転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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超兵器R2号(Ⅵ)

ソガの出て行った作戦室で、セガワ博士が電子計算機に何かの数式を入力していた。

次々と結果が弾きだされていく。

 

「セガワ委員長、それは?」

「はい参謀……計算をしております……あの怪獣の全身を一気に凍結するためには、どうすればいいのかを……」

「一気に凍結……?」

「そうです。どれだけ端を凍らせたところで、その再生力を上回る速度で内部まで凍結できない限り、またいたちごっこになってしまいます……それこそ、宇宙空間であの怪獣が置かれていた状況と何一つ変わらない……」

 

やがて、計算機がひとつの結論を導いた。

 

「やはり……」

「どうだった?」

「ホーク2号に搭載できる冷凍弾では、あの怪獣の全身を覆うのは……到底、不可能です……」

「そんな! 間違いではありませんか!」

 

セガワの口から告げられた残酷な真実に、アンヌが悲痛な叫びをあげる。

せっかくのソガ隊員の覚悟が、無駄になってしまうなんて。そんな事は到底信じられない。

しかし、アンヌの冷静な部分が、電子計算機の厳重な計算結果であるならば、容易く間違いなど起こりようがないとも納得してしていまっていた。

 

「委員長……それに必要な冷凍弾の量は?」

「ざっと……ウルトラホーク4機分……」

「4機……」

 

今から隊長達を呼び戻しても、到底足りない投射量。

 

「……量だけは、確保できます。恐らくは」

「しかし、それを同時にぶつける手段など……今から輸送機を爆撃機に換装するのでは、間に合わない!」

 

そう、重要なのは、その膨大な量を、同時に叩きつけなければならないという事。

例えウルトラホークが4機あろうと、それで解決する訳ではないのだ。

だがセガワ委員は、ハッキリと胸を張って、参謀に進言した。

 

「あります。今のこの基地にたった一つだけ、その手段が!」

「なに?」

「……R2号を使います」

「なんだって!?」

 

今度こそ、タケナカ達は仰天した。まさか、舌の根も乾かぬうちに……?

 

「勘違いしないで頂きたいのは、決して私が、R2号の計画に拘っているわけではないという事です。あれを、惑星破壊兵器ではなく……ただの巨大な冷凍ミサイルとして、あの怪獣に撃ちこみます。そしてそれを、あのシリーズの最期の仕事とさせて頂きたい」

「博士! それは!」

「……いいんだ、マエノ君。彼が気付かせてくれた。……毒の花を枯らすのに、ただ根っこを焼いてしまうだけが手段ではない。二酸化炭素の固定剤をやさしく振りかけてやってもいい。一つの問題に対して、あらゆる方向から、多様な手段を採れるという事が、人類の強み、科学の意味なのだと……私は思い出したんだ……」

「セガワ博士……」

 

憑き物が落ちたように、決意と使命に満ちたセガワの穏やかな瞳に、マエノ女史はかつての尊敬する上司の姿を幻視した。まだ駆け出しの頃に勤めていたロケットセンターで、怪獣を宇宙に還す為に、自らの研究に必要な月ロケットを惜しげもなく提供した、敬愛する恩師。今の自分を形作ったとも言える偉大な科学者の姿が、セガワ博士の姿にダブって見えた。

 

「我々には、あの怪獣を産み落とした親としての責任がある。自らの失点を拭う為には、相応の代償を払わねばならない。今更勝手な事では有るが……私は、R2号を単なる通常の迎撃兵器として使い捨て、計画の終止符を打つ事で、その償いとさせて貰いたいんだ……その調整の為には、君の力が必要だマエノ君。手を貸してくれないか……?」

「……はい、喜んで!」

「参謀、いかがでしょう? 我々に、傲慢の汚名を雪ぐ最後のチャンスを、与えては下さいませんでしょうか……?」

「……よろしい。直ちに取り掛かってくれ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……そうですか、R2号を……」

「そうだ、発射準備が整うまで、あと10分……いや、7分でいい! 時間を稼いで欲しいんだ、ソガ隊員!」

「……先程までの暴言を許してくださいセガワさん。今のあなたは……オレがかつて憧れた、まごう事無き『立派な博士』の一員だ!」

 

ソガの駆るホーク2号が、大きく旋回して、ギエロン星獣へと冷凍弾を撃ちこんでいく。

宇宙空間では潤沢に吸収できた放射線も、地表ではほとんどがオゾン層に遮られてしまう為に、ギエロン星獣が体を動かす為には、体内に蓄えたR1号の放射性物質を燃料として、膨大な熱量を確保しなくてはならなかった。核融合に近いエネルギーを消費する増殖再生は、ただでさえ極寒の地球環境下で効率が落ちていたところへ、冷凍弾の効果によって、原子核の活動が抑制されてしまい、思うように暴れ回る事が出来ずにいたのである。

 

だがついに、空中を飛び回る敵に業を煮やしたギエロン星獣は、次なる奥の手を繰り出してくるではないか!

体の前面で揃えた二枚の翼を、電極版のように利用して、体内で発生した凄まじい電圧をさらに圧縮することで、リング状の光線として発射したのだ!

 

地味な見た目に反し、そこに秘められた威力は凄まじく、一発でホーク1号を撃墜してしまう。なにせ、このリング光線は、セブンの右腕すら破壊してしまう恐るべき武器なのである。

 

ソガのホーク2号は大気圏内での旋回力の低さから、非常に大回りで怪獣を遠巻きにしなくてはならないのが幸いし、リング光線の餌食にならずに済んだが……逆に、現状での足止め性能は、冷凍弾を満載している事を差し引いても、3機の中で最も低いと言わざるを得なかった。

 

元々、宇宙空間でのワープ航法による長距離高速移動と、巡航距離の長さを主眼に置かれた2号は、直接の戦闘力はどうしても低くならざるを得ず、非常に控えめなサイズの弾倉に、めいいっぱい詰め込んだ冷凍弾も、もはや枯渇寸前。本来はこういった役回りは3号の得意とするところであり……その3号は、そろそろ燃料が切れるところであった。

 

あと、もう少しなのに……

 

不時着したホーク1号から脱出したキリヤマ、フルハシ、ダンの3人は、なんとか地上から敵の注意を引くべく風上へと移動するが……ギエロン星獣が新たに吐き出した灰によって、分断されてしまう。フルハシの制止を振り切って、黄色い煙幕の向こう側へ消えていくダン。

 

「あ! ダン! 無茶するな! ダァァアン!」

「……ちくしょう……やっぱり駄目なのか……?」

 

重たい操縦桿を力いっぱい引き上げるソガの眼下では、今まさにギエロン星獣が羽ばたきをはじめ、飛び立とうとする寸前だった。敵をここへ釘付けにしないといけないのに、もはや警備隊に残された戦力は、それに見合った脅威を、怪獣へ与える事が出来ないのだ。このままでは……

 

黄色い灰の渦巻く荒野で、ダンは胸元からウルトラアイを取り出し、セブンに変身しようとそれを正眼に構え……

 

 

(……あの怪獣は! あの怪獣だけは、人類が落とし前をつけなきゃならないんだ。このまま手をこまねいていたら、今にセブンが出てきて、きっとあの怪獣を倒してしまうだろう……彼にそんな事をさせる訳にはいかないんだよ!)

 

(ギエロン星獣だけは、セブンに頼らず、地球の力だけで倒さなきゃいけない。それが、取り返しのつかない事をした俺達が、唯一できる贖罪なんだよ……)

 

 

「どうして……どうしてそんな事を言うんです! ソガ隊員! 僕だって……僕だって、ウルトラ警備隊なんですよ……!」

 

……セブンは、ダンは、この時はじめて、変身して戦う事へ対し、葛藤した。

 

彼の戦友が決然と言い放った啖呵は、セブンとして、銀河の平和に寄与するものとして、尊重すべき崇高な意志であった。確かに、あの時はっきりと一線を引いてしまった部外者の自分が、今更のこのこ出て行って、あの哀れな怪獣を倒したところで、それでは彼らから贖罪の機会を永遠に取り上げる事になってしまう。

 

だが、ここで敵を逃がしては、大勢の人が死ぬ。

いくら今回の事件が、人類自ら引き起こしてしまった悲劇なのだとしても、その対価として、罪の無い人々の命が無残に磨り潰されて良いという事にはならないのだ。そんな事を見逃してしまったら……ダンは自分を永遠に許すことができないだろう……御大層な大義の為に、愛する人々を見捨てるくらいであったら……死んだ方がマシだ。

 

そして二律背反の中で、彼が悩みに悩んで出した答えは……ただの屁理屈めいた言い訳を用意する事だった。

 

なんて卑怯で、幼稚で……姑息な事だろう! だがそれでも、それがセブンとして、ダンとして、今の彼が出来る精一杯の妥協と、譲歩であったのだ。

 

その煌めく意地を張り通すには、今の人類は弱小に過ぎ……かといって、その愚かさを切って捨てるには、あまりにも、愛おし過ぎた。

 

「……頼んだぞ!」

 

ダンは、腰のケースから、()()()()()()()()()()()()()、空へ放り投げる。

 

猛烈な爆炎を伴った黄金の輝きが、死の灰が舞い散る空を虹のように覆いつくした。

 




あまりに重い話なので、一気に終わらせるつもりだったんですが……
とりあえず今日のところは、これで。

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