転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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超兵器R2号(Ⅴ)

ホークが空爆によって怪獣の気を引いて、なんとか進行を押しとどめている間、作戦室ではどうにか糸口を見つけようと、二人の科学者が目を皿のようにしてデータを浚っていた。

そんな時だ、マエノリツコ女史の口から、か細く悲鳴のような呟きが漏れたのは。

 

「そ、そんな事って……あ……ああ……」

「マエノさん、どうしたんです?」

「やっぱりあたくしが……あたくしが浅はかだったんです……許して……許して下さい……皆さん! ……ああ!!」

 

何らかの真実に気付いてしまったらしい彼女は、その場で泣き崩れてしまう。すっかり打ちひしがれた様子のマエノ女史をソガが助け起こすと、その美貌を後悔の涙でぐしゃぐしゃに歪めた博士が、ひとつのデータを見せつけた。

 

「マエノさん! 一体何が分かったんです! 泣いてる場合じゃありません! しっかりしてください」

「失礼、取り乱しました……見て下さいまし、これを!」

「……観測艇8号が送って来た……ギエロン星の破片データ?」

「それも、地殻やマントルに相当する、より深部にあったと思われるものです……」

「それが、一体なんだというのです?」

「この組成は、決して岩石の類ではなく、むしろ有機的な……一部のアメーバが休眠時に作り出すシスト……いわゆる殻や防御膜のような物質のそれと非常に酷似しています!」

 

涙を拭った博士から、衝撃の事実が告げられた。それに真っ先に反応したのはタケナカだった。彼はずっと、あの怪獣が6か月以上もの調査の間、星のどこへ潜んでいたのか引っ掛かっていたからだ。

 

「なんだって!? それじゃあつまり、我々がギエロン星だと思っていたのは……」

「はい、あの生物の作り出した殻の上に、周囲を漂っていた岩石が付着しただけの……言わば、星そのものが、ひとつの生命だったんです! あそこで暴れている、あの怪獣こそが! きっとギエロン星本来の姿だったのですわ!」

「ギエロン星獣……」

「あの生物は、宇宙の片隅で、ただすやすやと眠っていただけだったのに……愚かにもあたくし達人類が、わざわざ彼の揺り篭を破壊して、その安寧とした眠りから叩き起こしてしまったんです! あたくし達が……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

再び涙を流して項垂れるマエノ博士。その仮説は、作戦室の面々からしてみれば、十分に驚愕の極みであったが……それを見つめるソガにしてみれば、大した感慨を引き起こすものではなんら無かった。

 

その顔にはありありと『そんな情報が今更なんになるというのか?』という感情が浮かんでいたが、辛うじてそれを口にする事を踏みとどまった。十分に打ちのめされているであろう彼女に、さらなる追い打ちをかけるのは、配慮に欠ける彼をして、流石に憚られたからである。それほどまでに、マエノ博士の取り乱し様は痛々しいものだった。

 

(だが……アメーバ? なるほどな、確かに原作でも、飛び散った黄色い液体が寄り集まって再生してた……怪獣の体はあくまで硬い入れ物であって、中身のあれが本体というわけか……)

 

ソガは未だに、昨夜の時点でギエロン星獣が復活しなかったという点が腑に落ちていなかった。あれさえなければ、こうまで思惑をずらされる事もなかっただろうに……

まさか死んだふり? だが、あれほどに怒り狂ったギエロン星獣がそんなに悠長な手を使うだろうか……?

 

疑問と共に、画面上の戦闘を観察するソガ。後退した地上班が、望遠レンズで撮影し続けているリアルタイムの戦闘記録は、どこか懐かしい気分にさせる。

まるで、ウルトラセブンの本編を見ているような……

 

だが、その光景に感じる微かな違和感。

 

なぜだろう……心なしか迫力に欠け、色味も少し足りないような……

 

その時ふと、彼の脳裏に、昨日の同僚の言葉が過ぎった。

 

『本当はパトロールの帰りに、花を摘んでくるつもりだったんですけど、まだ全然咲いてなくて……』

 

そんなはずはない、だってギエロン星獣とセブンの戦いは、その悲惨さとはまるで正反対な程に、賑やかなBGMをバックに、一面の黄色く美しい花畑の中で、皮肉な程に幻想的な……

 

『ポール星人の挑戦から、まだ一週間も経ってないじゃないか』

 

ソガは、見つめる画面の中に占める黄色の割合が、怪獣の吐く死の灰だけであり、それを吐き出す彼もまた、記憶の中よりも随分と大人しいのだという事に、はじめて気付いた。

 

「「……そうか! 温度だ!」」

 

ソガの発した言葉が、奇しくも、隣のセガワ博士と被る。

 

「隊長! 冷凍弾はありませんか! 降雨弾でもいいです!」

「火災鎮火用に数発はあるはずだが……」

「私からも提案しよう。キリヤマ隊長、是非使ってみて下さい。あの怪獣が、灼熱のギエロン星そのものだと言うのなら、低温環境に対応できない可能性が高い!」

「……やってみましょう!」

 

1号から発射された人工雲が、ざあざあと怪獣の躰を濡らし、3号の冷凍弾が怪獣表面を一気に凍結させた!

薄い氷は、怪獣の身震いで容易く割砕かれてしまうが、その動きは、先程よりも格段に鈍い!

 

「やはり……例え我々の常識外の生態をしているとしても、それが生物である限り、適した温度環境というのはどうしても存在する……まして、もともと恒星近くを公転していたと言うならば、地球の気温ですらも、彼にとってみれば真冬の極寒と変わらないだろう。一週間前の、この基地のような!」

 

なるほど、夜中に再生しなかったのは……しなかったのではなく、出来なかったんだ。

原作では雪解けも済んで、温かい春先の出来事だったから、夜であっても辛うじて再生できたけど……この世界では実験があまりにも早く起きてしまったから、日が昇るまでは活動できなかったんだ!

 

確かに、原作でもこの世界でも、夜間のギエロン星獣の動きは大人しい。まさか、こいつがセブンよりも寒がりだったとはな……

 

「し、しかし。それほどまでに熱量が必要だというのなら。なぜあの怪獣は一番近い恒星や他の惑星を無視してわざわざ地球へ……? 復讐の為に? それほどの知能があるというのですか? それに、宇宙は地球なんかよりずっと極寒です!」

 

アマギの疑問に対して、セガワ博士は沈痛な面持ちで、絞り出すように答えた。

 

「……放射能だよ」

「え?」

「あの怪獣は、放射能を食って、その再生力を得ているに違いない。宇宙で体の表面が凍り付いても、さらに無数に降り注ぐ太陽風から放射能を吸収して、常に再生しながら飛行していたんだ!」

「そんな力技で!?」

 

アマギが呆れかえるが、セガワ博士が真に痛恨であったのはその次の仮説であった。

 

「いきなり宇宙空間に放り出されて、生存に放射能の吸収が急務となった怪獣は、少しでもその燃料が豊富な空間を辿り、飛び続けた……通常、宇宙空間に偏在する放射線量に大きく差が無いと仮定すれば、彼の飛び出した空間にはたった一筋だけ、残存放射能が異様に濃いラインがあったはずだ……」

「……まさかッ! R1号の軌跡!?」

「我々の超兵器が……彼をこの星へ招待したのだ……あの怪獣に知能があろうと無かろうと、宇宙にギエロン星獣が生まれた以上、あれが地球に降り立ったのは必然でしかない……」

「そんな……」

 

彼らのやり取りを背に、作戦室を後にしようとするソガ。

 

「ソガ隊員! どこへ行くの?」

「2号に冷凍弾を満載して、奴を氷漬けにできないか試すのさ。隊長達の機体には、元々そんなに積んであるわけじゃない」

「でもまだ本調子じゃ……」

「……あの怪獣は! あの怪獣だけは、人類が落とし前をつけなきゃならないんだ。このまま手をこまねいていたら、今にセブンが出てきて、きっとあの怪獣を倒してしまうだろう……彼にそんな事をさせる訳にはいかないんだよ!」

「なぜ? セブンだって私達の仲間じゃないの?」

「でも彼は宇宙人だ。今回の事件は、完全に人類の落ち度なんだぞ……? 俺達が失敗しました、代わりになんとかしてください、で済むものか! 自分の力でケツも拭けないような星が、彼にいったいどんな顔で仲間だと言うんだよ? そんな事で胸をはって、堂々と彼と肩を並べられるのか?」

「ソガ隊員……」

「ギエロン星獣だけは、セブンに頼らず、地球の力だけで倒さなきゃいけない。それが、取り返しのつかない事をした俺達が、唯一できる贖罪なんだよ。それができなきゃ、宇宙に向かって、なんて言い訳するってんだ!」


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