転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「え……? おしゃぶり? 保安官、いまコレの事を『おしゃぶり』って言いました?」
『いかにも……そういうソガ警部はなにやら別の名前で呼ばれていましたが……もしや地球での呼び名は違いましたかな? これはどこからどう見ても、幼児の
「いやいや! 地球でもおしゃぶりはおしゃぶりって言いますけど、これはデカすぎるでしょ!! こんなもん赤ちゃんの口に入りますかいな! おしゃぶりはこっち!」
俺は、証拠品の中に紛れたいくつかの『おしゃぶり』を指差した。
すると、頭上からストロボのような光がピカッと降ってくるではないか。
きっとヘルメットの中では保安官が目をグルグルとまわしていることだろう。
『これが!? おしゃぶり!? こ、こんな薄くて小さいモノで、幼児の口をどうしようというのです!? これでは口蓋が固まらないばかりか、前歯が生えてきてしまいそうですぞ!?』
「いや、前歯は生えんと困るでしょ……って……もしや、キュラソ星人は前歯が生えると逆に困る?」
『……ははあ、そういう事でありますか。でしたら御覧になって頂いた方が早そうでありますな』
頷いた保安官が、白黒ヘルメットの側頭部を押せば、面の下半分がカシャンと左右に開き、彼の口が露出する。
『本来、我が星でも人に向けて舌を突き出す行為は不躾ではありますが御容赦をば。……勘違いしないで頂きたいのですが、本官も決して普段からこのような……』
「それは分かってますから!」
保安官達キュラソ星人は、ケムール人のような縦長の顔の下側に、ちょこんと亀のクチバシの如き受け口がついていて、ちょうど蓋のようになっていたりする。
そして彼らがグオグオと喋る度に、その口がくるみ割り人形みたいに上下へカパカパ開いて割とコミカルなのだが……角度によっては、そこから左右の鋭いキバがギラリと覗いたりするので、普通に凶悪なツラといえよう。
そんな恐ろしいツラの宇宙人が、多少恥じらいながらその受け口をスライドさせれば……牙と牙の隙間から、ニュッと黒い円筒状のノズルめいたものがせり出してきた。
『ファゴホゴォ! オグオグオグオ、ガアァ!』
「あの、それじゃ翻訳機が認識しないんで何言ってるか分かんないです……」
『……これは失敬。これが我々の舌です! よく御覧になってください。中心に穴が開いておるでしょう? ここに油を通す事で……われバゲ……ギガギガフォンフォン……ゴオアァォ』
「ふぅん……なるほど」
つまり彼らは、喉の奥に自前のストロー舌を備えていて、それを口から伸ばす事によって、ガソリンを啜ったり、逆に不凍液とやらにして噴射したりするわけか。
「その為には前歯が生えてきては邪魔なので、幼いうちからコレを噛んで矯正しておく必要があると……あー、よく見りゃ確かに蛇みたいな歯並びしてますね。真ん中にすんなり筒を通せるような……あ、いつもタバコ差し込んでんの、この隙間か」
彼らの口には、我々地球人のような唇や歯茎が存在していないので、こちらで言うおしゃぶりのような形状は、逆に保持することが難しいのだろう。
縦に長い筒状のモノを奥まで差し込み、口蓋そのものにフィットさせてからクチバシを閉じることで咥えているのだ。
茫然自失状態の保安官に、冷却シガーを与えて再起動させる際、なぜか動物園のゾウガメに人参をエサやりしている気分になってしまうのはそういうことか。
そして骨が柔らかい幼児のうちに上顎の形や歯並びを矯正し、ノズル舌の通り道を確保するためには、この一見ガラガラみたいな筒状のおしゃぶりを咥えておくのが一番だと……
「ちょっと失礼……ははあ。確かにサイズこそ違えど、未発達な舌の代わりに突っ込んでおくには良さげな長さですね。……うーん。キュラソ星人って生まれた時からデカいんだなぁ……」
地球人の赤ちゃんだと、アゴ外れちまうぞ……
試しに本来のガラガラとしても使えるかどうか、軽く振ってはみるのだが……
「……中でカラコロ言ってるけど、音出す目的としちゃ、あまりにも控え目だな。こんなんじゃどこの赤ちゃんも笑わねえぞ……」
『……ではこれは、ソガ警部の仰ったガラガラなる物品ではなく、我らキュラソ連邦で一般的に使われているおしゃぶりという事になりましょうや』
「……だとすると、そんなキュラソ星のおしゃぶりが、なんでこの地球にあんねんという話になりますから……」
「『これだ!!』」
俺たちのあげた大声に、ダン達も近寄ってくる。
「どうされました?」
『モロボシダン警部。これは地球製の物ではなく、キュラソ星で作られた道具です。そんなものが、この星で見つかる事など有り得ましょうや?』
「いいえ。誰かが外部から持ち込まない限りは……つまり!?」
「これはきっと、ルバンが誘拐に使ったなんらかの犯罪ツールに違いないぜ!」
赤ん坊の近くへ置いてあっても怪しまれないように、おしゃぶりに偽装してあったんだろう。
たまたま、地球でも似たような形の道具を使っていたから、これ幸いと流用したに違いない。
『アイオーン、今すぐこの物体をデータスキャンにかけるんだ。スキャナーはあるな?』
『はい。先ほどのポインターに積んであります。しかし私も内部構造だけでは用途までは流石に……それこそチェリンホードでもなければ』
「でしたら、ポインターの車載無線でそのデータを基地に転送してしまいましょう。アマギ隊員達なら、何か分かるかもしれません」
「善は急げだ! 刑事さんに証拠品の持ち出し許可を貰ってくる!」
俺が急いで部屋を出ようとすると、扉の向こうから先ほどの刑事がヌッと顔を出す。
「あいや、それには及びませんよ。ホラ、許可証。……どうせこんなこったろうと思いましてね」
「……恩に着ます! ダン!」
「はい! 行きましょう、アイオーンさん!」
『では連隊長。少々お待ちを』
異星のおしゃぶりを後生大事に抱えた二人が退出していくのを見送りながら、入れ違いで刑事さんがノソノソと部屋に入ってくる。
そんな彼の手を、グローブに包まれた巨大な手が包み込んだ。
『ケイジ殿! 感謝致しますぞ! なんと素晴らしい手際だ! 貴官らがアレを見つけてくれていたお陰で、捜査は新たな進展を見せました!』
「それはそれは。てっきり、よくてボウズと思っておりましたから、お役に立てたんなら、あたしらのメンツも立ちますよ」
「刑事さん、さっきのガラガラどこで見つけたか知りたいんですけど」
「ん、どれです? ああ、そこにあったやつ? それですか! それならあたしがよく覚えてますよ。そいじゃソガ隊員。この欄に今持ってった証拠品の番号と内容書いといてくださいな。えっーと……調書はどこだったかな……」
刑事さんがあらかじめ用意してくれていた用紙に、我々が証拠品を持ち出す際に必要な情報を埋めていく。
そうして俺が書類を完成させる間に、刑事さんが当日の調書をとってきてくれた。
「あー……ハイハイ。ありましたありました。さっきのガラガラは、つい昨日の現場で見つかった物ですな。正確には、落とし物として届けられた物です」
「落とし物?」
「ええ。昨日はウエダ夫妻の坊やがデパートで僅か数分の間に失踪しましてね。で、さっきのオモチャはその現場に居合わせた主婦が後から届けてくれたものなんです」
『後から届けた……どういう事ですかな?』
「ひとまずその主婦について述べますと、彼女は事件当日、生まれたばかりの末っ子と、小学校へ上がる前の次男と一緒に三人でデパートを訪れ、その二階にある子供服売り場でたまたま、被害者であるウエダ婦人とその坊やが失踪する直前に合流していたんですな。その時はまだ、赤ん坊がベビーカーの中で元気にしていたのを彼女も次男もしっかりと確認しております。そして、連れだって喫茶店へ移動するまでの僅かの間に、赤ん坊が忽然と居なくなっていた。その後は取り乱す婦人を宥めて警察を呼んだり、一緒にしばらく探し回ったりしていたんですが……まあ、成果はありませんで。その後、自身の子を連れて帰宅してすぐに、次男が見慣れぬオモチャを持っている事に気づいたと」
「なるほど、子供が拾っていたわけですか。その子はなんでガラガラなんか拾っていたんです?」
「それがですな。元から母親が、背負った子をあやす為に次男へガラガラを持たせて、つど相手をさせていたそうで。しかしどうやら、事件直後のどさくさで走り回る大人達にぶつかって、それを取り落としてしまったようなんです。それで怒られると思ったんでしょうなぁ。咄嗟に近くへ落ちていた証拠品を拾って難を逃れようとしたんではないかと。厳密には拾得物横領ですが、なにぶん未就学児がしたことでして」
『ふむ……ではアレを、いつ、誰が、どのように使っていたかまでは分からないわけでありますな?』
「それがねぇ。始めはわたしらもその主婦も、ウエダ婦人が坊やに持たせていた物かと思っていたんですが……ご本人に確認して頂いたところ、このような物を買った覚えはない……と。しかしそれでも、たんこぶをこさえた次男が泣いて謝るんですよ。赤ちゃんのオモチャをとってごめんなさい! ってね。そらあ、物が物ですから赤ちゃんのオモチャには違いないわけですが……よくよく聞けばそうではなく、その子は落ちていたガラガラが、消えた赤ん坊の物であるとしっかり認識しておるようなんですなあ、これが」
すると、隣で保安官の額がキラリと蒼い輝きを放つ。
『ではアレこそ、幼児が失踪の直前まで握っていた物品である可能性が高いと? その子はそれを目撃していた?』
「……ううむ。それがなんとも」
保安官の追求に、腕組みをして唸る刑事。
「例の次男が変な事を言うんです。あのガラガラは『いじんのおじさんが赤ちゃんにあげたやつ』と」
『イジン……?』
「ああ、異人ってのは保安官みたいな外国人の古くさい呼び方です。いわゆる日本の外からやってきたガイジンを一纏めにしてそう呼ぶんですよ。それこそ、やんちゃな小さい子には時々……言うこと聞かないとイジンさんが連れてっちゃうよ! ……ってな具合に脅し文句に使ったりもするわけで」
『ははーん! こちらで言う「キャンダーに囓られるぞ!」というアレでありますか。本官も祖母によく叱られたものです。ハッハッハ』
「どこの国でも、悪たれの躾に手を焼くのは変わりませんな。かく言うあたしもそのクチでね! へへへ!」
「オレのとこは、しまっちゃうオジサンやら、勿体ないオバケやら、まあ百鬼夜行でしたよ。ハハハ!」
三人で笑いあう。
この時、それで少しばかりカドのとれたらしい刑事さんが、ちょっと失礼と言いつつ取り出したタバコへ、手許の百円ライターで火をつけた瞬間、保安官がギョッとしたように固まってそれを凝視しているのが印象的だった。
保安官は刑事さんが吐き出したり、摘まんだタバコの先端から伸びたりする紫煙が、そのまま天井へゆらゆらと登っていくのを、しげしげと不思議そうに眺めている。
ヘルメットで詳しい目線は分からないが、微妙に上を向いて額から緑色の光をぼんやり漏らしているので、きっとそうだ。
「……話を戻しますがね。その次男は、赤ん坊が消える直前、背の高い異人が件のガラガラを渡していったと主張するんです。しかし、彼の母親もウエダ婦人も、そんな外国人は知らない、見ていないと言う」
「おや? それは妙ですね……あれかな? 母親達が喋りに夢中な間にサッと手渡したとか?」
『その男達の人相書きなどは無いのでしょうか?』
「その子に協力してもらって、証言から似顔絵も描かせてはみたんですが……」
渋い顔の刑事さんが見せてくれたのは……
「……うっわ。こりゃまたベタな……」
「でがしょ?」
『ベタ……とは?』
「おんや? コイツは、あんたさんのとこの方が詳しいんじゃ……それともこういう服装、そっちじゃやっぱり普通なの?」
「ああいやいや刑事さん。この人、テレビとかあんま見ないタイプの人でね……」
オレが思わず『ベタな』なんて口走ってしまったのには訳がある。
苦笑いの刑事さんが取り出した似顔絵というのが……
黒のスーツにシルクハット、ご丁寧に右目はモノクルが嵌まっているという……つまりどっからどう見ても、児童文学の表紙絵をそのまま描き写したかのようなベッタベタのアルセーヌ・ルパン像だったからだ。
「いくらなんでもこれは……」
ルバン星人だから見た目もルパンにしとこうって……それは安直が過ぎるだろ、円谷スタッフさんよ……
オレの呟きを別の意味にとったのか、刑事さんが頷きながら同意を示してくる。
「そうでしょうそうでしょう。この東京がいくら最先端の街とはいえ、デパートをこんなに目立つ格好で歩き回るような奇矯な奴がいると思いますか? 第一、こんな馬鹿馬鹿しい姿の男がいたら、誰も覚えてないはずがない。目撃証言なんざ聞かなくても集まってきそうだ。しかし、大人は誰も見てないってんだから……ねぇ? 直前に見た絵本かテレビとごっちゃになったんじゃないかと踏んでおりますよ。肝心の証言がこんな具合だから、果たして赤ん坊が持ってたという方も本当かどうか……」
『……』
「……」
やれやれと首をふる刑事さんだが、彼の目を盗んで我々二人は頷きあった。
間違いない。コイツがルバンだ。
ルバン星人が保安官の言うとおりの大怪盗なら、例え本人がどんな巫山戯た格好であろうと、地球人に誰一人見つかる事無く犯行を行うなど、まったく持って不可能でもなんでもない。
それどころか、仮に今回の事件をメタ的思考で……つまりウルトラセブンという番組内のお話であると捉えた場合、それぐらい外連味のある方が、よっぽど『らしい』のではなかろうか……とも思ったり。
オレは、ウルトラシリーズに出て来た敵宇宙人達をこれっぽっちも信用しちゃいないが、代わりにその所業がどれほど荒唐無稽なものであろうと、それを成したのがセブンの敵であるならば、これぐらいは確実にやるだろうな……という点には絶大な信頼を置いている。
なぜなら、ウルトラセブンは最高に面白い作品なので!
だからルバン星人がこうして我々の倒すべき敵として立ちはだかってきた以上は、人間からまったく視認されたりなんかしないし、神出鬼没でなくてはいけないし、衆人環視の中から赤ん坊を一瞬で消し去るなんて出来て当然なの。わかる?
とまあ、こういう信念のもと、こちらにダンがいる限り我々は絶対にルバンを逮捕できるという結論ありきで考えた場合。
明らかなゲストキャラである保安官が見つけ出した証拠品には、ほぼ100パーセント事件解決に繋がるなんらかのヒントがあるはずだし、それを持っていたこの怪しいルパンコスプレ男は十中八九、ルバン星人である。
というかルバン星人。
お前……ヒューマノイドタイプだったのか。
キュラソ連邦で活動してたって聞いたから、てっきり保安官達みたいな亜人型を想像してたぞ……
まあセブンに登場する宇宙人は、パッと見では地球人と区別がつかないような奴らが多いけどな。
なぜならその方が、着ぐるみスーツを作らずとも衣装代だけで安上がr……ゲフンゲフン。
宇宙人とは、決して人間と姿形が違うばかりではありませんよ、という世界観を深めるのに役立つからである。
シルクハットやマント、ステッキなんかの小道具は他の番組にいくらでも使い所があるので撮影所の衣装室を探せば地球上のどこにでもあるので手に入り易いし、たったそれだけの労力で、画面映え怪盗としてのインパクトをちびっ子聴衆の記憶へしっかりと残せるだろう。
それは逆に言えば、当該人物に対する印象の殆どが、本人の顔よりも特徴的な服装の方ばかりに紐付いてしまうと言う事であり、犯行後にそんな目立つ衣装を脱いでさえしまえば、人混みに容易く紛れる事が可能なので今後も役者を別人のエキストラとして使い回せるという寸法だ。
こうして考えればルバン星人……お前、随分と
いや、ダンの油断を誘えるような美少女ではないので、やっぱし減点か。
……ん? 怪盗?
ははあ。コイツさては、ご多忙に漏れずウルトラアイを盗む事で恒例の紛失回も兼ねてるな?
そうはさせるかってんだ。
後でダンにそれとなく注意喚起しておかないと……
つかなんで、こんなまるでセブンの敵として出て来る為に誂えたような造形してるのに、肝心の本編に出てこなかったんだよ……
……そうか。
スーツどころか、話自体をつくる予算が無かったからか。
悲しいなあ……
なにはともあれ……
どうだ! 例え原作知識がなくとも、ここがウルトラセブンの世界観であるというメタ認識さえあれば、そっから逆算した超速理解が可能なんだぜ!
これぞ転生チートよな。
……問題は、それだけではいつものように敵の先回りをすることが出来ない……という点だが。
それに、このオレ独自の考え方から導き出した答えは、この世界の人々からすれば狂人の誇大妄想以外のなにものでもないため、それを受け入れてもらう為には、少しばかり頭を捻って言い方を工夫する必要がある。
正直、この工程が一番面倒くさい。
『因みに、その子供以外の目撃者は?』
「いません。ひとりも」
「ふむ……だったらますますコレは確定でしょうね。このガイジン風の男こそ、我々が追っている犯人です」
「……え? この推理小説から抜け出してきたような男が、ホシだと?」
もっともらしく頷く俺に、信じられないものを見る目をよこすベテラン刑事。
「だからこそですよ、刑事さん。それこそ我々ウルトラ警備隊がこうして出張ってきた理由なんです。つまりですね、相手が宇宙人であるならば、むしろこの姿は非常に納得がいく!」
「ええっ!? 宇宙人がいくら地球の常識に疎いとはいえ……」
「そう! 彼らは地球の常識がない! だから、いくら地球人に変装しようとしても、どのような顔や姿に変われば良いか、その手本すらもないということ! 刑事さん、貴方もしも宇宙人の街に潜入しようとして、溶け込み方が分かりますか?」
「……あっ!? ははあ。言われてみれば、皆目見当がつきませんなぁ」
「そういうときにモデルとしやすいのが、そこら辺にあるポスターやら、書店に置いてある本やらテレビやら……しかして彼らにはそれが、流行りのものか、はたまた創作でしか目にしないような、ステレオタイプの古風なものなのか区別のつけようが無いわけですよ」
「なるほどなるほど! 流石は宇宙人の専門家だ! こりゃあ、あたしら警察が血眼になって捜しても見つからんわけです。いやあ、餅は餅屋ですなぁ……!」
「そうでしょうそうでしょう」
『……そ、そうだったのでありますかぁ……!』
なんでアンタまで感心しとんねん。
……あ、そういやこの人、今は映画スターの顔借りてんだった。
ははは、敵も味方も、オレが言った事まんまやってら。
こうして考えると……そこら辺の一般人をモデルにしたダンは、まだマシな方だったんだな。
あっちはあっちで、モデル本人とバッタリ出くわすリスクを全然回避出来てないけど。
「いやはや、相手が宇宙人となれば、やっぱり普段と勝手が違いますねぇ……やりにくいったらありゃしない。こんな時にあの人がいてくれたらなぁ……少しは違ったんでしょうが」
「あの人?」
「昔ね、あたしの先輩にあたる人がね、そりゃあ腕の良いデカで。いつもはうだつの上がらん風なくせして、いざという時には頼りになる人でした。それこそね、宇宙人の誘拐犯にだって敢然と立ち向かって、ついには追い詰めるまでいった凄腕で!」
「へぇ! そりゃ凄い!」
そんな人がいたのか。
まるでケムール人の話に出て来た、お爺ちゃん刑事みたいな人だな。
「お恥ずかしながら、あたしの吸っとるこの銘柄ね。あの人がよく吸ってたもんで、あやかるつもりで変えてみたんですが……そう上手くはいきませんな。言ってしまえば、変人の極みみたいな人だったから、あたしみたいな凡人がおいそれと真似できるわきゃねえんですが……いや、失礼。つい関係ない話を」
『いいえ。誰しも心に憧れの先達がおりますれば。相当に立派な警官であったとみえる。本官も、かくありたいものであります』
「因みにその方……今は?」
「いやあそれがね、例の宇宙人と刺し違えてしまったらしくて。事件そのものは解決したのですが、あれ以来、先輩は行方知れずでねぇ……まあ、もとよりヨボヨボの爺さんでしたから、それが無くとも今頃はとっくに引退していたでしょうが」
……ん?
「……その宇宙人、どんな奴だったか分かりますか?」
「あー……そういえば、パトカーをけしかけたのに、走って振り切られたとかなんとか……悔しがっていましたっけ」
……いやそれ、ケムール人やんけ!!
じゃあなに? この刑事さん、あのお爺ちゃん刑事の後輩なの!?
世間って狭いな……
いや違うか。
「ああ! その人なら分かりますよ!! あのにへらって笑う、ちょっと小太りの! 眼鏡の!! 扇子をパタパタやるあの人!」
「そうそうそう!! え、宇田川先輩をご存知なんですか?」
「ご存知も何も! いやー凄い人ですよね! 変な人攫い液をタバコで燃やして民間人助けるわ、ケムール人も拳銃で撃ち落とすわ……最後は油断して消えちゃうけど……」
「え、宇田川先輩そんな事されてたんで……?」
されてた、されてた。
画面の中でだけど。
まるで見てきたように語ってしまったオレの言葉に、ビックリ顔の刑事さん。
……おっと、マズイマズイ。
宇田川刑事はケムール人を倒した後に、奴が残していった消去エネルギー源の水溜まりに足をつっこんで一人だけ消えてしまうのだ。
だから彼の活躍を知っているのは、その時に守られていたヒロインぐらいしかいないわけ。今のはちょっと迂闊だったな。
つい興奮して。
「いやはは。当時、宇田川刑事が護衛されていた民間人の証言が、ウルトラ警備隊の資料室にあるんですよ。なにぶん、宇宙人関連の極秘資料ですから……今のは御内密に」
『ソガ警部……』
俺が口元に人差し指を当ててウインクすると、慌てたように両手で口を抑えて頷く刑事さん。
そのやりとりを見ていた保安官が、なんとも言えない黄色い光でこちらを照らしてきた。
……あれ? これ呆れられてる?
まさか、秘密事項を外部へ漏らすような口の軽い奴だと思われている?
それはまさしくその通りなのだが、せっかく稼いだ保安官からの信頼をここで失うわけにはいかない。
なので、俺はあたかも「いやいやこれも想定通りですよ」みたいな余裕の笑みと共に、彼らのよくやるフリフリ敬礼のハンドサインを、意味深かつ適当に送っておいた。
すると、途端に保安官の光が青く変わり、『ハイハイなるほどね』みたいな、感心した時の頷きをなんとか返して貰う事に成功する。
ふー危ない危ない。
ごめんな保安官。まるでこれも権謀術数のうちのひとつかのように振る舞っているけど、その実は特になにも考えてないよ。
貴方が最初に見抜いた通りだよ。
別にこの情報を刑事さんに開示することで、捜査に役立つ支援を何か得られるわけではないんだ。強いて言えば好感度くらいなものだろう。
しかし彼のように察しの良い人は、逆にこちらが余裕綽々な様子を見せれば、あとは下手な言い訳をせずとも向こうが勝手に都合よく勘違いしてくれるので助かるぜ。
こういうところは、ダンと良く似ているかもしれない。
『しかし、こちらでもケムール人が悪事を働いていたとは聞いていましたが……それを解決に導いた優秀な警官がウダガワとは。奇妙な縁もありますな。本官の故郷にも、良く似た名前の勇敢なものがおりまして……ウッダーガというのです』
「ほー。確かに少し似てますな。ちょいとばかし、ハイカラな訛りになっていますけども……」
「……ん? んん!?」
待てよ……?
いやそんなまさか……?
そのときオレの頭脳に電光走る!
……というほどでもないが、二人の会話をぼんやり聞いていて、あるひとつの仮説が浮かんできた。
いや、いくらなんでも論理が飛躍しすぎているというか、流石にそれはご都合主義が過ぎるのでは……という冷静な部分と、「いやでもこれ、昭和の30分特撮だしなぁ……」という部分が激しくせめぎ合う。
「あの、刑事さん……ケムール事件の関連資料も、こっちにあったりしませんか? 多分、その中に『2020年からの挑戦』って本もあると思うんですけど……」
「あるにはあると思いますが……それが今回の事件と何か関係が?」
「……ええ、あります。きっと」
「はあ……ま、ちょいとばかしお待ちを」
訝しげな刑事さんが、首を傾げつつ部屋を出て行く。
『いかがなさいました、ソガ警部? まだ消去エネルギー源に拘っておられるのでありましょうや? その……差し出がましいようですが、ブラザー。あまりひとつの推理に固執するのは、オススメいたしませんぞ。視野を狭める事に繋がりますゆえ』
「いや、違うんです保安官。その、大変申し訳ないんですが、ルバンに直接関係あるかと言えば無いといいますか、いや、あるっちゃあるかもしれないと言いますか……その……確証もない、単なる予想でしかないんですけど……」
『……ううむ。ブラザーにしては随分と煮え切らないご様子。なにをそんなに引っかかっておられるのですか?』
「……そのですね……ルバンのアジト見つけるきっかけになった、例のウッダーガとかいうケムール人……あれ、実は地球人だったりしません? ……か?」
かつて『ウルトラQ』においてケムール人は、地球人の若い肉体を求めてこの星へ人々を攫いにきた。
結局、その計画は失敗したわけだが……その中で一人だけ成果があったはず。ウダガワ刑事だ。
ウダガワ刑事は、劇中でもヨボヨボのお爺ちゃんなんて呼ばれたりはするが、それでもまだまだ現役……つまり定年間際としても60歳は越えていないわけで。
対するケムール人は、医療技術の進歩で脳以外を全て人工臓器に置き換える事で、寿命が100だか200だか言っていたような連中だ。そんな奴らからすれば、60歳なんてまだまだピチピチの若い肉体と言っても過言ではない。
なんなら、肉体の限界ってのも、もしかすれば同じ遺伝子をクローン生成しすぎた事によるテロメア限界の事かもしれないし……一度もクローン複製していない生の肉体があれば事足りる可能性だってある。
原作だって、あの誘拐ペースじゃ全ケムール人を救うにはとても追いつかなかっただろうし。充分ありえる範囲じゃないか?
……でだ。ここで重要なのは、ケムール人の肉体と地球人の肉体は、彼らの医療ベースで考えるならスペアパーツとして使えるくらい充分に互換性があるわけで……
保安官達が保護したケムール人……もしかして肉体だけは犯罪組織のお偉いさんとかで、中身の方は脳交換手術されたウダガワさんなんじゃないか!?
『……なんですって!? いや、しかし……年々、キュラソニアン人との違法肉体交換が増加している現状を思えば……』
「その人、確か言葉が喋れないだけで、気絶するまでの身振り手振りなんかはしっかりしてたんですよね?」
『……はい』
そら会話できるわけないやん!
そもそもいきなり声帯も違えば、例え喋れたとして周囲が使ってる言語からして違うのに日本語が伝わるわけねえんだわ!
「もしもウッダーガとかいうケムール人の正体がウダガワさんだとするなら……ルバンとケムール人組織が袂を分かつ原因となったのは、ルバンがウダガワさんの身柄を組織から盗んで独占したからなんですよきっと!! そして彼から地球の事を聞いてこの星へやってきた……どうです?」
『う……む……一見スジは通っているようでありますが……なにかを見落としているような……お気を悪くしないでください。ですがブラザーの推理には、必要な情報がいくつか欠落しているような気がするのですよ。いえ、随分と真相へ近いところまで迫っているようにも思えます。しかし、これではあまりにも一足飛びだ。それぞれの事実を繋げる要素。あるいはその足りないピースさえ集まれば……なにか……』
「そうですか……」
あー……こればかりは仕方ない。
なにせ、オレのは保安官のようなちゃんとした推理ではなく、メタ知識に基づいた当てずっぽうでしかない。
だから、今後の展開に関する大まかな雰囲気までは掴めても、実際に提示されるであろう細かい情報だとかはポロポロ取り落とした歯抜けになっているはずだ。
それを根拠にして動くのは……怖いよな。
わかる。オレもいっつもそうだもん。
『ともあれ、その懸念は一考に値するでしょう。本庁に連絡をとってみますぞ。尤も、ウッダーガの意識が戻らぬうちは確認のしようもありませんが……』
「確かに。そういや今は昏睡状態でしたっけ」
どちらにせよ、今回は空振ったか。
『ではソガ警部。本官からもひとつお伺いさせていただきたい。なにぶん、ケイジ殿の前で聞くには憚られますので』
「はいはい、何でしょう?」
『この、ルバンのものと思われる人相書きですが……ブラザーから見て、何かお気付きの点はありましょうや? 出来れば服装以外で、一般的な地球人の顔と区別のつく部分などがあれば……嬉しいのですが』
ふむふむ、なるほどな!
保安官達はわれわれ地球人の顔がイマイチ分からないので、人相書きがあっても何の意味もないわけか!
……え、まって? 今まで誰もルバンの顔が分からなかったのって……そういう事?
もしかしてコイツ、異形種が入り混じる社会に一人だけヒューマノイドのまま紛れ込む事で、顔認証不可能チートしてたってか!? 姑息なやっちゃなー……
「あー……うーん。そうして見ると……まあ変な顔……と言えなくもないか……」
『ほう! 具体的にはどのあたりが?』
俺の視線が、似顔絵のある部分に集中する。
それ以外はまさしくアルセーヌ・ルパンの挿絵をそのまま描き写したような姿なのに、ある一点だけが不自然に誇張されているからだ。
「コイツ……めっちゃ福耳なんですよ」
『フク……ミミ……』
「俺のこの耳の下ね。プニプニしてるとこあるん分かります? これを我々は耳たぶと言うんですが……それがね、この絵は異様に大きいというか、長いというか……ほら、肩のとこまで垂れ下がってるでしょ?」
『ほほう! 耳にあたる部分が肥大化していると!』
保安官の額に青い光が灯る。
「いや、ホントにそうかは分かりませんよ? 書き手の画風かもしれませんし……こればっかりは刑事さんに聞いてみないと。あとは……うーん……眉が無い? 書き忘れてるだけかなぁ……」
『いえ! マユとやらが何かは存じませんが、感覚器官のどこかが肥大化しているというならば、恐らくこれはルバン星人でまず間違いないでしょう!』
「お、それがルバン星人の特徴的な? じゃあ我々は福耳の奴を探せばいいわけですね? 刑事さんにも共有しときます?」
『ああいや、ルバンは変装が得意です。そのような先入観をもとに捜査すると手痛い逆擊をくらいますぞ。その上、捜査規模を下手に拡大しては、いつ彼奴らの耳に入るとも知れません。どうか、ここからは我々だけで事にあたりたく』
「了解です」
そうこうしていると、資料を抱えた刑事さんが戻ってくる。
「いやあ、お待たせしました。はい、コチラが関連資料と……仰っていた本はこちらですかね?」
「ありがとうございます!」
俺は彼から色褪せた小説……『2020年からの挑戦』を受け取った。
「あと、これ。お二人さんにどうぞ」
ついでとばかりに差し出されたのは……タバコと百円ライター。
「え? なんでです?」
「この間の回収で、駅前で売られていたのを手当たり次第に返品されたもんですから、当該品以外が倉庫に余っちまってまして……とても我々だけでは吸いきれませんから配っとるんです。それにそちらの方、さっきあたしが吸ってるのを羨ましそうに見てらした」
『やや! これはお恥ずかしい!』
「いやいや、同じ愛煙家のよしみというやつで」
お互いニコニコ(あるいはピカピカ)しながら受け渡されそうなソレを……
真横から素早く掠め取る俺。
「よしときましょう。この人、禁煙中なんですよ。お気持ちだけ、ね? 保安官、これは俺が預かっておきます」
「あれまあ、それはお辛い……」
キュラソ星人に可燃物なんか持たせてられるかってんだ!
そんな俺の言い草に、残念そうな刑事さんはまだしも、保安官は怒るでもなくむしろ爆笑していた。
……なになに? オレなんか変な事言った?
今のどこに笑う要素があったんだ……
俺がそうして訝しむ暇もなく、今度はダンとアイオーン副官が走り込んでくる。
「捜査官! ソガ隊員! 大当たりですよ!! アマギ隊員によれば、この装置はなんらかの送信器としての構造をしているそうです!」
「でかしたぞ!」
『やはりそうでありましたか!』
「ですが……」
既に充分なほどの緊張感を孕んでいたダンの表情は、そこからますますもって曇っていく。
「赤ん坊が忽然と消えた事からも、この装置は人間を信号化して遠くへ送信……つまり小型電送機の一種なのではないかとアマギ隊員は推測していましたが……どうやら壊れていて、それ以上の情報は分からないそうなんです」
『もしもアマギ鑑識の推察通り、これがテレポーターであるならば、我々が現場で分析可能な範囲を越えています。いくらチェリンホードであろうが、転送機、それも破損中ともなると……流石に専門外ですよ。それこそ本庁の鑑識に持ち込むべき案件かと』
『ううむ……しかし、そのような時間は無い。せっかくの手懸かりなのだが……』
ダンの手にしたおしゃぶりを囲み、なにやら難しい額をする三人に対し……俺は恐る恐る手を挙げた。
「……あの…………」
『おっと、申し訳ない! いかがなさいましたソガ警部?』
「それ……手持ちの人間転送機……つまりテレポーターかもしれなくて、でも直ぐには修理が出来そうにない……って事で、合ってます?」
『おおむねは』
「エリキュール捜査官の故郷ならあるいは可能らしいんですが、それでは間に合わないそうで」
ふむふむ。なるほどな。
良かった……だったら今回は、オレも少しは活躍できそうだな。
「それ直せそうな奴に心当たりあるって言ったら……信じます?」
『……なんですと!?』
「そんなまさか!? アマギ隊員だって匙を投げたんですよ!? 本当にそんな人がいるんですか!?」
驚愕する面々に対し、俺はニヤリと笑ってみせた。
「当然さ。転送機に関しては、恐らく地球でソイツの右に出る奴なんて一人もいないだろうぜ? なんたって、この星で唯一の専門家なんだから」
気になる?
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8番目
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保安官
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補佐官
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星雲荘