転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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零下40度の対決(Ⅱ)

「くそッ……このままじゃあ動力炉がカチカチの製氷室になっちまうぞ!」

「火炎銃の炎も消してしまうなんて……なんて奴だ!」

 

隔壁に開いた穴から、我が物顔で冷凍ガスを噴射する怪獣。

みるみる温度計の針が下がっていき、あっという間に零下90度。

地下だというのに、これでは外と変わりは無い。

 

このままこの無法者に、基地全体が氷河時代へ沈められてしまうのか……?

 

「待たせたな! 総員! 全てのライトを奴の顔へ向けろ!」

「みんな、どいて!」

 

おおっ! 来たぞ! 隊長達の増援だ!

動力室に飛び込んできたキリヤマとアンヌは、耐熱スーツを着込んでおり、何か巨大な樽状の物体を背負っていた。怪獣の潜む穴の前へ進み出た彼らは、細長い銃身をライトに照らされた巨顔目掛けてきっちりと構える。その銃身の根元には……背負子から伸びたチューブが接続されていた。

 

「全員、バイザーを降ろして、宙間装備だ! それ以外の者は退避せよ! ……放射開始!」

 

その瞬間、キリヤマの号令とともに、暗闇に沈む地下動力炉へ、()()がもたらされた。

二人の構えた火炎放射器から、目も眩むような紅蓮の焔が噴射され、闇に潜む敵の姿を、煌々と照らし上げたのだ!

渦まく炎がうなりをたてて、燃える……燃える!!

 

『カ゜カ゜ロロrrrrrrrrrrrrrr!?』

 

それもただの火炎ではない、放物線を描いた閃光は、怪獣の顔面に着弾すると、ネバつくように燃え広がり、硬い表皮をドロドロに焼け爛らせた。

これぞ、防衛軍が密かに心血を注いでいた新兵器、高性能火炎放射器ストラグル700の威力!

かつて凶悪脱獄殺人囚を引き渡した、キュラソー連邦との間で交わされた司法取引には、両星間のささやかな貿易条項も、試験的にだが盛り込まれていたのだ。

その輸入品の一部には、彼らの唾液腺から採取される、特殊な可燃性増粘剤の元となる粉末も、微量ながら含まれていた。

それらと防衛軍謹製ナフサを混合した、このキュラソナパームは、表面温度にしておよそ摂氏700度以上!

これでも通常のナパームより火力や範囲は落ちるものの、それを補って余りある保管性と即応性を有し、非常に扱い易いという利点があった。

 

でろりと張り付いた灼熱の涎が、怪獣の顔をあっと言う間に火達磨に変え、その分厚い面の皮を真っ黒に焼き焦がしながら、奴の周囲から急速に酸素を奪っていく。

 

矮小な人類から齎された思わぬ反撃に、驚愕と苦悶の声を上げる怪物は、大いに怯み、敵をガスで牽制することも忘れ、顔の炎を消そうと躍起になっていた。

 

「フルハシ隊員! これを!」

 

その隙をみて、後ろでナフサタンクを支えていたウエノとヨシダが、二人がかりでもう一つの武器を抱えて走ってくるではないか。フルハシが両手で受け取ったそれは……バーチカルショット、その名もスパイダー!

 

「よっしゃ、任せろ!」

 

一人ではとても満足に扱えない試作兵器の非常識な超重量を、これまた常識外の筋力でねじ伏せたフルハシは、まるで普通のマシンガンでも構えるような気軽さで、アンヌとキリヤマの間へ並び立つ。

彼はそのどっしりとした安定感で、暴れる怪獣へゆっくりと狙いを付けた。顔面を焼くのは二人に任せ、彼が慎重に狙うのは……細長い触覚の先でぎょろりと突き出た巨大な眼!!

デンデンむしむし、かたつむり……お前の目玉は……そこにある!!

 

「これでも食らいやがれッ!!」

 

フルハシが引き金を引くと、銃口から極太の熱線が一直線に照射され、怪獣の頭頂部を掠る。思った以上の反動だが、さりとて慌てず、この猛烈なじゃじゃ馬を抑え込んだフルハシが、射線を薙ぐように修正していくと……ついに剝き出しの眼球へ、小型融合炉の膨大な熱量が直撃!

かつて、年の離れた兄から、火炎放射のコツをよくよく聞いていたのが、功を奏したのかもしれない。撫でまわすように照射されるスパイダーの熱線が、怪物の片目を散々に炙り倒す。一瞬で白くぶくぶくと沸き立つ水分。沸騰した眼球が内側から弾け飛び、巨大な敵へ、この世の物とは思えぬほど恐ろしい絶叫を上げさせた!!

 

恐れ知らずの警備隊が放った、闘志の炎の猛攻に、たまらす穴の中を引き返していく怪獣(ガンダー)

 

「どんなもんですか!」

「いやあ……助かったぁ……なかなかやるじゃねえか、アンヌ!」

「うふふ、まあね」

 

増粘剤のタンクを背負い、体に巻き付けたホースを解きながら、ガッツポーズのように放射器を構えて得意げな顔を見せるアンヌ。この場にもしもソガ隊員がいれば、まるでサトミ隊員のようだ、と評したかもしれない。

 

「班長! 鬼のいぬ間だ!」

「よし、酸素充填と換気作業にかかれぇ! その後に復旧作業に取り掛かる!」

 

こうして、怪獣の襲来で中断していた復旧作業が再開された。

だが、怪獣もタダで逃げ帰ったわけではない。撃退されるまでの間、傍若無人に吐きまくった冷凍光線と、外部に繋がるトンネルとのせいで、動力炉の気温は一気に下がってしまっていた。

 

「……零下40度!?」

「あれだけ豪勢に焚火を焚いて、ようやく北海道並みたぁ……恐れ入ったね……」

 

基地の復旧は、まだまだ始まったばかりだ……

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

(基地はどうなっているだろうか……。それに、ソガ隊員は無事なんだろうか?)

 

だが、ポインターの中で寒さに凍えるダンに、それを確認する術はなかった。

半ば雪に埋もれたポインターから外を透視しても、辺りは一面白銀の世界……

いくら警備隊のスーツが特殊環境下を想定されていると言っても、限度がある。

車の中で、上下ともに特殊サウナスーツともいえる防寒着を着込んでも、まだ寒いのだ。

さっきは強がってああ言ったものの……ソガ隊員に付いて行かなくて、正解だったかもしれない……これでは彼の足を引っ張っていた事は確実だ。

 

こうしているだけでも、徐々に体温が奪われていくのが分かる……

やがてダンの意識が遠のき……眼前に、煌々と輝く太陽が現われた……熱と光を欲するダンの心が幻覚を見せたのか?

しかし、太陽の真っ赤に輝く炎の中へ、異形の影が揺らめき、甲高い不快な声で語り掛けてくるではないか。

 

「光ノ国ガ恋シイダロウネ、うるとらせぶん! デモ、自業自得ト言ウモノダ。M78星雲ニハ、冬ガ無イ。寒イ思イヲ、スルガイイ、うるとらせぶん!」

「誰だ、お前は?」

「地球ヲ、凍ラセル為ニ来タ、ぽーる星人ダ。我々ハ、コレマデニモ、2度バカリ、地球ヲ氷詰メニ、シテヤッタ。今度ハ、3度目ノ、氷河時代ト、言ウ訳ダ」

「氷河時代?」

「地球上ノ、生キトシ生ケル者ガ、全テ、氷ノ中ニ閉ジ込メラレテ、シマウノダ。うるとらせぶん! 勿論、オ前サンモ一緒ダ! ツイデニ言ッテオクガ、地球防衛軍トヤラヲ、マズ手始メニ、凍ラセテヤッタ!」

「なに!」

「アイツラガ、オルト、何カト邪魔ダカラナ……ハッハッハッハ!!」

 

高笑いをするポール星人のシルエットが遠のき、ハッと我にかえるダン。

 

「幻覚か……? 幻覚を利用して姿を現わすとは……ポール星人め! ……そうだ、基地が危ない……!」

 

左胸のポケットをまさぐるダン。

ウルトラアイを取り出して、変身しようとするが……

ぐっとそれを思いとどまる。

 

気になるのはさっきのポール星人達の様子だ。

 

言葉の上では、余裕綽々といった雰囲気であったが……彼のテレパシーは微かな違和感を捉えていた。

後半の部分で、その自信満々で尊大な態度の裏に、ちらちらと見え隠れする、確かな焦燥と苛立ちを、ダンは感じ取っていたのだ。

 

もしや……基地は氷漬けになんかなっておらず、奴らはハッタリをかましているだけなんじゃないのか?

うん……きっとそうに違いない。そもそも彼らが、あんな奴らに屈服するとは思えない。

ここで自分が挑発に乗って変身してしまう事こそ、敵の思う壺なのではないか……?

 

正直なところ……ダンはこれまでの戦いで、人類の底力というモノを、これでもかと言う程に見せつけられていたため……ある種、過大評価とも言えるくらい、仲間たちの実力を高く高く見積もってしまっている節があった。

それが良いか悪いかは別として、少なくともダンが自分で思っていた以上に、ウルトラ警備隊を信じ切ってしまっていたのだ。

 

もっとも、今のダンは寒さで酷く消耗し、正常な判断力を失っていただけでなく、精神的にも弱り切っていた。この極限状態において、そんな常とは違う精神状態だったので……彼の信じる地球人像という、妄執的とも言える理想に、縋りついてしまったのだ。

 

ポール星人の侵略計画は、彼らが想定していた以上に、ウルトラセブンへよく刺さり、彼を肉体的にも精神的にも追い詰めていた。

ところが……あまりにもよく効き過ぎたが為に、彼が普段は決して見せないような……心の奥底にある、ある種の弱さとも言うべき認識の齟齬を、氷上で行うワカサギ釣りの下準備の様に穿ち抜き、ずるりと剝き出しにしてしまったのだ!

 

元々ポール星人達の考えていた計画はこうだ。まずはモロボシダンが孤立する瞬間を狙って、異常寒波を巻き起こし、仲間と分断した上で寒さという弱点で追い詰める。と同時に、冷凍怪獣ガンダーにより、防衛軍基地を一突き! 仲間の動きを封じながら、セブンの心の拠り所を先に潰すことによって、精神的な揺さぶりをかける。

 

すると、散々に判断力が鈍った状態で、セブンは仲間を救うために、不利な戦場で戦う事を選択するはず。あとは簡単、エネルギーを消耗し、弱り切った状態のセブンなど、ガンダーの敵では無い。真正面から叩き伏せればいい。

 

もしも奴がエネルギーの回復の為に、宇宙へ飛び出していけば、その隙に基地へトドメを刺し、他の地域に転戦するだけだ。わざわざガンダーをぶつけなくとも、全滅した仲間たちの骸の前で、絶望と後悔に打ちひしがれるセブンの心を、粉々に打ち砕いてやれば、生きた屍と変わらない。無敵の肉体を持つM78星人には、精神攻撃こそが最もよく効くのではないかと、ポール星人は睨んでいたのだ。

 

……ところが、蓋を開けてみれば、キャンディーの様に甘い甘いセブンの心を突き進むと、その根底で()()()()()()()()()()()という、弱点と呼んでもいいのかすら判断に困る、黄金に輝く惰弱の片鱗を見せつけられる事になるなんて……これにはポール星人もすっかり呆れ果ててしまった。まさかこれほどまでに甘ちゃんだったとは……

 

「うるとらせぶん! オ前ノ太陽えねるぎーハ、アト30分モスレバ、空ッポニナル。地球ガ、オ前ノ墓場ニナルノダ! サゾカシ、本望ダロウ! ……ハッハッハッハ!」

「お前たちこそ、人間をあまり舐めない方がいい!」

「……本当ニ、変身シナクテ、良イノカ? 後悔スル事ニナルゾ? ソノ鉄ノ棺桶ガ、ソンナニ、好キカ!」

「無駄だ、今にきっと、ソガ隊員が助けを呼んで来てくれる……」

「ソウカ……コノ男カ! コノ男ガ、オ前ニソンナ、甘ッチョロイ夢ヲ、見セテイルノダナ?」

「……待て、何をする気だ?」

「ユケ! がんだーヨ! コノ地球人ヲ、ずたずたニ、踏ミ潰シテシマエ!!」

「……やめろっ!!」

 

―――――――――――――――――――――

 

雪の中を、一歩、また一歩と突き進むソガ。

アマギが改良した防寒服は、裏地に特殊な工夫を施して、さながらサウナスーツのような効果を発揮していた。そして、こんなこともあろうかと沢山忍ばせておいたベンジンカイロ。手袋も三枚重ね。

いやはや、こんだけやってもまだ寒く感じるんだから、マイナス140℃ってのはヤベえわ……

 

そりゃもう、こんな中を歩かされちゃあ、セブンだろうが地球人だろうが、凍死してしまうわな……

 

「うう……さぶさぶッ!」

 

基地はもう少しだ……基地に着けば、暖かいコーヒーとスチームが、俺を待ってるぞ……頑張れ、俺!

 

そんな時、俺の耳が遠くで聞こえる変な音を捉える。

……幻聴か? 寒すぎていよいよヤバくなってきたかな……?

 

でも、この鳩の鳴き声みたいな変な声……どっかで聞き覚えがあるような……

俺が記憶を辿り、妙に引っ掛かる唸り声のような音の正体に思い至ると、同時に顔の血の気が引いて行くのが分かる。

いやいや、こんな所で血行が悪くなるのは命に関わるが……そんな事言ってる場合じゃねえ……!

 

徐々に近づく謎の音、いや、あれは幻聴だ、きっとそうに違いない……頼む、吹雪の音の聞き間違いであってくれ!

オレは無意味な現実逃避をしながら、雪を掻く足を必死に速める。だが、奴の前では、そんな事はまったく関係ないのであった。

背後に感じる衝撃に、足がもつれて雪の中へぶっ倒れる俺。

恐る恐る振り向くと……

 

『カ゜カ゜ロロrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!』

「カ˝ン˝タ˝ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!??」

 

それは、アカン!!

なんでこっち来てるんだよ!!

ダンはあっち!!

こんな吹雪の中で、ただの人間がガンダーと一騎打ちは……死ぬ!!

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!!」

 

奴の口が、がばりと大きく開いて、その喉奥から猛烈な吹雪が発射される。

オレが死を覚悟したその時!

 

閃光と爆発を伴って、俺の前に立ち塞がるように、光の渦が巻き起こる!

こ、これは……カプセル怪獣の光!!

 

ありがとう、ダン!

なんてナイスな援護だ!

ここでミクラスの投入とは……!

 

「FUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

あれ? ミクラスの声って、こんなに甲高い声だっけ……?

もっとこう、雄牛のイビキのような野太い声だったような……?

閃光に眩んだ俺の視界が、うっすらと色を取り戻していく。

 

背後の俺を守るように、大きく両手を広げて敵へと立ちはだかる怪獣。

冷凍ガスをものともせずに受け切ったその胸は、辺り一面の銀世界を映し出す鏡のように煌めき、得意げに咆哮をあげる巨大な背中は、想像していたものよりも随分とスマートで。

 

黒く曇った空に向かって、彼が掲げる両腕は、武骨な板金鎧に覆われ、無数にリベットでも打ったような凹凸へ、早速雪が積もっていく。俺からはもはや、兜のように固い後頭部しか見えなかったが……彼のうなじから頭頂部にかけて天高く屹立した銀色のトサカは、彼の主人の姿を想起させるものだった。

 

このどこまでも白く白く染まった大地に、その堂々たる勇姿を、誇らしげに反射させる白銀の戦士は……

 

「ウ……ウインダム!? ウインダム、なんで!?」

「FUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

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