転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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零下40度の対決(Ⅵ)

メディカルセンターで、アラキとアンヌが懸命に治療を行っていた。温めた輸液を、ゆっくりと注射し、脇の下などの関節部分を中心に湯婆を挟んでいく。

 

その方法は、酷く迂遠で、即効性とはほど遠い物であったが、その慎重な取り扱いこそが、ダンとソガに必要な措置であった。低体温症に対して、即時の加温は有効的ではあるものの、それはあくまで軽度までの話。二人のような中度以降の凍傷患者に対しては、慌てて手足の末端を急速に暖めてしまうと、冷たい血液が心臓や脳へ一気に流れてウォームショックを引き起こし、逆に危険だからだ。

 

厄介なのは、この段階に至ると、神経系すらも麻痺した事で自覚症状が薄く、素人判断でストーブやスチーム等に手を翳して暖をとり、温かいコーヒーを飲むだけで、大丈夫だと認識してしまう事だ。まさしくホークで出撃する前の、ソガの様に。

 

この状態では専門的で繊細な治療こそが必要であり、措置を間違えると、重篤な後遺症が残る場合すらあるのだ。もっとも、基地の電源がダウンしていては、そういった治療自体が行えず、予備電源が無ければ消極的再加温しか選択肢がない。応急処置が間に合わなければ、二人は命を落としていた可能性すらあったのだから、丁度彼らの帰還と同時に、センターの稼働準備が整ったのは僥倖だった。アンヌとアラキのお陰で、二人はなんとか後遺症もなく命を取り留める事ができそうだ。応急処置が一段落し、額を拭うアラキへ、手拭いを渡しながらアンヌが労う。

 

「アラキ隊員、ありがとうございます」

「なんの、君こそいい腕だ。この状況で、あれほど鮮やかに点滴が打てる医師は、そういない」

「でも、アラキ隊員があの時長官に進言して下さらなかったら……今頃間に合っていなかったかも知れませんわ」

「そのお陰で彼らを助ける事が出来たというならば、私も長官に睨まれた甲斐があろうというものだ。特に……このソガ隊員には、借りがある。大きな借りが。死なせる訳にはいかない」

「借り……? ああ、そう言えば、アラキ隊員のお兄様は」

「そうだ、あの時彼が止めてくれなかったら、兄達は今頃、宇宙の海で氷漬けになっていただろう。あれは、間違いなく、そういう男だ」

 

人命第一の弟に対して、全く真逆の考えを有していた兄とは、長らく反りが合わなかったものだが……彼と関わる中で、あれにも多少、心境の変化というものがあったらしい。そういった点でも、アラキは心の中でソガに深く感謝していた。その恩を返す事が出来たのならば、最高司令官に啖呵を切るなど、なにを悔いる事があろうか。

 

その時、基地内の非常灯が、明るい通常灯に切り替わった。周囲の廊下から、暖房が低く唸り始める音がする。建物全体が鳴動する様は、基地という巨大な生き物がまるで長い冬眠から息を吹き返したようにも感じられた。

 

地下のムカイ班長率いる動力班が、ついに成し遂げたに違いない!

 

やがて、医務室のドアが開き、アマギとフルハシが駆けこんでくる。

 

「動力が回復したぞ!」

「ついにやったのね!」

「治療で疲れてるところ悪いがアンヌ、出撃だ!」

「分かったわ。……でも……」

 

彼女は優秀なドクターであると同時に、ウルトラ警備隊の戦闘員でもある。

ソガとダンが倒れた今、彼女に招集がかかるのもまた必然と言えよう。

アンヌは、ベッドのダンを見下ろし、しばし逡巡した。

 

「ここは大丈夫。行ってきなさい」

「……了解! 二人をお願いします!」

 

頷いた天使は白衣を脱ぎ棄てて、ブルーグレーの戦装束で駆けだしていく。

 

基地は再び復活した。

……さあ、ガンダーとの決戦だ!

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

スライドした二子山から飛び立ったホーク1号と、駐機状態からそのまま垂直離陸した3号は、吹雪の中で揉み合う、二頭の巨獣の姿を認めた。

 

「あれか、ソガの言っていた銀の怪獣と言うのは」

「なるほど、確かにトサカがついてやがらぁ……」

「いかに怪獣と言えど、我々の仲間を救った以上、明確に味方に間違いない。これより我々は、あの怪獣を援護する!」

「しかし隊長、援護と言っても……」

「なに、いつもとやる事は変わらん。あの怪獣を、ウルトラセブンに見立てて、敵を挟み撃ちにしてやれ」

「そいつぁ分かりやすくっていいや、了解!」

 

背後のホークからレーザーが飛び、ガンダーの背中に突き刺さる。新たな敵の出現に、伸ばした首をぐるりと回転させ、胡乱気な視線をよこすガンダー。

 

「アッ! 見て下さい隊長! 我々が焼いたはずの顔や目が!」

「ふむ、敵は恐ろしい再生力を有しているようだな……よし、アンヌ、アマギ! ホーク1号を三つに分けて戦おう」

「ハイ!」

「カルテット作戦、開始!!」

 

フルハシの駆る3号が、敵の眼前を挑発するように横切り、怪獣の注意を引く。そうして視線から離れた隙に、三機に分離した1号が、美しい編隊を組んで、敵へと襲い掛かった。計四機の機首から立て続けに照射されたレーザーの時間差攻撃で、避ける事も、また迎撃することもできず、翻弄されるガンダー。

 

彼の殻は、先程のソガの猛攻によるダメージから回復しきっておらず、満足な飛行能力が得られない。タイマン勝負には圧倒的に強いガンダーも、複数の……それも高速で飛び回る戦闘機に囲まれると、流石に対処に困るようだ。

 

そこへ、レーザーを乱射しながら、ウインダムが突撃する!

もはや技も何もないただの体当たりで、吹っ飛ばされるガンダー。

濛々と舞い上がる雪を切り裂いて、仰向けになった腹へ、再び上空からふりそそぐレーザーの雨!

 

いかに個として強力であろうと、群の力には及ばない。氷の水素結合よりも強固で、きらりと澄み切った結束。それこそが人類の、地球を愛する者たちの『絆』がもたらす力であった。

 

 

―――――――――――――

 

 

「……ハッ! ここは?」

「モロボシ隊員、気が付いたかね」

「あなたは……アラキ隊員……」

「おそらくポインターが雪に埋まって、かまくらのように断熱効果を発揮したのが良かったんだろう……意識が戻って良かった」

「コーヒーを、下さい……」

「今の君に、カフェインは良くない。……これを、お飲みなさい」

 

アラキが差し出したのはホットココア。上体を支えられながら飲むそれは、さながらソーマの如く。じんわりとした熱と、やわらかな甘みが、喉を通って、ダンの体を芯から暖めていくように感じられた。

 

……ああ、なんと……なんとあたたかくて……

 

「おいしい……」

「さあ、もっと飲んで、ゆっくりと……そうだ。そして、もう一度横になるんだ、今は安静に……」

「アラキ隊員、あの怪獣は、どうなりましたか?」

「いま、隊長達が戦っているとも。安心したまえ、基地の機能は復活した」

「……駄目だ、こうしてはいられない。行かないと!」

 

ベッドから降りようとするダンを、アラキが押しとどめる。

 

「動いちゃいかん! 今の君の肉体に必要なのは、熱と休息と絶対安静だ! 戦闘なんて以ての外だ!」

「いいえ、外で仲間が戦っているんです。僕の大切なみんなが! ソガ隊員は僕を助けてくれた、他の隊員は凍えながら基地を修理した! そして彼は……そんな時、僕はただ車の中で寝てただけではありませんか! 今度は僕の番です! 行かせてください!」

「駄目だ、絶対ダメだ……! いくら回復したとはいえ、完治した確証が無い以上、医者としての責任がある!」

 

アラキは自分の処置に自信があった。こうして会話が出来るならば、恐らく最も危険な状態を脱したと言える。しかし、凍傷患者は絶対安静、それは揺るぎない事実である。彼の瞳には自分の患者である以上、何人も逃がさぬという決意がにじみ出ていた。それを見たダンは大人しく引き下がる。

 

「……そうですね……では、ココアをもう一杯いただけますか……?」

「ああそうだ、そうしなさい。それが一番……」

「ありがとうアラキ隊員。貴方は素晴らしい名医だ。でも……僕の体には、そのココアだけでは足りないようです!」

「アッ! こら待ちたまえ! モロボシ隊員!」

 

そう、熱だ。魂を焼き焦がす程のあつい熱! 情熱の炎こそが、今こそ彼には必要だったのだ! 

後を追ってセンターを飛び出したアラキであったが、もはや廊下のどこを見渡しても、モロボシ隊員の姿は無かった……

 

 

―――――――――――――

 

 

「デュワ!!」

 

白い雪原に、真っ赤な戦士が姿を現す。

本来のフルパワーとは程遠いが、まったくゼロという訳でもない。一戦こなす程度には、エネルギーが辛うじて残されていたのだ。

ガンダーの姿を見咎めたセブンは、決着をつけるべく、必殺技を構えようとして……その射線上を塞ぐように現れた、銀色の背中に戸惑った。

 

一体、なぜ……?

 

セブンの脳裏に、彼の仲間の感情が、テレパシーとして伝わってくる。

ここは自分に任せて、早く太陽の近くまで飛んでくれと、自分はまだ戦えるからと、そう必死に伝える彼の体は、装甲がめくれ上がり、関節がひしゃげて酷い有り様だった。

だが、その瞳のランプは煌々と闘志の輝きを放っており、主人がのんびりと日光浴をするくらいの時間は稼いで見せると豪語した。そう、彼らと一緒ならば、そんな事は容易いと。……()()と共に戦えば、不可能はありはしないとも。

 

……なにより、最も付き合いの長いこの忠臣が、主人に向けてこんな事をのたまうのは初めての事だった。

『邪魔だから早く行け』などという台詞を、よもや彼の口から聞くことになるなんて。

 

「……ジュワッ!!」

 

頷いたセブンが飛び立ち、立ち込める暗雲を突破していく。

 

「アッ! セブンが空へ! やっぱり、寒さに弱いってのは本当だったのか!?」

「……セブンは逃げてしまったんでしょうか?」

「ウルトラセブンがそんな事するはず無いわ! きっと策があるのよ!」

「そうだ、我々に出来る事は、彼を信じる事だ! 決して諦めてはいけない。諦めずに戦えば、必ず勝機は見えるはずだ! それに……」

「それに、なんです? 隊長?」

「セブンが帰ってくる前に、あの怪獣を打ち倒して、彼を驚かせてやろうじゃないか。我々の手で!」

「……はい!」

「各機、俺に続け!」

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