転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
月面、アペニン山脈……5000mの山々が連なる。
その麓に、『雨の海』がある。 浩蕩たる玄武岩の平野。
その一角に、地球防衛軍の、月面基地があった。
某年某日その秘境において、一つの防衛計画が始まった……
プロジェクト・ブルー『地球防御バリアー』
男達の、怒号が響いていた。
「そっちに行ったぞ!」
「こちらB班! 警邏中の隊員2名が負傷! うち一名は重体です!」
各セクターに現れた、謎の侵入者に、負傷者が続出。
それでも、守らねば、ならなかった。
この計画は、地球30億全人類の命を覆う、唯一の、傘だった。
警備リーダーは、ぺダン事変中、機体を放り投げられても、センターを守り抜いた男。
隊員たちと、突撃を、繰り返した。
バリアーを貼るため、命を懸けた男達。
プロジェクト・ブルー。
これは語り継がれる、壮絶な、物語である……
「基地全域に緊急事態発令、コンディションレッド!」
「セクションの各班長とは、まだ繋がらないか?」
計画の護衛の為に、ウルトラ警備隊から派遣された、二名の隊員が、険しい表情で、指示を飛ばす。
「くそッ……駄目です、通信回線を切られました!」
「ソガ、どうする。俺達は完全に分断されてしまったぞ」
アマギが、言った。
月面基地の所々で翻る、全身肌色の異形達。
「アマギ、奴らの狙いは、きっとプロジェクトブルーの妨害だ。だったら、どれだけ広範囲の侵入であろうと、目的地は最深部の、計画に関する集積機材群のはず!」
「待ち伏せをしようと言うんだな!」
メインの通信を遮断された今、月面と地球では、やり取りに大きなタイムラグがある。
本部の指示を、仰いでいる暇は、無かった。
現場判断で、やるしか、ない。
「俺がここの皆を率いて、集積所の手前で奴らを食い止める。お前はその間に、孤軍奮闘している各班をかき集めて、突撃隊を結成するんだ」
「分かった、直ぐに行く!」
「俺達が金床で、お前たちはハンマーだ! 頼むぞ、アマギ! DからF班は俺に続け! 急いでバリケードを作るぞ!」
ソガの一喝が響き渡った。
集積所前にバリケードを築き、迎撃部隊は激しく抵抗した。
敵は、透明化能力を持っており、基地中に散らばった彼らを追い回すのは困難を極める。
そこで、目的地と思われる部屋に、唯一続く一本道で待ち受け、銃弾のカーテンを作ったのだ。
これなら、ステルスだろうが、関係ない。間断なく打ち続ければ、突撃する敵に、弾は当たるのだ。
しかし、基地の全方面から襲撃してきた敵を、一か所に集めるという事は、それだけ激しい攻撃に晒されることになる。
敵も味方も、折り重なるように、倒れていく。
「こいつら全員、まるで判を押したように死んでいきやがる! 気味が悪いぜ!」
「攻撃のタイミングも揃っている……中々手強いな」
「おい、あんなケツ星人にビビってるのか!? ……いいかみんな、俺が手本を見せてやる。 おーい尻頭! 便座には頭から座るのか? 死んだお仲間の頭から垂れてるのは、さては血でなくうんこだろ! 下痢気味のくそったれめ! 悔しかったら殺してみろ!」
ソガが発した、品性などまるで皆無の挑発に、憤激した宇宙人が、徒党を組んで突入する。
そこへすかさず、ソガが小型爆薬をまき散らした!
「今だ! 射手!」
動きの止まった集団に、固定式機関銃弾が雨あられと降り注ぐ。
沸き立つ、守備隊。敵はどうやら挑発に弱い。相当に自尊心の高い種族のようだ。
だがいくら、地の利があっても、数の上では劣勢、このままでは……
そこへ! 敵の背後を襲う、弾、弾、弾!
「迎撃隊を死なせるな! 全班突撃ィ!!」
騎兵隊の到着だ! 最良のタイミングで、敵の後背へ奇襲をかけるアマギ。
教本に記載される程に見事な、挟み撃ちの図式であった。
「一人も逃がすな! 追え追え! ソガ、俺達は出口へ先回りしよう!」
「いや、待てよ……アマギ、こっちだ!」
ふいにソガが、その場に残った者達で、集積所を調べようと提案する。
一人も通さなかったはずなのに、何故……?
隊員総出で機材をチェックにかけると、ひとつだけ、リストにない物体がある。
ブルーⅡ波偏光ミラーの傍らにそっと置かれた、一見ツボのようにも見えるそれは……
「時限爆弾だ!?」
「しまった……敵は一定距離内にある鏡面間も移動できるんだ……やられた……解体しないと!」
アマギが、爆弾の解体作業にかかろうとするが……
「ハァ……ハァ…!」
「どうしたアマギ! しっかりしろ!」
「駄目だァ! 僕には……やっぱり僕には出来ないッ! 許してくれ……許して、くれぇッ……」
脂汗をだらだらと滝のように流しながら、荒い呼吸と掠れた悲鳴を吐き出すと、傍らのソガに縋りつくアマギ。
彼は幼少期に見た爆発事故のせいで、爆弾に対する心理的障害を乗り越える事が出来ないでいた。
その恐怖は爆発の威力に比例し、目の前の爆弾は、アマギがざっと見ただけでも、この基地どころか、月を丸ごと吹き飛ばす威力がある。彼にはそれが、分かってしまったのだ。
手先が震えて、精密作業など、まともに出来そうに無かった。
そんな半狂乱のアマギの両肩を、がっしりと掴んだ者がいる。
「……分かった、代われ。爆弾に触るのは俺がやるッ!」
「ソ、ソガ……」
「だが、馬鹿な俺には、コイツの仕組みがまったく分からん。隣で指示を出すのだけは……アマギ、お前だ……お前の力が、必要なんだッ!!」
「……ああッ! 分かった!」
漢達の戦いは続いた。
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「了解。隊長、月の基地のアマギからです。ミヤベ計画の機材に、爆薬を仕掛けている宇宙人らしき者を発見。追跡したが消えてしまったそうです」
「フルハシ、アマギとソガにいっそう注意するよう言っておいてくれ」
「何かが起こりつつある……そんな気がしますね」
「うむ、そうなんだ……」
「隊長……ソガが、ミヤベ博士の身にも、何か危険が迫っているのではと言ってきています。相変わらず心配性な奴だ」
「……しかし、敵がプロジェクトブルーを妨害しようとしているならば、中心人物であるミヤベ博士を狙う可能性は高い……ダンとアンヌはウルトラホーク3号でパトロール出発!」
「了解!」
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「プロジェクト・ブルー、どこまで出来上がっているのか、それが知りたい……」
「それは言えない……死んでも言えんぞ!」
「大抵はこの自白電波で、正気を無くして喋りだすのだが……さすがミヤベ博士だ……作戦を変えよう」
ウルトラ警備隊の懸念通り、ミヤベ邸の地下では、バド星人が、地球人の強情さに、思わす唸っていた。
彼こそは、大シャラクサイ銀河バド大帝国第46億飛んで5代皇帝バドー1世その人なのである。
「おい、ウルトラ警備隊が近づいているぞ」
「なんだと? ならば急げ! おい! そこのお前!」
「ふん、言われずとも分かっておるわ」
地球人の女一人を怖がらせるために、皇帝直々の御出陣であらせられるとは、なんたる光栄! グレイス何某は、身に余る程の栄誉に、咽び泣いて喜ぶべきであろう。
なにせ、究極の美とも言える宇宙の帝王のご尊顔を、間近で拝する事ができるのだから……
もっとも、そのクローンの、ではあるが。
大銀河皇帝バドーは、かつて全宇宙の頂点に君臨していた。
当時の宇宙に、バド星人に敵うものなど一人もいなかったので、太陽風の中を自由に渡る昴のように、銀河の隅々まで飛びまわり、バド文明はその全てを、皇帝の欲しいままにした。
この時のバドーにとって、銀河など、一握の砂に等しかったのである。
しかし、そうして権力の頂点に立ち、真の栄華を極めた時、皇帝は……乱心した。
自分以外の全てが、この帝王の玉座を狙っているのではないか、という恐怖に執り付かれたのだ。
手始めは他の種族であった。馬の首星雲の、緑あふれる豊かな草原を駆け回る有翼一角獣も、おとめ座に並び立つ、美しい摩天楼も、全てが等しく灰燼に帰した。もちろんこの時、太陽系にも襲来し、冥王星の文明を星ごと破壊しつくしていった。当時の地球は惑星ですらなく、まだ単なるマントルプルームでしかなかったので、難を逃れる事が出来たに過ぎない。
そうして他種族を皆殺しにした後、皇帝の猜疑心は、遂に同族へと牙を剥いた。
腹心に自身の精巧なクローンを作らせるよう命じ、少しでも反抗的な態度を見せる者がいれば、それらを次々に粛清し、残った役職へは、自分のクローンをどんどんと挿げ替えて行く。
先代は言うに及ばす、民衆、役人、皇太子に皇后、側室に乳母まで、全て殺した!
そして最後に、これだけ貢献したのだから、自分だけは助かるだろうと考えていた哀れな側近を処刑して、バド帝国は名実ともに、バドーのバドーによるバドーの為のバドー1人の帝国となった。
頭の窪みはバドーのしるし、この世を虚無に染める者。
この全宇宙に、立つのはこの自分ただ一人!
ほの暗い愉悦とちっぽけな虚栄心こそが、バドーの願いであり狂気であった。
なまじ、皇帝が多才かつ優秀であったがために、帝国は問題なく機能してしまったのが、全宇宙にとって不運なこと。各分野のエキスパートには及ばないが、器用貧乏どころか、器用大帝王だったのだ、バドーは。
他者に何かを委ね、頼るなど、無能な弱者たる何よりの証左! 全てを自分一人で司り、掌握してこそ真の王者よ! 最近、偉そうに銀の髭を蓄えて威厳を演出している生意気な若造や、恐れ多くも自称皇帝を名乗る尻の青いクソガキ共が随分と騒がしくしているが、そんなものは雑魚にすぎないのである。
今はなぜか領土が小さくなってしまったが、若者を見守るのも年長者の風格というもの。何れは全て、朕のこの手で虚無に沈むのだから、多少の無礼は目をつぶってやろうではないか。
皇帝も御年46億飛んで24万歳。そろそろ丸くなってきたかもしれぬな。
今やバド銀河の中枢に鎮座された、遺伝子プールこそが、このバドーの玉座なのだ。
これがある限り、帝王は永遠に不滅。最近、他種族の粛清が失敗するようになってきたが、なあに気にすることはない……
奴らがワシの頭部を模した、あの冒涜的な臀部で、日々踏みつけにするという侮辱的な行為も、最近ではようやく、所詮は虫けらの児戯にすぎないと捨て置く事ができるようになった。
ああ、一刻も早くあのような阿呆共に、この皇帝の威光を知らしめてやらねば……!
吾らが常に、一糸纏わぬ裸体を晒し続けているのも、そのため。
この究極の肉体美こそ、宇宙の神秘、銀河の至宝!
これを布切れで隠してしまうなど、全宇宙の損失に他ならない。
この皇帝が、いったい誰に憚ることがあろうか?
あのようにマントなぞに頼って威厳を演出せねばならない若造共のなんと浅ましき事。真の帝王は、その身から発する圧倒的風格こそが、唯一の衣服であり装飾なのだ。
ああ……いつ見ても素晴らしい……
鑑面に写る自身の頭部が描く、魅惑の曲線美にバドーが見惚れていると、下品な赤色の男が乱入してきた。
なんだコイツは! いっちょ前に巨大化など、この帝王の猿真似をしくさってからに!
こうなったら吾輩直々に、バド帝室に代々伝わる宇宙レスリングの妙技を見せつけてやる!
覚悟せよ無礼者が!
こうして、セブンとミヤベ博士の地球へ対する深い愛と使命感によって、地球はバド星人の魔の手から逃れる事に成功した。
余談として、バドー大帝がこの時見せた、投石や命乞いからの奇襲、凶器攻撃など、宇宙の帝王の名に恥じる戦法の数々は、また一段と彼の品格を貶める事になるのだが……そんな事は些細な事だ。
なにせバドー第46億飛んで5代皇帝は、他種族からの醜聞など一切気にはしないし、なにより他の勢力にも、もはや凋落の一途を辿る没落帝国で、耄碌した老人が垂れ流す戯言など、構ってやる暇などないのだから……
というわけで、まずは第19話「プロジェクト・ブルー」でした。
ファンの間では、大言壮語と卑怯な悪役レスラーみたいな戦い方で、すっかり宇宙の帝王(笑)扱いのバド星人ですが、もしも彼が嘘をついていないとしたら……?
次回はセット扱いで、シャプレー星人にも触れていきます、お楽しみに!