転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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アンドロイド破壊指令(Ⅶ)

「おのれ……おのれおのれおのれぇ……!」

 

上階で巻き起こる、とてつもない爆発の衝撃で、デパートが揺れ、天井からパラパラとコンクリート片が落ちてくる。

だが、それをまるで意に介さず、重力装置で吹き抜けをゆっくりと降下しながら、チブル細胞は怨嗟の声を吐き出していた。

あの惑星調査用の擬態スーツはとうに解除した。

脚部を損傷した状態で階段を駆け下りるなんてタイムロスも甚だしい。

だいたい、耐久性に難がありすぎる。

やはり所詮は、テレキネシスしか能のない脆弱な種族が作ったモノだ、こんなことなら一から自作しておけばよかった。

強奪したスーツに、そんな逆恨みも甚だしい恨み節を吐き捨てたところで、返す返すも憎々しいのは、先程の地球人だ。

 

せっかくウルトラセブンを抹殺出来るところだったのに、余計な邪魔をしてくれた。あんなまぐれ当たりの攻撃で勝ち誇るなど、下等生物の分際で到底許されることではない。

しかし……今頃はダブルオーの自爆でセブンもろとも分子の粒になっている事だろう。

いい気味だ。

 

セブンさえ排除できれば、あとは午前零時のアンドロイドゼロ指令を遂行するのみ。

指令発令まで残り15分。ゼロワンとダブルオーなど、この頭脳さえ無事ならば、いくらでも造り出せる。

あんなに役に立たないなら、ゼロワンにも、初めから自爆特攻でも命じておけば良かった……と考えていたチブル細胞が、一階のドアから脱出しようとすると、ちょうどいま、このデパートに入ってこようとする人影があるではないか!

 

その三人は忌々しいブルーグレーの皮を身にまとい、ふざけたデザインの頭蓋をしていた。

間違いない、ウルトラ警備隊員だ。

 

しかし、チブル細胞に前進をやめる気はさらさら無かった。

チブル星人は戦闘が苦手であるが、それはあくまで他の宇宙人と比べてという話であり、所詮は人類などという脆弱な種族、アンドロイドが居なくたって相手では無い。

彼らチブル細胞が手足のように使う三本の軸索の先端から、神経伝達物質を流し込んでやれば、たちまちどんな生物も戦闘不能になる。限界量の脳内麻薬を一気に注入されるようなものだからだ。

そして、彼らの核を守る細胞体は、チブルタイトで構成されていた。思考する鉱石、それが彼の正体なのである。

チブルタイトは物理的衝撃に滅法強いという特性をもっており、例えウルトラセブンの剛力で殴りつけられたとしても、びくともしなかったであろう事は、すでに計算結果が出ている。

もっとも、セブンには……いや、今は目の前の脅威を突破せねば!

 

チブル細胞の加速された思考回路が先頭の隊員の特徴を捉える。右手に包帯という医療用の布を巻いていた。しめた! あれはゼロワンが攻撃した隊員に違いない! 先程は役立たずと罵っておきながら、今度はよくぞやったと掌を返すチブル細胞であったが、あいにくと軸索の先端には、爪のような突起が付いているだけだ。

 

そのまま重力制御の速度を上げたチブル星人は、軸索を振り上げて一番近くの哀れな負傷兵へ飛び掛かった。こいつを捕獲して人質にすれば、二人程度制圧するのは容易いことだ。なにせ軸索はおあつらえ向きに三本ある。突入コースよし!

 

「ん? 奥から何か出てくるぞ?」

「フルハシ、注意しろ!」

「うわ、なんだこの化けもの!」

 

入射角よし、方位修正完了、対象の身長体重、予測値の入力完了、最適攻撃軌道算出。

標的の反応速度に平均値以上を検出、若干の上方修正、誤差、許容範囲内。

彼我の戦力分析、完遂、算出結果、対象の昏倒確率97.68%!

右腕の動かないフルハシ隊員の大まかなスペックを算出して、左腕一本の可動域ではどう足掻いても軸索を一本防ぐのが精いっぱいであり、人類の筋力では、自身の頭蓋を叩き割ることは到底できない事を割り出した。

おまけに三人の位置関係すらも正確に入力し、彼らが腰に備えた銃の死角を完全に突いた完璧な攻撃だった。

チブル星人の頭脳はこうした一瞬の攻防にすらも応用できる。

知性とはまさしく、すべてを支配する力なのだ!

巨大なタコのような化け物に襲われたフルハシは、咄嗟に残った左腕で、敵の振りかぶった触手を掴むことしかできなかった。

それは、チブル細胞が行ったシミュレーション通りの行動であり、ルートも、スピードも、誤差は僅か100万分の一にも満たないものであった。

だが、ただ一つ。

パワーだけが誤算だった。

 

「でぇえりゃああああああ!!!」

「うyq「べzkf。0-f!?」

「撃て!」

 

フルハシは左手一本に万力のような力を込めて化け物を引き寄せると、巴投げの要領でそれを放り投げた。

地面へ強かに叩きつけられる宇宙人。そこへすかさず、二本の光線が無慈悲に追い打ちをかけた。

チブルタイトは物理的な衝撃には強かったが、鉱石としては融点が非常に低いという欠点があったのだった。

シュワシュワと発泡スチロールのように溶けていくガン細胞。

こうして文字通り、彼の恐ろしい計画は泡と消えたのだった。

 

「隊員最年長の面目躍如ですね、フルハシ隊員」

「今の怪物は一体……」

「そいつが今回の事件の首魁ですよ、隊長」

「……ダン!」

「ソガ、大丈夫なのか!?」

 

デパートから、気絶したソガを抱えたダンが姿を現す。

 

 

「安心してください、気絶しているだけです」

「中で何があった?」

「アンドロイドとオモチャの軍団に襲われて……自分はセブンに先に助けて貰ったんですが、ソガ隊員は足を撃たれて気絶していたみたいで……セブンが助け出してくれました」

「こいつぅ、またグースカ寝てやがったのか」

「おい、起きろソガ」

「う、うう……」

「いやいや、名誉の負傷ですから、大事にしてあげて下さい」

「あ、ああ……? ダン……?」

「ソガ、大丈夫か?」

「あ、隊長……おいダン、あの時どこにいたんだ、目が覚めたらセブンが負けそうだったんだぞ」

「先に助けて貰ったんですよ。……彼が言ってましたよ、ありがとうって伝えておいてくれって」

「……礼を言うのはこっちの……ウッ!!」

 

慌ててダンの腕を素早く叩き、降ろして貰うと、排水こっ……うっ! オエッ!

 

「おぼろろrrrrrrrrrrrrrrrr」

「ソガ! どうした!?」

「おいおい、情けねぇ奴だな……」

 

いや、言いたい事はたくさんあるし、生き残ったのはいいが……とにかくこれだけは声を大にして言いたい。

 

同僚の腹パンが痛すぎる!




という訳で、無事タイトル回収でした。

タイトル回なので、やりたい放題させていただきましたが、アンドロイド破壊週間これにて終了。
また次からは不定期更新に戻るかもしれません。

腹パン回避の為に奔走した結果、原作よりもさらに痛い腹パンを食らう事になりましたとさ。
セブンもウルトラ警備隊の隊員だから同僚には違いないという事で、ひとつ。

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