転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
作戦室では、キリヤマ隊長がライターを付けたり消したりしながら、イライラと何かを待っている。
別に俺がおもちゃを抱えて帰ってきたから怒ってるんではないと思いたい。
……違うよね、隊長?
そこへ、分析の終わったアマギが戻ってきた。
「間違いありません。これらもあのブローチも、全て同じ宇宙金属です」
「やっぱりそうか……」
「それだけじゃないぞ。このワッペンにはな、ある種の周波だけを受けつける、特殊な装置がしてあるんだ」
「なに、受信装置?」
「ええ、この部分が受信機になっているようです」
「ワッペン型の、小型受信機……」
「それに、もっとおかしいのはこっちです!」
「銃や模型も何かあるのか?」
「まるで分解できませんから、確かなことは言えませんが……これらは本物とまるきり同じつくりになってるんです!」
「まるきり同じだと? どういうことだ?」
「弾の出ないおもちゃの銃に、ライフリングや、排莢口がどうして要るんだ? おまけに弾倉まで別になってる! それに模型は……この造りなら、動力さえ仕込めば、本当に動き出すぞ!」
「なぜ、それが分かるのに分解できない?」
「なにか、ロックのようなものがかかっていて……こちらからの干渉を受け付けないんです! 一応、破壊することはできますが……少しでも内部が見えるような傷を負うと、自爆してしまうんです」
「ますます分からん……」
「じゃあつまり……こいつら全部、ラジコンってことか?」
「ラジコン?」
「そりゃそうだろう、受信機のついたオモチャっていうと……なぁ?」
「先輩、案外いい線いってるかもしれませんね。……ある日一斉に動き出すオモチャ達!」
「つまりアンドロイド0指令とは……しかし、そんな事が可能なのか?」
「今の地球の技術では、到底不可能なのは、間違いありません」
「……よし、その老人が、もはやただの地球人で無いのは明白だ! ……ダン、ソガ、奴を追え。内容がなんであれ、なんとしてもアンドロイド0指令を破壊せよ!」
「了解!」
ウルトラ警備隊が、なぞのオモチャに警戒態勢を敷いた頃。
要注意人物となった、おもちゃじいさんと名乗る男のアジトでは、ベレー帽を被った老人が、蛾のたかる古びたランプの明かりを頼りに、チェス盤に向き合っていた。
「よし……これもよし……」
何事かを呟きながら、ルークの駒を動かす。
しかし、よくよく見ると、盤上はまるでゲームの体を成していない。
だが、それでいい。何も問題はない。
なぜなら、これはチェスのゲームではなく、ある兵器群の図面であり、地球侵略の計画図であり、そしてなにより、それを書き込んでいる老人の正体が、銀河最高の知能を持つ、チブル星人であるからだ。
彼らの知能と記憶力があれば、この銀河の辺境の星の、低俗なお遊びの棋譜にすらも、複数の意味を持たせ、暗号的な独自言語を作り上げることが出来る。
ただのチェス盤を、高度な設計図でありながら、スケジュール帳とメモ書きにするなどという芸当は、彼からすれば造作もない事なのである。
チブル星人は銀河で最も有名な種族の筆頭だった。
もしも――そんな事は不可能であるが――全銀河でアンケートを取ったとするならば、最も賢い種族と言えば? といった設問で、上位三位のどこかには入っただろう。そしてそれは決して間違いではない。
仮に全知全能の存在が居れば、自身の次に【全知】へ最も限りなく近い存在はチブル星人であると答えたはずだからだ。
だが……と同時に、先程のアンケート結果で、チブル星人と答えた99%の者が、間違えた回答をしているのは明白だった。
彼らの思い浮かべるチブル星人とは、チブル星人では、無い。
彼ら種族は銀河で最も高名でありながら、銀河中で最も勘違いされやすい種族だと言えるだろう。
それは一体どういうことか?
まずそもそもの勘違いとして、チブル星などという星は無い。
もちろんの事、星図に【チブル星】として記載されて、そう認識されている地点、というか物体はある。
だがそれは、岩石で構成された一般的な天体でもなければ、ペガッサ市のような建造物でもない。
巷でチブル星人などと呼ばれている、
ここまでくれば分かるだろう。
チブル星人とは、個人の名前であり、星の名前であり、銀河に浮かぶ
今現在も、チブル星の中心部では思考の刺激により活性化されたニューロンが増殖し、思考し、さらに増殖というサイクルを繰り返している。
銀河で認識されているチブル星人という種族は、このニューロンの一断片にしか過ぎないのだ。
もっとも、始末の悪い事に、この神経細胞一つですら、銀河にあまねくほとんどの種族よりも賢いのだから、その勘違いが一向に是正される気配がないのも当然と言えるだろう。
非常に賢明なチブル星が、これ幸いと現状維持を決めこんでいる、というのも一因か。
彼らは、いや彼は、むしろ賢いがゆえに、他種族との過度な干渉をしないことにしていた。
知能レベルのあまりに大きな隔たりが、双方に大きな認識のズレと、それに伴う多大なストレスをもたらすことを分かっていたからだ。
だが、それはそれとして、銀河では度々、このチブル星人だと思われている神経細胞が独立して動いているのを見かける。それはなぜかというと、チブル星人が、銀河の破滅を遅らせるために、ただの細胞を住人だと偽って派遣しているにすぎない。
彼は溢れるほどの知性からくる穏やかで、理性的な性格をしていた。
では……侵略者の参謀として恐れられているチブル星人とはいったい……?
何億何万という思考を全細胞で同時に行っていれば、中には一つくらいは、他種族の支配という結論に至るモノもある。そして、それが容易い事も。
本来思考とはあらゆる可能性を模索することであるから、その結論に至るのは何も不思議ではないが……たまに発想を切り替えられず、その一つの思考に取りつかれる細胞がある。
そんな細胞がいては思考の邪魔なので、全ニューロンの蠢動によって、その細胞は体表からはじき出されるのだ。
……つまるところ、この小屋の中で計画を練っているチブル細胞は狂っており……医学的に言うと、
「トドメは……これだ!」
チブルのガン細胞が、白のクイーンで、盤上にとまった蛾を、昆虫標本のようにすりつぶす。
その意味だけは、チブル星人でなくとも読み取れたかもしれない。
彼の手で書きなぐられたその文字は……【地球陥落】
「さあて、そろそろ出掛けるかな」
チブル細胞は昼間の男を思い出していた。
目の輝き、表情の変化、声のトーン。そのどれもが、
証拠品を手に入れるための演技という可能性を。
地球人があれほどの擬態を行える可能性は限りなく低いが……ゼロではない。
であるならば、何事にも最善を尽くし、出来ることはすべてやるべきだ……もうこれ以上時間はかけられない。
たった一晩では、あのオモチャの謎を解明出来ないはず。なにせ自爆機構を仕込んである。
……そしてもしも、あの男が見た目通りの馬鹿だったならば、机の上の戦闘機が、飛び立って隊員達を皆殺しにするだろう。
こちらの準備は終わった、やはり今夜こそが決行の時。
老人が戸棚を開く。そこにはフルハシを襲った美女によく似た人形が仕舞われていた。
機動音と共に人工皮膚に通電され、人形の顔は人間と変わらない生気を宿す。
彼女はアンドロイドだったのだ。
「アンドロイドゼロ指令、今夜発令する」
「はい。」
「そのためにモロボシダンの動きを封じなければならん。それがおまえの役目だ。おまえはそのために作られた」
「わかっております。」
「二度と失敗は許されんぞ。何としてでも、モロボシダンを……」
「エム地点に誘い込みます。」
夜間パトロール中のダンとソガのポインターの前に、再び以前のような手口で現われるアンドロイド。
「あの女だ!」
ポインターを降りてそれを追いかける俺達。
しかし、ハイヒールを履いているというのに、鍛え上げられた精鋭を遥かに上回るスピードで逃げ去っていく。
「ちくしょう、なんて逃げ足の速い女だ」
「あれは人間じゃない」
そりゃあ、ハイヒール履いてあんな速度で爆走できるのは人間じゃないな。
むしろポインターで追いかけないといけない速度だ。
そんな彼女を俺達が見失わないのは、あちらが付かず離れずの距離をキープしているからに他ならない。
そうして俺達の視界の端で、デパートへと消えるアンドロイド。
「誘い込むつもりか……」
「明らかな罠ですね……」
「それなら食い破ってやるまでだ!」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですか!」
「ああ!」
本部に通信を入れた後、ウルトラガンを構え、静まる館内を捜索する。
……と、その時、館内放送が響き渡る!
《お客さまにお知らせします。午前零時の時報とともに、アンドロイドゼロ指令が発令されます。あとしばらくお待ちください》
《読者さまにお知らせします。午前零時の時報とともに、アンドロイド破壊指令が発令されます。あとしばらくお待ちください》