転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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明けましておめでとうございます!

前回の更新から随分と間が空いて申し訳ありません!

本当は、ウルトラQの初放映日である1月2日……つまりウルトラ怪獣60周年の日に更新しようと思っていたのですが残念ながら間に合いませんでした……!

でも、こっからは繁忙期過ぎたし体調も落ち着いたしで更新頑張っていきますね!

今年も本作をよろしくお願いいたします!





宇宙警官 対 人間泥棒(Ⅹ)

 

「……つまりなにか? お前はルバンに誘拐された上、監禁状態で奴のガジェットを作らされている……と?」

 

「誘拐されただなんて、人聞きの悪い事言わないで欲しいんだな! 吾輩がルバンに協力してやっているんだな! 頼まれて!」

 

「……でも、目が覚めたらここにいたんだろ?」

 

「イカにも!」

 

それを巷では誘拐と呼ぶのではなかろうか?

なんでそんなに自信満々なんだコイツ……

 

「世間もようやく吾輩の事を正当に評価し始めたようで、なによりなんだな!」

 

腕組みしながらウンウンと勝手に頷いているイカルス星人。

 

……そう、イカルス星人だ。

 

イカルス星人とは、セブンに登場する宇宙人の一体で、人間には知覚できない四次元空間を前線基地として利用し、地球侵略を目論んでいた宇宙人である。

 

因みに『目論んでいた』……なんて過去形で語ってはいるが、それはあくまでオレがこっちに転生する前に見た原作ではそうだったから、という意味であり……

 

この時空の地球人類からしたら、これがバリバリに初遭遇という事になるだろう。

 

なんせ、コイツの出番である『怪しい隣人』は本来だと第10話のエピソードであり、今の俺たちはまだ9話の敵であるチブル星人にすら会った事がないわけで……

 

――ここで先に始末しちまうか?

 

そんな考えが、オレの脳裏をふとよぎった。

 

そうすれば第10話をまるまるスキップできるし、なんならこの次の9話も、フルハシ一人すら満足に殺せないポンコツアンドロイドなぞ奇襲で簡単にぶっ壊せる予定なので、そうなれば頭でっかちのチブル星人なんかちっとも脅威ではなく……

 

こっから向こう2話分、まとめて楽が出来る計算になる。

 

なるのだが……

 

「お前……本当にイカルス星人か?」

 

「は? いったい何を当たり前の事を言っているんだな!? どっからどう見てもイカルス星人に決まっているじゃなイカ! このチャーミングでフサフサの毛帯! イカしたルシアン耳! そしてなにより溢れんばかりの知性が宿る涼しげな眼差しと、銀河中の婦女子から熱音波を欲しいがままにする甘いマスク! 誰もが振り返る伊達ルシアンの貴公子ではなイカ!」

 

「そ、そうか……母星ではさぞモテたろうな……」

 

「ま、吾輩があまりにも高嶺の花すぎて、低俗な女共は近寄る事すらも出来なかったと言えば、吾輩の素晴らしさがお宅にも分かるんじゃなイカ? ああ、なんと罪作りなワガハイ……あまりに完璧すぎるのも時として困りものなんだな」

 

「は、はあ……?」

 

いや、コイツの自認どうなってんだよ……

 

くそ! イカルス星人なんて地球人基準じゃ、どいつもコイツも無精髭の中年太りにしか見えねえから、ガチなのか自称なのかイマイチ分かんねえ!!

 

……ただ、今の会話でひとつだけ分かった事がある。

 

 

原作に出て来たイカルス星人、絶対コイツじゃねえわ。

 

 

オレの知ってるイカルス星人は、それこそタイトル通りにそりゃもう『怪しい』奴だった。

 

四次元空間へと踏み込んだダンと対峙した際も、想定外の事態に狼狽えるどころか、ダンの発揮する特異性に全く無感動無表情を貫き、彼をまるきり放置して地球を攻撃する余裕を見せつけたほど。

 

正体をあらわして巨大化した後は、多少コミカルな動きも見せたために、視聴者からはイマイチ強大な印象を持たれてはいないが……それはこの外見に大いに引っ張られた単なるイメージでしかない。

 

人間態時のイカルス星人は本当に不気味で、異質な知的生命体然とした、怪奇SFモノを目指したウルトラセブンの世界観に相応しい、まさしく宇宙怪人だったのだ。

 

だが……これは何だ?

オレの目の前で勝手に盛り上がり、そのだらしなく半開きになった受け口から今なお自画自賛を吐き続けるナルシストは……

 

「いったいどうしたんだな? そんなに熱心に見つめられても困るじゃなイカ。地球人は超音波出せないし、お宅の思いは残念ながら吾輩へと届かないんだな。可哀想に……」

 

イカルス星人、コレジャナイ。

 

……認めん! オレは断じて認めんぞ!

 

いや、怪しいは怪しいけど、怪しいの方向性があまりにも違い過ぎるだろ!!

 

これでは単なる挙動不審なんよ!

 

オレは、ウルトラファイト版のとにかくキレまくる情緒不安定なトンチキ武闘家のイカルスや、なぜか平成後期のニュージェネ以降で頻繁に再登場しては、おトボけコミックリリーフと化したイカルス星人達の数々を都合よく棚上げしながら、目の前のいかにも間抜けっぽい言動を繰り返すイカルス星人を、原作とは別個体であると断定した。

 

も、もしかしたらイカルス星人って個人差の激しい種族なのかもしれんし?

……というかまさか、原作の奴が異端だったまであるのか? そんなわけ……ないよな? ハハ、ハ。

 

そして、さっき棚上げしたギャグキャライカルスの中に、ひっそりと隠れ住む平和主義者もいた事を思い出したオレは、いつでもウルトラガンの引き金を引けるように準備しながら恐る恐る聞いてみる。

 

「ところで……イカルス星人が地球侵略を企ててるって噂があるんだけど、何かご存知?」

 

「ん? そんな事、吾輩が知るわけないじゃなイカ! だいたいこの聡明で革新的な大天才が、狭くて小さくて穴ぼこだらけのスカスカ惑星なんぞに収まる器だとでも? あんな古臭くて、頑迷な、陰湿で、見る目の無い星なんかとっくの昔に飛び出して、最近はおハイソなメトロポリタス銀河でブイブイ言わせているんだな! 種族が同じだからと言って、吾輩をそこらの凡人共と同列に扱おうなんてフユカイ極まりない! イカルス星なんかと吾輩はいっさい無関係なんだな!」

 

そうしてぷりぷりと憤慨しはじめたイカルス星人。

どうやら同族連中とは折り合いが悪いらしい。

 

まあ、この性格ではなあ……

 

「ああ分かった分かった! 悪かったよ! 俺みたいな無知な地球人からは、アンタがあまりにも偉大すぎて逆に分かんなかったのさ! ほら、アリから見たらゾウも人間も一緒じゃん? デカすぎて」

 

「……むふ。そ、そうなんだな? ま、分かればいいんだな! 吾輩は寛大だから、多少の無礼には目を瞑ってやってもいいんじゃなイカ?」

 

……うわチョロ。

 

なんとなく無害っぽいから別にいいか……殺さなくて。

 

つか……萎える。殺意が。

こんな奴に殺伐とシリアスやっても、こっちが馬鹿らしくなってくるというか……

 

ウルトラセブンの世界観に、こんな巫山戯た宇宙人が出て来る事自体がオレにとって解釈違いだ。

 

こんなギャグキャラを、ウルトラ警備隊の討伐リストに加えたくない。

 

「……ところで、そんな賢いアンタがルバンなんかに協力してんのは何故だ? なんて頼まれた?」

 

「前途ある子供らの未来を、惰弱で蒙昧な大人共から救出し解放する為には、吾輩の力がなによりも必要不可欠だから……に決まっているではなイカ!」

 

「お前……ぜったい騙されてるよ……ソレ……」

 

そうか……コイツ、頭はいいけど馬鹿なんだな……可哀想なやつ……

 

「いいか? ルバンは人をコレクションする事しか興味のない変態だぞ? アンタが自分で言う通りの天才なら、それこそ奴にとっては垂涎の品さ! 適当な嘘でここに閉じ込めてるだけなんだよ」

 

「そ、そんな馬鹿な!? 何かの間違いじゃなイカ?」

 

「いや、本人がそう言ってたし……因みに協力って、どんな?」

 

「ん? それは奴が使っているこの……Kミニオード入りの旧式生体インプラントを、より使用負担の少ない形に改良したり……」

 

そう言って、作業中だったらしい机の上を指し示すイカルス星人。

そこには、組み立て中の金具やレンズ、さらには精巧な人形の目玉みたいなモノまでが雑多に転がっていた。

 

その脇へ無造作に並べられた試作品達は……パッと見る限り、どれも小洒落たアンティーク調の金縁眼鏡やモノクルのような形をしているではないか。

 

あれれぇ? おっかしいな~?

なんだかとっても見覚えがあるぞ~?

それもついさっき。

……ははん?

 

「あとは、他の小道具の定期メンテナンスも……まあ、こっちはワガハイにかかれば、ついでみたいな仕事なんだな」

 

「あ! それ……」

 

さらにイカルス星人は、赤ん坊のガラガラみたいな道具を自慢げに取り出した。

 

先ほどのモノクルなんかよりもっと見覚えがある……というか、崖崩れに巻き込まれるまで俺が持っていた小型転送機だ。

 

捕まった時に、武器と一緒に取り上げられたんだとは分かっていたが、修理担当者の所へすぐさま返ってきたわけか。

 

「アンタ、それが何か知ってるか? わざとおしゃぶりに似せてあるけど、本当は小型の転送機なんだぜ? 赤ん坊を攫う為の道具さ」

 

ルバンに対する嫌悪感を煽るため、わざと吐き捨てるように言ってみるも……イカルス星人はポカンとした顔――それは元からだが――のまま。

 

「んなこと言われなくても知ってるんだな。なんせワガハイの設計だし」

 

いやお前かよ。

 

駄目だ……善悪の判断がイカルス星基準なのか知らんが、全然悪気が無さそうだ。

 

参ったぜ……実はこういう手合いが一番苦手なんだよな、オレ。

 

普段相手にしてるような侵略者とか怪獣とか、こっちに対して明確な敵意がある奴らなら、問答無用で「目には目を、歯には歯を」ってできるから、正直とても気が楽ってのはある。

 

ところが、どうやらコイツの中では良い事やってるつもりらしいし……いやまあ、だからこそ余計に始末が悪いんだが……まさしく本来の意味での確信犯。

 

……ん、待てよ? 確信犯? それなら別に遠慮する必要も無いか?

そうだな、うん。問題ナシ!

 

「だとすると、ルバンはアンタをタダ働きさせるだけさせて、用済みになったところで消すつもりなんだろう。きっと」

 

「け、消す!? それこそ有り得ないじゃなイカ!? なんでワガハイのような才能の塊を消す必要があるんだな!?」

 

「それは……ルバンがアンタに嫉妬してるからさ」

 

「……し、嫉妬!?」

 

「そりゃそうよ! なんせアンタはこんな凄いガジェットを作れる! そして、ルバンはこれを使って次々に事件を起こして名声を得ているわけだ……が! そうなるとつまり本当に凄いのは、この秘密道具を作ったアンタであって、真に評価されるべきはルバンではないってことになる! なにせ奴の活躍はアンタの下支えあってのことなんだからな! もしもそれが世間にバレるとどうなると思う……? そう、奴は激しく困る! つまりルバンが本当に欲しいのは、アンタの作る発明品やその設計図であって、アンタ本人の存在はむしろ邪魔でしかない!」

 

「な、なんだってなんだなーッ!?」

 

顔の隣で両手を広げ、顎をあんぐりと開いて絵に描いたような驚愕具合を見せるイカルス星人。

 

「奴が人材をコレクションするのは何故だと思うよ? それはな、自分に自信が無いからさ! 凄い奴を沢山従える事で、それを見た周囲に『なるほど、その頭領であるルバンはもっと凄いに違いない』とそう見せかけるためだけに、奴は優秀な人材を侍らせているんだ!」

 

「ふむふむ!」

 

「その証拠に、奴の手下にはルバンと同じ事が出来る奴なんていないだろう? 決して手下と同じ土俵で戦わないからこそ、奴はその自尊心を満たしていられるのさ」

 

「た、確かになんだな……!」

 

「ところが! 翻ってアンタはどうだ? このガジェットを使えば、アンタにもルバンと同じ事がいくらでも出来る! いやもっと凄い! なにせ自分で計画をして、自分で必要な準備を揃えられるんだぞ!? ルバンがアンタの本当の凄さに気付いていないと思うか? いいや! ないね! この俺ですら、一目でビビっと分かっちまったくらいだ! アンタが本来得るべきだった称賛を、横からかっ攫うのが真の目的だったのさ! そうに違いないぜ!」

 

「な、なんて奴なんだな! それじゃあルバンは、極悪非道の卑劣漢ではなイカ!」

 

「だから初めからそう言ってるじゃないか。こんな所にいたら、アンタ殺されちまうよ? 悪い事は言わない。一緒に逃げようぜ!」

 

「し、しかし……」

 

俺がそう言って手を差し伸べるも、途端に部屋の隅へ目線を逸らし、指を絡ませてなんだかもじもじし始めるイカルス星人。

 

「逃げるったって、部屋の外にはルバンの手下がいっぱいなんだな。無理に決まってるじゃなイカ……」

 

「チッチッチ……ところがそうじゃない。今な、連邦警察がこのアジトをガサ入れに来てるんだ。もう中はてんやわんやさ!」

 

「ヒェッ!? 連邦警察!?」

 

警察と聞いて、急に耳を畳んで身を縮こまらせるイカルス星人。

いかにも小市民的だ。

 

そりゃ、いままで単なる一般技師だったろうに、無理矢理犯罪の片棒を担がされたとなれば、そうもなろう。

 

「安心しろよ。俺は向こうの保安官と仲がいいんだ。アンタの事も、同じ被害者仲間だって、よーく言い含めてやるから。それとも……本当はルバンの一味なのか?」

 

「違う違う違う! ワガハイは奴らとなーんら関わりの無い、赤の他人なんだな! 第一、ワガハイまだなんにも悪い事してないし! やったのは全部ルバンであって、この手はまっさら白いままなんだな! さながら貴公子のように!」

 

マジか、コイツ……

 

まあいいや、こっから脱出できれば。なんでも。

 

「じゃあ作戦はこうだ。名付けて『よかれと思って作戦!』今このアジトは警官隊の襲撃で、猫の手も借りたいくらい忙しい! じゃあむしろそんな中で、俺たちがコソコソせず、にこやかに、フレンドリーに、この赤ん坊を抱えて堂々としてれば、誰も逃亡準備の手伝いだと思って疑わないわけ。現に怪我人の俺がここまでこれたんだぜ? さっきまで奴らに協力してたアンタが隣で『これも全てルバンの為なんだな!』と一言太鼓判を押してくれれば、もう成功まちがいなしよ! ね? 今が絶好のチャンス!!」

 

「おお! ……確かにルート選択と要所の対応さえ失敗しなければ、あんがい行けそうなんだな。いいじゃなイカ! 吾輩も、そろそろ飽きてきたところだったんだな。乗ってやろうじゃなイカ」

 

「よっしゃ! それならこの瞬間から一連託生だ! よろしくな、イカルス星人!」

 

俺が握手の為に左腕を差し出すも……

 

「その……イカルス星人、イカルス星人って、失礼な奴なんだな? さっきも言ったように吾輩を他の暗愚共と一括りにするのはイカがなものか? 吾輩にはちゃんと偉大でカッチョイ~イ名前があるんだな!」

 

腕組みしてプイとそっぽを向くイカルス星人。

 

「おお、そりゃスマン。だったらその名前を聞かせてくれよ」

 

「だから! 『偉大でカッチョイ~イ名前』だって、そう言ったじゃなイカ!」

 

「……だからその、アンタに相応しい偉大で格好いい名前をだな……」

 

……いや、待てよ?

これ、もしかしなくても『偉大で格好いい名前』までが名前なのか。

意味がそのまま通るから全部翻訳されちまってんだ……

 

ややこしいなあ、もう。

 

「……よし! どうやらお前さんの名前は、あまりに恐れ多すぎて地球人の口では発音できんらしい! だから今回は、暫定的にイカルガという渾名でよぶ事にする! それでいいよな? イカルガ?」

 

「イカルガ? なんか変な名前じゃなイカ……?」

 

「そんな! イカルガさんはイカルス星人でも使ってろ、という名言を知らんのか!?」

 

「知るわけないんだな! というかそれ、明らかに我々を馬鹿にしてる発言じゃなイカ!?」

 

「いやいや、これを言われたイカルガというのは本当に素晴らしい選手でな、不世出の大天才だったんだ。そんなお前には、同じくらい才能に溢れた存在こそが相応しいと、そういう意味の格言なんだよ」

 

「むふ。そ、そんならまあ……吾輩としても不服はないんだな? ……この場かぎりなら、その呼び方で我慢してやろうじゃなイカ!」

 

渋々という体で照れるイカルガ。

 

するとドアがノックされ、外から人が入ってくる。

 

「ドクトル。赤ん坊を連れた変な男を知らないか……ギャッ!?」

 

「誰が変な男や」

 

用件を言い終わらないうちに先制攻撃で撃ち倒す俺。

 

……あっぶな。

さっき適当な口車で余所へやった、ウエノ似なクローン兵だったわ。

オムツ抱えて律儀に戻ってきやがった。

 

「……へ? え、こ、殺し……」

 

「いやいや、気絶してるだけだよ。ホラ、お前さんの足元に転がってる奴もな」

 

「え? 足元……ギャーッ! し、死んでるんだなー!?」

 

さっき蹴り入れた見張りの死体に今更気付いたのか、その場で猫のように飛び上がるイカルガ。

 

「キャー! ひ、人殺しー! ……あ、でも気絶か。なあんだ良かった良かった。じゃあ何も問題ないじゃなイカ! 地球人氏、びっくりさせないで欲しいんだな、もう」

 

そんで一通り騒いだあと、俺の言った事を鵜呑みにしてか、死体をろくに確認もしないまま胸を撫で下ろす。

 

……うん、確信したわ。

コイツは犯罪者の仲間ではない。

 

警戒心がなさ過ぎる。

 

「いきなりで悪かったよ。コイツが急に出て来るもんだからさ……おっと、自己紹介が遅れたな。俺はソガってんだ。特技は早撃ち。脱出するまでの短い間だが、よろしく頼むぜ、イカルガ!」

 

俺が爽やかにサムズアップすると、キョトンとした顔で棒立ちするイカルガ。

 

どうしたどうした?

俺の見事な早撃ちに見惚れたか?

 

「なあんだ。吾輩、きっと凡人の事なんか覚えてられないから、わざわざ自己紹介なんか要らなかったのに……見た目によらず礼儀正しい奴なんだな、ソガ氏。でも吾輩、そういう奴は嫌いじゃないゾ」

 

……はたしてコイツを信用して大丈夫なのだろうか。

 

――――――――――――

 

 岩陰に身を隠しながら、手元の通信機に囁く。

 

こちらエリキュール。各員、配置についたか?

 

《こちらAチーム、準備完了》

 

《B班、いつでも》

 

 顔を上げ、正門近くに待機している部下にそっと目配せすれば、特殊耐圧服に身を包み、反応式バテリングラム――つまり突入用の個人携行型破城槌――を両手で抱えたブルックリンが頷いた。

 

 通信機のツマミを弄って拡声モードに変更してから、マイクに向かってがなり立てる。

 

……よし。キュラソ連邦警察だッ!! 怪盗ルバン夫妻、およびその一党に告ぐッ! 諸君らは完全に包囲された! 無駄な抵抗は止め、速やかに自主し、人質を解放せよ! 諸君らには現在、窃盗および児童誘拐その他に関する容疑がかけられている! これは最後通牒である! 呼びかけに応じない場合は、実力行使へ移行せざるを得ない! 繰り返す! 速やかに投降せよ! 大人しく逮捕に応じれば身の安全を保証するが、抵抗した場合はその限りで無いッ!! 10秒以内に返答が無ければ逃亡したものと見做す!

 

「……どうせ大人しく捕まる奴なんていないんだから、さっさと突っ込んじまえばいいのに……」

 

 隣に屈み込んだフルハシ警部補の小さなぼやきを聞き流しつつ、エリキュールは使い古された重力波時計に視線を落としたまま、微動だにしない。

 

 じっ……とその時を待つ。

 

 きっかり十針。

 

……やれ! 突入ーッ!!

 

 号令と共に、ブルックリンの豪腕が振り下ろされた。正門へ勢いよく叩き付けられる小型破城槌の先端。

 

 その瞬間、内部に仕込まれた炸薬が反応し、優雅な彫刻の施されたゲートを跡形も無く粉砕する。

 

 指向性を持って放たれた衝撃波により、インパクト時に齎される圧力はおよそ300トン。よほど厚みのある金属扉でもなければ、これに耐えられるものなど存在しない。

 もちろん、発生した副作用諸々を制御するための特殊スーツを含め、装備一式も相当な重量になる。いかにキュラソリアンが体躯と膂力に優れた種族であって、とりわけ過酷な訓練を経た騎兵連隊の警官と言えど、この突入装備を扱うブリーチャーに選抜される者は一握りである。

 

 まして、役目を終えたはずのそれらを保持したまま戦闘行動へ移行できるものなど。

 広大な連邦全土を隅から隅まで転々とした自負のあるエリキュールであっても、そんな非常識な存在は目の前にいる副官しか知らない。

 

閃光射榴弾投射ーッ!

 

 そんな貴重な部下を万が一にも失うわけにもいかず、エリキュールも間髪を入れずに援護を入れる。

 慣れ親しんだ相棒であるブラスターのトリガーを押し込めば、部下の開けた大穴に最大威力のフラッシュバンが飛び込んだ。

 

 朦々と立ち篭める土煙の向こうで、光球の爆ぜる音がする。

 

行け! 行け! 行け!

 

 全隊に突入指示を発しながら、捲り上げたコートを銃弾からの傘に突撃を敢行。

 流石はルバンの配下達だ、正門爆破と射榴弾の衝撃により視界も聴覚も効かない中でも反撃を忘れない。

 

 まばらではあるが、煙の向こうから光条が伸びてくる。ほとんどが明後日の方向へ飛んでいくが、中にはまぐれ当たりのものもちらほら。

 

 防弾コートに粒子が掠るのを感じ、背後にいるはずの預かった警官へ声をかける。

 

フルハシ警部補! なるべく本官の影に!

 

「ハッ! この通り助かってます!」

 

 返事は思っていた以上に至近から聞こえた。まさしく影の如く背後へピッタリくっ付いてきていたらしい。

 

 ……なんだ。案外、動けるじゃないか。

 

 新人警官と聞いていたが、鉄火場での身の振り方はしっかりと心得ているようだ。確かに初対面での印象は、このエリキュールをしてベテラン警官のそれと見紛うほどであったのだから、なるほどあの体捌きは現場からの叩き上げということか。もしかすると、自分やデストランのような経歴なのやも。

 

 流石はウルトラ警邏隊。やはり辺境惑星の地方警察とはとても侮れぬ。それ見たことか、本庁の奴らめ。

 だいたい、303号がたまたまで生け捕りに出来るような囚人なものか。

 

 エリキュールは、新任警官すら本庁職員並の動きをするウルトラ警邏隊の練度に、内心で舌を巻きながら彼らの評価をまた一段階上げた。

 

 であるならば、彼を正式に戦力として換算してみても良いかもしれない。

 キリヤマ警視正から託されている以上、彼を守りながら防戦に徹し、必要以上には進まないつもりであったが、彼が一人でも身を守れると言うのならば、ブルックリンの突破力を活かして攻めてみるのも良い。

 

 本隊がアジトの中枢へ食い込めば食い込むほど、敵をより多く引き付けられ、それは両翼部隊の素早い侵攻速度に繋がる。

 

 機材の裏へ転がり込むようにしてカバーをとったエリキュールは、猛然と射撃を開始した。

 彼のブラスターが強い輝きを放つ度、ルバンの手下であるクローン兵が一人、また一人と倒れていく。

 

 今は非殺傷出力で撃っているが、エリキュールの相棒は元より大口径のじゃじゃ馬だ。当たれば痛みで2日は起き上がれないだろう。

 

 「ヒュー! やりますね! 刑事隊長どの!」

 

そういう貴官もな! フルハシ警部補!

 

 しかし……と、エリキュールは先ほどまでの高揚感がすっかり引っ込み、鼻先を噛む思いがするようだった。これではきりがない。

 

 銃撃戦における不利が徐々に明らかになってきたのだ。

 

 本隊とは名ばかりの三人しかいない少数精鋭でありながら、雲霞の如く押し寄せる手下共に彼らがまだ押し負けていないのは、ひとえに三人それぞれがいずれも名手であり、対する敵側には初手の混乱があったからである。

 

 ところが、後から合流するクローン兵にはそういった負の要素がなく、つどつど目眩ましの光球を放ってはいるが、効果にも限度があった。

 

 なまじ戦闘員としてのクローン兵には目立った欠点がないどころか、身体能力そのものは比較的高水準で纏まっているため、双方の練度にそこまでの開きはない。

 

 そうなった時に浮き彫りとなってくるのが……装備の差。それが射程や取り回しの面で顕著に表れてしまっていた。

 

 連邦警察で正式採用されているブラスターは、なんとか言う妙な名前の粒子を、空気中の水分と反応させて何だかんだするという、エリキュールの古ぼけた頭ではイマイチ理解しがたい仕組みをしているが、アマギ鑑識やソガ警部によれば、この星の環境下では著しく性能が落ちるらしい。

 

 中でも特にブルックリンが一番苦しそうであった。それはそうだろう。なにせ彼が使っているのは、出力を落とす代わりにリロードの隙を無くし、連射力を上げた新型タイプだ。

 

 本来の対人想定では不必要なほどに馬鹿げた威力をしているせいか、反動もやたらと重い旧式銃……つまりエリキュールが任官当時からの愛用品ですら、フルハシ警部補の撃っているあの……パラライザー? とかいう非殺傷麻酔銃に少し劣る程度までしか弾が飛ばないくらいである。

 

 ただでさえ普段から物足りないと感じていた新型は言わずもがな。連邦警官のブラスターは、軒並み出力低下の煽りを諸に受けてしまった形である。これだから本庁の導入した銃なんか使わせたくなかったんだ。現場もろくに知らないで耳触りの良い事ばかり言いおってからに。

 

 部下達にはあらかじめ出力低下の旨を警告していたので、それが原因で外すような事態には陥っていないが……それでも普段以上の接近を余儀なくされているのは間違いない。

 

 つくづく事前に問題が判明していて良かったと思う。これがぶっつけ本番であれば、絶対に無用な混乱を招いていたところだ。レクリエーションを提案してくれたソガ警部やアンヌ監察医には感謝してもしきれないな。

 

 ところが対する敵はというと、すっかりこの星の環境にも対応済みなようで、地球用に調整したらしきレーザーを遠方から好き放題撃ちかけてくるではないか。

 

 同じ距離から対抗できるのはフルハシ警部補のパラライザーくらいなもので、それすらも体幹にしっかり当たらなければ行動不能にまでは至らない。

 どうにもクローン兵達は、痛みや恐怖といった感情が薄いらしく、四肢が痺れた程度ではちっとも反撃を止めようとしないのだ。なんとも厄介な手合いであった。

 

『……ち、鬱陶しい』

 

「刑事隊長殿、さっきから部下の方が撃たれっぱなしですがね。ありゃ大丈夫なんですか?」

 

彼の耐圧スーツは防爆仕様だ。この程度の狼狽え弾にはビクともせん! ……とはいえ、心配するべきはスーツの耐久値よりもむしろ……

 

『連隊長! もう我慢なりません! 全部吹き飛ばしてやります! 許可を!』

 

 いきり立った部下からの陳情に、エリキュールはため息をついた。

 

……だろうと思ったぞ。まあいい。クローンは連邦法の対象外だからな。全員逮捕は元から期待しておらん……よし! 本官が敵の目を引き付ける! そのうちに接近しろ! フルハシ警部補、カバーを!

 

「よしきた!」

 

 途端に物陰から躍り出たエリキュールは、愚かにも敵の眼前へ仁王立ちになったかと思うと、惑星捜査官の証である全天候コートをサッと翻し、腰だめに構えたブラスターのトリガーを押し込みながら、逆手で銃の尻を続けざまにノックノック!

 

 ガガガォン! 殆ど一発分にしか聞こえない銃声が響いたかと思えば、たちまち数カ所で手下がドウッとくの字に吹き飛んだ!

 

 何事かと振り向いたクローン兵達へ、矢継ぎ早に襲いかかるパラライザーの麻痺光線。たまらず敵が身を縮めれば、その隙にエリキュールは次のカバーへと飛び込んでいる。

 

 今の曲芸じみた射撃法は、いわゆるノッキングとも呼ばれる旧式ブラスター特有の高等テクニックだ。

 手動で強引に雷管を叩くことで、一発分の粒子を複数回に分けて射出する非正規動作……エリキュールの十八番でもある。

 

 念入りなメンテナンスもなく乱用すれば、あっという間に銃の寿命を削る諸刃の剣だが、登場初期の単発式ブラスターは自由に連射が効かず、1射では足りない場面の不利を補うために、かつての使用者達の間ではこのような裏技じみた技法が多数編み出されたのだった。

 

 もちろん、旧式ブラスターであれば誰でも使える技ではなく、安全装置を誤作動させる絶妙な力加減、不規則な反動を抑え込む膂力、そしてなにより非正規の手段で吐き出された弾丸を狙いの場所へ当てる常識外の精密さ……それら全てが合わさってこその、まさしく熟練の神技といえよう。

 

 今や連発式が普及し、記念セレモニーでしか披露されないような泥雪を被った手段であるそれを、まして実戦の最中に行うなど正気の沙汰ではない。

 しかし、そんな狂気じみた行為を至って素面にこなしてしまうのが、このエリキュール特別捜査官という男であった。

 

 そしてそれは上司に限った話でもなく……

 

『ゴアアアアアアアッ!!』

「と、止めろー! 奴を止めろー!」

「撃て撃て!」

 

 反応式バテリングラムを頭上に掲げたブルックリンが、雄叫びを上げて吶喊する。

 

 手下達が慌てて射撃を浴びせかけるも、特殊防護板を幾重にも重ねた、最新式の宇宙甲冑で身を包んだ彼にはそよ風に等しい。

 

 そもそも……いくらスーツ自体に簡易な筋力補助があるとはいえ、もとは突入時の爆圧や火花に耐える為だけに設計され、その場で脱ぎ捨てていく想定のはずな重スーツを着たまま、あまつさえ百キロ近いエントリーツールを抱えて走るというのが非常識極まりないのだ。そんな不条理の塊を阻止するような威力が、彼らにあろうはずもなかった。

 

 重粒子ハンドカノンでもあれば話は別だったろうが……もっぱら装甲車やキャンダーの排除にしか使われないような軍用装備は、一介の強盗団が持ち出すには不相応が過ぎるということである。

 

「ぐわああっ!?」

 

 振り下ろされた破城槌は、手下達が塹壕代わりにしていた上等なテーブルだの、何らかの機材だの、その一切合切を無価値な破片へと変えてしまった。

 まかり間違っても、彼を人質確保や盗品回収班に回してはならない理由である。

 

「はっはっはっ! こりゃすんげえ威力だ! 気分爽快だぜ! ……ん?」

 

 その時、残心を取るブルックリンの背後で、何かがギラリと光った。

 

 破壊によって一時的に悪化した視界、その暗がりに息を潜めていた手下が、刃物を手に飛びかかってきたのだ!

 

いかん! 後ろだブルックリン! 電磁ナイフを所持しているぞっ!

 

『なっ!? ぐわっ、コイツ……』

 

 重戦車の背中にとびついた敵は、手にした刃物をやったらめったら振り下ろす。

 

 スーツを突き破ってしまったとしても、大部分の場所はボディアーマーの硬質プレートによって保護されているが、首筋や関節部はその限りではない。

 

 急いで引き剥がさなければならないが、耐圧スーツは鈍重で身動きを制限されるのが欠点だ。

 背中側まで腕がまわらないのである!

 

 そんな時。

 

「どりゃああああっ!」

 

 獣のような身のこなしで、小柄な何者かが素早く飛び出したかと思うと、ブルックリンの背中へ張り付いていた敵の横っ面へ、強烈なストレートをお見舞いした!

 

 なんとそれは、あの新人警官フルハシ警部補ではないか!

 

 反撃としてナイフがそちらへ振りかざされるも……

 

「トーッ!」

 

 手首を握って正面から受け止めたばかりか、握り拳へすかさず手刀を打ち込み、凶器を取り落とさせるではないか。なんと鮮やかな連撃!

 

 あとはひたすらパンチの連打連打連打……そして!

 

「だらあっー!」

 

 足を軸にぐるんと体を回転させた勢いのまま、掴んだ敵の腕をぐっと引き、大柄なクローン兵――少なくとも小人揃いな地球人の中では比較的大きい個体のように見える……とはいえそれでもエルメ程度でしかないが、フルハシやソガ警部はもっと小さいため、この表現で合っているはずだ――を軽々と放り投げてしまった。

 

 これにはエリキュールも驚くしかない。訓練場でブルックリンやデストランが、腕力にあかせてエルメを投げ飛ばすのはよく見る光景だが、その逆は皆無である。

 

『……ふん、余計な真似を。一人で充分に対処できた』

「おっ? なあに、礼には及ばねえよ! おめえさんみたいなドンガメは弾除けにぴったりだ! お互い様だあな!」

 

 そこには既に、ブルックリンの背後を守るかの如く、小回りの利いたフルハシが鹵獲したナイフをチラつかせながら敵を牽制するという、即席の連携が出来上がりつつあった。

 

 ……互いの言葉はまるで通じていないようではあるが。

 

 エリキュールはほっと角を震わせて、妙な噛み合いを発揮し始めた部下達の援護に徹する事にした。

 

 ただ……先程のフルハシ警部補の動きにはどこか妙な既視感があるような。あれは……そうだ、チェリンホードのよく使う、我流の格闘術に良く似ているのか!

 

 もしも彼らの扱うそれが、似通った思想の基に練り上げられた武術なのだとするならば、体格や腕力の不利を易々と覆してしまうのも頷ける。

 

 エリキュールはここで、見るからに粗忽なフルハシ警部補が、精鋭たるウルトラ警邏隊の一員として部隊の仲間入りを果たしている意味にようやく合点がいった。

 

 アンヌが医学、アマギが科学、モロボシダンが宇宙学的見地から協力し、ソガがそれら知識をまとめ上げつつ心理プロファイリングによる捜査を行った後、フルハシは最後の段階……つまり捕縛術のプロフェッショナルとして籍を置いているに違いない!

 

 通りで班分けに異論が出なかったはずだ……まさか消去法ではなく最適任であるが故だったとは。

 

 ……とすると、少し判断を誤ったか? てっきりソガ警部を除外した場合、最も手練れはモロボシダン警部だと考えて彼をB班に配置したのだが……

 いや、コミュニケーションの問題もある。やはり振り分け方はあれで正解だが、さて……

 ふとエリキュールは、副官へと連絡を繋ぐ。

 

アイオーン。私だ。本隊ただいま快調。首尾は?

 

『は、それがどうにも……』

 

 いつになく口籠もる副官に、やはりかと不安が的中した事を悟り、つとめて冷静な口調を心がけた。

 

かまわん。多少の遅れは許容できる。こちらで挽回するとしよう。最悪、彼奴らの逃げ道さえ塞げば……

 

『――いえ、いいえ連隊長。逆です。もうポニードックが目前です』

 

……な、なに!?

 

 思わず声が大きくなり、敵の射線が一時的にこちらへ集中した。

 その隙を逃さず、重戦車と随伴歩兵が突撃した途端、みるみる敵を平らげていく。

 

い、いったいどうした事か!? 一味はそちらに誰も人員を配置していなかったのか?

 

『は、それが……モロボシダン警部が思った以上にアグレッシブといいますか……物陰に隠れている敵を次々見つけては、敵が奇襲をしかけるより先に潰してくださるものですから……ハッキリ言って、いつかの演習以下です』

 

……そ、そんなに

 

 副官の述べた例が何かは直ぐ分かったので、思わず絶句する捜査官。

 いつだったか汚職容疑のあった自警団を、演習の名の元にとことんまで性根を叩き直した、通称お遊戯会。

 あれに劣る実戦があるなどと。

 

『フェルマーニを先行させても構いませんか? このままでは我々の面目が立ちません』

 

……許可する。ただし、目標地点の確保を最優先。命があるまで持ち場で待機せよ。どうやら三隊で足並みを揃える必要がありそうだ

 

『了解』

 

 通信を終えると同時に、部下達が戻ってきて報告を行う。

 

『連隊長、敵の掃討が完了しました』

 

……ああ。これは文字通り……掃討、だな

 

 見渡せば、エントランスは死屍累々。

 改装工事でも入ったような有様だ。

 

 思わず呟きが漏れる。

 

……まずいな

 

「何か問題でもあったんで?」

 

いやなに。これでも我々が一番出遅れているかもしれんのでな。多少ペースを上げるとするか

 

「そういう事でしたら喜んで!」

 

 息も上がらないまま、無光情に頷くフルハシ警部補の意気込みに、エリキュールは複雑な思いがした。

 本庁の連中のように、地球を野蛮人の巣窟だなどと疑うつもりも角頭ないが、こういう気質が誤解を招く原因なのではないかと……

 

 冷却シガーを咥えた時だ。

 緊急無電のベルがなる。

 

私だ! どうした!?

 

《あ、特別捜査官! こちらAチームのアマギです! 大変です! 隊員に負傷者が! いつもパイプを持ち歩いている方です!》

 

……デストランか! 容態は!?

 

《左腕を撃たれました! 今、アンヌが応急措置を……》

 

 それを聞き、ふっと安堵の息をつくエリキュール。

 

それは良かった。引火せぬように、止血さえしっかりとしていただければ、直ぐに離れるようアンヌ監察医へお伝えください。無用な危険を冒す必要はない

 

《そんな!》

 

 通信機の向こうでアマギが絶句すれば、すぐさまフルハシのビデオシーバーが鳴り、必死に包帯を巻いているらしいアンヌが、涙ながらに叫び返してきた。

 

《保安官! なんて事を仰るんです! デストランさんの腕が使い物にならなくなってもいいんですか!》

 

使い物に……? そうなったらいよいよ、新品と付け替えてやれば済む話でしょうや?

 

《……新品を?》

 

「……付け替えるぅ?」

 

 なんだか素っ頓狂な声を上げるフルハシ達。

 

 ……待て、この反応はまさか?

 

まさか、地球では培養体の置換手術がまだ一般的でない!?

 

「バイヨータイの痴漢だあ? 刑事隊長殿、そいつは一体……?」

 

……いや待て待て! 待ちたまえ警部補! それは嘘でありましょうや? 四肢置換の当ても無いのにあれほど暴れていたのか、貴官……?

 

 エリキュールは、口を開けてポカンとするフルハシを、心底信じられない気持ちで見つめ直した。

 

 ……正気か? この男。

 

《……つまり、エリキュール捜査官。あなた方の母星では、クローン培養か何かした臓器その他器官を、人体へ丸ごと移植する治療法が既に確立されているわけですね?》

 

……地球はそうでないのだな。遅ればせながら本官、たったいま理解したであります。そして、諸君らの勇気に改めて敬意を評する

 

 思わず額が熱を持つのを感じる。

 

《だそうだ、アンヌ。出血さえ止められれば、彼の今後に支障はない》

 

《それでも……そんな無責任な事は出来ません! そもそも私が悪いんです……見つけた女性に、誘拐された人かとつい声をかけてしまって……咄嗟にこの方が庇ってくれなかったら、あたし今頃……本当にごめんなさいデストランさん!》

 

 画面の向こうでアンヌの頬を涙が伝うのが見えた。

 

 ……なるほど、デルの奴は役目をしっかりと果たしてくれたらしい。

 

 彼の故郷である南部星域は、良質な重油が産出する事で有名だ。その特産品をたらふく飲んで育った彼の体は、部隊で最も大きく丈夫だ。皮膚も分厚く、裸ですら下手な軽鎧を凌ぐ耐久性を発揮する。

 

 ここへ騎兵連隊御用達である、アイオ印のボディアーマーを着込むのだから、その防御力は随一だ。

 もちろん純粋な耐久性だけを言うなら耐圧スーツを着込んだブルックリンになるのだろうが、視界や機動力も確保した総合的な護衛能力ならば彼の右に出るものはいない。

 

 おまけに南部人特有の粘度が高い体液も、他の警官と比べて引火しづらいときた。その分、いつも加温パイプが手放せないぐらいの酷い低圧症に年中悩まされているものの……これが西部産まれの自分や北部出身者であるフェルマーニであれば、今頃腕が飛ぶどころかあっという間に全身火達磨だっただろう。

 

 それを彼自身も分かっていて、いままで受けた殉傷勲も一つや二つでは利かないほど。いったいこれで何度目になるだろうか。いや、だからこそ彼をAチームへやったのだから。

 

 技師や医官は、被害者を見つけた時に絶対必要となる人員だ。彼の役目は、あくまでアンヌやアマギを守り抜くこと。

 こちらの思惑を読んで大手柄を上げてくれた親友には、本当に頭が上がらない。培養体の申請費用なんて、いくらでも肩代わりしてやるつもりである。

 

 今回は運悪く関節部を弾が掠めたか……あるいは2射目で狙いを変えられたか。いずれにせよ不幸中の幸いであった。

 

《全身全霊をかけて手早く終わらせます。ですからもう少しだけ、彼に治療をさせてください》

 

でしたら恩に着ます、アンヌ監察医。……ただ、そうなるともう少しばかり陣地を確保した方が良いでしょうな。アマギ鑑識、チェリンホードに代わっていただけますか

 

《えっ……》

 

 Aチームの侵攻速度を犠牲にするのは痛手だが、人質解放後の退路を確保すると考えれば悪くはない。

 

 しかし、返ってきた言葉にエリキュールは角が真っ黒になった。

 

《もう一人の方なら、安全地帯を確保すると言って、敵を足止めに……》

 

な、なんですとっ!?

 

「うわっ、なんです刑事隊長殿……ああほら、また敵が寄ってきた……ほら行くぜアンタ」

 

 近くで新たな破砕音の二重奏が奏で始められるのも聞き流し、エリキュールは思わず額に手をやった。

 

……行かせてしまったのですか

 

《……ええ。し、しかし彼の提案は理に適ったものでした。負傷者の治療時間を確保するには誰かが敵を押しとどめねばならず、その任には自分が一番だと……》

 

《それにとても冷静に見えましたわ。ご心配なさらずとも、無理はしないんじゃないかしら。こちらももうすぐ終わりますし》

 

冷静ですと!? 必要もないのに加温パイプを常用しているような奴ですぞ? あれが相棒を傷つけられて、素直に足止めで留めるものか……! 色は? 色はどうでした!?

 

《色? 色……とは?》

 

……額の! 光細胞の発光色です! 角の根元が光っておりませんでしたか!

 

 ああ……そうだ。

 異星文明との接触とは、本来こういう物であった筈である。それをエリキュールはやっと思い出した。

 

 あのソガ警部がいけないのだ。彼がこちらの言動をあまりにも自然に受け入れてしまうものだから、すっかり忘れていた。自分達の認識には大きな隔たりがあるはずなのだと言うことを。

 

《色も何も、あの時はそもそも光ってすらいませんでしたわ。保安官はよくお光りになりますけれど、あの人は随分と抑制が利いた人なんですね。我慢強いというか》

 

……それは角の先まですっかり油が回ってしまった証拠です! 非常時に色を出さない警官がどこにおりましょうや!?

 

《……ええっ!?》

 

《でも、チェリンホードさんは部隊で一番強いとデストランさんが……》

 

《現にここまでの道中でも大活躍でしたし……》

 

 デルの奴め、また相棒を自慢していたのか。余計なことを……

 

 無理もない。チェリンホードは射撃演習でエリキュールに並び、格闘訓練でもブルックリンにすら引けを取らない。それは純然たる事実であった。

 

 その上、広範な知識も有しているとくれば、どんな完璧超人かと叫びたくなるところ、それを本人が黙して語らないものだから、代わりに自慢のひとつくらいしたくもなろう。気持ちはわかる。

 

 ……だが!

 

確かにチェリンホードは、我が隊屈指の猛者でありますとも! ですがそれは……擬似的にでも1対1に持ち込める状況の話であって! 今回のような集団戦ではてんで駄目だ! 奴を一人にしてはならない!

 

 これだけは断言できる。なにせ、デストランを除けば奴との付き合いが一番長いのだから!

 

奴は自分を顧みるという事がない! 敵を倒す為ならば、自身の保全を完全に勘定の外へやってしまうのです! 誰かが傍でその死角をカバーしてやらなければ、なにをしでかすか分かりません! アマギ鑑識! 直ぐに後を追ってください! それが合理的と感じたら、その場で火を噴きかねない男です!

 

《わ、分かりました!》

 

 

――――――――――――

 

 

「だから、さっきからそう言ってるんだな!? 吾輩達は、ルバンの手伝いをしてやってるというのが見て分からなイカ!?」

 

「は、しかし我々はここを警護するよう言われています」

 

「しゃらーっぷ! 言われているので出来ませんは馬鹿の台詞ですよー!? ほら、あんたらには聞こえんのかこの戦闘音がよ!」

 

耳をそばだてれば、遠くで何かがぶっ壊れるような音がする。

 

……いや、なにやってんだろうあの人達。

普通の銃撃戦じゃ絶対に出ない音でしょこんなん。

 

「な? 敵の狙いは明らかに正面突破! 他のところは全部がただの陽動よ!? 子供でも分かるやんそんな簡単なことくらいさあ! さっきから主力が相手してんのに全然止められへんって事はぁ! 敵もそこに全戦力を集中しとるって何よりの証拠やんかこんなんさぁ! あんたらがせんならんのは、こーんな箸にも棒にもかからへんような場所やのうて、ちゃんと主戦場に合流することちゃうんけ!? それが美しい忠義の示し方なんとちゃうんか!? ほら、分かったらさっさとせんかい! 駆け足! 赤ん坊の避難は俺らに任せぃ!」

 

「そうなんだな! 美しいはセイギなんだな!」

 

「はあ……」

 

俺達でそうまくしたててやれば、釈然としない顔で騒ぎの方向へ歩き出す見張り達。

その背中へ……

 

「死ねどす」

 

バタリと倒れ伏したクローン達はピクリとも動かない。

 

「うまくいったんだな! ビックリするほど簡単じゃなイカ!」

 

「な? だから言ったろ?」

 

赤ん坊を抱っこしたイカルガが大はしゃぎでドタドタと謎のステップを踏む。

やめろ、赤ちゃん起きるやろが。

 

「しっかし、ソガ氏みたいなぼんやり凡人にアッサリやられちゅうなんて、コイツら全然大したことないんだな。ルバンが自慢するから、てっきりクローン兵って凄く強いのかと思っちゃったじゃなイカ。こんなことなら、吾輩一人でも楽勝だったんだな。さっさと逃げとけきゃよかったゾ!」

 

「ウン、ソウダネー」

 

いや、普通に無理だったと思うよ。

 

このクローン兵士、スペック的にはけっこう悪くないしね。

てか俺が万全の状態でも、正面から挑むと割とてこずるだろうから、正々堂々の勝負は勘弁したいなと思うくらいには上澄みだ。

 

日本人に対して体格ガン有利なクソデカ外人も多いし、肉弾戦ではまず勝てないとみて間違いない。

 

だから騙し討ちが正解なんですけどね、初見さん。

 

「因みにこの部屋は……と」

 

扉を開いた瞬間に、オギャアオギャアの大合唱。

 

「見つけたわ。ここか、赤ちゃん部屋」

 

「ちょっとソガ氏~! ここにきてオリチャー発動はやめて欲しいんだな? ほら~、赤ちゃん泣いちゃったじゃなイカ」

 

「うわ、ごめんごめんごめん~! 閉めるからね! お友達泣いてるの嫌やったよね~!?」

 

なんで赤ん坊って、誰かが泣き始めるとみんな一斉に泣き始めるんだろ。不思議だよな、アレ。

 

「しもた……これは明らかオレのミスやわ。どうしよ、泣き止まへん……」

 

「ま! ここはこの大天才、人呼んでドクトルリーパーにお任せなんだな! 刮目して見れば良いんじゃなイカ?」

 

「おお! なんか秘策があるのか!」

 

赤ん坊をオレに手渡し、ゴソゴソと懐を弄ったイカルガは……

 

「てんてけてーん! ネンネコロリ銃~♪」

 

「ネンネコロリ銃……?」

 

「……で、バン!」

 

「は? え、ちょ……ハァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙~!?!?!?」

 

手にした銃で赤ん坊を躊躇いもなく撃った。

 

「お……お前お前お前お前お前お前お前お前ェッ!! 何してくれとんじゃテメェーッ!!」

 

「うわああ! 何をそんなに怒ってんだな~!? 大声注意~! 吾輩の耳はデリケートと知ってるじゃなイカ……」

 

「おまっ……赤ん坊殺すは……ライン越えやろ……」

 

「ハアァッ!? そんな事、この吾輩がするわけないじゃなイカ!? 寝てるだけに来まってんだな!!!」

 

「……あ、ホンマや。早とちりで怒鳴ってしもた。スマン」

 

「勘弁してほしいんだな、全くもう……」

 

見た目が完全にタダの光線銃なのはどうにかなりませんでしたかねぇ!?

 

「……因みにそれ、どういう原理? わりと全国のパパさんママさん垂涎の品だと思うけど」

 

「簡単なんだな。目から入ったXチャンネル光波に嫌な記憶を転写させて、脳から抜き取ると同時に睡眠導入の命令を焼き付けてるだけなんだな」

 

「……Xチャンネル光波に記憶を……? 抜き取る……? どゆこと?」

 

「んもー! ソガ氏ってば良い奴なのにほんとニブチン過ぎて困るんだな……Xチャンネル光波といえば、あらゆる情報を高次元に遣り取り可能な超便利ツールとしてどこの界隈有名じゃなイカ。生物の記憶や感情なんて、所詮は単なる生体電気刺激のパターンなんだから、それを模倣するなんてお茶の子さいさいってことなんだな。だいたい、ルバンの使ってる技術も、原理的にはこれとほぼ同じことじゃなイカ」

 

「……なるほど、わからん」

 

「地球人ってほんっと愚かなんだな……」

 

ペタンと耳を伏せて、呆れを全面に表現していたイカルガだったが……

 

「んん? こ、これは……なんか来る! なんか来るんだな!?」

 

途端にイカ耳で周囲をしきりに警戒し始めるイカルガ。

そわそわと完全に落ち着きを失っているように見える。

 

「来るって……何が!?」

 

「そんなの知るわけないじゃなイカ! ただ、何かが凄まじいスピードで……ヤバイヤバイヤバイ、コイツマジヤバイんだな~!?!?!?」

 

「ヤバイって、なにがだよーッ!」

 

全く要領を得ないイカルガの様子に、これはいかんと俺も戦闘準備に入ろうと……

 

「あ、駄目なんだなコレ。んじゃソガ氏。そういうことだから。突然だけど、吾輩はここで失礼させていただこうじゃなイカ。あとは自分で頑張るんだな~」

 

「……は?」

 

ポン!

 

……そんな間抜けな音を残して、イカルガの姿が掻き消えた。

 

え? ここに来てそれはなくない……?

 

「一人でいつでも出られたって嘘じゃないのかよ~~~!! この野郎イカ野郎~~!!」

 

……こうなったら腹をくくるしかねえ。

 

すやすやと眠る赤ん坊をいったん床に置き、ウルトラガンを構えて通路の先へ集中する。

 

これは……叫び声? 戦闘音?

いや、何かから逃げ回っている……?

 

「オーマイガッ……!」

 

向こう側から這う這うの体で転がり出て来たクローン兵達が、最後まで言いきらない内に蜂の巣になる。

 

あまりにもな光景に目を見開いたのも束の間、何か巨大で細長いものが、豹のごとき身のこなしで飛び出してきたかと思えば……

 

それは、俺のいる方へ猛然と襲いかかってきた。

気になる?

  • 8番目
  • 保安官
  • 補佐官
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