転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
長編だったので、ここらでひとつ、休憩です
ある日、警備隊の食堂にて
「……どうしたんです、先輩? 今日はえらく匙の進みが遅いじゃないですか。まだおかわり二杯目なんて」
「うん……」
キングジョーとの激闘を終えて、ようやく平常運転に戻りつつある警備隊基地。
……え? アンノン?
ああ、彼にはなんとか誤解を解いて帰って貰ったよ。
俺が必死に土下座しても半信半疑だったのに、セブンの取り成しですんなり帰っていったのは、ちょっとむかついたが……なんか原作以上に、セブンの説得に熱が入ってたのは、あながち気のせいではないだろう。
岩石で構成された体を持つアンノンは、文字通り巌のごとく頑迷で頭が固いが、ペダン星人と違って、虎眼石のように高潔だ。セブンの言葉を信じて、筋肉代わりの硫黄ゴムほどじゃあないが、それなりに柔軟な対応を見せてくれた。
そんでもって束の間の平和を謳歌する今日は、フルハシ隊員と昼食のタイミングが一緒だったので、そのまま同じテーブルだ。
でも、彼の様子がおかしい……いつもはアッと言う間に、カレーを3杯ペロリと平らげてしまうのに……
まさか……また宇宙人と入れ替わってる!?
……いや、ちゃんと瞬きしてるな。
じゃあ、この前の輸送任務失敗を気にして……いや、蜂を操ってた黒い奴を倒して、隊長から褒められてたはずだ。
だったら……なんだ?
「……うん、やっぱりお前だ。お前しかいない。なあソガ、俺の悩みというやつを、一つ聞いちゃくれないか」
「ほう、悩み。……ま、ええでしょう。なにせ、年中悩みの無さそうな能天気が、俺の唯一の取り柄らしいんでね」
「古い話を蒸し返すなよ。それでだな……ソガ、お前……超能力って、信じるか?」
「……ハァ?」
「なあ頼むよ、こっちは真剣なんだ。こんな話、アマギは取り合っちゃくれないし、アンヌに聞かれて、精神病棟にぶち込まれちゃかなわん! その点お前は、なんだか怪しげな魔術だか占いだかに、ドップリはまってたじゃないか?」
「ああ……ね」
確かにソガ隊員は、原作でも星占術だの迷信だのをよく気にする男だ。
もちろんこの世界の私室にも、オカルトグッズがいっぱいあって、オレも仲間の説得が面倒な時は、これ幸いと利用させて貰っているが……
「真面目な悩みなら、隊長に相談したらいいじゃないですか」
「お前、正気か? 万一知られでもしたら『栄光あるウルトラ警備隊員が、オカルトなどと、不抜けた事を抜かすんじゃない!』と、こうだ! お前みたいにド突かれるのは御免だぜ」
いや、意外とあの人、その手の話大好物なんだけどな……まあしょうが無い。鬼の隊長が、占い信じてるなんて、それこそ信じられんわな。
可哀想だし、付き合ってあげようじゃないか。
「ええもちろん。といいますかね、我々が日夜相手にしてるのは何ですか? エイリアンですよ、宇宙人! 一昔前じゃUFOなんて、超能力と同じオカルト扱いだったんですから、なんで超能力だけは否定しなきゃならんのか? これがわからない」
「いやあ、宇宙人はいいんだよ。俺達のよく分からない科学だか、生態だかをしてるんだからさ。でもな? 人間の、同じ体のつくりをした奴が、やれサイコキネシスだテレパシーだ! どうやって出すんだ、そんなもん」
「ははあ」
そういって、顔の目の前にスプーンをもって行き……ふんっ、と寄り目で睨みつけては、おどけて見せる。
なるほど、言いたいことは分かる。じゃあアマギですら納得できるような、科学的こじつけを聞かせてやろうじゃないか!
「サイコキネシス、ありゃあ、まやかしです。手品のトリックみたいなもんなんで、この際省きますが……予知夢やサイコメトリー。これは強ち不可能じゃない」
「なにい?」
「人間の脳っていうのはね、普段はほんの数%しか使用していないんです。でもね、たまにその活用範囲が凄く高い奴が居る。アマギを見てご覧なさいよ、あれが俺達と同じ脳味噌を同じ分だけ使ってるように見えますか?」
「いや……確かにあれは違う人間だ」
「そしてね先輩、デジャヴって聞いた事あります? ふとした拍子に、『あ、この場面見たことあるぞ』ってなるアレ」
「ああ! それなら俺もわかるぞ! でもそんなのは気のせいさ」
「ところがそうじゃない。あれはね、ちゃんと見たことがあるんです。……過去にね」
「未来の事を、どうして昨日見れるんだい」
「先輩、この食堂を見てください」
そういって、防衛軍の食堂を見渡す俺達。
たくさんの隊員達が食事をしている。
「今日、ここで誰と誰が、何を食べていたか。明日全部覚えてられますか?」
「無茶言うなよ。俺はな、明日の献立表すら覚えられないんだぞ」
「でもね! 覚えてるんですねコレが! 俺達は忘れてしまったと思い込んでいるが、脳にはちゃーんと記憶されているんです。ただ、それを引き出す事ができない! これが上手いのが、ドロシーアンダーソンのような、瞬間記憶保持者ですよ」
「ははあ、なるほど」
「瞬間記憶は、超能力じゃ、ありませんか?」
「……お前の言いたい事が、読めてきたぜ。結局のところ、人間の能力の延長線上だってわけか。でもそれで、どうして未来がわかる?」
「ここからですよ……あすこに、ウエノ隊員とヨシダ隊員がいるでしょう?」
少し離れた席で、長距離通信員のヨシダと、予備通信員兼警邏員のウエノが、面を突き合わせて一心不乱に丼を掻き込んでいる。同期の彼らは、職務的にたまたま昼休憩のシフトが同じなのだ。
「ああ、いるな。今日も仲良く食ってるが……ありゃあ、親子丼か?」
「では当ててあげましょう……明日の彼らは天丼を食う!」
「なんでぇ?」
「超能力的に言うと、俺の味噌汁がそう予言したからです。うーん、この豆腐とワカメの相が……種明かしをすると、彼らは毎週同じサイクルで丼を食うからです。親子丼の次にカツ丼を食うと、卵綴じが被る」
「お前そりゃあ、推理と言うのであって予言じゃ……ああ!」
「そう! 意識か無意識か、結局はその違いなんですよ。昨日より前の記憶が、ふとした拍子に浮かんできて、それを材料に、脳が勝手にこれからの事を推理する。でも理由は分からない。じゃあそうか、これが予知夢という奴か。いかがです? これならアマギも首を縦に振るはずです」
俺がでっち上げを堂々と言い切ると、フルハシは得心いった顔で何度も頷く。
「おおそうか! じゃあ……お前がいつも未来予知を使ってる訳じゃあ無いんだな!」
「ブフォッ!!」
「うわっ! 汚えなぁ……」
「ゲホッゲホッ……人が茶を飲んでる時に、変な事いわんで下さい!」
「確かに未来予知ができる訳じゃあ、なさそうだ……」
アンタ、そんなこと思ってたんなら、本人に聞くなよ!
「だったら本命だ……実はな、お前ともう一人……超能力者に疑わしい男がいる」
「……ああ、ダンか」
「やっぱり! お前もそう思ってたか!」
まあ、あからさまに怪しいもんなアイツ……やっぱりフルハシにすら疑問視されてたのか……良かった。もしもの為に理論武装しといて。さて……
「実はな……奴がおかしな事を言い出す前に、それが分かる時がある……ダンの目が、キラリっと光るんだ!」
「ンブフォッ!!」
「おい! バッチイなぁ……」
「エホッエホッ! 人がねぇ! 味噌汁飲んでる時にねえっ! あかん、豆腐が鼻に入った……」
いやいや、確かにダンが人間態で超能力使う時、目が光ったりする描写があるけど……
あれ見えてんのかよっ! 聞いてねえよ!
視聴者に分かりやすくするためじゃなかったのか!?
「最初は、奴の瞳が青く見えたような気がして、アラ? 光の加減かしら? と思ったんだがなぁ……最近確信したよ。チラっと星が瞬くみたいに光が反射するんだ。すると向こうに何か見える、変な音がすると言いやがる……透視でも使ってるんじゃないかとね」
「あー、可視領域と可聴領域って知ってます?」
「カシ……課長?」
「人間が見たり聞いたりできる、光や音の範囲の事です。赤外線や紫外線ってのは、人間の目に見えないが、ヒラヒラ飛んでるチョウチョなんかは、逆にこの紫外線しか見えない。我々とは、全く違う世界が見えてるんです」
「そうなのかい?」
「そして音、モスキート音ってあるでしょう? 蚊の羽音みたいな高い音の周波数は、歳をとるとどんどん聞こえなくなってくる……」
「そんな話、聞いた事無かったぜ……」
「ところがね、たまーにこれが感じられる人間がいるらしいんですね!」
「そんなの、眉唾ものじゃないか?」
「でも、逆を考えてみて下さい。世の中には色が見えない人間もいる。現にウエノはあんなに優秀なのに、緑と赤のランプが咄嗟に見分けられなくて、パイロット試験に落ちた。でも、彼と我々の世界がどう違うのか、言葉で説明できますか?」
「ううん……」
「感じる世界が違うと言うことは、それが見えない者からは理解できない。それが持つ者と持たざる者の差なんですよ」
「つまりダンの奴ぁ、人よりちょびッと目と耳がいいだけって事か?」
「かれの光彩が突然変異でもしてるんじゃないですか? のどちんこ二つに裂けてる奴いるでしょ。あれとおんなじ」
「へぇ、珍しい奴がいたもんだ!」
「なにを他人事みたいに笑ってるんです。俺から言わせればね、フルハシ先輩の方がずっと超人ですよ」
「俺ぇ?」
自分を指さし素っ頓狂な声を上げるフルハシ。
「ホークであれだけグルグル回って、ピンピンしてるのは、明らかに人間の限界を超えてます。いくらハーネスが付いてるからって、隣で立ってる我々の身にもなってくださいよ! 何回、視界が真っ黒になったか!」
「分かった分かった、次からは気をつけるよ……」
「電撃を浴びても生きてるようなアンドロイドの言うことは、信じられませんね!」
「……へへへ、俺は無敵のアンドロイドか、いいね、気にいったぞ!」
「いや別に褒めたわけじゃ……」
アンタは念力なしでも、指一本でスプーン曲げくらい簡単にできるだろうが。
そっちの肉体のほうが、よっぽど超能力だっての。
しかし、フルハシは、嬉し気な顔を再び引き締めると、疑問点を質問する
「……で、その説の化学的根拠は、どこにいったら読めるんだい」
「……先輩、そうやってすぐに裏付けでオカルトを否定しようってのは、科学教徒の悪いところですよ」
「科学教だとぉ?」
「そうです、科学を信奉するのもいいですけどもね、あんまり傾倒しすぎると、狂信者のソレとおんなじです。物理的にありえない事は、全部まやかしだ! と決めつけるのと、神の教えに載っていない事はすべて悪魔のささやきだ! と言い張るのと、どう違うっていうんです?」
「時々、お前はわけのわからん事をのたまい出すからなぁ……難しくって、俺にゃあサッパリだ」
「簡単に言うとね、科学で解明できない事柄は、そこに存在しないんじゃなくて、確かにそこにあるんだけれども、まだ人間にはその世界が見えるくらいまで、発達していないだけかも知れん、という事ですよ。超能力ってのはね、なにも人知を超えた能力だけではなくて、超スゴイ能力の略かもしれないんです」
「はあ……なるほどねぇー」
その顔、絶対分かってないだろ。
……でも安心してくれ、オレも分かってねえからさ。
フルハシを煙に巻けたみたいなので、すっかり冷めてしまった食事を再開する。
「そもそも率いてるのが精神的超人の隊長だし、アンヌはなんでも癒してしまうし、アマギは頭アマギだし、俺はこんなにも眉目秀麗! ウルトラ警備隊に、超能力者じゃない人なんて一人もいませんよ」
「まったくだ! 言われてみりゃあ、お前みてえな馬鹿が、どうして入隊できたか分からんくらいの超能力集団だ!」
「先輩にだけは、言われたくないんですけどもね」
「……ま、いいや! いくらダンがおかしな事を言おうが、とにかくウルトラ警備隊に、宇宙人が紛れてるわけじゃないって分かって一安心だ!」
「ングゥ!?」
しまった! 息が詰まるッ!
「……ゴクン! ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~!?」
「おい! なんだよいきなり、うるせえな!」
あんまりにヤバイ事を大声で言うもんだから、慌てて丸呑みしちゃったじゃないか!
フライ定食のメインを、楽しみに最後までとっておいたんだぞ!
それを一つも嚙まないで……のどごしで味わうものじゃねえんだよ!
「こっちのセリフだ! 返せよ! 俺のクリームコロッケ!」
「なんのことだよ、言いがかりも大概にしやがれ!」
「へえ、そんな事言っていいんですか……? 催眠にかけてやるぞ?」
「な、なんだよ……出来るもんならやって見ろ!」
「あなたはだんだん、俺に昼飯代を奢りたくなーる……奢りたくなーる……」
「……なる訳ねえだろ、馬鹿」
「効かなかったか……」
「ちょっとお二人さん、食べながら騒ぐと、お行儀が悪いですよ」
お盆にハヤシライスを乗せた好青年が、苦笑しながらそう注意してきた。
「オッ! 来やがったな、宇宙人!」
「えッ!?」
フルハシの指摘に、驚愕の表情で固まるダン。
「……どうして、それを……!?」
時間が消され、俺とフルハシはゆっ……くりと顔を見合わせた。
「「ハッハッハッハッハ!!」」
「なにを笑っているんです!?」
「いやあ、やるなあ! ダン、どうした? 今日はえらくノリがいいじゃねえか!」
「今な、ウルトラ警備隊はもはや超能力者集団だという話をしていたのさ」
「なんだ、そういうこと……良かった」
ほっとした顔で胸を撫でおろしたダンが、フルハシの隣に座る。
「そういうこと! ダン、お前が宇宙人だとすると、さしずめソガは未来人で、俺は不死身の改造人間だな! へっへっへ!」
「「ハ、ハハ……」」
フルハシの冗談に、苦笑いを返すしかない二人。
そうだよ、この中じゃあ、この人が一番純粋な超能力者に近いじゃん。
げに恐ろしきは野生のカンよ。
「それでさ、俺の催眠術を先輩に仕掛けてるんだが、一向に効きやしない」
「へん、俺様の肉体に、お前のヘロヘロ催眠が効くかよ」
「じゃあぼくが、本当の超能力というのをお見せしましょう」
いやそれはマズイ! やめろダン! 念力の無駄遣いだぞ!
「フルハシ隊員は、これから僕のパトロールを交代したくなりますよ」
「そんなわけねえだろう」
「本当に? それはそうとフルハシ隊員……カレー、もう一杯いかがですか? 奢りますよ?」
「んっ!? ウムムム……」
「……しかも、カツまで付きます」
「う、うグググ……アーしまった―! 今更暗示が効いて来やがったーッ! 俺が、こんな催眠術に負けるわけがっ……ワタシハ、ダンノ、パトロールヲ、コウタイシマス」
「「ハハハハハハ!」」
「いやー、ダンには敵わないな、流石は本場の宇宙人だ。ハハハ!」
「ええ、そうでしょう! ハハハハハ! ……え?」
因みに次の日、ウエノとヨシダは、ちらし寿司をかっ食らっていた。
明日はひな祭りだったのだ。
てなわけで、16話「闇に光る目」もとい、ダンとソガが他のメンバーからどう見られているか? というお話でした。
彼ら、宇宙人相手に戦っているのに、「本当なんです! 信じて下さい!」を一体何回すれば気が済むのか……
「嘘をつくなよ、ハハハ!」じゃないよ、何わろてんねん。
さて、キングジョーにケリをつけるために毎日更新してましたが、しばらくはまったり不定期更新に戻ると思います。
流石にこの時期は忙しくて……警備隊ほどじゃ、ないでしょうけど。
気長にまったり更新をお待ちください。