転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「そうだわドロシー、ねえ、全部読んだかしら? 他の惑星人が、地球の創作物に対してどんな感想を抱くのか、とても興味があるわ」
「感想? ええ読んだけど……」
おそらく彼女が言っているのは、脳内に完全記憶していた御伽噺の事だ。
あまりにも不自然な描写が多すぎるが、まあ子供の無頼を慰めるには、あれくらいで丁度よいのかもしれない。
「ブリキ・サイボーグがその性能を活かして、敵のミュータントをバラバラにしてしまうシーンは良かったわ。あと、植物性廃棄物人形が立てる戦術も、あの世界の中ではそれなりだったんじゃないかしら。彼らの部隊の中で、最も賢明だったのは、愚者を自認する人形、というのは中々に哲学的な訓示を含んでいるわね。」
「うんうん、他には?」
「あーその、こう言っては何だけれど……あの肉食性大型哺乳類の存在は必要だったのかしら? 敵司令官の持つデバイスの使用可能回数は3回で、一度目はサイボーグ、二度目は人形、今度はついにと思ったら、その二人が毒性昆虫に完全な耐性を持っているのは……物語として、どうなの?」
「でもその後、ウィンキーズを追っ払ったじゃない」
「捕虜になっていたエメラルド城の兵士たちは、元々が弱卒だった訳でしょう? ブリキ・サイボーグの性能なら、十分に対処可能だったのではないかしら」
なんなら、彼女の密かなお気に入りキャラクターの活躍シーンを、もう一つ増やしてくれれば良かったのに。ブリキ・サイボーグの大立ち回り……
実はドロシーが大騒ぎするだろうから言わないが、彼女の脳内にあった、映像作品の方も、こっそりと見た。あちらでもブリキアックスと、廃棄物頭脳は大活躍であったが……正直、主人公のペットの方がよほど優秀だった。だいたいどちらも四つ足の肉食哺乳類という点で、アイデンティティが被っている。
しかし、技術主任が率直な感想を述べると、ドロシーはため息を一つついて、さらに非常に腹ださしさを煽る顔でこういった。
「……まだまだね」
「なんですって?」
「臆病ライオンこそが、あの旅のキーパーソンだというのに……ぺダン星との友好条約が締結した後で、ワタシがみっちり教えてあげる」
「……遠慮しておくわ。今後、創作の話も禁止」
「そんな! ねえ怒らないで……ただでさえ科学分野の質問を禁止されたのに、その上、好きな作品について語るのも駄目だなんて、ワタシにどうしろっていうの……?」
そう、実はドロシーはかなり早い段階で科学分野に関する質問を、技術主任から禁止されている。
敵勢力の技術レベルを探るスパイの容疑を掛けられたいの? という技術主任の言葉を律義に守っているドロシーだったが、実情としては彼女の質問攻めにぺダン側が辟易していたからである。
なにせ……と、ここでドロシーのブレインストリーミングを追っていた技術主任は、ある数式に目が止まった。
彼女の脳内には、こういった化学式が無数に散らばっているが……ほとんどは地球の物理影響下での分子のふるまいを基にしているため、あまり馴染みのないものが多い。
だが、稀に技術主任にとっても、どこかで引っ掛かりを覚えたり、逆に驚かされてしまうような知識が含まれている。
それらをサルベージし、地球側と友好を結ぶ際のメリット、と報告する材料として使おうと考えているのだ。
その数式も、そんな貴重な化学式の一つであった。技術主任もどこかで見たような……とても既視感がある。だが、判然としない。おそらく式が構想段階で、未完成だからではないか?
「ねえドロシー……この数式は何? アナタの研究中のアイデアかしら?」
「どれのこと……? ああ! これね。そうよ、放射能をもっと平和利用できないかと思って……それは金属加工に活かせないかと考案中の式だわ」
現在、地球上で放射能は武器やエネルギーとして、あらゆる場面で使用されているが……その残留物も問題視されている。そこで、そういった汚染物質を、平和的に利用できないか? というのが、彼女の本来の研究テーマであった。
その概要を軽く聞いただけで、技術主任の頭でピースが嵌っていく。モヤモヤしていたのが一気に晴れ、思わず嬉しそうな声が漏れた。既視感があるのも納得だ。
「……ああ! なるほど! ライントーン工法ね!」
「ライ……トーン?」
「正確には『境界面周波調整法』の事よ」
技術主任は、まだぽかんとしたドロシーの顔にクスリとさせられながら、優秀な後輩へ得意げに話し始めた。
「金属境界面が持つ固有の周波数に、同調する放射線を浴びせて、その状態を不安的にさせてしまう加工技術なの。これが発見されてから、ぺダン星の発展は飛躍的に高まったわ。アタシたちの星で産出されるペダニウムはね、非常に高い剛性を持つだけでなく、化学的な安定性も驚く程に優秀な金属なの。でもその分、通常の方法では折り曲げる事は疎か、満足に精製加工も出来ないという事で、ずっと死蔵されてきた……でもこの方式で、まるで世界が変わった! ライントーン30。どんな子供でも、歴史と化学で一番最初に習う数字よ。たいていの超硬物質に効く魔法の言葉。アナタの式だと……ほらこの部分に数値を代入してみて?」
「……すごいわ! 温度上昇をほとんどさせる事無く、チタンの加工をこんなに容易く……えっと……この理想値に最も近い物質は……」
「……チ、タン? ……これか……ふーん、確かにペダニウムによく似た挙動をするみたいだけど……地球の物質って、どれもこれもこんなに脆いのね? これじゃあ発展が遅いのも納得だわ」
「最外殻電子が閉殻だから……化合物の生成に必要なエネルギー……センターのイオンディスペンサーならギリギリ足りるかしら? うーん……微量すぎる……」
こんな調子で、ひとたび科学の話をすると、双方が白熱してしまい……後で冷静になった技術主任が頭を抱える事になるのだ。だから禁止した。
顔は同じでも、中身の感性が少しズレた彼女たちは不思議と相性がよく……地球風の言い回しをするなら、たまたま『馬が合った』のだろう。
そういえば、自分にもそろそろ姪ができるのだった。
姪が成長すればこのような会話をするのだろうか……
ぶつぶつと計算に没頭するドロシーの頭脳は今、激しく活性化し、ストリーミング速度も先程までの比ではない。
こんな初歩的な知識でこれだけの結果が得られるなら、しばらくは時間が稼げそうだと、ほくそ笑む技術主任の耳に暗号通信が飛び込み、次なる指令が下った。
――再び地上に赴き、M78星雲人と接触せよ――
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隊長から、基地の防備とぺダン星人の捜索に当たるよう、警備隊に命令が下った。
マグマライザーから救出された俺は、目を覚ますと早速その足で進言に向かう。
「……ソガ! 大丈夫なのか? 高度50メートルから、パラシュートも無しに垂直落下したのと同じなんだぞ!?」
「それについては、自分が一番びっくりしてるんです……アマギのエアバッグはすごいですね! あとコックピットの周りも衝撃吸収材でパンパンにしてあるとか……いや、助かりました」
「だめよ、寝ていなくちゃ!」
「いや、アンヌ。呑気に寝てる場合じゃないよ。なにせ俺どころか、セブンが手も足も出なかったんだろ? そんな相手は素早く見つけて先手を取るのが、なにより先決だ」
「なにか、心辺りがありそうな口ぶりだな……? 今回もお前の推理を聞かせてくれ」
「はい、隊長! 海軍に協力を要請してください。あれから、この西の海にも、マックス号のような原子船がいくつか配備されていたはずです。その他の艦艇も総動員して、海底をしらみつぶしにするんです!」
「なに? 海底だと?」
「……はい、敵が隠れているのは、恐らく海です。あれほど大きなロボットを、例え分割しても山に隠せば必ず人目に付きます。その証拠に、偽物のドロシーは海へ逃げ込んだそうじゃありませんか。空港に着いた代表にはスパイで狙撃したくせに、アーサー号はあのロボットで撃沈したというのも、奴らの潜伏先が海だという可能性を示唆しています」
「ふむ、なるほど……」
「ロボットが飛び去った方角を計算して、神戸港からその直線上をなぞれば……」
「敵が再度襲撃をかけてきても、早期に発見できる、と……よし! 我々が空と地上からセンターを監視する間、海を見張ってもらうよう頼んでみるか。回線を繋げ!」
一戦目は失敗した。だから勝負はこの二戦目だ……しかし……
海軍へ捜索手順を打ち合わせに行くため、白い海軍制服をイソイソと着こむ俺は、まだ決断を迷っていた。
だが、俺の逡巡を余所に、各警備隊員が各々の持ち場を見張る中、ダンは神戸ポートタワーから、波止場を歩くドロシーの姿を見つけるのだった!