転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

48 / 193
ウルトラ警備隊に死ね《後編》(Ⅶ)

ヘッドセットを付けた数人の通信員が、各々に割り振られた艦と、ひっきりなしにやりとりをしていた。刻一刻と変わっていく戦況。

まずは、始めにロボットを発見した駆逐艦が、そのまま全速力で、魚雷を垂れ流しながら追いすがり、もう一隻、敵の行く手を阻むように合流した艦も、直当てする勢いで機雷と爆雷を敷設していく。

 

「このまま前方の僚艦と、挟み撃ちにするそうです」

「……あ! 敵艦発砲! たちかぜ被弾!」

「どの船からも、たちかぜの爆沈を目視したとの報告が……」

「後方の駆逐艦にも至近弾! 大破、機関部損傷、行きあし止まります!」

「はたかぜより入電、『ワレ、航行フノウ。二ノ矢ヲツガエヨ』繰り返す『二ノ矢ヲツガエヨ』」

「最寄りの艦はどれだ!? このままでは見失ってしまうぞ!」

「……いえ、まだです! 海上保安庁の巡視艇が、単独で追跡を継続中! 位置情報、更新されます」

「攻撃に参加できる装備が無かったのが幸いしたか……そのまま追跡を続行、脅威と見なされる行動は慎めと送れ」

 

センターの指令室では、次々と舞い込む凶報に、通信員達が浮足立っていた。

その中心でキリヤマは、じっと海図を見つめる。

巡視艇の送信する情報によって、敵のロボットの位置が光点として指し示され、それは着実に神戸港へと近づいてくる。

 

「重巡クリント、護衛艦あさぎり、どちらも直進コースでは、このまま振り切られます!」

「……え、なんだって? 本当か! ……キリヤマ隊長、ガウェイン号が頭を抑えられます! 是非にと!」

「許可する。……ただし、くれぐれも私怨に走るな、と伝えろ」

「ガウェイン号、会敵と共に、魚雷全門発射! ……全弾命中! 対象の速度、依然変化ナシ……」

 

岩陰に身を隠していた潜水艦が、ゆらりと浮上し、六本の発射管から一斉に魚雷を撃ち出す。

だが、最強の戦車であり、究極の戦艦でもあるキングジョーは、潜水艦としても、無敵であった。

水中ですさまじい爆発が起こるが、それでもキングジョーの進路は、少しも変えることが出来ないのである。

 

「……おい、ガウェイン号、何やってる! 回頭しろ! 聞こえないのか! おい!」

「どうした、このままでは正面から衝突してしまうぞ!」

「……だめです、返答はただ『王ノ仇ヲトレ、健闘ヲ祈ル』……もう、回避間に合いません!」

「馬鹿が……」

 

敵を示す光点と、味方の潜水艦を示す光点が、海図上でほぼ同じ速度で急接近し……そしてぴったりと重なった。

そこで光点は立ち止まり、まだ動かない。

 

「巡視艇が『すごい水柱が上がったが、敵を撃沈できたのか』と聞いてます」

「……ッ」

 

一回り小さいとはいえ、ほぼ同サイズの物体と海中で正面衝突したのだ。まだ報告でしか敵を知らない者ならば、淡い期待を抱いても仕方ない。

……しかし、キリヤマはあの時、間近でハッキリと敵の戦いを見ていたために、そんな楽観的な感想は、とても抱けなかった……やはり奴の恐ろしさは、自分の目で見たものにしか、わかるまい。

 

「あ、巡視艇より再び入電……『返答不要、敵の健在を視認した』……映像きます」

 

モニターに荒い映像が映し出される。……そこには、海上へひょっこりと上半身を出したぺダン星人の侵略ロボットの姿があった。奴の頭にはへこみすらない。ガウェイン号は無駄死だったのか……?

この時、キングジョーの方でも、この地点へ向けて集結する、無数の反応をレーダーに捉えていた。

脚が付く深さまで到達したこともあり、多少の進行速度は犠牲にして、効率的に反撃を行えるよう、直立して進軍することにした。

いくらキングジョーにダメージがないとは言え、先程のように無茶な質量攻撃をなんども食らえば、水中で固定されていない巡航形態では、その運動エネルギーを相殺するため、せっかくの加速を0にもどされてしまう。それならば、周囲へ反撃を行いながら、二本の脚でゆっくりと歩いていった方が、結果的には早く、そして安全だと判断したのだ。

今このキングジョーの作戦目標は、宇宙船団の停泊地を確保することと……それよりも重要なのが、この星に駐在している宇宙警備隊員を素早く始末する事だったので、彼が出てきた後に、余計な茶々をいれられるくらいならば……と司令官は考えていた。

敵の被害が増大すれば、すぐにあの巨人を引きずり出せるだろう、とも。

 

キングジョーをすさまじい爆炎が包む。追いついた後続艦が、ついに攻撃を開始したのだ!

濛々と立ち込める白煙の中で、びかりと何かが煌めく。次の瞬間、巡洋艦の右舷から、火柱が上がり、艦上を炎が駆け巡った。

キングジョーの光線によって、次々に撃沈される艦艇達。しかし、その後から後から、大小さまざまな艦種が戦列に加わり、包囲網を決して綻ばせない。

再び一筋の光線が水面を薙ぎ払い、一瞬にして沸騰し泡立った海水が、水蒸気爆発を起こして吹き上がる。

 

「艦長! スクリューがやられました! 速力低下!」

「左舷の消火追いつきません!」

「もはやこれまでか……ミサイルを撃ち尽くすまで沈んではならん!」

「ああっ! 奴がこっちを向いて……!」

 

警報の鳴り響く戦艦で、対空監視員が金切り声を上げる。

速度の落ちた大物に、トドメを刺そうと、敵が顔をこちらに向け、なんの感情もない双眸に光を集めた。あの光線を至近距離で食らえば、例え戦艦の装甲であっても、たちまち爆発四散、乗員が退避する間もないだろう。

乗組員が死を覚悟したその時、ロボットの顔面を猛烈な爆発が襲った! 炎に視界がふさがれ、デストレイのロックオンが妨害される。光線が外れ、命を拾った艦の真上を、低空飛行する銀色の翼が猛スピードで駆け抜け、遅れてやってきた甲高い独特な轟音に指揮所が震えた。

間違いない、ウルトラホークだ! 警備隊の航空支援が間に合ったぞ!

 

「フルハシ隊員、顔です! 奴の顔に攻撃を当て続けて、センサーを妨害するんです! 戦艦は足が遅い。一度奴の標的になったら、逃げきれません!」

「よしきた! 俺達が頭上でブンブン飛び回って、キリキリ舞いさせたろうってか! ……見とけよぉ!」

「そう簡単に、死なせてなるもんか……!」

 

フルハシの駆る、後続のホーク3号が、円盤翼にも似た独特の機体形状によって齎される、低速での機動性と安定性を活かし、ロボットの前で八の字を描くように、間断なくミサイルの雨を降らした。

 

このような激しく重力の掛かる操縦は、パイロットの負担になるため、本来なら敬遠されがちであるが、フルハシ隊員の鍛え上げられた肉体は、それだけで、最新鋭のパイロットスーツに勝るとも劣らない耐G性能を有していたのである。彼にはクラタ程の類まれな飛行センスはなかったが、この強みを活かしながら、好んで急旋回や宙返りといった曲芸飛行を行う癖があり、それは回避を両立しながら敵の注意を引くという素晴らしい効果を生んでいた。この一点においては、紛れもなく彼は防衛軍内のトップエースであり、キリヤマが彼を、超音速のホーク一号のメインパイロットへ、頻繁に指名する理由であった。

 

そうして、敵の視線が3号に向き、回避行動に移らざるを得なくなると、今度は即座に1号が、優れた加速性能でカットに入る。デルタ翼の稼ぎ出すスピードは、例え正面からの突入コースであったとしても、キングジョーの射撃管制システムでは、その姿を捉える事が出来なかった。元々、空中戦は分離状態で対向する設計思想のため、直立形態では対地攻撃を主眼としていたのが、災いしたのである。

 

ホーク二機が連携し、ミサイルで目隠しをする事によって、海軍の被害は激減した。

そうしてやっと戦況が落ち着いた所で、翻弄される敵の姿を、水中から息を潜めてじっと見つめる者がいる。

神戸港に係留されていたハイドランジャーに乗って、遅れて主戦場に到着したアマギの頭脳は、魚雷による攻撃もそこそこに、敵をじっくりと観察する事で、ある一つの結論を導き出そうとしていた。

それは先の戦いで、巨人の足元をポインターで駆け抜け、だれよりも間近でその威容を見たアマギだからこそ、気付けたかもしれない違和感。

 

「……隊長、全ての艦艇に、奴の脚部へ砲撃を集中するように伝達してください。できれば膝か……股関節でも構いません」

「なに、脚?」

「はい、あのロボットの構造はおかしい……関節が見当たりません。より正確には、継ぎ目がないんです! 以前の戦いで、自分は敵を中世の鎧騎士に見立てましたが……どんな甲冑も、関節部にはその可動域を確保するために、鋲を打ったり、隙間があいているはずです。でも奴は膝裏すらも、僅かな蛇腹があるだけで、装甲でぴったりと覆われています。あのロボットは装甲板を継ぎ接ぎしたのでなく、四つの大きなパーツをそのまま鋳造したのか、さもなくば金属塊を削り出して造られたとしか考えられません! 道理で頑丈なはずだ……」

 

いくら強靱な装甲板を鍛造したところで、それらを繋ぎ止めている部分は、どうしても構造的に弱くなる。衝撃によってネジやビスが緩み、弾け飛んでしまえば、そこからバラバラになってしまうのだ。

しかし、打ち抜きの鋳物や、一つの塊から造られた一体成形であるならば、そういった危険性とは無縁である。あのロボットが四つのパーツに分離するのは、鋳物の中に後から部品を詰めて、最後に組み合わせる事で、外から見える穴をぴったり塞いでしまうためなのではないか……?

 

「待て、それでは何故、奴は動けるのだ? それではセブンと格闘するどころか、歩くことすらままならんではないか」

「ええ、ですのでここからは推論になるんですが……敵は何らかの方法で、金属を瞬間的に柔らかくして、それこそ人間の皮膚のように、柔軟性を持たせているのではないでしょうか? 剛性と粘り強さを併せ持つ金属を、正面から粉砕するのは、非常に困難です!」

「なんだと!? ……では、どれだけ攻撃を集中しようと、それでは無駄ではないか!」

「いいえ、逆です隊長! 数発攻撃を加えただけでは意味がありませんが、そこで諦めてしまう事こそ、敵の思う壺です。例えどんなに柔らかくなったとしても、金属である以上、何度も曲げたり叩いたりすれば、分子にズレが生じ、歪みがたまっていく一方になります。……そして、柔らかいという事は、内部に伝わる衝撃を全て殺しきる事は出来ないという事です! 奴の膝関節を疲労骨折させてやるんですよ!」

 

どのように小さなダメージであっても、完全にゼロには出来ない以上、それを積み重ねる事で、確かな効果を得られる事もある。それこそ、岩をも穿つ雨垂れのように。

 

「そうか、ただでさえ重たい体を支えるのに精一杯だったところへ、ソガの落とし穴とセブンの足払いで、目に見えないダメージが蓄積しているかもしれない……よし全艦、奴の右膝へ砲撃を集中せよ!」

「キリヤマ隊長、そういう事でしたら、徹甲弾を使用した方がよろしいでしょう。炸薬の爆発力で広範囲を攻撃する榴弾より、弾体の持つ運動エネルギーをそのままぶつける徹甲弾の方が、ハンマーとしての役割に適しています」

「……ありがとうございますツチダ博士。各艦! 弾種は徹甲弾を装填し、ミサイルでの攻撃は、敵上半身への牽制に使え! 奴も地球くんだりまで長旅で、さぞ疲れていることだろう。ここらで一つ、()()()の検査にかけてやれっ!」

 

海上に浮かぶ全砲門が唸りをあげて、たった一人の遠征軍へ、一斉に健康診断を開始した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。