転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ウルトラ警備隊に死ね《前編》(Ⅴ)

防衛センターを臨むテラスに腰掛けながら、ドロシーアンダーソンに扮した技術主任は憤っていた。

 

……さっきから何なのだ、この男達は!

口を開けば、やれドリルだの、食事だのと! 鬱陶しい事この上ない!

 

読書をするフリをしつつ、ガムを噛んで胸元のブローチ型発信機から暗号通信を行う。

しかし、その間も両側を挟んだ男たちが口々に語りかけてきて、無視をし続けるのにもげんなりしてきたところだ。こんなことならば、わざわざ自分がスパイをやらずとも良かったのではないか? と思ってしまう。

 

そもそも今回、彼女がドロシー役として抜擢されたのも、元々顔立ちや背格好が似ていた、というのも好都合ではあったが、なによりドロシーアンダーソンの知能指数が思ったよりも高かったから、という点に起因する。

 

捕まえた彼女の知識量と頭の回転の速さは、地球人としてだけでなく、並みのぺダン星人をも僅かに凌ぐ程である、と見なされた。……生まれたての子供から、前線で戦う戦士階級に至るまで、常に高等教育を施されてきた、この種族全員がプロエンジニアと言っても差し支えない、一般ぺダン星人よりも、である!

そのような女性に化けるのであれば、それ相応の知性を持った人物でなくてはならなかった。なぜなら、敵地に潜入するうえで、防衛センター所属の研究者と行う会話は勿論、それ以外の場所でも、咄嗟に学術的な見識を問われる場面、というのは充分に想定されてしかるべきシチュエーションだからだ。なによりも、その応答を全て、いったん地球人レベルにまで下げて行う、といった高等技術が要求されるのである。

高度な専門知識を前提とするような分野の会話を、相手の理解度、知識量を推し量りつつ、違和感のないレベルに落とし込む、などという芸当は、並大抵の理解度ではできない。

それが出来る。というのが、この技術主任の強みであった。強い好奇心に裏打ちされた、相手を理解し、歩み寄ろうとする姿勢こそが、より精度の高い擬態と、会話のコントロールを可能にしている。

他の種族(というか自分より知能の劣る者)を見下しがちなペダン星人に置いては、非常に得難いスキルと気質であった。

彼女は母星で折り紙つきの変わり者だったと言えるだろう。

 

だが、程度の低い者に合わせるといっても限度というものがある。

こんな知性のカケラもない低俗な会話ばかりされるなら……いやいや、この任務を仰せつかったお陰で、地球の自然に直に触れる機会を得られたのだから、贅沢を言ってはいけない。

……まったく、この二人はもう少しマトモに仕事をしようという気がないのか?

あのモロボシ隊員のように、常に紳士的な態度で臨めとは言わないが、少しは見習って欲しい。

 

先程、その頼もしい腕で自身の命を救った地球人に視線をやると、今も真面目に周囲に目を光らせている。そのままじっと見つめていると、流石に向こうもこちらの視線に気付いたのか、顔をこちらに向けた。しばし目が合う二人。

彼は不思議そうな表情で首を傾げるが、その様子すらもチャーミングだ。

まあ、地球人には彼のような者もいると分かっただけでも良しとしようではないか。

 

……そうだ、地球人と言えば、ドクターツチダもなかなかに信用の置けそうな人物だ。

ドロシーの記憶の中で見た通りの、物腰柔らかで、知的な男性。地球人がみな、彼のような人間ばかりであれば……

いや、だめだ。どんなに大人しく見えたとしても、ぺダン星を悪者扱いするのは、やはりいただけない。

何が尊い仲間達だ、そっちが先に仕掛けてきたんじゃないの。

もうすっかり被害者面なんて、ふてぶてしいにも程がある。

 

ぺダン星を守る為に、揺らぎかけた決意をもう一度固め、再び彼女は思考する。

 

南極からということは、海路か空路しかない。立て続けに空港で暗殺された上で今回も空路、とは考えにくいので海路だろう。そして、表向きドロシーの輸送は成功しているとはいえ、あんなに自信満々で同じ手段を使うだろうか? それも2名同時に。

……おそらく、海底を進む船があるのだ。ドロシーの記憶にもあったため、間違いない。地球人も流石に潜航技術くらいはあるらしい。

であるならば、ルートはここと……このポイントを通る可能性が高いかしら。

地球人も愚かね。この方法だけは、我々の前で最も選択してはいけなかったのに……

 

ぺダンのスパイは、導き出した答えを早速送信する。

隣でソガがドリルドリルとやけにうるさいが、静かにしてくれないだろうか。

いかに骨伝導式とは言え、耳元でそう騒がれると、混線しないか心配になってしまう。精神安定の為にも、はやくどっか行ってくれないかしら、この狂人。

 

彼女がしばらく耐え忍んでいると、胸元のブローチが微細に振動を伝えてきた。なんと! 同じく地上に潜入している同志からの通信サインだ!

どうやら、何かしらの連絡事項があるらしい。

このタイミングで何かと訝しむが、丁度、目の前の隊員達の腕でも通信機が鳴る。

 

「ハイ、こちらダン」

「大変だ! アーサー号が何者かに襲われている!」

「え、アーサー号!?」

「残りのチーフを乗せて南極から到着するはずだった、原子力潜水艦だ! 我々はハイドランジャーで救援に向かう!」

 

そうか! このことか!

やはり自分の見立ては間違っていなかったらしい。

 

「分かりました。我々もすぐそちらへ合流します」

「ダン、フルハシ先輩、俺は一応、センターの防衛に残ります」

「分かった! ……となると、彼女、どうする?」

「そういう事ならば、ワタシも連れて行ってください。仲間が心配です」

 

ようやくこの頭のおかしい男から離れられる!!

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ポインターが波止場に着くと、キリヤマ、アマギ、アンヌの3人が、暗い顔でハイドランジャーから降りてくるところであった。

 

「遅かった……我々が現場に駆けつけた時には、アーサー号はもう、すでに海の藻屑となって消えていたんだ。……乗組員は残念だったが、奴の進言通り、影武者を乗せておいたのが不幸中の幸いだったな」

「ソガの奴ァ、普段は大胆な癖に、妙なところで臆病者だからなぁ」

「用心深いと言ってやりましょうよ、少なくとも事件が解決するまで、チーフは南極基地を出なくて済む」

「隊長、アーサー号のことを知っているのはごく一部のものだけです。敵はどこで情報をキャッチしたのでしょうか?」

「うむ……これは本格的に、スパイがいる線が濃厚になってきたな」

「スパイがいるならアンダーソン博士の安全も、まだちゃんと確保できたとは言えないわね……」

「ん? おい、二人とも。アンダーソンさんは一緒じゃなかったんですか?」

「あん? ポインターで待っているようにって……ありゃ、居ない」

「……彼女が危ない!」

 

 

その頃、ポインターを抜け出した偽ドロシーは、ブローチの着信を頼りに、仲間との接触を図ろうとしていた。

すぐ近くに通信機を持った仲間が居るはずなのだ。

その割には、えらく単調な符牒の繰り返しなのが引っかかったが……

それだけ緊急を要するという事だろう。

……まさか、ついにキングジョーを出撃させるのか!

防衛センターをあの戦艦で破壊するならば、退避の連絡が来てもおかしくはない。

そう考えながら堤防を歩いていると、目の前で海に向かって棒のような物を構えている怪しい男と出会ってしまった。

あのサングラス、忘れもしない。ドロシーの記憶に何度も出てくるマービィとかいう男である。

まずい、逃げなくては……いや、ワタシの顔はドロシーなのだ。本物か分からない以上、そう易々と殺されたりは……

 

ペダン星人のスパイが逡巡している隙に、マーヴィンは手にした手首のスナップを利かせ、釣竿をまるで鞭のようにふるった!

 

「キャアアア!!!」

 

甲高い悲鳴を上げて逃げ出す、偽ドロシー。

そこに駆けつけた隊員たちがマーヴィンを取り囲む。

 

「遂に正体を現わしたな!ペダン星人!」

 

飛びかかるアマギはともかく、あのフルハシすらも軽々といなした事で、こやつ只者ではない、と全員の緊張感が高まる中、後ろから響く水音。

まるで誰かが飛び込んだかのような……

 

「ドロシーの服だわ!」

 

波間にたゆたうブランドもののコート

アンヌの言うとおり、先程までドロシーが着用していたもので間違いない。

 

「この野郎! ……ボクを誰だと思っているんだ?」

 

男を取り囲む警備隊員。

マーヴィンは、自分に向かって銃を構えるアマギを怒鳴りつける。

 

「このマヌケ野郎、犯人を逃がしてしまったじゃないか!」

「えっ……犯人?」

「あの女こそ宇宙人のスパイだ。仲間を殺した犯人だ」

「アンダーソンが? 君はいったい誰だ?」

「ワシントン基地の依頼で、ドロシー・アンダーソンを日本まで護衛してきた秘密諜報員です」

「秘密諜報員?」

「そうです。しかし船の中で、本物のドロシーは、何者かに誘拐されてしまった…」

「しかし、彼女がスパイだという証拠は?」

 

ダンに問われたマーヴィンはブローチを差し出す。それはドロシーがずっとつけていたもの。

さっきふるった釣り竿によって、一瞬のうちに奪っていたのだ!

そのブローチを分解すると、内部にはいくつかの部品が。

マーヴィンが、船の上で倒したペダン星人達から奪ったものと、ほぼ同じものである。

これを使って、マーヴィンは偽物のドロシーを誘き出したのだ。

 

「これです。発信機です」

「アーサー号の情報は彼女がこのブローチを使って……」

「ペダン星人がアンダーソンに化けていたんだ。何か変わったことはありませんでした?」

 

マーヴィンに問われたダンは、護衛中のドロシーの行動を思い出す。

 

(そういえば、彼女いつもガムを噛んでいた。噛む音が通信の暗号に使われていたんだ。それに気がつかないなんて、なんてウカツな……)

 

「なぜ、そのことを早く連絡してくれなかったんです?」

「身分証明書もパスポートも盗まれてしまい、自分を証明する物がないんです……私はアメリカの諜報員です。自分の力で、宇宙人を始末したかった……」

「それで本物のドロシー・アンダーソンは?」

「わかりません。殺されているかもしれない……」

 

事ここに至っては、本物を生かしておく必要もない。

これまでなんとか、その事を考えないようにしてきたマーヴィンであったが、彼の顔が初めて不安に陰った。

 

 

「万事休すか……」

 

キリヤマ隊長から連絡を受けたツチダ博士が、ため息を吐くと、センターの警報がけたたましく鳴り響く!

レーダーが飛来する物体を捉えたからだ。

 

センターの空で、黄金に輝く四つの塊。

まるで物理法則など無視するかのように、フワフワと浮かんでいたそれらは、やがて一所に集まると、積み木の如く組みあがり、人々が呆気にとられている内に一体の巨大な人型を形成したではないか。

 

これこそ、ペダン星が誇る最新鋭の強襲宇宙戦艦キングジョーのコンバットモードなのだ。

 

《グワッシ……グワッシ……》

 

不気味な駆動音と共に、金色の巨人が、ついに制止不能の行進を開始した!

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