転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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マッハセブン!セブン!セブン!(Ⅰ)

「いいか、次郎君の救出は、1分の無駄も許されない。だからまず、地底1000mまでしゃにむに潜る! あとは、平行移動しながら事故現場に接近する」

「ハイ!」

 

地下1000mの坑内に、一人の若者が生き埋めになった。だが、さらに落盤の恐れがあるため現場に近づくことすらできず、事態はまったく絶望視された。そこで炭鉱側では、落盤事故の原因に不審な点があることなどからウルトラ警備隊に連絡。生き埋めになった次郎の救出と事故の調査を依頼した。知らせを受けたウルトラ警備隊では、直ちにキリヤマ隊長以下、隊員たちが現場に急行、事故の究明にあたったのである。

炭鉱事務所前の広場に駐機された、巨大なマグマライザーを背に、キリヤマ隊長の訓示を受ける警備隊のメンバー。

 

「それともうひとつ大事なことは、謎の地震源を探ることだ。地底はいわば未知の世界だ。何が潜んでいるかわからん。十分注意して行動してくれ……行けっ!」

「「「「ハイッ!」」」」

 

指示を受け、マグマライザーに乗り込む、ダン、アマギ、アンヌ、そして俺の4人。

落盤事故なんだからと、最初っから運んできておいて良かった。

今回は巨大怪獣戦もないもんだから、フルハシ以外の全員で、大型輸送機に載って来たのさ。

俺達が到着してから、もっかいマグマライザーを要請するなんて、時間の無駄だからな。

 

「マグマライザー、スタンバイOK」

「よし、発進!」

 

エンジンの重々しい響きと共に、ゆっくりと動き出す頼もしい巨体。

さあ、地球の果てまでアクセル踏んで、若い命へGO!GO!GO!

 

「ジェットドリル、超振動確認!」

「削岩開始!」

 

超振動波を利用したジェットドリルが、土をどんどん掘り返していく。

硬い岩盤地層に到達したら、削岩レーザーの出番だ。

ブラックボディのマグマ号、みんな見てくれ底力ってな!

 

「しかし今回の事件に、二号機の建造が間に合って良かったよ」

「一号機は、お前が派手にぶっ壊してしまったからな。車軸を丸々交換する手間を考えたら、造りかけのもう一台を完成させた方が、手っ取り早いくらいさ」

「もともとこいつが量産予定で、助かったというわけか」

「そりゃあそうですよ。なにせあのキングジョオを、たった一台で引き留めたんですからね、防衛軍もマグマライザーの性能に熱を上げるはずです。追加の予算が下りたのも、ソガ隊員のおかげですから、トントンでしょう」

「こいつの助けになれたってんなら、俺も怖い目に遭った甲斐があるぜ」

「ソガ隊員は本当にマグマが好きね」

「俺とこいつは、既に一度、一蓮托生の仲だからな。立派な相棒だよ」

「生みの親は俺だけどな」

「だからアマギにも感謝してるって! なにせ、我々の命の恩人だからな!」

 

がりがりと地底を掘り進んで、どんどん地球の中心へ進んでいくマグマライザー。

深度が深くなるにつれて、機体へかかる圧力も増していくが、まるでびくともしない頑強さ。

なかなかいい調子だ。

 

「深度600m。進路に異常ありませんか?」

「進路に異常なし」

「了解……前方、花崗岩地帯」

「前方障害爆破!」

 

地上で地底ソナーを確認するキリヤマ隊長の誘導で、軌道を修正しながら、硬い岩盤はレーザー砲で破壊して、スピードを緩めることなく、順調に堀進む。

 

マグマライザーが潜って行く先では、一人の青年が、籠の中のハツカネズミを気にかけていた。

いつの間にか漏れ出た地下水が、ネズミの籠に垂れており、水滴に打たれたチュウ吉が、その冷たさに悲鳴を上げたからだ。

 

「炭鉱の中で溺死しちゃあ、つまらねえもんなぁ……」

 

赤い籠をそっと移動してやる青年の名は、薩摩次郎。

落盤事故の際、本来は逃げられたはずの所を、ペットのチュウ吉が置き去りになっているのを見捨てられず、崩れた坑道にたった一人取り残されてしまっていた。

ペットとはいえ、ネズミ一匹のために、大事な命を危険にさらすなんて、人は彼を大馬鹿者と評するだろう。

でもそんな事は次郎にとってちっとも関係ない。ネズミだろうが人間だろうが、この地球で生きてる大切な命に違いないじゃないか。

彼は、呆れるほどに純粋で、渓谷の様に深い博愛精神と、山脈のように気高い自己犠牲を秘めていた。

だからこそ、地球は救われる事になったのだ。

 

「俺はミラクルマンだ。そう簡単にはくたばらんぞ……なぁ、チュウ吉」

 

そうカラ元気で笑いかける青年の顔は、なんとモロボシ・ダンと瓜二つではないか!

何を隠そう、この薩摩次郎青年こそ、ウルトラセブンが地球にやってきて初めて出会った地球人なのだ!

 

鉱山仲間のミズキと二人で登山に行った際、突然の地震いで、滑落した次郎。

彼の腰は、上を行くミズキとザイルで繋がっており、ミズキはなんとかそれを引っ張り上げようとしたが、収まらぬ地震でアンカーも抜けてしまい、このままでは次郎だけでなく、彼まで道連れになってしまう。

そこで次郎は迷いなく自分のザイルを切り、200mの谷底へ落ちる事を選択した。

 

そのとき現場に居合わせたセブンが助けなければ、確実に死んでいただろう。

彼の勇敢な行動と精神に深く感銘を受けたセブンは、次郎の姿と魂をモデルにして、モロボシ・ダンという地球人態を手に入れたのである。

この事故から生還を果たした次郎は、気絶していた本人も含めて、セブンの活躍など預かり知らなかった為に、仲間内では、不死身のミラクルマンと渾名されている。

 

彼がネズミの為に命を懸けるような男でなければ、万単位の寿命を持つM78星雲人から見て、換算20日程度も生きられぬような小さな地球人の為に、セブンが体を張るような事も無かったはずだ。

彼を笑う事は、セブンを笑うも同じ。

だからこそ、たった一人の大馬鹿者の為に、鉱山の仲間と、ウルトラ警備隊が総力を挙げて救出作戦を行う事も、何一つ間違った行為ではないのである!

命に貴賤など有りはしない!

 

徐々に濃度を上げる火山ガスに目が霞んでくる次郎。

地下水で目を清め、なんとか視界を確保する。

 

「くそぉ、見えねえよ……! 助けてくれるなら、早いとこ頼むぜ……」

 

苦し気に呻く次郎の声は、マグマライザーで不安げに眉を寄せるダンの耳にも、まだ届かない。

 

「深度1000m」

「よし、水平移動。北西15度に進路」

「了解」

 

誘導に従って北西に進路をとり、しばらく進むと、ぽっかりと開いた地底空間に出たマグマライザー。

 

「火山帯の風穴じゃないのか? アンヌ、進路は?」

「北西に伸びています」

「いよし! 都合がいいや、最大速度で突っ切ろう!」

「了解!」

 

掘り進まなくていいならば、最高時速の100キロで突っ走ることが出来る。

セブンやホークみたいにマッハとまではいかないが、それでも地底潜航時の4倍だ。

走り出したら後には引けぬ。

とばせ正義の警備隊!

 

「次郎君……がんばれよ……!」

「ダン……」

 

決然とした顔で、操縦席のアクセルペダルを全開に踏むダンへ、オレは改めて尊敬の念を抱く。

自分と同じ顔の薩摩次郎が救出されて、ひょっこり対面でもしたら、正体がバレてしまうのではないかとか、そういった事はいっさい考えないんだな。お前って奴は。

原作には、崩れた坑道内で薩摩次郎の姿を、パイプ越しにダンが透視し、やっぱりあの青年だ、彼は僕の分身だ、と呟くシーンがある。

この話を見ていた子供のオレは「だから僕が直接に彼を助けに行くわけにはいかない。どうしよう」という話が展開するのだと思っていた。

ところが、その後に続くダンのセリフはオレの予想を裏切り、「なんとしても助け出さねば!」だった。

当時からひねくれ者だったオレは、この時に彼の精神性って奴に感心したね。

だからセブンはヒーローなのだな……と。オレにはとてもできない。

 

ここまでノンストップで、軽快に地底をかっ飛ばしていたマグマだったが、ついにその足を止める時が来る。

 

「前方に障害物」

「よし、ぶっ飛ばそう」

 

削岩レーザー砲を発射するが、ビクともしない岩盤。

 

「レーザーでもダメか…」

(いや、これはただの岩石ではないぞ……ひょっとすると謎の地震源……?)

「マグマライザー、どうしたんだ!?」

「岩盤とは別の、謎の障害物に阻まれたようです。あともうちょっとなのに……」

 

アンヌがそう悔しがったその時、通信機の向こうが俄かに騒がしくなる。

しばらくすると、隊長の焦った声が聞こえてきた。

 

「緊急事態発生! 事故現場の空気口が塞がった! ……いいか、ガスの発生を考えると、せいぜいあと30分だ。アマギ、マグマライザーにはMS爆弾が積んであったはずだな? 不自然な障害物があるなら、それで吹き飛ばしてみろ。とにかく現場へ急行するんだ!」

 

その時、地底空間に響く謎の音。

ゴウンゴウンと、大きな重機でも動かしているような……

 

「なんだ……あの音は?」

「しまった!ワナだ!」

 

マグマライザーの後方に金属壁が下りてきて、がっしりと退路を断たれる。

 

「こちらアンヌ、本部応答願います、本部応答願います……!」

「遮断装置がしてあるんだ」

「せっかくここまで来たのに……」

 

アンヌとダンが、それぞれ手元の腕時計を見るが、最新鋭のタイマーも、地上からの補正電波を受信できず、てんで狂ってしまっている。この場所は不穏な電磁波が渦巻いているのだ!

 

「こうなったら、隊長の言う通り、前方を爆破して突き進むしかない!」

「しかし、こんな場所で使うつもりか? 下手をすると全員ふっとぶぞ!」

「なあに、心配するな。 あのキングジョーですら壊せなかったんだぞ! もうちっとは、自分の設計を信用しろって!」

 

まったく、アマギの爆発物恐怖症は、軽減されたとはいえ、完全克服まではあと少しばかりかかるみたいだな。

 

「ダン、手伝うよ」

「ではソガ隊員はあっちへ、僕がこっちを!」

「タイマーには余裕を持たせろよ? 急がば回れだ」

「分かりました!」

 

前方の金属壁へ爆弾をセットし、マグマライザーへ戻ってくる俺達。

後部ハッチの扉を閉めた後、轟音と共に機体が揺さぶられるが、流石はマグマだ、なんともないぜ!

濛々と立ち込める土煙に状況がわからないが、グランドソナーは前方の障害がなくなったことを示していた。アマギがアクセルを踏み前進!

 

「あともう少しで、目的地点よ!」

 

次郎は、かすれた視界に、突如として銀色の三角錐が差し込まれたのを見て、ついに自分の最期を悟った。

天使ってのは、どうやら俺達炭鉱夫みたいにドリルで壁を突き破って地獄まで来るらしい。

ずいぶんと荒くたいお迎えだぜ……輝く羽も生えてねえじゃねえか……えらく地味な天使がいたもんだ。

 

「次郎君!」

 

ダンが駆け寄り、助け起こすと、微かにうめき声が聞こえる! 間に合ったのだ!

 

「お前も、よく頑張ったな」

「チチュウ!」

 

俺は赤い籠を引っ掴み、また輝かしい活躍をしたマグマライザーを振り返る。

 

「ダン、あとは地上の空間へ……」

 

想定を遥かに上回るほど順調に進んだ地底旅行へ、思わずクスッと笑みがこぼれる。

 

「脱出するだけだ!」

 

地上GO!GO!GO!




はい、というわけで、第17話「地底GO!GO!GO!」でした。

強化されたマグマライザーの前では、なんてことありませんでしたね!
無事に薩摩次郎を救出して終了!

……ん? サブタイトルの様子が……?
なんだこの数字?

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