転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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アンドロイド破壊指令(Ⅵ)

「ウルトラセブンを迎え撃て!」

 

照明の落ちたデパートの売り場で、二つの影が激突した。

セブンが、マシンガンのようなスピードで繰り出す真っ赤な拳を、これまた真紅の右腕で、ダブルオーが弾き返していく。

 

「デュワッ!」

「ブハハ、ダブルオーの弾道計算は伊達ではない! そして、パワーも! ピット星人のペットを易々と投げ飛ばす貴様に、競り負けないように、あつらえてある!」

 

右手で攻撃を防ぎながら、左指がセブンの顔面を狙う!

指先から五本の電撃が、断続的に発射され、彼の気勢を削ぐ。

セブンのパンチがマシンガンなら、こちらはさながら電撃機関砲、このまま接近戦は分が悪い。

 

ならばと、いったん距離を取ったセブンが、拳を握り込んだ腕を後ろに引き、もう片腕を胸の前で水平に構えた。

額のビームランプにエネルギーが集中する。

エメリウム光線だ!

 

………しかし。

 

「無駄だ。ワン! ツー! スリー! 展開!」

 

ダブルオーの胸部がバチバチとスパークし、輝く光のフィールドが、アンドロイドと老人を覆うように展開される。

セブンの額から飛び出した光条は、目も眩むような閃光と共に、寸分の狂いもなく直進するが、フィールドに触れた途端、何事も無かったかのように霧散した。

 

「デュエッ!?」

「……ワシは、いつも最善を尽くし、出来ることは全てやるというのが、科学者としての信条でね。君のためにこの電磁偏向フィールドを搭載しておいたんだ……おっと、出力を上げても無駄だよ。このフィールドにはね、ベクトルを持って進むあらゆるエネルギー粒子を、全て拡散させる効果がある」

「ジュオ!?」

「今度はこちらの番だ。ダブルオー! チブルラインショット準備」

「ハイ、オトウサマ。ワン、ツー、スリー!」

「撃て!」

 

ダブルオーが突きだした右拳の上から、広げた左手を重ねるように添える。

胸の回路に稲妻が奔り、溜め込んだエネルギーが拳から発射された。プラズマ火球を指先の電撃が包み込むと、ライフル弾のように螺旋を描いて直進する!

前転で回避したセブンであったが、かすってもいないのに、背中をチリチリと焼かれる感覚がある。なんという威力だろうか。

もはや背後の空間は、壁すらぶち抜かれ、全ての区画を繋ぐ大穴を穿たれていた。仄かに漂うオゾンの匂い。

だが、セブンとてやられてばかりではない。前転の勢いを利用して、脳天の必殺武器を投げ放つ! 

 

「ダァッー!」

 

爆煙渦巻く空間を、切り裂き進むアイスラッガー!

 

「おやおや、今度はブーメラン遊びか? 貴様もよくよくオモチャが好きと見える。 ……遊んでおやり」

「デュッ!?」

「イカガイタシマスカ? オトウサマ。」

「返して差し上げなさい。レディーの嗜みだ」

「ハイ、オトウサマ。」

 

ダブルオーは右手でキャッチしたアイスラッガーを、何の感慨も無く、力任せに投げ返す。

持ち主が自分の武器で傷付くことは無かったが、アイスラッガーの脳波コントロールに精神を集中した一瞬の隙を、ダブルオーが群青の左手で素早く咎める。

電撃にたじろぐセブン。

 

「ブハハ! ダブルオーを改良した甲斐があったというものだ!」

「……ダァッ!」

「おおっと残念、ワシをどうこうしようとしても、ダブルオーの反射速度を超える範囲には離れないようにしてある。残念だったねぇ……」

 

……やべえ、気絶した振りしてる場合じゃねえ。

なんだあのアンドロイド、ゼロワンと性能違いすぎるだろ……!

セブンに変身しさえすれば楽勝だと思ってたのに、これじゃ話が違う!!

俺か? 俺が腹パンを嫌がってゼロワンを破壊してしまったからか……?

だから戦闘用を起動させる判断をさせてしまったのか!?

俺は、なんてことを……

 

セブンとがっぷり四つに組み合うダブルオー。

戦闘の余波で燃え上がった炎に照らされる、機械仕掛けの悪魔の顔を、絶望しながら見つめていると、ある違和感を感じた。

この場面は……おかしい。

いやこんな存在、原作には居なかったが、そうではない。

むしろ、ある意味、この戦場が原作に沿っているが故の、違和感。

そうだ、あのシーンを見ているときには、まるで気付かなかった。ただの演出として気にも留めていなかったが、今ここに、登場人物として立ったが故の違和感。

 

どうして『アレ』が作動しない?

いや、答えは簡単だ。ここはチブル星人の用意した舞台。制御を切ってあるのだろう。

問題は、どうしてそんな手間をかけたのか。

……作動すると、都合が悪いから……?

賭けてみる、価値はある。

 

「さて、そろそろお別れの挨拶をするんだダブルオー。ブローアップだ!」

「リョウカイ、ブローアップシマス。……ワン、ツー、スリー! ゴー!」

「ブローアップ!」

 

老人が承認コードを発すると、紫の光を放つダブルオーが、各部の装甲を展開する。そして露わになったのは、ぎらりと覗く鉛色の殺意。

無数の銃身が、組み合って身動きの取れないセブンにゼロ距離で突き付けられる。

 

「言ったろう? いつも最善を尽くし、出来ることは全てやったと……さよならだ、ウルトラセブン」

「デュワ!!」

「逆恨み? ……そうさ、たった一つの故郷を追放された細胞の……逆恨みだ! 逆恨みの何処が悪い!? ワシに言ってみろぉ!!」

「……じゃあ、俺が教えてやるよ!」

「なんだ、この音は!? ……そこか!」

 

床に転がっていたオモチャのトランペットを力いっぱい吹き鳴らし、こちらに注意を向ける。

 

「何をしているダブルオー! ワシを守れ!」

「ハイ、オトウサマ。」

「セブン! アイスラッガーだ!」

「ダァーッ!」

 

セブンを放り出し、主人のカバーに入るアンドロイド。

マークの外れたセブンから、銀色のブーメランが解き放たれるが、またしてもそれを力強く右手で掴む!

今だ!

俺は爆破をセットしたカプセルを老人目がけて投げつける!

……しかし、無情にも、そのカプセルはダブルオーの洗練された左手に握り込まれてしまった。

 

「ばかめ! 左手では掴めないとでも思ったか!?」

「馬鹿はそっちだ、頭でっかち」

「なに?」

「さん、に、いち!」

 

盛大な音と閃光を撒き散らして大爆発するダブルオーの左拳。

今投げたのは()()()爆薬の方だ。正真正銘の隠し玉。

奴さん、俺の投げる爆竹の威力を学習して、わざわざ握り込みやがった。

キュラソ星人の小型宇宙艇すら破壊する、野蛮な人類自慢の爆薬をそんな扱いすればどうなるか。

ボロボロに砕け、内部の機構を曝け出す左腕。

 

「マズイ!?」

「こいつでトドメだ!」

「フィールド展開! ワンツースリ-!」

 

電子エンジンの光が煌めき、究極の盾を展開したアンドロイド。

……動きを、止めたな?

俺は必殺のウルトラガンを叩き込んだ。

悪魔の機械が仁王立ちする、天井に。

 

「シャワーは乙女の嗜みだぜ、お嬢さん」

「まさか、やめろ!」

「ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!」

 

スプリンクラーの配管が破裂し、頭上から大量の水が細かく霧雨のように降り注ぐ。

胸の回路がスパークし、放電のショックで電流火花が体を奔る。

そこへ響く、ハンドショットの風切るメロディー。

セブンの光線が着弾した胸部の装甲はめくれあがり、小さな爆発を断続的に奏でた後は、陳列棚へ倒れこみ今度こそ沈黙するダブルオー。

 

「完璧すぎるのも困りもんだ……勉強ばっかりしてるからこうなる。アマギが見たら怒られるぞ? 設計に()()が足りない、ってな」

「……くそっ!」

「待てっ……痛ッ!」

 

形勢不利とみて階段へ逃げ去る老人を追いかけようとするが、足の痛みでそれどころではない。

あとはセブンに任せるか。

俺が息をついたその時、階段から響く最期の指令。

 

「Cモード起動だダブルオー! アンドロイド破壊指令!」

「リリリリョ、ウカ、イ、シーモモーddddddddd」

「えっ」

 

俺が最後に見たのは、部屋の真ん中で、カウントダウンと共にスパークし、どんどん白熱していくアンドロイドの残骸と、横合いから突っ込んできた真っ赤な流星の力強い腕が、俺の腹に吸い込まれる所だった。




《読者さまにお知らせします。午前零時の時報とともに、アンドロイド破壊指令が発令されます。あとしばらくお待ちください》

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