転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
レッドアンドブルーに塗り分けられた、武骨なアンドロイドが、真っ青な左の手のひらをこちらに向ける。
「……マズイ! 来るぞ!」
「ワン! ツー! スリー! 撃て!」
「伏せてッ!」
隣のジジイがカウントダウンを開始すると、アンドロイドの胸のファンが急激に回転し、バチバチと不穏な音を立てた。
ダンが俺に覆いかぶさるように押し倒すと同時、ダブルオーが広げた指の先端から、5条の電撃が俺達の頭上を通り過ぎていく。
「どうだい、この腕橈骨筋から上腕二頭筋に続くエレガントなカーブ……そう、ゼロワンの左腕だ! ちゃぁんとダブルオーに付けておいたよ! どうだ!? 電撃でどうだ!」
電撃から逃げるように陳列棚の蔭へ身を隠す俺達の耳に、さらなる脅威が聞こえてくる。それは、キュラキュラと履帯の擦れる音をしていた。
「それからこのおもちゃ、見覚えないかい? お前さんらが買って、部屋に飾ってあるのと同じもんだ。この戦場にあつらえたようにピッタリだろう? どうだ!? 砲撃で、どうだ!」
ずらりと砲身を並べたおもちゃの陸戦隊が、一斉に攻撃を開始した。
聞こえてくる戦車の歌声。
轟音を上げて吹き飛ばされる商品棚。
俺達はたまらず逃げ出し、ショーウインドウの影から敵を窺う。
「理論的にはね、セブンも倒せるはずなんだ。……試してみようか! どうだ、えぇ? 爆撃でどうだ!」
「おいおい、戦闘機が来たぞ!」
「何か投下したッ!」
「散れ!」
戦車隊の頭上から、甲高いエンジンを響かせて戦闘爆撃隊が空襲だ!
聞こえてくる悪魔の叫び、双発マシンの轟く爆音。
機銃掃射に床が砕け、投下された爆弾が、おもちゃとは思えない威力で爆ぜる。
「ううん……硝煙のニオイだぁ……! ハッハッハ!」
爆炎を切り裂いて、戦車が、戦闘機が、ブリキのロボットが、俺達の退路を塞ぐように包囲網をじりじりと狭めてくる。
聞こえてくる破滅の足音。
……いや待て、あのロボットのオモチャは本物になったとしても、あの進み方と攻撃方法なら同士討ちするだろ。
アイツラだけ実用性がまるで無いぞ!?
「どうだ! どうだ! ワシの作ったオモチャで、どぉうだぁぁ!?」
「あのジジイ……ふざけやがってぇ! くらえ!」
腰からカプセル状の爆薬を取り出し、先端部分を捻りこみ、爆破をセットして投擲する。
かっきり5秒後に、小さな破裂音。
ロボット達が軒並み転倒して、バタバタと藻搔いている。
よぅし! カモフラージュの為とはいえ、構造もオモチャ準拠なのが災いしたな!
今投げたのは、低性能爆薬。
威力はほんの威嚇程度にしかないが、どんな雑な使い方をしても誤作動しない単純構造と、安さがウリだ。
これをわざわざアマギに頼み込んで作ってもらった。そう、あのアマギに、爆薬を、だ。
トラウマ持ちに酷い事させるって……? いやいや、こういう小さいものから慣れてってもらおうという俺の親心さ、少なくともスパイナーで荒療治する隊長のスパルタよりはマシだと思う。
爆薬の煙を煙幕代わりに、ロボット達が塞いでいた道を走り抜ける。
戦車の砲塔が回転してこっちを追尾するが、もう遅い。
俺は隣のテーブルに隠れた後だ。
再びの猛攻。
とても顔を出して狙える余裕なんてない。
そういうときこそ、こいつの出番だ!
「もってけ、ドロボー!」
低性能爆薬をひとつかみ分、発射音のする方向へ放り投げる。
立て続けの破裂音と、爆破音。
ああそうだ、傷がついたら自爆するんだったな、このオモチャたちは。
いくら宇宙金属といっても、所詮はオモチャサイズ。小型化したということはそれだけ厚さも薄いという事だ。たとえ威力は低くても、損傷くらいは与えられる。
ヒビさえ入れば、あとは勝手に連鎖爆発してくれるなんて、まったく楽でいいね。
しかし、作ってもらった爆薬が、こんなに役に立つとは思わなかった。
元はダンにプレゼントして使ってもらおうと考えてたものだ。
イカルス星人の四次元空間で、カプセル怪獣が一匹どっか行ってしまうのを、何とか出来るかと思って渡そうと思っている。
そして万が一、今後ダンがカプセル怪獣を投げてるところを誰かに見られても、俺の渡した爆弾を日頃からポイポイ投げてれば、咄嗟に誤魔化しが効くんじゃないかという狙いもある。
だから大きさに拘って貰ったんだが……牽制目的でばらまくのに丁度いい。
これ、正式採用して貰おうかな。
しかし爆発を生き残った大半の戦車達が、こちらへ距離を詰めてくる。
ええい、流石は戦車だ、頑丈だな!
「……だったら、こうだ!」
今度は爆薬を、戦車隊の真ん中ではなく、その隣の陳列棚の足元へ滑らせる。
すると5秒後に、ド派手な音と共に戦車隊へと倒れこむ棚。
よっしゃあ! 一網打尽! オモチャ相手に、いちいち銃で狙ってられるかってんだ!
そうだ、ダンはどうしてる……!?
「ほらほら、戦闘機ばかり見てていいのか? やれ、ダブルオー!」
「ワン、ツー、スリー! ジ・エンド!」
「うおおっ!」
老人の合図で、ダブルオーはバッテンを作るように両腕をクロスさせた。
胸の回路が激しく点滅し、電流と火花がその体を奔る。
カート数台分の距離を軽々とジャンプしたダブルオーは、そのまま白熱した両腕を、クロスチョップの要領で振り下ろす!
物陰から戦闘機隊を撃ち落としていたダンは、間一髪のところで床を転がり回避できたが、反撃をする暇もなく、逃げの一手。
見れば、先程までダンが背にしていたエレベーターの扉は、とろけたバターのように容易く溶断され、その余波で周囲の商品が爆発する。
なんて威力だ!
「くそ! 戦闘用なんぞ作りやがって!」
「ワシはな、一年も前からこの地球で計画を進めていたんだよ……見ていないとでも思ったのか? 貴様らの戦いぶりを! ……ワシはいつも最善を尽くしてきたし、できることは 全てやった……それだけのことだ! なのに決まって 馬鹿どもには 理解されない……! 誰からも! 自分からすらも!」
「何をごちゃごちゃと……」
「やれ、ダブルオー! 足枷のついているうちに、モロボシダンを抹殺するんだ!」
「させるか!」
小型爆薬を老人目掛けて投げつけるが、くるりと振りかえったダブルオーに容易く腕で弾かれてしまう。
「残念だったな、ダブルオーはワシが命じなくても、主人の脅威となる攻撃は自動で取り除くように自己判断プログラムを組んである……うひゃあ! あしが!」
ところがコロコロと転がった爆薬が、チブル星人の足元で小さく爆ぜる。
せいぜい火傷程度だろうが、ぴょんぴょん飛び跳ねる姿は滑稽だな。
「ダブルオー! もっと完璧に守らんか!」
「ゴメンナサイ、オトウサマ、ツギハ、マモリマス。」
「次だと……? だったらこれで……どうだ!」
今度は起動した爆薬を数個一気に掴んで投げる。
俺にだって、どこに飛ぶか分からんのだ!
弾き飛ばしてしまっては、どこに転がるか分かるまい!
……と思ったら。
「ハッハッハ! ダブルオーは学習する! ……そして、そのような軌道を計算するなど、造作もない事だぁ!」
空中に散らばった全ての爆薬を、目にも止まらぬスピードで掴むダブルオー。
それも片腕一本で、だ。
握りこまれた爆薬は、右手の中で虚しく爆ぜる。
この程度の威力では、ダブルオーの装甲に、傷すらつけられないのか!?
「……貴様はそこで転がっていろ! 下等生物め!」
「ソガ隊員! 危ない!」
「なに!」
ダンに追撃を掛けるダブルオーを、おもちゃじいさん、もといチブル星人の元へ引き戻す事には成功したが、背後から飛んできた戦闘機の機銃掃射を右足にモロに食らう。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!!」
いってえええええええ!!!
まだ戦闘機が残ってたのか! こいつめ!
旋回する戦闘機を撃ち落とし、悶える俺をダンが助け起こす。
……あ、これ、腹パンされる流れだ。
かくなる上はプランBしかない!
「ソガ隊員! ソガ隊員ー!!」
「おもちゃ軍団は全滅したか……?」
「はい! 今撃ち落としたので最後です!」
「すまん、後は……たのん……ウッ! ガクッ」
「ソガ隊員! 気絶したのか……」
どうだみたか! 腹パンされる前に、気絶してやるぞ!
あのチブル星人め、さっきさらっと俺の事を足枷呼ばわりしやがったよな……?
敵も味方も、さんざん俺をお荷物扱いして! だったら、お望み通りこっちから退場してやる!
フハハ、なんとでも言うがいい。
オレは今日のために、こっそりプロテクターまで仕込んで来てるんだぞ。
分かってて、わざわざ痛い思いをしたい奴が、一体どこにいるってんだ!?
こんなことなら、足にも巻いとけば良かった……
頼む、ダン、気付かないでくれ……!
脚が痛すぎて、脱力の演技すらキツイから……! 速く! 変身して!
「しめた! いまだ! ……デュワッ!!」
仲間が気絶したってのに、しめた! じゃねーよ!
《読者さまにお知らせします。午前零時の時報とともに、アンドロイド破壊指令が発令されます。あとしばらくお待ちください》