転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
『なにっ! キャンダーだと!?』
声を荒げる保安官。
しかし通信機は、一際大きな唸り声を残してぱったりと静かになってしまう。
『おいっ! フェルマーニ! どうした返事をしろ! ……ええい、なんたる事か! まさか彼奴らが、キャンダーの密輸にまで手を染めていようとは……』
「保安官、そのキャンダーとはいったい何なのです?」
『ポニーの野生種です! 彼らのような飛行能力は持ちませんが、その代わり大型かつ非常に獰猛で、おまけに怒ると、目から火炎を噴きあげるとんでもない猛獣であります!! 今でも毎年のように油田関係者が襲われて死傷者を出しますし、年に数回は駆除の為に我々警察が駆り出されるほどの……』
熊かよ……
『こうしてはおれん! 急がねば!』
救援に走りだすオレ達。
保安官は、さっきの警官が置いていったクソデカ丸太みたいな道具を担ぎ上げているので、階段が少し辛そうである。
それでも、鉄火場で久々に見る彼の背中は、街中を並んで歩いていた時の印象より、はるかに大きく頼もしい。
まるでキリヤマ隊長といる時のような安心感がある。
「しかし、ダンもいて猛獣一匹に壊滅とは考えにくいのですが……みんな武装してますよね? その、他の方も駆除の為に出動経験だってあるのでは……」
何なら、いざとなれば変身すりゃいいし……
……と、そこまで考えて思い出す。
そういやアイツ、原作でゴリーとかいう超猿人に真正面から殴り倒されてたわ……
変身しない限りはゴリラにも勝てないというのなら、いくらダンでも、変身前に熊から奇襲されたら普通に負ける可能性はあるな。
……やばいじゃん。
『いえ、キャンダーの駆除には専用の装備が必要になります。それこそ、この反応式バテリングラムや、実弾銃のような。通常の対人火器だと対抗は難しいでしょう……本官の銃が大口径なのも、まだキャンダー撃ちが警官の主業務だった頃のものだからです。それですら、最大威力で奴の鞍を抜けるかどうか……』
「えっ? 保安官の銃でもギリギリなんですか!?」
オレは一度、彼の射撃を見たことがあるので、その威力も知っている。
それが効かないとなると……いや待て? 実弾銃?
「
『ええ!
「確かに」
とすると、ビームを無効化する光学バリヤーのようなものでも張っているのだろう。
高威力の粒子銃が効かなくて、ピストルなら特効入るというならば、物理攻撃には弱いのかもしれん。
『しかし、あれほどの猛獣がアジトの中を暴れ回っているとなれば、ルバンも我々も捕り物どころでは……』
いやまて、嫌な予感がするぞ。
「保安官、そのキャンダーってのは、もしかしてルバンのペットだったりしませんか? ……そもそも、飼い慣らせたりします?」
オレの脳内では、ふっかふかの革張りソファに足組みしてふんぞり返ったルバンが、縮尺のおかしなクソでかワイングラスをくるくる回しながら、隣に伏せた黒ヒョウだかジャガーだかの背中を得意げに撫で回していた。
完全に、オレ自身の偏見から来る金持ちや蒐集家へのテンプレイメージでしかないが……
やるかやらないかで言ったら、アイツはやる。間違いない。
だって、奴は美しいものコレクターだ。
しかもその価値観は、100%本人にしか分からない独特の美意識に則ったものであるため、もしもキャンダーってのがどんな姿であろうと、何らかの部分でルバンの琴線に触れたなら、それを奴は絶対にコレクションしようとするはずである。
というか、もしかしなくても今週の用心棒枠だろ、そいつ。
『飼い、慣らす? ……ううむ。確かに過去、例が無かったわけではありませんが……。どれも幼体や弱った個体を捕まえた時の話ですぞ。どちらも直ぐに死んでしまったはず。その上、北部生まれのフェルマーニが見たこともないサイズなど、相当な大物であります! そこまで育ったキャンダーを捕まえて、まして大人しくさせるなど……いや? 何か忘れているような……?』
目玉をギョロギョロさせる保安官の額が、青く鋭い輝きを放つ。
『そうか303号っ! 奴がおりました!』
「303号というと……あの脱獄囚?」
『そうです! 前に申したでありましょう? 奴は犯罪者へ身をやつすまで、名うてのポニー乗りであった……と。それはドライバーとしても、騎手としても、全く変わる事なき評価なのですよ。若くしてどちらのレースをも総舐めにしたからこその名声であり、我が故郷で奴の顔を知らぬものはおりません!』
「うわあ、そりゃ犯罪者でさえなかったら、マジもんのヒーローですね」
『然り! しかし、いま重要なのはそこではなく……ポニー乗りというものは大抵、自らの相棒と光なき心を交わしあい、強固で特別な信頼と絆を結んでいるものだ、という部分なのです! それが超一流と言われるような腕前であれば尚更! ポニーの扱いに関しては、まさに不世出の才を宿していたあやつならば……もしや』
「例え相手が野生の猛獣だろうと、それがちょっとデカいだけのポニーなら、特定の仲間を襲わないよう調教したり、番犬の真似事をさせられるかもしれないんですね?」
オレが続きを受け持てば、保安官の額が苦々しく明滅した。
『それと本官は、非常に嫌な事実を思い出しましたぞ。奴は自身の牧場で育てたポニーを、裏ルートで違法に売り捌いているのではないかと疑いをかけられていた。そして……踏み込まれる直前で姿をくらましおったのです! ただ、そこまでの事態になったのも、元を正せば、奴に育てられたと思しき件の裏ポニーというのが、そこらのものより妙に丈夫で体つきも良いと、賭博師界隈ではもっぱら評判に……』
「……うっわ、マジか……! 交雑種やんけ!?」
なんとなく奴の所業を察してしまったオレの口からは、思わず称賛と罵倒が同時にまろびでる。
「あの野郎、とんでもねー天才じゃねえですか! ほんま余計なことしやがってクソがよ! ……地獄に落ちろ!」
『ブラザー……交雑種とは?』
「異なる品種を掛け合わせて産まれた子供の事です!」
と言ってもなんてことはない、品種改良したら大抵は交雑種になる。
その言葉自体に特段の意味は無く、地球でなくたって非常にありふれたものだろう。
現代に生きる俺達が普段食ってる野菜も肉も、だいたい全部が交雑種だ。野生種そのままなんてほとんどない。
じゃあ、なんで俺達はわざわざ交雑種食ってるのかと言えば、単純にそうした方が食いでがあるってのが理由の一つで……つまり。
「交雑種ってのは、親よりデカくて強くなりやすいんです! 原種よりも、はるかに!」
世界最大のネコが何か知ってるか?
ライオンとタイガーを掛け合わせたライガーだ。
もちろん自然界には存在しない、人工的に生み出された種族であるが、ちゃんとギネスにも記載済み。
いわゆる雑種強勢というやつ。
粉塵爆発並みのオタク教養である。
おそらく保安官の話から推察するに、彼らが母星で乗り回してるらしき「ポニー」って生き物は、十中八九その「キャンダー」とやらの祖先の中でも、比較的小型で穏和な個体を選んで飼い慣らし、そういう扱い易い個体同士の交配を繰り返す事で家畜化したものだろう。
地球で言うなら犬と狼、豚とイノシシのような関係。
そして、普通は品種改良と言ったら犬と犬、豚と豚の間で行われるものだが……たまに、家畜と野生が交わる時があって……それがヤバイ。
そしてオレは、その実例をこの目で見たことがあるのだ。
大学の授業で農場を手伝いに行った際、種付け用に飼育されてるイノブタの雄を見せて貰ったが……そりゃもう凄かったよ、迫力が。
まるでオッコトヌシの実写版かと思ったね。
下手な牛よりデカい豚が実在するんだぜ?
畜肉用の豚さんですら、ああなるんだ。
いわんや騎獣では……?
「保安官、そのポニーやキャンダーってのはふつう……どれほどの大きさなんです?」
『おおよそ1ム……あー……高さも幅も、本官の身長より、ひとまわりは大きいでしょうか。こんな狭い通路ならば、まず通れません』
そう言う保安官は、普通に2メートル近くある。
今も角の先端が天井スレスレで、ちょっと屈んでいるくらいなのだ。
ビームを弾くバリアを展開しながら、火炎放射をしかけてくる全長2,3メートル越えの生き物……
「いいですか保安官、地球じゃそういうのは……猛獣じゃなくて、怪獣って言うんですよ!」
俺達が大部屋へ飛び込んだ時、幸か不幸か謎の巨大生物の姿は既に無かったが、その代わり室内は燦燦たる有様だった。
あらゆる物は破壊され残骸と化し、あたりに瓦礫として散らばっている。
なによりもまず感じたのは……
「うわ寒っ!? なにここ冷蔵庫!?」
『アイオーン! エルメ! フェルマーニ! 返事をしろ!』
ひんやりとした空気があたりに充満し、まだ辛うじて無事だったいくつかの電灯を反射してか、床一面がキラキラと輝いている。
試しに壁へ手をついてみれば、ハッキリと手形が残り、グローブの表面にざらりとした白い粒が付着した。
……霜だ!
室内にある全ての物体の表面を、霜が覆っている!
つまり、この部屋の気温だけが、氷点下近い状態にあるということだ。
……しかし妙だな。キャンダーとは火を吐く大怪獣だと聞いていたが……うわやべ。
「ダーン! 生きてるかー!?」
『れ、れんたい……ちょ……ここ……で……す』
『エルメ! そこか!』
足下から微かに、息も絶え絶えといった様子の唸り声が漏れてくる。
それを聞きつけ、サッと跳んでいった保安官が、砕けた黒い像のようなものを引き起こすと、瓦礫の下には二人のキュラソ星人が抱き合うようにして倒れていた。
『エルメ! フェルマーニ! よくぞ無事で……! アイオーンとモロボシダン警部はどうしたっ!?』
『れんたいちょう……それより……パイプを……』
『ああ! すまんそうだな! そら、本官のを吸え…… 』
『ぼくより……フェルさんに……かれのほうが……まずい……』
小柄――キュラソ星人の癖に俺より若干小さいのでマジで言葉通り――な若い警官が何事か返事をする。
すると保安官は、もう片方の目を瞑って意識があるのか無いのか分からない警官の口へ、愛用のパイプを躊躇いなく二本目――よく見ると既に違うデザインのパイプが口の端に引っかかっているが、煙は出ていないので果たして効果を果たしているのか分からない――として突っ込み、スポイトから溶液を2,3滴垂らした。
そうしてしばらくしていると、もうひとりも息を吹き返したのか、モゾモゾと体を動かしてそっと目を開ける。
『ああ、鬼の顔が見える……やだねぇ、こんな時くらい女の顔が見たかった……』
『……安心しろ、本官は幻覚じゃない。本物だ』
『…………ッ!? し、失礼しました連隊長!』
慌てたようにビクリと身を震わせた警官が、倒れたまま宇宙式敬礼を返すのを尻目に、彼の口から無造作に引き抜いたパイプを、傍らの若者へ手渡す保安官。
『怒らないであげてください。一本分しかない加温剤を、僕により多く使わせてくれたんです。自分はもとから体温が高いからって……』
『構わんさ。本人確認の手間が省けた。ルバンにしては俗すぎる。本物だ。……それにフェルマーニはもとよりパイプを吸わん。この状況でも、お前の一本を回し飲みするしかなかったならば筋が通る。誰でもやれる判断だとは言わんが』
『へへ、涼しくってちょうど良かったですよ。この星は自分にゃ暑すぎるんで』
『……そうか、それで二人とも加温剤の手持ちが少なかったんだな?』
『すみません。フェルさんはともかく、僕もウカツでした。シガーの分を減らしちゃったから……まさかこっちを使う事になるなんて。連隊長が来てくれて助かりました』
『おかげで腹がもうペコペコだ。あのソガってお人が、昨日の晩にスープをたらふく飲ませてくれてなけりゃ、いまごろ餓死か凍死してましたぜ。それもこんな暑い星で! へへへ!』
「ん、なに? 呼んだ?」
なんだか呼ばれた気がしたので、保安官の背中からひょっこり顔を出す。
保安官が俺を「ソガ警部」と言うときは、翻訳機ごしにズゾゾ~ッ! と、子供がストローでジュースの残りを必死に啜ろうとしてる時のような、非常に汚い音がするので、自分の名前だけは「あ、呼ばれたかな?」となんとなく分かるようになってきた。
逆に、保安官が俺を「ブラザー」と呼ぶときは、ハーレーダビッドソンですか? みたいな、エンジン音もかくやと言うべき轟音なので、それもわかる。
『おっと、そこにいなすったか』
『ソガ警部が昨晩、我々に上質なスープを振る舞って下さったおかげで、部下が命を繋ぐ事ができました。彼らに変わってお礼を申し上げる。でなければ、エネルギーが尽きて、凍え死んでいたでありましょう』
「ああいやいや! お役に立ったんなら、御用意した甲斐があるってもんですよ! お二人がご無事で本当に良かった! ブロロォン!!」
『へへ、何言ってるか分かんねぇや。とにかく感謝するぜ、ブラザー』
フリフリと敬礼を交わしあう俺達。
「ところで、うちのダンはどうなりましたかね? 姿が見えませんが」
『あとの二人はどうなった? それに、この部屋はなぜこんなにも寒い? キャンダーが出たのでは無かったのか? 当時の状況を詳しく話せ』
俺達が質問すれば、悔しそうに額を瞬かせる警官達。
『それがですね、盗品のひとつにキャンダーが眠ってやがったみたいでして……みんなで投げ捨てたぬいぐるみを見守っていたら、なんとも間の悪い事に地球人達が……』
それを途中で遮るように、小柄な方が唸り出す。
『どうやらルバンがフルハシ警部補? に化けていたみたいなんです。幸い、モロボシダン警部がすぐに見抜いてくれたので大事なかったのですが、暴れ出すキャンダーと逃げるルバンで手一杯になっちゃって……』
『ふむ……どうやら警部の読み通り、ルバンめらはキャンダーに盗品の見張りをさせていたようですな……ポニー達は消耗を抑える為に、体を縮めて小さな隙間で眠る習性があります』
「なるほど」
今度は、さっきまで意識の無かった方が、顔面を縦に走る黄色い溝を、指先で掻きながら恥ずかしそうにする。
『だから、副長とあの人にはルバンの方を追ってもらいました。キャンダーの扱いには自信があったもんでね。奴さんも、起き抜けでまだ鞍が小さかったし……捕まえるってんならともかく、付かず離れずを保って、副長達から引き剥がせばいいだけなんですから。俺の足があれば、隙を見て逃げ切るなんざ、わけないと思ってたんでさぁ……それが』
『部屋の中で逃げ回ってる内にみるみる大きくなっちゃって。最後に見た時はだいたい……2ムルはありました』
『に、2……ッ!? それはもはや、獣の範疇を越えているではないか! 1.2倍の間違いではないのか?』
何事かに絶句する保安官。おおかた思っていた以上のサイズだったのだろう。
『しかもそれだけじゃなくって。あのキャンダーってば妙なんです。炎を吐かない代わりに、目から青い溶解液をドバドバ吹き掛けてきて。それが冷たいのなんのって』
『なに、溶解液……だと?』
警官達が指差す方を見れば、物理的に粉砕されたと思しき瓦礫に混じって、木のテーブルや……かつては美しいペルシャ絨毯だったのだろう布切れなどが、グズグズのボロボロに朽ち果てていた。
まさかあのルバンが、ゴミ同然の破損品を後生大事に抱えていたとは思えない――奴の言う「美しい」は一般的なソレとも微妙に異なるが、より完璧であるというニュアンスを多分に含んでいると思うので、傷がついたら容赦なく廃品回収に出すだろう――から、あれらはキャンダーの吐く溶解液とやらの被害に違いない。
しかし、炎だけじゃなくて溶解液ときたか。おまけに冷凍光線まで。
三属性攻撃とは多才な奴だ。これにバリアまで張るんだろ? 普通にヤバすぎ。タイラントでも1話のうちにそこまでしないぞ。
「あ! 誰か倒れてる!」
『もしやモロボシダン警部!?』
『ああいや、あいつはルバンの一味でさ。最初に俺達の邪魔をしようとしてきたんで、キャンダーの向きをちょいと誘導して、溶解液の盾にしてやりましたよ』
『むしろそのおかげで、絶対にアレを浴びたら駄目だと分かったというか……』
ドロドロに溶けた一角へ、地球人の男がうつぶせで倒れている。
一瞬だけ、そのスラリと手足の長い背格好から、見知った誰かのような気がして心がざわついたが……
俺の連想した人物は、今ごろ赤ちゃんのオムツ替えに忙殺されているであろうし、辛うじて原型を留めている衣服らしき布地は、どう見ても隊服ではない。
ひとまず胸を撫で下ろす。
近付こうとする俺を手で制し、代わりに手を伸ばす保安官。
男の肩を掴み、わざわざ俺からは見えないような角度で彼を助け起こした保安官は、グウと喉の奥から溜息をひとつ漏らしてから、パッと無造作に手を離した。
彼の額が赤く瞬いている。
『警部が御覧になるのは、よしたほうがいいでしょうな。顔がまるきり無くなっております。種族の違う本官から見ても酷い状態だ。同族が見てあまり気分の良いものではない』
「……ご配慮痛み入ります」
流石にグロ耐性は無いので、素直に甘えておく。
『ご安心くだされ、モロボシダン警部よりも背丈がある。それに服も見覚えのあるものだ。先ほど取り逃したルバンの手下でありましょう。……ううむ。損傷具合からして、これは相当に強い酸であります……』
『しっかし……あんなキャンダーは俺も初めて見ますよ。炎のかわりに酸を吐くなんざ……』
『ソガ警部が仰るには、どうやらポニーとのハーフではないかと言うことだ。それで生態が変わったのやもしれん。そういうものらしい』
『もしかして雑種強勢のことですか? それにしたって、大きさ以外がここまで変わるとは思えませんが……』
小柄なほうが、グルグルと喉を鳴らしながら考え込んでいると、保安官がその肩を力強く叩いた。
『とにかくそんな相手を、よくぞ1カ所へ縫い止められていたものだ。よくやったぞ』
『はい。動きは鈍かったもので。周りを回っていれば簡単でした。ただ、はじめはそれで良かったんですが、そのうち寒さで……その、足がもつれて。フェルさんがここへ引っ張りこんでくれなければ、僕も彼の仲間入りだったでしょう。でもそのせいで像の影から出られなくなっちゃって……僕がヘマさえしなければ……』
『気にすんな。俺もそろそろ限界だったんだ。あん時すでに足の感覚が無くなってきててよ』
『……ううむ。聞けば聞くほど生還したのが奇跡に思えるが……では、キャンダーがここに居ないのは、お前達が退治したわけではないのだな?』
保安官の問いに、頷きを返す警官コンビ。
『さあね。飽きてどっかにいったんでしょう。北部で産まれた奴ぁみーんな親から教わるんでさあ。キャンダーに遭ったら死んだフリをしろ……ってね。運がよけりゃ、それで助かる。だからエルメに動くなって……言ったか? 言ったな?』
『それで思い出したんです。ポニーは我々のよりも嗅覚に頼る生き物だって。だからフェルマーニさんの携行缶を開けて向こうへ投げたら、狙い通りに。この人が水飲みで本当に助かりました。一度興味から外れてしまえば、腹をすかした僕らより、良い匂いのするものが他に沢山ありますからね』
エルメという警官が指差す先を見れば……壁にどでかい穴が開いている。
てっきり、元からある通路のひとつだと思ってスルーしていたんだが……その割には、壁が岩の質感剥き出しで、通路自体もかなりいびつだ。
まさかとは思うが……
「保安官、キャンダーってのは……穴を掘れる生き物なんです?」
『おや、妙な事をお聞きになる。キャンダーと言えどポニーの一種には違いありませんから、穴くらい簡単に掘れますぞ。でなければ、彼らが地中に湧いた油をいくら嗅ぎ付けたところで、いったいどうやってそれを飲むのでありましょうや?』
「……なるほどねぇ……」
『……とは言え、これはいくらなんでも……』
二人で穴を覗きこめば、ずっと先までぽっかり暗闇が広がっている。
穴の直径は……およそ4メートルほど。
『これで合点がいきました。上で我々や警部のポインターを襲ったのはこやつでしょうな……』
「そりゃ地震も起きるわ」
『アイオーン、私だ。応答せよ。非常識なサイズのキャンダーがアジトを徘徊している。気をつけろ……アイオーン? 応答せよ!』
「……だめだ。肝心のダンにも繋がらない」
『……まずいぞ! 彼らはキャンダーがここまで大きくなっている事を知らない! おい、フェルマーニ! 二人と別れた時のキャンダーはどのくらいだった!?』
『せいぜいが……半ムルもないぐらい。そのすぐ後からどんどんデカくなりやがって……』
『……いかん! いかんいかんいかん! ソガ警部! すぐにアンヌ監察医達に撤退の連絡を!』
「て、撤退……!? ルバンはどうするんです!?」
いまや保安官の額は、真っ赤に光り輝き、激しい明滅を繰り返していた。
『キャンダーの主食は油……今でも、昨日の豪勢な晩餐の残り香が鼻をつくのです。……このままでは、我々がご馳走になってしまいますぞ!』
気になる?
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8番目
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保安官
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補佐官
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星雲荘