転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
ついに本作の評価者が340人に達しました!
恒点観測員340号の物語として、この数字を突破できることは大変幸せなことであります。
ここまでこれたのも、ずっと応援してくださった読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
ここまで長期間の連載となってしまった番外編も、ついにあと僅かを残すかぎりですが、最後まで応援いただければと思います。これを励みにして7月中に完結させるぞ!
激しい振動で、ダンは目を醒ました。
「……ハッ!?」
ダンの聴覚には、遠くで何か巨大なものが激しくぶつかり合う音と、2種類の異なる叫び声が聞こえてくる。
おそらく、怪獣か何かが戦っているのだろう。
しかし……
「ここは……?」
ダンは、自らの置かれた状況に全く理解が追い付かなかった。
まず、ここはいったいどこだろうか。
確か今日は、来訪したキュラソ連邦警察の護送団に身体検査を行う予定だったはずだ。アンヌとその準備をしていたら、急に独房で火事が起きて……そのあとに、どうなったか定かではない。
しかし……見たところ、ここは地下室のようだが、周囲から感じられる情報を総合すれば、極東基地で無いことだけは分かる。少なくとも、ダンは初めてくる場所だ。
なのに、自分がなぜここにいるのか、あるいはどうやってここへ来たかも分からないのである。
寝ている間に連れてこられたのか、それとも……?
ふと横を向けば、ダンと同じようにしてキュラソ星人が一人寝かされている。
昨日の紹介では、アイオーンという副官だったはず。どうして僕ら二人だけがこんな場所に……?
この施設内で巨大存在が暴れている事といい、どうやら何か尋常ならざる事態に陥っている事を察したダンは、素早く胸ポケットをまさぐると、目的の物を取り出した。
それこそ真紅に輝くウルトラアイ!
腰のウルトラガンを含めて武装は解除されていたが、こちらはなんとか無事だった。おそらく、ダンをここへ連れてきた人物は、彼の正体を知らないか、さもなくば詳しい変身プロセスまでは知らなかったと見える。
『デュワ!』
ダンの全身を眩い光が包む。
……と同時に、彼はおぼろげながら思い出した!
『そうだ、怪盗団!』
覚醒直後の為か、あいにくと
もう一度、隣で寝ているキュラソ星人をよく確かめるセブン。彼の瞳がキラリと光った。
『……よし』
犯人が同じ
一瞬、起こすべきかと逡巡するも、彼らキュラソ星人は鼻が利く。なるべくならば正体が露見するリスクは最小限にしたい。
少なくともセブンがこれから赴こうとしている戦いの場よりは、ここにいた方が安全と判断してその場を後にする。
そうして暗い通路をひた走っていると、すぐに前方から何者かが駆けてくるではないか。
はたして闇の中から現れたのは……
「うわっ!? ウルトラセブン!?」
赤ん坊を抱いた地球人だった。その顔には見覚えがある。昼間に警察署で世話になった馴染みの刑事だ。
尤も顔馴染みとは言っても、あちらが馴染んでいるのはモロボシ・ダンとしての顔であって、ウルトラセブンとして遭遇するのはこれが初となるのだが。
だからこそ相対した刑事からは最初、強い驚愕と畏怖の念がテレパシーを通じて流れこんできた。彼の緊張が腕越しに伝わったのか赤ん坊も不安一色だ。
……しかし、自身の眼前にいるのがウルトラセブンであると理解が追い付いてきたのか、刑事から伝わる感情は、徐々に頼もしさや歓喜のものへと変わっていく。
間違いなく、彼は心の底からここでセブンに出会えた事を喜ばしく思っているのだ。
「ああ良かった。ウルトラセブンだ! 助かった!」
『どうした、何があった』
セブンが念話を送ると、刑事はおっかなびっくりといった様子で状況を説明する。
「人質を解放して逃げる途中なんです! 後ろから、警備隊の隊員に化けた宇宙人が追っかけてくるんですよ! なんとかやっつけてください!」
『なに! 分かった。ここは引き受けよう。行け!』
「恩に着ます!」
額の汗を拭いつつ、セブンの隣を走り抜けていく刑事。その背中を見送りながら、セブンもぐっと気を引き締める。
間一髪と言ったところか。あいにくとこの先は行き止まりだ。もしもセブンが現れなければ、彼は追い詰められてしまっていたに違いない。
――ひとまずここで追っ手を撃退しよう。それからあの部屋にいる三人を抱えて脱出だ。
廊下の中央で仁王立ちになると、闇の向こうから迫る足音に、ぐっと睨みを利かせるセブン。
小走りの人影に対し、広げた掌を突きだして制止をかける。
『待て! 止まれ!』
間を置かず闇の向こうから現れたのは……
「ん!? ああ、ダ――セブン!!」
『デュワッ!?』
ヘルメットの人物がバイザーを勢いよく跳ね上げると、その下から現れたのは、なんと息を切らせたソガ隊員の顔だった。
これにはさしものセブンも面食らう。
敵がソガ隊員の姿をしていたからではない。その点について警告はあらかじめ貰っていた。しかし、その変装があまりにも精巧だったためだ。
セブンの顔を認識して、喜色を浮かべること矢のごとし。まさに0コンマ4秒の早業である。
彼の放つ精神波動の切り替えといったら! もはやこの顔やシルエットそのものに、何らかの好感情が条件反射で紐付いているのではないかと疑ってしまうほどの劇的な変化だった。
親愛に友愛、敬愛や憧憬から懐古に果ては崇拝に近いものまで。あるいは思慕の念とすら言い換えても良い。ありとあらゆる強烈な思念波が、七色に輝くネオンサインのように、破顔したソガの全身から濁流となって押し寄せる。
それはまさに、普段からダンやセブン、あるいはウルトラ警備隊の仲間達に対してソガが投げかける、無条件の信頼そのものだった。
これではまるで本人と瓜二つ……いや――
『……ソガ隊員?』
「勝ちもうした! ああいや、待てよ。一応やっておくか。セブン! お前が本物なら、俺が何を考えているか分かるよな! ジュワッ!」
そう言って、いきなり額に両手の二本指を合わせるソガ隊員。
そんな突然の奇行に対してセブンは……
『デュ……デュワ!』
右の拳を腰だめに握りしめ、胸の前で左腕を水平に構えた!
なぜなら……ソガが頭の中で「エメリウム光線!」と高らかに叫びながら、こちらのポーズを思い浮かべていたからである。
「本物確認ヨシ! 通れ!」
『ジュ……ア?』
もちろん地球人はテレパシーへの感応能力など持たないが、セブンの側で念力を強めれば、表層意識を読み取るくらいの事はできる。本人が強く頭の中で念じたイメージであればなおさらだ。
尤もこんな芸当は、読み取られる側がよっぽど油断しているか、さもなくばセブンに対して完全に心を開いている場合にしか出来ない。最初から強い警戒心で心を閉ざしているものには効かず、セブンを信頼してくれているような相手にはそもそもそれを裏切るような行為などしない。
なのでセブンとしても、自分から頭の中を覗いてくれなどという頼み事をされるとは思いもしなかった。思い切りがいいというかなんというか……
――ソガ隊員は、私がテレパシーを悪用して彼のもっと深い思考を盗聴するとは考えないのだろうか? 他者に頭の中を見せることが怖くはないのか?
……考えないのだろうなぁ……そこまで信頼してもらうのは、セブンをしてあまりにも面はゆいが、彼の今後が不安になる。ソガ隊員は、純真すぎて人を疑うということをしない。
「急いでくれ! 今、あっちで保安官が巨大化してゴーガと戦ってるんだ! 早く助太刀しないと溶解液で溶かされちまう! 頼んだぞ! ルバンは俺に任せろ!」
『なに! 分かった!』
告げられた事態に頷けば、即座にギプスのない左手を開いてみせるソガ。掲げられた掌に、思わず合わせた掌が、パンと乾いた音を鳴らす。
「イヨッッッシャー!! 今の俺は最強だぜェー!! ヒャッホーゥ!!」
途端、ソガの士気が跳ね上がり、凄まじい速さで駆け抜けていく。
その背中に確信するセブン。間違いなく彼は本物だ。
……とすると、最初の刑事の方こそ敵の擬態だったということか。
まさかこの自分の感覚すらも欺くとは、なんという手練れだろう! 先ほど見逃してしまったらしき犯人の手腕にセブンは驚愕する。
と同時に、そんな相手のしかけた同士討ちの罠すらも即座に打破しまうなんて! 流石はソガ隊員だと、彼に対する尊敬の念を深めつつ先を急ぐセブン。
やはり、敵の計略や思惑を看破する事にかけては、彼の右に出るものはいない。おそらく、彼の心がどこまでも真っ白であるがゆえに、悪へ対する嗅覚が人一倍優れているのだろう。私も見習わなければ。
『……デュ?』
しかしふと――セブンの頭を些細な疑問がよぎる。
なぜ彼は……エメリウム光線のもう一つの撃ち方を知っていたんだろうか?
先ほどソガがセブンに要求したポーズは、正確にはエメリウム熱線の発射態勢だったが……彼がやっていたのは、より強力な反磁力線として撃つ際の姿勢だった。
狙いとしては分かる。テレパシーを使えない偽物なら、内心のメッセージを理解せずに彼のオウム返しをしたはずだ。だから2種類の撃ち分けが出来るエメリウム光線を選んだ。
しかし問題は……セブンの記憶が正しければ、彼らの見ている前で、もう一つの方を披露した覚えがとんと無いという点。
大気圏外でクール星人の母船に一度使ったきり、地球上で戦った相手の中に、これまで反磁力線の威力を必要とするような者はいなかったような……?
そこまで考えたセブンだったが、戦闘音が迫っていたので、思考は瞬時に打ち切られる。
だから彼はさらなる違和感……ソガの送りつけてきた映像――ワイアール星人を焼き払うシーン――が妙に俯瞰的で、そもそも彼はその場にいなかったという部分を完全に棚上げするのであった。
『エリキュール捜査官! 御無事ですかっ!』
壁を突き抜けた紅蓮の拳が、勢いそのまま、今まさにエリキュールに溶解液を吹きかけんとしていたキャンダーの横っ面を殴り飛ばした!
『ややっ!? 貴官、その姿は……っ!?』
突然現れた真紅の巨人によって窮地を脱したエリキュールは、目まぐるしい展開に額を白黒させるが……
『……なるほど、そういう事でありましたかっ!!』
なにやら得心いった様子で頷くと、注意深く敵を見据えるセブンの横へ並び立ち、同じく構えをとった。
流石はキュラソ連邦の誇る敏腕警官といったところか。ダンの正体が宇宙人であった事を即座に理解したばかりか、初めて知った新事実にチラとも動揺を見せないとは。
やはりこれは、踏んできた場数が違うという事であろう。
『どうか、このことは他言無用で願います』
『ご安心めされよ! これでも本官は……特別捜査官でありますれば!!』
法と正義の守護者達が、狂える暴虐の使途に敢然と立ち向かう!
―――――――――
セブンにハイタッチしてもらうという、『全特撮ファンが選ぶ人生で死ぬまでにやりたいことランキング』堂々の第1位(※オレ調べ)をやり遂げた俺が、過去イチテンションで長ったらしい廊下を爆走しきった先にあったのは、沢山の機材が置かれた小部屋であった。
ちょうど、いつもの作戦室のような……というか、置いてあるコンソールになんか見覚えあると思ったら、科特隊の時の使い回しじゃん! 草生える。
照明おとしてアングルや配置を変えるだけで、全然別の場所に見えるんだから偉いもんだ。いや、実際に別の場所ではあるんだけども……
床に目をおとせば、藻掻くキュラソ星人を誰かが縛り上げているところで……
「おお! ダン!」
「あっ! ソガ隊員! 御無事だったんですね!」
オレが声をかければ、ダンがほっとした表情でこちらを振り向いた。
「そりゃこっちのセリフだ。探したんだぞ」
「不覚をとりまして。この部屋で捕まっていたところをウルトラセブンに助けてもらいました」
「お前はいっつもセブンに助けてもらってばっかりだなぁ……んで、ソイツは?」
「セブンと入れ替わりに入ってきたところを捕まえました。おそらく、こいつがルバンです! アイオーンさんに化けて僕を騙そうとしたんでしょうが、まだまだでしたね。僕がキュラソ語を分からないとでも思ったのか、適当な嘘で誤魔化そうとしたので、すぐに分かりましたよ! こら、大人しくしろ!」
『ハッ! この高級油の匂い……もしやそこにいるのはソガ警部ですか!? 騙されてはいけません! こいつこそがルバンです! 起きた時には既に縛られていて……』
「なんかガオガオ言ってるけど……?」
「さっさと助けろと、ソガ隊員に悪態をついています。往生際の悪い奴だ。ふん、アイオーンさんはそんな失礼な言葉使いをしないぞ!残念だったねぇ、警官クン? 彼に君の声は届かないよ。地球人の耳にはキュラソ語など不快な唸りにしか聞こえないのさ」
『……くそっ! 言葉さえ通じれば……! 気付いてくださいソガ警部!!』
「……なるほど、こりゃ確かに無駄なあがきだ」
「でしょう?」
転がされた状態のまま、芋虫のようにウネウネ動くしかないキュラソ星人の顔をよく見てみるが、オレにはとんと判別がつかない。
まあ他の警官は全員撤退しているはずなので、消去法でいけば彼はダンの言うとおり、アイオーン副官の姿をしているんだろうな……知らんけど。
「とすると、こんな場所に長居している暇はない。とっととズラかろうぜ」
「ええ、その通りですね。このルバンは僕が担いでいきますから、ソガ隊員は早くエリキュール捜査官に知らせてあげてください! 僕も後から追い付きます!」
「うん分かった!」
ダンの示した方針に頷くと同時――すかさず発砲。
「なッ!? うぐっ……!」
顔を驚愕の色に染めたまま、その場を飛び退こうとしたダンだったが、大威力のエネルギー弾が腕を掠めたのか、苦悶の声を漏らす。
俺の左手には、保安官から貸して貰ったクソデカブラスターが銃口から蜃気楼を薫らせていた。
「ば、ばかな……確認もせずに発砲するなど……本物だったらどうするつもりだったのだね?」
「あ? 本物のダンがこんな攻撃くらうかよ。避けるわ」
あるいは当たっても特に問題ないわ。頑丈だから。
「それにしても躊躇がない……さてはその威力、非殺傷モードではなく、通常弾を撃っているだろう?」
「そりゃね、オレはこのブラスターの使い方よく知らんし。細かい撃ち分けなんかできるかい! つかこの件に関して悪いのお前やからな? ウルトラガンでレーザー撃ったらマントで跳ね返してしまうやんけ! それは卑怯やろ!」
「だからといってそんなモノを、仮にも仲間の姿をした相手へ……君たちは特に仲がよかったのではないのか?」
「……ダンはな。二人っきりの時、オレのこと下の名前で呼んでくれるんだよ」
「ほう!」
嘘だよ。
本当は、今も後ろの方から「デュワ!」だの「ジュア!」だの元気なかけ声が聞こえるからだよ。
というか今の状況で、犯人や怪我人の護衛を理由に、自分から戦線離脱しようとするダンとか解釈違いも甚だしいわ!!
モロボシ・ダンは、というか全てのウルトラ変身者は、そういう雑事をこれ幸いと同行者に押し付けて、ただひとり前線真っ只中へ突っ走っていくのが、正しい主人公しぐさである。
「フ……なるほど。深すぎる信頼がゆえ、か……それもまた美しい」
『す、すごい……いったい何が何だか分かりませんが、素晴らしい推理ですソガ警部!!』
なんかひとりで勝手に納得してはりますけども。
コイツの敗因は、ただ純粋に「オレがダンの正体を知っている」と知らなかった事だ。
変装のレパートリーから、絶対アカン組み合わせを選んでしまった、奴の単なる自滅でしかない。
「さて、大人しくお縄について頂きましょうか、怪盗さん?」
「それは……御免被りたいね!」
「あっそ」
聞くや否やブラスターを連射連射連射。
しかしルバンはきっと、不意打ちでもない正面からの射撃など、ひらりひらりと躱してしまうに違いない。
「ハハハ! どうしたどうした隊員クン! 同じ場所ばかり撃っても意味が無いぞ!」
『ソ、ソガ警部!? いったいどうなさってしまったのですか!? 貴方には、あのとき連隊長に迫った腕前があるはずだ! 自棄を起こしては、当たるものも当たらない!』
「ええねん。別にお前なんか狙ってへんから」
「フフ、負け惜しみを……」
余裕の笑みを零すルバンだが、オレの表情に、悔しさが欠片も浮かんでいない事に気付いたのだろう。
「……ハッ!? まさかっ!!」
オレの狙いを察したルバンが後ろを振り返るも、時既に遅し。
彼の背後では、壁一面を覆い尽くすコンソール群が、キャンダーの殻を撃ち抜く事を目指して作られた、時代遅れな火力を一身に浴びて、バチバチと無惨な火花を散らしていた。
「しまった!
「お前さんが俺たちから盗んでいるのは、美術品でも赤ん坊でも、ましてや目でも感性でもない……」
自慢の計算機にとりつき、必死で電源を落とそうと試みるルバンだが……彼は咄嗟の判断を間違えた。
いくら野望の根幹を成す大切なお宝といえども、そんなものは見捨てて、一目散に逃げるべきだったのである。
「……記憶だ」
コンピュータは激しくスパークし、断続的に生じた小さな爆発の群れが、ルバンの体を固い床の上へ吹き飛ばした。
「ぐ、ぐう……」
ヤケクソじみた最大火力の超連射で、すっかりオーバーヒートを起こしたブラスターを床に落とし、オレは本命のパラライザーを抜く。
気絶して運ばれるフルハシ隊員の腰から、こっそり頂戴しておいたもの。コイツだけは生け捕りにせよとのお達しだからね。
『点ではなく、面での攻撃……す、すごい』
「お前のトリックはもうバレバレなんだよ」
さっき、やたらとイケメンなアイオーンの偽物を見たおかげで、奴の変装や、なかなか当たらない弾のカラクリが全て分かった。
コイツは俺たちの海馬……つまり脳の記憶領域から一度見たことある景色、あるいは視覚情報そのものをリアルタイムでハッキングし、そこから対象だけを自由に切り抜いたり、あるいは他の記憶から持ってきた素材を被せたり……
いわゆる画像をフォトショ加工したものを、再度俺たちの脳みそへダイレクトに叩きこむ事で、視界に関する記憶を上書きしているのだろう。
だからいきなり姿が消えたり変わったり、いると思っている場所に銃弾を叩きこんでも、既に本人はその数歩先にいるという寸法だ。
常に奴の周囲だけ数秒のタイムラグを発生させられているから、ルバンを狙おうとすればするほど、現実と認識の間にズレが生じて正体を捉える事が出来ない。
だったら対処は簡単。任意で攻撃しなけりゃいいだけの話だ。下手な鉄砲も数撃ちゃあたる。
オレも、ルバンも、タイミングが誰も分からない攻撃を遅延で発生させりゃいい。
「爆弾とかなら簡単に投げかえせただろうが、いくら怪盗でも、設置物を急に消したり動かしたりはできまい。その装置が何かは知らんが、お前のポッケにゃ大きすぎる」
「フ、フフ……このルバンの秘密、よくぞ見破った。脱帽さ、ソガ隊員」
『ソガ警部! はやくトドメを! 奴は何をするかわかりません!』
吹き飛ばされた痛みで自由に動けなくなったにもかかわらず、そんな痛みなど無いかのように不敵な笑みを絶やさぬルバンは、冷静にモノクルを光らせる。
アイオーン副官が必死に警告を送ろうとするも、ソガにはキュラソ語が通じないため、残念ながらまったく無駄な試みであった。
「実に見事な推理だ……よっ!」
『ああっ!』
いくら遮光バイザーを降ろしていても、こちらの姿が見えている限り、この攻撃を完全には防げないはず。
しかし……
『えっ!?』
「……な、なぜだ!? なぜキミには記憶転写が通じないんだ!?」
ソガはクラクラとめまいを起こすどころか、まったく平然としているではないか!
「さてね。答えは牢屋の中で考えな」
「ウッ!」
パラライザーから発射された麻痺光線は、今度こそルバンの胸に吸い込まれるように命中し、怪盗はばったりとその場に倒れた。シルクハットが床に転がる。
そこへさらに2発、3発と念入りに追撃を叩き込んだオレは、ルバンがピクリとも動かなくなった事を確認してからようやく、遮光バイザーを跳ね上げた。
「正解はずっと目を閉じていたから、でした~!」
ヒントは光だ。あのキュラソ星人の脱獄囚。
あいつが今朝の牢屋や劇中で使った催眠装置は、光で相手の脳に影響を与えるのだろうと、アマギは言っていた。
じゃあ、その光を直接目に入れなければいいだけじゃん?
そうすれば、ルバンに視界や記憶を奪われることもない。
それにしても、さっきの偽物アイオーンは笑っちまったな。まさかキュラソ星人をイケメンだと思う日が来るとは! ありゃ十中八九、ダンの視界から盗んだアイオーン副官の姿だろう。
たびたびダンが、彼の事を美青年だの気品があるだのと褒めていたが、まさか当のキュラソ星人達からすればあんな風に、それも物理的に輝いて見えていたとは。
『凄い! 凄いですよソガ警部! まさかあのルバンを本当に逮捕してしまうなんて! これは連邦史に残る大偉業ですよ! ……あれ、私の顔に何かついていますか?』
残念ながら、地球人にはM78星雲人のような感覚器官が無いので、何回見てもこの御曹司は他のキュラソ星人と同じに見える。
……いや、保安官と比べたら顔の中心を走る黄色い溝が真っ直ぐでちょっとキレイかも……
うわあ、キュラソ星人の美醜がちょっと分かるようになっちまった。今更いらねえ特技が増えてもなぁ……
「アイオーンさん、ちょっと待っててくださいね。先にコイツを縛っちまいますんで」
倒れたルバンへ慎重に近付き、つま先で横腹を突っついてみる。
……反応なし。
そりゃそうか。パラライザーをあれだけ撃ち込まれて無事な奴は、控え目に言って化け物だ。
少なくとも、同じヒューマノイド型なら確実に意識がなくなる。
オレは、仰向けで大の字に倒れているルバンから自分のウルトラガンを取り返すと、彼の深い彫りに嵌まっている分厚いレンズを外し、そのデザインを確かめた。
「あ。やっぱりイカルガの作ってた奴だ。しっかしこのサイズで視界ハッキングできるとか、ヤバすぎだろこのモノクル」
危険物は押収押収……っと。
これも立派な証拠物件だろうしな。
オレはすぐに立ち上がろうとしたのだが……クイッと手が引っ張られる感覚がある。
見れば、モノクルから伸びた紐が、ルバンのふくふくしい巨大な耳に引っかかっているではないか。
なるほど、落下防止の固定具か。
モノクルって創作物の中じゃよく見かけるけど、実物はあんま見たことないから、なんで外れないかいっつも不思議だったんだよな。
外れないんじゃなくて、外れる前提なのね。
固定具を外すそうと、腕を耳に伸ばしたオレは……
素早く見開かれた鳶色の瞳と、ばっちり目があった。
「……やべ」
視界がチカッと瞬いたかと思うと――
―――――――――
『そんな馬鹿な……! ソガ警部! ソガ警部! しっかりして下さいソガ警部!』
「……ふぅ。このルバンをここまで追い詰めたのは、後にも先にもキミだけだ。素直に賞賛させてくれ。キミは本当に美しいよ、ソガ隊員」
よろよろと、まるで出来損なったマリオネットの如く、ぎこちない動きで身を起こしたルバンは、先ほどと全く逆転した立場から、大の字で気絶するソガの姿を見下ろした。
彼の傍に落ちているモノクル型デバイスを拾い上げて、状態を確認するルバン。
「……ち、駄目か。また修理させないと」
モノクルのレンズは、ソガが昏倒した際、一緒に床へたたきつけられ、すっかりヒビ割れてしまっていた。
これでは中の記憶データもすっかりおシャカだろう。
「それにしてもあのエセ発明家め、何が死神だ。このルバンに不良品を掴ませおって! 疫病神が!」
せっかく、ウルトラセブンの貴重な記憶を盗めたのに。こんな事ならば、あの万年警部の始末を急がずに、もっと味わっておくんだった、と後悔するルバン。
ソガは知る由もない事であったが、このモノクルは天才発明家と名高い犯罪者ドクトル・リーパーを盗んできて作らせた、小型の記憶転写装置であった。
ルバンの姿を認識した者に対し、常時発動で視界情報を抜き取り、数秒前の景色を送り返すように設定されていたが、任意で出力を強めれば、ルバンに関する記憶だけを回収したり、そのショックでどんな精鋭であろうと即座に昏倒させる事ができる優れものだ。
ルバンは、ドクトルリーパーに装置の外付け改良をさせるよりもずっと以前、タイムマシンで過去の世界から盗んできた
それこそが生体内蔵型転写機――つまりXチャンネルを用いたカメラ義眼――であり、この道具を駆使して数々の悪事を働いてきたので、その威力は銀河で誰よりも身に染みて知っている。
ただ旧式の方は非常に使い勝手が悪く、記録装置としては、もっぱら完全記憶能力を持つリクラスを同行させてその視界を利用していたし、新型のモノクルデバイスに改良後は、旧式の方はすっかり不要になったので、部下のドライバーへ報酬として下賜してやったりもした。
しかし現在の転写機構において、モノクル部分が担っているのはあくまで増幅と受容部分。Xチャンネルの発振機能自体は、今もこの体に埋まっている新型の義眼からであるため、モノクルを外されても簡易スタンガンくらいには転用できるのだ。ルバンの眉がキレイに剃られているのは、このインプラントを移植する手術のささいな後遺症にすぎない。
普通の人間がこの光線を食らえば、少なくとも今朝からの記憶がすっぽり抜け落ちるか、さもなくば『ルバン』という存在に関しての認識がごっそり無くなり、目の前の人物をまったく警戒できなくなるハズである。
ルバンが情報を盗む際に、己の姿や名前を目印にして、その周辺の情報を優先的に抜き取っているからだ。
だから、数瞬前までルバンと敵対していたような人物であっても、コロッと態度を豹変させたり、パニックに陥るのが自然な反応なのである。なにせ記憶を盗まれたのだから、当然だ。……普通であれば。
ところがこのソガという地球人は、特異体質なのか、はたまた装置が動作不良だったのか、どうにもXチャンネルの効きが悪く、記憶を盗もうとこれまでに何度か光線を撃ってみても、まったく平気な顔でピンピンしているではないか。
あまりにも影響がなさ過ぎて、本人は撃たれた事にすら、ちっとも気付いてないみたいだが……
そもそもルバンの側からしてみたら、彼らに対してここまで強い敵意を未だに保ったまま、ひたすらに追跡してきた事自体が驚愕と賞賛に値する。放っておいたら、地平線の彼方まで追っかけて来そうな執念深さを感じてならない。
それどころか、帰ってくる情報もなんだかぼやけた不鮮明な映像ばかりで、あの視界が本当に彼の見ている世界であるならば、寝たまま歩いているのではないかと疑いたくなるほどだった。
尤も、ルバン達ですら驚くほどの鋭い観察眼と洞察力は、もう嫌というほど見せつけられているため、その線はないだろう。
白昼夢に耽る者が、このルバンの姿を捉えられるハズが無いのだから。
しかしさしもの特異体質とはいえ、至近距離からの最大出力を浴びせられてはひとたまりもないようだ。
ルバンは、この危険な男を打ち倒せた事にようやく胸をなで下ろし、歓喜に身を震わせた。
「さて、壊れたデータの分くらいは回収させてもらうぞ。キミほどの男から見て、我々の活躍はどのように映っていた?」
『待て! やめろ! その人に手を出すな!』
「ハハハ! それはどだい無理な相談さ。今日はお預けをくらいっぱなしでね。腹が空いて仕方ないんだよ。ああ、安心したまえ。この男を平らげた後は当然キミも頂くとも。食卓に並んだ料理を残すのは、マナーに反するからね」
『ソガ警部! ソガ警部ーッ!』
「二口目が残るか見ものだな……」
ソガに覆い被さり、待ちに待った食事を開始しようとするルバン……だったが。
その顔面に、白いギプスの破城槌が突き刺さった。
気になる?
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8番目
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保安官
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補佐官
-
星雲荘