転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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魔の山を飛ばせ(Ⅱ)

岩見山で調査をしていると、折よく警察から通報が入った。

こんな事もあろうかと、山狩りの協力を頼んであったのさ。

三合目の洞窟から異様な唸り声がするという。

 

「噴火で出来た風穴ですから、風の通りぬける音かと思ったんですが……今までこんなこと、なかったものですから……」

「よし、入ってみよう」

 

警官二人を仲間に加え、5人で中を捜索する。

ヘルメットのライトを頼りに、暗がりを進んでいくと、

どこかからシャッター音が聞こえ、最後尾の警官がバッタリと倒れる。

あの時のダンとそっくりだ。

奴がもう近くにいる!

 

「おい、木下? どうした?」

「しっかりしろ! おい!」

「あ、危ない!」

 

岩陰できらりとなにかが反射したのを見つけ、皆に警告する。

隊長とフルハシは流石の反射神経だったが、残った警官は咄嗟に動けず、また一人やられてしまった。

 

「あそこだ!」

「撃て!」

 

現状の警備隊が持つ、携行火器としての最高火力が一斉に火を噴き、猛然と攻撃を加えた。その凄まじさは、火成岩でできた堅く黒い岩盤が、みるみるうちに削られていき、洞窟の形を変えてしまうほど。全貌が分からぬ事件の主犯を、既にここで撃ち殺す勢いの反撃が、彼らの怒りを物語っていた。

犯人が盾にしていた巨大な岩石も、もはやギリギリ這いつくばってようやく隠れる程度にしか残ってはいない。

 

「撃ち方やめ!」

 

俺達が固唾をのんで見守る中、岩陰から、放り投げられた衣服を隠れ蓑のにして、毛皮に覆われた野人が姿を現し、威嚇の咆哮を上げる。

しかし、我々が再攻撃を行う前に素早く姿を消してしまった。

いや、これでいい。

俺の目的のモノは、その岩陰に放棄されているからだ。

野人が隠れていた場所を見ると、半裸の地球人の死体と、銀色をした大型の銃のような装置。

生命カメラがそこにはあった!

 

「やっぱりそうか……隊長、敵は宇宙人ですよ! 彼を殺して、人間に化けていたんだ」

「ソガはこのまま洞窟を見張れ。俺とフルハシはいったん本部に戻る……これの謎を調べる」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

基地に戻ったキリヤマとフルハシの前で、回収した装置の分析結果を報告するアマギ。

スクリーンに映し出された映像の中で、もがき苦しむ人間達のようなネガ。

その中に特徴的なヘルメットを被った影を発見した二人は、口々にダンの名を叫び呼びかけるが、向こう側からの反応はない。

 

「どういうことなんだ? これは……?」

「ハッ、ダンを始め、被害者たちの生命が肉体を離れて、みんなフィルムの中、つまり異次元空間で生きているのです」

「すると、死んではいないということか?」

「そうです。しかし……どうやってこのフィルムの生命体を元の肉体に戻すかです……これは非常に困難なことです……」

「アマギ隊員、ダンを助けてくれ! ……助けてくれ!頼む!」

「うん!」

 

戦友の蘇生を決意するアマギに、ビデオシーバーでそれを聞いていたオレは、ふとした疑問を投げかける。

 

「アマギ、生命エネルギーがその銃の中で保管されているという事は……死体にもう一度シャッターを押すと、そこへ生命が注入されて元に戻るんじゃないか?」

「そんな都合の良い造りをしていますかね……?」

「だが、引き金一つで魂を抜き取ってしまうなら、それを戻すのも引き金一つで出来て、おかしくないだろう? そのモルモットに試し撃ちしてみてくれ」

「うーん……」

 

デモンストレーションの為に、アマギが持ってきた檻の中で、魂を抜かれ微動だにしないモルモット。

半信半疑の彼がそこへもう一度シャッターを押すと……

 

「き、消えた!?」

「なにッ!?」

「死体は一体どこへ行ったんだ……!?」

「し、死体ももしかしてフィルムの中なんじゃないか?」

「なんて恐ろしいカメラだ……いや、まてよ……?」

 

僅かなヒントに対し、アマギの瞳に確かな知性のきらめきが灯るのを見て取ったオレは、ビデオシーバーのスピーカーをそっと切る。

今度はこっちのお仕事だな。

 

エレクトロHガンを構えながら、唸り声の止まない洞窟の奥へと、慎重に足を進めていく。

しばらくすると、毛むくじゃらの野人が、唐突にその姿を現した。

 

「待ってくれ! 撃たないでくれ! ……我々ワイルド星人は地球を侵略しない。ただ少しばかり人類の若い生命が欲しいだけだ。我々の民族はみな老衰し滅び去ろうとしている。どうしても若い命が欲しいのだ」

「そんな勝手な!」

「わかっている! だが、地球人に頼んでも我々の気持ちはわかってもらえないだろう……」

「だから、人間の命を奪ったというのか!?」

「わかってくれ! 我々には若い新鮮な生命が必要なのだ……あのフィルムを返してくれ!」

「俺達人類に合意を求める努力はしなかったくせに、そちらの都合は分かってくれだと!? バカにしているのか!?」

「ち、違う! 例え協力を依頼したところで、君達がそのような事を許すはずがないと思ったんだ……実際にそうだろう?」

「いや、この地球には、死刑囚や安楽死を望む人たちだっている。そういった人間のエネルギーなら提供できるかも知れんのに、そちらの勝手な思い込みで対話をやめたんだ! 紛れもなくお前たちの怠慢だ!」

「それでは駄目だ! そのように汚れたエネルギーでは長くもたない。やはり健全な若者の生命でなくては!」

「なんだと!? 自分たちの存亡がかかっているのに、随分と贅沢なことだな……ええ!?」

 

思ってた以上にふざけてるなコイツら。

自分の都合ばかりじゃないか。なにが滅び去ろうとしているだ。勝手に滅びてろ!

 

「頼む、返してくれ! 私の星で皆が待っているのだ……返してくれ!」

「俺達の星から、そんな高級品を持ち去っておいて、見返りもなしか!? つくづく人類を舐め腐っているようだなワイルド星は……! 対価も払わず返せなどと、盗人猛々しいにもほどがあると思わんのか!!!! 何が返せだ! お前が返せ!」

「う、ぐ……対価と言ったな? では取引としよう。我が星の技術を提供する。その見返りとして、あのフィルムを貰う……どうだ? この際、最初の一回は君達の言う犯罪者でも構わない。頼む! 我々には、話し合いをしている時間がないのだ!」

「……ほう、ようやく分かってきたようだな。そうだ、妥協するのは俺達じゃない、てめえらだ……隊長、お聞きの通りです」

 

ワイルド星人の態度が変わった事を確認した俺は、ビデオシーバーのスピーカーを再びONにする。

マイクだけは切らずにそのままにしておいたんだ。

さっきの会話は指令室に筒抜けってこと。

 

「よくやったソガ、だが我々は……」

「隊長! アマギの部屋に、あの銀の容器に入ったモノがあったでしょう。きっと奴らの言うフィルムとは、おそらくアレのことです。あの()()()()()岩見山の洞窟まで持って来て下さい……カメラと一緒に。()()()()()()()()()()()

「……そうか、お前の言いたいことはよく分かった。ではワイルド星人に、洞窟の入り口で()()()()()、と伝えろ。()()()しなくてはならんからな」

 

隊長が何か言いかけたが、それに被せる様に、オレは捲し立てた。だが、隊長は、自分の話を遮られたというのに、ニヤリと笑って許してくれる。なんて心が広いんだろうか。モニターの向こうで、ワイルド星人への言伝を話す隊長は、しきりに首をさすって洗うジェスチャーをしていた……おおこわ。

 

ホーク1号が取引材料を乗せてやってくる。

隊長とフルハシ隊員が降りてくるのを、洞窟の入り口で待っている俺とワイルド星人。

銀のフィルムケースを持つ隊長がワイルド星人に近づくのを尻目に、オレはカメラをフルハシから受け取る。

 

「止まれ! この情報が欲しかったら、フィルムをよこすのだ! ……私は戦いを好まない。さあ、よこすのだ!」」

「これを渡したら、地球から出て行ってくれるか?」

「約束する」

 

確かに交換されるケース。受け取ったワイルド星人は喜色満面でそれを開けるが、しかし、フィルムケースの中身は空っぽだった。

 

「ううううう! 騙したなぁ! この野蛮人めぇ!」

野蛮(ワイルド)はお前だ! このビッグフットが!」

「なんだと!」

「……ハイ、チーズ」

「あ」

 

カシャッ

 

驚愕の表情で固まるワイルド星人はその場にドウッと倒れ伏した。

 

「でかしたぞソガ! フルハシ、肉体も確保だ。このまま捕虜にする」

「ハイ!」

 

フルハシが地面に倒れるその巨体を抱えたところで、山が揺れ出し、金属をひっかくような耳障りな雄叫びが聞こえてくる。

くそ、やっぱり自立起動しやがったか! 間違いない、ナースの声だ。主人の危機に、激昂して山から飛び出してきたのだ。

俺達がホークへ戻ると同時に、岩見山の山頂が噴火し金色の竜がその姿を現した。

 

空中で激しく身をくねらせるナース。

だがな……お前のご主人様はこっちが押さえてあるんだぞ!

細身の体になかなか狙いが付けられないが、周囲で急旋回を繰り返すと、奴はこちらを追尾して、段々と体の向きが定まってくる。

 

「撃て!」

 

 

ホークのミサイル攻撃が尾部に着弾!

損傷個所から猛烈な勢いで火花を吹き出しながら、徐々に高度を下げていくナース。

重力制御に異常をきたしたのか、竜形態での高度を維持できないようだ。

つまり、次はより安定した円盤形態をとってくるはず。

 

「やったあ!」

「よし、着陸だ」

「待って下さい、ダンを殺した奴らにしては手ごたえがありません、何か隠し玉があるはずです」

「確かにソガの言う通りです、このまま空爆でトドメを!」

「……ふむ、捕虜は既に一名。……もはや他の乗務員を確保する必要もない……か。よし、二人ともβ号とγ号に移れ! 操縦はα号から私がやる、レーザーとミサイルの同時発射で仕留めるぞ!」

「了解!」

 

俺達が各機に分散したところで、やはりナースはとぐろを巻き、円盤形態へと移行していた。

これで地上戦を挑んでいたら、逆に制空権を取られ、下部からのレーザーで追い立てられていただろう。

だが、お前の攻撃は下にしか……何!?

 

トドメを刺そうと急降下をかけたホークの攻撃を、もうもうと土煙をあげ、まるでジェット噴射のような勢いで急浮上することによって躱すナース。やられたフリだったのか!?

マズイ、上を取られた!

 

フリスビーのように旋回したナースは、ホークの真上でとぐろを解き、投網の要領で獲物に巻き付いた!

巨体に巻き付かれ、徐々に高度を下げるホーク、締め上げられた機体の各所が軋む!

マズイ! このままじゃナースじゃなくて俺達がバラバラになっちまう!

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!!」

「ソガ! フルハシ! 分離だ!」

「りょ、了解!」

 

バラバラ……? そうか!

隊長の号令に慌ててレバーを倒す。

一足先に逆噴射をかけたα号が機体の後ろへ引き抜かれ、ナースの拘束の中に残された大きな翼が、背骨を失いぽっきりと折れた。

金色の竜に搭載された自律回路は、自身の勝ちを確信するが、真っ二つになった翼は地面に激突することなく、そのままふわりと浮かび上がるではないか。

分離したβ号とγ号がVTOLを作動させたのだ!

 

「危ないところでした、隊長」

「お前たちもまだまだだな。……よし、今度はこちらからだ。私の指示通りに動け、考えがある!」

 

散会して、三位一体の攻撃を仕掛ける我々に向かって、ナースはその喉奥に隠された5つの銃口から、レーザーをバルカンのように連射してくる!!

お前! そんな攻撃してなかっただろ!

 

「……やはりな、奴は顔を向けるだけであらゆる方向へ対応できる。速度の円盤形態と、射角の攻撃形態、状況に応じて使い分けるとは……」

「隊長、分かってたんですか?」

「いや、ただのカンだ。姿を使い分けるからには意味がある。……だが、それはこのホーク1号とて同じこと!」

 

隊長の号令の下、フルハシの駆るγ号が斜め上から袈裟懸けの攻撃を掛ける。

振り返り、それを追いかけようとするナースの鼻先を黄色く小さい影が掠めるようにして横切った。

 

「ソガ、急上昇!」

 

β号がその小さな機体の旋回力をフルに活かして、ナースの周囲を衛星のようにぐるりと回る。

だが、どれだけ小さな旋回範囲であったとしても、フレキシブルな関節の動きには適わない。

後を追跡する金色の頭部が、ついにその姿を捉え、喉奥に隠されたパイプオルガンから、猛烈な咆哮をお見舞いしようとするが……

 

「こっちだ!」

 

キリヤマの放ったレーザーが、機先を制する。そうしてα号は、そのまま矢のような鋭さで、ナースの懐に飛び込んだかと思うと、細長い機体で竜の体の隙間を縫った。銀の針が金色の糸を潜る。まるで常識外の機動によって生まれた隙を、ナースの電子頭脳は見逃さなかった。攻撃を最優先に切り替えられた思考回路は、眼前の敵を撃ち落とす絶好のチャンスにその首を伸ばし……

 

設定された攻撃開始地点に辿り着けずにフリーズした。

 

再計算、座標異常。

速力低下、機体バランス変更不能。

 

ナースの柔軟な躰は、硬く硬く玉結びにされてしまっていた。

 

体をくねらせる事ができず、今度こそ本当に地に墜ちる竜。

 

「各機、ありったけの爆弾を、結び目の中心に叩き込め! 投下!」

 

動けないナースに、三方向から爆弾が投下される。特に、三機中最大のペイロードを誇るγ号が織りなす爆破のカーテンは、細長い体を余すことなく覆い隠してしまうほど。

結び目の隙間に飛び込んだ5000ポンド級のバンカーバスターが立て続けに弾け、その衝撃を逃がしきることが出来ずに、宇宙竜の金色の体はバラバラに吹き飛んでしまったのだった。

 

「やったーッ!! やりましたね二人とも!」

「ああ、そうだ。しかし……」

「ソガ、敵を倒しても、ダンの奴は戻ってこない……」

 

その時、ホークの通信モニターに入電がある。

そこには仕事をやりおり終えた漢の顔(アマギ)と……

 

「ダン!?」

「キリヤマ隊長、被害者は全員、無事フィルムの中から救出しました」

「おかげで命を取り留めることができました。アマギ隊員、まさに命の恩人です。……ありがとう!」

「このやろう……よくも俺に心配かけやがってぇ……! ダン!」

「無事でよかった。命は自分だけの一度きりのもんだ。そう容易く宇宙人なんかにやってたまるか、なあ!」

「「「ハハハハハハ!!」」」

 

……案外、そうで無いかもしれませんよ、隊長?

夕日に向かって帰路につくホークの中で、そうひとりごちるオレであった。




てなわけで、第11話「魔の山へ飛べ」でした。

あまりにも上から目線で押しつけがましいワイルド星人は、激おこ警備隊によって、捕虜兼、解剖資料にされましたとさ。

マルゥルによれば、どうやらワイルド星人は裏取引に応じる種族のようなので、この後は捕虜交換でたっぷり搾り取ってやりましょうねえ……

ま、怒り心頭のソガからしてみれば、殺さなかったから、平成版での借りは返してやったぞ、と言うかも知れません。
素直に死んだ方がマシかもしれませんが……

たまにはこういう外連味マシマシの空中戦も入れて視聴率稼いでいかないと。
もっとも、今作はちびっこの視聴率稼ぐ必要がないので、セブンの出番は削って、しっかり療養してもらいましょうね。

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