転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

53 / 193
今回も閑話

長編だったので、ここらでひとつ、休憩です


無闇に光る目

ある日、警備隊の食堂にて

 

「……どうしたんです、先輩? 今日はえらく匙の進みが遅いじゃないですか。まだおかわり二杯目なんて」

「うん……」

 

キングジョーとの激闘を終えて、ようやく平常運転に戻りつつある警備隊基地。

 

……え? アンノン?

ああ、彼にはなんとか誤解を解いて帰って貰ったよ。

俺が必死に土下座しても半信半疑だったのに、セブンの取り成しですんなり帰っていったのは、ちょっとむかついたが……なんか原作以上に、セブンの説得に熱が入ってたのは、あながち気のせいではないだろう。

 

岩石で構成された体を持つアンノンは、文字通り巌のごとく頑迷で頭が固いが、ペダン星人と違って、虎眼石のように高潔だ。セブンの言葉を信じて、筋肉代わりの硫黄ゴムほどじゃあないが、それなりに柔軟な対応を見せてくれた。

 

そんでもって束の間の平和を謳歌する今日は、フルハシ隊員と昼食のタイミングが一緒だったので、そのまま同じテーブルだ。

 

でも、彼の様子がおかしい……いつもはアッと言う間に、カレーを3杯ペロリと平らげてしまうのに……

 

まさか……また宇宙人と入れ替わってる!?

……いや、ちゃんと瞬きしてるな。

じゃあ、この前の輸送任務失敗を気にして……いや、蜂を操ってた黒い奴を倒して、隊長から褒められてたはずだ。

だったら……なんだ?

 

「……うん、やっぱりお前だ。お前しかいない。なあソガ、俺の悩みというやつを、一つ聞いちゃくれないか」

「ほう、悩み。……ま、ええでしょう。なにせ、年中悩みの無さそうな能天気が、俺の唯一の取り柄らしいんでね」

「古い話を蒸し返すなよ。それでだな……ソガ、お前……超能力って、信じるか?」

「……ハァ?」

「なあ頼むよ、こっちは真剣なんだ。こんな話、アマギは取り合っちゃくれないし、アンヌに聞かれて、精神病棟にぶち込まれちゃかなわん! その点お前は、なんだか怪しげな魔術だか占いだかに、ドップリはまってたじゃないか?」

「ああ……ね」

 

確かにソガ隊員は、原作でも星占術だの迷信だのをよく気にする男だ。

もちろんこの世界の私室にも、オカルトグッズがいっぱいあって、オレも仲間の説得が面倒な時は、これ幸いと利用させて貰っているが……

 

「真面目な悩みなら、隊長に相談したらいいじゃないですか」

「お前、正気か? 万一知られでもしたら『栄光あるウルトラ警備隊員が、オカルトなどと、不抜けた事を抜かすんじゃない!』と、こうだ! お前みたいにド突かれるのは御免だぜ」

 

いや、意外とあの人、その手の話大好物なんだけどな……まあしょうが無い。鬼の隊長が、占い信じてるなんて、それこそ信じられんわな。

可哀想だし、付き合ってあげようじゃないか。

 

「ええもちろん。といいますかね、我々が日夜相手にしてるのは何ですか? エイリアンですよ、宇宙人! 一昔前じゃUFOなんて、超能力と同じオカルト扱いだったんですから、なんで超能力だけは否定しなきゃならんのか? これがわからない」

「いやあ、宇宙人はいいんだよ。俺達のよく分からない科学だか、生態だかをしてるんだからさ。でもな? 人間の、同じ体のつくりをした奴が、やれサイコキネシスだテレパシーだ! どうやって出すんだ、そんなもん」

「ははあ」

 

そういって、顔の目の前にスプーンをもって行き……ふんっ、と寄り目で睨みつけては、おどけて見せる。

なるほど、言いたいことは分かる。じゃあアマギですら納得できるような、科学的こじつけを聞かせてやろうじゃないか!

 

「サイコキネシス、ありゃあ、まやかしです。手品のトリックみたいなもんなんで、この際省きますが……予知夢やサイコメトリー。これは強ち不可能じゃない」

「なにい?」

「人間の脳っていうのはね、普段はほんの数%しか使用していないんです。でもね、たまにその活用範囲が凄く高い奴が居る。アマギを見てご覧なさいよ、あれが俺達と同じ脳味噌を同じ分だけ使ってるように見えますか?」

「いや……確かにあれは違う人間だ」

「そしてね先輩、デジャヴって聞いた事あります? ふとした拍子に、『あ、この場面見たことあるぞ』ってなるアレ」

「ああ! それなら俺もわかるぞ! でもそんなのは気のせいさ」

「ところがそうじゃない。あれはね、ちゃんと見たことがあるんです。……過去にね」

「未来の事を、どうして昨日見れるんだい」

「先輩、この食堂を見てください」

 

そういって、防衛軍の食堂を見渡す俺達。

たくさんの隊員達が食事をしている。

 

「今日、ここで誰と誰が、何を食べていたか。明日全部覚えてられますか?」

「無茶言うなよ。俺はな、明日の献立表すら覚えられないんだぞ」

「でもね! 覚えてるんですねコレが! 俺達は忘れてしまったと思い込んでいるが、脳にはちゃーんと記憶されているんです。ただ、それを引き出す事ができない! これが上手いのが、ドロシーアンダーソンのような、瞬間記憶保持者ですよ」

「ははあ、なるほど」

「瞬間記憶は、超能力じゃ、ありませんか?」

「……お前の言いたい事が、読めてきたぜ。結局のところ、人間の能力の延長線上だってわけか。でもそれで、どうして未来がわかる?」

「ここからですよ……あすこに、ウエノ隊員とヨシダ隊員がいるでしょう?」

 

少し離れた席で、長距離通信員のヨシダと、予備通信員兼警邏員のウエノが、面を突き合わせて一心不乱に丼を掻き込んでいる。同期の彼らは、職務的にたまたま昼休憩のシフトが同じなのだ。

 

「ああ、いるな。今日も仲良く食ってるが……ありゃあ、親子丼か?」

「では当ててあげましょう……明日の彼らは天丼を食う!」

「なんでぇ?」

「超能力的に言うと、俺の味噌汁がそう予言したからです。うーん、この豆腐とワカメの相が……種明かしをすると、彼らは毎週同じサイクルで丼を食うからです。親子丼の次にカツ丼を食うと、卵綴じが被る」

「お前そりゃあ、推理と言うのであって予言じゃ……ああ!」

「そう! 意識か無意識か、結局はその違いなんですよ。昨日より前の記憶が、ふとした拍子に浮かんできて、それを材料に、脳が勝手にこれからの事を推理する。でも理由は分からない。じゃあそうか、これが予知夢という奴か。いかがです? これならアマギも首を縦に振るはずです」

 

俺がでっち上げを堂々と言い切ると、フルハシは得心いった顔で何度も頷く。

 

「おおそうか! じゃあ……お前がいつも未来予知を使ってる訳じゃあ無いんだな!」

「ブフォッ!!」

「うわっ! 汚えなぁ……」

「ゲホッゲホッ……人が茶を飲んでる時に、変な事いわんで下さい!」

「確かに未来予知ができる訳じゃあ、なさそうだ……」

 

アンタ、そんなこと思ってたんなら、本人に聞くなよ!

 

「だったら本命だ……実はな、お前ともう一人……超能力者に疑わしい男がいる」

「……ああ、ダンか」

「やっぱり! お前もそう思ってたか!」

 

まあ、あからさまに怪しいもんなアイツ……やっぱりフルハシにすら疑問視されてたのか……良かった。もしもの為に理論武装しといて。さて……

 

「実はな……奴がおかしな事を言い出す前に、それが分かる時がある……ダンの目が、キラリっと光るんだ!」

「ンブフォッ!!」

「おい! バッチイなぁ……」

「エホッエホッ! 人がねぇ! 味噌汁飲んでる時にねえっ! あかん、豆腐が鼻に入った……」

 

いやいや、確かにダンが人間態で超能力使う時、目が光ったりする描写があるけど……

あれ見えてんのかよっ! 聞いてねえよ!

視聴者に分かりやすくするためじゃなかったのか!?

 

「最初は、奴の瞳が青く見えたような気がして、アラ? 光の加減かしら? と思ったんだがなぁ……最近確信したよ。チラっと星が瞬くみたいに光が反射するんだ。すると向こうに何か見える、変な音がすると言いやがる……透視でも使ってるんじゃないかとね」

「あー、可視領域と可聴領域って知ってます?」

「カシ……課長?」

「人間が見たり聞いたりできる、光や音の範囲の事です。赤外線や紫外線ってのは、人間の目に見えないが、ヒラヒラ飛んでるチョウチョなんかは、逆にこの紫外線しか見えない。我々とは、全く違う世界が見えてるんです」

「そうなのかい?」

「そして音、モスキート音ってあるでしょう? 蚊の羽音みたいな高い音の周波数は、歳をとるとどんどん聞こえなくなってくる……」

「そんな話、聞いた事無かったぜ……」

「ところがね、たまーにこれが感じられる人間がいるらしいんですね!」

「そんなの、眉唾ものじゃないか?」

「でも、逆を考えてみて下さい。世の中には色が見えない人間もいる。現にウエノはあんなに優秀なのに、緑と赤のランプが咄嗟に見分けられなくて、パイロット試験に落ちた。でも、彼と我々の世界がどう違うのか、言葉で説明できますか?」

「ううん……」

「感じる世界が違うと言うことは、それが見えない者からは理解できない。それが持つ者と持たざる者の差なんですよ」

「つまりダンの奴ぁ、人よりちょびッと目と耳がいいだけって事か?」

「かれの光彩が突然変異でもしてるんじゃないですか? のどちんこ二つに裂けてる奴いるでしょ。あれとおんなじ」

「へぇ、珍しい奴がいたもんだ!」

「なにを他人事みたいに笑ってるんです。俺から言わせればね、フルハシ先輩の方がずっと超人ですよ」

「俺ぇ?」

 

自分を指さし素っ頓狂な声を上げるフルハシ。

 

「ホークであれだけグルグル回って、ピンピンしてるのは、明らかに人間の限界を超えてます。いくらハーネスが付いてるからって、隣で立ってる我々の身にもなってくださいよ! 何回、視界が真っ黒になったか!」

「分かった分かった、次からは気をつけるよ……」

「電撃を浴びても生きてるようなアンドロイドの言うことは、信じられませんね!」

「……へへへ、俺は無敵のアンドロイドか、いいね、気にいったぞ!」

「いや別に褒めたわけじゃ……」

 

アンタは念力なしでも、指一本でスプーン曲げくらい簡単にできるだろうが。

そっちの肉体のほうが、よっぽど超能力だっての。

しかし、フルハシは、嬉し気な顔を再び引き締めると、疑問点を質問する

 

「……で、その説の化学的根拠は、どこにいったら読めるんだい」

「……先輩、そうやってすぐに裏付けでオカルトを否定しようってのは、科学教徒の悪いところですよ」

「科学教だとぉ?」

「そうです、科学を信奉するのもいいですけどもね、あんまり傾倒しすぎると、狂信者のソレとおんなじです。物理的にありえない事は、全部まやかしだ! と決めつけるのと、神の教えに載っていない事はすべて悪魔のささやきだ! と言い張るのと、どう違うっていうんです?」

「時々、お前はわけのわからん事をのたまい出すからなぁ……難しくって、俺にゃあサッパリだ」

「簡単に言うとね、科学で解明できない事柄は、そこに存在しないんじゃなくて、確かにそこにあるんだけれども、まだ人間にはその世界が見えるくらいまで、発達していないだけかも知れん、という事ですよ。超能力ってのはね、なにも人知を超えた能力だけではなくて、超スゴイ能力の略かもしれないんです」

「はあ……なるほどねぇー」

 

その顔、絶対分かってないだろ。

……でも安心してくれ、オレも分かってねえからさ。

フルハシを煙に巻けたみたいなので、すっかり冷めてしまった食事を再開する。

 

「そもそも率いてるのが精神的超人の隊長だし、アンヌはなんでも癒してしまうし、アマギは頭アマギだし、俺はこんなにも眉目秀麗! ウルトラ警備隊に、超能力者じゃない人なんて一人もいませんよ」

「まったくだ! 言われてみりゃあ、お前みてえな馬鹿が、どうして入隊できたか分からんくらいの超能力集団だ!」

「先輩にだけは、言われたくないんですけどもね」

「……ま、いいや! いくらダンがおかしな事を言おうが、とにかくウルトラ警備隊に、宇宙人が紛れてるわけじゃないって分かって一安心だ!」

「ングゥ!?」

 

しまった! 息が詰まるッ!

 

「……ゴクン! ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~!?」

「おい! なんだよいきなり、うるせえな!」

 

あんまりにヤバイ事を大声で言うもんだから、慌てて丸呑みしちゃったじゃないか!

フライ定食のメインを、楽しみに最後までとっておいたんだぞ!

それを一つも嚙まないで……のどごしで味わうものじゃねえんだよ!

 

「こっちのセリフだ! 返せよ! 俺のクリームコロッケ!」

「なんのことだよ、言いがかりも大概にしやがれ!」

「へえ、そんな事言っていいんですか……? 催眠にかけてやるぞ?」

「な、なんだよ……出来るもんならやって見ろ!」

「あなたはだんだん、俺に昼飯代を奢りたくなーる……奢りたくなーる……」

「……なる訳ねえだろ、馬鹿」

「効かなかったか……」

「ちょっとお二人さん、食べながら騒ぐと、お行儀が悪いですよ」

 

お盆にハヤシライスを乗せた好青年が、苦笑しながらそう注意してきた。

 

「オッ! 来やがったな、宇宙人!」

「えッ!?」

 

フルハシの指摘に、驚愕の表情で固まるダン。

 

「……どうして、それを……!?」

 

時間が消され、俺とフルハシはゆっ……くりと顔を見合わせた。

 

「「ハッハッハッハッハ!!」」

「なにを笑っているんです!?」

「いやあ、やるなあ! ダン、どうした? 今日はえらくノリがいいじゃねえか!」

「今な、ウルトラ警備隊はもはや超能力者集団だという話をしていたのさ」

「なんだ、そういうこと……良かった」

 

ほっとした顔で胸を撫でおろしたダンが、フルハシの隣に座る。

 

「そういうこと! ダン、お前が宇宙人だとすると、さしずめソガは未来人で、俺は不死身の改造人間だな! へっへっへ!」

「「ハ、ハハ……」」

 

フルハシの冗談に、苦笑いを返すしかない二人。

そうだよ、この中じゃあ、この人が一番純粋な超能力者に近いじゃん。

げに恐ろしきは野生のカンよ。

 

「それでさ、俺の催眠術を先輩に仕掛けてるんだが、一向に効きやしない」

「へん、俺様の肉体に、お前のヘロヘロ催眠が効くかよ」

「じゃあぼくが、本当の超能力というのをお見せしましょう」

 

いやそれはマズイ! やめろダン! 念力の無駄遣いだぞ!

 

「フルハシ隊員は、これから僕のパトロールを交代したくなりますよ」

「そんなわけねえだろう」

「本当に? それはそうとフルハシ隊員……カレー、もう一杯いかがですか? 奢りますよ?」

「んっ!? ウムムム……」

「……しかも、カツまで付きます」

「う、うグググ……アーしまった―! 今更暗示が効いて来やがったーッ! 俺が、こんな催眠術に負けるわけがっ……ワタシハ、ダンノ、パトロールヲ、コウタイシマス」

「「ハハハハハハ!」」

「いやー、ダンには敵わないな、流石は本場の宇宙人だ。ハハハ!」

「ええ、そうでしょう! ハハハハハ! ……え?」

 

因みに次の日、ウエノとヨシダは、ちらし寿司をかっ食らっていた。

明日はひな祭りだったのだ。




てなわけで、16話「闇に光る目」もとい、ダンとソガが他のメンバーからどう見られているか? というお話でした。

彼ら、宇宙人相手に戦っているのに、「本当なんです! 信じて下さい!」を一体何回すれば気が済むのか……
「嘘をつくなよ、ハハハ!」じゃないよ、何わろてんねん。

さて、キングジョーにケリをつけるために毎日更新してましたが、しばらくはまったり不定期更新に戻ると思います。

流石にこの時期は忙しくて……警備隊ほどじゃ、ないでしょうけど。

気長にまったり更新をお待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。