転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ウルトラ警備隊に死ね《前編》(Ⅰ)

「逃げろ! 小鹿のように速く!」

 

炎に燃える客室から、夜の海が揺らめいて見える。

 

「今はこれが精いっぱいだ! でも、必ず君を……!」

 

凄まじい爆音と共に、意識が途切れた。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「起きて……ねえ、起きて」

 

どこか遠くで、聞き覚えのある声が聞こえる。

 

自分をよぶその声が、ほかでもない自身の口から発されていると理解すると同時に、私の意識が、沈黙の海からズルズルと引き上げられていくのを感じる。

まるで錨を巻き上げるようにゆっくりと、ゆっくりと……私は目覚めた。

まだ焦点の定まらぬ視界の中に、こちらを覗き込む女の顔が迫ってくる。

ブルーの瞳に好奇心をこれでもかと溢れさせ、淡いプラチナブロンドの毛先を遊ばせたまま、小さく微笑みを湛えた口元……

この顔を、私はよく知っている。

……見間違えるはずもない。

 

「ワタシ……?」

「ええ、そうよ。お目覚めはいかが? ワ・タ・シ」

「……キャアァ!!」

「ウフフフ、あんまりに悪戯が過ぎたみたいね」

 

そう言って笑う自分の姿は、悪戯の成功した時の自分と、全く同じ笑い方をしていた。

……まるで鏡写しのようにそっくりだ。左に出来るえくぼまで含めて。

 

「アナタは……いったい、アナタはだあれ……?」

「ワタシはワタシよ、ドロシー……ドロシーアンダーソン」

 

ドロシー・アンダーソン。

そう、この謎の空間で恐怖の体験をしている女性こそ、ワシントン基地の誇る若き才媛、ドロシー・アンダーソン博士なのである。

だが、今は記憶が混濁しており、彼女の頭脳をもってしても、今の状況がまるで分らない。そんな中、たった一つだけ確信を持って言える事があったために、博士は目の前で意地悪く微笑む自分自身にNoを突きつけてやることにした。

 

「……それは嘘ね。ワタシは、誰かを驚かしたり、怖がらせたりするのが、アナタほど好きじゃないもの」

「残念、もう少し怖がってくれると思ったのに」

 

つまらなさそうに肩を竦め、手元の端末を確認する自称ドロシー。

言葉ほど悔しがっているようには見えず、本当にただの冗談程度だったらしい。

 

「でも、嘘吐きはアナタも同じよ、ドロシー。驚かせたり、怖がらせるのが、苦手ですって? ……よくもそんな事を言えたものだワ。……散々、アタシたちの心に恐怖を植え付けていったくせに」

「恐怖? ……ワタシが?」

「しらばっくれても駄目よ。三か月前、アタシ達のところへ、侵略兵器を送り込んできたのは、アナタ達じゃないの」

「三か月前……侵略……まさか?」

「そうよ、教えてあげる。アタシはね……アナタ達地球人が、偵察ロケットを送り込んだ、ぺダン星から来たのよ!!」

 

そうか!

今のやり取りで、記憶野がかなり刺激されたのか、何があったのかを、朧気ながらも思い出してきた。

確かに三か月前、ワシントン基地では暗黒星雲にあるぺダン星に一つの観測ロケットを打ち上げた。

光の届かない暗黒の星に、生命がいるはずがないと思い、測量のために新型機を飛ばしたのだが……それは大きな間違いであった。あの日、観測ロケットはブラックホールに突入するかと思われた瞬間、宇宙の闇をまるでカーテンか何かのようにするりと抜けて、暗幕の向こう側に隠されていた未知の世界のデータを、その性能を遺憾なく発揮して収集し、回線がパンクしそうになるくらい纏めて地球に送信してきた。

なんと暗黒の星ぺダンは、光が届かないのではなく、光を()()()()()()()()()()()()()()だったのである。

ダークマターを機織りのように扱い、暗闇の絹糸によって、巨大な一種のダイソン球を形成していたのだ!

 

ダイソン球とは、かつてとある学者が提唱した仮説の一つで、進んだ宇宙文明は、恒星をぐるりと囲む生存圏で構成され、その光と熱のエネルギーを余すことなく使用できるようにしているだろう。というものである。

銀河系サイズの人工コロニーとでも言えば、分かりやすいだろうか。

そのコロニーの壁が、金属や岩石では無く、たまさか闇のヴェールで構成されていたために、地球の観測ロケットは何にも邪魔される事無く、その内部へすっぽりと入り込んでしまったのだった。

 

「ち、違うわ! あれは事故だったのよ!」

「ふん、口ではなんとでも言えるワ。興味のない場所に、人は見向きもしないもの。アタシ達の星を侵略しようと、舌なめずりしていたんでしょう!」

「ワシントン基地では、あれから謝罪の無電を送り続けているじゃない。ワタシ達はあれが届いていないのかと……」

「地球では、どんな悪い事をしようが、謝ればそれですむと言うの? ……そうはいかないわヨ、だからアタシ達はやってきたの。卑怯な地球人に騙されない為に!」

 

……そうか、ここ数週間、ワシントン基地の職員が相次いで謎の失踪を遂げていたのは、やはり彼女らぺダン星人の仕業だったのね。

ドロシーは一連の事件が、二つの惑星間での悲しいすれ違いによって引き起こされたのだと確信した。

その対策の為に、二ホンの防衛センターで秘密裏の対策会議を開催する予定であったが……出航時に正体不明の襲撃を受けたのを思い出した。そうか、あの時に自分は捕まってしまったんだ。せっかく彼が逃がしてくれたのに……

 

「……へえ、対策会議。ほらやっぱり。アタシ達をどうやって攻撃するか、作戦をたてようってわけネ?」

 

なぜそれを!?

 

「地球人は顔では平和主義者のようなフリをして、平気で嘘をつく。その手にはのらないワ。さっきから、あなたをブレインストリーミングにかけているの。どんな悪人も、頭の中までは、嘘をつけないんですからね」

 

ようやくドロシーは、自分の頭に輪っかのような装置が乗っかっている事に気付いた。

目の前のぺダン星人は、手元の端末をしきりに目で追っている。

……ああ、なんてこと。この装置でワタシの思考を読んでいるんだわ!

 

だが、とドロシーは思った。

これはむしろ好都合なのではないかと。

彼女の言う通り、思考の中で完璧な嘘を吐く事はできない。……しかし、それが何だと言うのだ? 嘘をつく必要など、自分には何一つないのだから。

むしろ潔白を証明するいい機会ではないだろうか。自分を通して、地球人がいかに平和を愛し、信頼と思いやりに溢れた種族であるかを、この疑り深い宇宙の友に知ってもらえば良いだけではないか!

こうなったら、地球とぺダン星の為に、思い切り天真爛漫な少女を演じきってみせよう!

そう、きっと彼が助けてくれるに違いないのだから。

ワタシはその時を信じて待つだけよ。

 

……問題は、このような記述が、さっきから手元の端末に駄々洩れている事をまるで気にしない、この()()()()()()()()の方だ。

ドロシー・アンダーソンという博士はその知性と比例するかのように、自分自身が思うよりもさらに6割増しで、演じる必要などまるでないくらいには、お人好しで、天真爛漫にすぎる女性なのであった。

 

頭を抱える技術主任のストリーミング画面には、炎上する船室で、拳銃を片手にこちらを振り返る、サングラスの地球人男性の映像が映っていた……




さて、『ウルトラ警備隊西へ(前編)』

始めてまいりましょう!


一応、原作を知らない方でも、名前くらいは聞いたことがあるかもしれない、あのキングジョーの登場回です。
豪華に二本立てだったわけですから、作者も気合入れていきますよ!

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