転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「アア! ……ウッ……」
レーザーを食らった胸を搔きむしり、スタンド店員に変装した宇宙人がその場へ倒れ伏す。
「そ、そ……ソガさぁあん!!」
「ヤスイさん……怖い思いをさせて、本当にごめんなさい……でも、これでアナタの訴えは証明されました! もう大丈夫、我々がついてます!」
「信じて……信じていましたよぉおお……きっと、きっと助けてくれるってぇ……」
「ええ、オレも信じていましたよ……アナタの事を」
ソガに縋りついて泣きじゃくるヤスイを安心させるように、その背中を優しく叩く。
そうしていると、外から気迫の籠った雄叫びと、絹を裂くような叫び声が聞こえてくる。
「ドオリャアア!!」
「キャアアアア!!」
「ひぃッ! なんです、今の悲鳴?」
「……お、やってるやってる。なあに、大丈夫ですよ」
怖がるヤスイを腰にぶら下げて、声の方へ歩いて行くと、大の字で伸びているシャドー星人と、バツの悪そうなフルハシがいた。
「やあ、そっちも上手くいったみたいで。流石ですね、先輩」
「上手くもなにも……なんでい、さっきの声。よく見りゃあコイツ、女じゃねえか。不細工な面しやがって……そうと気付かずに、思いっきり顔を殴りとばしちまった。かぁあ、気分悪いぜ」
「ハハハ、侵略者に男も女もあるもんですか。ぶち殺されないだけ、先輩に感謝するべきですよ。あっちの奴は問答無用でハチの巣ですからね」
「お前のそういうところが、たまにおっかなくなるよ……」
「あ、あなたは……フルハシさん……?」
「あーその……悪かったよ、あんたを嘘吐き呼ばわりして……これで勘弁してくれや」
「ととと、とんでもない! こうして来てくだすっただけで、わたしゃ嬉しくって……」
「おいおい、泣くなよオッサン……」
なにせ……原作において、このヤスイ老人をポインターでほっぽり出したのは、紛れもなくこのソガと、フルハシの2名なのだ。
でも今回は、その張本人であるソガ隊員からして、彼を心から信じてるどころか、この先の展開まで自分で予言できるくらいだし、その俺が説得すれば、先輩だって半信半疑ながらも付いてきてくれる。
「私なんかの予言を、信じて頂いて……」
「勘違いしてくれなさんな。オッサンの予知なんかより、そこのソガ隊員の方が、ずっとスゴイ推理をするんだぜ? ……あんたもあんたで、その見てくれがいけねえな。もちっと説得力のある恰好をしてくれねえとさぁ……」
「へぇ……そりゃあ、すごい! 見直しましたよ、ソガさん」
「ああいや、オレのはちょっとこう、ズルといいますか……オレはね、貴方をこそ、尊敬してるんですよ、ヤスイさん」
「へぇ、わたし?」
このヤスイという老人、言動はいかにも胡散臭げで、口の軽い小心者だが、その性根は本当に立派な男なのだ。
シャドー星人に捕まった先の基地で、強烈な洗脳装置にかけられ、もがき苦しみながらも、潜入した警備隊員に大声で敵の待ち伏せを知らせようとするくらい、熱いものを秘めている。それも一度は自分を見捨てた警備隊に、だ!
しかも、その後のガブラとの戦いでも、あんな近くで巨人が戦っている場から逃げずに、最後までセブンに予知した助言を与え続け、彼の窮地を救ったのである。
そのせいで円盤が爆発した余波に巻き込まれて、予知能力を全て失ってしまうが……
いくら能力があったとて、彼はただの民間人なのに、なんて勇気があるんだろうか。第一、未来が分かるという事は、危険察知能力が極めて高いという事。どんな光景が見えようが、そんなのは警備隊とセブンに任せて、自分は首を突っ込まず、家で震えていれば良かったんだ。……でも、彼はそうしなかった。
こんなに素晴らしい人へ、指一本でも触れさせてなるもんかい!
囮捜査に使ってしまったのすら、申し訳ないくらいだ。ほんとごめんねヤスイさん。こうでもしないと、敵が姿を見せないんだもん。あんたを守るためにはしょうがないんや……
そうこうしていると、近くに停まっていたタクシーが、大きなダンプカーたる正体を現して、一目散に逃げて行った。
「てめ逃がすかこのやろう!」
ダンプのタイヤを狙撃して、コントロールを失った車体は空き地に突っ込んで横転する。
「よっしゃ、任せろ! お前は基地に連絡だ!」
「お願いします。 ……本部、本部!」
―――――――――――――――――――――
夜のマルサン倉庫。
捜索中のキリヤマ隊長は、何者かの気配を感じ、拳銃を構える。
彼の後ろをつけてきていたのは……
「……ダンじゃないか!」
「隊長!」
「どうしてこんなところへ?」
「隊長と一緒に、明日を捜したくなりましてね」
「そうか……聞いてきたのか……」
ソガ以外にも理解者がいたかと、嬉しそうに顔を綻ばせるキリヤマ隊長。
「ヤスイ君がどこにもいないんだ……無事でいてくれるといいが……」
「大丈夫ですよ。ソガ隊員達がついています」
「うん、そうあってほしい……私は古いタイプの人間かもしれないが、人間の予知能力、霊感といったものを無視できないタチでな……」
その時、隊長のビデオシーバーが鳴る。
「はいこちらキリヤマ」
「隊長! ヤスイ氏を襲っていた宇宙人一名を射殺、もう一人を拘束いたしました! 奴らの乗っていた車はもぬけの殻でしたが……ヤスイ氏は無事です!」
「なに! 本当か! ……よくやった……よくやってくれた!」
「すでにアマギとアンヌがホークでそっちに向かっています! 隊長も気を付けてください!」
「よし分かった……!」
「……ハッ!?」
ソガからの連絡を聞きながら、辺りに蠢く妖しげな気配に気付くダン。
「どうした?」
「人の気配がします……隊長! どうやら予言は的中ですよ!」
「なに……あ、あれは!?」
その時、空から倉庫目掛けて飛来する三つの火の玉、危ない!
「あれだ、やれアンヌ!」
「了解、レーザー発射!」
駆け付けたホークが素早くレーザーとミサイルを発射し、3つのうち2つを空中で爆発させる!
ただし、残る1個は惜しくも着弾し、地上の倉庫部分を激しく炎上させてしまった!
「いかん! すぐに消火せねば!」
今はまだ偽装した地上部分の被害だけで済んでいるが、このまま火災を放置すれば、地下の施設にも燃え広がってしまう!
慌てて飛び出そうとしたキリヤマの脳裏に、ちらりと過ぎる、男の忠告。
『その時にですね……隊長さんもお怪我をしますよ……気をつけた方がいい……』
「……ハッ!?」
嫌な予感に、ぐっと踏みとどまったキリヤマの鼻先を、無数の銃弾が横切っていく。
あのまま飛び出していたら、今頃は射撃の餌食になっていただろう。
「ヤスイ君……ええい、そこか!」
「ウウッ!!」
「隊長!」
キリヤマの自動拳銃が火を噴いて、物陰に隠れた敵の体に、お返しの鉛玉をお見舞いした!
それを見ていたダンも、火線の先へウルトラガンで応戦する。
一人、また一人と倒れていくが、敵は巧妙に姿を隠した上に、明らかに数が多い。
ジリ貧になるのは避けようもなく、ついにキリヤマの弾が切れてしまった!
エネルギー式の光線銃と比べて、実弾拳銃は射線が見えにくい分、夜戦には有利であったが、継戦能力は比べるまでもなかったのである。
するとキリヤマは徐に、スーツの下に隠されていたベルトのバックルをぶちりとむしり取った。
「隊長、いったい何を?」
「ダン、私が合図したら、後ろの物陰へ走るんだ。くれぐれも敵に姿を晒してはならん。いいな!」
「了解!」
「それっ、今だ!」
言うやいなや、キリヤマは自決用に持ち歩いていた手榴弾を、
「何か飛んできたぞ!」
「手榴弾だ! 散れ!」
自分達の傍へ、何かがポトリと落ちるのを、耳聡く聞きつけたシャドー星人達の動きは速かった。
爆弾を後ろに蹴飛ばすと、蜘蛛の子を散らすように物陰から飛び出していく。
そして、その散り散りになった状況すらも利用して、敵が先ほどまで隠れていた物陰へ2方向から突撃したのだ。
母星で厳しい戦闘訓練を受けた革命戦士
奇襲、闇討ち、騙し討ち、味方を盾にしての一斉突撃なんでもござれ。敵を殺すためならば、どのような手段もお構いなし。自分の死すら恐れぬ攻撃性これこそが、宇宙ゲリラと恐れられる、シャドー星人戦闘部隊の練度なのだ。
しかし、敵がいたであろう場所へ殺到した彼らは、首を傾げることになる。
「もらった! ……いない!?」
「どこへいったのだ! ……ん? なんだこれは」
一人の戦士が消火栓へベルトのようなもので巻きつけられた、六角形の平べったい物質を発見する。
そこには『PDF.U.G』と書かれており、中心部から広がる青い3つの矢印で構成された紋様が刻まれていた。その物体の上部では、なにかのランプがゆっくり点滅しているではないか。それこそ極東基地所属ウルトラ警備隊の専用エンブレム。Pは
戦士の一人が、踵へ何かが当たった事に気付き、足元を見やると……そこには先程蹴り飛ばしたはずの手榴弾が……
「なっ!?」
ズガァアアン!!
バックルに仕込まれた磁力誘引装置へ、ころころと引き戻されたキリヤマの切り札が、シャドー星人達を纏めて吹き飛ばした。
運よく味方の影となり助かった戦士もいたが、その体表へ、破損した消火栓から勢いよく吹き出した水飛沫が降り注ぐ。無数の水滴が、その透明な輪郭で月夜を反射し、まるでスパンコールの様にきらきらと美しく輝いて、闇の中へその姿を浮かび上がらせていった。
次々とウルトラガンで敵を撃ち抜き、尊敬の眼差しでキリヤマを振り返るダン。
「やりましたね……隊長!」
「敵が姿を隠しゲリラ戦を仕掛けてくるというのなら……こちらもそれを逆手にとって、ゲリラを仕掛け返してやるだけだ。今回少数なのはこちらだったのだからな」
「貴方は……実に恐ろしい人だ……貴方が隊長で本当に良かった!」
「お褒めに預かり光栄だ。さ、行くぞ!」
ダンと笑顔を交わしたキリヤマは、敵の持っていた光線銃を拾い上げると、残敵を蹴散らしながら、倉庫の消火装置を作動させる為、炎の中へと、その身を躍らせていくのだった……