気遣いや仕草に疎いとは思っていませんでしたよ。というより、年中女日照りのあの人達はともかく、連隊長はそんな調子でよく奥方に振り向いてもらえたものですね? 貴方が見抜けないのは駄目でしょうに』
「えっ!? 奥方!?エリキュール捜査官はご結婚されているんですか!?」
『そうなんです。驚きでしょう? 私も何度か夕食に招いて頂きましたが、美人な上にスープを混ぜるのが上手い素敵な方でしたよ。そうだモロボシダン警部。私は近くで連隊長を見ていて時々思うのです。どうやらこの人は、奥方以外の女性が全て石ころか何かにしか見えていないのではないか……と。』
『決してそんな事はないぞ!? ……ただ、本官には部下でも犯人でもない女をわざわざ区別する必要が無いだけだ』
『ね? ですので、この人が今回アンヌ監察医を男と間違えたのは、決して彼女に女性らしさが足りなかったわけではなく、そのにじみ出る有能さ故に、おそらく連隊長がいっぱしの警官として扱ってしまったからなのでしょう。でなければ、家の外にいる女性になんか声もかけなかったはずだ。奥方に浮気を心配されてしまいますから……ですよね? 連隊長? ハハハ!』
「ハハハ!!」
「みんな一斉に笑うじゃん……ねぇ、なんなの? 何の話だったの?」
いやダン、一緒になって笑ってないで、今のジョーク解説して? はよ。
やっぱ駄目だコイツ。通訳としてはあまりに向こうへ馴染み過ぎている。
いや、爆速で好感度稼ぐ分には別にいいんだけどね……?
正直、ダンの持つ天性の明るさというか無邪気さを舐めていた。
ウルトラ警備隊に馴染むのも光の速度なら、キュラソ警官と馴染むのも大差ないとか、とんだコミュ力お化けだぜ。これが陽キャのノリってやつか……こわ。
とにかく車内でひと笑いとれたらしい御曹司は、道路脇に植えられた街路樹を見ながら満足そうに頷いていた。
保安官の話では、この副官はそれなりに懐も余裕があるというか、手弁当で部隊の旅支度を整えられる程度には、方々への伝手があると思われる。
なんとかして彼らキュラソ星とお近付きになり、今後もなんらかの利益を引き出そうと考えているオレとしては是非ともパイプを太くしておきたい相手だが……そうか、ポニー農場か。
保安官の口ぶりだと、キュラソ連邦ではスペースポニーの原形となったらしい生物としての方のポニーが、今もたいそう大事にされているようなので、実家がその市場にガッツリ食い込んでいるというならば、独自のコネクションを持っていても不思議ではない。
ただ、なんでそんなエエとこのボンボンが警官なんぞやってんのかは知らないが……いろいろあんだろうな、キュラソ星人にも。
とはいえ、その情報を加味して考えてみれば、保安官が彼をずいぶんと頼りにしているらしいのも納得だ。
例えばエリキュール保安官を、集めた武将で国取りするタイプのゲームキャラに例えるなら、個人の武力や知力、ついでに仁徳といったステータスに極振りした典型的なゴリゴリの武闘派なのだろうが……その代わり、この調子だと政治力や資金力といった方面はおそらくゼロに等しいと思われる。
会話の端々からも、本庁とやらで散々っぱら冷や飯を食わされている様子が垣間見え、それがまたなんとも哀愁を誘うのだが……そんな叩き上げ一辺倒な保安官が、いくらミソッカスの扱いと言えども特別捜査官という大役に任じられて、こうして連邦警察の威信をかけた極秘捜査を担当していられるのも、本人の有能さだけでなくこの副官が裏からいろいろ手を回しているからなんだろうな。
ようは、彼が保安官の部隊における外付け政治力を担っていて、この実直で優秀な男が権力のしがらみや妙な政治的横やりに煩わされず、いつでもどこでもその能力を万全に発揮できるようにしているのだ。そう考えれば、結構良いコンビなのかもしれん。
互いが互いの長所で、相手の苦手な分野を補いあう……まさに俺とダンのようだ。
え? いったいお前が、完璧超人モロボシ・ダンの何を補ってるんだって?
ん~……ずる賢さ……ですかねぇ……?
冗談はさておき、集団においてそういう裏方的な役割はけっこう大事だ。
オレがいつもウルトラ警備隊の中で原作知識を使って好き勝手出来ているのも、キリヤマ隊長が普段から関係各所に取りなして便宜を図ってくれているからである。
そう考えると、この副官もまた俺が迂闊に足を向けて寝られないタイプの御仁というわけだな。保安官の気持ちはよく分かるぜ。
よく分かるんだが……なにせ言葉が分からんので、大してもてなしようが無い。
なのでこういった何気ない会話から彼の趣味嗜好を把握しておかねばならないわけよ。
そんな相手が外を指差してなんか喚いてたら気になるじゃん?
あと、なんか話がウケてたらそれも気になるじゃん……?
まったくキュラソニアンジョークってやつは、地球人にはちと難し過ぎるぜ。
『そういえば、先ほどからどうも同じ型の陸ポニーとしかすれ違いませんね? 大小の差はあれど、全て足の形が同じです』
『……確かに妙だな? ソガ警部、先ほどから同系統のメタルポニーしか道を走っておらんようですが、それはここが都会だからでありましょうや?』
「え? 田舎だろうが関係なくバイクもトラックもビュンビュン走ってますけど?」
『いえ、そういう事ではなく……どれも足が丸っこいといいますか……滑走式や匍匐をするものは? あと、ポニーが走ったにしては道が綺麗すぎる。もしや地球の人々は、近距離移動でも機械式しか使わないのですか?』
「機械式……えっ? もしかして生物の方のポニーもまだ現役なんですか!?」
『やはりか……ええそうですとも。現役も現役です。このように平坦な主要道ならともかく、住宅地は悪路や垂路が入り組んでおりますからなぁ』
「いや~……地球は馬や牛が廃れて久しいですからね。一応は公道も走れなくはないですが……」
『そうでありますか……それはなんとも寂しいことで。残念だったなアイオーン。地球では生ポニーに乗る者がもうおらんそうだ。お父上のポニーを輸出するには厳しそうだぞ』
『なんですって!? ……いや、この道の造りを見れば薄々分かります。一般人に至るまでポニーの機械化を普及できるとは……随分と先進的なのですね、地球は』
「先進的だと褒められていますよ、ソガ隊員。……とはいえ、お二人は残念そうですが」
『こんな事を言ってはなんですが……機械式だけでは、少々ロマンに欠けますな』
ロマン……ロマンかあ……
まあ、馬には馬の浪漫があるのは分かるが……あ、そうだ。
「ロマンですかぁ……いやいや、そういうお話でしたら、私はスペースポニーの方に宇宙的ロマンを感じますよ! そうだアイオーンさん。ポニーの輸出先として狙っていたと言うのならば、そっちの方はどうですか? なにか伝手があったりしません? 保安官、訳してください!」
『は、はあ……それは構いませんが……ソガ警部。スペースポニーなんぞ貰ってどうするおつもりですか?』
「どうするって……そりゃ、あの小ささであの航続距離! 例えキュラソとの移動に使えずとも、月や火星との連絡用なら……」
『あー……ソガ警部? 熱くなっているところ煙を吹き掛けるようで恐縮でありますが……この……ポインターですかな? こちらの運転方法を見るかぎり、地球人ではスペースポニーを乗りこなせないかと……』
「……えっ!?」
申し訳なさそうに額を点滅させながら、保安官がそんな事を言う。
……よくよく聞いてみれば、スペースポニーの動力とは……キュラソ星人の生体エネルギーなのだと言う。
つまり……スペースポニーを動かす為に必要な事は、操縦者自身がエンジンとなることらしい!!
だからこそ、ドライバーの身体能力がスペースポニーの性能を左右するという話になるわけで……
オイオイ、うっそだろ……!?
本人の体力が出力に直結するとか、それじゃあ変換効率が凄まじいだけの自転車じゃねーか!!
バイクどころか、電動自転車でしかなかったと……
え? じゃあなに?
あの死んじまった囚人、あいつママチャリで天の川渡ってきたのかっ!?
そりゃどう考えてもバケモンだわ……フルハシ隊員以上のフィジカルモンスターじゃん。
そんなん保安官でなくても一緒にせんでくれってなるわ。
そして、当然ながらそんなスペースポニーだけ貰っても地球人には動かせねえし、宇宙船技術にも転用できねえ。
この星においては完全なる
「 ば な な 」
『モロボシダン警部。ソガ警部がいきなり干からびたポニーのようになってしまいましたが。これは……地球人的には標準行動なのでしょうか?』
「あー……地球人的かは分かりませんが、彼はよくこうなります。ご心配いりません」
『そうですか……でしたら加温剤はご入り用で?』
「いえ。彼は禁煙中です……あ、そろそろ着きますよ! ソガ隊員! 戻ってきてください!」
「……あ? ああ、スマン。ちょっくら魂だけで成層圏をひとまわりパトロールしてきたところさ」
……いかんいかん。
あまりにもショックすぎて意識飛ばしてたわ。
そんなオレのちょっとした照れ隠しを聞いた保安官が、慄いたように額を緑色に瞬かせる。
『なんと!? 地球人は精神を肉体から引き離して遠隔操作が出来るのですか!? それはまさしく噂に聞くユーリー星人のような……』
『ふむ。それはすごい』
「え? あ、ハハハ!! いやいや……今のは地球人流のジョークです。当然ながら、彼らにそのような芸当は出来ません。これは、誰でも分かるぐらい常識的に不可能な事を、わざと得意げに言ってみせる事で、遠回しに「私は言い訳を述べています」と周囲に認識させる手法のようです。ソガは特に、この類の冗談を好みます……まったくもう、ソガ隊員」
『ほほう。そうだったのですか。地球にはそのようなユーモアが。これは面白い。ふむふむ、ブラザーはどんな時でも警邏任務に励んでおられると。まさに警官の鑑でありますな? ハッハッハ!』
手間をかけさせてすまない、ダン。
代わりに説明ありがとう、ダン。
……そしてやめてくれ、ダン。
お前が善意100パーセントなのは分かっているが、他人に自分のネタ解説されるなんざ、関西人にとっちゃ死刑判決に等しいねんぞ。
確かにこれは、宇宙人相手に常識ベースの笑いを不用意に放ったオレが全面的に悪いよ。自業自得だ。認めよう。
でもな……もっとこう……手心というか……なあ……
……殺してくれーっ……!
「ああでも……聞いてくださいよ、お二人とも。ソガはいつもこの調子で、先ほどのようなジョークをよく口にするのです。そのくせ彼は、普段から本当に幽体離脱か未来予知でもしているんじゃないかと思うような推理や先読みをしたり、他にも普通ではとても考えられない活躍ばかりするんです。だから周囲からは、はたして今みたいな発言の数々が、ただの純粋な自慢話なのか、それとも本人としては冗談で言っているのかがいまいち判別もつかなくて、みんな非常に困っているんですよ! ……これ、彼には内緒にしておいてくださいね?」
『ハッハッハッハッハ!』
『ハッハッハッハッハ! それは困った! 本官は口が軽いので、うっかり喋ってしまうやもしれませんぞ! ハッハッハッ!』
「こりゃあ、参ったなぁ……口が滑ったかも。ハハハハハ!」
……なにわろてんねん。
「なになに? 今なんて言ったの? なんでこんなウケてんの?」
「いやいや。『ソガ隊員は素敵な人だ』と言っただけです。ねえ、みなさん?」
「いや、ぜってえ嘘だろ。少なくとも三行以上は喋ってたぞ、今」
「キュラソ語は日本語とは違いますからねぇ……」
……本当か……オイ?
そう言って、悪戯の成功したような顔でクスクス笑うダンを訝しんでいると、隣のアイオーンとかいう副官が、巨大な掌で俺の肩をポンポンと叩いてくる。
『貴方は愉快な人ですね』
「……ねぇ、ダン。この人、今なんて?」
「それはもう! ソガ隊員は優秀だし、ユーモアもある上に宇宙人の面倒見も良くて、よく頭の回る素晴らしい人だと褒めておられます! こうして極秘捜査に協力する傍ら、地球とキュラソ連邦の交流にもしっかりと心を砕くなんて、なかなか出来る事ではない……と」
いやめっちゃ喋るやん!?
「今のたった3文字程度にそんだけ含まれてた? 本当に? どう聞いてもグオが3回だけだったけど!?」
「日本語はキュラソ語と違いますからねぇ……」
一つの鳴き声に複数の意味が含まれるタイプの言語なのか?
だとしたら、とんでもない圧縮言語だぞ……
しれっとした顔でそんな事をのたまう彼の隣……助手席では、角を七色に発光させつつゲーミング宇宙人と化した保安官が、それが周囲に漏れないように額を抱えてひたすらガラガラと大笑いしているので、絶対これはダンが俺を揶揄っているに違いないと確信する。
まさかお前にこれほど笑いの才能があったとは。
常々おもしれー男だと思っていたが、これはおもしれーの方向性が違うぞ……妬ましいぜ。
「そ、そんな顔しないで下さいよソガ隊員……あ、ほらほら。着きましたよ、エリキュール捜査官! こちらが正真正銘の地球における警察署です」
『あっという間でありますな……! 楽しい時間をどうもありがとう。さて、ここからは気持ちを切り替えて臨まねば!』
気合いを入れるためか、シガーをひと吸いしてから白黒に色分けされたヘルメットを被り直す保安官。
「……ん? さてって……保安官も降りるんですか?」
『当然、そのつもりでありますが?』
「いやいや、俺とダンが話聞いて来ますから、お二人は車内で待ってて下さいよ。現場写真とかも貰ってきて……」
『何を仰いますソガ警部。昔から人の話に匂いはつかぬと申しますでしょう。本官の捜査はいつも、この目で見て、聞いて、嗅ぐ! これで今まで通してきたわけでありますれば』
「し、しかしですね。街中でいきなり保安官みたいなおそろ……体格に優れた異星人が闊歩していたら、それだけで一般人は驚いてしまうと言いますか……」
『……ああ! そういう事でありましたか! それならば心配ご無用! えっーと……何処だったかな……』
『……視覚フィルターのボタンならこれですよ、連隊長』
『うむ! でかした!』
俺の隣からニュッと伸びてきたアイオーン副官の鋭い鉤爪が、保安官の被ったヘルメットの側面をポチりと押せば、彼の姿が急にブレて……
『さあ! どうですかな!?』
「……どうですかも何も、まったく変化ありませんが」
『えっ!? そんな筈は……おかしいでありますぞ……ア、アイオーン? コレ、壊れて……』
『……連隊長、ソガ警部達はもとより視覚フィルターの対象外です』
『……そ、そうであったな! うむ、うむ。ご安心めされよソガ警部。このヘルメットには、他者の認識を阻害する簡単な視覚フィルターが仕込まれておりまして。貴官は既に本官の姿を知っておりますが、そうでない者から見れば、今の本官は地球人に見えているのです!』
「……お、おお~! ……本当に?」
その仕組みだと、俺達からは確かめようが無いんだが。
「……あ、大丈夫ですね! 確かに地球人の顔になっていますよ! ははん、モデルは外国人の方ですか? 確かにそれならば、皆さんの背が高くてもさほど違和感が無い」
「……は? ダン? お前……ちゃんとその……フィルター適用したって方も見えてんの?」
感心したように頷くダンを思わず二度見する。
「え? ええ、少しコツが要るんですよ。つまり……彼らとは初対面だと、自分の目に思い込ませればいいわけです」
「……うん、じゃあ無理」
お前……ホントに正体隠す気ある?
「エリキュール捜査官は渋めのハンサム、アイオーンさんは……おお! 相変わらずの美青年だ! かなり面影がありますね!」
『それは良かった。昨晩、ソガ警部にお薦めされたセーブゲキとやらのデータを参考にいたしました。そしてここに、貸して頂いた帽子をヘルメットの上から被れば……』
「すごい! どこからどう見ても白人の刑事ですよ! まるで映画の中から飛び出してきたみたいだぁ……」
……都会のど真ん中にカウボーイがいるのは、それはそれで問題なんだが……?
まあ、いいか。
もとから保安官達は遠目で見ればトレンチコートの集団みたいなもんだ。
外人に不慣れな昭和初期の日本人が相手なら、これでも充分に誤魔化せるだろ。
顔の長さだけで人間の三倍はあろうかという、明らかな異星人シルエットでさえなけりゃ別にいいや。なんだってさ。
―――――――――
ウルトラ警備隊が二人に、謎の長身カウボーイが二人という、こんな人目を引きまくって仕方がないようなトンチキ集団でも、向かった署内では、ダンの先導のおかげかスムーズに話が進んだ。
奥から出て来た刑事さんが、ダンの顔を見るなり、腕を広げて歓迎してくれる。
「やあー、モロボシ隊員じゃありませんか。基地からお電話頂いて緊張していたんですがね。貴方でしたらいつでも歓迎ですとも。今日はいったいどのような御用向きで?」
「これは刑事さん! 先日はどうも」
「……知り合い?」
「ほら、メトロン星人の毒タバコ回収。あの時お世話になりまして」
「ああ! その節はご協力頂いて大変ありがとうございました! 同じくウルトラ警備隊のソガです。どうぞ宜しく」
「……おや、あんたが例のソガさん?」
例の? 例のって……何?
「……はて? どのソガかは知りませんが、ウルトラ警備隊にソガは私一人ですので、恐らくそのソガでしょうね。……あの、失礼ですが、私が何かしでかしましたでしょうか?」
「いやいや! しでかすなんてとんでもない! あの緑の化け物、おったでしょう? 人の体から草が生えてくる事件! あれを真っ先に軍で回収するよう言ってくれたんですって? いやあ、始めは何を横暴なとも思いましたが、後から顛末を聞けば正直助かりました。そんな恐ろしい相手、うちらじゃとても太刀打ちできませんからね。こっちは人間のバカ共で、もう手一杯ですわ」
「なあんだ、それを聞いて安心しました。いやホント皆さんの縄張り荒らすような真似してすみませんね……本当は宇宙人なんて全員こっちで相手すべきなんですが、俺達だけじゃ手が足りないもんでねぇ。いつも助かっております!」
「いえいえ! 天下のウルトラ警備隊をお手伝いできるなんてむしろこっちが光栄なくらいだ! これでようやくカカアにデカい顔できるってなもんですわ……そちらは?」
「あ、こちらはニューヨーク支部からの特派員で、エリキュール特別捜査官と、その部下の方」
「へえっ!? ニューヨークから!? これは弱りました。あたしアメリカ語はさっぱりでして……それともエゲレス語?」
「ご安心ください、彼は日本語ペラペラですよ」
『この度のご協力感謝する! エリキュールだ! よろしくケイジ殿! こちらはアイオーン。彼はこちらの言葉に不慣れでしてな。挨拶はご容赦願いたい』
「お、おお! こりゃすごい……ん? あんた、よく見りゃ男前だね? この前映画に出てなかった? ほらあのマカロニなんとかの……栗と……」
『ハハハ! よく似ていると言われます』
「……うーん、あの人にしちゃ、笑い方がちょっと豪快すぎるね? もっと眉間にしわ寄せてニヒルにしなきゃさ……。で? そんな外人さんがこんな場所にいったい何の御用で?」
『実は……最近にわかに児童誘拐、あるいは幼児の蒸発が相次いでいたりはしませんでしょうや? ここ数週間と睨んでいますが』
すると、先ほどまではニコニコと人好きのする笑顔を浮かべていた刑事さんが、急に真剣な顔つきになって声を落とす。
「……へぇ、耳が早いね? 流石はウルトラ警備隊だ。……そんで、あんたらが動いてるって事は……このヤマ、そういう事かい?」
「……はい。一連の犯人は宇宙人である疑いが濃厚です。それも、他の惑星で相当に悪名高い誘拐犯であると、信頼できる筋からタレコミが」
「……チッ! どおりで。おい! 例のヤマ! マルウだマルウ! 外の奴ら呼び戻せ! ……ったく、これでまた振り出しだ……」
「……なんかすみませんね」
「いや、あんたらが悪いわけじゃないんだが……こうも宇宙人案件ばかりだとね……よござんす。奥の部屋へ。いま掴んどる限りの端緒を集めさせます。……といっても、たいしたものはありませんよ」
―――――――――
「……デパート、遊園地……団地の中。現場に共通点はありませんね。位置もバラバラだ。強いて言うならば、子どもが集まりやすく、人通りも多いくらいか……」
『モロボシダン警部。この……布製のかごに、先ほどの陸ポニーの足をつけたような器具は?』
「ああそれは乳母車です。幼児を載せて移動する際に使うようです」
『ふむ、移動式のゆりかごですか。子どもはその中に居たにも関わらず、親は彼らが消えた事にしばらく気付かなかったと……この大胆さ。これは間違いなくルバンの仕業でしょうな』
児童連続誘拐事件の資料を囲んだ他の三人が、あーでもないこーでもないと、頭を捻っているのをぼんやり眺めつつ、オレは内心で改めて思う。
ルバン星人って……だれ?
オレはこれでもそれなりのセブンファンを自負しているが……そんなオレですら、ルバン星人なんてやつがセブンに出て来たなんて聞いた事もない。
だから、今回の事件なんて原作には無かったと自信を持って言い切れる。
だいたい、エリキュール保安官みたいな奴が出て来ていたら、オレは間違いなくキュラソ星人の事をペガッサ星人並みに好きになっていたはずだし。
ワンチャン、セブン以降の他シリーズに出ていた宇宙人達である可能性もなくはないが……とにかくオレの履修範囲からは外れてしまっているわけだ。
なので、この事件に関してはオレもまったくの初見であり、原作知識もへったくれもない。
原作知識の無いオレなんて、メンタルクソザコになった上、反応速度も原作ソガ隊員以下になっただけの単なるお荷物でしかないわけで。
そんな奴がはたしてルバン捜査に何か役立つ事ができるのだろうか……?
役立たないだろうなぁ……
今までにも、今回みたいな原作には影も形もなかったような事件が起きてびっくりする日があったが、そういう時はたいていオレがまったく心当たりのない突然の出動でパニクっている間に、他のメンバーがさっと活躍して事態を終息させてしまう事が多い。
なんならセブンのお世話にすらならなかったり……いや、だから原作で映像化すらされなかったのかな。
この前なんかも、ゴビとかいう人の欲望を栄養にして育つ宇宙植物が街中で大繁殖して、すわワイアール星人の再来か! ……と身構えていたら、キリヤマ隊長が全国放送で人々に呼びかけるという荒技でなんとかなったし……
そんなわけで、こっちに転生してからはこうして時々、原作では語られなかった舞台裏みたいな話がちょくちょくあるし、そういう時のオレは影が薄い。
今回もおそらくそういう回なのだろう、きっと。
だったらオレが今回するべきは、ゲストキャラであろう保安官とダンが、なにか上手い推理を思い付くためのアシストだな。
いわゆるワトソン役ってやつ?
例え、考えが合っていようが間違っていようが思い付いた事を次々喋れば良いだけなので、これほど気楽な事も無い。
オレが適当になんか言いまくれば、あとは勝手に彼らが閃いてくれる……はずだ。
「なら、こちらのベビーカーに何か細工があるのでは? ほら、あらかじめ作ったベビーカーに人を消し去る液体を染み込ませておいて、それを一気に売り出せば……あとは待ってるだけで、それを買った家庭から子ども達が集まってくる! ほら、ダン! それこそメトロン星人の手口みたいなさ! こうすりゃいつどこで子どもが消えるかランダムにできるぜ?」
『しかし、見る限りこの乳母車にはデザインの統一性がない。それぞれ別の製造拠点で作ったとすると……数が多すぎる。それに、一点モノを使い捨てにするのはあまりに非効率だ。証拠も残ってしまう……』
「そうですか……」
『ソガ警部が仰っているのは消去エネルギー源の事でありますな? 本官が、ルバンとケムールで手を組んでいた時期があると言ったのを覚えておられたのか。しかし……あれは鮮度が落ちると使えない。地球までの航海でとっくに干からびているはずだ』
「一味にケムール人がいて、補充しているのかも」
『ありえなくは無いですが……その可能性は低いと見ています。というのも、ルバンめらは以前に組んでいたケムール人組織を裏切って以来、奴らとは険悪なのです。その組織の影響力は大きく、裏社会のケムール人でルバンに手を貸したがる者はおらぬでしょう』
ふと、思い付いたようにダンが言う。
「では、途中で善良なケムール人を捕まえて、脅していたりは?」
『善良なケムール人……ですか。いかにもモロボシダン警部らしい意見ではありますが……いや、ウッダーガのような者が居た以上は考慮すべきでありましょうな。ただ……それはルバンの美学に反する』
「美学ですって?」
子供を攫うような犯罪者に美学もらっきょうも無いと思うが。
『奴はどこか、犯行を楽しむ……いや、その手際を見せつける事で、自身の力量を顕示しようとするきらいがありまして。そも消去エネルギー源を用いた犯行は使い古されています。これでは新規性に欠ける。なによりあれは不確実ですしな。そんな手法を使う為に、わざわざターゲット以外の一般人を誘拐してまで……ううむ……』
「ルバンの行動原理に関しては、保安官に一日の長がありますからね。貴方が言うならそうなんでしょう」
しかしこれでは本当に手懸かりがない。
ダンとアイオーン副官が、地図上へ事件現場をマッピングしながら距離を測ったりしているのを尻目に、現場写真や証拠物件を確かめていく俺達。
直前まで子どもが使っていた靴、パニックになった親が踏み潰したのだろうオモチャや汚れた着替え、果てはどさくさに紛れてスられた財布……
「どれもバラバラですね……」
『でしょうな。第一、これがルバンの犯行であるならば、証拠となるものを残していくとは思えない……』
「では、見てもあまり意味が無いのでは?」
『いえ、意味はあります。例えルバン本人には繋がらなくとも、被害者たる幼児達がどのような者であったかの理解には役に立つ。彼奴らは己の姿を巧妙に隠す事が出来ますが、盗まれた物品がそこへ確かに存在していたという事実だけは隠せない。我々は、その僅かな手懸かりを手繰り寄せねばならぬのです』
「なるほど……」
『現に、本官はこれらの物品や写真を通してようやく、地球人の幼体がどのような姿をしているか知ったわけでありますからな。捜し物がどんなものか、その内容すらも知らないようでは、見つかるものも見つかりませんよ……例えば……ほら!』
そうして保安官は、証拠品の中からひとつを取り上げて、少し戯けたようにそれを見せつける。
『本官はさっそく気付いた事がありますぞ! これらの物品を見る限り、連邦と地球では育児に関する文化や、その服飾までもが随分と違うようですが……しっかりと共通している部分もあるということです。それぞまさしく、幼児にはその年齢に見合った玩具を与えてやるものだ、という親の愛。いかに星が変わろうと、これだけは変わらぬようだ』
保安官がつまんでいたのは……赤ちゃんをあやす際に使うガラガラだった。
『懐かしいでありますな……』
「あれま、保安官もそれ使ってた頃があるんですね?」
『もちろんです! いくら本官とて星の殻から生まれたわけではありませぬ。……ああいえ、もちろん自分で使っていた記憶そのものはありませんが、なんどか写真を見たことがありますれば。こういうものは、いくら細かなデザインが変わろうと、造り自体は当時のままでありますよ。まさか遠く離れた地球でも、こうしてまったく同じ形のモノを見る事になろうとは思いませなんだが……なにもかもが違う二つの星が、生まれたばかりに触れる玩具だけは、まったく共通のものとして親しんでいる、というのも……なにやら不思議な縁を感じるでありましょうや?』
「へぇ~、キュラソでも使ってるんですねぇ、その……」
『おしゃぶり』
「ガラガラ」
「……ん?」
『……ん?』
気になる?
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8番目
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保安官
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補佐官
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星雲荘