転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ウルトラ警備隊に死ね《前編》(Ⅱ)

船の上で、サングラスをかけた男が、葉巻を吸っている。

豪華客船のデッキに腰掛け優雅に寛ぐ男を見て、一体誰が思うだろうか。

彼が任務に失敗したエージェントだ、などと。

 

彼はマーヴィン・ウィップ。

祖国アメリカの為に、世界をまたにかける超凄腕の諜報員である。

彼は人が嫌がるどんな汚い仕事であっても、それらを進んで引き受け、ミッションのことごとくをクリアして来た男だ。

秘密裏に、社会のゴミ共をきれいに一掃していく彼を、人は尊敬と畏怖をこめて、処刑鞭(ダーティウィップ)と呼んだ。

そんなマーヴィンであるが、たった一つ、他の誰にも譲らず、どんなミッションよりも最優先で受ける仕事がある。

それは、ワシントン基地の才女、ドロシー・アンダーソンの護衛任務であった。

 

彼女と彼は長い付き合いだった。まだお互いがこのように類い稀な才能を発揮するとも知らず、彼女がまだエレメンタリスクールにすら通っていない頃から、何かと世話を焼いてきてやったものである。

 

そんな彼女に危険が迫っていると、ワシントン基地から依頼の打診があったのはつい数週間前。ドロシーの周囲で、謎の失踪が相次いでおり、秘密裏にニホンの基地に移送するというものだ。

そして、二つ返事でそれを受けたマーヴィンに、ボガード参謀は声を潜めて呟いた。

今回の敵は宇宙人かも知れない、と。

 

そうしてアベックの旅行者に成り済ました二人は、ニホン行きの客船に乗り込んだのだが……その旅程が丁度中間に差し掛かった頃、襲撃をうけた。

 

彼女のとっていた船室が焼け出され、廊下には何人もの男達が銃を構えて待ち受けていたのだ。

マーヴィンは彼らを抑え、その場からドロシーを逃がそうとした……そうして、奴等を全員、物言わぬ血袋に変えてから、彼女の後を追ったが、ドロシーは忽然と姿を消してしまった。奴らの死体と共に。

 

マーヴィンは初めて任務に失敗したのだ。

 

……だが、彼はまだ諦めてはいなかった。

通信機も、身分証明書も。燃え残った部屋からは見つからなかったが、それでもこうして、焦ってパニックになるどころか、逆にテラスでリラックスした姿を見せているのも、全ては彼女を取り戻すため。

奴らの狙いが彼女を殺すだけならば、あのように手の込んだ真似をする必要もない。……そして、散々自分が鉛玉を撃ち込んでやった下手人どもが、血痕一つ残さず消え失せたとなれば、奴らの仲間はまだこの船にいる。

 

マーヴィンは釣りが趣味であった。

だから、今日も釣り糸を垂らす事にした。

彼は今、この大海原で一世一代の勝負を待っているのだ。

今まで沢山の大物を釣り上げてきた彼であったが、そういえばエイリアンフィッシュ(ギンポ)はまだだったな……と。

葉巻を旨そうに吸いながらひとりごちる、イキのいいエビに向けて、テラスの岩影から真っ黒い銃口が、ぎらりと狙いをつけていた。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

その頃、技術主任は辟易していた。

このドロシーとかいう地球人の女が、あまりにも……

 

「ねえ、これは? これはなんて読むの!?」

「……それは『おうごん』よ」

「ありがとう! ……黄金の城塞……ああ! エメラルドの城みたいなものね!」

 

この調子だ。

このお姫様は、天真爛漫な女性どころではなかった。これでは夢見る少女だ。

ブレインストリーミングは対象の脳が活性化しているほど、より深く詳細に思考を探査することが出来る。

なので、対象と話す事が任務の一つではあるのだが……

彼女はとある理由から、早々にギブアップして、母星の幼児用識字本を読ませていた。……原文で。

渡されたそれを嬉々として翻訳しながら、好奇心に目を輝かせるドロシーを見て、彼女は呆れると同時に……羨ましいな、とも思っていた。

自分とて、任務でも無ければ、こんな装置に頼らずに、異星の言語を自力で解き明かしたい。

彼らの文化や……この星の自然を、早く楽しみたくて仕方がない。

さっきからこのドロシーの思い出にある景色の、なんと美しい事か!

母星では、自然物が担う筈の循環機構もほとんど解き明かされ、次々と人工物に置き換わって久しい。

保存の為に残された僅かな自然は、たまに取れる休暇の保養地として、短時間だけ堪能できるばかり。

この星のように、住宅地に樹木性の植物が等間隔で植わっているなんて、なんと贅沢なスペースの使い方だろうか!

もっとも、この光景を見たいがために、潜入作戦群の技術主任なんて役に収まっているのだから、自分も十分に役得である自覚はあるのだが……

いったい、いつからだろう。ぺダンが灰色の合理主義と軍国主義に染まっていってしまったのは……そう憂う彼女は母星では珍しく、芸術と文化を特に愛する気性を有していた。

だが、絶えず防衛戦争に明け暮れるぺダン星において、そんな悠長な趣味が許されようハズが無く……彼女が軍に入隊したのも、最新鋭の研究設備と潤沢な資金を備えているのが、軍のセントラルタワーだったからに他ならない。そこで持ち前の知的好奇心と、対象物への鋭い観察眼を活かし、非常に完成度の高い変装技術を発揮したところその腕を買われ、異星への特殊潜入作戦群の技術士官として、様々な星について行くことになったのだ。

そこで戦士達が戦利品として持ち帰ってくる品々のなんと素晴らしい事!

それらが作成されるに至る背景や、その用途から推察される民族性などに思いを馳せる事は、十分に彼女の荒んだ知的好奇心を満たしていた。

なので、こんな状況にも関わらず、目の前で識字用の絵本を、きらきらとした目で読破している大きな幼女(アンダーソン)の気持ちも分からなくもない。

だが、自分は任務中であるのに、こうも楽し気な姿を見せつけられると……

 

「ねえちょっと! さっきからアナタの思考に、荒唐無稽なノイズが度々混ざるんだけど……やめてくれないかしら? なんなの、これ!?」

「え、ノイズ……? いったいなんの事?」

「ああもう……これよ!」

 

技術主任が、地球言語と同時翻訳された端末の画面をイライラした様子で見せつける。

そこにはブリキ(おそらく地球製の特殊合金と思われる)でできたサイボーグが、雨で錆びて動けない(地球の酸性雨にそんなに即効性のある腐食作用があるわけがない)ので油を差してやるだの、乾燥した植物の残骸を集めて作成した人形が知性を欲して、脳ミソがほしい! とのたまい出すだの。

挙句の果てにはエメラルドの城ときたものだ! 装飾品ならいざ知らず、あんなに加工性の悪い鉱石で街ひとつ作ろうなどと、効率が悪いにもほどがある。非常に論理的思考を持つ目の前の女性(彼女の知性が、地球人の中でも飛びぬけたものであるのは、先程までの会話から疑いようはない)の考えることではとても思えない。

ところがドロシーは目を見開いたかと思うと、こちらに熱烈に推し進めてくるではないか!

 

「ああ! コレね! これはね、マービィがワタシに読み聞かせてくれた、お気に入りの作品なの! ねえ、アナタも読んでみて! 絶対面白いから!」

「な、なんですって!? こんな幼稚な話が? ……だいたい読めっていったって……」

「大丈夫! この話なら何度も読んだから、頭の中に全部入っているわ! 一言一句!」

「……ハア、呆れた。これじゃペダニウムクッキーね……」

「クッキー……?」

「優秀な性能の、無駄遣いという意味よ……!」

 

かつてペダニウムエンジンを設計した天才は、潤沢な熱量でクッキーを存分に焼き上げる為に開発したのだ、という笑い話は、今なお語り継がれている。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

銃声と共に、サングラスの男がもたれ掛かっていた手すりが弾ける。

しかし、すでにそこにマーヴィンの姿はなく、体を翻した状態から、彼の右手の大物が低い唸り声を上げた!

利き腕から盛大に血しぶきが上がり、狙撃ライフルを取り落とす襲撃者。

デッキのプールサイドを走り抜けるマーヴィンに、ビジネスマン風の男たちの構えたサブマシンガンから雨あられと弾丸が降り注ぐ。水と、砕けたチェアの白い飛沫がマーヴィンの姿を一瞬隠したかと思うと、その向こうから、再び響く轟音! 男達の頭上に括り付けてあった救命道具のタンクが、落下先の二人を押しつぶし、本来とはまるで真逆の仕事を果たした。

 

救命用具の逆襲から、命からがら逃げのびた男の胸に風穴が開き、もんどりうって倒れこんだ先で、プール水を真っ赤に染めていく。

……なるほど、宇宙人も血の色は変わらんらしい。

マーヴィンは敵が多い。普段であれば、犯罪者の報復や、敵対組織の工作を疑うところでは有るが……男達の人種はバラバラ。

黒人、白人、メガネをかけたアジア系に、あろうことかターバンを巻いたエスニックな奴まで。

奴さん、あんまりにも節操がないとは思わんのかね?

仮装パーティかと言いたくなる格好の宇宙人へ鉛玉で脳天ブチ抜き、もう一人。

ここまでくれば、流石に偽装の意味もないと思ってか、ようやくエイリアンらしい服装の兵士が二人、マーヴィンの行く手を塞ぐように躍り出た。

光線銃から眩い光が発射される。人間の体組織など、一発で原子崩壊させてしまう威力だが、当たらなければどうという事もない。

来客用に纏めて用意されていたワイングラスを、給水所を走り抜ける、マラソンランナーのようにひったくると、マーヴィンはそれを宇宙人へ力いっぱい投げつけた。

両者の間に引かれた真っ赤で芳醇なカーテンは、きらめく光線をあたりに拡散させながら、重たい金属の殺意だけには通行許可を出した。

ブルーのバイザーのど真ん中から蜘蛛の巣のようにヒビを入れ、その場に倒れるエイリアン。

ヘルメットの中がいったいどうなっているのか、想像もしたくない。

狼狽えるもう一人の懐へ一気に踏み込んだマーヴィンは、掬いあげるようにして渾身のアッパーカットをお見舞いした。

手すりの向こう側へ全身を躍らせ、そのまま落下していく兵士。

ドボンとひねりのない水音を背中に聞きながら、マーヴィンは最初に撃った男の元へゆっくりと近づいた。

右腕が弾け飛び、血をだらだらと流しながら、浅い呼吸を繰り返す黒人の男。

彼は恐怖に怯えながらも、自分の落としたライフルと、マーヴィンの顔を交互に見やった。

マーヴィンが口を開く。

 

「おおっと。考えはわかってる。俺がもう六発撃ったかまだ五発か……実は言うと、こっちもつい夢中になって、数えるのを忘れちまったんだ。でもこいつはマグナム44って言って、かつて地球で一番強力な拳銃だったんだ。お前のドタマなんて一発で消し飛ぶぜ?」

 

その脅しに、床へ倒れた男は息をのむ。

マーヴィンの言う銃が、先程、仲間のヘルメットを叩き割ったのを見ていたからだ。

 

「楽にあの世まで逝けるんだ。運が良けりゃなぁ。さあどうする? その口でドロシーの居場所を吐くか……俺の相棒にキスするか」

 

もはや自分は助からない事を悟ったぺダンのエージェントは、それでも最後まで任務に準ずる覚悟を決めた。

仲間の情報を喋るだと? 笑わせるな。そんな恥を晒すくらいなら……自分は、誇り高きぺダンの戦士だ!

 

「どうせハッタリだろ……コンチクショウ!」

 

悪態を吐き捨てると、残った左腕で床のライフルに手を伸ばす!

だがそれよりも、マーヴィンの右手でマグナムが吠える方が速い。

腹部に大穴を開けて沈黙するぺダン星人。……即死だった。

 

「……チッ」

 

舌打ちを残して、マーヴィンは後ろを振り返る。

コウベ・ポートはすぐそこだ。

ただ……

素直に下船するわけにはいかない。

船に乗った時とは違い、パスポートを奪われた今の彼は、ぺダン星人の変装した地球人と何ら変わりはないのだから。

マーヴィンの目は、宇宙人をひき潰したタンクが口を開き、アクアラングの装備が一式、顔を覗かせているのを捉えた。




ご覧の番組はウルトラセブンの二次創作です。
決して、なんちゃら刑事だとか、ゼロゼロ何番とかのスパイアクションではありません。
ご安心ください。

ソガもこのあとちゃんと活躍してくれるはずです……きっと、多分、おそらくめいびーパーハップス。
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