転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ウルトラ警備隊に死ね《後編》(Ⅸ)

「くそっ! 駄目だ……もうミサイルが弾切れだ」

「なんだって! お前もか!? 俺は燃料がそろそろ切れそうだぜ……チクショウ!」

 

長時間の戦闘によって、遂にホークの弾薬と燃料に限界が来ていた。

攻撃の要である艦艇から、キングジョーの気を引くためには、ウルトラホークをもってしても、温存を一切考えない、苛烈な挑発が必要だったからである。

そして、僅かに航空支援の手が緩んだ効果は、想像以上に劇的であった。

密度の薄くなった白煙を切り裂いて、破壊光線がぐるりと海面を薙ぎ払う。

 

「護衛艦こんごう、あさぎり爆沈! ゼノン号大破! 浸水止まりません!」

「原子船イーストウッド、機関停止! これ以上の戦闘続行は不可能です!」

「敵艦主砲の斉射3連を受け、イリノイ轟沈! 爆発の影響で重巡キーロフ中破……えっ? なにッ、ウダロイが持ち上げられている? 各艦ランダム回避! 回避だッ!」

「……くそッ! 戦艦ケンタッキー、飛来したウダロイと衝突し、沈没……」

 

黄金の輝きを誇った体は、いまや真っ黒なススと、赤い特殊着色剤で、汚らしくまだらに染め上げられてしまっていたが、それでも低下した性能は全体の僅か数パーセント。ホークの支援が無ければ、海軍だけで太刀打ちできないのは明白だった。

 

「駄目だ、こうなったら翼で視界を塞ぐだけでも……」

「上空のウルトラホーク、聞こえるか! 貴方方は撤退してくれ!」

「こちらウルトラ警備隊のソガ! 何言ってるんだ、レーザーでまだやれる!」

「無理をしてそちらまで撃墜されては意味が無い! どうせアレに上陸されたら、後は陸軍の奴らと警備隊だけが頼りなんだ……ソガ隊員、あんたも同郷やったら分かるやろ! あの神戸の港は、俺らの誇りや! こんな木偶人形に……みすみす踏み荒らされて、たまるかい!」

「……よう言うたっ! そんでこそ海の漢や!」

「今の誰や!? 『はつゆき』か!? やるやんけ!」

「せやせや! 東京もんは、はよ帰れ!」

「おまえ普段、東京モンなんて言わへんやろ! かっこつけすんな!」

 

強情に居残ろうとするソガに向けて、下の軍艦から、一斉に啖呵の対空砲火が飛ぶ。

彼らはオープンチャンネルで堂々と軽口を叩き合い、大声で笑いあった。

死の恐怖を笑い飛ばし、空飛ぶ気障野郎の背中を押すために。

 

「ソガ隊員、彼らの言う通りだ。我々は一度引こう! 脚部への攻撃は十分だ!」

「でも、アマギ! まだ奴は歩いてる!」

「大丈夫です、足がほんの少し上がらなくなれば、それでいいんです。たったそれだけで、奴は神戸の堤防を踏み越える事が出来なくなる。歩行状態で上陸できないとなると……」

「そうか! 分離するしかなくなる!」

「そうです! そして今度こそ、接合部の断面に、ありったけの攻撃を加えてやるんです!」

「だったら、そのチャンスに攻撃できるよう、俺たちゃ戻るぞ! ソガ!」

「……すみません皆さん……あとは、頼みます! 今度は地上で戦おう!」

 

神戸港に向けて、飛び去って行く2機のウルトラホーク。

アマギのハイドランジャーも、潜航深度が足りない為に、帰投していく。

 

「いったか……」

「各員、もうひと踏ん張りだぞ! 我々の港は、我々自身の手で守り抜くんだ!」

 

駆逐艦が木の葉のように吹き散らされる中、一隻のミサイル艦が、敵の進行方向へ回り込むと、機関を停止し、艦首をロボットへ向ける。

 

「おい、なんのつもりだ! オヤジ、年寄りの冷や水はよせ!」

「……どいつもこいつも、麦飯ばっか食うとる若造どもめ! ほんまの脚気の検査なんて、受けた事あらへんやろが! 船乗りとしても、軍医としても、研修医以下や!」

「なんやて!?」

「ひよっこはそこでよう見とれ! 機関最大船速! 装備が変わろうが船が変わろうが、ワシら魚雷艇乗りの戦い方は変わらへん! お前らも()()()()の意地見せたらんかい!」

 

そう叫ぶと、時代遅れの老艦長は、一切攻撃を行うことなく、艦をただ一直線に走らせた。

発砲炎すら見せない小ぶりな船体は、煙と汚れに塗れたキングジョーのカメラをかいくぐり、発見を大きく遅らせる事になった。

接近する艦影に気付き、慌ててデストレイが発射される。海面が爆発し、濛々と立ち上る水蒸気。あえなく撃沈されたかに思えたが、それを切り裂いてあらわになるミサイル艦の勇姿! 外部こそ炎に包まれたものの、機関や操舵装置といった中枢部はまだ無事だったのだ。そして、頑固な老艦長の率いる猛者たちの魂は、その勢いを少しも衰えさせることなく、飛沫を上げて、なおも突撃を敢行した! 巨人の膝に目掛け、真正面から激突!

 

「全門、ってぇええッ!」

 

主砲、副砲、魚雷にミサイル、対空機銃まで。

すべての兵装が、至近距離から一斉に解き放たれた。

本来曲がるべき向きとは全くの逆方向から、思いっきり殴りつけられたキングジョーの膝は、確かに異音を響かせて、大きく後ろに弾き飛ばされる。

海底の泥に足をとられて、そのまま前に倒れこむぺダン星人の侵略ロボット。

血筋に九鬼の流れを汲み、六甲山の麓ですくすくと育まれ、瀬戸内海の荒潮に揉まれて磨かれ続けた老兵達の意地と矜持は、異邦の侵略者の脚を、確かに掬って見せたのである。

なんとか転覆を免れた艦の中で、満足げな高笑いを響かせる老人たちの目には、こちらに向けて伸ばされる無機質な金色の三本指が、しっかりと見据えられていた……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

防衛センターの研究所で、新爆弾の設計を急ぐツチダ博士。その隣の指揮所からは、第一次防衛ラインが突破されたため、キリヤマ隊長が飛び出してくる。

「ツチダ博士。兵器はまだできませんか?」

「ドロシー・アンダーソンの協力が、どうしても必要です。記憶はまだ、蘇らないのですか?」

「今アンヌ隊員が、ショック療法を行っている最中で……」

「我々の武器では、到底あのロボットを破壊することはできません。ドロシー・アンダーソンなら、何か掴んでいるかもしれない……」

 

隊長とて、博士の邪魔をしてまでこんな問答をしても、意味が無いのは分かっている。しかし、部下たちを死地に追いやり、自分一人だけ後方で命令を飛ばすなど、キリヤマにとっては拷問に等しかった。さりとて、新兵器が完成した時に、それを届ける人員も必要で、海軍との中継も行わなくてはならない以上、この場を動くことは出来ない。

はやく、現場へ急行する口実が欲しい。もはや、キリヤマの胸中はその思いでいっぱいだった。

……そんな時だ、天使によって、福音が齎されたのは。

 

「隊長。ドロシー・アンダーソンが正常に戻りました!」

「えっ……そうかっ!」

 

思わず喜色満面といった様子で、ツチダ博士を振り返るキリヤマ。

胸を撫でおろした隊長と博士の待つ部屋へドロシー・アンダーソンとマーヴィン捜査官が入ってくる。

 

「アンダーソンさん。待ちましたよ」

「白衣をください」

 

先程までの様子が嘘のように、活き活きとした顔のドロシー・アンダーソン。

彼女が白衣を纏うときには、年頃の女性という面は消え失せ、人類最高峰の頭脳を持つ、科学者としての要素以外は全て削ぎ落される、というのはワシントン基地で知らぬ者がいない程。マーヴィンが優しい目元をサングラスで隠し、冷酷な殺戮者としてのペルソナを被るように、彼女は白衣を着る事で、完全に仕事のスイッチを切り替えられる人種であった。

 

「ペダン星人が使っている、特殊な金属は、ライトンR30を使用した弾丸で、破壊できるはずです。ドクターツチダ、さあ始めましょう」

「ああ!」

 

ドロシーの手元のノートを覗き込んだ博士は、一瞬でそこに書いてある数式の異様さを理解した。

 

「この式が、ライトンR30ですか? 素晴らしい……!」

「これは、ある一人のぺダン星人から教わった、彼らが使っている金属加工法に、ワタシが手を加えたものです。おそらくあのロボットを作るのにも、使用されていると思われます。地球の物質で、この数式を再現するためには、この施設が必要不可欠なのです。ドクターツチダ、たしかセンターには、本来の会議で話される予定だった、超兵器の試作へ使う為に、少量のラドンが、備蓄されていたはずですね?」

「ええ、ありますとも。この数式であるならば……少し待って下さい……大丈夫、一発分ならギリギリ足りるはずです。しかし、どうやって、この式に当てはまる化合物の状態にするのです?」

 

ラドンの化合物については、まだあまり研究が進んでおらず、ツチダ博士ですらも、今回はどのような形で加工するのか、分からない。……だが、その作成法は既に、ドロシーの脳内で、何度もシュミレートされていたのだった。

 

「イオンディスペンサーと、粒子加速器の、使用許可を下さい。それで電荷を調整します」

「分かりました。どうぞご遠慮なく、全ての設備を使ってやって下さい。そういう事なら、電子縮退炉にも、火を入れておきましょう。あれは立ち上げに時間がかかりますからね」

「ありがとう、ドクターツチダ」

 

(ドロシー……アナタなら、ワタシの記憶を完全に消去もできたはず……でも、そうせずに帰したのは……一体なぜ……? ワタシに、こうして欲しかったからなの……? 本当に? アナタの心が、分からないわ……ドロシー)

 

記憶を取り戻したドロシー・アンダーソンは、スーパーロボットを破壊すべく、新爆弾の製造に取り掛かった!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

住民が避難を終えた神戸港から、ダンは金色の破壊者を睨みつけていた。

海軍の艦艇を破壊し、街を破壊し、今も()()()を持ち上げ、岸辺の工場へ投げつけた所だ。

腕を上下させて勝ち誇る敵に向け、再度の猛攻撃が岸辺から飛ぶ。

敵の予想進路が神戸と分かった時点で、民間の船は全て出払っており、その代わりに無数の軍艦が波止場を埋め尽くし、浮き砲台となっていた。

 

攻撃にさらされ、光線で反撃を行うロボットは、僅かに右足を引き摺っているようにも見える。

あの恐るべき侵略兵器に対し、地球人達は一歩も引かずに攻撃を加え続け、ついには、目に見える程の損傷を与えることに成功したのだ!

煤けた顔に、血糊の如く塗料を塗りたくられ、()()()を引く巨人の姿は、まさしく人類の不抜の精神が、ぺダン星人の傲慢な科学に屈することなく、その鼻を明かしたのだという何よりの証拠だった。

自分ですら、攻撃が効かないと、絶望してしまった相手に対して、である!

 

なんと尊いのだ、彼らは!

 

ダンはそこに、宇宙警備隊の信念にも通ずる、確かな輝きを見た。

彼らはしっかりと、鋼のごとき熱い覚悟を見せたのだ。ならば、今度は自分の番だ!

あれならば……少しでも力の削がれた状態ならば、あとはぼくの力でも、なんとかなるかもしれない……!

先程、通信でドロシー・アンダーソンが新兵器の開発を開始したと、連絡があったばかり。

それが一体、どれだけ時間のかかる事なのかは分からないが……それまでの時間くらいは、なんとしても押しとどめて見せる。……なによりも、自分には共に戦う仲間がいるのだから!

 

「デュワッ!」

 

波止場に真っ赤な巨人が姿を現した!

 

「おお! 見ろ! ウルトラセブンだ! 俺達には、あのウルトラセブンがついているぞッ! 総員怯むな! 撃て撃て! 撃ちまくれ!」

「ようやく現れたか……待っていたぞ、ウルトラセブン! このキングジョーの、輝かしい勲章の一つとなれッ!」

「ダァッ!」

《グワッシ……グワッシ……》

 

セブンの突進に耐える為、キングジョーが両腕を高々と掲げる。この姿勢こそが、キングジョーのファイティングポーズであった。なぜなら、反重力式姿勢制御の、もっともニュートラルな状態として設定されているのが、このポーズだからであり、デストレイの発射反動を打ち消すための射撃姿勢でもあったからだ。この態勢であれば、重心を前のめりに保つことが容易となり、なおかつ同サイズの敵には、そのまま腕を振り下ろして、即座に反撃に移る事が出来る。実に理に適った設計なのであった。

さらなる利点として、被弾時は、腕を上下させる事で重心を調整し、振動式のジャイロスコープのように、反重力ベクトルの入力方向を測定することも出来る。敵からの攻撃が予想される場合は常に、ベクトル計算の誤差が最も少なくなるこのポーズをとる事で、耐ショック姿勢としているのだった。

 

一戦目のデータを反映した、キングジョーの改良された制御機構は、ひたすらに頑丈だった。その強力さといったら、躍りかかったセブンが、逆に跳ね飛ばされてしまう程。これが、本来予定されていた、キングジョーのカタログスペック。敵の攻撃に微動だにしない、恐ろしいメカニカルモンスターの姿なのだ。

 

これですら、防衛軍の攻撃によって、出力が落とされた状態だというのだから、尋常なものではない。光の国を敵に回しかねない判断を下したぺダン司令の自信は、何一つ間違っていないのだ。

だが、一戦目の経験を活かしてきたのは、なにもキングジョーだけではなかった。それはセブンも同じこと。

 

(いいか、ダン。柔道で大事なのは、いかに相手を()()かだ。その点、この技はいいぞ。なにせ最小の力で、どんな相手にもデカい効果が出せるんだ! 上手くキメるには、ちょいとコツがいるけどな……)

 

正面から組み付いたセブンは、敵の丸太のように太い脚と脚の間に、自分の足を深く滑りこませたかと思うと、左足を絡ませ、小内刈り、より正確に言えば小外掛けを繰り出した!

右足を膝から救い上げられ、大きく後ろへ倒れこむキングジョー。

 

双方が雪辱を果たすために、両雄相打つ神戸港での第二ラウンドは、まだ始まったばかりであった。


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