転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
なんと、robita42様から挿絵を頂きました!
【挿絵表示】
ここまで読んで頂いた読者の皆様になら、これを見ればどのシーンか一発で分かると思います。
凄い迫力ですよね……!
これがあの時に教授が見た光景か……!
構図の妙も、配色の意図も、全てが天才の所業だわ……
robita42さん、ありがとうございました!
既に該当話の該当シーンに掲載してあります!
ハーメルン、小説サイトなのに野良の神絵師居すぎなのでは……?
「ド、ドロシー=アンダーソン!? なんでアンタがこんな所に!?」
オレは、ルバンのアジト内にあると思われる独房の中で、いきなり現れた原作キャラにビックリ仰天していた。
え、ウソ!? なんで!?
……というか本物!? それとも偽物の方か!?
いくらキングジョーのデザインが、完璧に完成されきったある種ひとつの芸術品と呼んでも差し支えないレベルに達しているとはいえ、まさかペダン星からエンジニアごと盗んできたとか言うんじゃないだろうな……!?
オレは、このまったく予想外の出来事に激しく混乱してしまう。
なぜなら、彼女が本来登場するはずの『ウルトラ警備隊西へ』は、ついこのまえメトロン星人をぶっ飛ばしたばかりの今現在から比べると、もう少し後に挿入されるはずのエピソードであり……
例え目の前にいるのが、ワシントン基地所属の才媛たる本物であろうと、ペダン星人のスパイが化けた偽物の方であろうと、まだまだ序盤も序盤でしかないこんなタイミングに、こんな日本の山奥でエンカウントしていいはずもない存在だからだ。
ところが、そんなオレの困惑を他所に、ルバン達はどこ吹く風。
いったい何を言っているんだコイツは……と言わんばかりの視線をよこしつつ、不思議そうな顔で軽く首を傾げると……
「ああ。さては、彼女のクローン体が防衛軍にもいるのだな。いや、あるいはその子孫と言うべきか……」
「なにっ、クローンだと!?」
「ふふふ……そうだ。変装を見抜いたその観察眼に敬意を評して、このルバンの秘密を特別に教えてしんぜよう。光栄に思い給え」
なーにが「光栄に思い給え」だ!
……と、条件反射で混ぜっ返したくなる気持ちをぐっとこらえて、神妙に頷きつつ先を促す。
どうしてドロシー=アンダーソンがこんな場所にいるのか。それはオレにとっても気になる話なので。
オレのあずかり知らない所で変なバタフライエフェクトでも起きて、原作と本筋が大きく変わっちゃってましたー! とかだと、今後の活動にたいへん差し障るからな!
「君も知っての通り、我々が地球を訪れたのは今回が初めてではない……以前の来訪時、我々は世界各地にココと似たような隠れ家を作り、それら拠点を転々としながら活動していたのだ。当時の君らはまだ、こんな高尚な武器なぞ持っていなかった。だというのに、あの美しい反りの鋼まで捨ててしまって……人間というのは本当に愚かな種族なのだなと思ったものさ。おかげで我々のコレクションが増えたから、こちらとしては大歓迎だったがね」
俺から奪ったウルトラガンを眺めながら、そんな事をのたまうルバン。
どうやら刀や銃といった武器の類も、奴からしてみれば芸術品カウントであるらしい。
おおかた、明治の街から廃刀令で武士がいなくなったのをいいことに、そこら中から盗みまくったのだろう。
なんてやつだ。
「……ああ、そういえば。あの美しく染めた反物で肌を包む習慣はやめてしまったのか? あれはあれで、なかなか好ましかったのだが……久しぶりに足を運んでみれば、君たちまでそんなくだらない布地を纏うようになってしまうとは。嘆かわしい」
「知るか。ゲイシャが見たけりゃ、こんな山奥じゃなくて京都にでも来るんだな。そしたら腹いっぱいなるまでぶぶ漬け食わしてやんよ」
「あいにくと、地球人の食べ物にはさしたる興味が無いものでね。お気持ちだけ頂いておくよ。……さて、話を戻すとしよう。そうして我々は、世界を巡っては細々とサンプルを回収し、その中からさらに選りすぐった者同士を掛け合わせた。代替わりの度に遺伝子の方へも少しずつ手を加えながら、地道に品種改良を重ねる事で、この世で最も美しく優れた人間を創れないか試したんだ。彼女は我々の創った芸術品の中でも、最高傑作のひとつだよ。そうだな? リクラス」
「身に余る光栄でございます……」
表情を一切変えずに、ただ静かに頭を垂れる女……
「なに? 最も優れた人間だと……!? 貴様にとっては、人間も芸術品のひとつだというのか!」
「そうだ。全ての生き物は、その種の中で遺伝的に優れている者をこそ、本能で美しいと感じるように出来ている。優れた武器が、その見た目にもある種の美を孕むのと根本的には変わりない。つまり、機能美という奴だね。いわば、美しさは勝者の証なのさ。遺伝子を厳選し、能力が優秀な者を生み出せば、それは必然的に美しさを伴うようになるということ。逆もまたしかり。これが、女であろうと男であろうと変わらない真理であり、宇宙における不変の正義だ」
……は? コイツいま、イケメンは正義っつった?
……ぶっ○すぞ。
確かに美人は人類の宝だがな、男は顔じゃねえんだよ!
大事なんはな……ハートじゃハートぉ!!
「フフフ、そんな顔はやめたまえよ。己の価値が下がるぞ、隊員君」
「……そうか、分かったぞ! てめえが赤ん坊を誘拐するのは、クローンの素材に使うためなんだな!」
その憎たらしいツラに指を突きつけてやるが……肩をすくめ、ゆるゆると首を振るルバン。
「いいや? まったくもって違うとも。そもそもこのルバンが、そう何度も同じ手を繰り返すと? ひとつの事しか行えぬのなら、それは停滞だ。まったく美しくない。クローンを用いた我々の交配実験は、彼女らの代でひとまずの完成を見た。しかし……残念ながら、それでも我々の目的を満たすまでには至らなかったのさ。だから我々は、この星に一旦の見切りをつけ……時期を待つ事にしたのだ。収穫の時期を」
「収穫の……時期? いったい何を収穫するというんだ」
ハッと鼻で嗤うルバン。
「……鈍いね。我々の変装を見破ったとは思えぬほどに鈍い。このルバンが手ずから教えてやっているとは言えど、甘受するばかりで自らの頭でも考えぬ姿勢は、あまりに美しさを欠いているぞ、隊員君。それではあのクローン共と同じじゃないか……そう、クローンだ。彼らは肉体的、能力的にはほとんど完璧に近かったが……どうしても足りない物があった」
「足りないものだと? んなもん、倫理観以外に何があるって?」
「それはね……自主性さ。あるいは感性と言うべきか。我々は、それを収穫に来たのだ」
「なに、
いったいどういう事なんだ……?
「我々は地球を脱出する際に、クローン製造プラントのうち、いくつかの外壁をわざと破壊していった。そうしておけば、いずれ人工孵卵器から溢れたクローン達は、そのうち地上の世界へふらふらと歩み出していくからね。もちろん外界へまろび出たクローンの大半は、何を成すでもなく無様に野垂れ死ぬだろうさ。あるいはプラントそのものが限界を迎え、コミュニティごと崩落するかもしれない」
まるで、小学生が夏休みの自由研究で行った、アリの巣の観察日記を読み上げるかの如き無邪気さで、ルバンはそのように述べ立てた。
そこに罪悪感など欠片も無い。当然だろう。
奴らにとっては地球人など、ましてやそのクローンなんて、虫ケラほどにも価値がないのだから。
「だがそのうちの数パーセントは、きっと己と見合った身の丈のツガイと子を成すだろう。あれでもクローン共は、このルバンが自ら手がけた最高傑作達だ。何をさせても一流にこなす。そして一流の相手は、一流こそが相応しく、一流の親から産まれた子もまた、一流の教育を施され、一流の人生を歩んでいく事となる……」
「ま、まさか……感性の収穫というのは……! 地球人という種の中へ、貴様の理想とする遺伝子を混ぜ込み、練り上げるという事なのか!?」
なんと大それた計画なのだろう!
あまりの壮大さに驚愕すれば、それがお気に召したのか、ふふふと愉快げに笑うルバン。
「そうだ。これを脈々と続けていけば、その美しさは遺伝子の中でさらに磨かれ、醸造されていくだけでなく……もはやその子孫達は、その嗜好や感性すらも、天然の人間共とまったく遜色が無くなるというわけさ。本物と同じようにして産まれた贋作は、果たして贋作と言えるのか? それらをいったい誰が、どうやって見分けるというのだ? そんな事が出来る者はこの宇宙で誰もいない! ……この、ルバン以外にはね」
真贋の超越。
奴の計画は、つまるところクローン人間達の……いわゆる出産ロンダリングだったのである。
「そして唯一の鑑賞者たる我々にとって、事の真贋などはどうでも良い事なのだ。ただ、そこに美しくありさえすれば、それが全てさ。このリクラスと見間違えるほど似ていると言うのなら……おそらく君の知るその人物は、アメリカ大陸用に調整したタイプのクローン人間から血を受け継いでいるに違いない。さあ、この女を見たまえ。これぞまさに造られた究極の美だが……どうしても、我々による作為が介在してしまう。しかし代を重ねて、長き時を経る事でそこに無作為を取り込んだとするなら……ああ、彼女はさぞ美しいのだろうね。黄金比の中に、たった一滴混じり込んだ自然の不合理……それこそが、美を完璧たらしめる為に必要な、最大のエッセンスなのだから!」
「この野郎! 地球を自分の作品で埋め尽くして、いったい何がしたいんだ!」
「埋め尽くす? よしてくれ。このルバンがそのように不粋な真似をするとでも? 埋め尽くすという事は、辺りに溢れかえるという事だ。美は普遍的でないからこそ美しいのだよ、隊員君。どんな宝石も、河原石の如く世に氾濫してしまえば、そこにもう美しさはない。希少さもまた価値なのさ。だからこそ……盗んだ子供達も、厳選作業が終わり次第、必要な分以外は親元へ返すつもりだった。数は、そうだな……ひぃ、ふぅ、みぃ……」
ルバンは虚空に視線を彷徨わせ、何事かを思案しながら白手袋に包まれた指を折っていき……
「……7人。そう、たったの7人も居れば充分だ。後は全部、諸君らへお返しするとしよう。第一、地球は今まで……我々の作品から、既に多大すぎるほどの恩恵に預かってきているはずさ。そして、おそらく今後も。それに比べれば、このルバンの願いが実にささやかな事! ……なんと謙虚なのだろうか、我々は。地球のこれまでと、今後の発展を引き換えに、7人ぽっちの損失くらい目を瞑ったって、別に罰はあたらんだろう。どうだい、そちらとしても悪い話ではないと思うが?」
「ふざけるなっ! テメエが盗んだ子供達は、いくらクローンの子孫だろうが何だろうが、テメエの鑑賞用に産まれてきたわけじゃねえ!」
「ふふふ、強情だな。けれど、それがいい。ここで頷くようでは……美しくない」
ニヤリと笑みを強めるルバン。
やめろや、男に美しいとか言われても気色悪いわ。
「その子らには自分の手が加わってるから、権利の一部はあるとでも? 通るか! そんな理屈!! 強いて所有権を挙げるとしても、それは彼らを産んだ両親のもんだ!」
「権利だって? 別に我々とて、そのような屁理屈を述べたてるつもりは毛頭ないさ。どうやら君は、その在り様の美しさに反して、自身が持つ美的感覚の方は壊滅的らしいな。思考や言動にセンスというものが感じられん……このルバンはただ、己の欲するものを、欲した時に頂いていくだけだ。もとより我々は、許可や権利など必要としない」
気分を害したような顔で、そんなことをのたまうルバン。
だめだ、とても話の通じる相手じゃない。
根本的に価値観が違いすぎて、善悪とかもう、そういう次元にすらいないわ。
これだから侵略者と対話なんざ無意味なんだよ……一刻も早く始末せねば。
いや違う、コイツは生け捕りにしないといけないんだった!
面倒くせぇ……
「しかし、それはあくまで、ものを盗む時だけに限る。……共に来て貰うのならば、本人の意向が一番大事だからね。このルバンとて、勧誘する相手には気を払うのだよ?」
「……んは? 勧誘? え、なんて?」
ここからどうやって裏を掻こうか考えていたら、突然そんな事を言われたので、思わず素のまま返事してしまった。
「我々一味の仲間にならないか、と言っている。どうだね、隊員君?」
「……??? えごめん、あまりにも突拍子ないから理解が追い付かないわ。今の流れでそんなことある?」
「あるとも。我々の変装を見破り、あまつさえ、こちらを出し抜こうなどと。ただそれだけでも尊敬に値する出来事だ。先ほど受けた感動は筆舌に尽くしがたいぞ!」
「いや、あのぅ……それはチートありきというかなんというか……そこまで感心して頂くほどではないといいますかぁ……」
「その強固な信念、全てを見抜いてしまうほどに透き通った観察眼! 実に美しい! まさしく金剛石の如し。こんな辺境の星へ捨て置くにはあまりにも惜しい! 是非とも欲しくなったのさ! 君が!」
「は、はあ……」
……こいつ、頭おかしいんか。
いやでも、これは使えるかもな。
「んじゃ、仮にその話を受けたとして。俺側のメリットは?」
「なに、メリット……?」
まさかそう問い返されるとは思っていなかったのか。
大きく目を見開いて数秒固まるルバン。
それは、いままでの余裕に満ちた態度に、ルバンがはじめて見せた綻びだった。
「当然だろ? その提案に俺が乗ってやる義理があるか? まさか考えてなかったとか言わないよな? 『このルバンの役に立てることこそが、最大のメリット』だとでも?」
「いや……純粋に驚いている。まさか即座に報酬の話をされるとは。思っていたよりも随分と……即物的な男なのだな、君は」
「……」
うるせーよ。
テメエに言われる筋合いねーわ。
ただ、これはちょっとミスったか?
いくらなんでも焦りすぎたかもしれん。
例え相手に、乗り気なのか……? と思わせる為とは言え、食い付くのが少しばかり早過ぎたぜ。
ヤツはさっき、オレがブチ切れて反抗する様をこそ美しいと評した。
要はコイツも、超がつくほどに天の邪鬼なのだろうな。
いわゆる乙女ゲーにおける、俺様系王子が自分に靡かない主人公を見た時のテンプレ台詞として有名な「フ……おもしれー女」というアレ。
おそらくアレに近しい心境にあると分析する。間違いない。
でなけりゃ、いくらウルトラ警備隊とはいえ、単なる地球人でしかない俺なんぞを、今の流れで勧誘しようとなんかしないはずだからだ。
……だとすると、いまオレがするべきは、もう少しヤツ好みの言動で反発を続け、ルバンの俺に対する……独占欲? 的な心情を触発することであり、話を聞く気があると匂わせたのはむしろ悪手だった。
今ので、ルバンのソガ隊員に対する評価は一気に下落してしまったに違いない。それではダメだ。
奴から興味を、譲歩を……そしてひいては油断を引き出さねば! もっと本気で!
頑張れオレ! 普段以上に原作ソガらしい言動を心がけるんだ! 恐らくルバンの好みはああいう愚直で直上的だけど、優しくて芯の通った正義漢だぞ!
ソガ隊員が言いそうで言わなさそうな、けどちょっぴり分からなくもないギリギリのラインを攻めろ!
「では君の望みはなんだね? 具体的には?」
オレの提案に幾分か懐疑的となったルバンが、それでも形式的に問いかけてくる。
先ほどまでとは、声の弾みようが明らかに違うため、「まあ、聞くだけは聞いておくか」という落胆混じりの内心が手に取るようにわかるようだ。
「俺が貴様に望むのはただひとつ! ……俺が付いていく代わりに、今まで攫った人々を即座に解放しろ! 赤児から老人に至るまで、全てだ!」
これが本物のソガ隊員なら、敵からの提案なんて即座に「ふん、お断りだね……!」の一択なのだが。
せっかく降って湧いたチャンスを、自分の好悪に任せて棒に振るというのも、それはそれでオレの中のモッタイナイオバケが暴れ出してしまいそうなので、折衷案である。
するとどうだろう。
「ああ! それは……美しいな! 今の提案はなかなかに好ましいよ。そうか、全てはそこに帰結するのか。ふむ。いいね。ますます欲しくなってきた」
お? なんだおめえ……ソガ隊員が好きか?
わかる。いいよなソガ隊員。
オレもウルトラ警備隊の中で彼が最推しだよ。
悪役の癖に、なかなかいい目の付け所をしてるじゃねえか。
だが残念だったな!!
テメエみたいな侵略者とは金輪際、同担拒否だよ! バカヤロー!
……ちくしょう。
せっかく憧れのセブン世界に転生したってのに、何が哀しゅうて宇宙人の、それも犯罪者相手に好感度調整の真似事をせにゃならんのか。命がけで。
オレが好感度を稼ぎたいのは、ダンやアンヌやイチノミヤ……あるいはサエコさん達のような味方側の原作キャラであって、お前のような見たことも聞いたこともないモブ宇宙人ではない!
……だがオレは既に、ダーク相手に好感度や信頼度を稼ぎきれず、その結果として原作改変を失敗するという前科をやらかしている。
あの時、オレがもっとうまくやれば、ダークだけでなくペガッサ市そのものを助けられたかもしれない。
そんな相手を救えなかった以上、あんな失敗はもう二度とゴメンだ。
だから今回も、本気でルバンに取り入って、ここぞという場面で隙をつく。
それこそがオレの戦い方なのだから。
「しかし、全てというのはあまりにも……ではこうしよう。我々が連れて行く予定の7人。そこから3人を返そうじゃないか。もちろん残りの4人についてだって、こちらでクローンを用意して補填するとも。どうせ地球人からは、偽物か本物かなんて分かりっこないさ。うむ、それがいい」
「非の打ち所もないかと。あなた様のご慧眼に、リクラスめは感服いたしました……」
「はあ!? ふざけんな! 7人全員に決まってんでしょーが! あのなあ……俺はこれでも天下のウルトラ警備隊なわけ! 俺達がいるから地球は守られてんの! そのうちの1人がお前について行くって言ってんだぞ? 俺の抜けた穴埋めに、赤ん坊が7人、束になってかかっても地球が守れますかって話! んなもん無理に決まってるよなぁ!? そもそも等価交換にすらなっとらへんやろが!!」
さっき、原作ソガに寄せて発言すると決意したばかりだというのに……秒でソガ隊員の絶対言わない事を言ってしまった。
うん、やっぱ無理だわ。
オレに純粋な正義漢を求めないでくれ。
そういうのは全部、ダンに任せてるもんで。
「ははは、なんと傲慢で強欲な要求か。しかし、それもまたある種の美しさだ。渇望に塗れているとはすなわち、リビドーに満ち満ちている証拠なのだからな。このルバンと同じく」
「まこと、ルバン様の総身には、生命力が漲っておられます……」
反骨心に溢れた解答を、満足げな表情で噛み締める怪盗。やはり、この方向性であってるらしい。
一応、自分が鼻持ちならない強突く張りである、という自覚ぐらいはあるようだな。
それを悪い事だとは微塵も思っていないだけで。
「……いいだろう。君の主張にも一理ある。我々は選び抜いたうち、たった1人を貰うとしようじゃないか。このルバンが掲げる信条と照らし合わせても、真なる美は唯一でこそ……という納得の仕方もできなくはない。そして、このルバンが節制をするのだ、6人も帰ってきたのなら満足なはずさ。まさか、まだ足りないだなどと言うまいね? 諸君らウルトラ警備隊も6人なのだろう。それだけいれば、地球を守るに充分だという事じゃあないのか?」
「はぁ? ウルトラ警備隊はセブンも含めて7人ですけどぉ!?」
なに、ダンとセブンは同一人物だから別カウントはおかしいだろって?
ウチのシマじゃノーカンなんで。
……いや逆か? イエスカウント。
文句があるなら番組タイトルもっぺん見直してこい!
「ほぉ、セブン。……ウルトラセブン。噂のM78星雲人か。まったく物好きな奴がいたものだよ。しかし、これはお笑い種だ。まさか諸君らは、あれとお仲間のつもりでいるのかな?」
「ああおかしい。ほほほ……」
おや? これは……
「お前はセブンの事について、何か知っているのか?」
「いいや? 美しいなとは思いこそすれ、彼らはあまりにも抑制的に過ぎる。あれでは我々のクローンと変わりない。……いや、なんならリクラスを眺めている方がまだ面白いやもしれん。とにかく、さして興味をそそられる対象ではなかった。そういう意味では、知識の幅も諸君らとさほど変わりないだろうな。それでも教えられる事が無いわけでもないが……ふむ。知りたいかね? 確かに君は彼にご執心なようだから……仲間になってくれるのならば、コチラもおまけしようか」
「……だから、最後の1人は諦めろって……?」
「そうだ。君が我々の思うくらいには賢明であるのならな」
「……しかしだな……っ!」
オレが尚も無理難題を言い募ろうと口を開きかけた時だ。
ぱちんと甲高く小気味良い音が小部屋に響き、こちらの反論を有無を言わさず止めてしまった。
ルバンが白手袋に包まれた指を鳴らしたのだ。
奴の顔からは、先ほどまで確かに浮かんでいた種々の表情がごっそりと抜け落ちており、モノクルの奥からこちらを見据える鳶色の瞳には、冷酷で剣呑な光が宿っていた。
「そこまでだ、隊員君。あまり自分の価値を高く見積もり過ぎるなよ。君は、確かにこのルバンの眼鏡に適うに足る希少な人材だが、その美しさは、我々がこの計画に注いできた時間、労力……それらと釣り合うほどのモノでは、決してない。あまり自惚れるな」
「……くっ」
「このルバン、己の認めた相手には敬意を払うとも。……しかしそれは、おもねる事とは違うのだ。君は既に我々の虜で、奴隷で、所有物であり……それが思いもかけず不意に見せた美しさを、なるべく手折りたくはないと思うからこそ、こうして同意を取り付けようとしているにすぎない。我々が! 譲歩をしてやっているのだよ! 君では無く……な。それをお忘れ無きよう」
「……わ、分かった……」
「身の程を知るのです。ソガ隊員。そうすれば、私もまたあなた様を歓迎いたします。この身と同じ、ルバン様の走狗として」
「は……そいつぁ光栄だね」
奴隷仲間に年功序列も無いってか。
……ち、潮時だな。
とりあえず、心の底から悔しそうな顔を浮かべておくし、実際の心情も大まかにはそうではあるので、全身からあらんばかりに敗北感を漂わせるのも、ゴドラ星人の時と比べればあまり苦労は無い。
あん時は、当てずっぽうでしかない耳栓の狙いが当たった嬉しさとか、撃たれた右手の痛みとかの方が強かったからな。
しかもゴドラ星人だけじゃなくて、艦長も納得させないといけない分、ことさらにシオシオのパーを演じなければならなかった。
それにひきかえ、こっちは面従腹背すら要らないってんだから、比較的イージーモードまである。
「……ふん」
オレは負け惜しみがてら、シワの寄ったベッドにどっかりと座り込む事で、今の会話はルバンの方に軍配が上がったのだと明確に示した。
「ま、そう恐縮しすぎる事もない。少し脅かしすぎたかな? 我々の態度の意味を履き違えさえしないでくれれば、それでかまわないのだ。君の性格上、即決出来る事でも無いと理解もしているさ。ゆっくりと考えてくれたまえ……」
「……ちっ」
いまのところはこんなもんか。
とりあえず今は、ルバンからの取引提案を引き出せただけでも儲けもんだ。
取引を持ちかけるという事は、今すぐに俺を処する気がないという事だし、返事を聴きにまたここへ来るって事なんだから。
……と、今回の成果に満足しかけた……その時だ。
「ソガァァァァァ~~!! 何処だぁーーっ!!」
「……あっ」
どこか遠くの方から、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
この独房と外界を繋ぐ、唯一の門である鉄格子の隙間を通っても、言葉尻までハッキリと分かるこのターザンの叫びみたいな銅鑼声は……
間違いない。フルハシ隊員だ。
あまりにも聞き覚えがありすぎる叫び声を認識した瞬間、オレの中に二つの感情がせり上がってくる。
ひとつは勿論、歓喜。
ここでフルハシの声が聞こえるという事は、彼だけでなく……恐らくダンや保安官も含めた捜索隊が、かなり近くまで来ているという事であり、それはオレの狙い通りでもある。
そもそも、オレがルバンの演説に相づちを打ったりしながら会話を引き延ばしたりしていたのも、一番の目的は時間稼ぎのため。
もしも隊員の誰かが急に行方不明になったとしてだ。
ダンやら他の仲間でそれを追いかけた先に、実は宇宙人のアジトがあった……なんてのは、ウルトラセブンどころか、ひいては全ウルトラシリーズに共通して適用されるテンプレ中のテンプレ展開なわけで。
ルバンとオレがくっちゃべってるウチに、警備隊のみんなが絶対にここを突き止めてくれるだろうな……という確信がオレにはあった。
その為の時間稼ぎ兼、情報収集がてらの問答であり……今の声は、その狙いが見事に的中したというなによりの福音でしかない。
だが、それと同時に……タイミングが最悪オブ最悪である。
オレはつい今し方、ルバンの持ちかけた悪魔の誘いに、心が揺れ動く弱い地球人……の役を演じていたわけで。
仲間になんかなるもんか! いやでもこのままだと……それならいっそ……みたいに微妙な人間心理の塩梅を模索しながら、絶妙な心境変化を演出しきっていたってのに!
ここでいきなり、さっきまでの態度からマグマライザーの如く掌返して「おーい! ここだー! 助けてくれー!」とかやったら、「裏切り者め、死ね!」コース一直線だし、かといって無視していたら「なんだこの辺にはいないのか……」とみんなが素通りしてしまう!
なんちゅう時に来てくれたんや!
もうちょっと遅れて来てくれよ!
え? お前が変に会話を引き延ばさなければ、今頃ルバンは素直に退出してた?
……説あるね。
いやはや、ままなりませんなぁ……どうも。ハハハ。
はたしてオレは、奴らの前でいったいどんな顔をするのが正解なのか。
思わずバッと振り返れば……
「くくく……はっーはっは! 実に面白いな、君は。これは我々も思わぬ拾い物をしたもんさ。ええ? そうだろう、リクラス?」
「はい……仰る通りです。ルバンさま」
オレの複雑な内心をすっかり見透かしたように、呵々大笑のルバン。
「……ふふふ。その顔! そこまで我々に気を遣ってくれずとも構わないよ。妙なところで奥ゆかしいのだね、隊員君? まあ、無理もないか。……どれ」
すると奴は、白手袋に包まれた両手をメガホンのように口に添えてたかと思えば……
「おおーい!! ここだ、ここだー! 諸君らのお仲間はここにいるぞー!! ほーら、早く助けにこーい! ハハハハハハ!!」
「んなっ!!」
散々っぱら大騒ぎしてから、こちらに向かってにやりとほくそ笑むルバン。
「どうした? そんなに驚いて」
「いや……」
「安心したまえ。この通り、この場所は誰の目にも見えず、誰の耳にも届かない。どれだけ君が騒ごうともね。でなければ、我々のクローンプラントがとっくに見つかっていたはずだろう?」
たしかにそれはそうだ。ルバンの話では、世界各地でクローンを作っていたようだからな。
少なくとも、地球人の感覚では絶対に見つからないような細工がしてあるはずだ。
「それとも君が我々を油断させ、虎視眈々と脱出の機会を窺っている……それを理解しているのが、そんなに不思議かい?」
「……なんでそんな事がわかる」
「わかるのさ。このルバンほどにもなれば、一目見ただけでわかる。君が我々をどう思っているかなんて、そんなことは。その上で、誘っているのだ」
「……物好きだな」
保安官達が、ルバンの事を何度か大胆不敵と称していたが、確かにこいつぁその通りだ。
極論として、オレが獅子身中の虫であろうがなかろうが、そんな事はまったく気にしないと言う。
逆に、どこをどう見たら俺にそこまで執着するほどの価値を見出せるのか……やっぱ、宇宙人の考えは分からんわ。
「これで分かったろう。いくら時間を稼いでも、お仲間が君を見つける未来はない。残念だったね。……とはいえ、あの万年警部に目を付けられたなら、ここもあまり長くはないな。早々に引き払う準備をしなくては……それもこれも、おまえが転送機の回収にしくじるからだぞ、リクラス。やれやれ、随分と面倒な奴らを引き込んでくれた」
「大変申し訳ございません……」
なるほど、そっちの女……偽ドロシーがミスったせいで、俺達はまんまと手懸かりを手に入れられたわけか。
「……ははっ! お使いも出来ないようじゃ、お前さんのクローンとやらも、大した事はないらしいな。本当に優秀なのか?」
「ああそうだとも。君とは美しさの方向性が違うがね。例えば君は、一度目にした光景を死ぬまでずっと覚えていられるか? 出来ないだろう。だが彼女には可能だ。このルバンに、そうあれかしと造られている。素晴らしい才能じゃないか。そして我々が、そのように美しい能力を、たかだが道具の回収なんてつまらん任務の為だけに投入するとでも? 我々の名誉の為にも言っておくがね。そんなことは、ものの
「この不出来なリクラスめには、過分なお言葉でございます……」
「だったらその大事なお役目ってのは?」
「君にそれを知る権利はない。我々の一味でもない相手に、どうして教えてやる義理がある?」
「……あっそ」
知りたきゃ仲間になれってか。
初回入会キャンペーンに余念がないね。
そんな姿を見て……ふと思い付いた事を聞いてみる。
「なあおい。保安官は勧誘しないのか? 俺の優秀さをコレクションしたいってんなら、あの人も相当だぞ」
「保安官? あの万年警部をかね? ……まあ、癪ではあるが、確かに彼もまたある種の美しさを孕んでいるな。あの執念深さは……認めよう。しかし……君とは違う」
「違うだって? どこが?」
「あれは、我々を憎んでいる。連邦の敷いた法に従わず、秩序を乱す不逞の輩を唾棄して嫌っている。勧誘なぞしたところで意味がないさ。同意が得られぬならば、いっそ盗んでしまってもいいが……だからといって、そこまでするほどに旨みのある男でもない」
「はあ!? オレだってそうだが!?」
ルバンが挙げた理由は、俺含む警備隊メンバーともほとんど共通項だった。
保安官が対象外なら、俺だってこんな菓子のオマケに付いてたキラキラのレアカードみたいな扱いを受ける謂れはない。
そうでない場合は、今頃普通に殺されていた可能性が高いので、こっちとしては
思わず声を荒げたが、ルバンはそんな俺にちらりと一瞥をくれると、心底可笑しそうに鼻で嗤った。
「君とあの捜査官が同じ? ハッ、馬鹿を言っちゃいけない。あんなどこにでもいるような、安っぽい正義感と一緒にしちゃいけないよ。もっと誇りたまえ。君のような男は、このルバンもはじめてだ。君は……違う」
「なにが違うって!?」
「だってそうだろう? 君は、先ほどの話を聞いてなお、このルバンの所業がおぞましいだとか、恐ろしいだとか……そんな普遍的かつ画一的な理由で我々を嫌っているのではないからだ。いいかね隊員君? 君は……ただ単に、我々を『敵』だと頭から見做しているから、そういう反抗的な態度をとり、この星から排斥しようとしているだけに過ぎない。それが自身の職務だから……というよりも、ただ『気に入らない』たったそれだけのシンプルな理由……」
「なんだと?」
「このルバン、分かっているとも。君の本性は。『気に入らない奴をぶちのめす』……大変けっこう。実に好ましく感じるよ。だれぞとも知れぬ輩が勝手に決めたルールではなく、常に己の本心にのみ従う……それはとても美しい事だからだ……。裏を返せば、『気に入った物だけを盗む』我々となんら変わらない。言わば、これこそが真なる魂の自由!」
マントを翻し、ぐっと握りしめた拳を突き上げて力説するルバン。
……はあ。魂の自由ですか。そうですか。
「……まったく、はじめての経験だよ。このルバンの事を、その偉大さをよくよく見聞きしたその上で、そこいらのチンピラに対するのと同列の視線を向けるなんて蒙昧な扱いをされたのは……ああいや、決して馬鹿にしているんじゃあない。勘違いしないでくれ。新鮮だ、と言っているのさ」
「……はは、お世話様。確かに、オレはテメエみたいなクソ野郎は全員ことごとく縛り首になりゃいいと思ってるよ。なるべく人様に迷惑かけないように、清く正しく生きようって気がなけりゃ、生きてる価値もねえゴミカス以下だってな!」
「ハハハ! いいね! それだよそれ! 潔い! いっそ清々しいくらいだ! このルバンは、そういう突き抜けた潔癖さ、徹底的さも評価しよう。明瞭である事は、それすなわち美しさに繋がるからね……」
「だったら分かるだろ。誘ったところで、オレが仲間になる事なんか絶対に無いって。無駄だよ」
ここまでバレてるならしょうがねえ。
もうオレは、いっそ開き直って断言した。
だって有り得ないんだもの。
ところがルバンは、あっけらかんとした顔で言い切った。
「いいや、まったくそうは思わない」
「……なに?」
「なぜなら君は、あの頭の堅い捜査官共と違って、このルバン個人を嫌っているわけではない。ならば、やりようはいくらでもある。なにせ、君の『敵』でなくなりさえすれば良いのだからね。そんな事は簡単さ。要は、赤児1人分と、君自身がウルトラ警備隊から居なくなる事を差し引いてもさらに上回るメリットを、我々が提示出来さえすれば良いのだろう? そうすれば、このルバンは、君の憎むべき敵から、頼りになる同盟者に早変わりさ……違うかね?」
「同盟者ぁ? できるわきゃねーだろ?」
「そうかな? 我々は別に地球を侵略したいわけでもなければ、人を殺したわけでもない。まあ、結果として君を含めた人間二人を攫っていく事にはなるが……その代わり、宇宙の革新的な技術を人類へ供与する事だって厭わないさ。それは、君達が喉から手が出るほどに欲する、外宇宙からの有力な協力者になり得るという事でもある。このルバンとて、アジトのあるこの星が侵略なぞされては困るからな」
指をたて、つかつかと小部屋の中を歩き回りながら、まるで諭すように言い募るルバン。
まさに立て板に水。
「つまり、我々のような怪盗というものは、究極的には平和主義者でもあるのだよ隊員君。なにせ、戦争は芸術を容易く破壊してしまう、この世で最も愚かしい行為のひとつなのだからね。あくまで我々は悪党であって悪人では無いのだ……確か、こういうのを地球ではこう呼ぶのだろう? 情状酌量の余地……だったか?」
「……あ。……いやちょい待ち! オレがお前を嫌ってないだって? んなことあるかいな……そうとも! オレは嫌いや、お前みたいなやつ……」
「そんなはずはない。なぜなら……」
逆光と、なにより目深に被ったシルクハットのつばから伸びた影。
それらの暗がりに沈みきって、こちらからは相手の表情が窺えない中、ルバンのかけたモノクルが、ことさら光を強めたような気がした。
「君は心の奥底で……
「……ッ!?」
オレはその一言に、雷に打たれたような衝撃を受けてしまう。
「心の底から嫌っている相手に、間違ってもそんな事は思わないよ。あるいは、自らをとりまく物事の全てを……良く出来た歌劇の登場人物か何かのようにでも思っていない限りはね。自らの好悪と、客観的な人物評を完全に切り分けて考えられるというならば、それもまた希有な才能だ。ある意味で、このルバンと同じ視座を持っていると言っても過言では……」
そこで、ふっ……と言葉を切り、ルバンは仰仰しくも芝居がかった仕草で深々と一礼した。
「ともかく、君のその感性ならば……我々はうまくやっていけるだろう。このルバンには、その確信がある。なあに時間はたっぷりあるんだ。よくよく考えてみてくれたまえ」
「……」
「そうだ、リクラス。アレを」
「はい……」
ルバンが振り返りもせずパチンと指をならせば、傍で静かに控えていたクローン女……リクラスが素早い動きで退出し、部屋の外から何かを抱えて帰ってくる。
それを恭しい手つきでこちらへ差し出すリクラス。
彼女の腕に抱かれていたのは……すやすやと眠る赤ん坊であった。
「これは? 何のつもりだ?」
「前払いみたいなものさ。その子はなかなか良い素質を持っていたから、最終選考に残っていたんだが……隊員君が付いて来てくれるなら、その子を含めた6人を明日帰す。これは絶対だ。我々は約束を違えない。……君も実物を見るまでは安心できないと思ってね。我々が決して出鱈目や口約束で言っているのではない事の……証明とでも思ってくれて構わん」
「……けっ。人質かよ」
「何を言う。ルバンは人質などという醜い手段を使わない。たまたまその場その時、この手の中にあったものに対して、君らが勝手に執着を感じては自縄自縛に陥ったあげく、馬鹿馬鹿しく二の足を踏むだけに過ぎない。例えそれで我々に利する事があったとして、それは敗者の言い掛かりだよ。己の失敗を棚にあげて、あまつさえ敵の汚点かのようにあげつらうのは、あまりに美しくない行為だとは思わんか?」
「あーはいはい。それは可哀想ですねー。俺が間違ってましたすみませんー。これで満足か? 言っとくが、こんなんで絆されると思ったら大間違いだからな」
「それこそ、君が本気でそんな事を言っているなら、こちらの見込み違いだと謝るよ。……ああ、いいねその顔。アイツもはじめはそんな態度だったが……最終的には悟ったよ。我々に付いていった方が遥かに得だとな。いずれ、君にも理解させてみせるさ」
気障ったらしさ全開で、後ろ手をひらひらと振りながら、黒いマントを翻し颯爽と俺の前から立ち去るルバン。
リクラスと呼ばれた女の金髪が鉄扉の向こうへ消え、重たいかんぬきの落ちる音が響くのを、俺は無事な方の腕で赤ん坊を抱えたままに見送った。
……なーにが証明の前払い、だ。
この子は枷だ。俺に対する。
俺がこの独房から逃げだそうとしても、この子に危険が及ぶような過激な手段はとれないし、万が一にも逃げ出す事が出来たとして、子供をあやす相手……つまり俺がいなくなれば、彼はたちまち警報器に早変わりというわけだ。
だったら赤ん坊を抱えて1人で脱出? 冗談じゃない。
ただでさえ片手が塞がってるのにどうしろと?
ルバンはあんな事を言っていたが……オレをあえて拘束せずに、それでも八方塞がりの絶望を経験させる事で、屈服させようという魂胆なのだろう。
とはいえ……
「流石は昭和特撮の敵怪人。油断を誘うどころじゃないガバガバ具合なのは助かるぜ……っと」
いったん赤ん坊をそっとベッドに横たえ、部屋の隅に屈んで、暗がりを手探りで探す。
「……あった」
それは、さっき俺がルバンを昏倒させようとぶん投げて大暴投した金属缶。
保安官から貰った石油入りのスキットルだった。
鉄の扉におもっきりぶつかったから、どっかひしゃげちまったんじゃないかと思ったが……キレイなもんだ。
流石は宇宙金属。
保安官は本当にいいモノをくれたらしい。
まったく彼のようなベテラン刑事が現場使いの相棒として選ぶに相応しい、タフな品だ。
軽く振ると、ちゃぷんと変わらぬ水音が。……漏れもない。
装備を全て奪われた今の俺が使えるのは……このスキットルと、あと警察署で刑事さんに貰ったライターとタバコだけ。
……うん! 火炎瓶が作れるな!
あるいは独房で火事を起こして看守に騒ぐ!
と思ったでしょう。残念ハズレ。
オレもさっきまではそう考えていたが……赤ん坊を押し付けられたせいで全部パアだ。
偽の火事で見張りを呼んで、すんなり扉をあけて貰えりゃいいが……逆にそれで奴らから見限られて放置プレイを食らった場合、乳幼児に煙を吸わせる事になる。
自分1人なら、そういう賭けにも出られたが……流石に赤ん坊を道連れはなぁ……
ルバンは、オレのこんな真理もお見通しというわけだ。
なかなかやるじゃねえか。でもな……
「だったら、さらにもっと原始的にやってやんよ」
スキットルの蓋を開け……中の石油が溢れないように構え……
「……頼むぜソガ隊員。オレはあんたの設定信じてるから……なっ!」
祈りと共に投げた宇宙スキットルは、遠心力によって中味の液体を一切撒き散らすことなく、放物線を描いて部屋の天井付近に飛んでいき……
そこに設けられた小さな空気穴、縦にはめられた鉄格子の僅かな隙間を縫って、外に飛び出していった。
ガランだの、とぷとぷ……だの。
窓の外からは狙い通りの音が聞こえる。
「ヨッシャア! ナイッシュート!」
思わずガッツポーズを決めてしまった。
いやー、さっき外したから戦々恐々だったけど、投擲の腕は健在で良かったわ……
というのもソガ隊員。
射撃の腕が防衛軍イチの百発百中スナイパーというのは、押しも押されぬ公式設定ではあるが……
実は投げナイフや手裏剣といった、投擲分野においても抜群の名手である……という裏設定を付与されており、確か児童書だかカルタだかで、素朴な絵柄のイラストと共に紹介されて、手裏剣を振りかぶるソガ隊員の姿を拝めた……はずだ。
とはいえ、放映当時に展開されていた児童書だのカルタだの、ソノラマシートだのは、出版元が勝手に吹聴してるデタラメ設定のオンパレードでもあり……果たしてそんなフレーバーテキストにすら満たない設定がちゃんと適用されているか心配だったのだが、これに関しては上手くいって良かったぜ。
というか、銃と弓矢で必要な技能が違うように、例えスナイパーだからといって、別に必ずしも投げ物が上手いとは限らないのだが……
まあこれは、昭和の射撃キャラにありがちな必然性というか、些細な混同ともいうか……次元大介も暇さえあれば、アジトでだらけながらダーツに興じているし、004も左の指を外せばダーツ手裏剣になっている。
ゴルゴをまったく読んだ事が無い奴でも、あのやたら作画と眉毛の濃い仏頂面のおっさん……デューク東郷が、振り向きもせずダーツで暗殺者を倒すシーンがあると言われたって、何の疑いもなくそれを受け入れるに違いない。
ちなみに、のび太の特技も鼻クソで……いや、やめとこう。ばっちいからな。
とにかくそれらをはじめとして、ソガ隊員のような射撃手キャラに作劇上求められているのは、漠然とした当てもの全般の腕……
つまるところ、彼らは銃を撃つのが上手いのではなく……『狙いを外さない』ように出来ているのだろう。
だからこそ、オレはさっき重さと固さの充分なスキットルを投げ付けて、奴をぶち殺せないか試したわけなのだが……まさか耐えられるどころか、かすりもしないとは。
今の神業がすんなり成功した事で、逆にハッキリしたな。
あれが保安官の言う……目を盗まれた、って奴か。
遠距離攻撃常時無効とは恐れ入った。
矢除けの護符でも隠し持ってんのかね?
オマケにレスバを仕掛けても暖簾に腕押し、何を言っても美しい美しいと喜ばせるだけの狂人と来たもんだ。
まったく今度の相手は、とことん俺と相性が悪いみたいだな……
頼むぜ……ダン、保安官。
あとはあんたらだけが頼りだ。
俺は、赤ん坊がすやすやと眠るベッドに腰掛け、新品タバコの封をあけた。
「ほぎゃ、おぎゃ……おぎゃああああ!!」
「うわっやべっ!? お~よちよち! まんまでちゅか? うんちでちゅか? おっぱいでちか~? あーもう! ルバーン!! リクラ~ス!! 誰でもいいから早く来てェ゙エ゙エ゙エ゙!!」
気になる?
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8番目
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保安官
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補佐官
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星雲荘