転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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零下40度の対決(Ⅲ)

『カ゜カ゜ロロrrrrrrrrrrrrrrrr!!』

「FUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

ソガへ迫る敵のガスを、その身を盾に防いだウインダムは、お返しとばかりに額のランプから、敵の胸に目掛けてレーザーショットを叩き込んだ!

 

着弾点で小さく火花を散らして、少しだけ怯むガンダー。

しかし先程、地下で食らったあの猛烈に熱くて痛い攻撃に比べれば、虫に刺されたようなものだ。伸縮性のある腕を伸ばすと、痛痒さを紛らわすために、ぺっぺと傷跡を払った。

 

お前の攻撃なんぞ効きやしないぞ、と言わんばかりの敵を見て、ウインダムは舌打ちを……するどころか、ますます張り切っていた。

むしろ、先ほどガンダーと名乗ったこの怪獣に、()()()()()()()程には効果があるのを見てとり、くるると咽を鳴らすその表情は、どこか満足げですらあった。

 

さしあたってウインダムは、己のレーザーに大した威力が無い事を重々承知していたし、また、そこに自身の存在意義を見出してはいなかった。

 

第一、射角の広さや射程の問題を置いておけば、ミクラスの吐くバッファフレイムの方が余程、火力に優れていたし、それこそ純粋な破壊力と言う点では、あの新入りこそが、彼ら四匹の中で最も凄まじい光線を放つ。まあ、それを主人は少々持て余しぎみではあったが。

 

そして、彼らの中で唯一、遠距離攻撃を持たぬアギラについて言及すれば……彼は肉体こそ早く成熟し、既に一端の戦士として遜色ないとはいえ、やはりついこの間、卵から孵ったばかり――勿論、ウインダムや主人の主観的時間感覚において――の赤子と変わらないのだ。

 

今は頼りなくとも、やがて数々の戦いを経て、より成熟するに足る時間さえあれば……もはや距離など無価値にするほどの俊敏性と脚力を獲得するだろう事は、彼の勇敢な母親の戦いぶりを見れば、明らかである。

 

そんな訳で、ウインダムは自分の遠距離攻撃手段にさして重きをおいて居なかったし、また、彼の主人が思い描く確かな戦略性の中で、自身が最後方に配置されるのを、あまり歓迎していたとは言えなかった。他の面々を見渡した上で、足りない部分を補えるのが自分しかいない為に、その役割に甘んじていたに過ぎないのである。

 

彼が、真に誇らしく思い、主人を支える仲間達の中で唯一保有し、彼の主人に対して最も貢献できると考えていたのは……鋼鉄の如き強度を誇る、金属細胞で構成された、輝く強靱なメタルボディであった。

 

お互いの遠距離攻撃が、どちらも相手に対して、牽制程度以上の意味を成さない事を理解した両者は、勇ましく雄叫びを上げて、雪原の真ん中で激しく激突した!

 

ガンダーのタックルが、ウインダムを大きく仰け反らせ、今度はその体勢を引き戻す勢いで放たれた鉄兜によるヘッドバッドが、ガンダーのぶよぶよした鼻面に炸裂する。だが、それに臆した様子を見せず、ガンダーは突っ張りのような連続パンチと、鋭い爪による連続引っ掻きを繰り出してくるではないか。

 

なんと手強い……

 

敵の拳の応酬を、半分は体で受け止め、半分はいなしつつ、ウインダムは先程から、自身の動きが普段に比べて今ひとつ鈍い、と感じていた。恐らく、この極寒環境の中で、血液代わりの不凍液が、白く濁ってきているのだろう。……だが、()()()()だ。

 

やはりウインダムは、この場において選出されたのが自分であってよかったと、心の底から安堵した。おそらく、この敵を真正面から叩き伏せるには、自身は少々パワー負けである感を否めず、ミクラスやあの新入りのような怪力無双こそが適当であり、もし実際に彼らをぶつけたならば、ガンダーを肉弾戦で上回った筈だ。彼ら四匹の中で、最も近距離格闘に秀でているのがミクラスであるのは、誰も文句のつけようの無い事であったし、彼の吐くバッファフレイムに、この敵が耐えられるかどうか非常に怪しい。

 

……ただ、ミクラスがどれほど哺乳類として破格の恒温性を持っており、極寒においても短時間ならば、全く問題ない戦闘能力を発揮できるのだとしても……彼はやはり、有機生命体なのだ。彼らのような生き物は、そこに大小の差はあれど、生命の維持にいくばくかの熱と酸素を必要とするのは変わらず、ウインダムの様に、それらに対して徹底的に節制であり続けられる訳ではない。我慢できるのと、必要ない、の間には雲泥の差が存在し……ウインダムは後者であった。

 

蛋白質によらぬ無機質な彼の肉体は、自身の生存にそれらを殆ど必要とはしないが為に、極寒であろうが灼熱であろうが、さらに言えば、そこが水中や宇宙空間のように、真空であろうが高濃度の放射線に満ち満ちていようが、全くもって関係は無かった。どのような場面であっても、多少の差異はあれど常と変わらぬ実力を発揮し続ける事ができた。

 

山をも砕く怪力も、目にも止まらぬ敏捷性や、馬鹿げた火力の光線も、そのどれもこれもを半端にしか持ち合わせていない彼が、それでも尚、己こそが、主人を支える忠実なしもべたる最先鋒として、最も相応しいと自負して止まない理由は、この究極的な汎用性と頑丈さにあった。

 

彼はどれだけ過酷な環境に突然放り込まれて、何度となく嬲られたのだとしても、その傷から一滴の血も流さず、電子頭脳が活動を停止するその瞬間まで、忠実に敵を足止めし続けるだろう。疲れを知らぬ鋼の肉体は、こと持久戦において、無類のタフネスを誇り、致命的な攻撃を受けない限りは、直接のダメージ以外で倒れることが無い。

 

もしも彼をバテさせようと思ったのなら、電子頭脳のリミッターが外れた状態で、完全フルパワーの最大出力で稼働させ続け、駆動系や回路に金属疲労や熱暴走を起こさせる位しか方法は無い。そして、心配するまでも無く、そんな事態は()()()()()()()()のだ。

 

すこしでも長く時間を稼ぎつつ、自分の硬さと重さを武器とするため、ウインダムが大きくジャンプし、ガンダーへ飛びつこうとする。それを認めた敵は、今度はそのまま上空へふわりと逃げると、雪に埋もれるウインダムを尻目に、その背後へ悠々と着地した。

 

なんという事だ! 飛べるのか!? この怪獣は!?

 

まさかこれ程までに硬い甲殻を持つ怪獣は、地底怪獣に違いないと踏んでいたウインダムは、驚愕と共に嘆息した。眼下で倒れるウインダムを睥睨する敵の()()には、確かな侮蔑が浮かんでおり、地を這うしかない者への明らかな嘲笑を含めつつ、その怪獣は得意げな雄叫びを上げた。

 

『カ゜カ゜ロロrrrrrrrrrrrr!!!』

 

……前言撤回だ。この環境、ではなく……()()()()()相手として相応しいのは、自分を置いて他にはいないと理解した。先程、ガンダーはミクラスに勝てないと思ったが……奴が飛べるのならば、話は別。いや逆だ。

 

ミクラスはガンダーに勝てない。絶対に。

 

彼の真価は、敵が同じ土俵に立ってこそ発揮されるのであり、ひとたび飛ばれてしまえば、得意の突進どころか、吐き出す炎も当たるまい。彼の放つ攻撃は、そのどれもが眼前の敵を倒すに相応しい威力を持っていたが……当たらないのならば、意味はない。飛行能力を有する敵とミクラスは、致命的に相性が悪かった。

 

飛行で翻弄され続け、寒さの中で徐々に体温を奪われていき、やがて力尽きてしまうはず。自慢の毛皮を雪でべっとりと濡らしたミクラスが、この悪魔に嬲り倒される様を想像し、ウインダムはその光景の恐ろしさに身震いした。やはり、ここに立っていたのが自分で良かった! 他の二匹など論外だ。変温動物である彼らは、戦場に現れた瞬間に、瞼を閉じて眠りこけ始めるだろう。

 

前回の戦いでは、常と異なり自分を起用しなかった主人へ、どうしてそこで己ではないのか! と、少なくない不満を抱いたものだが……自分がただただ愚かだったと言わざるを得ない。主人は……彼が絶対の忠誠を捧げ、敬愛してやまない彼の上司は、確かな慧眼と深謀遠慮を以って、今回の襲撃を予め見越していたに違いない! そして、この絶望的な状況を打開し得る唯一の駒として、自分を温存し、あの頼りない地球人への救援として、この身を駆け付けさせたのか!

 

なんという英断! なんという策謀!

 

やはり我が主人に相応しい男は、この全宇宙を見渡したとしても、彼をおいて他にいない!

 

――これは彼の主人にも言える事だったが、その従者も、大概にして妄信的であった――

 

 







ウインダムはああ言いましたが、セブンと警備隊が復活するまで時間を稼ぎ切ったミクラスはカプセル怪獣の鑑。
ミクラスいなかったら、25話にして地球詰んでる。
偉いぞ……ミクラス。

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