転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「ソガ隊員、何を黙り込んでんですか?」
「どうもね……ヤな予感がするんだよ」
朗らかに俺の様子を窺ってくるダン。
なんて能天気な笑顔なんだ。
どうにかして、ダンにも警戒を促さないと。
ううむ……あ、そうだ。
「……ダン、今日はどういう日だか知ってるか?」
「……さぁ?」
「13日の金曜日……何か一大事が起きそうな気がするんだよ」
「一大事って?」
「……つまり、一大事さ」
「……ハッハッハッハッハ!!」
いや、笑いごとじゃないんだってば!
駄目だ、具体例が思いつかず、例の構文で締めくくってしまったのがマズかったか。
俺達は今、ホーク三号で岩見山の調査に向かってるところだ。
岩見山では最近、立て続けに変死体が発見されている。
それも、若者ばかりが既に26名!
遺体に死因を特定できるようなものはなく、怪事件としてウルトラ警備隊にお鉢が回ってきたという訳だ。
……まあ、怪事件も何も、ワイルド星人が、生命カメラで若いエネルギーを奪っているからなので、我々が出張るべき案件なのは間違いないんだが。
そして、今日のオレは普段以上に気を張っている自覚がある。
そりゃあ、ダンも心配してくるだろうが……
今日の一大事は、本当に一大事だ。
なにせダンが死んでしまうんだから。
今から行う調査中に件のカメラによって生命エネルギーを奪い取られてしまうダン。
11話目の冒頭にして、早くも主人公が死亡するという急展開を迎えるウルトラセブン。
残りの38話はどうすんだって感じだ。
この後、なんやかんやあって、無事に復活するのはオレにも分かってるんだが、ダンの肉体が一度死ぬのは間違いない。
……これはセブンにとって相当に負担だったのではないか?
よりによって仮の姿の状態で命を固定化されて、数時間はずっと死体そのままだったんだから。
かなりキツいと思う。
なにせ、人間で例えると、心臓移植の大手術を行うようなもんだ。相当に消耗したのは間違いない。
その証拠に、復活直後のナース戦では、全然本調子じゃないもんな、セブン。
ポール星人前だというのに、ビームランプ点灯してたのは、ナースが強かったんじゃなくて、病み上がりだったからでは……?
でなければ、セブンがあんなお目目ぐるぐる作戦なんかにやられる訳が無い。宇宙広しと言えど、引っ掛かるのはピット星人くらいだ……そうだよな、ダン? そうだと言ってくれ!
俺の計画としては、今回のダン死亡はなんとしても阻止せねばならん。
最良なのは素早くワイルド星人をサーチアンドデストロイ。
最悪でも俺が身代わりになって、フィルムに入る事になるだろう。
これしかない。
大丈夫だ、絶対アマギが何とかしてくれる。
……とはいえ、自分から仮死状態になりに行くのはかなり覚悟がいる。
そりゃあ、黙りこくってしまっても文句言わないで欲しい。
今はホークから降りて、放射線量測定装置で火山の地表を探っているところなんだが……
「ソガ隊員、さっきから変ですよ、きょろきょろして……そこはもう、さっき僕が調べましたところじゃ、ありませんか」
「ああ、そうだな……」
こんな調査に意味が無い事は分かってる。身が入らないのは許してくれ。
というか、全然見当たらないな、ワイルド星人。
「……さっきから僕の後を追い回して、こんなに広いのに効率が悪いですよ。手分けしましょう。あっちを見てきてくださいソガ隊員」
「こんなところで別行動するやつがあるか。死亡フラグだぞ!」
「ソガ隊員こそ、さっきから気もそぞろじゃないですか、真面目にやってください」
「真面目にやってんだよこっちは!」
おっと、すまん、つい。
気がたってるからさ。
「それは嘘です、さっきからガイガーが鳴りっぱなしですよ?」
「え? あ、ほんとだ……」
「まだお腹が痛いなら……危ない!」
「うお、ちょ!」
俺の顔を心配そうに振り返ったダンが、血相を変え、咄嗟にこちらを突き飛ばす。
何かのシャッター音が聞こえると同時、彼は腕を突き出した姿勢そのままで硬直し、ゆっくりとこちらへ倒れこんでくる。
俺の上へ覆いかぶさるダンの体は、鉛のように重く、それでいて、ぐにゃりと不気味なほど脱力しきっていた。
……おい。
待て待て。
嘘……だろ?
そんな、わけ……ないよな?
「ダン、ダン……? ……おい」
こんなに密着しているというのに、彼の体から鼓動をまったく感じない。……虚ろな瞳が、とても冷たかった。
「……ッダァァァァァンッッ!!!」
俺の叫びが、虚しく木霊した。
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白いシーツに覆われたベッドを囲んで、三人の医師が首を振る。
その意味するところは一つ。
彼は、モロボシ・ダンは、死んだ。
「ウワア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙ァァァ……!!」
情けなくて、涙が止まらない。
「隊長ッ、申し訳ありません……、じ、自分がついていながらッ……ううッ……ダンは……俺なんかを庇って……俺は……悔しいっ……!」
「モロボシダンは、地球防衛軍の誇る勇者。今、彼の死が隊員たちに知れたら、みんなの士気に影響する。このことは今度の事件が解決するまで、内密にしておく……」
隊長が、必死に感情を押し殺した声で、俺達に告げるが、まるで遠くで喋っているように感じる。
オレは……無力だ……また、失敗した……
背中越しにフルハシとアマギが鼻をすすっているのが聞こえる……。
すまない、みんな。オレが、守るつもりだったのに……
「君たちの気持ちはよくわかる。しかし、悲しんでいる場合ではない! ……ダンがやられるほどの相手だ。敵は次にどんな手段を使うかもしれない……。これ以上犠牲者を出しては、ダンの死を無駄にしたことになる。我々ウルトラ警備隊の手で、必ず敵を倒すんだ!」
「……はい!」
「いいか、これはダンの弔い合戦だ!」
そうだ、こうなってしまっては、もはや奴からカメラを取り返すしかない。
隊長の言うとおりだ。いったい何を泣いているんだ、オレは。
他の三人よりも、この先を知っているオレこそが、頑張らないといけないじゃないか。
彼らの方がショックは遥かに大きんだぞ。
「隊長!! ……自分がご案内します! 岩見山へ!」
「待てソガ隊員! それなら是非、貴方に渡したいものがある。こっちだ」
「アマギ……?」
三人でアマギについて行くと、そこは特科武器庫であった。
両腕で大事そうに抱えた重火器を俺に手渡してくるアマギ隊員。
こちらを見つめるその瞳には、普段の沈着で理知的なきらめきを飲み込んでしまうほどの、強い怒りと、悲しみの炎が渦を巻いていた。
「ついこの間完成したばかりの新作だ」
「これは……!」
「エレクトロHガンさ」
ついに完成したか……!
「アマギ、なんだいこの大物は?」
「かつてのニードルS80を、さらに改修したものです。簡単に言ってしまえば、撃ち出した飛翔体の表面電子を励起して、プラズマ化させて叩きつける事ができます」
え、ただのロケット砲じゃなかったのコレ!?
「すごいもんを作ったな……」
「理論自体は考えていたんですが……決め手はコレですよ」
「あっ!?」
そういってアマギは、武器庫の奥で厳重に保管されていたケースを引っ張り出す。
中から出てきたのは、大型拳銃に分類されるであろうサイズの、クリーム色をした奇妙な武器。
こ、この銃は……!
「そう、ペガッサの工作員が落としていったものだ。やはり、彼らの科学力は驚くべきものだったよ」
「そんなにすごい代物なのか?」
「すごいなんてものじゃない。さっきの理論を完全に確立してるんだ。悔しいが、今の人類の技術では、このサイズが限界だ。それを、片手で撃てる大きさにまで……しかも、弾の補充が要らない」
「なに、リロードが?」
「ええ……ウルトラガンですらエネルギーのチャージが必要なのに……この銃にはそれが無い。まったく解明できていないんです。つくづく、ペガッサ市を破壊できたのが奇跡に思えてきました」
「だが……威力は同じなんだな?」
「ハイ! ……だからソガ隊員、このエレクトロHガンを君に託す。僕の銃で、絶対にダンの仇を討ってくれ!」
「……任せろ!」
アマギの真剣な瞳をまっすぐ見返して強く頷く。
すると、今度は隊長が、アマギの手からペガッサガンを受け取る。
「アマギ、すまんがこれは私が借りるぞ」
「隊長?」
「ソガがこのような重火器を装備するのであれば、その取り回しをカバーする役目が必要だ。同等の威力の拳銃があるというならば、使わない手はない」
「解禁……されるんですね?」
「少なくとも、今回の相手はダンを殺すような相手だ。……我々も持ち得る最大火力をぶつける必要がある!」
「だったら俺はこれだぁ!」
武器庫を物色していたフルハシは、壁から、これまた大型の火器を選び取った。
それは、基地警備の一般隊員に配備されている、二本の銃身を持つ大型のショットガンであった。
一般隊員の装備と侮るなかれ、純粋な威力という点では、ウルトラガンすら上回る。
射程と重量、そして弾薬の問題で、野戦装備に不向きというだけであった。
「ホライゾンショットか……すまないフルハシ隊員、もう少し時間があれば……。それの改良型熱線砲はまだ試作段階で……」
「いいんだいいんだ! 忍び寄ってきた奴に、一先ずこいつをぶっ放す! 弾が切れたらウルトラガン、それでも駄目なら、首をねじ切ってやるまでよ! 俺達のダンをよくも……絶対に許さねえ!」
そういってフルハシは、涙で真っ赤に晴れた目を、怒りにぎらつかせた。
その形相は、背中から蒸気が立ち上っているのを幻視するほど。
今、その憎悪と殺意を全身から最も激しく放っていたのは彼であったが、秘めたる思いの強さに関しては、この部屋にいる四人全員が一致していた。
「……そうだ、アンヌには……?」
「……いや、やめておこう。彼女とて警備隊の一員。決して侮るわけではないが……我々の中で、彼と最も交流が深かったのもやはりアンヌだ。そのショックは我々の比ではないはず。……ともすれば、ダンの仇を前に無茶をせんとも限らん。彼女は戦士であると同時に我々の生命線だ。失うわけにはいかん」
「では、我々の手で、必ず」
「ああ!」
三人の復讐鬼が、基地を飛び立った。
一話でさらっと飛ばすつもりだったのに、パート分けすることになるの巻
まあたタイトル詐欺ですか?
ああ、アンドロイド週間で稼いだ書きためがなくなってゆく……