転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ウルトラ警備隊に死ね《前編》(Ⅵ)

防衛センターに向けて、謎の巨大ロボットが、その二本の足で大地を踏みしめ、ゆっくりと前進を開始する。

おそらくは、つま先から頭のてっぺんまで、余すところなく金属で構成されているであろうその巨体は、片足を一歩進めるだけで、あたりを揺らし、道路に亀裂を生じさせることで、自身が呆れるほどに重たい重量物である事を物語っていた。

センターの指令室で、我に返った防衛隊員がスイッチを押すと、基地を囲むように各所に配置し隠されていた、無数の自動砲台群がせり上がり、照準を黄金の巨人へと向ける。

 

《移動中の大型歩行機械に警告する。ただちに停止せよ! 前進を止めない場合、攻撃行動と見なし、全ての戦斗力をもって、攻撃破砕射撃を実施する!》

 

防衛軍の最後通告すらも無視し、歩みを進めるロボット。もはや、目的は明白だ。

ぺダン星人が、防衛センターを破壊しようと、恐るべき兵器を差し向けてきたのだ!

 

「目標の前進速度に変化なし」

「第二次防衛線の射程圏内に入りました」

「目標、なおも進行中!」

「……全火力、射撃開始。 全力をもって、目標を阻止、撃滅せよ!」

 

全砲台が一斉に火を噴いた。

ありったけの鉄と火薬で、この招かれざる会議参加者に、門前払いを叩きつける!

だが、それをまるで意に介さず、一歩たりとも緩慢な歩みを止めようとしない巨大メカ。金色に輝くスーツに身を包んだこの闖入者は、たまげる程に面の皮が厚かったのだ。まさしく鉄面皮というほかない。

 

「ウルトラ警備隊! ウルトラ警備隊! 応答願います!」

「こちらキリヤマ」

「防衛センターに、巨大なロボットが!」

「なんですって!?」

 

ツチダ博士の切羽詰まった声が、敵の強大さを物語る。

SOSを受けた警備隊だったが、神戸港から六甲山までは、いかなポインターと言えど時間がかかる。

このままではセンターが!

 

その時、四番倉庫のシャッターを突き破り、黒鉄の門番が悠然と姿を現した!

ドリルの付け根から黄色いレーザーを発射し、ロボットへの攻撃に参加するマグマライザー!

履帯で荒れ地をかき分けて、敵へ猛然と向かっていく!

 

「おお! ソガ隊員……! 応援が来るまで、なんとか頑張ってください! このセンターが踏みつぶされたら、会議は疎か、超兵器の開発すら出来なくなってしまう!」

「お任せ下さい、ツチダ博士。 ……さ、あなたは早く退避を!」

 

来やがったなキングジョー……

吠え面かかせてやるぞ!

 

「くらえ! レーザーが撃てます!」

《グワッシ……グワッシ……?》

「いいぞ、砲台でマグマライザーを援護するんだ!」

「ノロマめ、避けてみろ!」

「遅い遅い! 目をつぶってても当たるぞ!」

 

新兵器の登場に沸き立つ防衛センターの指揮所。

僅かに気勢を取り戻したかに見えたが、それも最初のみ。

マグマライザーの放つレーザーすらも、金色の装甲にまったくダメージを与えられないのを目の当たりして、困惑のざわめきが広がっていく。

地球の兵器ではまったく歯がたたないというのか……?

 

「レーザーが撃てます!」

《グワッシ……グワッシ……!》

「無傷だ……! ちくしょう、主砲が効かない!」

「……駄目だ、あの金色の装甲を破るのは無理だ……!」

「回避しないのは……その必要が無いからだ!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

……まあ、そうね。

俺だって、いくらマグマライザーでも、キングジョーに勝てるなんざ、これっぽちも思っちゃいない。

ドリル……? 普通の怪獣ならいざ知らず、コイツ相手に歯が立つかどうか。

……でもな、このマグマライザーは、そんじょそこらの地底戦車とは一味違う!

そうだ、もっと近づいてこい……!

レーザーも効かないとなると、このマグマに残された武装は先端のドリルしかない。そんなモノはもはや脅威でも何でもないのだ。当たる前に踏みつぶせば良いのだから。

今ごろコクピットでは、ペダニウムにそんな攻撃が通用するはずがないと、高笑いしているんだろう。

だが、その油断が命取りになると教えてやろうじゃないか。

もう少し……そう、その池の隣!

装甲の硬さを誇示するように、地球人の無駄なあがきを嘲笑いながら歩き続けるキングショーの姿を、照準で捉える。

俺はレーザーの照射モードを切り替えると、先程まで愚直に狙っていた腹部から、そのまま下へ下へと視線を下げる。

今度こそ本命だ。

狙うは奴の右足……のさらに下!

ここだ、くらえ!

 

「レーザーが撃てます!」

 

今度は白い霧のように拡散した短距離レーザーが、今しがた片足を振り上げ、軸足一本となったばかりのキングジョーを支える()()に向けて照射される。

脚部を狙った攻撃は外れてしまったかに思われたが……

 

突如、地表が爆ぜ飛び、先程までは姿かたちも無かった大穴が、ぽっかりと口をあける。

 

《グワッシ……グワッ!?》

 

黄金の彫像が、ぐらりとその巨体をかたむけた。

 

 

ドシャアアアアン!!

 

 

響き渡る轟音。

片足を上げた体勢のまま、くるぶし一つ分下にストンと落下したキングジョーは、そのままバランスを崩して盛大に転倒した。

小規模な地震を起こし、濛々と立ち上がる土煙。

 

「よっしゃあああああ!! ざまあみさらせ、キングジョー!!!」

 

無敵のスーパーロボットが、地に倒れ伏すのを見て取り、指揮所でも同じように大歓声が爆発する。

 

ふっふっふ! このマグマライザーは、よくある地底戦車と同じように、普通にドリルだけで掘り進むわけではない。

超振動レーザーで岩盤を、微粒子レベルの砂状にまで分解した後に吹き飛ばし、積もった大量の柔らかい砂をドリルでかき分けて道を進む。そういう設計思想の機体なのだ!

この超振動レーザーには、ペガッサの工作員が、かつて地球を破壊するためにぶち込んだ、地殻爆弾を分析して得られた技術が、存分にフィードバックされている……らしい。

メビウスの小説版の中でGUYSのアライソ整備長が言ってたんだから間違いない。

完成がここまでずれ込んだのも、全ては異星の超技術を解析して、組み込むためであって……いやほんと、アマギ最高。愛してる。

アライソのおやっさん曰く、人類初のメテオールの威力を見たか!

地球人をなめるなよぺダン星人、どんなハイテクヘラクレス(キングジョー)も二本の脚で地面を歩いている以上、落とし穴には敵うまい。人類ってのはな、縄文時代からずうっと、こうして穴を掘っては、力じゃ敵わない猛獣を突き落として、生き残ってきたんだ。

蛮族の石斧を甘く見たツケを払え!

 

……ダーク、元気にしてるかなあ……

 

《グワッシ……グワッシ……》

濛々と立ち込める土煙が晴れて、その姿が露となった鋼鉄のゴリアテは、両手をついて呆然としているように見えた。

その様を見て、防衛隊員達は歓喜の声をあげるが、引き起こした犯人であるソガの顔までは晴れなかった。

作戦が半分失敗した事を悟ったからである。

 

「……うーん、前に倒れちゃったか……」

 

この一見無敵に見えるキングジョーにも弱点はある。それは本物のドロシーが開発するライトンR30爆弾で破壊されるという事と……【仰向けに倒れると自力で起き上がれない】という事だ。

ぶっちゃけ、ライトン爆弾が完成しない事には、オレにできる事なんて、こうしてスっ転がして時間を稼ぐことくらいだったんだが……ワンチャン後ろに倒れてくれれば、そのまま諦めて帰ってくれないかと思っていた。

もうちょっと岩盤破壊の範囲を絞って、かかとだけ踏み外させるとか出来たらよかったが……そこまで器用な事はできない。

ええい、こうなったらプランBだ! 徹底的に嫌がらせしてやるぞ!

 

引き倒されたキングジョーは、あらかじめ設定されたプロセスに従って、その身を起こそうとするが、池から流れ込んだ水で段差がぬかるみとなってしまい、ズルズルと滑っている。

身を起こした後に、左脚部に力をこめて、泥の中の右足を引き抜こうとするが……

 

「レーザーが撃てます!」

 

左足も膝から泥へ沈んでいく。

再びバランスを崩して、前方へ倒れこんでしまうため、慌てて両手をつくも……

 

「レーザーが撃てます!」

 

瞬間的に岸を崩され、そのままズブリと両腕を突き刺してしまう。

そうこうしている間にも、自動砲台から雨あられと弾が飛ぶ。

 

「頭です! 下がった頭部を狙うんです!」

「火力をロボットの頭部へ集中!」

 

罪人のように諸手をついて、こうべを垂れるキングジョーの頭部で、次々と爆発が起こる。まったくダメージもなく、表情を変えないこの様を、オレはどこかで見たことがある。まるで汎用人型決戦兵器のアニメに出てくる怪物だ。

だが、あのアニメと違う点は、バリアに阻まれ攻撃が届かないのではなく、当たっても装甲が硬すぎて効かない、という点。

例え損傷が期待できなくても構わない。ロボットである以上、全身が精密機械の塊であることに変わりはないのだから。

もしかしたら、コンピューターに接触不良を起こさせて、この後のセブンの戦いを有利に進められるかも知れない。

そして、頭が下がった今なら、超振動レーザーが届く!

狙うはその、ガラスだかプラスチックだか、よく分からんピカピカ光る電子部品!

 

「レーザーが撃てます!」

《グワッシ……グワッシ……》

 

……あ、やっぱり効かないっすか。

なんでや! 金属でも鉱石でも、地中に埋まってる構成成分に変わりは無いだろうに!

もういい! 体を全部地中に埋めてやる!

マグマライザーは、超振動波レーザーが撃てるんだぞ!

 

「レーザーが撃てます! レーザーが撃てますッ! レーザーが撃てますううううッ!!!」

 

……だめだ、腰のテトラポットみたいな出っ張りがつっかえて、これ以上沈まん。

あの謎部分はもしやこの為に……!?

ぺダン星人は落とし穴作戦を予期していた……!?

んな訳ないか。

 

まあいい、お前は今、小人の国にやって来たガリバーだ。

せいぜいハラスメント攻撃に後悔するがいい。

そして願わくば帰ってくれ、頼むから。

 

だが、そんな俺の願いも虚しく、キングジョーの胸が怪しく煌めく。

ぺダンエンジンが最大出力で稼働し、モーターのような駆動音が、キングジョーの低く重たい唸り声を辺りに響かせる。

胸部の主機が稼ぎ出した、その驚くべきパワーが余すことなく全身へと伝達され、勢いよく両手を泥中から引き抜いた!

上半身を起こしたキングジョーの瞳がスパークすると、両目に光の粒子が凝縮され、やがて臨界に達すると同時に解き放たれる!

これぞまさしく、キングジョーに搭載された主砲、粒子兵装デストレイ!

おぞましい光の奔流が、辺り一面を薙ぎ払った!

 

「ぐわっ!」

 

たったの一撃で砲台の半分以上が消し飛び、至近弾を食らっただけで、マグマライザーの車体を揺らす。

そうして敵が怯んだのを確認すると、今度は掲げた両手を、杭打機のように何度も何度も地面に叩きつけるではないか!

凄まじい馬力から繰り出されるマウントチョップの連打は、まるで地震のような衝撃を誘発し、たったそれだけで地中の配線のいくつかを破壊した。そしてその被害者として、短距離レーザーの射程内まで近づいた地底戦車も例外ではない。重たい車体が浮き上がるほどの振動を何度も食らい、存分に揺さぶられるソガ。

彼が軽く目を回している間に、キングジョーは素早く次の行動に移った。

 

今のは、ほんの地ならしにすぎない。これから行う脱出プロセスの単なる前準備。

背面にずらりと並んだ緊急用のロケットブースターが、凄まじい勢いで噴射され、その巨体をゆっくりと、サルベージしていくではないか!

それはまるで、ロケットの打ち上げの如く。噴射を受けた地面は大きく抉れこんでしまうほど。

ソガが頭を捻り、一生懸命に施した戒めを、機械仕掛けの巨神は、その膨大な出力からなる完全な力技で、易々と突破してしまったのだった。

 

「そんなのアリかよ……無茶苦茶だ……」

 

ふらふらと頭を揺らすソガの眼前に、黄金に輝く手のひらが、冷たく迫る。




ソガ、危うし!



髑髏の火炎竜様から挿絵を頂きました!!

【挿絵表示】



太陽を背にそそり立つ黄金の城壁……これは踏みつぶされますわ。
いまにもソガの悲鳴が聞こえてきそうです。

本作では、こんな感じに左足を上げた時に、右足の地面を崩して転倒させました。

いい挿絵だぁ……ありがとうございます!!

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