転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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海底基地を砕け(Ⅳ)

「歴史……なるほど! 取舵一杯! 敵艦の左舷に回り込め! ……これでよろしいでしょうか、艦長?」

「優秀な部下を持てて幸せ者だ……ヨーソロー!」

 

艦長の自信に満ち溢れた言葉を聞いた副長は、ハッと顔を上げると、即座に行動に移した。

 

「敵が沈没船をサルベージするというならば、それも良し。ただし、我々の大切な大和を、あのように扱うとはいい度胸だ。罰当たりも甚だしい。もはや天罰が下るまでまってはおれん、我々がその報いを受けさせる!」

 

外様のミミー星人は、自分たちの吊り上げたこの大鉄塊が、どれほど有名な船で、どれだけ神聖視されていたのか、全く知る由もない。彼らにとって、ソレはタダの鉄くずに過ぎなかったから。だからこそ、この大和がどういった軌跡を辿り、如何にして沈んだのか、あらゆる媒体で事細かに書き記されて人々に記憶されているなどと、一切思いも寄らなかったのだ。

 

かつて、大和の姉妹艦であった戦艦武蔵は、魚雷や爆弾を全身に50発以上被弾と言う猛攻に晒されながら、10時間近く持ち堪えるという驚異的なタフネスを見せつけた。それは分厚い装甲、計算された各種の防御設計、そして艦内に、隔壁で区切られた無数の注排出区画を持つ事による、最新のダメージコントロール機能の賜物であった。

 

相手の指揮官は、大和型が発揮する、この恐ろしいまでの粘り強さを嫌い、一番艦である大和を攻撃する際には、ほぼ全ての攻撃を片舷にのみ集中することで、これらの機構を無効化した。教訓を生かした攻撃によって、その巨体を大きく傾斜させて、ついに沈没せしめる事が出来たと言う。

 

この大和が沈んだ際の戦いは、様々な記録が残されているが、その最も少ない記録でさえ、10発以上の魚雷を食らったのは確実とある。ましてや、内一本を除いて全てが、左舷に集中していたという事は……この残骸の修復箇所もまた、左舷に集中しているという事に他ならない。

 

ミミー星人が見つけた時には、海底で三つに分かたれ、左側に無数の大穴が開いた状態で放置されていたこの船は、逆を言えばそれ以外はまだ十分に使えるぐらいに原型を残していたために、その巨大さから、機体のベースとして目を付けられることとなった。

 

そして今、アイアンロックス左舷の大穴は、海兵達の読み通り、その他の艦艇から寄せ集めたあらゆる鋼材で補強されていたのだ。例えその補修に使われた装甲が、まだあまり錆びてもいない防衛軍艦艇から剝ぎ取ったものだったとしても、生物由来の接着剤で、年代も材質もまったく違う装甲のパッチワークで塞がれた古傷は、構造的に脆い明らかな泣き所でしかないのだった。

 

「我が艦の持ちうる全火力を、敵左舷中央部の一点に集中! どてっ腹に風穴を開けてやれ! All weapons free!(全兵装自由射撃)

「All weapons free!」

 

少なくともミミー星人は、大和という戦艦をベースにしたこのアイアンロックスだけは、それを作った二ホン(大和)という国の軍隊にぶつけるべきではなかった。

本来、兵器の弱点箇所というものは、敵に対して絶対に秘匿されて然る最高軍事機密であり……それが事もあろうに戦う以前、いや、()()()()()()()()()()()から敵へ知れ渡っているなど、欠陥兵器の烙印を押されても仕方のない事でなのである。

 

魚雷が、砲弾が、ミサイルが、マックス号から解き放たれたあらゆる兵装が、アイアンの左舷に向けて飛んでいく。爆発と共に、次々吹き飛び千切れる砲台群。

 

さしもの亡霊艦も、これを脅威と見たか、最大火力を投射できるように艦首をマックス号へと向けようと、ギシギシと不快な金属音に巨躯を軋ませながら、旋回にかかる。

だが、そうはさせてなるものかと、今度は立ち上がったセブンが、残った気力を振り絞り、自分の胴体に巻き付いた一等太い錨をむんずと掴み、力いっぱい踏ん張った。

 

総排水量64,000トン、最大速力27ノットを叩きだす大和の、化け物じみたタービンを、100万馬力を謡うセブンが、太く逞しい真っ赤な剛腕で引き留める!、

常識外の力比べに、双方の動きが止まり、アイアンロックスは、振り向きかけた中途半端な状態で、その陰気な横面を晒すことになった。仕方なく左舷の砲台だけで応戦するアイアン。

 

「ハハハ、見ろ! 敵の方から横腹を見せてくれたぞ! 誘っているんじゃないか、おい!」

「全弾ここで撃ち尽くして構わん! 後の事など気にするな! 回避行動より、精密射撃に重点を置け! エンジンストップ!」

 

双方足を止めての殴り合いなど、海戦においてはそうそう発生しない珍事であったが、命中弾は数えるまでもなく、圧倒的大差であった。

 

「固定目標相手に侠叉もとれんのか、あの阿保は!」

「いきり立つなよ砲雷長、敵の練度が低いのは、良い事だ。中身まで熟達の大和乗員であったならと考えてみろ……」

「……そうだな、俺達は幸運だ、航海長。あんなばかでかい標的艦へ、実弾で思う存分射撃訓練が出来るのだから……」

「見ろ、まるで敵の弾が避けていくようだ。……俺達には、先人たちの加護がついているぞ!」

 

やがて一際大きな爆発が起こり、濛々と立ち込める爆炎の向こう、中央部に深々と穴を穿たれた海底戦車の姿があった。ついにその装甲を引きはがしたのだ!

 

外側の大穴に関しては、最新素材で入念に塞いだミミー星人も、流石に内部の隔壁まで完全修復しようとはしなかった。もとより水上艦としての運用などするつもりが無かったのだから、当然といえば当然だ。むしろ、予備の砲塔や弾薬を収納するスペースに丁度良いとさえ思っていた位なのだから。海底の違法建築家は、内装工事においても、杜撰極まる三流設計士だったのである。

 

だがいくら弱点といえど、そこは文字通り腐っても大和。

 

「……艦長……魚雷、ミサイル。共に残弾ナシ! 主砲塔も連続使用で加熱過剰です! これ以上の発砲は危険です!」

「くそっ! ここまできて……!」

 

砲雷長の報告に、艦橋要員の顔が曇る。

だが、艦長は未だに口の端へ余裕を湛えたまま表情を崩さない。

艦長はトントンと軽く足踏みしながら、暗い顔の部下を励ました。

 

「何を言っている砲雷長、魚雷ならまだあるではないか。……それも防衛軍で最も高価で、最大級の威力のモノがな」

「ま、まさか……!」

「だから言っただろう、全力突撃だ……とな」

 

驚愕に染まる船員達の表情など露知らず、上空援護を行っていたキリヤマから通信が入る。

 

「マックス号、どうしたのです? 先程から攻撃の手が止まっていますが……弾切れですか!」

「安心めされよキリヤマ隊長。なに、あの不調法者へ、古式ゆかしい、由緒ある海戦の()()というものを、叩き込んで差し上げようと思いましてな」

「まさか、衝角戦闘を仕掛けるおつもりですか!」

「いかにも! あれだけ念入りに下拵えしたのです。本艦の鋭さならば、さぞ深々と突き刺さる事でしょう! ……総員、退艦!」

「そ、総員退艦準備ー!」

「自動操縦で突っ込ませた後、主砲の動力バッテリーを熱暴走させ、内部から吹き飛ばす算段です。エスコートして下さるか? キリヤマ隊長」

「……喜んでお受けする!」

 

全船員が迅速に下船へ移る中、副長だけが、その場を微動だにせず、艦長を睨みつけていた。

 

「どうした副長、総員退艦だ。……復唱せよ」

「如何に自動化されたマックス号が、従来艦の半分以下の員数で運用可能な新鋭艦といえど、主砲の過加熱による自爆攻撃など、プログラミングされておりません。一体誰が、そのタイミングを操作するのです?」

「……やれやれ、私は不幸者だな。あのような巨艦、それもあの大和を撃沈せしめるなど、戦功甚大、最大級の誉れだぞ? それを一人占めする機会を……誰に譲るというのか?」

「嘘を仰いますな! 御神体にも等しい大和を、もう一度沈めねばならぬなど……手柄と喜ぶ海兵が一体どこにいるというのです! それも、命と引き換えになど……」

「……何か勘違いしているようだが……私は決して死ぬつもりはない」

「ならば自分もお供いたします! 別に死なぬのであれば、ご相伴に預かっても構わんでしょう!?」

「……分からん奴だな……一人というのが良いのだよ」

「それは……!」

 

まだ言い募ろうとする副長を制し、艦長は決然と言い放った。

 

「なにせ私専用のボートは、大きさの割に一人用なのだ。貴様がいると足手纏いでしかない。……分かったか?」

「……なるほど、そうですか。では準備をして参ります……ご武運を」

 

敬礼を交わした副長が、艦橋を後にし、やがて脱出用の内火艇がマックス号から離脱していく。そちらへの攻撃から盾になるように最大出力でエンジンを作動させた快速戦艦は、敵からの猛攻をものともせず、ただ愚直に前へ前へと進んでいった。

 

「まったく、気分が悪い事だ……許せ大和よ。そして……お前も……」

 

だが、どれほど胸糞が悪い任務であっても、この落とし前だけは、ウルトラ警備隊や、ましてあの巨大な戦友につけさせるわけにはいかない。我々海軍の手によってこそ、再びこの墓標を海へ還し、鎮魂の祈りを捧げるのだ!

 

操舵輪を撫でる艦長の脳裏に、今は亡きかつての師の言葉が過ぎる。

近づけば近づく程に、敵の弾は逸れ、こちらの狙いはよく定まる、と。

 

アイアンロックス左舷にて大口を開ける深傷へ、マックス号の鋭い切っ先が全速力で刺し込まれ、メリメリと甲高い金属音を叫びつつ、艦前方に配置されたレールガンが、敵艦中央部へ到達する。

 

「さらば大和よ……永遠に!」

 

白熱した大容量の主砲動力が弾け飛び、扶桑の如き艦橋構造物を、その基底部まるごと、猛烈な爆圧で真下から突き上げた!

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「なんという事だ……我々の自走要塞から、通信が途絶えたぞ!」

「なに、あの鉄量を吹き飛ばしたというのか! この短時間で?」

「こうしてはおれん……今にウルトラセブンがこちらへ飛んでくるぞ!」

「……退却だ。資源惑星の候補は他にもある。よもや地球人がこれほどとは……」

 

アイアンロックスの自爆でセブンを抹殺し、悠々と資源回収を行うつもりだったミミー星人は、想定外の事に大慌て。

 

ハイドランジャーを拘束していたトラクタービームを解除し、一目散に離脱していく。しかし、催眠音波で強制的に昏睡させられていたフルハシとアマギが、効果の切れた途端に目を覚ました。

彼らの目の前で、ヒトデ型の円盤が上空へ逃げ去っていくではないか!

 

先程、泡攻撃で酷い目にあわされたばかり、今度はこちらからお返しだ!

浮上した二隻のハイドランジャーから、同時に対空ミサイルが放たれ、ミミー円盤を粉々に粉砕した!

 

水中では、攻防一体のキャビテーションバブルで、無敵を誇るミミー潜航艇も、一度空中に飛び出してしまえば、キャビテーション防御もできず、ただの円盤と変わりはない。まさか水中で三次元移動もできないような原始的な潜水艦が、魚雷だけでなく陸上にも空中にも対応できる超高性能ミサイルを搭載していたとは……

 

水中以外で運用する兵器の開発センスが壊滅的だったミミー星人達は、最後の瞬間、地球の歴史をもっと学ぶべきだったと後悔した。もっとも彼らは、もう二度と己の無知を反省できないのだ……。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「やったーッ! ざまあ見ろ、このミミッチイ星人が!」

 

マックス号の引き起こした爆発によって、艦橋を引っこ抜かれたアイアンロックスが誘爆し、夜の海で荼毘に臥されていく……

 

「やりましたね、艦長! マックス号のおかげです! 命を助けられました……我々も! セブンも!」

「それはなによりですソガ隊員……副長以下全乗組員も、侵略者を無事撃退できたことを光栄に思います」

「その声は……副長? 艦長はどうなさったのです?」

「艦長は……主砲爆破の為、艦内へ残られました」

「……は? なんて? ……嘘でしょ? 自動操縦ですよね」

「航行に関してはその通りですが……そのような想定外の攻撃は、プログラミングされておりません」

「そんな、そんな……事って……嘘やろ……あんたが死んだら……なんにも、ならへんやんけ……っ! クソがぁ!!」

 

駄目なのか!?

やっぱり……運命を変えるには……誰かの犠牲が必要なのか……?

 

「おい、敵を撃滅したというのに。なにをしょげかえっているのだ! もっと喜ばんか!」

「そ、その声は……」

 

この野太い汽笛のようなバリトンは……ッ!

 

「艦長! ご無事でしたか……!」

「まったく、勝手に殺すんじゃない!」

「それは、そうですが……でもどうやって?」

「こっちだ、まだマックス号の後ろに浮かんでいるから見えるはずだ。むろん、そのうち沈むので、早く回収して貰いたいものだが……」

 

双眼鏡で言われた通り、月明かりを頼りに海上を見渡すと……

あ!? あれは……観測ロケット! 観測ロケットじゃないか!

そ、そうか、あれを脱出ポット代わりに、爆発の瞬間、後部甲板から飛び出したのか……

 

「馴染みの艦長は軒並み海へ還ってしまった……ここで私まで死んだら、一体だれが、この広い海を守るというのだ……?」

「艦長……」

「もっとも、しばらくは諸君ら警備隊が我々の穴を埋めてくれると信じているぞ。如何かな、キリヤマ隊長? 我々の海域に部下をよこしてはくれませんか?」

「ハッハッハ! もちろんですとも。その時はソガ、お前が行くんだ」

「え、ええ……そうさせていただきます……」

「む、いかん……そろそろ沈む……酸素が尽きるまでに回収を頼むぞ……!」

 

超常的な聴力で、それを盗み聞きしていた真っ赤な戦士が、月明かりに照らされながら、ざぶざぶと嬉しそうに海の中へ入っていった……




というわけで第21話「海底基地を追え」でした。


この作品を書くと決めたときに、真っ先にマックス号を救う事にしましたが、じゃあそのマックス号は誰にぶつけるのか……?
このアイアンロックスを置いて他にはない、と思いましたね。

原作においては、回ればなんとかなる戦法で割とあっさり突破した印象がありますが、逆に言えば、回らないとなんともならない強敵だった、と定義しました。

まだ幼かった作者には、コイツがやたらセブンを苦しめていたように見えたので、大嫌いだったんです。こんなにカッコいいのに……

愛憎入り混じるアイアンロックスにも、ついつい筆が乗ってしまいましたが、無事年内にこの話を書きあげられて良かったです。

では皆さん、良いお年を。

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