転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「損害状況知らせ!」
「ペダニウムエンジン、稼働に問題ナシ、ただし、機体内部に0.7%程度のダメージを認む」
「なんだと!」
キングジョーのコックピットでは、旧式戦闘服に身を包んだペダン星人が、苦虫を噛み潰していた。
腹部パーツへ収容された母艦が、そのまま艦橋代わりになっているため、例えキングジョーがどのような態勢をとろうが、反重力ジャイロによって操縦室は常に水平を保つ構造になっている。なので転倒によって、乗員が目を回してしまうという事はないのだが……座席に座っている男の不満は、また別の部分にあった。
彼こそ、銀河系方面作戦群を率いる司令官であり、このキングジョーの艦長であり……究極機神の生みの親の一人であるのだ。
まだペダン星が、有り余る金属資源を満足に使用できず、大部分を生体部品で補うしか無かった頃の産物である旧式戦闘服は、それを着込む彼が、歴戦の勇士だという、何よりの証左であった。それも叩き上げの。
そんな彼は、先程の攻撃が、キングジョーにもたらした効果が
「……やはり重力制御機構の不備か?」
「ええ、今の攻撃に対しても、軽減率はわずか9割程度に留まっています。復元に使用する推進剤の必要量も、当初想定されていた以上の消耗率ですし……概算では、あと数回の転倒にしか耐えられません」
「……ええい、往生際の悪い種族だ! 忌々しい! 環境数値の入力誤差が、これほどの影響だとは……」
キングジョーの姿勢制御は、分離時の反重力推進を活用して、どのような攻撃、反動にも逆方向のベクトルを入力する事で直立不動を保つという、艦長肝入りのシステムによってなされていた。
この機構は、理論上あらゆる環境下での格闘攻撃を可能にする、素晴らしい方式だったのだが……半面、非常に緻密なデータ入力を前提としていた。
このキングジョーはなんといってもまだ、試作段階である。既に2星系の制圧作戦に実戦投入され、目覚ましい戦果を上げたために、量産も決定してはいるが……姉妹艦が多数の星で実地試験の真っ最中なのだから、データ不足も致し方あるまい。
今回はこの数週間で得られた地球環境の予測値を仮入力して、作戦に当たったが、それでも実測値との差は如何ともし難いようだ。
もっとも、ほとんどの星はキングジョーの装甲と火力に成す術がないと分かると、即座に降伏を選択できる賢明な星ばかりだったので、このように生き汚い種族と戦わされたのが不幸ともいえる。
キングジョーはハード的にもソフト的にも、地球重力下での戦闘にとことん不慣れであった。
「……仕方あるまい。撤退準備に移れ」
「よろしいのですか……? まだ作戦目標は健在ですが……」
「作戦目標……? 何をいっている。キングジョーの陸上での
「ははあ……なるほど」
恐らくこのまま戦えば、あの兵器工廠はいずれ粉砕できるだろう……だが、少なくともキングジョーも補給と整備の為に、母星へと帰還せねばならなくなる可能性がある。
装甲に傷ひとつ付けられないような技術後進惑星の拠点を潰しに行ったものの、転びまくって推進剤を浪費しました……と言うのと、あくまでデータ取りの実験のつもりが、片手間に敵を壊滅させてしまいました……では、どちらが新兵器の報告書として
艦長の対面で恭しく頭を下げた副官も、同じく旧式戦闘服。彼の思惑など、わざわざ説明せずとも理解できるくらいには付き合いが長い。
セブンとウルトラ警備隊が固唾をのんで見守る中、仰向けになったぺダン星人の侵略ロボットは、手足をピッタリと揃え、即座に四つのパーツに分離すると、あっけにとられる地球人たちを置いて、空の彼方へ消えて行った……
セブンは後を追跡するか迷ったが、なによりも先に、大切な仲間たちの無事を確認したいと、ダンの姿に戻る事にする。
……それを差し引いても、彼はひどく疲れていたのだ。間違いなく激闘であったと言えるだろう。
こうして、無敵のスーパーロボットによる襲撃の第一幕は、用心深いぺダン星人側の妥協によって、辛くも痛み分けとなったのだった……
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とある部屋の中で、二人の女性が静かに読書をしていた。読書と言っても、本では無く電子端末だったが。
画面に散らばる文字を、蒼い瞳で追う彼女らは、二人ともまったく同じ顔をしていたが、片方だけは、口の中で忙しなくガムを噛んでいたので、全くの無音という訳でもなかった。
そんな沈黙を先に破ったのは、行儀の良さそうな……つまり、地球人のドロシーアンダーソン博士の方である。彼女は、端末から顔を上げると、何も含んでいない口を開いた。
「……ねえ、ひとつ聞いても良いかしら?」
「なあに、ドロシー?」
「さっきから、誰とお話ししているの?」
ドロシーの問いかけに、行儀の悪い方……つまり同じ顔をしたぺダン星人が固まる。
「……いやねドロシー……アタシは誰とも会話なんかしてないわ。今ようやくアナタと喋りだしたところよ?」
「本当に? アナタが帰ってきてから、ずっと噛んでいるそのガム。咀嚼音に一定のリズムと強弱があるわ。その法則性は言語パターンによく似ているから……ワタシ、お話の邪魔しちゃいけないと思って、ずっと黙っていたのよ? それなのにアナタったら、喋りどおしなんですもの……ようやくアナタの母星に、地球人は危険なんかじゃないって、伝えてくれる気になったのね? ねえ、仲間外れになんかしないで、ワタシにも教えて? 貴方の星の言語なの?」
「……いいえ、違うわ。お好きに喋ってどうぞ。ご遠慮なく」
「……あらそう!」
明らかな嘘で、にべもなく断られたドロシーは、ムスッとした顔で不満を露にするが、それもつかの間、再び笑顔になって、ずっと気になっていた質問を投げかけた。
「ねえ、アナタのお名前は、一体なんて言うの? 地球人では発音できなかったりするのかしら?」
「……名前ですって? アタシの?」
「ええ、そうよ。ずっと気になっていたんだから」
「……呆れたわ。アナタ、自分がどんな目に遭わされているか忘れているんじゃなくって?」
「でも、それは悲しい誤解のせい。アナタとワタシは、もうとっくにお友達じゃないの!」
「お、おともっ……!? ……ハァ、ぜったい教えてやんない。なにせオトモダチなんかじゃないですからね」
「じゃあなんて呼べっていうの!」
呼称が分からないのでは、会話のしようがないではないか。
だが、悔しがるドロシーに、フフンと鼻を鳴らし、意地悪く告げるぺダン星人。
「好きにしたら?」
「……じゃあドロシーね!」
「は?」
「あなたが最初に言ったんですものね、ゴメンナサイ。忘れていたわ。ド ロ シ ー?」
「アナタねぇ! ……もういいわよ、そうよ、アタシはドロシー。ドロシーアンダーソン。これで満足?」
意趣返しがうまくいったのでコロコロと笑うドロシー=アンダーソン。
それを呆れ返った表情で、だが、どこか満更でもなさそうに苦笑するドロシー=ぺダンは、心の中でそろそろ彼女につっけんどんにしなくてもいいだろうと考えていた。
なにせ、地球と敵対する必要はもはやないのだから。……あのM78星雲人の出現が、彼女にそう思わせ始めていた。
あの時水中へ逃げ込んだ彼女は、小型酸素ボンベを使い、その場でじっと息を潜めていたのだ。
あの後、キングジョーの襲撃に対応するため、ウルトラ警備隊は六甲山へ向かっていったが……
なんと、逃がしたスパイを探すという名目でその場に残ったモロボシ隊員が、メガネ型のデバイスを使って、
あまりの驚きに、あやうく溺れかけたが……ある意味で納得した。
あの隊員だけは、やけに紳士的だったりしたのも、正体がM78星雲人ならば不思議でも何でもない。
彼らは全宇宙で最もお人よしで、お節介焼きの変人集団なのだから。
やっぱり、地球の男もぺダン星と大差ないのね。
少々残念ではあるが、この事実には、また違った趣がある。
M78星雲人が地球人の味方をしているという事は、彼らに侵略の意図が本当にないのではないか……?
光の国の住人は、頭に光の粒子でも詰め込んだかのような種族――どうしてあんなのが、ぺダン星より優れた科学力を有しているのか理解できない――で、他者の言葉をすぐに信用する悪癖がある。
だが、彼らは純粋であるが、馬鹿ではない。
一定期間、地球に滞在し、生活に溶け込んでいるという事は、地球人がどのような感情を有しているかくらい流石に見抜けているだろう。
宇宙警備隊は他者への侵略を許さない。ましてや加担するなど、絶対にありえない。
どんなに有難迷惑で、一部の種族から蛇蝎の如く嫌われていようが、その彼らから見ても、この一点だけは全宇宙から信用されている。大人も子供も、悪人からバクテリアに至るまで、全ての知的生命体が知っている、ゆるぎない宇宙の真理であった。
であるならば、あの赤いM78……この地球ではウルトラセブンと呼ばれているらしい彼が、守護する地球とは、信頼に値する星なのでは……?
技術主任の心は、暖かで幸せな、輝かしい選択へ傾きつつあった。