転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
なんせ、アイアンロックスで気を引き締めたソガに、油ダンの文字はありません。
土星の放射能α73が必要? こんなこともあろうかと、すでに取り寄せておいたものがコチラ……! 赤いキノコもあっという間に三分クッキングです。
そんな訳で今回は一話飛ばして23話から、どうぞ。
鎖をじゃらじゃらと引き摺ったダンプに、追いまわされる一人の男。青い神秘的な衣装に身を包んだ彼の名は、ヤスイ。
「誰かぁ! 助けてくれぇぇぇ!」
逃げる、逃げる、ひたすら逃げる男。
「はわああああ! なにすんだぁあああ!!」
追われる。この男、罪を犯したわけでもないのに、何故に追われるのか?
ダンプを躱し、命からがら逃げだした占い師風の男は、ふらふらと反対車線の道路上へ躍り出る。
そこへ通りかかったパトロール中のポインター、尋常ではない様子で倒れこんだ男性を、下車して即座に助け起こすキリヤマとフルハシ。
「どうしたんだ! おい!」
「マル……サン……」
「えっ! マルサンって何のことだ?」
「マル、サン……倉庫……バクハツ!」
「なに、マルサン倉庫が爆発するというのか……!」
そこへ再びダンプカーが襲ってきた。
「うわぁぁぁ!殺されるぅう!」
「危ない!」
ダンプの助手席から、すれ違いざま投げられたナイフは、男の太ももに突き刺さり、絶叫を上げさせる。
そのまま走り去っていく大型車。
ポインターで追跡するが、途中で見失ってしまう。
とりあえずキリヤマ隊長はヤスイと名乗るこの男性を保護して、基地で治療を受けさせることにした……
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メディカルセンターにて、怪我の手当てが終わったヤスイは水晶玉を覗き込んでいた。
「何をやっているんだ?」
「占っているのです……この玉で。未来を映しているんですよ……」
「ホントにその玉に映るのか?」
フルハシやアマギが胡散臭そうな視線を投げかける中、目を見開くヤスイ。
水晶玉に映し出される光景は、真っ赤に燃え上がり、粉々に吹き飛ぶ倉庫街。
そして、その中で凶弾に倒れるスーツ姿の男の顔は、ヤスイを救ってくれた恩人の顔をしていた。
「……マルサン倉庫……爆発! ……間違いない。やっぱりマルサン倉庫だ」
「本当に爆発するんだな?」
「私の予言は外れたことがありません。その時にですね……。隊長さんもお怪我をしますよ……。気をつけた方がいい……」
「おい! デタラメを言うと、承知せんぞ!」
隊長を脅していると思ったフルハシが、掴みかかる。
「私はね、これを商売にして生きているんですからね。なんでしたら、見てあげましょうか? 運勢を……」
「ふん! お断りだねぇ!」
そこに、ウエノ通信員が報告を持ってきた。
「マルサン倉庫一帯には別に異常はないそうです」
「ほれ見ろ! どうりでインチキくさいと思ったよ」
「ハッハッハ……」
「待て!」
アマギやフルハシ、アンヌがホッとした様子で笑う中、神妙な面持ちのキリヤマ隊長。
「私は、ヤスイ君が見たものを信ずる。……いや、信じてみたい」
「隊長!?」
「これは命令だ。マルサン倉庫一帯を徹底的に調査するんだ。時限装置はないか、地雷を埋めた形跡はないか、念には念を入れて洗うんだ。いいか、マルサン倉庫は地球防衛軍の動脈だ。敵に指一本触れさせちゃならない!」
「私も賛成です隊長、火のないところに煙は立たぬといいますからね……第一、ただの一般人が、どうして倉庫にカモフラージュした防衛軍の施設を知っているんです? 嘘にしちゃあ、的を射すぎている」
「ソガ、お前まで……」
こうして、マルサン倉庫の徹底調査が行われた。
マルサン倉庫。外見は普通の倉庫だが、これはあくまでもカモフラージュのため。この倉庫の地下には地球防衛軍の超兵器開発基地があり、惑星間長距離ミサイルなどの開発が行われている。まさに地球防衛軍の動脈なのだ。
……幸いなことに、爆発物らしい物は発見されなかった。
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調査が徒労に終わった隊員たちが、疲れた様子でヤスイのもとへ帰ってくる。
「君もずいぶん人騒がせな奴だなぁ!」
「すると、異常なしで……?」
「決まってるじゃないか! 隊長を見ろ、ピンピンしてる」
「……そうですねぇ」
確かに、不安げに腕を組むキリヤマに傷はない。予言の中で彼は腕を撃たれていたはずだが……
「命を狙われているっていうのも、どうやら怪しくなってきたぜ……」
「とんでもない……! 私は本当に狙われているんですよ? 宇宙人にですよ!」
「おい、今度は宇宙人か……?」
「まあまあ、そんなにいじめるなよ、アマギ。ナイフを投げられたのは確実なんだし、倉庫が爆発しないとまだ決まったわけじゃない」
「そうですよね!」
「あんたもそう、嬉しそうにするんじゃないよ……」
ソガに窘められたヤスイが、しょんぼりと顔を伏せると、その先で水晶玉がまた違った光景を映し出す。
「……あ! 空飛ぶ円盤だ! 富士見ヶ原に降りた!」
「おい、いい加減にしろよ!」
「本当に見えたんですよ……」
「どうも気になるな……」
再び、ヤスイの予言にしたがって、富士見ヶ原一帯の大掛かりな捜索が行われた。だが、円盤らしい影さえ発見できず、すべてが徒労に終わったのである。
参謀室に集まる隊員たち。
「まったく異常なしだな……」
「はぁ、空陸両面作戦でしたが、なんら異常は……」
「キリヤマ君、今度の二度にわたる捜索は、まったく君らしくないぞ……科学的裏付けがなされておらん!」
「……非常に、気になったものですから……」
「そりゃあ、人間の予知能力を信ずるのもいい……だが、それにも限度というものがある!」
「はぁ、しかし……」
マナベ参謀の怒りももっともだ。だが、どうにも納得がいかない様子のキリヤマ隊長。
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「皆さん、信じてください。わたしゃ本当に見たんですよ!」
「わかった、わかった、わかったよ」
とっくにフルハシはまるで信用しちゃいない。
オオカミ少年を見る目だ。
「まあ、待て……君の協力には感謝する。今日のところはひとまず、引き取ってくれないか?」
「隊長さん! わたしゃ宇宙人に狙われているんですよ? それでも帰れって……っ?」
「……」
「倉庫は必ず爆発します! 円盤は必ず来るんですよ!」
「もう、止せよ……」
アマギがうんざりした様子で止める。
「いいえ! 今日がダメなら明日……そうだ、明日を捜せばいいんですよ!」
「もうちょっとその予言もなんとかならないのか? 爆発がいつだ、とかどんな方法で? とか……そうすりゃあ、探しようもある」
「そう言われましても……自由に見れるわけじゃないんです、そう簡単にいかないんですよぉ……そこまで詳しく分かったら、苦労しませんって……あ、そうだ! 夜だ! そういや予言の光景は夜だった! 夜に爆発します! 昼間に探したって、ありゃしません!」
「そうそう、そういうのそういうの! 夜ね、夜……うんうん」
「ソガ……夜間警備なら、とっくに昨日、捜したさ……」
「……君は私が責任を持って守る。だから、安心して帰りたまえ」
「そうおっしゃらずに、置いてくださいよぉ……わたしゃねぇ……心配なんですよぅ……助けて下さいよぉお!!」
苦渋の決断を下すキリヤマ。
こうして可哀想なヤスイ老人は、意気消沈した様子で、帰らされてしまった……
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参謀室。
スーツ姿でマナベに休暇願を提出するキリヤマ隊長。
「……一日だけ、休暇をください」
「んむ……どうするつもりだ?」
「あの男を信じたついでに、あの男が言っていた明日を捜してみます」
「頑固だな……相変わらず。……これを持っていけ」
苦笑したマナベは、観念した様子で、引出しから拳銃を取り出す。
参謀の好意を有難く受け取るキリヤマ隊長。
「……拝借します!」
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そのころ、モロボシダン隊員は、一週間の宇宙パトロールを終えて帰還した。
「明日を捜しに……?」
「ええ、隊長は責任感が強くていらっしゃるから……放っておけなかったんだわ、きっと」
「その予言者のために、やれマルサン倉庫だ円盤だって、いいように扱われたよ……」
「でも隊長はまだ信じているわ。だから休暇をとったのよ」
「鬼の隊長も、心霊現象にだけは、弱かったってわけだ」
「うん……」
「ダン、どこに行くの?」
「隊長を捜してきます」
アマギとアンヌに、笑顔で答えるダン。
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探す……、キリヤマ隊長はあてどもなく、探し回る……明日は一体どこにあるのか? ヤスイは一体どこに消えてしまったのか?
夕暮れの中を、男が一人、さまよっていた。
やがてとっぷり暮れた夜の中、ヤスイは、アパートから離れた公園を、びくびくと怯えながら逃げ回っていた。
警備隊の隊長からは、アパートから一歩も出るなと言われていたが、そのアパートの周りを例のダンプが徘徊しているのだ。従いたいのは山々だが、そもそも帰れないんじゃ、家に籠りようがない。
だいたいあの隊員も隊員だ。あんなに信じてくれるような素振りを見せたなら、そのまま銀色の車でアパートまで送って行ってくれりゃあいいのに……
やがて、女のすすり泣く声が聞こえてくる……訝しんだヤスイが柱の影を覗き込むと、うずくまって泣いている女を見つけた。
「どうしたんです? 具合でも悪いんですか?」
自分が命の危機に瀕しているというのに、不用心に女へ声をかけるヤスイ。もしや彼女も宇宙人に追われて……?
なにせ彼は、困っている人がいたら、手を差し伸べないと気が済まない、筋金入りのお人よしだったのだ。この性格のせいでどれほど苦労してきた事か……優れた予知の才能があるにも関わらず、場末の胡散臭い占い師に身をやつしているのも、その為だ。……でも、やめない。
自分がこんな不思議な能力を持って生まれたのは、なにか意味がある事だと信じて生きてきたからだ。人知を超えた大いなる力には、誰かを助けるための、大いなる責任が伴うのだから……
「ねえ、もしもし……」
声をかけられて顔を上げる女。鼻は窪み、青白い眼球はぎょろりと飛び出し、鼻下の人中は尖った山になっていた! この人間とは真逆の恐ろしい鉄面皮! 間違いなく宇宙人だ!
「ぎゃぁぁああああああ!」
夜の闇に、ヤスイの絶叫が木霊する。
一目散に逃げだしたヤスイは、明かりを求めて、ガソリンスタンドに飛び込んだ。
「大変だ、う、宇宙人! 宇宙人だよぉおおお!!」
帽子を被った店員の背中に縋りつき、必死に助けを求めるヤスイ。
かれの懇願に振り向いた店員の顔は……
「ヒッ、ヒャ……ワアアアあ嗚呼嗚呼アアああああ!!!」
目をつぶってスタンドの待合室を飛び出そうとしたヤスイは……たった一つしかない出口で、ドンッと誰かにぶつかり、尻もちをついた……
心を覆いつくす絶望に、へなへなと倒れ込んだ彼が、恐る恐る目を開け……
ゆっくりと視線を上げた先には……ニヤニヤと意地悪く笑う顔。
そ、そんな……
「アンタらにとっては多分、明日の未来だろうが……オレにとっては、昨日よりずっと……ずっと前の出来事なのさ……ッ!」
構えたウルトラガンの銃口が、夜の闇を切り裂いた!