転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ウルトラ警備隊に死ね《後編》(Ⅳ)

暮れなずむ神戸の波止場で、男女が夕日をバックに見つめ合う。

映画やドラマでよく見るロマンチックな光景だったが、たった一つ、常とは異なる点がある。それは見つめ合う二人の正体が、紛れもなく宇宙人同士であるという事だ……

 

「さすがはペダン星人だ。我々をまんまと罠に陥れるとは……」

「ウルトラ警備隊に、宇宙人がいるとは、知らなかったわ……ウルトラセブン、どう? アタシたちの味方にならない? ……地球はいずれ、アタシたちのモノだわ……その方が、身のためよ?」

「断る! ……ぼくは、地球の平和を守るために働くんだ」

「地球が平和なら、他の星はどうなってもいいというの?」

「地球人は、ペダン星を侵略するつもりはないんだ……あのロケットは、単なる観測ロケットだったんだ!」

「観測? フン、いかにも立派な名目だわ。でも、何のための観測なの? ……それは、いずれ自分たちが利用するために、やっていること。その手には、のらないわ!」

「そうじゃない! 我々地球防衛軍の本当の目的は、宇宙全体の平和なのだ!」

「そう考えているのは、ウルトラセブン、あなただけよ」

「なに……?」

「人間は、ずるくて、よくばりで、とんだ食わせ者だわ。その証拠に、防衛センターでは、ペダン星人を攻撃するために、ひそかに武器を作っている」

「それは、お前達が地球の平和を乱すからだ」

「それは、こっちのいうことよ!」

 

ドロシーの見せた剣幕に、思わずたじろぐダン。

先程まではどこか、用意されたお題目を喋っているかのような余裕を見せていたが、今この瞬間、彼女は確かに自分自身の言葉で話しているようだった。彼女の抱く不満や怒りが、テレパシーを使うまでもなく伝わってくる。

 

「他人の家を覗いたり、石を投げたりするのは、ルールに反することだわ!」

「……なるほど、地球人も確かに悪かった。こうしよう、僕は今度の事件を平和に解決したい。ウルトラ警備隊はペダン星人と戦うための武器の研究を中止する。その代わり、ペダン星人も地球から退却して欲しい!」

「宇宙人同士の約束ね」

「そうだ!」

「わかったわ、あなたを信じることにする」

 

無言でうなずくダン。

 

「アタシたちの誠意の印として、本物のアタシ。つまり、ドロシー・アンダーソンを返すわ」

 

ウルトラセブンの不介入どころか、停戦協定の足掛かりとなりそうな協力まで取り付ける事ができた。

上々の成果に、技術主任は意気揚々と引き上げて行った。

あとは、自分が纏めた報告を提出するだけだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ハッハッハ! そうかよくやった!」

 

司令官は、スパイとして潜入している、技術主任から提出された報告書に目を通しながら、それをもたらした副官の報告を上機嫌で聞いていた。

流石はジーアンダ技術開発棟の主席。

素晴らしい成果だ。

M78星人を油断させただけでなく、地球人の動きを止める工作を完了し、その上、この惑星の独自調査結果まで!

 

レポートに添付されている画像には豊かな自然と芸術。それに優れた実弾兵器の数々が記載されていた。

地球の実弾兵器は、射線を特定され難く、威力の高すぎる光線銃よりも時として潜入工作に適していると、実働部隊の戦士達からも報告が上がっている。

既に何名かは、鹵獲したライフルを使いこなし、作戦に当たっているようだ。

なるほど、この星の技術から得るものも、それなり以上。

なにより……

 

「こんな美しい星ははじめて見た! 必ず手に入れて見せるぞ!」

「では攻撃の開始の指令を出します」

 

去っていく副官の背中を見つめて、司令官はもう一度、報告書の写真に視線を落とした。

これを纏めた技術主任と同じくらい、実はこの司令官も芸術を好んでいる。征圧した星々の民芸品、たいていは壷のような土器が中心だが……それらを密かにコレクションしているくらいだ。

 

だが、その自慢のコレクションよりもさらに、今の彼が、背中からクレーンを伸ばす程に求めていたのは……輝かしい功績であった。

なぜならその理由は、彼が『男』だったからに他ならない。

 

最近はその傾向が薄れてきたとは言え、かつてのペダン星、彼が軍に入隊した頃などはまさに、まだまだ非常に強烈な『女性中心社会』の真っ最中であった。

軍や政府、研究機関の重要なポストは軒並み女性が席巻し、どうしたって遺伝的に優秀な頭脳で、星の方針について議論を重ねている間、男はその体力を活かして、前線や労働で文字通り女の手足となって働く。

それが昔ながらのペダン星だ。

 

彼が今、一方面軍の司令官等という、一昔前ではとても考えられない地位に収まっているのも、ひとえに時代と、彼自身の並大抵ではない努力のおかげであった。

『男のくせに生意気な』と、どんなに後ろ指をさされようが、あの日、戦火に倒れる戦友に誓ったのだ。「自分が軍のトップに立って、いつかこの星を変えてみせる!」と。

 

……そしていま、あと少しでペダン星初の『男性総司令官』に手が届くという所まで来た。

その為には、このキングジョーの華々しい戦果が必要となる。

今更、こんな遅れた星と同盟を結んだ所で、功績と認められよう筈がない。

長年小康状態の続くナックル戦線を終息させるくらいでなければ、彼の望む椅子には届かないだろう。

だが、()()M78星雲人を無傷で打ち倒し、手土産に保養地となる美しい星を、大量の奴隷と共に手に入れたならば……?

 

彼ももう80歳半ば、いくらペダンの優れた医療水準で引き上げられた平均寿命でも、もう折り返し地点。そろそろ男盛りに陰りが見え始める頃だ。この作戦が、最後のチャンスかもしれない。

彼は焦る気持ちを抑え、艦長席に飾ってあるデバイスの記録映像を再生した。部隊全員が揃う、最後の夜に撮影した、出撃前夜の笑顔。

 

……待っていろ、戦友達。

土砂降りのように降り注ぐ攻撃の中へ、前線兵士が湯水の如く突入させられる、暗い日々は終わった。

あの時、お前の望んだ光景は、きっとあの虹の向こう側にある。

俺達のキングジョーが、鋼鉄の腕で、黄金に輝く未来を掴み取るのだ!


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