転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「す、すみません! 許可もなく人を勝手に上げてしまって……こ、これには……」
イチノミヤが焦って弁解しようとするも、鷹揚に頷いてそれを制すニワ教授。
「ああ構いません構いません。特にウルトラ警備隊のような、身分のハッキリとした方々ならば、我々の研究を他所に持ち込んだりはしませんから。むしろ、大歓迎ですよ」
「歓迎……ですか?」
「それはそうでしょう? キミのような有望な若者は、今のうちから学外の方々と面識を得ておく事が非常に大切です。成長の機会を喜びこそすれ、それを咎めるなどと。そのような権利は持ち合わせておりませんよ。……して、どうですかな、イチノミヤ君は。なかなか見所がある若者でしょう」
「ええ、それはもう……最初は危うく門前払いをくらいかけましたが」
「ハッハッハ。それは申し訳ない。なにぶん大学は研究機関としての側面も持ち合わせておりますのでね。無闇に人を入れるわけにもいかぬのですよ。他人の研究成果を持ち逃げして、自らの手柄として発表してしまうけしからん輩もまったくのゼロではない。ある程度の警戒は必要だ」
「うんうん。分かります分かります」
どの口で言うとんねん、どの口が。
『そちらの学生を勝手にお借りして申し訳ありません。訳あって所属は明かせませぬが、本官はエリキュール特別捜査官。ウルトラ警備隊と、ある重大犯罪の合同捜査中なのです』
「これはご丁寧に。ニワです。ありがたくも、本学で教鞭をとらせて頂いております」
表面上はにこやか、かつ親しげに、人畜無害そうな顔で右手を差し出してくるニワ教授。
保安官はその仕草に一瞬だけ戸惑ったようだが、それが先ほど俺達が警察署でやっていた『握手』の誘いだとすぐに分かったらしく、その手を握り……
そうになるより前に、俺が横から握っておいた。
よろしく、よろしくと愛想を振りまきながらぺこぺこ頭を下げる。
全員から、なんだコイツという視線が集中するが、無視だ無視。
特にこのニワ教授の前では、普段より2割増しで馬鹿っぽく振る舞わなければ。
『本日は、こちらの証拠品に関しまして、専門家のご意見を賜りたく参上いたしました』
「なんでもその事件に、宇宙人の電送機が関わっているとかで……」
「ふむふむ。それでうちのイチノミヤ君を。流石にお目が高い。……して、うまく行きそうかね?」
「は、それが……」
「ほー。それは残念だ」
歯切れの悪いイチノミヤ。そりゃあ、恩師の前で自らの力不足を認めるのは、さぞ悔しかろう。
それを聞くニワ教授の表情は、いかにも傷ましいと言わんばかりだが、その言葉からはどこか白々しい響きを感じてしまう。
それは、オレが奴の正体を知っているが故の先入観からなのだろうか?
「そうだ先生。お知恵を拝借出来ませんか? 先生にアドバイスを頂ければ、何か分かるかも……お二人も、よろしいですよね?」
「え……? う、うーん……」
いきなり問われて、思わず言葉に詰まる。
コイツを、秘密捜査に関わらせて良いものか……?
オレには即答しかねる。
なぜなら……コイツの正体は、侵略の為に地球防衛軍の秘密を探りに来た、プロテ星人のスパイなのだから。
恐らくルバン星人とは別口だろうと思われるが……いずれ倒すべき敵には違いない。
そんな奴に、例えどんな情報であろうとびた一文与えたくは無い……というのが、オレの嘘偽り無い本心なのである。
『……いかがなされた。警部』
「あ、いやいや! 流石にニワ教授ともあろう方のお手を煩わせるのもどうかとね……」
「まるで、僕の時間は自由にして構わないと言っているように聞こえますが?」
「そりゃイチノミヤ君はもう友達だし……でも、その友人がお世話になっている恩師にまで迷惑かけちゃ、君の顔に泥を塗りかねんだろ?」
「ハハハ。お気になさらず。私とて、平和を愛するいち市民に変わりはありません。こうして自らの研究に精を出せるのも、皆様が恐ろしい異星人を日々取り締まってくださっておるからです。であれば、この老骨のどこに、正義への協力を惜しむ道理がありますか」
「せんせい……!」
……よくもまあ、いけしゃあしゃあと。
しかし、オレがプロテ星人への対応を悩んでいるうちに、イチノミヤがさっさと話を進めてしまった。
彼は、教授の正体が宇宙人である事までは知っているものの、イチノミヤの頭脳を利用しようと企むプロテ星人によって嘘を吹き込まれ、あくまで善良かつ平和的な一般通過天才宇宙人だと信じきっている。
イチノミヤにとってのニワ教授とは、オレにとってのダンやエリキュール保安官のようなものと考えれば、こうなるのも致し方あるまいて。
「問題の電送機がこれなんです。おそらくこれは発信専用の子機で、どこかに固定式の巨大受信機があるはずなんですが……出力から逆算するのでは、とてもその場所を絞り込めそうにないんです」
「ほぉう……良く出来ている。因みに、これを用いて何を転送するのですかな。組成や重量は?」
『それはでありますな……』
「ゲフンゲフン! それには私がお答えいたしましょう! えっーとですね……およそ10キロ程度の有機化合物です。内容は水、炭素、アンモニア、石灰、リンに塩……あと硝石が……」
「……ああ、電送機を用いた幼児誘拐といったところですか。まったく嘆かわしい。そのような事にこの技術を用いるなど……。しかし、そうでしたらイチノミヤ君。君の数式に、安全係数として……この値を代入して再計算してみたまえ」
胸ポケットから取り出したメモに、数式か何かをサッと書き殴り、千切った紙切れを手渡す教授。
「……これは。随分な数値ですね? これでは性能をほとんど発揮できないと思いますが……」
「なんと言っても、乳幼児を電送にかけるのです。肉体も自我も、成熟しきった大人を再構築するのとでは訳が違う。もしも私ならば、負荷をそのぐらいに抑えて余裕を持っておかねば恐ろしくて使えませんよ。なにせ、人間というものは、驚くほど脆弱な生き物ですからなぁ……もちろん、手に入るものが死体で良いのであれば、その限りではありませんが」
「なるほど……てっきり本人が使うのだとばかり……安全率を考慮していませんでした。己の浅慮を恥じるばかりです」
「その点キミの作品は、そのような片手間造りの安物などよりも、安定性において明らかに優っている。自信を持ちなさい。あとは……イチノミヤ君。その送信子機から予想される、受信機側の要求出力は?」
「はい。我々で言うところの、ゼータパターンに匹敵するかと」
「ハッハッハ!」
「……どうしましたん?」
いきなり笑い始めるニワ教授。
こいつ口元だけで笑うから不気味なんだよな……
「いやなに、ずいぶん不用心なと思いまして。あるいは、よほどの自信家と見える。どちらにせよ、相手がこちらを侮っているならば、アナタ方にとっては歓迎すべき事でしょう」
「……といいますと?」
「イチノミヤ君の再計算が終われば、その範囲円が重複する箇所のうち、人気のない山間部があるはずです。そこを捜されるとよろしかろう」
にまりと笑う教授に、イチノミヤは不思議そうな声を返す。
「……どうして先生には、そのような事がお分かりになるんです?」
「簡単なこと。例え一瞬であろうが、それほどに大規模な設備を街中で動かせば、発生する磁場により、周辺の電子機器にまで影響が残ってしまう。そうなると、すぐに嗅ぎ付けられてしまいますからね。なにせ、ウルトラ警備隊は優秀だ。異常電波を見逃す筈が無い」
「なるほど……」
イチノミヤはしきりに感心しているし、オレも彼に習って目から鱗みたいな顔で頷いておくが、内心では腸が煮えくりかえる気持ちだった。
ようは、「お宅んとこのレーダー、この程度も見つけらんないのかよ、プークスクス」とでも言いたいのだろう。
どうやらルバン星人は、このクッソ嫌みったらしい産業スパイ以上に、我々地球人の事を舐めくさっているらしい。
それをよりにもよって、御同類であろう奴から助言の形で指摘される事になろうとは……ぐぎぎ。
見とれよ……ぜってー吼え面かかしてやるからな。
「算出自体は任せても大丈夫そうかね。イチノミヤ君」
「ええ、これならば……! ありがとう御座います、先生!」
「では、私はこれにて。是非ともお励みください」
『ご協力、感謝いたします!』
「ありがとうございましたー!!」
直立不動のまま、見よう見まねの敬礼で教授を見送る保安官。
いいんですよ保安官……あんなやつに敬礼なんかしなくても……
「お二人とも、もう少しお時間をください。すぐに計算してきます! ……そうだ、その間に紅茶でも飲まれますか?」
「いや、俺達は……あー……ダメ元で聞くけど、ブランデーとかある?」
「……は? ブランデー?」
「いや俺じゃなくて、保安官がね……」
「職務中に飲酒をなさるような方には見えませんが」
気持ちは有難いが、紅茶なんか貰ってもまた吐き戻すだけだろうし……
「あれだろ? 本場じゃ紅茶にブランデーをひと注ぎ……とかするらしいじゃん」
「……残念ながら、研究中にティーロワイヤルを楽しんでる暇なんか無いのでね! カップならそこに僕のがありますから洗って使ってください!」
ムッとしたまま戸棚の奥に消えていくイチノミヤを、オレは慌てて呼び止めた。
「待て待て! イチノミヤ! 忘れてるよ! これ!」
「何をです!?」
訝しげに振り向く彼へ、机の上に置かれたままだった転送機を押し付ける俺。
「……はあ。後は計算だけですので、実機はいりませんよ」
呆れたようなイチノミヤの前で、チッチッチと指を振ってみせる。
「分かってないなぁ……一応これって証拠品だからさ。これが終わったら保安官……エリキュール捜査官に回収されちまうんだぜ? ……多分」
「……それが何か?」
「オイオイ、ちったあ考えてくれよ……何のために俺がわざわざこれを君のところに持って来たと思ってんだい? せっかく実物が目の前にあるんだ! 写真撮ったり、何かの分析にかけるなら最後のチャンスだぞ!? いまなら捜査協力の名目で、大手を振ってデータを手元に残せるんだから!」
「……えっ?」
イチノミヤは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でその場に静止した。
オレは、まさか彼がここまでコレに執着を見せないとは思いもしなかったので、これは久しぶりに空ぶったかな……と、流石に不安になってきた。
「あれ? まさか、あまりに形式が違いすぎて全然参考にならん感じ……? ……いや、そんならゴメン。素人からしたら、いくら壊れてるとはいえ実物見るだけでも、何かしら研究の足しになったりするのかと思って……」
「……なんですか? つまり貴方は……僕の研究に役立つと思って、コレを持ってきてくれたんですか?」
「そりゃそうに決まってんだろ……?」
現状、地球初のテレポーターを完成させようという男だ。
プロテ星人以外にも異星人技術を山ほど詰め込んで学習させれば、きっと原作以上に完成度の高いモノが出来上がるに違いない!
そしたら月面基地や火星開拓地へ、わざわざホーク2号で何週間も行ったりきたりせんでも良くなるわけで。
宇宙パトロールのシフトが減るぞ!!
……と、思ったんだが。
「違ったのかぁ……すまん。もっと喜ぶかと思ったんだ。宇宙では既に実現されてるなら、君の理論もあながち荒唐無稽じゃないって、その筋道の補強になるんじゃないかと……しかもコレ、君のよりさらに小型化されてるから、応用すれば今後の改良にも使えたりするんじゃねえかとかさあ……いらんお世話だった?」
「……」
「……イチノミヤ?」
「どうして私に……そこまでしてくださるんですか?」
なんだか暫く呆然としていた彼は、思わずと言った様子で呟いた。
……どうして、か。
それはオレにも分からない。
「どうしてって言われてもな……」
オレは、はじめてイチノミヤの事を知った時……つまり、「ひとりぼっちの地球人」というお話を観た時に……
なぜ彼があんな事をしたのか、まったく理解出来なかった。
そもそも幼稚園児程度の未成熟な情緒では、人間社会の複雑怪奇極まる非合理な構造など、まったく知る由もない事なので当然と言えば当然なのだが……
どうしてイチノミヤさんは正しい事を言ったらしいのに、周りの人はそれを信じなかったの?
まずこれがわからない。
「いまから仲良くしとけば、完成記念式典とかで、人類初の転送装置を真っ先に使わせて貰えたりするかもしんないじゃん?」
その後も分からない事は続く。
なぜこの人はダンやソガ隊員、サエコさんの言葉を素直に信用しようとしないのか。
なぜ自分をこんなにも心配してくれるお友達がいるのに、地球から出て行こうとなんてするのか。
まったく意味が分からない。馬鹿なのかこいつ。
「それか、ウルトラ警備隊にその技術を卸して貰ったり……」
……いや、なんでそういう思考パターンになったのかが分からないなりに、「とにかくこの人は地球が嫌いなんだな。だから悪い宇宙人の言う事なんか信じるんだ」くらいの理解はできた。
だが、本当に分からなかったのは最後の部分だ。
悪い博士の正体を知ったその人が、機械と一緒に自爆して、目玉焼きみたいな宇宙人をやっつけた時。
それを観たオレは、とっても悲しくて、とっても怒った気持ちになったのを覚えている。
そして強く思ったのだ。
だったらそんなに嫌いな地球の事なんか、放っておけば良かったのに。
「というか、欲を言えばウチで技術顧問とかやって欲しいとか考えてんだけど……ダメか?」
「ぎ、技術顧問……!?」
あの時のオレは……そうだな。
あのエピソードの中で、ニワ教授が言い放った台詞にこそ、強く共感したといえる。
イチノミヤの唐突な翻意を観て抱いた気持ちを、次の瞬間には彼が完全に代弁してくれたからだ。
「あれほど地球を脱出したがっていた男が、今度はその地球を命がけで守ろうというのか! いやはや……地球人というのは、まったくわからん生物だ……!」
そうだ。あの時から、このイチノミヤという男は……オレにとって、まったく理解しがたい生き物だった。
好きなら好き。嫌いなら嫌い。
そのどちらかであるべきだろう。
本当に好きなものを嫌いと言う行動には、なんの意味もなければ、価値も無い。
その逆もまたしかり。
この世には、『
好きだけど嫌いだなんて、そんな中途半端が許されるものか。
本当に理解できない。
好きな相手は、自分に出来うる限りの全力を注ぎ込んで喜ばせる。
その為のリソースは、その他のモノに振り分ける分を切り捨てて捻出する。
それこそが……愛するという行為であるはずだ。
所詮、神ならざる我々ひとりが捧げられる愛なんて、たかが知れている。
いくら愛する気持ちが強くたって、俺達が他人に与えられる時間や、金や、能力には限度があるのだから。
自らの保有するものを、無限に他者へと分け与えるなんてこと、出来るとすればそれは最早ウルトラマンぐらいしか……
……いや、究極的にはウルトラマンですら。
「アマギだけじゃさあ……やっぱ足らんのよ!」
そしてイチノミヤにとっての地球は、嫌いか……さもなくば、どうでも良いか。
そのどちらかだったはずだ。
そんな……
まったく理解できない。
理解できない、理解できないけれど……彼の見せたあの覚悟だけは……
美しいと。
尊いと。
……心の底から思ったんだ。
それはきっと……オレの目には、その行動がウルトラセブンと同じように見えたから。
「君はその点、地球を愛する心は立派なモノを持ってるし、ガッツもあるし……」
多分……あの時にオレは、朧気ながら理解したのだろうな。
この世には、自分に理解出来ない存在がたくさんいるのだと。
だが決して……自分に分からないからといって、それが必ずしも悪であるとは限らないと。
……だからこそ分からない。
イチノミヤは間違いなく正しい事をしたのに……どうして死ななければならなかったのか。
正しく生きた者は、幸せになってしかるべきだろうと。
なぜならウルトラセブンが、モロボシ・ダンがそうあって欲しい、そうなるべきなのに……それは果たして違うのか?
正しさは……報われないのか?
なら、どうして人は正しく生きなくてはならないんだ?
小学生になって観る……分からない。
中学生になって観る……まだ分からない。
高校生に、大学生に……そして……
……いま。
目の前の男を見る。
……分からない。
オレは彼の正しさを、証明してやる事が出来るのだろうか。
「……あ、あと……サエコさんが昔お世話になった先輩らしいから。そういう意味でも普通に仲良くしたいという下心も……あったりする」
「……はは。そうですか。サエコくんの……」
その時はじめて、イチノミヤは今までの厭世的などこか影のある笑い方ではなく、大学生らしい自然な笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。たしかにその電送機は魅力的ですが……僕はまず、自分の理論だけでどこまで実現できるか試したい。もしもそれを参考にしてしまったら……それは、僕らの純粋な作品ではなくなってしまう気がして。だから、お気持ちだけ頂いておきます」
「そっか……」
「ああ、勘違いなさらないで下さい。貴方が今日、その実物を見せてくれたことは、間違いなく僕にとって、なによりも得難い経験になりました。なにせ、僕の電送機には……まだまだ先があるんだって事が、今この瞬間、はっきり分かったんですからね!」
「そうか! そりゃあ良かった! 俺にはアマギやニワ教授みたいに専門的で的確なアドバイスなんか出来んからなあ……せいぜいこうして、研究に役立ちそうな情報を持ち込むぐらいしか……」
オレはちょっと情けなくなって後ろ髪をかいた。
「充分です。僕には……それだけで、充分です。ですので実機のほうは、ソガさんからエリキュールさんにお返しを」
「なあ……また来てもいいか? そん時はアマギからの質問とか持ってくるからさ。ニワ教授も君が我々と親しくなるのは歓迎するだろうし」
ニワ教授の正体は、宇宙スパイのプロテ星人である。
自分の手駒を、調査対象がそうと気付かず取り込んでくれるなら、これほど楽な事も無いはずだ。
奴からしてみれば、イチノミヤを通じて何らかの情報を得られるかもしれないし、そうでなくとも信用度を稼げるなんて、棚ぼたもいいところだろう。
「別に構いませんよ、そんな用事がなくたって……。はっ! つい話し込みすぎましたね! もう少しばかりお待ちください。すぐに解を導いてみせますから!」
「……頼んだぜ、イチノミヤ」
つい口を滑らしたのか、ハッとしたように我に返ると急いで机に向かうイチノミヤ。
そんな彼の背中に頼もしさを感じながら振り向くと……エリキュール保安官が、なにやらヘルメットをガチャガチャやりながら、部屋の隅に蹲っていた。
「ちょ、ちょっと……保安官! ほったらかしにしていたのは謝りますから、妙な事しないでくださいよ! 地球ではね、桃の木の下で冠を正さずと言って……」
『ああ、失礼ブラザー。ただ……そうですな。我々は少し外に出ておりましょう。イチノミヤ氏の邪魔になってはいかんでしょうや?』
「え? ええ……」
促されるまま退出するなり、保安官は素早く左右を確認し、同じようにヘルメットの側頭部を弄くり回しながら周囲の壁を調べていく。
おっとこれは……ははーん。
なんとなく思い至る事があったので、しばらく彼の好きなようにさせていれば、ある程度気が済んだのか、ようやくこちらに振り返るなり、口を開いた。
『率直にお聞きします、ブラザー。先ほどのニワ教授……あの男、いったい何者でありますか?』
「何者……ですか」
『念のために周囲を検めてはみましたが、盗聴盗撮の類は一切ありませんでした。ですので、これは何ら確証の無い、一種の直感めいたものでしかなく……だからこそ、本官はいま判断をしかねている。部外者たる本官が、そんな不正確な推理をここで話すべきかどうか。もしも違っていたとすれば、ただ闇雲に先入観を与えかねず、しかし、もしもブラザーがお気付きで無いとすれば……』
そう言って、葛藤するように押し黙るエリキュール保安官。
……なるほど。
やっぱりあんたは……良い人だ。
だから、オレはあんたが好きなんだ。
「……それは、どちらについてでしょう? 彼の正体が地球人では無い事? それとも……」
『……っ!?』
「その本性が、普段見せているような無害なものではなく……吐き気を催すほどに邪悪な侵略者であること?」
保安官の額が、チカチカと瞬いた。
『……いやはや、お見逸れしました……てっきり……』
「というか俺は、保安官の鋭さに驚いてますよ。なんで分かりました?」
『目が……合いました』
「目が……? あっ」
今の保安官は、ヘルメットの機能で他人からは地球人に見えているはず。
もちろん、常軌を逸した面長であるキュラソ星人と、地球人の目線の高さはだいぶ違う。
もしもホログラムの顔に向けて話しかけたなら、それこそキュラソ星人の口と鼻の間……人中辺りを見つめる事になるだろう。
なぜなら、スーツの覗き穴は確かその辺にあった筈なので。
まあ、彼らの鼻が何処にあるのか未だにさっぱり分からんが。
それなのに、保安官の側からもバッチリ視線が合ったという認識があれば、それはつまり……
『別れ際に一瞬だけ。……それも、恐らくわざと。なんと大胆な奴だ』
「わざと……?」
『……その前にお聞きしたいのですが、ブラザーはそこまで分かっていながら、なぜ逮捕なさらないのです?』
「……証拠がない。奴が本心では地球を狙っているのだという証拠が……」
常に原作知識を元にして、敵が動く前に先手を打つのはオレの常套手段ではあるのだが……あまりに早過ぎても、それはそれで空振りしてしまう恐れがある。
原作知識は、あくまで原作と同じタイミングだからこそ効果を発揮するのだ。
プロテ星人の回は、今からもっと先の、それこそシリーズ中盤あたりにあるエピソード。今の隠し部屋に突入したところで、そこに防衛軍の秘密資料が納められているとは限らない。
テレポート装置や人工衛星を秘密裏に完成させるのは、別に悪行でもなんでもないしな。
安全性を確認できるまで発表を控えていました~とか主張されたらそれまでよ。
「まだ何の動きも見せていないのに、ただ宇宙人であると言うだけで、身分ある大学教授を連行するわけにはいかないんですよ……ウルトラ警備隊の立場的にね」
強引な手は一度しか使えないからこそ、使い処を見極めなければ、自分の首を絞める結果となってしまう。
それに、よしんば証拠を捏造して喧嘩を売ったところで、今のオレには奴を倒す手立てがない。
結局、原作においてセブンはプロテ星人に翻弄されるばかりで、本体どころかその分身すらも倒せなかった。
だから弱点も分からないわけで……
俺が代わりに転送機で心中する訳にもいかないし、イチノミヤを生存させつつ奴を殺す方法が、まったく思い付かないのである。
原作通りの解答を踏襲しつつ、誰も犠牲にならなくて済む作戦は、教授の使用時にピンポイントで手頃な死刑囚でも放り込むくらいだが……現実的ではないだろう。
タイミングがあまりにもシビア過ぎる。それが出来たら苦労は無い。
やはりプロテ星人を倒すには、イチノミヤの協力が必要不可欠といえる。
彼の信頼を勝ち取るには長い期間を擁するだろうし……結局のところ、原作エピソードの開始まで対決を引き延ばすしかないのだ。
最終目的としては原作をぶち壊しにしたいオレであるが、無事に最終回を迎える為には、なるべく原作沿いの行動を心がけなければならないというジレンマ。
『オリ展開は遂行する』『原作タイムテーブルも守る』
両方やらなくっちゃあならないってのが、転生者のつらいところだな。
覚悟はいいか? オレは出来てる。
『ふむ。それならば本官にも何度か覚えがあります。あれは歯痒いですなあ……』
「ですので、今はシッポを出すまで存分に泳がせている段階です。もちろん、エサは俺」
『ほほう! それはそれは! ふふふ。いやなに、ブラザーにも中々、頭の黒いところがお有りのようで……』
「幻滅しました?」
『何を! 共にルバンを追うのです。それくらいでなければ、いささか頼りない』
「そりゃ良かった。保安官も、捜査中なら立派に腹芸出来ると分かって安心しました」
二人でハハハと笑いあう。
『だとすると……これは言っても構わないでしょう。あえて本官を挑発する事で、あちらもウルトラ警邏隊の出方を窺うつもりと見える』
「あえて挑発? 保安官を?」
『もし本官の口から懸念が伝えられれば、貴官らはあの男に探りを入れたはずです。しかし現時点では、奴の周辺を無闇に突いたところで、警部の御懸念通り本当に何も出ないのでありましょうな。捜査が一度空振ると、二度目に踏み切るのはより困難を極めます。イチノミヤ氏からの信用も失墜する……うまい手だ』
「じゃあ、下手な探りを入れなければ?」
『その時は、本官が違和感に気付けぬほどの節穴か、聞いた上で放置するブラザーが大馬鹿者だったか。どちらにせよ、そのような手合いは警戒するに値しないでありましょうや……?』
「もしくはそのどちらでも無い代わり、確証が無くて動けない……今の我々のような」
どっちに転んでもニワ教授は現状を把握できるので得しかない。
本当に嫌らしい奴だな……
ところが、急にグツグツと喉の奧を鳴らす保安官。
『流石にそれは、あの男も考慮しておらんでしょう』
「……そうでしょうか?」
『ええ。なぜならその状況は……ブラザーが既に奴を疑っていなくては成立しない。本官の入れ知恵も無しに、自力で!』
「あ、そうか」
プロテ星人の視点から見れば、今日が初対面で、しかも単なる地球人でしかないソガ隊員が、この時点で自分の正体も目的も何もかもを知っているなんて有り得ない。
『ですから、あの男の思惑を……ブラザーの異次元的な閃きだけが覆し得る! いやはや、本当に感服いたしましたぞ! 貴官が味方でこれほど心強い事は無い! その推理力を少しでも良いから分けて頂きたいところであります!』
「あ、は……はあ……ははは」
いやごめんな。これただの原作知識やねん。
転生チートやねん……
過大評価もいいところなんよ。
保安官からキラッキラッした凄まじい期待感を感じる。
心情的にも、視覚的にも……
それはそれで……うおお……っ! なんか胃が痛くなってきた……!
これが非物理接触型の腹パンか……っ!?
新しいな……
『……因みに、出身星系も絞り込めていたりは……? もしかすれば、本官がさらに助言出来るやもしれません。具体的な種族特徴などで……』
「ああ。あいつはプロテ星人です」
『そうですか、プロテ星人。なんだなんだ、プロテ……』
「……保安官?」
うんうんと頷いたまま、ガッチリ固まってしまった。
どした? またフリーズか?
ギギギと油のきれたブリキ人形みたいな動きでコチラを振り向く保安官。
『……もしやプロト人。もしかプロテス星の事では……ありますまいな?』
「プロト? プロテス? いや、プロテ星人だったと思いますけど……まあ、宇宙での正式名称はそっちなんですかね? 響き似てるし。あの、頭に透明のビラビラ付いてて、目玉の大きな……」
『グオオ……!! そういう事でありますか!? してやられたっ!』
「してやられた?」
悔しげに地団駄を踏む保安官。
『申し訳ありませぬブラザー。ここからは他言無用で願います。実はプロト人というのはですな……あの、ケムール人、おりますでしょう?』
「おりますな」
『当然ながら奴らは、我が連邦以外の星域にも多数入植しておりまして……プロト人とは、そんな植民地のうち、奴らが何事かをしでかして生み出された新種族であるらしいのです。一説には……なんでも、人工生命体だとか』
「ほう! 人工生命体!」
いいねえ。SFチックな響きだねえ。
いわゆるホムンクルス的なアレコレか。
ワクワクするなぁ、流石はセブン宇宙だ。
興味津々のオレとは裏腹に、なんだか保安官は渋い色。
『ええ……ブラザーがお怒りになるのも当然です。あくまで、もともと既に存在する肉体をクローン複製するだけならばまだしも、まったく新たな人種を造り出してしまうなど……まさに宇宙への冒涜! 生命の禁忌に触れる行いだ……!』
「……えっ?」
『ああ、決してブラザーに勘違いしないで頂きたいのは、我が連邦のケムール人がいくら極悪非道の輩とはいえ、この件に関しましては、星の掟に反するような者共とは同一視などされたくないと、連邦全土を挙げての共通見解で一致しているということなのです。そこだけは、理解してやって頂けませんでしょうや?』
「は、はあ……まあ」
『良かった! 流石はブラザーだ! 貴官にならばお分かり頂けると……! ええ、分かります。分かっておりますぞその気持ち! 本官もまさしく今のブラザーと同じ事を考えておりますれば! まったくもって許し難いことこの上無い!!』
……いやごめん。
全然共有出来てなかったわ、その気持ち。
いいじゃん人工生命体……ダメなんか……?
つか、クローンは良くて人工生命体の何がアカンねや……???
『それで話を戻しますと……あまつさえ、その人工生命体が独立星系を自称し始めまして……それがプロト人なのです。なんでも奴ら自身ではプロテスと名乗っているようですが……なんにせよ、そのような暴挙が許される筈がありましょうや? 否! 断じて否! ですので、我が連邦はプロト人の存在を公には認めていない。いや、決して認められぬのです! ここまでは、お分かりか?』
「ま、まあ……」
なんだか匂ってきたぞ……
オレの嫌いな、政治というヤツの匂いが……
こいつぁクセェー!
『連邦はプロト人という存在を認める訳にはいかず、公式文書のどこにもそれを記載する事が出来ない。つまり、そんな言葉は連邦内に存在しないのです。しかし今日ここで、本官がウルトラ警邏隊に助言をしたとする。すると当然、後ほどブラザーが奴を検挙した暁には、その事が地球防衛署の調書に記される事となる。ではキュラソ連邦警察に所属する、特別捜査官なにがしの口から述べられた、このプロト人なる存在はいったい何かと言う事に……!』
「あー、つまり。俺が保安官の証言を根拠材料に挙げちまうと、キュラソ連邦という大国が、実はプロト星人を認知しているという事実も公式文書に残ってしまうと……そうなりゃもう、プロテ星人的には勝ちな訳ですね?」
どんな罠だよ。そりゃあ。
『どおりでいくら有効な策とはいえ、連邦警察官である本官の前でその正体を匂わすなど、よくも自ら危険をおかすような真似をするなと思ったのです! そちらが狙いであったか……っ!』
「まあまあ、安心してくださいよ。奴はあくまでプロテ星人ですから。そのプロト人だかなんだかとは別の存在ですよきっと。そういう事にしておきましょう」
『あ……危ないところでありましたぁ……! 』
なんだかややこしい奴らなんだな、プロテ星人って。
『本官はこれ以上、有益な情報提供が出来そうにありません。お恥ずかしい話、本庁の意向云々を抜きにしても、あまり彼らについて知っている事が無く……触らぬクプクプ、朝日を見ると申しますが、まさにそれを地で行く程に、我々連邦はプロト星周辺について無関心を貫いています。面目ない……』
「大丈夫ですって! そもそも相手がこっちを見誤ってるという事が分かっただけでも大収穫ですし」
『しかしブラザー、ゆめゆめ油断なさいませぬよう。どうやら相手は、ともすれば本官すらも手玉にとられかねない恐るべき知能犯です。おまけにその上、確信犯ときている。この手合いは、最後の最後までこちらを欺こうと、どんな悪辣な手を使ってくるか分かりませぬからな……これはルバンに勝るとも劣らない難敵と……』
その時、ガチャリと研究室の扉が開く。
「ああ良かった。てっきり帰ってしまったかと。中でお待ちいただければ良かったのに」
「イチノミヤ!」
「ソガさん、エリキュールさん。分かりましたよ! お二人の追っている敵の居所が!」
『本当でありますか!』
嬉しそうなイチノミヤが広げた地図は、先ほどよりもずっと縮尺の大きなものだ。
そこへ先ほど、ダン達が纏めた事件現場をマッピングしていき、それぞれを中心とした範囲円を描いていけば……
辛うじてそれら全てが混じり合う交点が浮かび上がる。
はたしてそれはニワ教授の予想通り、関東山地の中にあるのだった……
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「つまり僕らは、事件現場の中間地点ではなく、現場を全て同心円状の円周部分に配置できるような中心点を割り出さなければならなかったわけですね? 失敗したなぁ……どおりで装置がうんともすんとも言わないはずだ」
『まさかあのサイズで、そこまでの性能を有していたとは……小型だからと、せいぜいが短距離跳躍くらいにしか使えぬとばかり……ルバンの力を見誤りました。申し訳ありません、連隊長』
『構わん。本官もイチノミヤ氏にご教示頂かねば思いもしなかった事だ。普段のルバンが、比較的近距離の出没を繰り返すあまり、気付かぬうち視野狭窄へ陥っていたらしい』
ここは、山中の峠道。
イチノミヤが割り出してくれた地図を元に、ルバンのアジトがあると思しき地点までポインターをかっ飛ばしてきたのだ。
合流した直後のダンとアイオーン副官は、さっきまでの捜査が完全に空振りと終わったため、揃って肩を落として、傍目からでも分かるくらい悄気ていたのだが……
今度こそは名誉挽回とでも思っているのか、双眼鏡やら件の調査装置やらを片手に張り切っている。
今も、保安官と角を付き合わせての反省会議中だ。
……俺? 俺はポインターの隣で、辺りを警戒するフリしながらサボってるよ。
森が鬱蒼としてるから視界もあんまり効かんしね。
こっからは山の中に踏み入っての捜査になるため、利き手も使えないスナイパーは恐らくお役御免だろう。
俺の役目はここに残って基地への連絡中継役兼、いざというときにポインターの各種武装を使っての援護射撃役だ。
例え運転が出来なくても、レーザーやミサイルで固定砲台くらいは出来るからな。
「しかし……それならどうして個人用の、それも使い回し電送器なんてものを使うんでしょうか。その人の説明だと、使用後の装置をわざわざ回収する手間が発生します。現に、こうしてひとつ回収し損ねている。アイオーンさん。この方法は二度手間だと感じませんか?」
『ふむ。確かに言われてみれば妙ですな。赤ん坊が使用後に取り落とした装置を、その場にいたルバンなり一味の誰かが拾ったとて、彼奴らが自分を電送すれば、結局その者が使用した装置はその場に残ってしまうわけでありますから……これまで他の現場で発見されなかったのを見るに、回収後は我々のようにポニーでここまで帰っているのか。確かに、モロボシダン警部の仰る通り二度手間だ』
『その方が鮮烈だからでは? ルバンは自己顕示欲が強いのだと、前にエルメが言っていました』
「それなら、赤ん坊と一緒に自分も消えれば、より一層の効果が見込めると思いませんか? 衆人環視の中から誘拐犯が煙のように消え失せたなら、それだけで絶大な印象を残せると思いますが……本人が自分の足で帰る意味がない」
『すると今度は、自身に繋がる手かがりを多く残し過ぎる。それでは本末転倒でありましょうや』
「あ、そうか……」
ダンはハッとしたあと、再び考え込むように目線を落とす。
「なーんか……目立ちてえけど、顔は見られたくないとか、ワガママというか中途半端というか……どっちかにしろよな! 二兎を追う者は一兎をも得ずって言葉を知らんのか! なっさけねえやつ!」
『ハハハ、流石はブラザー。手厳しいですな』
『……そちらのソガ警部は、どうお考えなのですか? 本件におけるルバンの行動について』
アイオーン副官が、俺を指差しながらグオンと唸る。
え? サボってんじゃないよって?
すんませんした。真面目に聞きます。
「ソガ隊員は、ルバンの目的がなんだと思います? なぜこんな電送機まで使って、ここまで回りくどい事をするのか」
「ん……? いや単に赤ん坊抱えてウロウロしたくないだけだろ。泣かれたらバレるじゃん。面倒臭い」
「そうでしょうか? ルバン星人はあらゆる人間の前から透明になれる。その状態で赤ん坊を抱えて逃げれば良いだけでは……?」
「あー……確かにな。じゃあ姿は隠せても声は消せないのかもしれん」
「すると今度は、自分が電送機器を使わない事が不思議で……その方がずっと楽で、ずっと速いはずだ」
ダンが唸る後ろでは、保安官が俺達の会話を副官に通訳している。
「だからそれは使った転送機が残るからで……あー、ハイハイ! こんな小型テレポーター作れるなら、自分用のちゃんとした奴も作って、街中にこっそり設置しとけばいいのにってか! 確かにな! お前、頭いいな。ダン」
「そう……それです! 僕がずっと引っかかっていた違和感は!! ソガ隊員の言うように、効率だけを考えるならば、もっと他に上手い手がいくらでもあるはずなんです!」
『なるほど……確かに彼奴らが美術品を盗む時とは、遣り口が微妙に違うようにも感じますな。普段はもっとこう……なんといいますか』
『盛大』
『まさしく!』
指をバチンと打ち鳴らす保安官。
「じゃあ……赤ん坊の盗みと、美術品の盗みは、ルバンにとっても、なにか明確な違いがあるという事なんですね」
「そうかなあ……ルバンの消え方は赤ん坊には出来ないし、赤ん坊の消し方はルバンには出来ないってだけじゃね?」
『ほう……。つまりブラザーは、ルバンが電送機を使わないのではなく、使えないのだとお考えか』
「使えないですって? 自分で作ったのにですか? そんな事が……」
「え……いや。普通に怖いのと違うか」
「怖い? 怖いですって!?」
ダンは素っ頓狂な声を上げたが、俺はなんでそんな驚いているのか分からない。
「だって……どうせ盗品なんだろ、これも。……知らんけど」
ダンと保安官が揃ってこちらを向く。
いやだって、定番じゃん……泥棒キャラが今まで盗んだお宝使って戦うのとか。
『連隊長、彼はなんと?』
『……ハ、ハハハ! いかなルバンと言えど、盗品に命を預けるのは流石に遠慮すると!? ハハハ! 確かにそれはそうでありましょうなあ! これは傑作であります!』
『はは。そんなまさか。ルバンに限ってそんな事……なんせ、あのルバンですよ? それなら最初から計画に使わないはずだ。ですよね連隊長?』
『……いや。ふむ……』
『……連隊長?』
急に黙り込んだ保安官の代わりに、ダンが反論を投げかけてくる。
「確かにソガ隊員の言うことも尤もです。ですが、この電送機は赤ん坊の傍にあっても怪しまれないよう、外見がおしゃぶりに偽装してある。だったら、最初からこの目的でルバンが作ったものという事では?」
「あ、本当だ。すっかり忘れてたわ。ダン、お前……頭いいな」
「ソガ隊員……」
あきれ顔のダンというのも、なかなか新鮮だ。
彼は妙に俺の事を信頼しているので、こういう表情はあまりしない。
毎日隣でモロボシ・ダンが喋ってるというだけでも感動モノなのに、こうして本編では珍しい言動も見れるのだから、セブン限界オタクからすれば役得もいいところだぜ。
『なんにせよ、犯人に自供させれば済むことです。さ、捜査を再開しましょう』
「分かりました。ではアイオーンさん。お願いします」
副官が装置を起動させると……すぐにランプが回転し、なんだか奇妙な警告音を響かせる。
『すごい反応だ。この一帯のどこかにルバンのアジトが……』
『どちらの方角だ?』
『それが……方々から信号が返ってきて……』
『……なに? 全方位からだと?』
「……はっ!?」
その時、振り返ったダンの目が、一瞬だけ青白く煌めいたように見えた。
とはいえ、これはオレが転生者故の錯覚だろう。
ダンは劇中で、ウルトラ念力を使用した透視や、宇宙人の声を聞き分ける聴覚など、人間離れした能力を用いるが、その際に目の色が変わったり、キランと光るという表現がある。
もちろんこれは、視聴者にダンが超能力を使っていますよーという事を分かりやすくするための演出でしかなく、他の人間から見えているわけではない。……はずだ、多分。
だって、その場にいるアンヌやソガ隊員からもそれが見えてしまうなら、ダンの正体がその時点でチョンバレだからだ。
だからこれは、オレの記憶が勝手に見せる幻覚のようなものに違いない。慣れ親しんだテーマソングを聞けば、それに付随する映像や続きが、情景反射で再生されるアレのような。
それぐらい、今のダンの顔は真に迫っていたという事だ。
「何か……聞こえる」
「なんだあ? 何も聞こえないぞー(棒読み)」
お決まりの台詞を言いながら、俺はいつでもポインターの武装を使えるように、運転席へ座り込む。
「これは……下から?」
『おや? 確かにどこかでかいだような匂いが急に……なんだか懐かしい……やあ、これは実家の匂いだ』
『実家の匂い……? はっ!? いかん! アイオーン! 機械を止めろ!』
『どうしたんです連隊長?』
『これは罠だっ!!』
保安官が叫んだ瞬間、ゴゴゴと何かが唸るような轟音と共に、地面が大きく揺さぶられる。
「うわっ!?」
『こ、この揺れは!!』
「地震です!」
よろけて地面に倒れ伏すダン達。
と同時に、ガラガラと道路横の崖が崩れはじめた。
激しい土砂崩れが発生し、崖上に生えていた樹木や岩が、先ほどまで三人の立っていた道路へ降り注いでくるではないか!
アイオーン副官の放りだした探査機の上に、人の頭よりも大きい石が落ちてきて、それをあっという間に押し潰してしまう。
機械の二の舞になってはかなわないと、転げるようにその場から退避するダン達。
俺はといえば、その場で車載バリアを展開し、落石によって運転席が潰されないように祈るしかなかった。
ポインターに搭載されている光波バリアは、それが宇宙人のビーム光線やロケット攻撃ならば簡単に弾き返してしまうが、単純な質量そのものを受け止めるようには出来ていない。
いくら高速飛来物に滅法強いと言えど、それの持つ運動エネルギーが一定以上となると、途端に意味を成さなくなってしまう。
もしも車体以上の大きさの岩が転がってきたら、その時はぺしゃんこだ。
「だ、大丈夫だよな? こんな序盤でソガ隊員脱落したりしないよな……!?」
ガツンガツンと、バリアに石ころのぶつかる音が何度も響く。
なんなら普段、怪獣と戦っている時より怖いまである。
オレの従うべきストーリーラインが、さっぱり分からないからだ。
こんなシーン、記憶にねえぞ。
しばらくそうしていれば……一旦揺れが収まり、恐る恐る辺りを見渡すオレ。
なんとか全員無事だが、さらに遠くへ逃げた保安官達とポインターの間に巨木が倒れこんだ為、道路上で分断される形となってしまった。
「みんな! 速くこっちへ!」
車載レーザーで倒木を撃ちぬいて、みんなの退路を確保する。
しかし……
「い、いけない!? 違いますソガ隊員! すぐにその場を離れてくださいっ!」
「なんだとっ!?」
いつでもバリアを展開できるように、起動ボタンへ左手の指をかけつつ、声を張り上げる。
「音がそっちへ向かいました! 敵の次の狙いは……ポインターですっ!」
「……は? マジかよ。やばっ!?」
ダンの警告に、慌ててドアを開けて飛び出そうと……
「……ぐえっ」
手を伸ばした瞬間、思いっきりつんのめって、ハンドルに頭を打ち付けた。
当然だ。俺の右手は、白い布で首と結ばれているのだから。
モタモタしている間に、ぐらりと車体が傾いて……
「ソガ隊員ー!」
『ブラザー!』
再びの揺れ。
山肌をなぞるように通された峠道は、あっという間に崩れ去り……
「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!」
ダン達の目の前で、ソガをのせたポインターは、谷底へと滑り落ちていくのであった……
気になる?
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8番目
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保安官
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補佐官
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星雲荘