転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

63 / 192
海底基地を砕け(Ⅲ)

「マックス号、マックス号! 応答せよ!」

「こちらマックス号だ。その声は……どうやら無事だったらしいな、臆病ガンマン! 間に合って何よりだ!」

「来てくれてありがとうございます……本当に!」

「なんの、海の男は借りを作らんと言ったろうが。それに……姉妹艦があのような強敵に対し、一矢報いて華々しく散っていったと言うのに、ネームシップだけが全面降伏したなどと、不名誉極まる!」

「う……」

「我々海軍をここまでコケにするのは、貴様をおいて他にはおるまいと思っていたが……今回の敵だけはどうしても看過できんッ! 沈没船をなんの断りもなく回収するに飽き足らず、あのような出来損ないのガラクタに仕立てあげるなぞ……先の英霊の、いや、海に生きる者達全てに対する最大級の冒涜だ! 断じて許さんッ!」

 

さもありなん。自分の船を占拠された怒りだけで、あの恐ろしい異星人達を一匹残らず叩きだしてしまう程に誇り高い海の漢が、戦友たちの墓標を勝手に弄繰り回されて、怒り狂わない訳が無かった。

 

「艦長、まもなく主砲の射程圏内に入ります」

「よし、あの悪逆非道な墓荒らし共に、自分達がどれほど大きな墓穴を掘ったか、その身に思い知らせてやるのだ! 撃ちィ方、用意ッ!」

「撃ち方ー用意!!」

「……ッてぇーっ!」

 

 

マックス号の電磁投射砲が青白く煌めき、敵の砲台群を吹き飛ばす。アイアンロックスは慌てて後部甲板の砲を新たな敵へと指向するが、その数は決して多くない。原作時点からして、アイアンロックスの砲配置は、そのほぼ全てが前面へ同時に火力を投射できるような造りになっていたので、背後からの攻撃には比較的無防備であったのだ。

 

それに加えて今回は、左右に大和より一回り小さな艦を、成金趣味な装飾品のようにゴテゴテと貼り付けていたために、巨大な大和の主砲を後部へうまく展開する事が出来ず、急に現れたマックス号の相手をするのは、申し訳程度に増設された後部副砲ばかりであった。

 

とは言え、その副砲一つでも、元が常識外れに巨大な大和の主砲と比べて、の話であって、通常の戦艦主砲と何ら遜色ない大きさである。そしてその脇を固める連装砲や単双砲達も、全てが巡洋艦や駆逐艦の主砲だったのだから、それらが織りなす火線の激しさは、単艦に対しては過剰ともいえる物だ。

 

そんな出迎えを受けたマックス号はと言うと……

 

「……ふん、ド素人め。敵は船の造り方と言うものを、まるで理解しておらんようですな、艦長」

「まあそういってやるな、所詮は思いあがった逆賊だ。泥棒風情に戦艦の建造技術を期待する方が、酷と言うもの。だからこそ、あのような暴挙に出るしかないのだろうよ。我々のような……誇りというものが、まるで無いのだ、奴らには」

「ハハハ、それはその通りでしたな。おいお前たち、今日はあの海賊共に、海での戦い方というのがどういう物か、特別に見せてやれ! 嫌と言う程な!」

「Aye aye! sir!」

 

最新鋭の快速艦と、超弩級の老朽艦による壮絶な砲戦の火蓋が、恐れを知らぬ海兵達の気迫の籠った返答を合図として、たったいま切られた!

バラック要塞から乱れ撃たれる猛烈な迎撃ロケットの嵐を、マックス号は巧みな操艦でかいくぐり、飛来する直撃弾は各所に搭載された近接防御火器で撃ち落とす。亡霊船から盲うちされる攻撃に対して、時には電磁防壁と分厚い装甲で弾き返しながら、新造戦艦自慢の主砲や副砲で、ひとつひとつ的確に相手の反撃手段を奪っていくマックス号。

縦横無尽に海を駆けるその勇姿は、これまでの鬱憤を晴らすが如く目覚ましいもので、あっという間に彼我の距離を縮めていく。

 

この状況も設計思想の違いからくる当然の帰結。母星のすべてが海中に没しているミミー星人には、海上艦の建設理由もなければ、そのノウハウもない。だからこそ、ボロボロの沈没船を、ただ巨大な装甲板として使うだけに留め、使い捨ての特攻兵器に仕立て上げたのだ。

 

いくら巨大でもアイアンロックスは所詮、単なる自走爆弾でしかなく、砲撃能力など、爆破までの時間を稼ぐためのオマケのようなものだった。飛び回る敵に対して常に艦首を向け、全力攻撃を行う事がなによりの証拠。このロボットにミミー星人が期待し、仕込んだプログラムは、移動し、攻撃し、自爆する事。たったそれだけの簡素で粗末なものだったので、この広大な海を守護する為に建造され、単艦運用前提のマックス号の砲戦性能とは、はじめから比べるまでもないのである。

そして……

 

「目標、敵右舷構成艦後部! ライトンR30魚雷、発射準備! 侵略者の手先として骸を晒すなど……その姿は忍びん。……砲雷長!」

「任せて下さい艦長……あの艦の構造は、我々が一番よく知っています!」

「うむ、タイミングは一任する。貴様の手で、ゼノン号を眠らせてやれ……」

「了解!」

「敵艦、有効射程に捉えました!」

「操舵! ブン回せぇ!」

「……ライトンR30魚雷、発射!」

「本当の海戦とは……こうやるのだぁ!」

 

必殺の距離に近づいたマックス号の発射管から、きらりと煌めく銀の銛が二本、暮れなずむ海に真っ白な雷跡を曳きながら、アイアンロックスの持つ三つの胴のうち、最右舷を構成する姉妹艦のバイタルパート目掛け、一直線に飛び出していく。

()()()()で出来た切っ先によって、分厚い鋼鉄をボロボロに粉砕しながら、弾薬庫に飛び込んだ最新魚雷は、その威力を遺憾なく発揮し、敵の右半身を粉みじんに吹き飛ばした!

接合部から丸ごとボロリともげ、艦中央部から腐り堕ちるかのように海へ没してく右舷。

 

「魚雷命中! 敵艦大破!」

「面舵いっぱい! 急速離脱!」

 

そして、そこが鎖の基部ごとバラバラに吹き飛んだと同時に、セブンの左腕も解放された。

左腕が自由になったという事は!

 

「ジュワッ!!」

 

ピンと伸ばした指先を、まだ満足に動かない右肘にピッタリとつけ、強引に巨大なⅬ字を作ったセブンは、そこから強力な切り札を解き放った!

右腕全体から放たれたワイドショットが、巻き付いた鉄をドロドロに焼き切っていき、ついに敵の左舷に命中! 主砲も甲板も艦橋も、極太の光の奔流が全て等しく貫いて、各所の弾薬を一気に巻き込み猛烈に爆発四散!

 

「やったぁ!」

「いや、爆発の向こうをよく見ろ、ソガ!」

 

ついにアイアンロックスは、船体の3分の2を一度に失う事となった!

……だが、上空のキリヤマ隊長が冷静に敵を俯瞰すると、敵本体は海上に鎮座したまま依然健在。

セブンの下半身に巻き付いた錨は、本体部から射出されていたために、まだ完全な脱出も出来ていない!

敵主砲によるダメージと、ワイドショットの消耗で、埠頭に膝をつくセブン。

 

「ええい、なんというダメージコントロールだ……化け物め……」

「艦長! 敵の姿に騙されてはいけません! 確かに船の形をしてはいますが……その正体はどちらかというと巨大戦車のようなものです! そうでなければ、船が信地旋回なんてするはずがありません!」

「復元能力どころか、喫水線を狙っても、沈没させる事は土台無理という事か……!」

 

ソガの読み通り、アイアンロックスの移動方法は、無秩序に増築へ増築を重ねた違法建築の大重量を支える為、巨大履帯のついた基底部で海底を這いずり回るといういうもの。そこから竜骨のように頑丈な脚でジャッキアップして海上へ本体を浮上させるアイアンロックスは、船としては反則級の、無尽蔵な耐久力を有していた。どれだけ表面の砲塔が吹き飛ばされようが、最終的に、中心部の自爆機構さえ生きていればそれで構わない。

 

あのキングジョーでさえ、突き詰めれば精密機器の塊であり、それらを保護する為に、偏執的ともいえる無敵の防御力で、全ての攻撃を無効化する必要があった。だが、今回はその逆。

移動し、攻撃し、自爆する。たったそれだけの単純で明瞭な命令をこなすには、複雑な回路や機材などまったく必要なく、どれだけ攻撃されようがお構いなし。腹に抱えた小さな核爆弾以外にバイタルパート等存在するはずもなく、全身の構造物全てが、何重にも重ねた単なる装甲版にすぎない。アイアンロックスはその名の通り、最期に行う核爆発の瞬間まで、ただひたすらに頑丈であった。

 

「ソガ、爆破まで残り七分だ! ポインターは立て直せないか!?」

「だめです、ホバーがイカレて……」

「そうか……」

 

上空のキリヤマが逡巡する。我々に残された手段は少ない。自分は下部のハンガーでポインターを抱えて部下だけでも退避させるべきか? それともこのホークで……

その時、マックス号の艦長は、艦内放送をオンにして、力強くマイクを握った。

 

「……総員傾聴!」

「傾聴ー!」

 

水を打ったような静寂に包まれる指揮所。

艦内各所で全ての乗組員が、艦内スピーカーへ真剣な顔で向き合い、艦長の言葉を待つ。

 

「……諸君、我々は一度死んだ! あの時、あそこで今も戦っている赤い巨人がいなければ、今頃は全員仲良く、この夜空に輝く無数の星々の仲間入りをしていたはずだ。それが今こうして、汚名を濯ぐ機会を万全の状態で迎える事ができたのは何故か? ……彼が、縁もゆかりもないこの星を守る為に、その体を張って戦う決意をしてくれたからに他ならない!」

「艦長……」

 

漢の眼差しの先で、彼らの戦友、命の恩人が……もがき、苦しんでいた。

彼を置いて逃げるなど……とても出来ない相談だ。

 

「海の漢ならば! 星屑よりも海の藻屑となる事を選べ! 本艦はこれより、敵艦に向けて全力突撃を敢行するッ! 地球防衛軍は戦友を決して見捨てない! それが例え、何処とも知れぬ他の惑星から来た宇宙人であっても、この地球の平和を守る同志である事になんら変わりはない! 今こそ恩を返す時ぞ! 各員奮戦せよ! 我々の手で、あの遥かなる友人を……ウルトラセブンを救うのだ!」

「Aye! aye! sir!」

 

一撃離脱戦法の後、距離をとる為大きく迂回していたマックス号が、再び船首をあの憎き侵略者の手先へと向ける。

マックス号の艦内で、決然とした表情で持ち場につく船員達には聞こえぬよう、ひっそりと抑えた声で、副官が艦長の耳に囁いた。

 

「ですが艦長、ライトンR30魚雷はもうありません。いくら錆びついたとはいえ、大和の重装甲を如何にして撃滅するのですか? ……残念ながら、当艦の主砲及びその他の兵装は、敵の空間装甲に対して効き目が薄いと言わざるを得ません。マックス号は砕氷艦ではないのです……勝算はあるのですか?」

「……勝算はあるとも、副長。私とて、彼我の戦力差は重々承知している。その上で、それを覆すアドバンテージ足り得るものがあるではないか。……我々にだけあって、奴らには無いもの。……それは、誇りと、海戦の技術と……あともう一つある」

「あともう一つ……? それは一体なんです? 艦長?」

 

訝しむ副官に向けて、艦長はニヤリと口の端を吊り上げ、こう言い放った。

 

「……歴史さ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。