転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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超兵器R2号(Ⅱ)

参謀室にて、タケナカ参謀とキリヤマ隊長の前で二人の博士が今回の計画について最終確認を行っていた。

 

「で、実験はどこでするんですか?」

「ギエロン星を選びました」

「えっ、ギエロン星?」

「ええ、シャール星座の第7惑星。あの星でしたら、地球への影響は全くありません……それに、生物もいません」

「生物がいないというのは、確実なんですか?」

「ええ、大丈夫です。実験場所を選ぶのに6ヶ月もかかって検討したんです」

 

ぺダン事変以来、観測ロケットの類は打ち上げられておらず、それまでに収集されたデータを基に、さらに有人飛行の観測機を飛ばして、選定した。つまり、現在の人類が有人飛行で到達できる範囲からしか候補を選べないという事だ。そんな限られた条件の中で、マエノ博士は最善を尽くしたと言える。

 

彼女の提出したデータを見た参謀は勿論、セガワ博士すらも、そこに一片の疑いを持たなかった。なにせ、惑星表面の鉱石サンプルを採取し、星の裏側まで回り込んで、機械的にも肉眼でも確認したのだから。

 

ギエロン星に観測機へ反応を返す生命体はおらず、地表サンプルからは微生物すら見つからなかった。現在の人類が外宇宙の惑星に出来る、全ての方法を試したとすら言えるだろう。そもそも、水分が一滴も存在しない事が分かっている惑星に、そこまでの手間を割いたというのが、彼女の真摯さと生真面目さを物語っている。

 

第一、全ての生命が、その生存に水分を絶対に必要とするという事は、()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。必要のない調査を最後まで行った彼女の執念は、もはや常軌を逸していたと言っていい。それほどまでに、ぺダン事変以降における科学技術部は慎重に慎重を重ねていた。

 

「我々は、ついに超兵器を持ったということを宇宙の侵略者たちに知らせるということも目的の一つなんだ」

「実験が成功すれば、ギエロン星は宇宙から姿を消すでしょう……」

 

これが、ソガの絶叫から遡って48時間前の、会話である。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「待て! ソガ!」

「待ってソガ隊員! アナタまで一体どうしちゃったっていうの?」

「駄目だ! R1号を撃っちゃいけないんだ! それだけは!!」

 

アンヌの制止を振り切って、作戦室に転がり込んでくるソガ。

 

「隊長! 今すぐR1号の発射を中止して下さい! 訳は後で話します! 今は俺を信じて下さい!」

「どうしたんだ? ソガ? 何を言っている?」

「隊長! コイツラさっきから変なんですよ! 実験を中止しろとかなんとか……」

 

その後ろから、ダンを引き摺りながら、フルハシが怒りの形相で追って来る。

 

「お願いです隊長! あれだけは撃ってはなりません! 地球はもう言い訳できなくなる!」

「……おいソガ、そんなに真っ青な顔で何言ってるんだ。まだ寒いのか?」

「アマギ! 今はふざけてる場合じゃない! R1号は……」

「お前が寝言を言ってももう遅い。たった今、発射したばかりだぞ?」

「……な、なんだって……?」

「お、おい! しっかりしろ!」

 

アマギの言葉を聞いて、その場に力なく崩れ落ちるソガ。

常にはない様子の彼を心配し、隊長達が助け起こす。

 

「もう! 無理するからよ! やっぱりまだ治ってなかったんだわ!」

「……いいや、違う。違うよアンヌ……体はすこぶる元気さ……体はね……」

「おい、大丈夫か? ……死人みたいだぞ?」

「まさか、侵略者が妨害を仕掛けて来るのか……?」

「いえ、違います参謀……そうじゃない、そうだったらどんなに良かったか……

「宇宙震を観測!」

 

直後にウエノが叫んだ報告によって、ソガが小さく呟いた声は誰にも聞かれる事はなかった。

ギエロン星を見張っていた観測艇から齎される、実験成功の報。その喜色に満ちた声が、ソガの心を何度も何度も突き刺した。

 

「成功! 大成功です。成功です! 巨大な炎が吹き上がり、ギエロン星は完全に粉砕されました!」

「やった!」

「……参謀!」

「うん、信じられない破壊力だ。これでR2号が完成すれば地球の防衛は完璧だ」

「完璧なものか……」

「ソガ隊員……?」

 

暗い顔の二名を残して、喜びに沸き立つ作戦室。

そんな中、仲間たちの様子とは裏腹にへたり込むソガを、ダンが気遣ってのぞき込むと……こちらを見上げる彼と視線がぶつかる。そこには、痛々しい程の悔しさと虚しさがない交ぜになっていて……それはまるで許しを請う罪人のようでもあった。

 

だがそれも、次の報告を聞くまでの僅かな間でしかなく、ダンはそれが幻であったかとも思った程だ。観測艇の通信でハッとしたソガは、次の瞬間にはコンソールへしがみつく様にして、マイクを握っていた。

 

「レーダーがギエロン星の破片と思われる影をキャッチしました」

「観測艇! 退避しろ! 衝突するぞ! 観測艇!」

 

彼らの声を背にひとり、踵を返して作戦室を後にするダン。

他の面々は、恐慌したソガを宥めるのに必死であったが、アンヌだけは彼を追いかけて行った。

 

「ダン! どこに行くの?」

「……宇宙パトロールの時間だよ」

 

アンヌへ冷たく突き放すように告げて、苛々とした様子でホークの発射場へ向かうダン。

怒っているのか、悲しんでいるのか。どちらにせよ、彼が実験の成功を喜んでいないという事だけは明白であった。

 

(どうして……? どうしてアナタは私達と、同じ喜びを分かち合ってくれないの……ダン)

 

普段より小さく見える男の背中を、ただ見送るしかない彼女の脳内では、先程の言葉と表情が思い起こされた。

 

『それは、血を吐きながら続ける……悲しいマラソンですよ……』

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「こちら宇宙観測艇8号! こちら宇宙観測艇8号! 緊急情報、緊急情報! ギエロン星から、ギエロン星から攻撃を受け……」

「観測艇8号!観測艇8号!」

「どうしたんだ?」

 

俄かに緊張が高まる作戦室。

 

「おい、何があったんだ! 応答せよ!」

「こ、こちら宇宙観測艇8号、ギエロン星から、何者かが地球方面へ……飛び去って……巨大な鳥が……」

「……鳥? そう言ったな今?」

「そんなバカなことありません。ギエロン星には生物は住んではいません!」

 

マエノ博士が驚愕の表情で断言する。だが、その声の震えには、僅かに不安の響きが含まれているのを、彼女自身、否定しきる事ができなかった。現に、その言葉をへ被せるように、計器を見張っていたウエノが声を上げる。

 

「隊長、奇妙な物体をキャッチしました」

「何だろう? 普通の宇宙船じゃないぞ……」

「方角は?」

「ギエロン星のあった方角からまっすぐ地球に向かっています」

 

やはり、観測艇の見間違えではないのか? 即座に通信を開始するキリヤマ。

 

「ホーク1号、ホーク1号! こちら作戦室。応答せよ! 応答せよ!」

「こちらホーク1号」

「ギエロン星のあった方角から、まっすぐ地球に向かっている飛行物体があるんだ。調査してくれ!」

「了解、調査します」

「何だろう……その飛行物体というのは……」

 

ホークの操縦桿を握りながら訝しむフルハシの隣で、ダンは激しく後悔していた。

あの実験のことだ。深い深い宇宙の気配の中で、セブンとして、ダンとして、彼は自らの行動を縛ってしまった事を恥じた。

 

あの時、確かに自分は……地球人ではなく宇宙人なのだと、彼らの問題に口出しをするべきではない、いや、その権利はないのだと……迷ってしまった。発表の場であれば、まだ間に合ったかもしれないのに……

 

(僕は、絶対にR1号の実験を妨害するべきだった……本当に地球を愛していたのなら、地球防衛という目的のために……それができたのは僕だけだったのに……)

 

あんなにも地球人と仲間になる事を望んでおきながら……やっぱり所詮は部外者でしかないのだと、彼らと自分は違う立場なのだと、自らの手で線を引いてしまったのだ。そのことに今更になって気付いてしまったセブン。もう……遅いというのに。

 

だが、そのやり場のない感情を整理する間もダンには与えられ無かった。なぜなら、目的の物体がすぐそこまで迫って来ていたからである。

 

はたして彼らの目前に現れたソレは……まさに巨大な鳥であった。漆黒の空を、二枚の翼で羽ばたき、ホークとほぼ同等のスピードで宇宙を飛んでいる! まっすぐ地球へ向かって!

 

「ホーク1号より作戦室へ。発見しました」

「宇宙船か?」

「いや生物です。巨大な!」

「なに? 生物……生物だってッ?」

「そんなバカな!」

 

作戦室で博士が叫ぶ。そんな事実は認められない。いや、認めたくは無かった……

 

しかしそうも言っていられない。即座に気持ちを切り替えたダン。宙返りして、追撃戦をしかけるホーク1号。だが、観測艇に攻撃してきたという事であったが、追いすがるホークには微塵も興味を示さない怪獣。試しに注意を引こうと攻撃をしけてみるが……硬い表皮でその全てを弾き返してしまう。

 

「恐ろしい奴だ……ロケット弾じゃだめだ!」

「いえ、見ていて下さい! 隕石と正面衝突します」

 

その時ちょうど、怪獣の進行方向からほぼ同サイズの隕石が流れてきた。これ幸いと様子を見ていた二人であったが……激突に勝利したのは、怪獣の方であった。

 

怪獣の、刃物のように鋭利で硬い頭頂部にぶつかった岩石は、バックリと二つに分かれてしまったのだ。

ロケット弾を弾き返し、自分と同サイズの質量にぶつかってもビクともしない、恐ろしく強力な怪獣が、脇目も振らず、まっすぐ地球へと迫って来ているのだ。

それも、先程地球が粉々に消し飛ばしてしまったギエロン星から……

 

その生き物の目的が、一体なんであるかなど、もはや火を見るよりも明らかであった。

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