転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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超兵器R2号(Ⅰ)

ポール星人の挑戦から、はや一週間。

俺が目覚めた時には戦いは既に終わっており、ただ猛禽の如く鋭い目つきのアラキ隊員が、決して逃がすまいと待ち構えていただけであった。

 

なんでもあの後、意識を取り戻したダンにひっかけられて、まんまと逃走されたそうな。だからって、俺で雪辱を果たそうとしないで欲しい。そろそろ体が鈍っちまいそうだよ……

 

メディカルセンターでぼんやりしていると、例の問題児が顔を出した。

 

「ソガ隊員、どうですか?」

「どうしたもこうしたもあるか、お前のせいだぞ。よく顔を出せたもんだよ」

 

俺がちらりと部屋の隅へ視線をやると、アラキ隊員が凄まじい形相でダンを睨みつけた後、鼻を鳴らして背中を向けるところだった。……おおこわ。

 

バツの悪そうな顔でペコペコしてる目の前の男は、とても正義のヒーローとは思えない程に情けない。叱られた悪ガキもかくやといった様子だ。1万7千歳も年上なのに、頭が上がらんらしい。

 

「それで、怒れる軍医殿に出くわすリスクを冒してまで、どうしたってんだ」

「いえその……お見舞いに、コレを……」

「……あ? なんだこりゃ?」

 

ダンがヒソヒソ声で俺に手渡してきたのは、単なる枯れ枝だ。

 

「本当はパトロールの帰りに、花を摘んでくるつもりだったんですけど、まだ全然咲いてなくて……で、パトロール先の公園で出会った子が、コレをくれたんですよ。いやあ、良かった」

「それで枝って……お前……」

「違う違う、その裏ですよ裏!」

「うらぁ? ……あ、こいつぁ……」

 

ひっくり返してみると、枝の先っちょに何やら鈴なりにくっついているではないか。それは細長い柄の先に小さい房のようなものが揺れていた。

ああ、オレはこれ見たことあるぞ……

 

「いやあ、うどんげの花って言うんですね、ソレ。僕がこのほ……こっちの方に来た時もソレによく似た花が林いっぱいに垂れ下がって咲いていて、すごく幻想的だなと思ったものです。あれ以来、ずっと見たことが無かったんですが……まさか珍しい花だったとは」

「……は、ハッハッハッハッハ!」

「何がおかしいんです?」

「あのなあ……ダン。確かにこれは優曇華の花って呼ばれちゃいるが……卵だよ。カゲロウって虫の卵なの。日本語って難しいよなぁ? 本当に華なのは、伝説上でな……」

「えッ!? 卵!? コレが?」

 

俺の指摘に驚くダン。宇宙人からしても、変な形なんだな。確かに昔の人からすれば、こんなもんが枝や葉っぱに付いてたら花だと思っても不思議ではない。

オレも、実物が中学校の窓ガラスに引っ付いてるのを見てなきゃ、知らなかっただろうな。

 

「そう。まあこの時期って事は、中身はとっくに出て行った後のを、その子が大切に保管してたんだろうさ。子供にとっちゃ、確かに宝物だろうよ。それをお前さんに気前良くくれたとは……いいもん貰ったなぁ……ダン」

「は、はぁ……そうだったのか……」

「でもあいにくと、ここには置いておけないぞ。虫の卵なんて、アンヌに気味悪がって捨てられちまう。お前の部屋に飾っとけよ。珍しい物には違いないしな……はっはっは」

「そうします……そうか、あの花じゃなかったのか……」

「お前が見たのはきっとスズランとか……ガマの穂かな? 今度、植物園に連れてってやるよ。確か、本当に優曇華って別名の植物もあったんじゃないかなぁ……日本にあるか知らんけど」

 

しかし、見舞いに花とはかわいい奴め、おまけに天然と来た。こういうところが憎めないんだよな……そりゃアンヌもコロっといっちまう訳だ。

 

「じゃあ、今度の休みを楽しみにしておきます。……あ、もう行かなきゃ」

「なんだ、帰ってきたばかりだろ? ゆっくりしてけよ。アラキ隊員にココア淹れてもらうか?」

「勘弁してくださいよ……なんだか作戦室で発表があるらしいんです。見られなくて残念ですね、ソガ隊員」

「へぇ、アマギがまたなんか面白いもん作ったのかな」

「地球防衛に関する事だそうですから、きっとそうですよ」

 

へぇ……悩んでた新型弾かな? それとも俺の渡したお土産の方か……?

楽しみだなぁ……

 

 

――――――――――――――――

 

 

地球防衛国際委員会のセガワ博士、宇宙生物学の第一人者マエノ博士らをメインスタッフとして、この防衛軍基地内の秘密工場で、今、恐怖の破壊兵器が完成しようとしていた。それは惑星攻撃用の超兵器R1号である

 

作戦室ではアマギが得意そうに広げたR1号の図面を前に盛り上がる警備隊の面々。

しかし防衛兵器と聞き、プロジェクトブルーのようなバリア装置を思い浮かべていたダンにとって、それがまさか惑星間弾道ミサイルであるというのは、まさしく青天の霹靂であった。

 

「新型水爆8千個の爆発力だって……?」

「しかもこれは実験用だぞ!」

「すごいわぁ……ねぇダン!」

「いよいよ発射するそうだよ」

 

はしゃぐフルハシたちを尻目に、たった一人、浮かない表情のダン。

 

「ダン、これで地球の防衛は完璧だなぁ……地球を侵略しようとする惑星なんか、ボタンひとつで木っ端微塵だぁ! 我々は、ボタンの上に指をかけて、侵略しようとする奴を待っておればいいんだ!」

「それよりも地球に超兵器があることを知らせるのよ」

「そうかぁ、そうすれば侵略してこなくなる!」

「そうよ! 使わなくても、超兵器があるだけで平和が守れるんだわぁ……」

 

アンヌも、二度と戦いをせずに済むと聞き、ようやく平穏な日々が約束されたのだと安堵する。

戦いに勝つ事よりも、そもそも戦い自体が起こらないことこそが、真の平和なのだから。

 

「しかし、地球防衛会議がぺダン星人に邪魔されてから、ずいぶんと遅れたもんだなぁ」

「いやぁ、これでも早い方ですよ、フルハシ隊員。イトウ博士とグリーン博士が、あのとき身代わりに沈んだアーサー号への弔いだと、寝食を惜しんで協力したそうですから……」

 

ぺダン事変の際、南極基地から防衛会議に出席する筈だった二名の博士は、影武者を乗せたアーサー号が襲撃された事により、間一髪で命を拾っていた。しかし、未だにその事を酷く悔やんでおり、あの時に暗殺された他のチーフ達の分まで、自分たちが頑張るのだと言って憚らなかった。

 

ツチダとアンダーソンが心配するほど熱心に計画へ打ち込む両名の心の中には、あの戦闘で死んでいった兵士達の尊い犠牲を、なんとしても無駄にしないという強い決意があったのである。

あの時に、この兵器があれば……もっと犠牲は少なくて済んだだろうに……

その後悔と哀しみこそが、彼らの頭脳の動力源であった。

 

「それに、マルサン倉庫の被害が少なくて済んだのも良かったですね。もしあそこが爆破されていたら、きっと春先までズレ込んだでしょう」

「そんなにか! いやあ、まったくヤスイのおっさんには頭が上がらんね。ウルトラ勲章がもう一個いるんじゃねえか?」

「あの時は隊長が、燃え盛る火の海に駆け込んで、即座に鎮火されましたものね。流石ですわ隊長」

「待て、それは違う。君達二人が、敵の遊星爆弾をほとんど撃墜してくれたおかげだ。皆の勝利だ。それに、ダンも私と一緒によく戦ってくれた……どうした、ダン? 具合でも悪いのか?」

「……」

「どうしたの、ダン?」

 

満面の笑みで語り合う仲間達を尻目に、ただ一人、その熱量を共有できずにいた男の顔は、酷く苦々し気で……

先程までの無邪気な青年は、今やまるで老人のように深い皺を眉間に刻み、磐のように黙りこくってしまっていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「じゃーん! ソガ隊員。いいもの見せてあげる」

「お、なんだいなんだい? いいものって?」

 

メディカルセンターに帰ってきたアンヌが、悪戯っ子のように頬を紅潮させながら、もったいぶって後ろ手に隠していた何かを、俺に見せびらかす。

 

「見てみて! かわいいでしょう! 二人が凍傷で倒れたって聞いて、ルリコがくれたのよ。あの病室は殺風景だからって。これでソガ隊員も退屈しないでしょう?」

「もう明日には退室するけどな。へぇ、リスかい? 君等は揃いも揃って、俺を楽しませようとまあ……いい友人を持てて嬉しいねえ……」

 

……ん? 待てよ? リス?

なんか見覚えがあるぞ、コイツ……?

 

「……そうだ、アンヌ。発表って何だったんだ?」

「え? ああ、それがね……」

 

その時、センターのドアが開いて、フルハシに組み付かれたダンが、無理やり室内へと引き摺りこまれてくる。

 

「バカ! よさないか!」

「放してくださいッ!」

「どうしたの!?」

「参謀へ実験の中止を……地球を守るためなら、何をしてもいいのですかッ!」

 

酷い剣幕で声を荒げたダンを、フルハシが珍しく真剣な顔をして、父親が子供に言い聞かせるような穏やかな声で諭す。

 

「忘れるなダン、地球は狙われているんだ。今の我々の力では守りきれないような、強大な侵略者がきっと現れる。その時のために……」

「超兵器が必要なんですね?」

「決まっているじゃないか!」

「侵略者は、超兵器に対抗して、もっと強烈な破壊兵器を作りますよ!」

「我々は、それよりも強力な兵器をまた作ればいいじゃないか!」

 

フルハシの言葉に、目を背けるダン。

彼の視線の先では、一匹のリスが、何も知らず、罪のない顔で、ただただ滑車を必死に回していた。

真っすぐ進んでも進んでも、後ろから後ろから、また次の道が降りてくる。それをまったく疑問に思わす、リスは滑車を回し続ける。それが自分の使命だとでも言うように……

ダンは宇宙の闇のように暗く深い瞳でそれを見ながら、絞り出すように、呟いた。

 

「……それは、血を吐きながら続ける……悲しいマラソンですよ……」

 

 

……がたり。

 

三人の目が物音の方へ向く。

そこには、幽鬼のように歪んだ顔で、男がよろよろと病人の如き格好で立ち上がっていた。

 

「お、おい……まさか……発表って……R1号の事だったのか……?」

「そ、そうよ……知っていたの? ソガ隊員?」

「……そんな! ポール星人の挑戦から、まだ一週間も経ってないじゃないか!?」

「だからこそじゃないか! 基地が甚大な被害を被った今だからこそ、地球の力を見せつけて、敵を牽制するんじゃないか! クソッ、完成があと一週間早けりゃあ……」

 

「あ……ア……」

 

「ソガ隊員?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙…………」

 


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