転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
鳴り響くサイレン。
群青にそまる宇宙のような、青い警告ランプがしきりに点滅する。
「接近する宇宙船に告ぐ、貴船は地球圏を侵犯している。目的を述べよ」
「応答が無く、コースを変更しない場合は、当方は攻撃を加える準備がある、応答せよ!」
「……駄目です隊長、あらゆる周波数帯に返事がありません!」
「……出ました! 進路から逆算して、あの宇宙船はシリウス銀河から来たものと思われます!」
「シリウス……おい石黒、そういえばシリウス星系第8番惑星の名は」
「……アイロス星です……」
ステーションV3の宇宙パトロールを率いるクラタの脳裏に、2年前、自身の取り逃した宇宙船が蘇る。
当時の月面基地から、採掘資源をまんまと盗み出し、部下を次々に撃墜しながら悠々と逃げ去っていった怨敵の姿。
「野郎、あの時預けた首を返してもらうぞ……! 出撃!」
「こちら宇宙ステーションV3、地球時間24時06分、正体不明の宇宙船が侵入、当方のパトロール隊と戦闘状態に突入!」
ステーション内にスクランブルが発令された。
出撃ハッチの天窓から外をクラタは、憎き円盤の姿を見咎め、敵の正体に確信を持った。
ブースターロケットで、漆黒の空へと高く高く飛び出した3機のステーションホークは宇宙船の進路を塞ぎ、最後の警告を行う。
……しかし、宇宙船が返事としてよこしたのは、レーザーの先制攻撃だった。
敵の円盤はステーションホークが衝突回避の為に舵を切った瞬間を狙ったのだ!
交戦距離圏内に入る前に、あっという間に2機が撃墜されてしまう。
「野郎……!」
切り返したクラタはミサイルを立て続けに発射するが、円盤はビクともしない。
思い起こされるあの時の光景。
しかし、以前と違う点が一つだけある。
あの時は、どれだけ損傷を与えようとも、外宇宙へと飛び出していく円盤に追いすがるしかなかった。
だが、今度の進路はまるきり反対、敵のむかう、あの青い青い地球には、奴がいる……奴が!
「宇宙ステーションV3より防衛基地へ……」
「緊急事態発生!」
「ステーションホーク3機、帰還せず……」
アイロス円盤に追撃をかけるクラタ機も消息不明となった。
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ステーションV3からの警告を受けた極東基地、その参謀室にて。
マナベ参謀の対面に出頭しているのは、沈痛な面持ちのキリヤマであった。
「キリヤマ、参りました」
「ステーションのパトロール機が……撃破された」
「は、聞きました」
「隊長のクラタ君は、君の友人だったはずだな」
「はい、士官学校以来の親友で、……優秀なやつでした……」
報告を聞いたキリヤマはホーク1号に対空警戒を命じ、作戦室でひとり、悪友の無事を願っていた。
(……あいつはきっと生きている……生きているに違いない……)
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パトロール中のウルトラホーク1号が、満身創痍で飛行するのがやっとといった様子の機体を発見したのは早朝のことであった。
「こちらウルトラ警備隊。応答せよ、応答せよ」
「ふん! 応答せよ? ……通信機なんて、とっくの昔にイカレちまったよ! ……うるさいトンボめ」
アイロス円盤との追撃戦で各所に被弾したステーションホークは、電気系統の一部をやられ、無線の送信機能すらも喪失してしまっていた。
もっとも、これだけの損傷でありながら、致命傷は一つも食らっていない。フルハシとアマギは、ステーションホークの乗務員が相当な飛行センスを持っていることを見て取り、舌を巻いた。
一体どんな奴だと、並走しコクピットから視認したステーションのパイロットは、気障ったらしく敬礼を飛ばしてくる。これは相当な強者だ。
《こちらホーク1号から指令室、ステーションホークを発見。奴さんボロボロだぁ、どうやら通信機もいかれてるらしい》
「はいこちらソガ、送信ができなくても、受信が無事なら大丈夫です。あちらへ、この極東基地へ寄港するよう伝えて下さい。夜通し戦っていたなら、整備と補給が必要でしょうから」
《了解。ステーションホーク、いったん極東基地へ。長時間の戦闘で弾切れでしょう。エスコートします》
「フルハシ先輩、敵を追ってきたステーションホークが居るという事は、敵も近くにいるはずです、注意してください」
《とはいっても、他の機影は見当たらないぞ?》
「そのあたりは山が険しいですから、谷間で待ち伏せしているかもしれませんよ? 俺達だって、一回それでやられてるんですからね」
《そうはいってもなぁ……》
《おい、右下を見ろ! ……うわッ!!》
「おいどうした!?」
《クソッ! 谷間からの攻撃だ! お前が変な事を言うからだぞッ!》
人をフラグ製造機みたいに言うな!
「ホーク! ホーク! 無事か!」
《それどころじゃない! ステーションホーク! こちらに任せて帰投せよ!》
《あのパイロット、なんて血の気の多い奴だ! むちゃくちゃだぞ!》
《ええい、ミサイルじゃ埒があかない……ああ!!》
《マズイ、あの損傷で、今度食らったらお陀仏だぞ! 射線に割り込むんだ!》
《よしきたッ! ぐあっ!》
「フルハシ! アマギ!」
《ちきしょう……》
《不時着だ!》
「くそッ……やられたか……」
やはり駄目か……なんて手強い相手だ。
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基地の廊下を、泥と煤に塗れた傷だらけの男が下を向いて歩いている。
だがふと、ボロボロのブーツがその歩みを止めた。
彼の視界に、天井のライトを反射する、綺麗な革靴の先が差し込まれたからだった。
クラタが顔を上げると、目の前には、かつて自分をV3へ左遷する決断を下した男が、あの時と変わらず、シワひとつない参謀服を着て立っていた。
バツが悪そうに会釈するクラタ。
彼は、マナベという参謀がどうにも苦手であった。
2年前、アイロス星人の円盤を深追いした際に、道づれにしてしまった部下たちは、自分を含めて皆、彼の教え子だったのだから……
「無事だったか……」
「また一人で戻りました、今度は月へでも放り出しますか……」
言葉少なく終わったこの再会に、助け船を出す青年がいた。
彼は重苦しい空気を払拭するようにハキハキとした口調で告げる。
「ウルトラ警備隊のモロボシです。お迎えに来ました」
ダンに連れられ、指令室へ姿を現したのは、白い白いマフラーを土埃で汚したステーションV3の攻撃隊長、クラタ。
そしてそれを誰よりも心待ちにしていたのは……奴だった。
「……クラタ! ……この悪党!」
「おう、モグラめ、元気か?」
がっしりと握手を交わす
「元気そうじゃないか……おい、何しに来たんだ?」
「宇宙船を追ってきたんだ…」
「宇宙船か……アイロス星人の」
「そうだ奴は来た……奴は部下の仇だ!」
「一緒に収容された彼は?」
「脱出のショックで、半身不随だ。もう乳母車にも乗れやせんだろう……」
それは、彼の大切な部下達が、実質的に全滅したことを表していた。
「俺だけじゃない、出迎えのパトロール機もやられた!」
「隊長! それは、ホーク1号です」
「フルハシとアマギか……」
「不時着飛行で墜落していったから、死んじゃおらんだろう…。もっともアイロス星人に捕まったら最期だが……」
「隊長、救出に行きますか?」
「宇宙船は燃料を切らしている。場所は秩父山中だ!」
「よし、わかった」
「奴は俺に任せろ!」
「地上の侵略者は警備隊の管轄だ……君はリンゴでも食べながら、休養していてくれ」
キリヤマが、部下の仇と逸るクラタを抑えていた頃、アイロス星人の円盤の中では、捕らえられ、生体構造解析装置に収容されたフルハシとアマギが転写にかけられていた。
やがて、装置から、全く同じ構成をしたアイロス星人が姿を現す。
アイロス星人は、はっきりとした姿を持たない。
言わば、意思をもった炭素原子の集合体であった。
彼らは、母星に住む様々な生物の姿を借り、状況に応じて使い分けながら発展してきた。それは生物も無機物をも問わず、この円盤すらも、たくさんのアイロス星人が一体化した模造品。予備の金属原子さえ確保されていれば、どのような損傷を負っても、エネルギーの続く限り複製と交換を繰り返すことで、まったくの無傷を装うことが可能であった。しかも、円盤そのものが彼らの肉体と同じであるため、生命がその手足を動かすように、滑らかに円盤を操ることが出来た。その常識外の機動性と耐久力をもって、クラタの追撃すらも、何度となく振り切ってきたのである。だが、どれだけ見かけには無傷であっても、変形を繰り返せば消耗する。彼らはその肉体を構成する炭素を欲していた。
クラタの2年越しに醸造された執念からくる、執拗な追撃に長時間晒され続けた彼らは、文字通りのガス欠に陥っていたのだ。
その為には、地球の良質な純度の高い炭素の塊が要る。その手足として、現地の生物のサンプルが手に入ったのは行幸だった。
対象の分子構造さえ解析できれば、異星の生命体であっても、まったく変わらない組成で姿を真似ることが出来る。
2年前もこうして、捕まえた月基地の隊員に化けて、保管してあった石炭類を山ほど持ち帰ったのだった。
彼らは、この地球が宇宙開拓時代でもなければ『シェイプシフター』などと呼ばれていたことだろう。
「二人ともよく聞け! ナンバー74指令。地球防衛軍基地の固形燃料を奪い帰れ」
模造された男達が、黒い尖兵として放たれた。