転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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海底基地を砕け(Ⅰ)

夜の闇に沈む海、月明かりの下を行く貨物船、第3黒潮丸。

 

「船長、よく星が流れますね……」

「ふむ……流れ星にはいろいろ不吉な物語があるよ……嫌なことが起きなきゃ良いが……」

 

甲板で休憩中のウダガワ船長は、胸騒ぎを覚えて仕方が無かった。

こんな夜はいつだって、なにか起きてきた。あの時もそうだ。刑事の兄や姪のカオリが失踪した夜も、自分が乗っていた響が触雷してしまったあの日の前日も、こんな夜だった……

根拠なんてないが、これがベテランのカンという奴だ。あまり当たって欲しくはないが……

 

「船長、船長……あれは何でしょう?」

 

船員が指さす先では、黒潮丸の進路上で、水面が沸き立つように激しく揺れていた。

錯覚かとも思ったが……

 

「な、なんだアレは!?」

 

海面から、大きな鉄の塊がニュッと立ち上がったかと思うと、船を襲う轟音と閃光!

激しく炎上する黒潮丸。

電信を使い、丘に残してきた家族へ、最期の言葉を伝える船長は、炎の向こうにいつかの光景を幻視した。

なんて恐ろしい事だ! 緊急電話が繋がるかは分からない。だが、これだけは、伝えなくては……!

 

「大和だ……大和を見た! 誰もこの海へきちゃいかん! 誰も……!」

 

必死に叫ぶ老人の眼前で、あの巨大な三連装砲が、月明かりの下で真っ赤な炎を噴き上げた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

作戦室に入ってきたタケナカ参謀の表情は優れない。

 

「北九州地区からの報告によりますと、第3黒潮丸が行方不明。海洋保安部で捜索中とのことです」

「どうもおかしいな……最近の海難事故は……」

「隊長! またSOSです!」

「なにっ!」

「南鳥島、北北西113キロの地点です」

「アマギ。すぐに調査に出発!」

「ハイッ」

 

アマギが快速のホーク3号で偵察へ赴く間、ダンとアンヌはポインターで第三黒潮丸関係者の元へ、事情聴取に向かったのだった。

だが、どちらの成果もあまり芳しくはなかった。

 

「ご苦労。どうだった?」

「はい、黒潮丸船長のご遺族に会って参りました」

「何か事情はわかったかね?」

「は、沈没直前……海上からの緊急電話によりますと、戦艦大和らしい姿が海上に現われたと言って、電話が切れたそうです」

「なに、戦艦大和が現われた?」

 

そんなはずはない、大和は確かに沈んだはずだ。それがどうして……

キリヤマとタケナカが訝し気に顔を見合わせる。

釈然としない表情で、帰還したアマギの結果報告を聞く二人。

 

「SOS受信後、少なくとも30分以内に発信地点に到着しているんですが……」

「ダメか?」

「はい。遭難地点には、油も破片も見当たりません」

 

とても普通の遭難とは思えない。もしや何者かの攻撃では……?

 

「跡形もないというのは、どうもおかしい……参謀、徹底して調査してみる必要があると思われますが」

 

そんな折、タケナカ宛にパリ本部から電文が届く。

 

「……地中海や大西洋で行方不明の船舶が続出しているが、極東ではどうかと言ってきた」

「タケナカ参謀。極東海域の厳重な調査が望まれますが……」

「うむ……早速、キリヤマ隊長にご苦労願おうか!」

「はい!」

「唯一の手がかりは、黒潮丸の船長の電話だ。大和を見たという……」

「では、捜索は、徳之島付近から始めてみましょう。フルハシ、アマギ、ハイドランジャーで出発!」

 

本来であれば、戦艦大和は激戦の果てに、今も徳之島沖で、永い永い眠りについているはず……だった。

 

「隊長、大和が見当たりませんッ!!」

「なにっ! 大和がない!? 水深は? ソナーに変化はないか!」

 

ハイドランジャーの計器に異常はない

ならば一体、沈んでいる筈の大和は、どこへ行ってしまったのか……?

だが、ハイドランジャーの捜索は無駄では無かった。

目を皿のようにしていたフルハシは、巨大な大和の残骸の代わりに、海底をひっそりと航行する、ヒトデ型の物体を発見した!

 

「隊長、奇妙なヒトデ型の物体を発見。金属反応があります!」

「よし、追跡しろ!」

 

フルハシは謎の物体を追うが、ハイドランジャーに気付いた敵は、凄まじいキャビテーションを引き起こし、計器を存分に狂わせてしまう!

 

「どこ行きやがったんだぁ……? ハイドランジャー2号、ハイドランジャー2号!」

「はい、こちらアマギ!」

「ヒトデの化け物を見つけた。追跡中だ。気をつけてくれ」

「了解!」

 

巨大ヒトデを見失ったフルハシは、悔しさを滲ませながら、2号艇へ注意喚起した。だが、そんな彼らを嘲笑うかのように、アマギのハイドランジャーへ忍び寄る異形の影。進行方向を選ばぬ異様な機動力と、五つの先端から放たれる強力なバブルパルスによって翻弄され、機体を襲う衝撃に耐えきれず、やがてアマギは失神してしまう。

2号艇が消息を断ったことで、ついに事態は一刻を争うと判断したキリヤマは、後の指揮をタケナカに託し、自ら出撃することを決意する。

 

「フルハシ、2号艇応答なし! 大至急連絡をとってくれ。こちらはホーク1号で海上捜査をする!」

「了解!」

 

作戦目標は、既に大和の捜索から、謎のヒトデ型円盤の追跡へと変わっていた!

海と空の二面から探せば、きっと敵を追い詰めることができる。

この時、キリヤマの判断は間違っていなかった。……ただあまりにも的確に、相手にとって最も望ましくない行動をとってしまったが為に、敵へ次なる手札を切らせる決断を迫る事となってしまった。

 

「何!? 怪物が海に潜った? で、場所は? 下田港だな、了解!」

 

伊豆下田から届く事件の通報!

謎の巨大物体が、伊豆半島の港に現れた!

 

「参謀!」

「よし、ダンはホーク3号で出動スタンバイ! ソガ、アンヌはポインターで住民の救援にあたれ!」

「はい!」

「キリヤマ隊長、伊豆に怪物が出た。すぐ帰投してください!」

 

徳之島へ出動した、キリヤマ隊長のホーク1号へ、作戦室の参謀から、応援要請が届く。

もしも敵が本当に大和であった場合、3号とポインターだけでは心もとないと言わざるを得ない。

今から引き返したとて、ハイドランジャーでは到底間に合わないが、音速を超える1号ならば、救援には十分なはず。

 

「了解……ハイドランジャー1号」

「はい、こちら1号……2号艇がまだ、見つかりません……」

「そうか……フルハシ、伊豆で事件だ!」

「はい……ですが隊長! アマギが……」

「……よし、俺は帰投する……あとは頼むぞ! ……いいな!」

 

踵を返してとんぼ返りしていくキリヤマのホーク。

だが、敵はそれをこそ待っていた!

 

「うわああぁあああっ!!」

 

今度はフルハシがキャビテーションパルスの餌食となってしまう!

このヒトデ型の円盤は、ミミー星人の宇宙船。母星が陸地のほとんどない海洋惑星である彼らは、潜水艇こそが、地球人における車のようなもの。いかに防衛軍のハイドランジャーが高性能とは言え、生まれたときから水中で過ごしてきた宇宙人に対しては、流石に一歩及ばなかったのである。

 

こうして、ミミー星人の巧みな陽動分断作戦で、ウルトラ警備隊のうち、二名があっという間に虜囚の身となってしまったのだった……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

下田港に再び姿を現した謎の怪物体。

全身を真っ黒な鉄錆と海藻に覆われ、所々が不気味に歪んだソレは、その異容を余すところなく堂々と、白昼の漁港へ晒していた。

どれほど変わり果てた姿になったとしても、その物体の持つ独特のシルエットは、もはや隠しようがないほどに、その正体を地球人に対してまざまざと見せつける。

日光をギラギラと反射してそそり立つ鉄塊は、紛れもない大戦艦、それも超弩級の……なんとも恐ろしい幽霊船だ!

 

これぞまさしく、海底に散らばる沈没船のパーツを寄り集めて作られた超兵器、アイアンロックス!

 

ミミー星人は、地球の海に沈む無限の鉄資源に目を付けたのだ!

 

ミミー星では元々、海底に沈む岩石や、巨大動物の骨等を住居とすることで、多くのウニやヒトデのような棘皮人達が発展してきた。その際大いに役に立ったのが、とある群生固着生物だ。固着生物とは、フジツボや牡蠣のように、岩や船底にくっ付いて生活する生き物たちの事で、ミミー星人は、この固着生物の一種を、住居用の接着剤として利用してきた。

 

この便利な生きた建材は、接着対象を選ばず、それ自体が一定の強度を持つために、どんなに重く堅い材料を使ったとしても、巨大な建造物をどんな場所にも自由に建てることが出来た。

ミミー星人はほんの90センチ程度しかない小さな種族だったので、身を隠すための住処を強固に造ることが出来なければ、とてもあの厳しい生存競争を勝ち抜く事はできなかっただろう。

 

やがて彼らは、このミミックカルサイトを、住居の偽装だけでなく、兵器にも転用することで、材料さえあれば、即席の巨大兵器を現地で簡単に作る事が出来ると気付いた。どんなガラクタの山も、ミミー星人の手に掛かれば、あっという間に宝の山だ。

 

その点、この地球という星は素晴らしい。母星ほどでは無いが、7割近くが海水で覆われている上に、手ごろな金属がゴロゴロと転がっている。第二の資源惑星として、必ず手に入れて見せるぞ!

 

ギギギ……と、金属の軋む不快な音を響かせて、巨大な砲塔が展開する。

 

ミミー星人の威力を示すため、ついに海底の亡霊が地上へと攻撃を開始したのだった!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

艦砲射撃の降り注ぐ中、ついにポインターが港に現着する。

一足先に飛来していたダンのホーク三号へ、全身に搭載した無数の砲塔から、激しい対空砲火を浴びせているのが見える。

 

「あれだ! アンヌ、ウルトラミサー……」

「ソガ隊員、どうしたの!? ウルトラミサイルでダンを援護するんでしょう? 発射準備完了よ!」

「おい、あれ……なんかおかしくないか? アイツってあんなにデカかったか……!?」

 

おいおいおい、なんか俺の知ってるアイアンロックスと違うぞ?

まずぱっと見からして違う。いくらドデカい砲塔がアイデンティティのアイアンロックスとは言え、あんなにハリネズミみたいに全身くまなくついてたか……? そして、それら大砲を乗せてる船体の形がぜんぜん違う。

 

……俺の記憶と比べて、異様に横幅がデカいような……?

嫌な予感がする。

 

「アンヌ、双眼鏡貸してくれ!」

 

拭えない違和感に、奴をよくよく見てみると……な、なんだこりゃあ!!

 

大和本体を、左右から挟み込むように、船がそのまま横に繋がって1、2、3……双胴船どころか三胴船じゃねえか!

 

艦橋部分なんか、増築に増築を重ねて違法建築みたいになってやがる……これじゃあ大和じゃなくて扶桑だよ!!

黒潮丸の船長も、よく間違えなかったもんだ……

 

双眼鏡で、まったく覚えのない追加パーツ部分の、船首に当たる部分を見たとき、オレの嫌な予感は確信へと変わる。

錆びてボロボロの中心部より、比較的新しく見えるその舳先には、かすれて読みにくくなってはいたが、白い塗料でこう書かれていた。

 

 

『 T D F 』

 

 

なんてこった……

奴ら……神戸でキングジョーが沈めた戦艦を拾いやがった!?




さて、満を持してアイアンロックスの登場です。


感想欄で予想されてる方がチラホラいらっしゃいましたが……そうです、アイアンロックス大強化!

キングジョーを大幅に弱体化できた揺り戻しとして、ここで奴が立ちはだかります。
さあ、セブンはこの強敵を乗り越える事ができるのか!?


年内にこのエピソードを終わらせるつもりで頑張ります。
感想返信は、溜まった分を年明けにまったりゆっくり纏めて返す事にしました。
なんでしばらく返事はないですが、気にせずどんどん書いといて下さい。
ああ、読者の皆様の感想に埋もれながら過ごす三が日……なんて幸せなんだろうか……

続きも気長に待っててください。

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