転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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こんなふざけたサブタイしか思いつかなかった作者を許してくれ……

中身は真面目なんです! 本当なんです! 信じて下さい!


Xしないと脱出できない空間(Ⅰ)

ついにこの日が来てしまったか……

誠に憂鬱極まりない。

 

「「ハァ……」」

 

思わず、隣のアマギと溜息のタイミングが被る。

俺達は今、上空数千メートルの訓練機の中。

 

このところ目立った事件もなく、月一の特別訓練を珍しく万全の状態でできる(ダンが来てからは、毎回誰か……たいてい俺が負傷中なので、全員揃うのは初)ときた。

すると、なんと隊長が落下傘による空挺降下の訓練をすると言い出すではないか。

また……余計な事を……!

いや、ウルトラ警備隊は特殊部隊だから、スカイダイビングも必要なんだとは思う。思うけどさ……本編でもそんな機会なかったじゃんか! 余計な事を……!

 

だもんで、訓練機の中で俺達は暗い顔しながら揺れている、という訳だ。

まず、アマギは高所恐怖症。これは原作通りで、本来はこのシーンで項垂れているのは彼だけだ。

そんでオレも……高所恐怖症。いや、俺の記憶は、これを楽しいものだと認識している。たまにダイビングやバンジーを進んでやるような気チガi……いや失礼、奇特な方がいらっしゃるが、どうやら原作ソガもその類だったようだ。

だが、オレの心は嫌がっている。体はワクワクして仕方ないのに、なんとも不思議な感覚だなぁ。

……隊長! 俺はつい最近、地上50mから垂直落下した経験にトラウマがあるので、今回は免除という事に……なりませんかそうですか……

 

だから心を無にして、体に身を任せればいい分、アマギよりはマシ……なんだが、憂鬱なのはフリーフォールが怖いからだけじゃない。

今回は……俺とアマギが、それよりもっと酷い目に遭う回だからだ……

 

この訓練中に俺達二人だけが、ベル星人の謎空間に捕らえられてしまい、なんとか救出されるという流れなんだが……底なし沼に嵌るわ、ダニだの、クモだの最悪だ! ……え? そんなに嫌なら落下のタイミングを遅らせればいい? そうもいかない。 俺達がたまたま引っ掛かったお陰で、地球に潜むベル星人を倒すチャンスが到来するんだから! オレがそれをスルーした結果、ここ一番の大事な場面で、ホークを丸ごと拉致でもされちゃ、そっちの方が一大事だ。

 

我々二人の災難で、恐ろしい宇宙人を排除できるなら安いもんだ。一応、どれだけ酷い目に遭っても死にはしないし……

 

「俺に続け、行くぞ!」

「はいっ!」

 

ああ、もう始まっちゃった……

アンヌもよくあんな嬉々としてダイブ出来るよなあ……あ、なんか恋人とスカイダイビングする外人多いし、あれか? 空中デートか? いいなあお前らは……

だめだ、もうフルハシが落ちた。俺達の番だ。

 

「さぁ……」

「ううっ!」

「アマギ隊員どうした!? (知ってるけど)」

「キミ……お先にどうぞ」

「いやいやどうぞどうぞ」

 

元はと言えば、お前がすんなり行かないから、落下のタイミングがズレてソガが巻き込まれるんだぞ!

だから何がどうあっても、アマギには地獄のダイビングに付き合って貰う! 俺が怖いからだ!

一人で行けるか、あんなトコ! お前も道づれだぁ!

 

「スカイダイビングは、弱いんだよぉ……」

「バッキャロォ! オレもそうだよ! まったく、電子計算機ばかり相手にしてるからだ! いいか、ぐっと目を閉じる、息を深く吸い込んで……ワン! ツー! スリィイ!」

「へぇあぁぁぁぁぁぁ……!」

「さて……ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!!」

 

 

とんで!とんで!とんで!とんで!とんで!とんで!とんで!とんび!とんで!

まわって!まわって!まわって!まわぁあるぅうぅうううううううううううう!

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

気がつくと鬱蒼とした森の中で一人ぼっちのアマギ。

 

「隊長ぉお! フルハシ隊員ー! ソガッ! 皆どこにいるんだあ!」

 

彼が大声をあげると、それを合図に、親指サイズもあるダニのような虫が無数に飛びついてくる。

全身をちくちくと刺されるアマギ。なんてこった、こいつらは吸血昆虫だ!

手で叩き潰すと、真っ赤な体液を撒き散らし、手袋の上からでもピリピリと痺れる感覚がある。その上に毒虫と来やがった!

なんとか振りはらい、ウルトラガンで片っ端から焼き払ってもキリがない!

仕方なく森の中を逃げ回ることに。

 

「隊長ーっ! ……皆、どこにいるんだぁぁあ! ああ! ソガ!!」

 

なんと木に引っかかっているソガを見つけた!

 

「ソガ! ……ソガ! 返事をしろ!」

「このもりは、まるでふつうの、もりではない……そが」

「おいソガ! 勝手に気絶するな! 辞世の句なんか詠んでる場合じゃないぞ!」

 

その時、まるで鈴虫の音色を数百倍にしたような、不快な音波が二人を襲う!

脳を直接揺さぶられるみたいだ!

 

リリリリリリリリリリリリリリリリ……!

 

ふと見上げると巨大なセミともゴキブリともつかぬ姿の宇宙人が、ゆらりと幽霊のように立っているではないか……!

 

「こいつか……!」

 

ウルトラ・ガンで攻撃するアマギとソガ。

命中! しかし分身して、また別の場所に姿を現す。

そちらにも攻撃するが、今度はグラスを弾いたみたいな奇妙な音と共に、ふっつりと姿を消してしまう。

 

「なんて森だよ……まったく!」

「本部! 本部! ……だめだ繋がらない……」

「きっと森の中だからだ。シーバーが通じる場所を探そう」

「うん……」

 

そうしてソガが足を踏み出したその時!

 

「あっ」

 

ずるりと足を滑らし、山の斜面を転がり落ちていく!

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!!」

「ソガァー!?」

「た す けてェ~~エ!」

「いまいくぞー!」

 

アマギが慎重に崖を降りていくと、木々の切れ間に、大きな沼があり、そこへソガは転がり落ちてしまったらしい。

 

「ソガ! 今行くぞ!」

「来るな! 底なし沼だ! ロープを! ローpくぁwせdrftgyふじこlp! ダニィ! 何をするだァーッ!」

 

沼の中にも巨大なダニやヒルが潜んでいるらしく、半狂乱で暴れるソガ。

アマギが腰のポーチからロープを取り出し、なんとか彼を救出する。

 

「ハァ……ハァ……酷い目に遭った……ちくしょう、泣いていいか? 泣くわ……ううっ……」

「だがソガ、お前のお陰で、木々の切れ間が見つかった。通信してみよう! アマギより本部へ! アマギより本部へ!」

 

しばらく呼びかけると、繋がったらしい。

シーバーから聞こえる、待ちわびた上官の声。

 

「キリヤマだ。二人とも今までどこうろついていたんだ。2時間も空を散歩してたなんて言い訳は、許さんぞ!」

 

隊長の口調は厳しいが、彼の怒った声すらもが、こんなに嬉しいなんて!

思わず笑みを浮かべて、返事も忘れてお互いの顔を見合わせる。

 

「おい! アマギ、ソガ、聞いているのか」

「はい隊長、我々のいるここは一体どこなんです?」

「寝ぼけたことを言うな! それはこっちの台詞だ。現在地を知らせろ!」

「とおっしゃられても、我々にもよくわからないです……」

「地球じゃないかもしれません……」

 

しかし、どこからともなく再び鈴の音が聞こえてくる。

リリリリリリリリリリリリリリリリ……!

今頃、本部でもダンが耳を押さえているはずだ。

 

「ううう……!」

「宇宙人に襲われています!」

「なに! 宇宙人!? おいしっかりしろ! 場所はどこなんだ!」

「森の中……霧のかかった、森の中です……」

「森の中……霧がかかっているんだな……よし分かった、そこを動いちゃならんぞ……!」

「おい、あっちだ! 撃てアマギ! 隊長、我々の通信を逆探知しt……」

「通信……途絶しました。電波妨害に合っているようです」

「ダンとアンヌ隊員は、ウルトラホーク3号に乗って、霧のかかった森を捜すこと。我々は、彼らの電波を逆探知できないか、探ってみる」

「「了解!」」

 

ホーク3号に乗った、ダンとアンヌは、目指す森を必死に探した。だが、霧のかかった森を発見することはできなかった……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ベル星人は、自分の造り出した餌場で、二人の地球人が藻搔き苦しむのを、満足げに眺めていた。

彼はこの星に来てから、まだ数百年と少しではあるが、自らが()()()を引いたという自覚があった。

彼らベル星人は、メスと交尾を終えたオスは、大量の卵塊を抱え、他の惑星へ飛翔する。

そうしないと、まだ番いの居ない獰猛なメスに、大事な卵を破壊されてしまうからだ。

 

そして、居付いた惑星で巣を作り、そこで卵の世話をしながら、一生を過ごす。

もちろん、卵や生まれた幼虫の世話をする親が死んでしまってはいけないため、それまでの食糧を確保する必要がある。

そんな父親の主食とはズバリ……美味しい美味しいグモンガだ。

奴らの体に口吻を刺し込み、ちゅるちゅる啜る体液の、なんと美味いこと!

グモンガは雑食なので、居付いた惑星の生物がどんな生態であっても、サイズさえ揃えてやれば、肉でも植物でも、その巨大な口でバリバリと貪り、体内で勝手に美味しいジュースへと変換してくれる。

 

この異空間は、卵の揺り篭であると同時に、養殖場なのだ!

 

最も、こんな偏食家になるのは成虫になってからで、幼虫の間はグモンガだろうが何だろうが、とりあえず飛びついて体液を啜る。はやく大きくなるためには贅沢など言っていられない。そうしないと、逆にグモンガに食べられてしまうのだから。あれだけ沢山ある卵も、無事に成虫になれるのは僅か一握り。この厳しい生存競争を生き抜いてこそ、次代のベル星人に相応しい個体と言えるだろう。

その点、この惑星の生物は非常に都合が良い。

地球人の血が相当に旨いのか、幼虫もグモンガも、他の生物とは食いつきがまるで違うのだ。子供達など、人間の声をすっかり覚えてしまって、それが聞こえると真っ先に飛びついてしまう程。

そうして、奴らを食べて育ったグモンガの体液が、実に濃厚でありながら、弾ける程に芳醇な香りで……また格別なのである!

ベル星人本人としても、すっかりこの味に魅了されていた。

 

かつては特定の海域で巣を張っていれば、大量の海藻と共に、纏まった量の地球人が、木でできたサナギに包まれて定期的にやってきたものだが……最近では彼らもようやく成虫になったのか、鉄の羽で飛ぶようになった。そうすると、より美味しいグモンガジュースを作る為に、彼も餌場を空中に移す事にしたのだ。こうすると、迷い込む生物の割合を、ぐっと地球人へ傾けることが出来る。まあ、そのぶん量が足りないので、たまには海で巨大な魚も確保するのだが……

 

たかだか数年に一度、たった数百人(腐るほどいる彼らの、僅か数パーセントにも満たないささやかな量!)だけ拝借して満足するなんて、自分はなんと謙虚で平和的なのだろうか。この星を侵略しようなどと言う傲慢な連中にも、少しは自分を見習って欲しいものだ。

 

ともあれ、今度の獲物も随分とイキがいい。グモンガや子供たちも、さぞ食いでがあろう。

……ただ、奴らはすごい毒針を持っているので、何匹か子供がやられてしまった。まったく許せない事だ!

こうなったら仕方がない。定期的に姿を見せて、奴らが毒針を撃てなくなるまで弱らせてやるしかあるまいて。

 

ああ、腹が減った……

 

ベル星人は、一仕事終えた後に、でっぷりと太った美味しいグモンガを啜る様を想像し、羽と口吻を思わずりりり、と震わせた。


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