転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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プロジェクトXを倒せ(Ⅲ)

その頃、イワムラ博士の影が人外のものであった事に気付いたアンヌは、それを指摘したサカキに連れられ、コテージを脱出し、山道を歩いていた。

 

「長い間一緒にいた私でさえ、やっと気がついたのだから……」

「イワムラ博士が宇宙人だったなんて……」

「隊員たちはワナに落ちたんだ!」

「サカキいいいいい!」

 

マグマライザーの潜航地点である岩場にやって来たサカキとアンヌに、後ろからイワムラ博士の怒号が響く。

 

「近寄らないで! 撃つわよ!」

「サカキ、これはなんだ?」

 

アンヌの警告も一切無視して、女学生から受け取った謎の基盤を見せながら、助手を問い詰める博士。

 

「サカキ、君は一体何者だ? これは地球の金属ではないぞ?」

「し、知らない……これは私のものではない!」

「じゃあ、捨てていいんだなっ!?」

 

博士が基盤を放り投げようとすると、イワムラの手から強引にそれを奪うサカキ。

 

「フゥッハッハッハ……とうとう見つけたか! ……ふんッ!」

 

金属盤を胸にあてると、突如巻き起こる小爆発。

煙の中から、煌びやかな衣装に身を包んだ、昆虫めいた顔の宇宙人が姿を現した!

 

「暗黒星雲の惑星、シャプレー星人だ!」

「やはり、そうだったか…」

 

そう、この宇宙人こそ、銀河を一度更地に戻したと悪名高い、シャプレー星人なのだ!

 

かつて、全宇宙が一つの帝国だった頃、その頂点に座する皇帝が乱心し、他の種族を皆殺しにしていった事がある。ただその際に、そこに住んでいた人民が居なくなれば、当然、領土を維持するための人員が大量に必要となる。営みがなければ、国とは呼べぬのだから。

 

そこで皇帝の望みを叶えつつ、国土を支える策として、家臣達は人工生命体を国民の代替とする事を考えた。それがこのシャプレー人だ。シャプレイとは、古代バド共用語で『隷属する者』……バド帝国は社会性昆虫をベースに、決して主人に逆らわず、勤勉で頑強な種族を、この宇宙へ新たに作り出す事に成功したのだった!

 

はじめは単に農民や労働者として使役されていた彼らは、原型となった生物由来の怪力と俊敏性、そして口から可燃性の高い蟻酸を吐く以外には、飛行や巨大化といった特殊な能力を持っていなかったが、放っておけば勝手に増え、その全てが、呆れるほどの忠誠心と奉仕意欲を燃やしていた。生まれながらにして理想の軍隊だったのだ。

粛清される他種族が増えるにつれ、その粛清部隊の手駒としても運用されるようになるのに、そう時間はかからなかった。

 

バド帝国の暗黒時代は非常に長かったが、バド星人が直接手を下していたのは初期の初期だけであり、あとは全ての他種族が死に絶え(少なくとも帝王個人からはそのように見え)、猜疑の牙が自種族に向くまで、ずっとこのシャプレー人が、数多の星を真っ黒で荒涼とした死の星へと変えては、次々とそこに入植していったのだ……虐殺は彼らの手によって齎されていた期間の方が、圧倒的に長い。

 

種族が死に絶え、語り継ぐ人もなく、吹きすさぶ粛清の嵐の中で、逸れ散らばる星々の名は忘れられても、このシャプレー人の悪行だけは数々の文献に残されていた。

……ただし、この時の彼らがバド帝国の手先として動いていたのは間違いないので、多くの文献で、シャプレー星人とバド星人を混同して伝えてしまっていたが。

 

そうして帝国の内部でも粛清が巻き起こり、シャプレー計画を主導し、監督していた家臣が処刑された時、シャプレー人は虐殺を繰り返す日々から解放された。バド家臣団は、事を円滑に進める為、この計画と現状を、正しく皇帝へ奏上していなかったのである。なにせ絶対に反対されるであろう事が分かり切っていたので。

 

そして、シャプレー人達の方も、万が一の反逆を防ぐため、ほんの100年も生きられぬ超短命な種族としてデザインされていたので、自分たちのルーツなど、あっという間に忘れてしまった。

 

ある時期を境に、双方共に認識の外となった両者は、まったく別々の道を辿る事となる。長い長い時の中で、銀河の端々に取り残されたシャプレー人は、各惑星での生活基盤が整うと、やがて有り余る奉仕精神を持て余し、新たな主人を求めてさらに散らばっていった。品種改良の時点で女王を削除された彼らにとって、解放とは拷問と同義であり、奉仕こそが至上の喜び、存在意義だったのだ!

 

あらゆる他種族を自分らの上位に置き、雇われ、奉仕する。ハウスキーパーから傭兵まで、仕事を求める彼らの売り込みは凄まじく、例え曰く付きの種族であったとしても、シャプレー星人を雇い入れる決断をした種族は少なくない。なにせ、彼らを作らせた皇帝がそうだったように、シャプレー星人達もまた、仕事を選ばずなんでも遂行したからだ。それも命令一つで、恐ろしく意欲的に。

 

そしてシャプレー星人の適応力は、その文化性にも顕著に表れていた。彼らが雇用されるに当たって、元から持ってはおらず、唯一熱心に磨いた技能がある。それが変装技術だ。その場に溶け込み、同僚として認められる為に、まずはその集団、組織に定められた衣服を喜んで着用し、そしてやがて姿すらも揃える事が出来る様に進化した。彼らの着用する特殊なスーツは、光を屈折させ、あらゆる外見をとることが可能であった。

 

その巧みな潜入技術を買われ、とある星人に雇われていたのが、このサカキと名乗っていたシャプレー星人。クライアントの意向通りに情報を収集し、つい最近、新たな要望に沿ってウルトニウムを採掘し始めた。もっとも採掘作戦開始当初は、採掘用の怪獣が、大量のウルトニウム反応に誘われ、想定外の地点に向かってしまうハプニングがあったが……クライアントは喜んでいたので良しとしよう。

 

「でも、さっきイワムラ博士の影が……」

「フゥッハッハッハ……あれは簡単な催眠術だ。アンヌ、キミの影を見てごらん」

 

アンヌは先程、イワムラ博士の影が異星人の形をしていたが為に、サカキの嘘を信じる事になった。だがシャプレーに言われるがままに、アンヌが自分の影へ目を向けると、彼女の影もまた異形のモノへと変わっていた。

この影は、彼が今までに仕えた事のある、他の惑星人達の姿を模して用意していた偽物だ。

 

「わかったかね……? フンッ!」

「あ、危ない!」

 

アンヌが目を離した一瞬の隙をついて、上方の岩場へと飛び移り、有利な位置から、手にした光線銃による攻撃を仕掛けるシャプレー星人。

彼女も即座にウルトラガンで反撃しようとしたが、狙いが定まらない!

イワムラ博士が咄嗟に押し倒したお陰で、なんとか逃れたが……次はないだろう。

だが、その場へひっそりと近づく影があった。

……ソガだ!

 

 

「なんとか間に合ったか……」

 

 

全速力で走ってきたので、息を整える必要があったが、崖上の藪にいる俺の事を、まだシャプレー星人は認識していない。

ここからでは、岩が邪魔でうまく狙えないが……アンヌが奴の姿勢を崩してくれさえすれば射線が通るはず!

 

しかし、横合いから彼女らのやり取りを見ていた俺は、首を傾げる。

なぜアンヌはすぐに反撃しないんだ……? 疑問に思い、崖の方を窺う。

岩場の影にちらりと見えたシャプレーの姿を見て、俺は驚いた。なんと奴の姿が前後にブレて見えるではないか!

 

……そうか、虚像だな!?

 

影の形を変えられるという事は、周囲の光を自由に操れるという事! その技術を応用して、オーロラや蜃気楼のように、自分の姿をダブらせて、彼女の目を欺こうとしていたのかっ!

アンヌの角度からでは、岩場のどの高さに敵の急所があるのか、確信が持てないという事になる……だが、残念だったな! 横からでは本物が丸見えだぞ! 俺の場所から見た時、偽物は中空に浮いて見える!

 

「アンヌ、目を狙え!」

「ええ!」

 

アンヌの放ったレーザーは、一番手前に見える敵の、巨大な複眼を撃ち抜いた。

攻撃は虚像を素通りし、その後ろにいた本物の星人の胸元を焼く。

それが丁度、虚像を作り出す変身ブローチの場所であったのは、偶然なのか、それとも必然か。

致命傷とはいかずとも、伝わる熱に思わず星人は身をよじる。

 

それだけ見えれば十分だッ!

 

ソガの手元から本命の光線が発射され、今度こそ宇宙人の目を焼いた。体内から発火し、火達磨になりながら落下するシャプレー星人。

だが、彼の生命力と任務に対する忠誠心は本物だった。

炎の中で上げる断末魔は、配下の怪獣に無差別攻撃の指令を出していたのだ!

 

シャプレー星人は、奉仕精神と勤勉さから、常に根っからの被雇用者であったために、雇われる側の心理というものも、よくよく弁えていた。どのような指示であれば配下が動きやすいか? この仕事には如何様な技能が必要となるのか? それは適材適所という概念を知り尽くした、優秀かつ最良の現場指揮官。彼らは宇宙でも有数の傭兵であると同時に、銀河屈指の、怪獣使いだったのである!

 

「ギラドラァァアス!! ギラドラァァアスッ!!」

 

主人の死に呼応するかのように、山を切り裂き、岩石と金属がひっかき砕けるような、独特の雄叫びを上げながら、怪獣ギラドラスが出現した!

 

太く巨大な牙と角を、真っ赤に光らせながら、手足のないツチノコのような胴体をズリズリとセイウチの如く引き摺り、飼い主の仇を討たんと、逃げるソガ達を追うギラドラス。

彼が咆哮をあげ、ひとたびその角を輝かせると、たちまち辺りには暗雲が立ち込め、太陽をすっぽり覆い隠してしまう。体表の各所で深紅に煌めく結晶体には、惑星の運行すらも左右する恐ろしい力の一端が取り込まれていた。ギラドラスは天候を操ることが出来るのだ!

 

「デュワッ!!」

 

そんな時、地底からマグマライザーを抱えたセブンが飛び出して来る。ギラドラスの暴走で、機能停止に追い込まれた地底戦車だったが、セブンの働きでなんとかドロドロのマグマに没する事だけは避けられたようだ。

 

手にした仲間達を安全圏に降ろすと、そのまま怪獣に格闘を仕掛けるセブン。

純粋なパワーでは、互角といったところか。しかし……強敵を前に、ギラドラスの牙が妖しく光る!

 

墨でも垂らしたかのような黒雲から、激しい雷雨がセブンの背中を襲った! 足元を次々に地割れが奔り、正面のギラドラスからは竜巻の如き強風が叩きつけられる。ありとあらゆる異常気象が、我らのヒーローの身に降りかかろうとしていたのだった。

ギラドラスを相手にするという事はすなわち、気まぐれな地球、大自然の驚異にたった一人で立ち向かうのと変わらない!

 

嵐の中で、思うように身動きの取れないセブンは、ギラドラスの巨体から繰り出される尻尾や体当たりを躱すことが出来ないでいた。そしてそんな彼にとって、事態はさらに最悪の方向へ移り変わっていく。

戦いを見守るソガ達の前で、チラチラと舞う風花……大気中に白いモノが混じりはじめた。雪だ!

 

「それだけはマズイ!」

 

セブンは寒さに弱いってのに、こんな時期に吹雪なんぞ呼ばれてたまるか!

 

確か、ギラドラスの天候操作は、牙と角の力だったはず!

 

「アンヌ、セブンを援護するぞ! 牙を狙え!」

「分かったわ!」

 

俺達の攻撃が、右の牙に命中するが、まるで堪えた様子がない。

そんな時、俺のヘルメットに拳骨が落ちる

 

「ア゙ア゙ッ゙!?」

「ばあぁっかもぉん! なにをやっとるかぁっ!」

「痛ってえなぁもう! あにすんですか……ちくせう」

「それはワシの言うことじゃわい! お前さんのその、ほっそい目ん玉かっぽじってよう見んか! 奴の牙はウルトニウムじゃ! あの鉱石は光線や電波の発振媒体としても、非常に優秀な性質を持っておる。そんなちゃちいレーザーが効くものか!」

「何ですって!?」

 

そうかアイツ、ウルトニウムを取り込んで、自分の強化に使ってるのか! まるでミノウミウシじゃないか。

クソッ! こんな事ならエレクトロHガンでも担いでくりゃ良かっ……いや、あれ抱えて山道は流石にキツい……

このままセブンが吹雪の中で戦うのを、指を咥えて見ているしか無いのか?

いったいどうすれば……

 

「喝ッ! お前さん、なぁにを惚けとるか」

「いや、効かないって言ったの博士じゃないっすか」

「フン、わしを誰だと思っとる! ……コレじゃ、コレ!」

「そ、それは……!?」

「サカキさんの変身ブローチ!」

 

なるほど、焼死体から剝ぎ取っておいたのか……でも、それが何だって言うんです?

 

「これはな、ただの変装道具ではない。もしそうなら、なぜポケットなんぞに出し入れする必要がある?  これはな……恐らくあの怪獣のコントロール装置でもあるんじゃよ! 奴のウルトニウムで出来た牙と角は、そのまま高性能な受信器という訳じゃ!」

「ええっ!? コント……マジ!?」

「いいか見とれ! ここをこうして……いや、こっちかな? ええい分からんのう……おお、これか! うーむ……難しいな……ああもう、黙ってわしの言う事を聞かんか! このポンコツ!」

 

博士が基盤をメチャクチャに操作すると、途端にギラドラスはあっちへフラフラ、こっちへヨタヨタ。まるで盆踊りでも踊っているようだ。奴の牙からは、稲妻や嵐に混じって花吹雪まで出る始末、どうなってんのそれ?

次から次へと四方八方に攻撃が飛んで、まったく危険極まりない。あんたのカミナリじゃないんだぞ!

 

「博士、それを地面に! ソガ隊員、爆弾よ!」

「ええい、いるかこんなもんっ!」

「そらっ! みんな伏せろ!」

 

博士の叩きつけた基盤に、小型爆薬をたくさん挟み込んで、放り捨てる。

小さな爆発音に、目玉クリップだかプルタブだかよく分からん、アンテナめいた部品が弾け飛んだ!

するとたちまちギラドラスは悲鳴を上げ、白目を剥いて口角から泡を噴く。

 

「今よウルトラセブン! 断つのよ!」

「ジュワッ!」

 

気合い一閃、セブンのアイスラッガーがギラドラスの首を刎ね飛ばした!

断面からは血液の代わりとして、ルビーのように真っ赤なウルトニウムがザラザラとあふれ出る。

わーい、宝の山だ! ……まあ人類にはまだ精練技術が無いから、宝の持ち腐れなんですけども。

 

セブンが暗雲を切り払い、戻った青空に綺麗な虹が掛かる。光のアーチを潜って飛んでいく真っ赤なヒーロー。

マグマライザーの無事を確かめたアンヌが、ビデオシーバーで連絡を取る。

 

「隊長、ウルトラセブンの働きで怪獣を倒し、宇宙人の侵略は終わりました」

「よかった……マグマライザーはどうした? ……無線が通じないんだ」

「はい、こちらフルハシ……、マグマライザーも無事、ウルトラセブンによって、助け……られたらしいです」

「何だ! ……らしいです、とは!」

「残念ながら気を失ってましたので、面目ありません……」

「いやいや、みんな無事で何よりだ、すぐ、帰還せよ」

「はい、了解!」

「ただし、フルハシは……、イワムラ博士のボデーガード兼助手として残れ」

「ええーっ?!」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「しかし、博士の助手に成りすまして潜入するなんて、まったく、ふてえ野郎でしたね!」

「そうだな……」

 

コテージから機材を撤収させながら、フルハシがぼやく。

それに対し、イワムラは窓の外をぼんやり見ながら、生返事を返した。

 

あの時……マグマライザーに乗ろうとした自分を、なぜサカキは止めたのだろう……?

博士が地底の様子から、なにか巨大な生物の蠢動を嗅ぎ取ってしまうのを恐れたから?

どうせ隊員を地底戦車ごと、溶岩に沈めてしまうつもりだったなら、あのまま一緒に始末しておけばよかったものを……

 

「いやぁ、しかし大荷物だぁ! 敵ながら、よくまあ働いたもんですよ! アイツも!」

「ああ……本当に優秀な、右腕だったんじゃよ……」

 

そう呟く老人は、女学生達の乗るラリー車のテールライトが、コテージからどんどん走り去っていくのを、しばし窓から見送っていた。




という訳で、第20話「地震源Xを倒せ」でした

バド星人とシャプレー星人のスーツは、元々は逆の役で使用される予定でしたが、直前に急遽、取り換えられたという撮影秘話があります。
そのせいで、一部の書籍や漫画作品ではシャプレー星人役でバド星人が出張っていたりとあべこべになっていたり……

なので、今作では

究極の個人プレーに走り、孤独と猜疑の狂気に取りつかれ、あとは没落の一途を辿る裸の王様バド星人と、

服や姿も自在に変え、あらゆる相手に奉仕することで生き延び、遂には銀河の隅々まで繁栄していく、元奴隷のシャプレー星人

という対比にしてみました。

いかがだったでしょうか。
年の瀬でなかなか更新の時間が取れず、感想返信も含め、お待たせしてしまい申し訳ないですね。
あーー! 作者もシャプレー星人欲しいよーーーー!!
一家に一人シャプレー星人!

頼むよー!
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