転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「信じられません。ギエロン星は温度270度、酸素0.6%。金星とよく似た、燃えない焦熱地獄です。そんなところに生物が住めるはずがありません」
「しかし、そこに生物はいた。しかも超兵器R1号の爆発のショックで変異したんだ」
「……あたくしの責任です。ギエロン星を実験場に選んだのは、あたくしです……」
「私たち全員も賛成した。あなたひとりの責任じゃない」
「でも……」
「自分をいじめるのはやめたまえ」
自責の念に駆られるマエノ女史を、セガワ委員長が慰める。
しかし、今やそのような責任問題どころでは無かった。
「隊長、新型ミサイルをホーク2号に取り付けました」
「では……失礼」
軌道上でこの生物を撃滅するため、キリヤマが2号で迎撃に出る。
V3から発進したクラタ達とも合流するが、その激しい攻撃を涼しい顔でやり過ごすギエロン星の怪獣。
さらにその上、プロジェクトブルーの電磁バリアすらも、真正面から突き破って強行突破するという離れ業を見せつけた巨鳥は、ついに、憎き仇共が跋扈する、地球の大地へと降りたったのである!
『タッケテェェェエエエ!!』
人類の愚かさと傲慢さによって、故郷を破壊された復讐鬼の雄叫びが、月夜の廃墟に木霊する。
ギエロン星獣はその血走った眼で、ゆっくりと辺りを睥睨した。ここが、奴らの住まう楽園かと……今から己が焦土と化すべき地獄かと……
いや、それとも本当は……?
そこへ、アマギの乗ったホーク3号が飛来する。ぴょこぴょこと地面を跳ね回り、小首を傾げる怪獣を、なんとかここで殺しつくしてしまうべく、3号は腹の弾倉を大きく開け放ち、乾燥気化爆弾をありったけ投下した。
連鎖する爆縮が、哀れな鳥を包み込み蒸し焼きにしてから、その四肢を衝撃波でバラバラに引きちぎった! 大小の肉片となり果てて、朽ちた教会へ四散するギエロン星獣。
「やりました隊長! 地上にて怪獣を撃破確認! 呆気ない最後でした……」
「そうか、これまでのダメージが蓄積していたんだろう」
「待って下さい! アマギ、油断するな。その怪獣の死体を、しばらく見張っておくんだ!」
「なに言ってるんだソガ? 見張るも何も、バラバラだぞ」
「今に分かる!」
「はぁ……」
通信を聞いていたソガが割り込み、死体を見張れと声高に主張する。
血気迫る彼の声に、アマギは渋々辺りを旋回して、肉片に怪しい動きがないか監視する事にした。
……しかし
「おい、何が今に分かるだ。ピクリともせんじゃないか」
「な、なんだって……?」
「もう30分も飛び続けてるが、流石にこれ以上は勘弁してくれ! 今日のお前はおかしいぞ? ……アマギ、帰投する!」
アマギが腹立たし気に通信を切り上げた向こう側で、ソガの顔は困惑に満ち満ちていた。
――――――――――――――――
「なぜ、再生しないんだ……?」
確か本編においてギエロン星獣は、3号に吹き飛ばされた後、バラバラの状態から復活したはず。それも夜中のうちに。
それが今回はピクリともしないなんて……おかしい。
原作よりも激しい攻撃で再生力を使い果たしていた……?
確かにこの後、セブンに頸動脈を切られて死ぬくらいだから、再生力が有限であるのは間違いないんだが……本当にそうなのか?
あの時と今とで、一体何が違うんだ……?
ソガが暗い表情で首を捻る中、作戦室へフルハシとダンまでもが帰還する。
念のために、帰り道でもう一度確認をお願いしておいたのだ。
「隊長、やはり死体は死体のまま。ソガの杞憂ですよ」
「うむ……しかし、おかしいな……どうも」
「ええ、超兵器R1号の爆発でも死ななかった奴です」
「うむ……」
とはいえ、流石にあれだけの攻撃を食らい続けてきた生物が、地球に降り立った途端、こんなにアッサリと死んでしまうだろうか?
ダンとキリヤマも、どこか納得のいかない様子で唸る。
死体を見張れと言うソガの主張を黙認したのも、まだ何かあるにではないかと、しきりに胸騒ぎがしたからだ。
「宇宙を飛行してきて、エネルギーを使い果たしたのかもしれません……」
「そうですよ、きっと!」
絞り出すように呟くソガにアマギが同調する。
もっとも、両者の表情は対極的であったが。
「隊長、被害を最小限度に食い止めることができて、何よりだった」
「いやぁ、これからもどんな強力な侵略者が来るかもわからん。一日も早くR2号を完成させなきゃ……。理論的にはさらに強力な超兵器、R3号、R4号の製造も可能だ……」
「あ、あんたは……」
セガワ委員長の言葉に、ソガが弾かれたように顔をあげ、今にも嚙みつきそうな勢いで睨みつける。普段の温厚さからは想像できない彼の顔に、周囲も思わずたじろぐ程に。
「な、なんだね……ソガ隊員……? やはり威力が中途半端だったのが、そんなに気に入らないのかね?」
「まったく違います! 結局のところ……我々の実験に、被害者を出してしまった事について、なにも反省はないんですか? 彼は……彼は被爆者なんですよ?」
「だが! 直前まで本当に、生命の痕跡は何も無かったのだよ? 当然ながら、あの星で実験を行う事は、観測艇からあらゆる周波数帯で発信していた! あれはきっと……岩石が放射能によってアンノン星人のような疑似生命に変異したとしか考えられん! ギエロン星に先住する生命体は居なかったんだよ」
ソガの指摘に、セガワ委員長は沈痛な面持ちで視線を下げる。しかし、この計画に携わった全ての人間の切実な思いを知っている彼としても、そのまま引き下がる訳にはいかなかった。
「そんな事は関係ない! どっちにしろ、R1号があの化け物を生み出した事には変りないじゃないですか!」
「それは……それは詭弁だ。こうなる事など、誰にも予想できなかった……確かに、予測を外した事は、科学者たる私のミスだ。何度でも謝罪する。だが……我々以上の力を持つ外敵から身を守るのに、力は必要だ」
「セガワさん、それこそ詭弁だ! 真の平和とは……他者を脅かす事なく、それを成し遂げなくてはならないんじゃないんですか? だからこそ、難しいんじゃありませんか……? 我々は、地球防衛軍であって……このままでは宇宙攻撃軍になってしまう!」
「……やめないか、ソガ」
キリヤマの制止に振り返ったソガの瞳には、やりきれない思いが渦巻いていた。
彼とて、セガワ委員長だけを責めたって、何かが解決するわけではないと察していた。だが、それを飲み込める程には、彼の精神は成熟しきっているわけでも無かったのである。
「……いつか自分達に向けられるかも知れない武器を持っている相手と、猜疑心や打算抜きで、友情を育む事ができると本当に思いますか? 隊長……?」
「それを乗り越えてこその絆だ……真の友情とは、そういうものだ。……それに、例え僅かな打算があったとして、その一点だけを瑕疵と言い張り、一切を友誼と認めないのか? ……それこそあまりにも、狭量なのではないか……?」
キリヤマの眼差しには、若さを責める色も、妥協を諭す響きも無かった。そこにはただ、疑問を投げかける一人の男がいるだけだった。
「……失礼しました。私が熱くなりすぎたようです、セガワ博士……私は、これにて!」
バツの悪そうな顔で、その視線から顔を逸らしたソガは、振り返らずに一方的に謝罪を捲し立てると、足早に作戦室を後にした。その後ろ姿を、とても寂し気な表情で見送る仲間達。
脅威を退けた喜びの熱は、先程までが嘘のように、もはや冷め切ってしまっていた。
な、なんと……髑髏の火炎竜様から挿絵をご提供頂きました!!
まさか自分の作品に支援絵を頂ける日が来るとは……
しかも! 見て下さいコレを!
【挿絵表示】
素晴らしい……最高の一枚絵だと思いませんか?
一先ずのサンプルですと渡されたのを一目見て仰天しましたね
ウッキウキでリンク先に飛んだら、ずっと前から大百科のギエロン星獣のページで見てた作品が、ボンと目の前に出てきた作者の気持ち想像してみてくださいよ……
廃墟で月夜に吠えるギエロン星獣とかいう、この回を象徴するシーンを見事に一枚絵で切り出す才能よ
この哀愁こそ、ギエロン星獣なんですよ!!
作者この作品めっちゃ好きでファンだったんですよね……それをまさか当作の挿絵として飾れる? 最高か?
作者は数年前からずっと、最近投稿した作品のファンになってくれた人のファンだった。
何を言っているか分からねーと思うが俺も分からねー
ありがとうございます!