転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
だが、会議を妨害するぺダン星人の手によって、各基地の代表者が次々と襲撃され、会議はついに中止と決定した。
ウルトラ警備隊は、宇宙人を追っていたマーヴィン・ウェップと合流。敵のスパイを突き止めるが、逃げられてしまった。
丁度その頃、防衛センターに巨大なロボットが、突然姿を現し襲撃しようとしたが、間一髪、我らのウルトラセブンが登場した。
しかし、セブンのあらゆる武器もこのスーパーロボットには通用しなかった……
ウルトラセブン、危うし!
ロボットに背負い投げをかけようとして、逆に倒れてしまったセブンを見て、アンヌが悲痛に叫ぶ。
「奴は重いのよ! ……呆れ返るほど重いのよ!」
セブンをプレスにかけてまっ平にしてしまおうと、のしかかりを目論んだロボットであったが、すんでのところでセブンに攻撃を躱され、のそのそと体を起こす。
それを見ていた警備隊の一人が、ハッとした表情で呟いた。
「……重い? ……そうか!」
「おい、どうしたってんだよ? アマギ」
「隊長、僕にポインターを貸してください。考えがあります!」
「あのロボットの攻略法が分かったのか……? 言ってみろ」
「はい、セブンに足払いをするように呼び掛けるんです。ポインターのスピーカーで」
「なに、足払い? 転ばせるというのか! あのロボットを」
「ハ、ぺダン星人の侵略ロボットは、恐るべき重装甲で守られていますが……それこそが奴の泣き所でもあるんです。見て下さい、あの動きを!」
彼の言う通り、今まさにセブンとロボットが、双方の態勢を立て直しているところであった。
「あのロボットは、人体を模して造られている割に、その手足の可動範囲には明らかな制限があります。さながら、甲冑を着込んだ人間のように!」
言われてみれば、その差は明白だった。セブンが軽やかに後転しつつ、即座に立ち上がって構えをとるのに対し、ロボットは両手をついて、今ようやく膝を立てたばかり。動きの緩慢さが目立つ。
「ソガ隊員が、落とし穴によって時間を稼ぐことが出来たという事は、つまりあのロボットは、転倒に対してまるきり弱いという事です。中世の重騎士は、一度転ぶと自力で起き上がることが出来なかったと聞きますが……奴の構造を見る限り、あれでは仰向けに倒れたら、二度と再び立ち上がる事は出来ないでしょう!」
アマギの観察眼は、二体の巨人が組み合う様を見て、ロボットの構造的欠陥を大まかに見抜いていたのだ。
そして、ソガ隊員の活躍によって、その仮説は半分ほど証明されている。
……しかし。
「……駄目だアマギ隊員。奴の背中にはロケットが束になっていて、凄まじい威力のジェットで、体を起こしてしまうんだ。私はさっき、それを見ていた……間違いない」
「チクショウ! やっこさん、自分の弱点は、こっちに言われなくても、よおく分かってるってわけか!」
「もしかして、あのクレーターがその噴射跡ですか、博士? なんてすごい大きさなの……!」
戦いを始めから見ていたツチダ博士によって、驚異的なメカニズムが明かされる。
折角の作戦も通用しないのだと。
……だがそれに対し、当のアマギだけは、じっと押し黙っていた。
それは仮説を否定されたからではない。その証拠に、大きなクレーターを見つめる瞳には、諦めの色が一切見えないではないか。
冷静に、新たな情報を吟味し、計算していたのだ。
「……いえ大丈夫、いけます。むしろ安心しました。奴らが対策をとっているなら、当たりと言えるでしょう……そしてその方法は、そう何度も使える手ではない」
「どういう事だい? アマギ君」
「あの巨体を、ジェット噴射だけで持ち上げるという事は、相当なエネルギーが必要になるはずです。なにせあの重さだ……あと何回、起き上がり小法師でいられるかな?」
「……そうか! それで奴はずっと、セブンの上を取ろうとばかりしているんだな!? いったん寝技に持ち込んじまえば、そんな心配はいらない!」
「じゃあこっちは、逆に何度もジェットを噴かせて、燃料切れに追い込んでしまおうということね?」
「……古来より、堅牢な城塞を堕とすなら、兵糧攻めと相場はきまっている……よし、行け!」
「了解!」
キリヤマがポインターに向けて顎でしゃくると、我が意を得たりとばかりにアマギが飛び出していく。
そしてウルトラガンを抜いた隊長は、残りの二名へ向けても指示を出す。
「フルハシ、アンヌ。我々は散開して、アマギを援護する。……閃光弾でもなんでもいい、とにかく奴の気を逸らすんだ! なんとしてでも、ポインターへ近づけさせるな! 行くぞ!」
「「了解!」」
走り去り、どんどん小さくなっていくブルーグレーの背中を見送り、マーヴィンは肩を竦めた。
ウルトラ警備隊……宇宙人のスパイをまんまと逃がし、とんだマヌケ野郎ばかりだと思っていたが……
このような、一見無謀な作戦に、素面で命を懸けるなんて。
「クレイジー……」
「……私だ。今からウルトラ警備隊が、セブンに作戦を伝えに行く……生き残っている砲台を総動員して、あのロボットへ攻撃を仕掛けてくれ。破壊光線の的にするだけでいい。彼らを死なせてはならない!」
「ミスターツチダ……日本人は皆こうなのですか……?」
「いいえ……人種は関係ありません。この会議は地球を防衛するために開かれます。ならば、その参加者はみな、本気で地球を守ろうとするからこそ、資格がある。それだけの事です」
「そうですか……」
通信機に向かって、整備チームの編成を叫ぶツチダ博士。科学者たる身でありながら、彼もまた、一歩も引かず、この場で自分にできる戦いを見つけようとしていた。
その様子を見て、普段はサングラスに隠されているマーヴィン捜査官の茶色い瞳が、穏やかな光を湛え、眩しそうに細められる。
「ではその護衛が、一人だけ招待状を貰っていないとなれば、ドロシーに恥をかかせる事になりますね……!」
そう言って異国のエージェントは、短く自嘲ぎみに笑ったかと思うと、懐から発煙筒を取り出し、それを招待状代わりに握りしめ、紛糾する会議の輪に加わっていった……
アンヌが、キリヤマが、フルハシが、散らばった瓦礫と瓦礫の間を転々としながら、手にしたウルトラガンや閃光弾、果ては手榴弾での肉薄攻撃を行う。
ツチダ博士率いる研究スタッフ達が、一つでも多くの砲台を蘇えらせようと、電気系統の修理に走る。
マーヴィンが、握りしめた発煙筒を振りかざしながら、
発煙筒からモクモクと立ち上る赤い煙は、無敵の巨人から見れば、余りにも小さな反撃の狼煙だったが、紛れもなくこれが、今の彼らに出来る精いっぱいであった。
……ああ愚かなり、地球人。
これが、理性のない野生怪獣相手であれば、光や音、不快感に釣られ、なんらかの反応を見せたかもしれない。
だがこのキングジョーは、恐ろしいモンスターであると同時に、優秀な
コックピットで失笑が漏れる。
彼らの行動が全て、陽動目的であることは明白。
もはや見え見えの挑発しか、とるべき選択肢のない地球人の姿は、滑稽を通り越して、哀れですらあった。
その蛮勇に対し、せめてもの礼儀として、唯一、おもちゃの中では火力の有りそうな砲台群に向けて、主砲で応射しておく。
どんな小さな反抗の芽も、残さず摘み取っておくに越したことはない。
脅威を完全に取り払ってから、再びセンターを破壊するべく前進する弩級戦艦。
後ろから甲高い金属音が響くが、おおかた、あのM78星雲人が、実体剣を投げつけてきたのだろう。
背面装甲ならば薄いとでも思ったのか? ……ばかめ、このキングジョーに死角などない!
司令官が、艦を取り囲む有象無象に対して下した判断は……無視。
当たり前だ。ぺダン星を脅かしうる兵器を、開発できるかもしれない工廠を、完膚なきまでに叩き潰す事こそが、作戦目標なのだから。
地球人共の花火を楽しんでいる暇などない。
無情な事に、ウルトラ警備隊決死の攻撃をもってしても、スーパーロボットの注意を引くことは叶わなかった。
……ただ、本人たちの思惑とは裏腹に、ある一つの絶大な効果を生んだ。
あまりに支離滅裂な攻撃は、ロボットの足元を走り抜けていく四角い車両すらも、破れかぶれの陽動の一つなのだと、用心深いぺダン星人に誤認させたのである!
アイスラッガーを弾き返されたセブンは、もはや一刻の猶予もないと、全力の飛び蹴りをかます為、今まさに走りこもうとしていた。
そんな時、金色の巨神の足元から、ひょっこりと、見慣れた銀の車が顔を出したのを見て、さしものセブンも我が目を疑った。
……なぜこんな戦場のど真ん中に、ポインターが!?
しかも、眼前の敵には目もくれず、一直線に自分の方へと向かって来るではないか。
スピーカーで何事かを叫んでいる。これは……張り上げすぎて裏返ってしまっているが、間違いなくアマギ隊員の声だ!
「セブーン! 奴に正面から挑んではダメだー! 脚だ! 脚を狙って引き倒すんだー!」
「……ジュワッ!」
……なるほど、僕に助言をしようというのか。
動きが遅い敵の近くに立って、ウルトラチョップ主体の、素早い立ち回りで手数を稼ぐ算段だったが……それは間違いだったらしい。
それにしても、引き倒せとはどういう事だ?
確かに奴の重心は高く、足元を崩せば倒せなくはないだろうが……もう一度、ジェットで起き上がられてしまうのでは……?
セブンは少しの間、そう逡巡したが……大きく頷きを返すと、姿勢をめいいっぱい低くし、侵略ロボットの右膝に向けて、渾身のタックルをお見舞いするべく地を蹴った。
あのアマギ隊員のいう事に、間違いなどあるものか! 今までも……そしてこれからも!
そうして、仲間を信じる事に決めたセブンは、真っ赤な砲弾となって、怪物の膝裏に全身でぶち当たった!
ぐらり……と、合体ロボットの金字塔が、ゆっくりと巨体を傾いでいく。
これが、キングジョーにとっては、この地球における、都合三度目の耐震試験であった。