転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ウルトラ警備隊に死ね《後編》(Ⅷ)

次々と着弾する攻撃。今までは目くらまし程度にしか効果がないと思われていた砲撃が、あの歩く無敵要塞を攻略するためのカギとなるかもしれない、と聞かされた砲術科要員は雄叫びを上げて奮起した。大艦巨砲主義の遺物と蔑まれた旧式戦艦や巡洋艦が、その巨大な砲口で、何度も何度も咆哮を轟かせる。その後ろから、二隻のマックス級原子船が、無数の対艦ミサイルを垂直発射しながら、最新鋭の艦載主砲を煌めかせた。彼らが搭載していたのは、小型原子炉から得られる潤沢な電力を湯水のように使い、そのまま威力へ変換する電磁投射砲……つまり、レールガン。顎が外れる程バカ高い燃費を代償に、凄まじい長射程と貫徹力を実現したこの砲は、敵の膝小僧を散々に打ち据えるという今回の用途に、まさしくうってつけだったのである。

 

健康を破壊する事しか頭にない、害意の塊のような執拗な検査に、ロボットは顔色一つ変えなかったが、その内部では、また違った様相を呈していた。

 

「右脚部損傷、7%に達しようとしています! 動力伝達率、さらに低下!」

「……ええい、さっきからこんな旧時代の舟を相手に、何をやっているのだ!」

「それが……どうやら燃焼残留物が装甲表面に付着し、メインカメラとペダニウムエンジンの出力に影響が出ているようです」

「なんだと!? 原始人め……実弾兵器など使いおって! いったい、いつの時代だ!? ……そんな汚れなど、さっさと洗い流せ! 水ならそこら中にあるだろうが!」

「なにぶん、設定外の行動ですから、どうにもうまくいかず……」

「なぜあの宇宙警備隊員はさっさと現れない! ……地球人共が全滅しても、構わないと言うんだなッ!?」

 

こんなことならば、当初の予定にあった通り、膝の増加装甲を増やすべきであったと司令官は歯噛みした。

ライントーンアクチュエートは関節部の装甲に柔軟性を持たせる事で、不慮の攻撃でも関節を破壊されないという利点があったが、金属疲労が溜まりやすく、このように執拗に攻撃されては、通常の可動式関節を強化フィルムで覆っているのと大差は無かった。実際に後年設計された簡易量産型では、費用対効果から廃止され、全てを装甲で覆っているのは、初期ロットの試作品数台が生産されたのみに留まるのだが……今の彼には知るよしもない。

……と同時に、もう一つの面でも、試作の一機目であるという悲哀を痛感する。歩兵の武器に至るまで、全てが粒子兵装に置き換わって久しいぺダン星では、実弾兵器など、古代の遺物に等しかったため、設計時にはまるで想定していなかったのだ……()によって、風防が汚れるなんて。

そして、キングジョーにはあらゆる動作プログラムが設定されていたが……水浴びをするなどという行為は、もちろんプログラムされていなかった。

おかげで、不自然に海中に没しては、からだを揺すったり、顔を覆ったり……不慣れな入浴を衆人環視の真っただ中で晒す、という辱めを受けることになる。

はじめは謎の行動に戸惑っていた海軍だったが、次第に敵の意図を理解し始めた。

 

「おい……まさか……奴ら、窓が曇ってこっちが見えないんじゃないか……?」

「そんな馬鹿なことあるわけ……おい、火器管制。ミサイルで奴の頭部と胸の窓を狙え! そこが敵の目だ!」

 

各艦艇から報告を受けたキリヤマも、思わず耳を疑ったが……すぐに指示を飛ばす。

 

「淡路の基地と、紀伊方面に展開した部隊に長距離ミサイルの支援を要請しろ! クール星人に使った特殊噴霧装置を、ミサイルの弾頭に据え付けるんだ!」

 

人類は、強大な外敵に対して、とことん底意地が悪かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「イーチ……ニーィ……イーチ……ニーィ……」

「アンヌさん、まだ彼女の意識は……」

「……駄目だわ。ここからどうしても先に進めないの」

 

センターの病室では、ドロシーの記憶を取り戻すため、アンヌが必死に暗示を解こうと、あらゆるショック療法を試していた。だが、彼女の見つめる先の画面では、望ましい波形は示されていない。治療によって、ドロシーの脳波がノンレム睡眠に近い状態に引き寄せられて安定していたのが、一定時間を置くと、再びレム睡眠……いわゆる夢を見ている状態と同じ脳波になってしまう。陳述記憶、つまり見聞きした事柄が定着するのは、ノンレム睡眠時であるため、この状態で彼女の記憶を呼び覚まさないといけないのだが……ドロシーは未だに白昼夢の中に留まっていた。

隣で心配そうに見ていたマーヴィンが堪えかねたように質問する。

 

「……私は精神医学には詳しく無いのですが……彼女の容態は、そんなに悪いのですか?」

「いえ、彼女に掛かっている暗示の種類は特定できました。あともう少しです。ただ、この安定状態まではなんとか漕ぎ着けられたんですけど……最後のピース、この催眠を解除するキーワードが分からないんです……」

「キーワード?」

「ええ、このタイプの暗示は、なにかパスワードのような言葉や動作で、記憶そのものをロックする方式なんです。そのカギさえ知っていれば、かけるのも解くのも簡単な代わりに、キーワードが何か分からないと、通常の暗示よりとても強固な効果を発揮してしまう……催眠術者が手を叩いたり、数を数えたりして、暗示を解くのを見たことがありませんか?」

 

確かに言われてみれば、マーヴィンもたまに見るテレビで、そういったシーンを見たことがある。たいていはヤラセの大法螺吹きによるエンターテインメントだと思っていたが……優秀なドクターである彼女が大真面目に言うのだから、あれもわりかし真実に基づいた描写だったのだろう。

一部の精神病治療に使われる催眠療法も、こういったものなのだろうか? 催眠術など、まるで魔法の一種のような……

ここまで考えて、マーヴィンの脳裏で電撃のようにひらめきが走った。

思い起こされるのは、彼女を連れてきたあの冷酷な表情をしたぺダンの女……彼女はなんと言っていた?

すぐに彼女と話せるだろうと言っていなかったか……? 彼女の記憶が消され、ロボットが強襲してきた以上、あれも単なる嘘だと断じていたが……()()()()()()()()()()()()()としたら……?

あの女は、自分をなんと呼んだか……!?

 

「アンヌさん、さっきの安定状態を、もう一度お願いできますか……? 試してみたい事があるんです」

「心当たりが、あるんですね……!」

 

アンヌによって、もう一度、脳波安定状態、いわゆるパスワードの入力待機状態となるドロシー。

そこへ、枕元へ膝をついたマーヴィンが、優しく語り掛ける・

 

「ドロシー、ドロシー……聞こえるかい? 僕だよ、マービィだよ……」

「マービィ……? オズだいまおうの、でしの……?」

「そうさ、君だけの魔法使いだよ……」

 

虚ろな目で中空を見つめるドロシーが、ぼんやりとではあるものの、返事をする。

本来ノンレム状態の人間が、会話をするなどありえない。先程まで微動だにしなかった彼女の様子に、アンヌは息をのむ。

そしてマーヴィンは、かつてお互いがまだ小さかった頃、せがむ彼女の前で、魔法使いの弟子と名乗り、ごっこ遊びに興じていたのを思い出していた。

その遊びの中で、彼女が特にお気に入りだったシーン……

 

「まほうつかいさん、ワタシ、おうちにかえりたいの」

「じゃあ、とっておきの魔法を教えてあげる。目を閉じて……君の大切な人たちを思い出して……」

「めをとじて……たいせつなひとを……」

「そして、踵を三回打ち鳴らすんだ……いくよ? せーの……ワン、ツー、スリー!」

 

マーヴィンのカウントに合わせ、彼女がベッドの上で、踵を三回打ち鳴らしたかと思うと、ブルーの瞳が、ゆっくりと開かれていく……

 

「起きて、ドロシー。さあ、起きて……」

「マー……ビィ……?」

「……ああ! おかえり! おかえりドロシーッ!」

「……ねぇ、どうして、アナタはそんなに泣いているの……?」

 

先程まで中空で固定されていた視線が、マーヴィンの顔を捉え、不思議そうに首を傾げた。

そんな彼女を、思わず抱きすくめるマーヴィン。

 

「ワタシね……なんだか不思議な夢をみていたわ……そこではアナタは小さな黒犬で……エメラルドのサングラスをしているの……」

「うん、うん……良かった……本当に良かった……っ!」

 

まだ催眠の影響で完全に覚醒できていないのか、マーヴィンの頭を撫でながら、夢見心地でぼんやり語り始めるドロシー。

 

「ねぇ、聞いて? この夢ときたら、本当におかしくってね……? 臆病なカカシを、恐ろしいライオンが叱り飛ばしているの……あんまり怖くてワタシ、震えてしまって……これじゃあ、あべこべよ。この組み合わせだと、残ったブリキ男がデュラハンのようになってしまうわ……あら、そういえばどうして彼は怒られていたんだっけ……?」

「いいんだ、いいんだよドロシー……あんまり無理をするんじゃない。いまは休もう!」

「ううん……あと少しで……そうだわ、やっぱりおかしな夢。ワタシを攫った、西の悪い魔女がね? 突然泣き出してしまって……」

 

そこまで言った彼女は、ハッとして身を起こす。

その変化は劇的であった。

先程までの夢見がちな少女は消え失せ、そこには理性と知性の輝きをハッキリと双眸に宿した、ワシントン基地の頭脳たる、一人の天才女性科学者がいた。

ドロシーは使命感に満ちた顔で、彼らに問いかける。

 

「キングジョーは……あのロボットはどうなりましたか!?」

「ぺダン星人のロボットなら、神戸港に向かっています。今、みんなで足止めしているところよ!」

「こうしてはいられない! すぐに行かなくては!」

「待つんだドロシー! いったいどこへ!」

「もちろん、会議を開催するのよ……ワタシ達の防衛会議を、いま、ここで!」


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