転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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むこうから来た男(Ⅱ)

修理されたホーク1号で、アマギとフルハシが帰ってきた。

 

墜落のショックか、指令室ではやたらとぼんやりした様子を見せていた二人であったが、挨拶もそこそこに部屋を辞すると、一直線に燃料保管庫へ向かっていった。

 

あった、固形燃料だ!

なんと芳しいコークスの香り。

地球人は宇宙でも指折りの愚かな種族だが、この物質を精練する技術だけは褒めてやってもいい。

地表の炭素生成物をほとんど採りつくしたアイロス星人は、この地球に大量に貯蓄されている高純度の炭素燃料に目を付けた。このたった一箱だけで、優に8光年は飛び続けられるだろう。これだから地球はやめられない。

だが、さっさと運び出そうとする彼らを見咎める者がいた。

 

「二人とも待て」

 

それはウルトラ警備隊のモロボシ・ダンであった。

いいところを邪魔されては敵わないと、腰のウルトラガン・コピーを引き抜き、即座に発砲する。

慌てて物陰に隠れるダン。

しかし。

 

「残念だったな、アイロス星人」

 

背後の扉から躍り出たクラタの手元で、オートマチックハイパワーモデルが火を噴いた!

8ミリ口径から発射された弾丸は、寸分の狂いもなく、二人の両手両足に一発ずつ命中。

その場に倒れこむフルハシとアマギ。

そこへ駆け寄ってくるキリヤマは、クラタを怒鳴り飛ばした。

 

「サウス、この大馬鹿者! 火気厳禁の燃料庫で、発砲するやつがあるか!」

「火気厳禁……? そんな悠長なことを言っとる場合か、先に引き金を引いたのはキサマの部下だぞ。怒鳴る相手を間違えるな、モグラ」

「まあまあ、お二人さん、後にしましょう。……それにしても一発も外さないとは、やりますね」

「ふん、謙遜するな臆病ガンマン……しかし、見ろ、奴らを」

 

クラタの指差す床では、痛みに悶えるでもなく、両手両足の銃創から、一滴の血も零さない二人の姿があった。

やがて、ボロボロと崩れ去り、コールタールのような人型の燃えカスだけを残して、消え去ってしまう。

 

「偽物です」

「お前が、二人が一切瞬きをしない、などと言い出した時は、またぞろおかしなことをと思ったが……」

「モロボシ……ダン……やるな」

「貴方にお返ししますよ、クラタさん」

「それにしてもこいつら、さっきの様子を見る限り……」

「燃料を奪いにきたんです! この分では、フルハシ隊員とアマギ隊員は……」

「よし、燃料はやろう。その代わり、フルハシとアマギをすぐ返せと発信を!」

 

やがて、こちらの提案に対して、敵からの返信があった。

30分以内に燃料を渡さない場合は、部下の命は保証しない。交換現場では指示に従うように……と

 

「まるで、脅迫状ですね」

「攻撃しよう!」

 

クラタの苛烈な提案に、考え込むキリヤマ。

 

「……交換に応じよう」

「みすみす逃がすのか!」

「……部下の命にはかえられん」

「俺の復讐はどうなる! ……部下を皆殺しにされたようなもんだぞ!」

「立場が逆ならどうする? ……部下を見殺しにするか!?」

「燃料を与えてみろ。犠牲者は2人じゃすまなくなるぞ!」

「侵略はしないといっている!」

「約束など守る相手じゃない!」

「攻撃するだけが、指揮官の務めでもあるまい!」

「なんだとぉ!」

「隊長! ……時間がありません!」

 

作戦室に重苦しい沈黙が落ちる。

普段のキリヤマは、心の中に常にこの悪友を飼って戦ってきた。

自分にはあと一歩足りない苛烈さと果断……そして、無謀。

それをキリヤマは、眼前の男の後ろ姿から借りて、今日まで恐ろしい侵略者を撃滅してきたのだ。

保守と革新、お互いがお互いを時には抑え、時には支えていた、あの時のように。

……だが、今のクラタは、復讐鬼だ。

怒りに燃えるクラタのその瞳に、慎重な自分の姿が今も揺らめているのか、はっきりと確信の持てない中で、今は……今だけは。

 

「固形燃料をパラシュート詰めにして、ホーク3号に積んでくれ。交換には、俺が行く!」

「ひとりでか……」

「ソガよ、ダンよ! ……あとは頼んだぞ」

「……キリヤマよ!」

 

指令室を後にするキリヤマの背中を、戦友が呼び止める。

 

「……死ぬな」

 

旧友は決して振り返ることなく、ホークの発進口へと駆けて行った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

隊長がホーク3号で出撃してから数分後、落ち着きなく指令室をウロウロとするクラタ隊長の姿がそこにはあった。

せっかくカッコよくキメて送り出したのに、これじゃ動物園の熊だ。

台無しだよ。

しゃーねえなぁ……

 

「クラタさん、最近僕は禁煙をはじめましてね、最初のうちはこれが辛いのなんのって……」

「あ? それがどうした、俺は吸うのをやめんぞ」

「……なんにしてもガマンするのは、体に悪いそうですよ?」

「ん? ……それもそうだな。よし、ちょっと行ってくるかぁ……!」

 

机の上のヘルメットをとろうと、クラタの伸ばした右手の先で、狙いすましたかのように受話器が鳴る。

キリヤマ隊長からの入電だ。

 

「こちらホーク3号、キリヤマだ。異常ないか?」

 

俺は、こちらを見たまま固まるクラタと顔を見合わせて……

 

「はい! 異常ありません!」

 

元気にハキハキと答える俺の後ろを、ニヤリと笑ったクラタが駆けて行った。

そうして指令室を後にして、発射口へ向かうエレベーターに飛び乗ったクラタに背後から声がかかる。

 

「隊長、あわててどちらへ?」

 

聞き覚えのある恩師の声に、振り返った彼の目には、マナベのカーキ色の背広が映った。

どこへも何もこのエレベーターは……

クラタは悪戯を咎められた子供のように、ヘルメットを叩きながら押し黙る。

 

「この下は、ホークの発進場だが……? それも鍵がないと入れない!」

「え、鍵っ?」

 

もちろんそんなモノは持っていない。

という事は誰かの許しが無ければ入れないという事。

どうすればいいのか、思考を巡らせるクラタの前で、黙って鍵を差し出すマナベ参謀。

 

「……キリヤマを守ってもらいたい、やつは、いい友人を持って幸せだ」

 

微笑を交わしあった二人の男達は、それ以上を必要としなかった。

受け取ったカギを握りしめ、万感の思いを込めて頭を下げる。

 

「……ありがとうございます!」

 

 

クラタが居なくなり、俺一人となった作戦室に、ダンが慌てて飛び込んできた。

 

「ソガ隊員!クラタ隊長が出動しましたよ!」

「あっ、そう」

 

えーっと、こっちはダメで、これは遠いな……こっちは途中までハイウェイが使えて……

 

「僕たちはどうするんです?」

「うん…そうだなぁ」

 

うん、やっぱりこのルートがいいな。よし!

 

「そろそろ出かけようか」

「はいっ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

《固形燃料を落とせ! 固形燃料を落とせ!》

「よし、わかった」

 

円盤からの指示通りに、パラシュート投下される固形燃料。

それを、宇宙船から伸びてきたマジックハンドが回収する。

 

《部下を渡す! 着陸せよ!》

「よし、わかった」

 

誘導どおりに着陸コースをとるキリヤマのホーク3号。

……しかし、アイロス円盤から送られたのは人質ではなく、凄まじいロケットバルカンの攻撃だった!

すんでのところで、急上昇で躱すキリヤマ。

 

だが、無防備に低空飛行の背後を晒す事までは避けられない!

狙いをつけた円盤は、3号が旋回に入るその瞬間を待っていた!

アイロス円盤を揺らす、けたたましい爆発!

一体どこから!?

 

ホーク1号で駆け付けたクラタの援護射撃は、見事にキリヤマの命を救ったのである。

窮地を脱した3号に平行飛行する1号

 

「キリヤマ……、久しぶりに組んでやるか」

「よし……よかろう」

 

キリヤマのハンドサインを皮切りに、洗練された曲芸飛行でアイロス円盤に攻撃を仕掛けるウルトラホーク。

かつて太陽系を騒がせた、双頭の悪魔がふたたび蘇った瞬間だった!


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